説明

シリカ充填剤入りエラストマー組成物

【解決課題】ブチルエラストマーと無機充填剤との相互作用を高め、引張り強度及び耐摩耗性(DIN)を向上しながら、特にスコーチ安全性を向上した充填剤入りハロブチルエラストマーを提供する。
【課題を解決するための手段】ハロブチルエラストマー;無機充填剤;オリゴマー性ポリオール化合物、又はオリゴマー性ポリオール化合物とヒドロキシル基1つ以上及び塩基性アミン基含有官能基1つ以上を有する添加剤との混合物;を添加混合し、得られた充填剤入りエラストマー混合物を硬化する、充填剤入りハロブチルエラストマーの製造法及び該方法で得られた充填剤入りハロブチルエラストマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、シリカ充填剤入りのブロモブチルエラストマー(BIIR)のようなハロゲン化ブチルエラストマーに関する。更に本発明は、スコーチ安全性を改良したブロモブチルエラストマーにも関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
カーボンブラックやシリカのような強化性充填剤は、エラストマーコンパウンドの強度及び疲労特性を大幅に改善することが知られている。またエラストマーと充填剤間に相互作用が起こることも知られている。例えばカーボンブラックとポリブタジエン(BR)及びスチレンブタジエン共重合体(SBR)のような高度不飽和エラストマーとの間には、これら共重合体中に存在する多数の二重結合のため、良好な相互作用が起こる。ブチルエラストマー中の炭素?炭素二重結合は、BR又はSBRの1/10又はそれ以下しか含まれていない可能性があり、しかもブチルエラストマーから作ったコンパウンドは、カーボンブラックと余り相互作用しないことが知られている。例えばカーボンブラックを、BRとブチルエラストマーとの組合せと混合して製造したコンパウンドでは、BRの領域にカーボンブラックの殆どが入り、ブチル領域のカーボンブラック量は非常に少ない。またブチルコンパウンドは、耐摩耗性が悪いことも知られている。
【0003】
カナダ特許出願2,293,149には、ハロブチルエラストマーをシリカ及び特定のシランと組合わせると、特性の向上した充填剤入りブチルエラストマー組成物を製造できることが示されている。このようなシランは、ハロブチルエラストマーと充填剤との分散剤兼結合剤として作用する。しかし、シランを使用する1つの欠点は、製造工程中及びこうして製造した物品の使用中も可能性があるが、アルコールを生じることである。更に、シランは、得られる製品のコストを著しく上昇させる。
【0004】
同時係属カナダ特許出願2,339,080には、1つ以上の塩基性窒素含有基及び1つ以上のヒドロキシル基を有する特定の有機化合物がハロブチルエラストマーとカーボンブラック及び無機充填剤との相互作用を高めて、引張り強度及び耐摩耗性(DIN)のようなコンパウンド特性を向上することが開示されている。
【0005】
同時係属カナダ特許出願2,368,363は、ハロブチルエラストマー,少なくとも1種の無機充填剤及び少なくとも1種のシラザン化合物を含む充填剤入りハロブチルエラストマーを開示している。しかし、HMDZのような特定のシラザン化合物は引火点が低いことから、シリカ充填剤入りブチルコンパウンドに使用される追加の処理助剤についての研究は、なお進行中である。
【特許文献1】カナダ特許出願2,293,149
【特許文献2】同時係属カナダ特許出願2,339,080
【特許文献3】同時係属カナダ特許出願2,368,363
【特許文献4】同時係属カナダ特許出願2,279,085
【非特許文献1】1955年Chapman & Hall出版の“Rubber Technology”第3版第2章“The Compounding and Vulcanization of Rubber”
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明の概要
本発明は、少なくとも1種のハロブチルエラストマー;少なくとも1種の無機充填剤;及び少なくとも1種のオリゴマー性ポリオール化合物、又はオリゴマー性ポリオール化合物とヒドロキシル基1つ以上及び塩基性アミン基含有官能基1つ以上を有する添加剤との少なくとも1種の混合物;を含有する、充填剤入りハロブチルエラストマー組成物を提供する。
【0007】
また本発明は、少なくとも1種のハロブチルエラストマー;少なくとも1種の無機充填剤;及び少なくとも1種のオリゴマー性ポリオール化合物、又はオリゴマー性ポリオール化合物とヒドロキシル基1つ以上及び塩基性アミン基含有官能基1つ以上を有する添加剤との少なくとも1種の混合物;を添加混合し、次いで得られた充填剤入りハロブチルエラストマー混合物を硬化することを特徴とする充填剤入りハロブチルエラストマーの製造方法も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
オリゴマー性ポリオール化合物は、ブチルエラストマーと無機充填剤との相互作用を高め、引張り強度及び耐摩耗性(DIN)を向上しながら、スコーチ安全性を向上することが意外にも見出された。
更にオリゴマー性ポリオールと、1つ以上のヒドロキシル基及び塩基性アミン基を有する1つ以上の官能基を有する添加剤との混合物は、ブチルエラストマーと無機充填剤との相互作用を高め、引張り強度及び耐摩耗性(DIN)のようなコンパウンド特性を向上することが見出された。
【0009】
図面の簡単な説明
図1は、比較用充填剤入りエラストマーコンパウンド及び本発明の充填剤入りエラストマーコンパウンドのムーニースコーチを示すグラフである。
図2は、比較用充填剤入りエラストマーコンパウンド及び本発明の充填剤入りエラストマーコンパウンドのDIN摩擦体積減量を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
発明の詳細な説明
ここで使用する語句“ハロブチルエラストマー”とは、塩素化又は臭素化ブチルエラストマーを言う。臭素化ブチルエラストマーが好ましく、本発明では、このようなブロモブチルエラストマーを一例として説明する。しかし、本発明は塩素化ブチルエラストマーまで拡がるものと理解すべきである。
【0011】
本発明で使用するのに好適なハロブチルエラストマーとしては、限定されるものではないが、臭素化ブチルエラストマーがある。このようなエラストマーは、ブチルゴム(イソオレフィン、通常、イソブチレンと、通常、C〜C共役ジオレフィンであるコモノマー、好ましくはイソプレンとの共重合体)の臭素化により得られる。共役ジオレフィン以外のコモノマーも使用でき、例えばC〜C−アルキル置換スチレンのようなアルキル置換ビニル芳香族コモノマーが挙げられる。市販品として入手できるこの種のエラストマーの一例は、コモノマーがp−メチルスチレンである臭素化イソブチレンメチルスチレン共重合体(BIMS)である。
【0012】
臭素化ブチルエラストマーは、通常、ジオレフィン、好ましくはイソプレンから誘導された繰り返し単位を0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%の範囲及びイソオレフィン、好ましくはイソブチレンから誘導された繰り返し単位を90〜99.9重量%、好ましくは95〜99.5重量%の範囲(重合体の炭化水素含有量に対し)及び臭素を0.1〜9重量%、好ましくは0.5〜2.5重量%、更に好ましくは0.75〜2.3重量%の範囲(ブロモブチル重合体に対し)含有する。通常のブロモブチル重合体の分子量は、DIN(ドイツ工業規格)53523(ML 1+8(125℃で))によるムーニー粘度として、25〜60の範囲である。
【0013】
臭素化ブチルエラストマーには、安定剤を添加してよい。好適な安定剤としては、ステアリン酸カルシウム及びエポキシ化大豆油があり、好ましくは、臭素化ブチルゴム100重量部当り0.5〜5重量部(phr)の範囲で使用される。
好適な臭素化ブチルエラストマーの例としては、Bayer Corporationから市販されているBayer Bromobutyl 2030、 Bayer Bromobutyl 2040(BB2040)及びLanxess Corporationから市販されているBayer Bromobutyl X2がある。Bayer BB2040は、ムーニー粘度(ML 1+8@125℃)39±4、臭素含有量2.0±0.3重量%、概略分子量500,000g/モルのものである。
【0014】
本発明方法で使用される臭素化ブチルエラストマーは、臭素化ブチルゴムと共役ジオレフィンモノマーベースのポリマーとのグラフト共重合体であってもよい。同時係属カナダ特許出願2,279,085は、固体臭素化ブチルゴムを、若干のC−S−(S)−C(但し、nは1〜7の整数である)結合も有する共役ジオレフィンモノマーをベースとする固体ポリマーと混合することによる、このようなグラフト共重合体の製造方法に向けたものである。混合は、50℃を超える温度でグラフト化を生じるのに十分な時間行う。グラフト共重合体のブロモブチルエラストマーは、前述のエラストマーのいずれでもよい。グラフト共重合体に取り込める共役ジオレフィンは、一般に構造式:
【化1】


を有する。
【0015】
式中、Rは、水素原子又は炭素原子数1〜8のアルキル基であり、R及びR11は、同一でも異なっていてもよく、水素原子及び炭素原子数1〜4のアルキル基から選ばれる。好適な共役ジオレフィンの非限定的な幾つかの例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、4−ブチル−1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,3−オクタジエン、2,3−ジブチル−1,3−ペンタジエン、2−エチル−1,3−ペンタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン等が挙げられる。炭素原子数4〜8の共役ジオレフィンモノマーが好ましく、1,3−ブタジエン及びイソプレンが更に好ましい。
共役ジエンモノマーベースのポリマーは、ホモポリマーでも、2種以上の共役ジエンモノマーの共重合体でも、或いはビニル芳香族モノマーとの共重合体でもよい。
【0016】
任意に使用できるビニル芳香族モノマーは、使用される共役ジオレフィンモノマーと共重合可能でなければならない。一般に、有機アルカリ金属開始剤で重合することが知られている、いずれのビニル芳香族モノマーも使用できる。このようなビニル芳香族モノマーは、通常、炭素原子数8〜20、好ましくは8〜14の範囲のものである。好適なビニル芳香族モノマーの例としては、スチレン、α−メチルスチレン、及びp−メチルスチレンを含む各種アルキルスチレン、p−メトキシスチレン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、4−ビニルトルエン等が挙げられる。スチレンは、1,3−ブタジエン単独との共重合用又は1,3−ブタジエン及びイソプレンの両方との三元共重合用に好ましい。
【0017】
本発明ではハロゲン化ブチルエラストマーは、単独で又は以下のような他のエラストマーと組合せて使用してよい。
BR:ポリブタジエン、
ABR:ブタジエン/アクリル酸C〜Cアルキル共重合体
CR:ポリクロロプレン
IR:ポリイソプレン
SBR:スチレン含有量が1〜60重量%、好ましくは20〜50重量%のスチレン/ブタジエン共重合体
IIR:イソブチレン/イソプレン共重合体
NBR:アクリロニトリル含有量が5〜60重量%、好ましくは10〜40重量%のブタジエン/アクリロニトリル共重合体
HNBR:一部又は全部水素化したNBR
EPDM:エチレン/プロピレン/ジエン共重合体
【0018】
本発明の充填剤は、無機粒子で構成される。好適な充填剤としては、シリカ、シリケート、粘土(例えばベントナイト)、石膏、アルミナ、二酸化チタン、タルク等、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0019】
好適な充填剤の別の例は、以下のとおりである。
・例えばシリケート溶液の沈殿、又はハロゲン化珪素の火炎加水分解により製造した高分散シリカで、比表面積(BET比表面積)は5〜1000m/g、好ましくは20〜400m/gの範囲、主な粒度は10〜400nmの範囲である。このシリカは、任意に、Al、Mg、Ca、Ba、Zn、Zr及びTiのような他の金属の酸化物との混合酸化物として存在してもよい。
・珪酸アルミニウム、及びアルカリ土類金属シリケートのような合成シリケート。
・BET比表面積が20〜400m/gで、主な粒度が10〜400nmである、珪酸マグネシウム又は珪酸カルシウム。
・カオリン及びその他の天然産シリカのような天然シリケート。
・ガラスファイバー及びガラスファイバー製品(マット、押出品)又は微小ガラス球。
・酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化マグネシウム及び酸化アルミニウムのような金属酸化物。
・炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム及び炭酸亜鉛のような金属炭酸塩。
・金属水酸化物、例えば水酸化アルミニウム及び水酸化マグネシウム又はそれらの組合わせ。
【0020】
これらの無機粒子は、表面にヒドロキシル基を有し、粒子を親水性兼疎油性にするので、充填剤粒子とブチルエラストマーとの相互作用を良好にすることは困難である。多くの目的から、好ましい無機物はシリカ、特に珪酸ナトリウムの二酸化炭素沈澱で製造したシリカである。
【0021】
本発明で使用するのに好適な乾燥非晶質シリカ粒子の平均凝集物粒度は、1〜100μの範囲、好ましくは10〜50μの範囲、更に好ましくは10〜25μの範囲である。凝集物粒子の10容量%未満は、5μ未満か、或いは50μを超える粒度が好ましい。好適な非晶質乾燥シリカは、更に通常、DIN 66131に従って測定したBET表面積が50〜450m/gの範囲であり、DIN 53601に従って測定したDBP吸収量が、150〜400g/100gシリカの範囲であり、またDIN ISO 787/11に従って測定した乾燥減量が、0〜10重量%の範囲である。好適なシリカ充填剤は、PPG Industries Inc.から商品名HiSil 210、HiSil 233及びHiSil 243で得られる。またBayer AGから市販されているVulkasil(商標)S及びVulkasil(商標)Nも好適である。
【0022】
無機充填剤は、以下のような公知の非無機充填剤と組合わせて使用できる。
・カーボンブラック。好適なカーボンブラックは、好ましくはランプブラック法、ファーネスブラック法又はガスブラック法で製造され、BET比表面積は20〜200m/gで、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF又はGPFカーボンブラックである。
・ゴムゲル、好ましくはポリブタジエン、ブタジエン/スチレン共重合体、ブタジエン/アクリロニトリル共重合体及びポリクロロプレンをベースとするゴムゲル。
【0023】
非無機充填剤は、通常、本発明のハロブチルエラストマー組成物に充填剤として使用されないが、幾つかの実施態様では40phr以下の量で存在してもよい。無機充填剤は、充填剤全量に対し、好ましくは55重量%以上を構成しなければならない。本発明のハロブチルエラストマー組成物を他のエラストマー組成物とブレンドする場合、他の組成物は、無機及び/又は非無機の充填剤を含有してよい。
【0024】
本発明ではオリゴマー性ポリオール化合物は、当該技術分野で公知のいかなるオリゴマー性ポリオールであってもよい。好適なオリゴマー性ポリオール化合物としては、トリメチロールプロパンのポリプロピレンオキシド誘導体及びエチレンジアミンのポリプロピレンオキシド誘導体が挙げられる。本発明で有用な追加のオリゴマー性ポリオール化合物としては、ポリエチレンオキシド(PE0)、ポリエエチレングリコール(PEG)、アミノ末端ポリエエチレングリコール(PEG−NH2)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、いわゆるプルロニック(PEOとPPOとの共重合体)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリプロピレングリコールビス(2−アミノ−プロピルエーテル)(PPG−NH2)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(ポリNPA)及びそれらの共重合体の誘導体が挙げられる。以上のオリゴマーの組合わせも使用できる。
【0025】
ハロブチルエラストマーに取り入れるオリゴマー性ポリオールの量は変化できる。オリゴマー性ポリオールは、ハロブチルエラストマー100部当たり、通常、0.1〜4重量部、好ましくは0.2〜2部、更に好ましくは0.4〜1部添加される。
【0026】
ハロブチルエラストマーと充填剤とオリゴマー性蛋白質との混合物に添加する、物性を向上させる添加剤は、アスパラギン酸、6−アミノカプロン酸、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミンである。1つ以上のヒドロキシル基と塩基性アミン含有官能基とを有する添加剤は、好ましくは、分岐鎖でもよいメチレン橋により分離された、第一アルコール基及びアミン基も含有する。このような化合物は、一般式HO−A−NH(但し、AはC1〜C20アルキレン基であって、直鎖でも分岐鎖でもよい)を有する。
【0027】
これら2つの官能基間のメチレン基の数は、更に好ましくは1〜4の範囲である。好ましい添加剤はモノエタノールアミン又はN,N−ジメチルアミノアルコールである。
【0028】
ハロブチルエラストマーに取り入れる充填剤の量は、広い限定範囲で変化できる。充填剤の量は、エラストマー100部当たり、通常、20〜250重量部、好ましくは30〜100部、更に好ましくは40〜80部の範囲である。本発明でポリオール化合物と併用される、1つ以上のヒドロキシル基と塩基性アミン含有官能基とを有する添加剤の量は、エラストマー100部当たり、通常、0.5〜10重量部、好ましくは1〜3部である。
【0029】
更に、エラストマー100部当たりプロセス油が40部以下、好ましくは5〜20部存在してよい。更にまた、潤滑剤、例えばステアリン酸のような脂肪酸が3重量部以下、更に好ましくは2重量部以下の量で存在してよい。
【0030】
本発明では、ハロブチルエラストマー、シリカ充填剤、オリゴマー性ポリオール化合物又はポリオール/1つ以上のヒドロキシル基と塩基性アミン含有官能基とを有する添加剤混合物及び任意にプロセス油増量剤は、2本ロールミル上、公称ミル温度25℃で混合する。次いで混合したコンパウンドは、2本ロールミル上に置き、60℃を超える温度で混合する。高温は、硬化を望ましくなく遥かに進行させ、こうして次の処理を妨害する恐れがあるので、混合温度は高すぎないことが好ましく、更に好ましくは150℃を超えない。これら4種の成分を150℃以下の温度で混合した生成物は、良好な応力/歪特性を有すると共に、硬化剤を添加して、加温ミルで更に容易に処理できる。
【0031】
本発明の充填剤入りハロブチルゴム組成物、好ましくは充填剤入りブロモブチルゴム組成物は、多くの用途、好ましくはタイヤトレッド組成物に利用される。タイヤトレッド組成物の重要な特徴は、特に雨天での転がり抵抗が低いこと、良好な牽引力を有すること、及び磨耗に対する抵抗が良好な耐摩耗性を有することである。本発明の組成物は、これらの所望特性を発揮する。牽引力の指標は0℃でのtanδであるが、こうして、0℃でのtanδが高く、これは良好な牽引力と相関する。転がり抵抗の指標は、60℃でのtanδであるが、60℃でのtanδが低く、これは低い転がり抵抗と相関する。転がり抵抗は、タイヤの前進運動に対する抵抗の尺度であり、燃料消費を低減するには、低い転がり抵抗が望ましい。また60℃での損失弾性率の低い値も、低い転がり抵抗の指標となる。以下の実施例に示すように、本発明の組成物は、0℃でのtanδが高く、60℃でのtanδが低い上、60℃での損失弾性率が低い。
【0032】
少なくとも1種の無機充填剤;及び少なくとも1種のオリゴマー性ポリオール化合物、又はオリゴマー性ポリオール化合物とヒドロキシル基1つ以上及び塩基性アミン基含有官能基1つ以上を有する添加剤との少なくとも1種の混合物と添加混合されるハロブチルエラストマーは、他のエラストマー又はエラストマー化合物との混合物であってもよい。ハロブチルエラストマーは、このような混合物の5%を超えて構成する。ハロブチルエラストマーは、このような混合物の好ましくは10%以上で構成する。幾つかの場合、混合物を使用しないのが好ましく、ハロブチルエラストマーを唯一のエラストマーとして使用するのが好ましい。混合物を使用する場合、他のエラストマーは、例えば天然ゴム、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン又はポリクロロプレン或いはこれらエラストマーの1種以上を含むエラストマー化合物であってよい。
【0033】
本発明の充填剤入りハロブチルエラストマーは、耐摩耗性、転がり抵抗及び牽引力を向上した生成物を得るため、硬化できる。硬化は硫黄で行なうことができる。硫黄の好ましい量は、ゴム100部当たり0.3〜2.0重量部の範囲である。活性化剤、例えば酸化亜鉛も0.5〜2重量部の範囲で使用してもよい。他の成分、例えばステアリン酸、酸化防止剤又は促進剤も硬化前のエラストマーに加えてよい。硫黄硬化は公知のいずれかの方法で行われる。例えば1955年Chapman & Hall出版の“Rubber Technology”第3版第2章“The Compounding and Vulcanization of Rubber”参照。
【0034】
ハロブチルエラストマーの硬化用として公知の他の硬化剤も使用できる。このような硬化剤としては、ビスジエネオフィル(dieneophile)がある。好適なビスジエネオフィルとしては、m−フェニル−ビス−マレインイミド及びm−フェニレン−ビス−マレインイミド(HVA2)がある。ハロブチルエラストマーの硬化用として公知の他の好適な化合物としては、フェノ−ル樹脂、アミン、アミノ酸、過酸化物、酸化亜鉛等が挙げられる。以上の硬化剤の組合わせも使用してよい。
【0035】
本発明の無機充填剤入りハロブチルエラストマーは、硫黄で硬化させる前に、他のエラストマー又はエラストマー化合物とも添加混合できる。
本発明を以下の実施例で更に説明するがこれら実施例による限定を意図するものではない。例中、部及び%は、特に規定しない限り、全て重量基準である。
【実施例】
【0036】
実施例
【表1】

【0037】
硬度及び応力歪特性は、ASTM D−2240要件に従って、A2型ジュロメーターを用いて測定した。この応力歪データは、ASTM D−412法Aの要件に従って、23℃で得られた。2mm厚の引張りシート(160℃でtc90+5分間硬化)から切断したダイCダンベルを用いた。DIN耐磨耗性は、DIN 53516試験法に従って測定した。DIN磨耗分析用のサンプルボタンを160℃でtc90+10分間硬化した。ムーニースコーチを、ASTM 1646に従ってAlpha Technologies MV2000を用いて125℃で測定した。Tc90時間を、振動周波数1.7Hz、160℃での弧度(arc)1°で合計運転時間30分間用いる可動ダイ流動計(Moving Die Rheometer)(MDR 2000E)でASTM D−5289に従って測定した。硬化は、Alan−Bradleyプログラマブルコントローラーを備えた電気プレスを用いて行った。
【0038】
実施例
噛み合い式ローターを備えた1.5リットルBR−82 Banbury密閉型ミキサーを用い、第1表に示す配合に従ってこれらの例を製造した。Mokon温度を、まず30℃で安定化させた。77rpmにセットしたローター速度で、エラストマー(1A)をミキサーに導入し、次いで0.5分後、シリカ及び液体改質剤(1B)を加えた。2分後、カーボンブラック(1C)を加えた。3.5分で突き棒突き(ram bump)の後、3.5分の時点(time mark)で成分(1D)の残部を加えた。合計混合時間6分後、コンパウンドを降ろした(dump)。次いで硬化剤(2A)をRT10”×20”2本ロールミル上で加えた。
【0039】
【表2】

【0040】
DMAE(例1)のようなアミノアルコールの添加により、BIIRとシリカとは効果的に相溶し、良好な物性を有するBIIR含有トレッドコンパウンドが製造できることが判った(第2表、図1、2)。しかし、DMAEを単独で使用すると、得られる配合物の全体の加工性は低下する。図1から判るように、例1で観察されたt05時間(125℃で測定)は、非常に低いことが判った。次に、BIIR含有シリカトレッドコンパウンドのスコーチ安全性に対するHMDZ(例2)の正の効果が発見された。これらのコンパウンドについて測定したスコーチ安全性は合格したが、HMDZの低揮発性代替物を確認する実際の必要性が残った。特に、極めて低い引火点(約8℃)と平行したHMDZの低揮発性により、この改質剤の工業分野(arena)での使用が妨げられる。
【0041】
その結果、本発明のオリゴマー性ポリオール改質剤は、HMDZの好適な代替物として確認された。例3、4(第2表、図1、2)から明らかなように、HMDZの代わりに4050E又はV100のいずれかを使用すると、前述のように比較用DMAE/HMDZ例(例2)で観察された物性と同様の物性を有するコンパウンドが得られる。重要なことは、4050EもV100も極めて不揮発性で、工業的環境中で引火の危険性がないことを示していることである。
【0042】
第2表に例示したように、BIIRシリカ配合物に(4050E及びV100のような)特定の改質剤を導入する際、導入量は0.1〜1phrの最適レベルがあると思われる。
【0043】
【表3】

【0044】
以上に本発明を詳細に説明したが、これらの詳細は、単に説明の目的のためであり、当業者ならば、特許請求の範囲で限定される可能性を除いて、本発明の精神及び範囲から逸脱しない限り、各種の変化が行なえることは理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】比較用充填剤入りエラストマーコンパウンド及び本発明の充填剤入りエラストマーコンパウンドのムーニースコーチを示すグラフである。
【図2】比較用充填剤入りエラストマーコンパウンド及び本発明の充填剤入りエラストマーコンパウンドのDIN摩擦体積減量を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1種のハロブチルエラストマー;
(b)少なくとも1種の無機充填剤;及び
(c)少なくとも1種のオリゴマー性ポリオール化合物、又はオリゴマー性ポリオール化合物とヒドロキシル基1つ以上及び塩基性アミン基含有官能基1つ以上を有する添加剤との少なくとも1種の混合物;
を添加混合し、次いで得られた充填剤入りハロブチルエラストマー混合物を硬化することを特徴とする充填剤入りハロブチルエラストマーの製造方法。
【請求項2】
オリゴマー性ポリオール化合物が、トリメチロールプロパンのポリプロピレンオキシド誘導体又はエチレンジアミンのポリプロピレンオキシド誘導体から選ばれる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
オリゴマー性ポリオール化合物が、ポリエチレンオキシド(PE0)、ポリエエチレングリコール(PEG)、アミノ末端ポリエエチレングリコール(PEG−NH2)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、いわゆるプルロニック(PEOとPPOとの共重合体)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリプロピレングリコールビス(2−アミノ−プロピルエーテル)(PPG−NH2)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(ポリNPA)、それらの共重合体又はそれらの混合物、の誘導体から選ばれる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
無機充填剤が、シリカ、シリケート、粘土、石膏、アルミナ、二酸化チタン、タルク又はそれらの混合物である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ハロゲン化ブチルエラストマーが、臭素化ブチルエラストマーである請求項1に記載の方法。
【請求項6】
添加剤がモノエタノールアミン又はN,N−ジメチルアミノアルコールである請求項1に記載の方法。
【請求項7】
充填剤の量が、エラストマー100部当たり20〜250重量部の範囲である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
オリゴマー性ポリオールの量が、エラストマー100部当たり0.1〜4部の範囲である請求項1に記載の方法。
【請求項9】
オリゴマー性ポリオール化合物と共同で使用される添加剤の量が、エラストマー100部当たり0.5〜10部の範囲である請求項1に記載の方法。
【請求項10】
硬化前に(d)追加のエラストマーを添加混合する工程を更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1種のハロブチルエラストマー;少なくとも1種の無機充填剤;及び少なくとも1種のオリゴマー性ポリオール化合物、又はオリゴマー性ポリオール化合物とヒドロキシル基1つ以上及び塩基性アミン基含有官能基1つ以上を有する添加剤との少なくとも1種の混合物;を含有する、充填剤入りハロブチルエラストマー組成物。
【請求項12】
オリゴマー性ポリオール化合物が、トリメチロールプロパンのポリプロピレンオキシド誘導体又はエチレンジアミンのポリプロピレンオキシド誘導体から選ばれる請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
オリゴマー性ポリオール化合物が、ポリエチレンオキシド(PE0)、ポリエエチレングリコール(PEG)、アミノ末端ポリエエチレングリコール(PEG−NH2)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、いわゆるプルロニック(PEOとPPOとの共重合体)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリプロピレングリコールビス(2−アミノ−プロピルエーテル)(PPG−NH2)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(ポリNPA)、それらの共重合体又はそれらの混合物、の誘導体から選ばれる請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
無機充填剤が、シリカ、シリケート、粘土、石膏、アルミナ、二酸化チタン、タルク又はそれらの混合物である請求項11に記載の組成物。
【請求項15】
ハロゲン化ブチルエラストマーが、臭素化ブチルエラストマーである請求項11に記載の組成物。
【請求項16】
添加剤がモノエタノールアミン又はN,N−ジメチルアミノアルコールである請求項11に記載の組成物。
【請求項17】
充填剤の量が、エラストマー100部当たり20〜250重量部の範囲である請求項11に記載の組成物。
【請求項18】
オリゴマー性ポリオールの量が、エラストマー100部当たり0.1〜4部の範囲である請求項11に記載の組成物。
【請求項19】
オリゴマー性ポリオール化合物と共同で使用される添加剤の量が、エラストマー100部当たり0.5〜10部の範囲である請求項11に記載の組成物。
【請求項20】
少なくとも1種のハロブチルエラストマー;少なくとも1種の無機充填剤
;及び少なくとも1種のオリゴマー性ポリオール化合物、又はオリゴマー性ポリオール化合物とヒドロキシル基1つ以上及び塩基性アミン基含有官能基1つ以上を有する添加剤との少なくとも1種の混合物;を含有する、充填剤入り硬化ハロブチルエラストマー組成物。
【請求項21】
充填剤入り硬化ハロブチルエラストマーがタイヤトレッドである請求項20に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−524342(P2008−524342A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−545794(P2007−545794)
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【国際出願番号】PCT/CA2005/001889
【国際公開番号】WO2006/063442
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(506183100)ランクセス・インク. (13)
【Fターム(参考)】