説明

シリカ配合高減衰ゴム組成物

【目的】 未加硫時の加工性に優れ、高減衰性を発現し、弾性率の温度依存性も少ないシリカ配合高減衰ゴム組成物の提供。
【構成】 主鎖にC−C結合を有する基材ゴム100重量部に対してシリカを30〜200重量部添加し、そのシリカに対して以下の式に示すシラン化合物を5〜50重量%配合し混練したシリカ配合高減衰ゴム組成物:Xm−Si−R2 n (1)式中、XはR1O−または塩素原子(但し、R1は炭素数1〜3のアルキル基)を示し、R2は炭素数1〜25のアルキル基、フッ化アルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を示し、m+n=4、1≦m≦3および1≦n≦3の関係を満たす。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、シリカ分散性が改良され、加工性、及びゴム物性が良好で、高減衰性を発揮し、かつ弾性率の温度依存性の少ないシリカ含有高減衰ゴム組成物に関する。これらは、制振、制震、免震、防振、などの広範囲にわたって、振動エネルギーの伝達緩和、吸収装置に使用するのに好適である。
【0002】
【従来の技術】産業の高度化に伴って、建築物、斜長橋、橋梁、産業機械、家庭用電気機器、電車等の交通機関、自動車用タイヤ等の幅広い分野で、振動エネルギーの低減技術が必要となってきている。
【0003】これらの振動エネルギーの低減技術には、一般に減衰特性を有したゴム組成物が使用されている。通常、これらのゴム配合物には、カーボンブラックを多量配合するとともに、軟化剤、可塑剤、樹脂の多量配合を行たり、ハイスチレンゴムのようなガラス転移点の高いポリマーを使用したりしている。
【0004】しかし、カーボンブラックの多量配合は、混練性および成形加工性の低下という問題を生じる。また、軟化剤、可塑剤の多量配合は減衰性を低下させる。さらに、樹脂の多量配合やガラス転移点の高いポリマーの使用は、弾性率の温度による変化が大きく、実環境下では安定した性能を示さなくなる。
【0005】以上のような、状況から、高減衰性を広範囲において発現可能で、弾性率の温度依存性の少ないゴム配合物の出現は振動エネルギーの伝達緩和、吸収装置の需要増加に伴い、早急に求められている重要な課題である。
【0006】シリカはゴム組成物中に配合すると、優れた高減衰性および弾性率の温度依存性の少ないものが得られることは知られていた。しかし、シリカは、表面がシラノール基により高極性、親水性になっており、ゴムとのぬれや分散が悪い。また、混練中にゴムとの間でゲルを生成し、粘度が高くなり、混練性や押出し、カレンダー性等の加工性は非常に悪い。さらに加硫促進剤がシリカ表面に吸着されそのため加硫が遅れたり、阻害されたりして、実配合に供するのが、困難であった。
【0007】上記の問題点を解決する手段として、シリカ表面のシラノール基と疎水性、無極性の官能基(例えば、アルキル基等)を有する、アルコキシシラン化合物とを反応させることにより、脱アルコールが起こってシラノール基が消失し、アルキル基がシロキサン基と結合し、シリカ表面に導入される。このことにより、シリカ配合の欠点であった、ゲルの多量生成、加硫の遅れ、阻害、分散不良等の問題点が解消されることになる。
【0008】しかし、従来、このシリカの表面処理はシリカに処理したあと、ゴムに練りこまれていたため、工程が2段階となり、コストが高くつき、また表面処理したシリカは嵩ばり、輸送時のコスト、表面処理シリカの貯蔵には大きなタンクが必要となり、設備費用も高くつく、また、ハンドリング性も悪く、混練時にはシリカ自体が微粒子のため飛散しやすく、作業環境を悪化させたり、混練に長時間かかる欠点があった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、未加硫時の加工性に優れ、高減衰性を発現し弾性率の温度依存性も少ないシリカ配合ゴム組成物を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明ではゴム混練時にシラン化合物を添加して、シリカとシラン化合物との反応を混練中に生じさせることにより、シリカ配合の欠点であった加硫の遅れ、加工性、機械的強度の低下という問題点を解決し、かつ高減衰性を発現し、弾性率の温度依存性の少ないゴム配合物が得られるようになった。即ち、本発明は主鎖にC−C結合を有する基材ゴム100重量部に対してシリカを30〜200重量部添加し、そのシリカに対して以下の式に示すシラン化合物を5〜50重量%配合し混練したシリカ配合高減衰ゴム組成物:Xm−Si−R2 n (1)式中、XはR1O−または塩素原子(但し、R1は炭素数1〜3のアルキル基)を示し、R2は炭素数1〜25のアルキル基、フッ化アルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を示し、m+n=4、1≦m≦3および1≦n≦3の関係を満たすを提供する。
【0011】この事により、シリカとシラン化合物の反応とゴム混練を同時に行うことが可能となり、コストも低減されることとなった。
【0012】本発明における基材ゴムとしては、天然ゴムと合成ゴムが挙げられる。合成ゴムとしては、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ポリノルボルネンゴム、エチレンプロピレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、エピクロルヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、多硫化ゴム等が使用できまたその混合物も使用できる。とりわけ、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴムが好ましい。
【0013】本発明に使用されるシリカは含水、無水シリカのいずれでもよいが、好ましくは、含水シリカがよい。シリカの比表面積は100m2/g〜400m2/gの範囲がよく、好ましくは、150m2/g〜300m2/gの範囲が好ましい。シリカの比表面積は吸着気体として、窒素ガスを用いる気相吸着法(例えば、柴田化学器械工業(株)の迅速表面積測定装置SA−1000)で測定される。比表面積が100m2/g以下では、減衰付与効果が少なくなり、400m2/gを越えるものはない。
【0014】シリカの配合量はゴム100重量部に対して、30〜200重量部、好ましくは40〜160重量部配合である。30重量部以下では減衰付与効果が少なく、200重量部を越えると、ゴムへの混練が難しくなる。
【0015】本発明では、基材ゴム中に上記シリカとともに式(1)で示されるシラン化合物を添加されたシリカに対して5〜50重量%、好ましくは5〜40重量%の量で配合する。添加されたシリカに対して、シラン化合物が5%以下の場合は、シリカに対する反応量も少なく、混練性、加工性が悪く効果がない。シラン化合物が50%以上の場合は過剰となり、添加する効果が薄れる。尚、シリカに対して5〜50重量%とは、シリカを100gとすると、その100gの5〜50重量%、即ち5〜50gのシラン化合物を用いるという意味である。
【0016】上記式(1)で表わされるシラン化合物の具体的な例としてはメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、フエニルトリメトキシシラン、フエニルトリエトキシシラン、ジフエニルジメトキシシラン、ジフエニルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクタデシルメチルジメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリッフエニルクロロシラン、ヘプタデカフルオロデシルメチルジクロロシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリクロロシラン、トリエチルクロロシラン等が挙げられる。
【0017】本発明のゴム組成物には、加硫剤(例えば、硫黄)、加硫促進剤、加硫助剤(例えば、ステアリン酸、酸化亜鉛等)、老化防止剤、カーボンブラック、(シリカ以外の)充填剤、軟化剤、可塑剤、粘着付与剤等を必要に応じて添加することができる。これらの添加量は特に限定的でなく、基材ゴム100重量部当たり4〜200重量部である。
【0018】本発明のゴム組成物は上記成分を充分、混練したのち130℃〜180℃の所定の時間、温度で加硫する。ゴム混練には、密閉式混練機、またはオープンロールを使用することができるが、密閉式混練機の方が好ましい。ゴム混練に関して、使用するシラン化合物とゴム混練時の温度について、以下のようなことが重要である。ゴム混練時の温度が、使用するシラン化合物の沸点以下の温度行うことが好ましく、また、その温度が上限として、180℃以下が好ましく、温度の下限としては50℃以上が好ましい。又、シラン化合物はシリカと同時か又はシリカの後に入れるのが好ましい。
【0019】本発明により、シリカとともに特定のシラン化合物をゴム組成物中に配合することにより、ゴム組成物は、減衰特性と弾性率の温度依存性もよく、機械的強度にも優れ、未加硫時の加工性に優れたゴム配合物を得ることが、可能となった。
【0020】なお、本明細書中において、温度依存性が良いとは、動的剪断弾性率の比(−10℃/20℃)が3.5以下であることを意味し、減衰性が良いとはTanδ(20℃)が0.05以上であることを意味する。
【0021】
【実施例】本発明を実施例により更に詳細に説明する。本発明はこれら実施例に限定されるものと解してはならない。
【0022】実施例1〜12および比較例1〜4表1に示すシリカ、表2に示すシラン化合物、表3に示すゴム、ゴム薬品を用いて表4〜表6(実施例1〜12)および表7(比較例1〜4)に示す配合量で混練し、その配合物を150℃で所定時間プレス加硫して得られる加硫ゴの諸物性を測定した。尚、実施例8では混練の全体量を2.55kgとした時に温度138℃まで上昇した。
【0023】本発明のゴム組成物の各物性とその測定法は下記のとおりである。
物性;引張強さ(kgf/cm2)、伸び(%)、動的剪断貯蔵弾性率、Tanδ、未架橋時トルク値、測定法;引張強さ(kgf/cm2)、伸び(%)はJIS K6301に準じて行う。ゴム組成物の加硫挙動、未架橋時トルク値はJSR、キュラストメータIIID型によって測定した。動的粘弾性物性は株式会社東京衡機製造所、PSA−015ハイドロパルス疲労試験機にて測定した。その測定条件は周波数0.5Hz、剪断歪み±50%、温度20℃と−10℃である。
【0024】
【表1】


【0025】
【表2】


【0026】
【表3】


【0027】
【表4】


【0028】
【表5】


【0029】
【表6】


【0030】
【表7】


【0031】本発明の範囲内のシリカ添加量とシラン化合物添加率の実施例1〜13と比較例1〜4を較べると、比較例1、4は未架橋時のトルク値が高く、混練り、カレンダー、押出成形等の加工性が悪く、かつ加硫も遅れ、実用配合としては不適当である。一方、実施例1〜13は未架橋時のトルク値も低く、混練加工性をはじめ、押出成形、カレンダー性の加工性も良好であり、加硫も早くなっている。次に減衰の指標となるTanδも0.08〜0.47と高く、また弾性率の温度依存性も−10℃と20℃との弾性率の比で1.2〜1.7と低い値を示しており良好である。比表面積が100m2/g以下のシリカ配合の比較例として、比較例2を示しており、Tanδが0.03と低く、減衰付与効果がない。また、比較例3はシリカの添加量が15重量部と少ない場合、Tanδは0.03と低く減衰付与効果がない。
【0032】上述のことより、請求範囲内のシリカ添加量とシラン化合物添加率からなるゴム組成物は、従来のシリカを使用したゴム組成物の欠点もなく、かつ、従来の表面処理を施したシリカに較べ、輸送、設備コストも安く、ハンドリング時の煩雑さ、混練り時の飛散等も少なく、混練加工が可能である。そして、高減衰で、かつ弾性率の温度依存性も小さく良好なゴム組成物であることが判る。
【0033】
【発明の効果】以上の通り述べたように、本発明のシリカ配合高減衰ゴム組成物は、混練り加工性も良く、高減衰特性、弾性率の温度依存性も小さいことから、制振、制震、免震、防振装置のゴム材料として有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 主鎖にC−C結合を有する基材ゴム100重量部に対してシリカを30〜200重量部添加し、そのシリカに対して以下の式に示すシラン化合物を5〜50重量%配合し混練したシリカ配合高減衰ゴム組成物:Xm−Si−R2 n (1)式中、XはR1O−または塩素原子(但し、R1は炭素数1〜3のアルキル基)を示し、R2は炭素数1〜25のアルキル基、フッ化アルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を示し、m+n=4、1≦m≦3および1≦n≦3の関係を満たす。