説明

シリコーンゴム

構造変性された疎水性熱分解シリカを含有するシリコーンゴム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンゴム、その製造方法及びその使用に関する。
【0002】
疎水化された熱分解シリカをシリコーンゴム中で充填剤として使用することは公知である(DE 199 43 666 A1)。
【0003】
US 6,331,588は、熱分解シリカを充填剤として含有する液体シリコーンゴム(LSR)を記載している。シラノール基のシリコーンゴムの機械的特性への不所望な影響を避けるために、US 6,331,588によると熱分解シリカの表面を疎水性にする必要がある。
【0004】
先行技術では、LSR(liquid silicone rubber)の場合に、親水性シリカをin situで疎水化し、同時に極めて高い剪断力にさらし、それによりその粘度及び降伏点を低下させるか、又は予め疎水化されたシリカを同じ理由で高い剪断力にさらす。
本発明は、構造変性された(structurally modified)疎水性熱分解シリカを充填剤として含有することを特徴とするシリコーンゴムを提供することである。
【0005】
本発明の有利な実施態様の場合には、シリカとしてシラン化された構造変性されたシリカを使用することができ、前記シリカは表面に固定されたビニル基により特徴づけられ、その際、付加的に疎水性基、例えばトリメチルシリル基及び/又はジメチルシリル基及び/又はモノメチルシリル基が表面に固定されていて、かつ次の物理化学的特性:
BET表面積 m2/g: 25〜400
平均一次粒子サイズ nm: 5〜50
pH値: 3〜10
炭素含有率 %: 0.1〜10
DBP値 %: <200又は測定不可能
を有することを特徴とする。
【0006】
前記のシラン化された構造変性されたシリカは、シリカを表面変性剤で処理し、引き続き得られた混合物を熱処理し、次いで構造変性することにより製造することができる。
【0007】
この場合、このシリカに、まず水を、次いで表面変性剤を吹き付け、これを場合によりさらに混合し、次いで熱処理し、次いで構造変性することができる。
この表面変性は、シリカに場合により最初に水を吹き付け、その後で表面変性剤を吹き付けることにより行うことができる。使用される水は、酸、例えば塩酸を用いて酸性化され、pH7〜1にすることができる。複数の表面変性剤を使用する場合には、これらを一緒に、又は別々に、順番に又は混合物として適用することができる。一種以上の表面変性剤は適当な溶剤中に溶解されていてもよい。吹き付けが完了した後、さらに5〜30分間混合を続けてもよい。
【0008】
その後、混合物は20〜400℃の温度で0.1〜6hの時間にわたり熱処理される。この熱処理は、例えば窒素のような保護ガス下で行うことができる。
【0009】
これとは別に、本発明によるシラン化された構造変性されたシリカの製造方法は、シリカを蒸気の形の表面改質剤で処理し、得られた混合物を熱処理し、次いで構造変性することにより行うことができる。
シリカの表面変性するためのこの別の方法は、前記シリカを蒸気の形の表面変性剤で処理し、次いで混合物を50〜800℃の温度で0.1〜6時間にわたり熱処理することにより行うことができる。この熱処理は、例えば窒素のような保護ガス下で行うことができる。
【0010】
この熱処理は、多段階で異なる温度で行うことができる。
一種以上の表面変性剤の適用は、一流体ノズル、二流体ノズル又は超音波ノズルを用いて行うことができる。
【0011】
この表面変性は、吹き付け装置を備えた加熱可能なミキサー及び乾燥機中で、連続的に又はバッチ式で行うことができる。適当な装置は、例えば鋤刃型ミキサー、皿状乾燥機、流動層乾燥機又はフラッシュ乾燥機であってもよい。
【0012】
このように製造されたシリカの構造変性は、次いで機械的作用により行うことができる。この構造変性は、後粉砕により行うことができる。他のコンディショニングは、場合により構造変性及び/又は後粉砕の後に行うことができる。
【0013】
この構造変性は、例えばボールミル又は連続運転式ボールミルを用いて行うことができる。
この後粉砕は、例えばエアジェットミル、歯付きディスクミル又はピン付きディスクミルを用いて行うことができる。
このコンディショニング又は熱処理は、バッチ式で、例えば乾燥炉中で又は、連続的に、例えば流動層で行うことができる。 このコンディショニングは、例えば窒素のような保護ガス下で行うことができる。
【0014】
熱分解法により製造されたシリカ、有利にSiCl4の火炎加水分解により熱分解的に製造されたシリカが、このシリカとして使用することができる。このような熱分解シリカは、Ullmanns Enzyklopaedie der technischen Chemie, 4th Edition, Volume 21, p. 464 (1982)から公知である。
【0015】
次のものが、例えばシリカとして使用できる:
【表1−1】

【表1−2】

【0016】
ビニル基又はビニルシリル基及びトリメチルシリル基及び/又はジメチルシリル基及び/又はモノメチルシリル基をシリカ表面に固定するために適した全ての化合物を表面改質剤として使用することができる。有利に、ビニルシリル基及びメチルシリル基は、例えば1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン又はジメチルビニルシラノールのような1つの化合物を用いて、又は例えばビニルトリエトキシシラン及びヘキサメチルジシラザン又はトリメチルシラノールのような複数の化合物を用いてシリカに適用することができる。
【0017】
この低構造化された熱分解による二酸化ケイ素がシリコーンゴムに導入された場合に、全く新規の特性がシリコーンゴムにおいて得られる。
【0018】
この構造変性は、熱分解による二酸化ケイ素のモルホロジーを変化させて、低い相互成長度(degree of intergrowth)が得られ、それにより低ストラクチャーが得られる。
【0019】
本発明の有利な実施態様の場合には、このシリコーンゴムは液体シリコーンゴム(LSR)であることができる。
【0020】
調節剤、例えばヘキサメチル又はジビニルテトラメチルジシロキサンの添加により製造され、かつ相応する末端基を有する分子量400000〜600000の分子量を有するポリジメチルシロキサンは、エラストマーに適用するために使用される。加硫特性及び引裂伝播抵抗を改善するために、反応混合物にビニルメチルジクロロシランを添加することにより少量(<1%)のビニル基を置換基として主鎖中に導入することができる(VMQ)。
【0021】
液体シリコーンゴム(LSR)の分子構造は、HTVの分子構造とほぼ同じであるが、平均分子鎖長が1/6であり、かつ粘度は1/1000である(20〜40Pas)。加工元には、二成分(A及びB)を同じ量で供給し、この成分は既に充填剤、加硫剤及び場合により他の添加剤を含有している。
【0022】
シリコーンゴムは、オルガノポリシロキサンともヒドロゲンシロキサンとも解釈することができる。
【0023】
このオルガノポリシロキサンの用語は、本発明の範囲内で、今までに架橋性オルガノポリシロキサンコンパウンド中で使用された全てのポリシロキサンを包含する。これは、一般式(I)
(R1a(R2bSiO(4-a-b)/2 (I)
[式中、
1は、1〜8個の炭素原子を有する一価の脂肪族基を表し、
2は、2〜8個の炭素原子を有するアルケニル基を表し、
aは0、1、2又は3であり、
bは0、1又は2であり、
かつa+bの合計は0、1、2又は3であるが、
但し、1分子当たり平均して少なくとも2個のR2基が存在するものとする]の単位からなるシロキサンが有利である。(a)はジメチルビニルシロキシ末端であるのが有利である。
【0024】
本発明の有利な実施態様の場合には、本発明によるオルガノポリシロキサンが0.01〜200Pas、特に有利に0.2〜200Pasの粘度を有する。
【0025】
この粘度は、DIN53019により20℃で測定した。製造方法に依存して、溶剤中に溶かした固体樹脂であることができる分枝したポリマーの場合には、特に、最大で全Si原子の10mol%までがアルコキシ基又はOH基を有していてもよい。
【0026】
ヒドロゲンシロキサンは、本発明の範囲内で、一般式(II)
(R1c(H)dSiO(4c-d)/2 (II)
[式中、
1は、1〜8個の炭素原子を有する一価の脂肪族基を表し、
cは0、1、2又は3であり、
dは0、1又は2であり、
c+dの合計は0、1、2又は3であり、
但し、1分子当たり平均して少なくとも2個のSi結合水素原子が存在するものとする]の単位からなる有利に線状、環状又は分枝状のオルガノポリシロキサンである。
【0027】
2種の充填剤:補強性充填剤及び非補強性充填剤が存在する。
【0028】
非補強性充填剤は、シリコーンポリマーと極端に弱い相互作用により特徴付けられる。これにはチョーク、けい砂粉末、ケイソウ土、雲母、カオリン、Al(OH)3及びFe23が含まれる。この粒子直径は0.1μmのオーダーである。これらは、コンパウンドの粘度を未加硫の状態で高め、かつ加硫したゴムのショア硬度及び弾性率を増大させるために使用される。引裂強さの改善は、表面処理された充填剤の場合にも達成することができる。
【0029】
補強性充填剤は、>125m2/gの表面積を有する特に微細粒のシリカである。この補強作用は、充填剤とシリコーンポリマーとの間の結合に起因することができる。このような結合は、シリカの表面でのシラノール基(3〜4.5個のSiOH基/nm2)及びα−ω−ジヒドロキシポリジメチルシロキサン中のシラノール基との間で、シロキサン鎖中の酸素に対する水素架橋結合によって形成される。この充填剤−ポリマー相互作用は、粘度の上昇及びガラス転移温度の変化及び結晶挙動の変化を生じさせる。他方では、ポリマー充填剤結合は機械的特性を改善するが、ゴムの早期の硬化(クリープ硬化)も生じかねない。
【0030】
タルクは、補強性充填剤と非補強性充填剤との中間の位置にある。充填剤は、特別な効果のためにも使用される。これには、熱安定性を高めるための酸化鉄、二酸化チタン、酸化ジルコニウム又はジルコン酸バリウムが含まれる。
【0031】
シリコーンゴムは、付加的成分として触媒、架橋剤、着色顔料、粘着防止剤、可塑剤及びカップリング剤を含有することもできる。
【0032】
可塑剤は、低い弾性率に調節するために、特に必要である。内部カップリング剤は官能性シランをベースとしていて、これは一方で基材と相互作用し、かつ他方で架橋性シリコーンポリマーと相互作用する(主にRTV−1ゴムに使用される)。
【0033】
低分子量の又はモノマーのシラノールの多い化合物(例えばジフェニルシランジオール、H2O)は早期の硬化に対抗する。これは、充填剤とより早く反応することにより、シリコーンポリマーと充填剤中のシラノール基との強すぎる相互作用を抑制する。相応する効果は、充填剤をトリメチルシリル基で部分的に被覆(メチルシランで充填剤を処理)することによって達成することもできる。
【0034】
このシロキサンポリマーは、化学的に変性されることもできる(フェニルポリマー、ホウ素含有ポリマー)か又は有機ポリマー(ブタジエン−スチレンコポリマー)とブレンドすることもできる。
【0035】
出発ポリマーの低粘度は、特に均質な分配を達成するために、特別に開発された混合装置中で集中的な練り込み及び混練を必要とする。充填剤吸収を促進しかつクリープ硬化を抑制するために、前記シリカは、通常ではin situで混合プロセスの間にヘキサメチルジシラザン(HMDS)を用いて完全に疎水化される。
【0036】
LSRブレンドの加硫は、Pt(0)錯体のppm量による接触によるヒドロシリル化によって、つまりメチルヒドロゲンシロキサン(分子中に少なくとも3個のSiH基を有する)をポリマー中のビニル基へ付加することによって行われ、その際、供給時に架橋剤及び触媒は別個の成分中に含まれている。特別な阻害剤、例えば1−エチニル−1−シクロヘキサノールは、成分の混合の際の早期の加硫を抑制し、室温で約3日間のポットライフを生じさせる。この割合は、白金濃度及び阻害剤濃度によってかなり広範囲に調節することができる。
【0037】
LSRブレンドは導電性シリコーンゴム製品を製造するために使用することが多くなっている、それというのもこの付加架橋は、通常ではHTVと共に使用されるペルオキシド加硫を用いた場合のようにファーネスブラックにより分解されないためである(アセチレンブラックはHTVブレンド中に有利に使用される)。導電性ファーネスブラックは、黒鉛又は金属粉末(その際、銀が有利である)よりもより容易に混入され、かつより容易に分配される。
【0038】
本発明によるシリコーンゴムは次の利点を有する:
LSR(liquid silicone rubber)の試験は、本発明による実施例1〜3に記載の構造変性された疎水性酸化物が、疎水性出発物質(熱分解シリカ)と比較して液体シリコーン中で明らかに低い粘度を示すことを明らかにしている。
本発明によるシリカは、降伏点を示さず、これは特に有利である、それというのも液体シリコーンゴムの加工の場合に極めて良好な流動特性が望ましいためである。
【0039】
さらに、実施例3は、構造改質されたビニルシラン処理されたシリカを用いて、明らかに高い引裂伝播抵抗を達成できるという利点も示す。
【0040】
この構造変性された酸化物を用いて、本発明により、その低いストラクチャーに基づき、既に極端に低い粘度を示しかつ降伏点を示さずかつ製造時に高い剪断力にさらされる必要がない材料を使用することができる。エネルギーコスト、時間コスト及び材料コストの節約は、優れた機械的特性を有する加硫物の製造と共に、使用者にとって有利である。
【0041】
実施例
熱分解シリカをミキサー中に装入し、これにまず水を、次いで表面改質剤又は表面改質剤の混合物を吹き付けた。この反応混合物を、次いで一段階又は多段階の熱処理にさらした。この熱処理された材料を、ボールミルで構造変性し、引き続き必要な場合に歯付きディスクミルで後粉砕した。構造変性されたか又は構造変性されかつ後粉砕された材料を、必要な場合にさらに熱処理にさらした。
【表2】

*) SM=表面改質剤:
A=ビニルトリエトキシシラン
B=ヘキサメチルジシラザン
C=1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン
D=メチルトリメトキシシラン
1種以上のSMを使用する場合には、ブレンドを使用する。
**) Post-grinding=構造変性後に粉砕
***) Heat treatment=後粉砕後の熱処理。
【0042】
アエロジル(AEROSIL (R))2kgをミキサー中に装入し、混合しながら、最初に水0.1kgを、次いでヘキサメチルジシラザン0.4kgとビニルトリエトキシシラン0.17kgの混合物を吹き付けた。吹き付けを完了した後に、混合をさらに15分間続け、反応混合物を、まず50℃で5時間、次いで140℃で1時間コンディショニングした。
【0043】
【表3】

【0044】
シリコーンゴム中の構造変性された熱分解シリカの試験
表2からの生成物をLSRシリコーン調製物の形で試験した。構造変性のために使用した疎水性出発物質を、比較材料として使用した。
【0045】
LSRシリコーンゴム
シリカ20%をオルガノポリシロキサン(Silopren U 10 GE Bayer)中に高速遊星ミキサーで低速(50/500rpm 遊星ミキサー/高速ミキサー)で混入した。前記シリカが完全に濡れた後に、約200mbarの真空をかけ、この混合物を100rpmの速度(遊星ミキサー)で30分間、及び2000rpmの速度(高速ミキサー)で分散させた(水道水で冷却)。冷却後に、この基本混合物は架橋させることができた。
【0046】
この基本混合物340gをステンレス鋼のビーカー中に秤取した。阻害剤(シリコーンポリマーU1中で2%の純粋ECH)6.00g及び白金触媒溶液0.67g及びSilopren U 730 4.19gを秤取して、順番に前記混合物に添加し、n=500rpmの速度で均質化し、脱気した。
【0047】
調製物の加硫
混合物4×50g又は2×100gが2mmの加硫物を加硫させるために必要であった。このシートを次いでプレス装置中で10分間100barの圧力及び120℃の温度で圧縮した。混合物120gが6mmの加硫物を加硫させるために必要であった。このシートをプレス装置中で12分間100barの圧力及び120℃の温度で圧縮した。この加硫物を、次いで200℃で4時間にわたり炉中で後加硫させた。
【0048】
この構造変性された生成物(実施例1〜3)は、疎水性の出発物質と比較して、明らかに低い流動学的特性を示した(表5)。この粘度は、前記出発物質の当初の値よりも60%まで低かった。
【0049】
【表4】

【0050】
表6中の実施例3から、ビニル変性熱分解酸化物の構造変性及び引き続く後粉砕により、シリコーン加硫物において著しく高い引裂伝播抵抗を達成でき、前記コンパウンドの流動学的特性は著しく低い水準にある(表5)ことが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造変性された疎水性熱分解シリカを充填剤として含有することを特徴とする、シリコーンゴム。
【請求項2】
充填剤が火炎酸化又は火炎加水分解により熱分解的に製造された酸化物であり、前記酸化物は10〜1000m2/gであり、疎水化されかつ構造変性されていることを特徴とする、請求項1記載のシリコーンゴム。
【請求項3】
シリコーンゴムが液体シリコーンゴムであることを特徴とする、請求項1又は2記載のシリコーンゴム。

【公表番号】特表2007−526373(P2007−526373A)
【公表日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−501141(P2007−501141)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【国際出願番号】PCT/EP2005/001228
【国際公開番号】WO2005/095503
【国際公開日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(501073862)デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Bennigsenplatz 1, D−40474 Duesseldorf, Germany
【Fターム(参考)】