説明

シリコーン材料からなるバイオリアクター

本発明の主題は、水性培養基中で光合成生物を培養するための、培養基と接触するリアクター部が完全に又は部分的にシリコーン材料から製造されているバイオリアクターにおいて、前記シリコーン材料が付加架橋性シリコーンから製造されており、かつ前記シリコーン材料の表面は、水に対して少なくとも100゜の接触角を有することを特徴とするバイオリアクターである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンを備えたバイオリアクター、バイオリアクターの製造方法、並びにバイオリアクターを製造するためのシリコーンの使用に関する。
【0002】
バイオリアクターは、光合成生物、例えば藍色細菌又は微細藻類、例えばスピルリナ、クロレラ、クラミドモナス又はヘマトコッカスの大規模工業生産のために使用される。この種の微細藻類は、光エネルギー、CO2及び水を用いてバイオマスに変換することができる。第1世代のフォトバイオリアクターは、光源として太陽光を利用する。このリアクターは、多様な形状をした大きな開放型の貯水装置からなり、例えば回転する混合アームを有する45mまでの直径を有する円形の貯水装置からなる。このリアクターは、一般にコンクリート又はプラスチックから製造されている。閉鎖型のバイオリアクターも同様に多様な形状で使用される。閉鎖型のバイオリアクターは、プレート型バイオリアクター、管型バイオリアクター、(気泡)塔型バイオリアクター又はホース型バイオリアクターであることができる。このタイプのリアクターは、透明又は半透明の材料、例えばガラス又はプラスチックから製造される。
【0003】
閉鎖型リアクター中で製造される光合成微生物の培養条件は、今日まで長期間にわたり一定に保持できない、それというのも培養期間中で生じる光合成微生物はリアクター壁部に付着し、このことが、培養基中へ導入される光量の変動を引き起こし、並びに培養基の変動しやすい混合を生じさせるためである。藻類付着は、培養の間のストレス条件により頻繁に引き起こされ、この原因は微生物の制御できない成長条件(例えば光、Open-Pond型リアクター並びに閉鎖型リアクターの場合の温度)又は光合成生物による有用物質(例えばアスタキサンチン、ベータ−カロテン)の生産の誘導であることができる。
【0004】
WO 2007/129327 A1は、透明で、らせん状に巻かれた管から構築されているバイオマスの培養のためのフォトバイオリアクターに関する。管材料として一般にシリコーンが推奨され、この場合に着生の問題は取り上げられていない。WO 2008/145719には、LEDプラスチック成形品を用いたフォトリアクターの照明を記載している。リアクター材料として、鋼、プラスチック及びセラミックが挙げられる。照明エレメントは、有利にLEDシリコーン成形品である。WO 2004/108881 A2は、容器と光源とからなるバイオリアクター装置を内容としており、この場合、容器の材料として全ての可能なプラスチック、特に詳細には述べられていないシリコーンが挙げられている。WO 2009/037683 A1は、光透過性であるが、詳細には述べられていない材料からなる傘状のカバーを備えた槽型のバイオリアクターを記載している。二酸化炭素を供給するために、有利にシリコーンからなるガス透過性のホースが使用されている。GB 2118572 Aは、ガラス管を備えたフォトバイオリアクターを記載しており、このガラス管はシリコーンからなるU字型の接続部と接続されている。DE 10 2005 025 118 A1には、ガラス管から製造されたフォトバイオリアクターが記載されており、この場合に、表面に沈着された微生物を超音波で除去している。US 2003/0073231 A1は、熱可塑性樹脂、例えばポリ塩化ビニル又はポリエチレンから製造されたフォトバイオリアクターを記載している。US 2007/0048848 A1の主題は、同様に熱可塑性プラスチックから製造されたフォトバイオリアクターである。両方の場合には、リアクター壁部に微生物が沈着することを機械的手段、例えばブラシにより解消している。これは、全ての場合に、任意にスケールアップできない比較的手間のかかる方法である。DE 44 16 069 A1には、バイオリアクターの照明のために使用された光ファイバーは平滑な表面を備えていることが推奨されている。US 2008/0311649 A1は、藻類の沈着を抑制するために、管型バイオリアクター中で藻類を含む媒体の流量速度を高めることを提案している。この場合、培養パラメータを流動速度に関してもはや無関係に調節できないことが欠点である。
【0005】
この背景から、培養基と接触するリアクター部材に微生物が繁茂することを十分に抑制し、かつ場合により繁茂が生じても著しい手間をかけずに除去できるように、微生物を培養するためのバイオリアクターを改善するという課題が生じた。この解決策は、生成物品質に不利に影響を及ぼさず、スケールアップ可能であり、かつ培養のために必要なプロセスパラメータに対して普遍的に調節可能であることが好ましい。
【0006】
本発明の主題は、水性培養基中で光合成生物を培養するための、培養基と接触するリアクター部材が完全に又は部分的にシリコーン材料から製造されているバイオリアクターにおいて、前記シリコーン材料が付加架橋性シリコーンから製造されており、かつ前記シリコーン材料の表面は、水に対して少なくとも100゜の接触角を有することを特徴とするバイオリアクターである。
【0007】
培養のために適した生物は、特に光合成マクロ生物又は光合成微生物である。光合成生物とは、この場合、光及び二酸化炭素、又は場合により更に他の炭素供給源を成長のために必要とする生物を表す。光合成マクロ生物の例は、マクロ藻類、植物、蘚類、植物細胞カルチャーである。光合成微生物の例は、光合成細菌、例えば紅色細菌、藍色細菌を含めた光合成微細藻類である。有利に、このバイオリアクターは、光合成微生物の培養のため、特に有利に光合成微細藻類の培養のために利用される。
【0008】
このバイオリアクターは、それぞれ任意の形状を有する、閉鎖型リアクターであるか又は開放型リアクターであることができる。開放型リアクターの場合には、例えば槽、又は「開放型貯水池(open ponds)」又は「水路型貯水池(raceway ponds)」を使用することができる。バイオリアクターとして、閉鎖型リアクターが有利である。この閉鎖型のバイオリアクターは、例えばプレート型バイオリアクター、管型バイオリアクター、(気泡)塔型バイオリアクター又はホース型バイオリアクターであることができる。プレート型バイオリアクターは、縦型又は傾斜型に配置された長方形のプレートからなり、多数のプレートが大きなリアクター系のために連結されている。管型バイオリアクターは、垂直又は水平又は任意の角度で配置されていてもよい管系からなり、この管系は極めて長くてもよく、有利に数百キロメートルまでであることができる。この培養基は、この場合、前記管系を通して、有利にポンプ又はエアリフト原理を用いて供給される。カラム型バイオリアクターは、培養基が充填されている閉鎖された円筒形容器からなる。このタイプのバイオリアクターの場合には二酸化炭素が導通され、この場合、この上昇気泡カラムは培養基の混合を考慮している。ホース型バイオリアクターは、任意の長さの唯一ホースからなるか又は任意の長さの多数のホース、有利に数メートルまでの長さの多数のホースからなるリアクター系である。
【0009】
これらのバイオリアクターは、有利に透明又は半透明の付加架橋性シリコーン材料から製造される。透明のシリコーン材料とは、400nm〜1000nmのスペクトル範囲内の光の少なくとも80%を透過するシリコーン材料であると解釈される。半透明のシリコーン材料とは、400nm〜1000nmのスペクトル範囲内の光の少なくとも50%を透過するシリコーン材料であると解釈される。リアクター部材とは、リアクター底部、及びリアクター蓋部を含めたリアクター壁部並びに培養基中でストラクチャ付与するエレメント、例えばバッフルであると解釈される。このリアクター壁部には、管型リアクター、プレート型リアクター及びホース型リアクターの場合に、管、プレート及びホースに相当する。有利に、リアクター壁部は、完全に又は部分的にシリコーンから製造される。特に有利に、管型リアクター又はプレート型リアクターの場合に、管又はプレートは付加架橋性シリコーンから製造される。カラム型バイオリアクターの場合には、円筒型容器が付加架橋性シリコーンから製造される。
【0010】
バイオリアクターの製造のために適したシリコーンは、付加架橋性シリコーンであり、この場合、付加架橋は熱的に又は放射線により引き起こすことができる。ペルオキシドにより架橋されたシリコーンは、このシリコーンが架橋された状態で付加架橋性シリコーンよりも高い粘着性を有することが欠点である。
【0011】
付加架橋性シリコーンゴム系は、
a) 脂肪族炭素炭素多重結合を有する基を有する有機ケイ素化合物、
b) 場合により、Si結合水素原子を有する有機ケイ素化合物、又はa)及びb)の代わりに、
c) 脂肪族炭素炭素多重結合を有する基及びSi結合水素原子を有する有機ケイ素化合物、
d) Si結合水素の脂肪族多重結合への付加を促進する触媒及び
e) 場合により、室温でSi結合水素の脂肪族多重結合への付加を遅延する薬剤を含有する。
【0012】
付加反応により架橋する適切なシリコーンゴムは、温度上昇時に架橋する固体シリコーンゴム(HTV)である。
【0013】
付加架橋するHTVシリコーンゴムは、白金触媒の存在で、エチレン性不飽和基、有利にビニル基で複数箇所置換されたオルガノポリシロキサンの、SiH基で複数箇所置換されたオルガノポリシロキサンとの架橋により得られる。
【0014】
有利に、付加架橋性HTV−2−シリコーンゴムの成分の一方は、R3SiO[−SiR2O]n−SiR3構造[式中、n>0、一般にアルキル基R中に1〜4個のC原子を有し、上記アルキル基は完全に又は部分的にアリール基、例えばフェニル基により置き換えられていてもよく、かつ一端又は両端でこの末端基Rの1つは、重合可能な基、例えばビニル基により置き換えられている]のジアルキルポリシロキサンからなる。しかしながら、側基のビニル基を有するか又は側基の及び末端基のビニル基を有するポリマーを使用することもできる。有利に、CH2=CH2−R2SiO[−SiR2O]n−SiR2−CH2=CH2の構造のビニル末端ブロックされたポリジメチルシロキサン、並びにさらに複数の側基のビニル基を有する上記の構造のビニル末端ブロックされたポリジメチルシロキサンが使用される。付加架橋性HTVシリコーンゴムの場合には、第2の成分は、ジアルキルポリシロキサンと一般式R′3SiO[−SiR2O]n−[SiHRO]m−SiR′3で示されるポリアルキルヒドロゲンシロキサンからなるコポリマーであり、式中、m≧0、n≧0及びRは上記の意味を有するが、但し少なくとも2つのSiH基が含まれていなければならず、その際、R′はH又はRの意味を有することができる。従って、側基に及び末端にSiH基を有する架橋剤が存在し、R′=Hの、末端にだけSiH基を有するシロキサンも、鎖長延長のために使用される。架橋触媒として、白金触媒が使用される。HTVシリコーンゴムは、一成分系としても加工される。
【0015】
適当な材料は、WO 2006/058656に記載されたような架橋したシリコーンハイブリッド材料(Siliconhybridmaterialien)でもあり、これに関する記載は、本願発明の一部である(参照により組み込まれる)。
【0016】
シリコーン、その化学、式及び適用特性に関する詳細な概要は、例えばWinnacker/Kuechler著の「Chemische Technik: Prozesse und Produkte, 5巻: Organische Zwischenverbindungen, Polymere」、1095-1213頁, Wiley-VCH Weinheim (2005)に記載されている。
【0017】
微生物の繁茂の阻止又は抑制のために重要なのは、シリコーン成形品の表面のモルホロジーである。この表面のモルホロジーは、この表面の水に対する接触角によって決定される。本発明によるこの接触角は、シリコーン材料の本発明による選択により調節される。接触角を高める他の手段、例えば表面の粗面化(例えば、いわゆるロータス効果の模倣)については、有利に行わない。つまり、このような粗面化は光合成微生物の培養を妨害しかねない。100゜〜120゜の接触角を有する表面が有利であり、100゜〜115゜の接触角を有する表面が特に有利であり、100゜〜113゜の接触角を有する表面が更に特に有利である。シリコーン成形品の表面の水に対する接触角の測定は、当業者に公知の方法、例えばDIN 55660-2により、市場で入手可能な、接触角の測定のための測定機器、例えばKruess社から得られる接触角測定システムを使用して行うことができる。
【0018】
場合により、付加架橋性シリコーンは定着のために通常の添加剤又は機械特性の改善のために通常の充填剤又は繊維材料を含有することができる。上記添加剤は、有利に最大で、シリコーン成形品が透明又は半透明であるような量で使用される。光を伝える添加物及び光波長をシフトさせる添加物を添加することもできる。
【0019】
培養基と接触するリアクター部材、特にリアクター壁部は、少なくとも部分的に、有利に完全に上記の付加架橋性シリコーンから製造される。この製造は、成形品、例えば任意の形のプレート、ホース、管又は容器の製造のために使用されるプラスチック加工の確立された技術を用いて行うことができる。例えば、プレート、管、ホースの製造のために押出成形、又は射出成形による。
【0020】
付加架橋性シリコーン成形品とガラス又はプラスチック成形品とからなる複合材からなる積層品、つまり、今までにバイオリアクターの製造のために使用されている材料との積層品を製造することができる。バイオリアクターのための慣用の材料の例は、ガラス又はプラスチック、例えばポリメチルメタクリラート(プレキシガラス)、ポリエステル、例えばPET、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニルである。この種の積層品を用いて、内側が、つまり培養基に向かう側が、付加架橋性シリコーンからなるバイオリアクターが製造される。
【0021】
このバイオリアクターは、リアクター内部構造体を備えている。例えば、装填及び栄養素供給のために供給管を備え、生成物分離及び排出のために排出管を備えている(例えば塩溶液及びフィード溶液のために)。冷却及び加熱のために、このバイオリアクターは、場合により加熱装置/冷却装置、例えば熱交換器を備えていてもよい。更に、このバイオリアクターは、更に混合のために撹拌装置及びポンプを有していてもよい。このバイオリアクターは、多様に人工照明のための装置も備えている。リアクター装置のための他の例は、運転監視のための測定装置及び制御装置(例えばpH、O2、CO2イオン伝導強度、光度の分析)である。有利な実施態様の場合に、このリアクター内部構造体は完全に又は部分的にシリコーンで被覆されている。
【0022】
水に対する接触角が少なくとも100゜の値の表面を有する付加架橋性シリコーン成形品から製造されたフォトバイオリアクターは、形成された光合成生物の沈着を最小化するため、培養基の流動条件は一定に保たれ、成長のために理想的な光入射量を成長最適値に調節し続けられる。水に対する接触角が少なくとも100゜の本発明によるシリコーン成形品の表面特性は、一方で、シリコーン表面上での水の付着を低減し、他方で、水中に溶けた材料、例えば藻類培養の間のストレス刺激により生じた物質を、表面から遠ざける。
【0023】
更に、個々の培養サイクルの間の並びに培養すべき光合成生物の交換の際の洗浄コストの最小化が達成される。場合により、表面に付着する生物は、培養サイクルの間に、洗浄剤、例えば水、エタノールH22の吹き付けにより、更に機械的に手間をかけずに除去することができる。これにより、短い停止時間及びわずかな洗浄コストに基づく本質的な経済的利点が生じる。更なる利点は、本発明による表面特性を有する付加架橋性シリコーンの高いUV安定性であり、この高いUV安定性は、アウトドア領域において、慣用のプラスチックから製造されたバイオリアクターと比べて、本発明による表面特性を有する付加架橋性シリコーン材料からなるバイオリアクターの耐用時間を明らかに高める。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性培養基中で光合成生物を培養するための、前記培養基と接触するリアクター部材が完全に又は部分的にシリコーン材料から製造されているバイオリアクターにおいて、前記シリコーン材料が付加架橋性シリコーンから製造されており、かつ前記シリコーン材料の表面は、水に対して少なくとも100゜の接触角を有することを特徴とする、バイオリアクター。
【請求項2】
前記バイオリアクターが閉鎖型リアクターであることを特徴とする、請求項1記載のバイオリアクター。
【請求項3】
前記バイオリアクターが、プレート型バイオリアクター、管型バイオリアクター、(気泡)塔型バイオリアクター又はホース型バイオリアクターであることを特徴とする、請求項1又は2記載のバイオリアクター。
【請求項4】
前記リアクター部材が、付加架橋性シリコーン(シリコーンゴム)及び付加架橋性シリコーンハイブリッドポリマーを有する群からなる1種以上のシリコーンから製造されていることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載のバイオリアクター。
【請求項5】
前記リアクター部材が、付加架橋性HTVシリコーンゴム及び付加架橋性シリコーンハイブリッドポリマーを有する群からなる1種以上のシリコーンから製造されていることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載のバイオリアクター。
【請求項6】
前記培養基と接触するリアクター部材を、完全に又は部分的に、付加架橋性シリコーン材料から製造し、前記付加架橋性シリコーン材料の表面は水に対して少なくとも100゜の接触角を有する、バイオリアクターの製造方法。
【請求項7】
前記リアクター部材を、付加架橋性シリコーンから、押出成形、射出成形又は積層により製造する、バイオリアクターの製造方法。
【請求項8】
付加架橋性シリコーン成形品の表面が水に対して少なくとも100゜の接触角を有する付加架橋性シリコーン成形品の、バイオリアクター用のリアクター部材の製造のための使用。

【公表番号】特表2013−500734(P2013−500734A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523350(P2012−523350)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【国際出願番号】PCT/EP2010/061487
【国際公開番号】WO2011/015653
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】