説明

シルクスポンジの製造方法

【課題】 絹フィブロイン溶液から微細な多孔質構造を有するシルクスポンジを簡単な操作で、低コストで製造することのできるシルクスポンジの製造方法を提供すること。
【解決手段】 絹フィブロイン溶液を凍結し、その凍結状態を維持することで溶液中に分散溶解している絹フィブロインに機械的応力を加え、更に結晶化が完了するまで凍結状態を維持することで絹フィブロインを不溶化し微細な多孔質構造を有するシルクスポンジを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シルクスポンジの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スキンケア用シルクスポンジとしてはポリウレタンスポンジなどプラスチック製スポンジの表面に絹布や絹不織布を張りあわせたものや絹短繊維をスポンジ表面に植毛したものがあるがシルクそのもののスポンジではない(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
シルクそのものをスポンジ化する方法としてはシルクの構成タンパク質である絹フィブロインがエタノールなどの有機溶剤の作用で結晶化し不溶化する性質を利用して
(1)絹繊維を溶解、脱塩して調製したあるいは蚕の絹糸腺から取り出し希釈した絹フィブロイン溶液を凍結乾燥後メタノール溶液に浸して不溶化する方法
(2)絹フィブロイン溶液を凍結後、冷却したエタノール溶液などに接触させ不溶化する方法
がある(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2000−287746号公報
【特許文献2】特開2000−339432号公報
【特許文献3】特開平8−41097号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、絹フィブロイン溶液の凍結乾燥は、エネルギーコストが高く生産性が低い。また、絹フィブロイン溶液を凍結後に有機溶剤に接触させる方法も溶媒の温度を−20℃に冷却し接触後の放置温度も10℃に保つという条件を守らないと完全なスポンジ構造が得られないなど工程数が多く操作が複雑である。
【0005】
このように、絹フィブロイン溶液を激しく撹拌すると不溶化した絹フィブロインが析出するように絹フィブロインは機械的応力が加えられると結晶化が進み不溶化する性質があるので、絹フィブロイン溶液を凍結すると水の凍結の際に溶液中に分散溶解している絹フィブロインに機械的応力が加わるはずであるが、絹フィブロイン溶液を凍結しただけでは絹フィブロインは不溶化せず、絹フィブロイン溶液を凍結させ、数時間後に解凍すると元の溶液に戻る。よって、凍結した絹フィブロインを不溶化するためには有機溶剤との接触のような他の不溶化させる方法の適用が必要と考えられており、従来は、複雑で多大な手間がかかる操作を必要としていた。
【0006】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、絹フィブロイン溶液から微細な多孔質構造を有するシルクスポンジを簡単な操作で、低コストで製造することのできるシルクスポンジの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、溶液の凍結の際に加わる機械的応力だけで絹フィブロインを不溶化する可能性を検討するため凍結条件を変えて絹フィブロイン溶液の凍結を繰り返す中で、凍結処理だけでは絹フィブロインの不溶化が起こらないのではなく、実は不溶化に至る結晶化の進行が遅いだけであることがわかった。そして、絹フィブロイン溶液を凍結後、凍結状態を維持すれば絹フィブロインを不溶化できることがわかり、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明に係るシルクスポンジの製造方法では、絹フィブロイン溶液を凍結し、その凍結状態を維持することで溶液中に分散溶解している絹フィブロインに機械的応力を加え更に結晶化が完了するまで凍結状態を維持することで絹フィブロインを不溶化し微細な多孔質構造を有するシルクスポンジを製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
絹繊維を溶解、脱塩して調製するあるいは蚕の絹糸腺から取り出し希釈した絹フィブロイン溶液はエタノールのような有機溶剤の作用や機械的応力を加えることで結晶化を進め不溶化することができる。絹フィブロイン溶液を凍結すると氷の生成の際に絹フィブロインにずり応力が加わるがすぐには結晶化しない。しかし、その凍結状態を維持すると凍結の際に加わったずり応力に対応した絹フィブロインの結晶化が徐々に進行し不溶化する。不溶化後、凍結した絹フィブロイン水溶液を解凍すると氷の結晶構造を反映し微細な多孔質構造を有する絹フィブロイン固形物が得られる。従って、絹フィブロイン溶液を凍結し凍結状態を維持するという簡単な操作でシルクスポンジを製造できる。本発明のシルクスポンジは微細な多孔質構造を有し、生体および生体物質との親和性も高いことから、スキンケア用スポンジはもとより、人工皮膚や人工臓器などの再生医療材料としても有用であり産業上極めて有意義である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明では、まず、絹繊維(絹フィブロイン)を塩化カルシウムや臭化リチウムなどの中性塩の濃厚水溶液で溶解する。次に、溶解液を拡散透析や電気透析により脱塩し溶解に使用した中性塩を除き絹フィブロイン溶液を作成する。しかる後に、絹フィブロイン溶液を凍結し−10℃前後の温度で72時間保存後、温水で解凍しシルクスポンジを作成する。
【実施例】
【0011】
(実施例1)
65%塩化カルシウム100mlにエタノール40mlを加え溶解液とする。絹繊維(絹フィブロイン)25gを溶解液に浸漬し絹繊維全体にまんべんなく溶解液がいきわたるようにする。ウォータバスを使い90℃以上に加熱し絹繊維を溶解する。溶解液をセルロースチューブに移し透析し塩化カルシウムを除く。次に遠心分離により溶液中の不溶物を除く。以上の操作で得られた重量パーセントで5〜10%の絹フィブロイン水溶液をシャーレに移し低温恒温機で−7℃で凍結し72時間凍結状態で放置した。凍結状態の絹フィブロイン水溶液を温水で解凍しシルクスポンジを作成した。
【0012】
(実施例2)
ビーカーに入れた7%絹フィブロイン水溶液20mlを凍結乾燥の予備凍結槽(クールエース CA−115型 東京理化器械(株)製 冷媒:エタノール)で−40℃で急速凍結後、−7℃に保たれた低温恒温機に移し数日間凍結状態を維持した。実施例1と同様に凍結状態の絹フィブロイン水溶液を温水で解凍しシルクスポンジを作成した。
【0013】
(実施例3)
7%絹フィブロイン水溶液20mlにシクロデキストリン0.1gを溶解して絹フィブロイン分子の分散性を増した水溶液をビーカーに入れ、低温恒温機で−7℃で凍結し数日間凍結状態で放置した。凍結状態の絹フィブロイン水溶液を温水で解凍し、より微細な多孔性を有するシルクスポンジを作成した。
【0014】
(走査型電子顕微鏡(SEM)による形態観察結果)
解凍して得られたシルクスポンジを水洗し、次にアセトンに浸漬後自然乾燥し、乾燥状態のシルクスポンジを得た。乾燥シルクスポンジから1cm角、厚さ約5mmの試料を切り取り、この試料を前処理なしで(株)キーエンス製 リアルサーフェスビュー顕微鏡VE−7800でSEM観察した。加速電圧は1kVである。図1に、本発明に係るシルクスポンジ表面を1000倍に拡大した走査型電子顕微鏡(SEM画像)写真を示し、図2には、本発明に係るシルクスポンジ切断面を1000倍に拡大した走査型電子顕微鏡(SEM画像)写真を示してある。これらの画像から、本発明に係るシルクスポンジは、多孔質のスポンジ構造を有することが確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るシルクスポンジの表面を写した走査型電子顕微鏡(SEM画像)写真である。
【図2】本発明に係るシルクスポンジの切断面を写した走査型電子顕微鏡(SEM画像)写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絹フィブロイン溶液を凍結し、その凍結状態を維持することを特徴とするシルクスポンジの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−249115(P2006−249115A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−63348(P2005−63348)
【出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(391001619)長野県 (64)
【出願人】(505086163)有限会社エイチ・エー・エル (1)
【Fターム(参考)】