説明

シロキサン除去剤及びそれを用いたフィルター

【課題】環状シロキサン類を効率よく除去できるシロキサン除去剤及びガスセンサーのフィルターを提供する。
【解決手段】シロキサン除去剤は、強酸型イオン交換樹脂(スルホン化スチレン−ジビニルベンゼン共重合体など)などのスルホン酸基を有する樹脂を含んでいる。シロキサン除去剤は、環状シロキサン類[シロキサンの環状3量体(D3)、環状4量体(D4)など]を開環重合させ、環状シロキサン類を効率よく除去する。そのため、ガスセンサーの上流側に配設されるフィルターにシロキサン除去剤を含有させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シロキサンを効率よく除去するのに有効なシロキサン除去剤(又は吸着剤)及びガスセンサーなどのフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds,VOC)の使用、及びVOC対策に伴う低揮発性溶媒への切り換えなどを含め、種々の化学物質の使用により環境(住環境など)中には、多用な化学物質が含まれている。特に、省エネルギー化に伴う住宅構造の高気密化などに付随して、住環境中には、多用な化学物質が含まれている。例えば、シリコーンパテ、防曇剤、艶だし剤、消臭スプレー、化粧品(整髪料など)、シャンプー、トリートメントなどに含まれるシロキサン化合物(シリコーンオイルなど)に起因して、大気中には、微量のシロキサン類(環状シロキサン類)が含まれている。
【0003】
このようなシロキサン類は種々の弊害をもたらす。例えば、シロキサン類が燃焼して微粒子状の酸化ケイ素を生成し、ガスタービンやガスエンジンに付着して発電障害をもたらす。特許第3776904号公報(特許文献1)には、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体からなる樹脂吸着剤を充填した複数の吸着塔を設け、少なくとも一つの吸着塔に水分を含む被処理ガスを流通してシロキサンを吸着除去し、同時に他の少なくとも一つの吸着塔に室温以上150℃以下の再生用ガスを通気してシロキサンの脱離により樹脂吸着剤を再生して、シロキサンの吸着除去と樹脂吸着剤の再生を並行して行い、一定時間後に被処理ガスと再生用ガスの通気を切替えて前記吸着処理と前記再生処理を交換してシロキサンを連続除去するシロキサン除去方法が開示されている。この方法では、シロキサンに対するスチレン−ジビニルベンゼン共重合体(樹脂吸着剤)の吸脱着性を利用して、シロキサンを除去でき、微粒子状の酸化ケイ素の生成に伴う弊害を解消できる。
【0004】
一方、シロキサン類はセンサー(ガスセンサーなど)による誤った警報の原因ともなる。すなわち、ガスセンサーの容器の上流側には、センサーの被毒成分の通過を防止し、かつ被検出成分(例えば、一酸化炭素、メタンなど)の通過を許容するフィルターが配設されており、このフィルターは活性炭などの吸着剤を含んでいる。しかし、吸着剤に対する吸着性はVOC成分よりもシロキサン類が小さいため、シロキサン類がフィルターを通過してセンサーに到達する。また、VOC成分が吸着剤に吸着されて蓄積すると、吸着剤の吸着能が低下するため、時間の経過に伴って、シロキサン類がフィルターを通過してセンサーに到達しやすくなる。そして、センサー表面ではシロキサン類がシリカ皮膜を形成し、種々のガスに対して鋭敏化するため、誤警報のケースが増大している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3776904号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、シロキサン類を効率よく吸着して除去するのに有用なシロキサン除去剤(又は吸着剤)、シロキサン類の除去方法、並びにシロキサン類を除去するのに有用なフィルター(若しくはこのフィルターを備えたガスセンサー)を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、シロキサン類を選択的に長期間に亘り吸着するシロキサン除去剤(又は吸着剤)、シロキサン類の除去方法、並びにシロキサン類を除去するのに有用なフィルター(若しくはこのフィルターを備えたガスセンサー)を提供することにある。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、ガスセンサーにおいて、被検知成分に対する検知応答性を低下させることなく、被毒成分であるシロキサン類の通過又は透過を長期間に亘り抑制できるシロキサン除去剤(又は吸着剤)、シロキサン類の除去方法、並びにフィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、スルホン酸基を有する樹脂(強酸型イオン交換樹脂など)と環状シロキサン類とを接触させると、環状シロキサン類が選択的に効率よく重合すること、前記スルホン酸基を有する樹脂が、被検知成分(一酸化炭素、メタンなど)を効率よく透過させつつ、シロキサン類を効率よく吸収又は吸着することを見いだし、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明のシロキサン除去剤は、環状シロキサン類を除去するためのシロキサン除去剤であって、スルホン酸基を有する樹脂を含んでいる。このスルホン酸基を有する樹脂は、スルホン化スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、パーフルオロスルホン酸イオノマー、スルホン化スチレン−オレフィン共重合体、及びスルホン化ポリホスファゼンから選択された少なくとも一種であってもよい。スルホン酸基を有する樹脂は、多孔質体、例えば、スルホン酸基と1つのビニル基とを有する単官能性芳香族ビニル系単量体と、複数のビニル基を有する多官能性芳香族ビニル系単量体とを少なくとも含む単量体の共重合体(又は1つのビニル基とを有する単官能性芳香族ビニル系単量体と前記多官能性芳香族ビニル系単量体とを少なくとも含む単量体の共重合体をスルホン化した共重合体)(例えば、強酸型イオン交換樹脂など)、前記スルホン酸基を有する樹脂が多孔質担体に担持された多孔質体であってもよい。なお、環状シロキサン類は、6員環シロキサン、8員環シロキサン、10員環シロキサンから選択された少なくとも一種であってもよい。
【0011】
本発明は、環状シロキサン類を含む被処理流体を、前記シロキサン除去剤と接触させ、環状シロキサン類を除去する方法;ガスセンサーの上流側に配設されるフィルターであって、前記シロキサン除去剤を含むフィルター(又は前記シロキサン除去剤で構成されたフィルター)も包含する。
【0012】
なお、本明細書中、アクリル系単量体とメタクリル系単量体とを(メタ)アクリル系単量体と総称する。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、シロキサン除去剤がスルホン酸基を有する樹脂で構成されているため、環状シロキサン類を効率よく重合させることができ、センサーの被毒成分であるシロキサン類を除去できる。しかも、シロキサン類を選択的に長期間に亘り除去できる。さらに、ガスセンサーにおいては、被検知成分に対する検知応答性を低下させることなく、シロキサン類の通過又は透過を長期間に亘り抑制できる。そのため、シロキサン除去剤(又は吸着剤)は、シロキサン類を除去するためのフィルター(若しくはこのフィルターを備えたガスセンサー)として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のシロキサン除去剤は、スルホン酸基を有する樹脂を含んでおり、環状シロキサン類と反応して環状シロキサンを有効に除去する。スルホン酸基を含有する樹脂は、スルホン酸基を有する種々の樹脂、例えば、スルホン化オレフィン系樹脂、スルホン化スチレン系樹脂、スルホン化スルホン系樹脂などであってもよい。スルホン酸基を有する樹脂は、スルホン化スチレン−ジビニルベンゼン共重合体(例えば、スチレンスルホン酸−ジビニルベンゼン共重合体、スルホン化されたスチレン−ジビニルベンゼン共重合体など)、パーフルオロスルホン酸イオノマー(テトラフルオロエチレンとパーフルオロ[(2−(2−スルホエトキシ)プロピル)ビニルエーテル]との共重合体などの炭素−フッ素骨格とスルホン酸基を有するパーフルオロ側鎖とを有するポリマー、例えば、「ナフィオン」(登録商標)など)、スルホン化スチレン−オレフィン共重合体(例えば、スルホン化スチレン−エチレン共重合体(アルドリッチ社)、スルホン化したスチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(アルドリッチ社)などのスルホニルベンゼン単位とオレフィン単位との共重合体)、スルホン化ポリホスファゼン(アルドリッチ社)などである場合が多い。これらのスルホン酸含有樹脂は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0015】
スルホン酸基を有する樹脂は、粉粒状(又はビーズ状など)、薄膜状であってもよく、環状シロキサン類との接触面積を大きくするため、多孔質体(例えば、粉粒状、ビーズ状、薄膜状などの多孔質体)であってもよい。また、多孔質体は、(a)スルホン酸基と1つのビニル基とを有する単官能性芳香族ビニル系単量体と、複数のビニル基を有する多官能性芳香族ビニル系単量体とを少なくとも含む単量体の共重合体(又は1つのビニル基とを有する単官能性芳香族ビニル系単量体と前記多官能性芳香族ビニル系単量体とを少なくとも含む単量体の共重合体をスルホン化した共重合体)、(b)前記スルホン酸基を有する樹脂が多孔質担体に担持された多孔質体であってもよい。
【0016】
前記多孔質体(a)において、単官能性単量体としては、例えば、芳香族ビニル系単量体[例えば、スチレン;ビニルトルエン、ビニルキシレン、p−エチルスチレン、p−t−ブチルスチレン;α−メチルスチレン;スチレンスルホン酸又はその塩など]、(メタ)アクリル系単量体[例えば、(メタ)アクリル酸;例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシルなどの(メタ)アクリル酸直鎖状又は分岐鎖状C1−16アルキルエステル;(メタ)アクリル酸シクロへキシル;(メタ)アクリル酸フェニル;(メタ)アクリル酸ベンジル;(メタ)アクリル酸グリシジル;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシC2−4アルキルエステルなど]、脂肪酸ビニルエステル系単量体(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなど)、オレフィン類(エチレン、プロピレンなどのα−C2−6オレフィンなど)、塩化ビニルなどのハロゲン含有ビニル系単量体、不飽和多価カルボン酸又はその酸無水物(例えば、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸又はその酸無水物など)、イミド系単量体[例えば、マレイミド;N−C1−4アルキルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミドなど)などのN−置換マレイミド]などが例示できる。
【0017】
これらの単官能性単量体は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましい単官能性単量体は、芳香族ビニル系単量体又はスチレン系単量体(スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなど)、(メタ)アクリル系単量体[(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸直鎖状又は分岐鎖状C1−16アルキルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシC2−4アルキルエステルなど]である。これらの芳香族ビニル系単量体及び(メタ)アクリル系単量体も、それぞれ、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。さらに、芳香族ビニル系単量体を使用する場合、マレイン酸又は無水マレイン酸などを併用してもよい。好ましい態様では、単官能性単量体は、少なくとも単官能性芳香族ビニル系単量体(すなわち、1つのビニル基を有する単官能性芳香族ビニル系単量体又はスチレン系単量体)を含む。
【0018】
多官能性単量体としては、架橋構造を導入するとともに多孔質構造も形成できる種々の単量体、例えば、多官能性(メタ)アクリル系単量体[エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどのC2−10アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;3,3−ビス(4−(メタ)アクリロイルエトキシフェニル)プロパンなどのビスフェノール類にアルキレンオキサイドが付加した付加体のヒドロキシル基が(メタ)アクリル酸でエステル化されたビスフェノール系ジ(メタ)アクリレートなど]、多官能性芳香族ビニル系単量体[ジビニルベンゼン、ジビニルトルエンなど]などが例示できる。これらの多官能性単量体は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましい多官能性単量体は、少なくとも多官能性芳香族ビニル系単量体(複数、特に2つのビニル基を有する多官能性芳香族ビニル系単量体)を含んでいる。
【0019】
なお、必要により、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどの3以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能性単量体を併用してもよい。
【0020】
環状シロキサン類との親和性を向上させるためには、単官能性単量体及び多官能性単量体のうち少なくとも一方の単量体(特に双方の単量体)が少なくとも芳香族系単量体を含むのが好ましい。すなわち、多孔質体は、架橋構造を有する多孔質芳香族性樹脂であるのが好ましい。なお、スルホン酸基は、スチレンスルホン酸又はその塩などのスルホン酸基を有する単量体を共重合させることにより導入してもよく、単官能性単量体及び多官能性単量体の共重合体をスルホン化することにより導入してもよい。
【0021】
単官能性芳香族ビニル系単量体と多官能性芳香族ビニル系単量体との割合(重量比)は、架橋構造及び多孔質構造を形成するとともに、環状シロキサン類の分子サイズに応じて、環状シロキサン類との接触効率を損なわない範囲であればよく、例えば、前者/後者=95/5〜25/75(例えば、90/10〜30/70)、好ましくは80/20〜40/60(例えば、75/25〜40/60)、さらに好ましくは70/30〜40/60(例えば、60/40〜40/60)程度であってもよい。
【0022】
前記多孔質体(a)の比表面積は、例えば、150〜2000m/g(例えば、180〜1500m/g)、好ましくは200〜1200m/g(例えば、220〜1000m/g)程度であり、175〜1000m/g程度であってもよい。また、平均細孔径は、例えば、1〜30nm(例えば、2.5〜20nm)、好ましくは4〜17nm(例えば、5〜15nm)、さらに好ましくは6〜15nm(例えば、7〜15nm)程度であってもよい。さらに、細孔容積は、0.2〜5ml/g(例えば、0.3〜3ml/g)、好ましくは0.5〜2.5ml/g(例えば、0.6〜2.2ml/g)程度であってもよく、0.5〜2ml/g(例えば、0.6〜1.7ml/g)程度であってもよい。比表面積又は細孔容積が小さすぎると環状シロキサン類の除去量を大きくできず、比表面積又は細孔容積が大きすぎると多孔質体の調製が困難となる場合がある。また、細孔径が小さすぎると環状シロキサン類の反応サイトを形成するのが困難となり、大きすぎると種々の成分が吸着され、環状シロキサン類の選択的な除去を損なう場合が多い。なお、多孔質体(a)は、微細な細孔が共重合体(又は樹脂)の内部にまで発達しており、均一な細孔径が形成されている。
【0023】
このような多孔質体(a)としては、例えば、スチレンスルホン酸−ジビニルベンゼン共重合体、スチレンスルホン酸−(メタ)アクリル酸−ジビニルベンゼン共重合体、スチレンスルホン酸−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、スチレンスルホン酸−(メタ)アクリル酸エステル−ジビニルベンゼン共重合体など)などが例示できる。多孔質体(a)は、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体などの架橋構造を有する多孔性樹脂を、硫酸などによりスルホン化した樹脂(多孔性樹脂)であってもよい。さらに、これらの多孔質体(a)は、アルカリ金属塩(リチウム、ナトリウム、カリウム塩など)、アンモニウム塩、アミン塩(トリメチルアミン塩などのアルキルアミン塩)などであってもよい。好ましい多孔質体(a)としては、強酸型イオン交換樹脂(例えば、スルホン化スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、スチレンスルホン酸−ジビニルベンゼン共重合体など)を用いる場合が多い。なお、これらの多孔質体(a)は、イオン交換樹脂として市販されている。
【0024】
前記多孔質体(b)において、多孔質担体としては、例えば、活性炭、ゼオライト、シリカ、アルミナなどが例示できる。これらの担体も単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。担体の比表面積は、例えば、200〜2500m/g(例えば、300〜2000m/g)、好ましくは500〜1750m/g(例えば、750〜1500m/g)程度であってもよい。また、平均細孔径は、例えば、2〜20nm(例えば、3〜17nm)、好ましくは4〜15nm(例えば、5〜15nm)程度であってもよく、5〜10nm程度であってもよい。さらに、細孔容積は、0.3〜5ml/g(例えば、0.5〜3ml/g)、好ましくは0.7〜2.5ml/g(例えば、0.8〜2.2ml/g)程度であってもよい。
【0025】
スルホン酸基を有する樹脂の担持量は、担体100重量部に対して、例えば、1〜100重量部、好ましくは5〜75重量部、さらに好ましくは10〜50重量部程度であってもよい。
【0026】
多孔質体(b)の比表面積、平均細孔径及び細孔容積は、前記多孔質体(a)と同様であってもよい。
【0027】
なお、比表面積、平均細孔径及び細孔容積は、吸着ガスとしてNを用いてBET分析装置で測定できる。
【0028】
このような多孔質担体(b)の具体例としては、例えば、シリカ担体に、前記炭素−フッ素骨格とスルホン酸基を有するパーフルオロ側鎖とを有するポリマー(例えば、「ナフィオン」(登録商標))が担持された多孔質担体(例えば、「Nafion(登録商標) SAC-13」(アルドリッチ社)など)が例示できる。
【0029】
本発明のシロキサン除去剤は、通常、粉粒状又は顆粒状の形態である。
【0030】
本発明のシロキサン除去剤は、環状シロキサン類と反応する反応サイト(スルホン酸基の部位)を有している他、環状シロキサン類と効率よく反応し、環状シロキサン類を開環重合させる。前記シロキサン類(環状シロキサン類)としては、シロキサンの環状2量体(又は4員環)[(CHSiO](D2)、環状3量体(又は6員環)[(CHSiO](D3)、環状4量体(又は8員環)[(CHSiO](D4)、環状5量体(又は10員環)[(CHSiO](D5)、環状6量体(D6)などが例示される。本発明の除去剤は、これらのシロキサン類のうち単独のシロキサン又は複数のシロキサン類を効率よく除去できる。なお、環境中(例えば、大気中)のシロキサン類のうち主たる成分は、環状3量体(D3)、環状4量体(D4)及び環状5量体(D5)である。
【0031】
シロキサン除去剤は、前記スルホン酸基を有する樹脂を含んでいればよく、スルホン酸基を有する樹脂(第一の除去剤)単独で構成してもよく、第一の除去剤と吸着剤(例えば、活性炭、ゼオライト、シリカ、アルミナなど)と併用してもよい。他の吸着剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましい他の吸着剤(特に粉粒状又は顆粒状の形態の吸着剤)は活性炭である。吸着剤の比表面積は、例えば、500〜2500m/g(例えば、600〜2000m/g)、好ましくは700〜1750m/g(例えば、750〜1500m/g)程度であってもよい。また、平均細孔径は、例えば、1〜20nm(例えば、2〜17nm)、好ましくは3〜15nm(例えば、5〜15nm)程度であってもよく、1〜10nm(例えば、1〜5nm)程度であってもよい。さらに、細孔容積は、0.2〜5ml/g(例えば、0.3〜3ml/g)、好ましくは0.5〜2.5ml/g(例えば、0.6〜2.2ml/g)程度であってもよい。
【0032】
スルホン酸基を有する樹脂と吸着剤とは混合して使用してもよく、被処理流体の流れ方向に対して層状に分離した形態で使用してもよい。例えば、スルホン酸基を有する樹脂又は吸着剤を含む層を上流側に位置させ、下流側に、吸着剤又はスルホン酸基を有する樹脂を含む層を位置させてもよい。
【0033】
スルホン酸基を有する樹脂と吸着剤との割合は、前者/後者(重量比)=100/0〜30/70、好ましくは100/0〜40/60、さらに好ましくは100/0〜50/50程度であってもよい。
【0034】
環状シロキサン類は、環状シロキサン類を含む被処理流体を、前記除去剤と接触させることにより除去できる。被処理流体は、液体(水溶液、有機溶媒溶液など)であってもよいが、通常、気体(ガス)である。被処理流体中のシロキサン類の濃度は、例えば、1ppb〜100ppm(例えば、1ppb〜20ppm)、好ましくは1ppb〜1ppm、さらに好ましくは1ppb〜500ppb(例えば、1ppb〜100ppb)程度である。なお、被処理流体(特に被処理ガス)は、水分、一酸化炭素、二酸化炭素、一酸化窒素、二酸化窒素、炭化水素(メタン、エタン、プロパン、ブタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素、シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素など)、ハロゲン化炭化水素類(トリクロロエチレンなど)、エーテル類(ジメチルエーテル、ジエチルエーテルなど)などを含んでいてもよい。さらに、被処理ガスは、環状シロキサン類を含む空気であってもよい。
【0035】
前記多孔質共重合体(又は多孔質共重合体を含む除去剤)は、被処理流体(又は被処理ガス)雰囲気中に放置又は存在させることにより、環状シロキサン類と接触させてもよく、被処理流体(又は被処理ガス)は、バッチ式、セミバッチ式又は連続式で前記多孔質共重合体(又は多孔質共重合体を含む除去剤)と接触させることができる。連続式に被処理流体(又は被処理ガス)を処理する場合、被処理流体(又は被処理ガス)の流量は、前記多孔質共重合体(又は多孔質共重合体を含む除去剤)100gに対して、常温常圧(温度20〜25℃、圧力1気圧)で、100mL/分〜200L/分、好ましくは1〜100L/分、さらに好ましくは1〜60L/分程度であってもよい。被処理流体(又は被処理ガス)の空間速度(SV)は、例えば、100〜50000h−1、好ましくは1000〜30000h−1、さらに好ましくは5000〜20000h−1程度であってもよい。
【0036】
被処理流体(又は被処理ガス)は、加圧して前記除去剤と接触させてもよいが、通常、被処理流体(又は被処理ガス)の処理は常圧で行われる。吸着処理は、例えば、温度0〜100℃(好ましくは10〜50℃、さらに好ましくは15〜35℃)程度で行うことができる。
【0037】
本発明のシロキサン除去剤は、センサーの被毒成分又は鋭敏化成分である環状シロキサン類と反応し(又は重合し)、選択的に除去する。そのため、除去剤は、センサー(例えば、工業用又は家庭用ガス警報器のセンサー)の上流側に配設されるフィルター材料として適している。より詳細には、所定の検知成分を検知するためのセンサ(ガスセンサーなど)は、通常、流入口と排出口とを備えた中空筒体と、この筒体の上流側(流入口側)の筒体内にて配設され、夾雑成分(センサの被毒成分など)を除去するためのフィルターと、このフィルターの下流側の筒体(例えば、筒体の底部など)に配設されたセンサーとを備えている。なお、前記除去剤で構成されたフィルター(例えば、粉粒状除去剤のフィルター)は、筒体の流入口側に配設された通気性支持体(メッシュ状支持体など)と筒体内に配設された通気性支持体(メッシュ状支持体など)との間に充填した形態で支持され、筒体内に配設されている。また、前記筒体の流入口は、筒体の上流端部の中央部などの適所に形成できる。センサーからの検出値は基準値と比較され、検出値が基準値を越えると、警報により有毒成分又は可燃成分の濃度が高くなったことを報知している。
【0038】
このようなセンサーによる検知成分は、センサーの用途に応じて選択できるが、前記除去剤は、検知成分[一酸化炭素、メタンなど]を吸着することなく、シロキサン類を選択的に効率よく除去する。そのため、センサーのフィルターを前記除去剤で構成すると、シロキサン類の通過又は透過を長期間に亘り抑制でき、被検知成分に対する検知応答性を低下させることなく、誤警報の発生を防止できる。なお、センサーとしては、被検知成分の種類に応じて選択でき、一酸化炭素では、慣用のセンサー(例えば、接触燃焼式、半導体式、電気化学式センサー)、メタンなどの可燃性成分では、慣用のセンサー(例えば、接触燃焼式、半導体式センサー)などが利用できる。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0040】
実施例1
スルホン酸基を有する強酸型イオン交換樹脂(「ダイヤイオンSK1BH」三菱化学(株)製)を乾燥してアルミニウム容器に入れて精秤(小数点4桁まで精秤)し、この容器と6員環シロキサン(D3)を収容したアルミニウム容器とを乾燥したデシケータに入れて密閉し、40℃の恒温槽に20時間放置した。なお、デシケータは、乾燥窒素ガスを吹き込んで予め乾燥したデシケータを用いた。恒温槽からアルミニウム容器を取り出して強酸型イオン交換樹脂の重量を測定し、低湿度条件下での環状シロキサンの重合量(乾燥後の重量増加率)を測定した。
【0041】
実施例2
実施例1において、デシケータ内に、強酸型イオン交換樹脂(「ダイヤイオンSK1BH」三菱化学(株)製)を収容したアルミニウム容器と、6員環シロキサン(D3)を収容したアルミニウム容器と、水を収容したアルミニウム容器とを入れて密閉する以外、実施例1と同様にして、飽和水蒸気の存在下での環状シロキサンの重合量(乾燥後の重量増加率)を測定した。
【0042】
比較例1
強酸型イオン交換樹脂に代えて、カルボキシル基を有する弱酸性樹脂(「HL415」、低分子量ポリアクリル酸、(株)日本触媒製)を用いる以外、実施例1と同様にして、低湿度条件下での環状シロキサンの重合量(乾燥後の重量増加率)を測定した。
【0043】
比較例2
強酸型イオン交換樹脂に代えて、カルボキシル基を有する弱酸性樹脂(「AS58」、高分子量ポリアクリル酸、(株)日本触媒製)を用いる以外、実施例1と同様にして、低湿度条件下での環状シロキサンの重合量(乾燥後の重量増加率)を測定した。
【0044】
結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
なお、実施例1〜2で生成した生成物0.5gと、テトラヒドロフラン(THF)1gとを混合して溶出処理し、濾別した後、ゲルパーミエーションクロマトグラフィにより分子量を測定した。すなわち、分子量測定装置(DC-980-50 880-PU IR-930 865-CO(Jasco社製))に、充填剤入りカラム(Showdex KF-804L、昭和電工社製)を装着し、溶出液としてテトラヒドロフラン(安定剤無添加のTHF(和光純薬製))を用い、カラム温度30℃で1.0mL/分で測定した。その結果、実施例1では環状シロキサンの開環重合体の数平均分子量(Mn)が160000であり、実施例2では環状シロキサンの開環重合体の数平均分子量(Mn)が420000であった。
【0047】
また、実施例1〜2で生成した生成物0.5gと重溶媒CDCl 1gとを混合して1時間撹拌した後、濾過して濾液(試料)を調製し、JNM GSX-270(日本電子(株)社製、270MHz)で核磁気共鳴スペクトルH−NMRを測定したところ、実施例1〜2のいずれの共重合体でも0.07ppmにケミカルシフトがみられた。なお、6員環シロキサン(D3)のケミカルシフトは0.17ppmに認められる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、環状シロキサン類を効率よくかつ選択的に吸着して除去又は分離する。そのため、種々に分野、例えば、工業的に環状シロキサン類を分離して除去するだけでなく、環境中の環状シロキサン類を分離するのに有用である。また、被毒成分であるシロキサン類を分離除去して、被検知成分(一酸化炭素、メタンなど)を検知するガスセンサーのフィルターなどとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状シロキサン類を除去するためのシロキサン除去剤であって、スルホン酸基を有する樹脂を含むシロキサン除去剤。
【請求項2】
スルホン酸基を有する樹脂が、スルホン化スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、パーフルオロスルホン酸イオノマー、スルホン化スチレン−オレフィン共重合体、及びスルホン化ポリホスファゼンから選択された少なくとも一種である請求項1記載のシロキサン除去剤。
【請求項3】
スルホン酸基を有する樹脂が強酸型イオン交換樹脂である請求項1又は2記載のシロキサン除去剤。
【請求項4】
環状シロキサン類が、6員環シロキサン、8員環シロキサン、10員環シロキサンから選択された少なくとも一種である請求項1〜3のいずれかに記載のシロキサン除去剤。
【請求項5】
環状シロキサン類を含む被処理流体を、請求項1〜4のいずれかに記載のシロキサン除去剤と接触させ、環状シロキサン類を除去する方法。
【請求項6】
ガスセンサーの上流側に配設されるフィルターであって、請求項1〜4のいずれかに記載のシロキサン除去剤を含むフィルター。

【公開番号】特開2011−212565(P2011−212565A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82212(P2010−82212)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】