説明

シートカバー

【課題】人体が車椅子などのシート(座席)からのずり落ちるのを防止する。着座状態の快適さも得られるようにする。
【解決手段】人体が着座するシートの座部と背もたれ部の表面に取り付けられるシートカバー11であって、内部に収納されるシート状のクッション材12と、該クッション材12を被包する被包材13を有し、該被包材13の表裏両面の全面に、接触する部分との間ですべり止めを行うすべり止め部13aが設けられたシートカバー11。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、人体が着座する各種シート(座席)の表面に取り付けられるシートカバーに関し、より詳しくは、特に車椅子に取り付けて使用され、着座した人体のすべりを防止するようなシートカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
車椅子に用いられるシートカバーとしては、たとえば下記特許文献1に開示されたものがある。このシートカバーは、裏面にすべり止め加工が施された生地の表面に、人体の股間に対して軽く当たる突起物を設けたもので、車椅子シートの座部に載せて使用される。
【0003】
つまり、特許文献1のシートカバーでは、シートカバーを構成する生地の裏面のすべり止め加工によって、シートカバーと車椅子シートの座部との間のすべりを防止し、シートカバーと人体との間のすべり防止は、生地の表面に設けた突起物で行う。
【0004】
しかし、人体は突起物に引っ掛かることによって、ずり落ちが防止されるというものであり、車椅子使用者の体の姿勢等に注意しておかないと、股間部分が圧迫されるなどのおそれがある。
【0005】
その他にも、下記特許文献2に開示されたものがある。このシートカバーは、背もたれ覆部と座覆部を一体に連結したシート本体を有し、シート本体がすべり止め素材で形成されているというものである。
【0006】
これによれば、人体と車椅子シートとの間にゴムシートを敷いたような状態になり、すべりにくくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−217867号公報
【特許文献2】登録実用新案第3142000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、人体は物品ではなく、服を着ており、また血の通った肉体である。つまり、着座時にシートに接する部分でも常に動き、呼吸をし、感覚も働いている。このため、物品同士の間にゴムシートを介在されたようなわずかな動きも許容されない状態では、着座する者とって快適とはいえない。人体が動くのにもかかわらず服がシートカバーとの間ですべらないと、服がずりあがったり、腰が露出したりすることになる。車椅子からずり落ちることがないとしても、利用者にとっては快適な使用とは言いにくいことがある。
【0009】
そこで、この発明は、シートからのずり落ち防止を、着座状態の快適さを保ちながらできるようにすることを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのための手段は、人体が着座するシートの表面に取り付けられるシートカバーであって、内部に収納されるシート状のクッション材と、該クッション材を被包する被包材を有し、該被包材の表裏両面に、接触する部分との間ですべり止めを行うすべり止め部が設けられたシートカバーである。
【0011】
すべり止め部は、すべり止め作用を有する合成樹脂等を被包材に対してコーティングしたり、すべり止め作用を有する合成樹脂等を練り込んだ繊維、すべり止め作用を有する合成樹脂等からなるモノフィラメント等を用いて被包材を編織したりして構成できる。
【0012】
シートカバーを車椅子等のシートの表面を覆うように取り付ければ、被包材の表裏両面のすべり止め部が、それぞれ対向し接触する部分、すなわちシートの表面とクッション材、クッション材と人体との間でのすべり止めを行う一方、クッション材が人体を弾力的に支持するとともに、被包材部分での動きを許容する。
【発明の効果】
【0013】
前述の結果、この発明によれば、人体がシートに対して位置ずれするのを防止できる。しかも、位置ずれ防止において、人体の動きを許容するので、着座状態の快適さを保てる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】シートカバーの斜視図。
【図2】使用態様を示す斜視図。
【図3】シートカバーの断面図。
【図4】被包材の断面図。
【図5】他の例に係る被包材の一部の拡大斜視図。
【図6】作用状態の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明を実施するための一形態を、以下図面を用いて説明する。
図1は、シートカバー11の斜視図であり、このシートカバー11は、図2に示したように長さ方向の中間部分を折り曲げるようにして車椅子21のシート22の表面に取り付けて用いられるものである。
【0016】
シートカバー11は、車椅子21のシート22の座部22aと背もたれ部22bの表面全体を覆うように、それらの大きさを合わせた1枚の長方形シート状をなす。
【0017】
そして、図3の断面図に示したように、内部には長方形シート状の1枚のクッション材12が収納され、このクッション材12の表裏両面を含む全体は織物からなる被包材13で包まれている。
【0018】
クッション材12は、図3に仮想線で示すように弾力性を有し、どの方向からでも負荷がかかると変形し、負荷が除かれると弾性復帰する性質のものである。適宜の材料のものを採用できる。
【0019】
前記被包材13は、表裏両面の全体にすべり止め部13aが設けられたものである。すべり止め部13aは、接触する部分との間ですべり止めを行う。つまり、被包材13の表裏両面が接する前記クッション材12との間、車椅子21のシート22との間、着座する人体との間ですべり止めがなされる。
【0020】
このすべり止め部13aは、図4(a)に示したように、被包材13を構成する生地13bの表裏両面を、たとえばアクリル等のすべり止め作用を呈する適宜の合成樹脂等14でコーティングする方法、図4(b)に示したように、被包材13を構成する生地13bを織る糸13cに、たとえばアクリル等のすべり止め作用を呈する適宜の合成樹脂等14を練り込んだものを使用する方法、図4(c)に示したように、被包材13を構成する生地13bを織る一部の糸13dに、たとえばアクリル等のすべり止め作用を呈する適宜の合成樹脂等14からなるモノフィラメントを用いる方法などを採用できる。
【0021】
被包部13は、部分的に設けられるものであるもよい。
また、被包部13の全体又は一部を図5に示したように、メッシュ状のすべり止め部13aで構成することもできる。このメッシュ状のすべり止め部13aは、メッシュ状に編織されたメッシュ基材13eの表面全体に、たとえばアクリル等のすべり止め作用を呈する適宜の合成樹脂等14をコーティングして構成される。また、図5に示したように、メッシュ基材13eの結節部分には、その合成樹脂等からなる多数の突部13fが一体形成されて、すべり止め等の効果を高めている。
【0022】
そして、車椅子21のシート22に対する取り付けのための手段として、図1に示したように3種類の固定手段が設けられている。
【0023】
前述のようにシートカバー11が、シート22の座部22aと背もたれ部22bの表面全体を覆う形状であるので、シート22の背もたれ部22bに対応するカバー背もたれ部11bの上端部と、シート22の座部22aに対応するカバー座部11aとカバー背もたれ部11bとの間の中間部と、カバー座部11aの下端部とに、それぞれ、上端固定手段15、中間固定手段16、下端固定手段17が設けられている。
【0024】
上端固定手段15は、車椅子21のハンドル23の上端部に固定しやすいように、シートカバー11の長さ方向に延びるものと幅方向に延びるものからなる2本一組の平紐15a,15bを左右両端部に固定して構成される。
【0025】
中間固定手段16は、一端に係合雌部16aを有し、他端側に位置移動可能な係合雄部16bを有する平紐16cで構成され、この平紐16の長さ方向中間部が、シートカバー11の表面に対してシートカバー11の幅方向に延びるように固定されている。係合雌部16aと係合雄部16bは合成樹脂製で周知の構造であり、車椅子21のシート22の後ろ側に回して係合雌部16aと係合雄部16bを抜き差しするだけで簡単に着脱できるものである。また、係合雌部16aと係合雄部16bは平紐16cの長さ方向において係合する構造であり、面ファスナを用いて係合した場合に比して外れることのない強固な固定ができるものである。
【0026】
下端固定手段17は、中間固定手段16と同様に構成され、平紐17cがシートカバー11に固定されている。ただし、固定はシートカバー11の裏面になされる。中間固定手段16と同様に、車椅子21のシート22の座部22aの裏面側に回して係合雌部17aと係合雄部17bを抜き差しするだけで簡単に着脱できる。
【0027】
前記上端固定手段15は、シートカバー11のずり下がりを防止し、中間固定手段16はシートカバー11のカバー座部11aの位置を保持し、下端固定手段17は、シートカバー11のカバー座部11aが捲れ上がるのを防止する。中間固定手段16はシートカバー11の表面に固定されているので、シートカバー11がいたずらに変形することがなく、カバー座部11aの位置は確実に保持される。
【0028】
以上のように構成されたシートカバー11は、図6に示したようにシート22に取り付けて使用される。シートカバー11の上端固定手段15を車椅子21のハンドル23に縛り付けるとともに、中間固定手段16と下端固定手段17をシート22の裏側に回して、それぞれの両端を係合して環にする。
【0029】
人体Aが着座すると、シートカバー11は人体Aを弾力的に支える。そして、表裏両面の全体にすべり止め部13aが形成された被包材13(図3参照)によって、シート22の座部22a及び背もたれ部22bとクッション材12、クッション材12と人体Aとの間ですべり止めがなされる。
【0030】
すなわち、着座している人体Aの背中部分と臀部において仮想線の矢印で示したように下(または前)に下がる力がかかると、その力がクッション材12の表面に伝わり、クッション材12は弾力的に力を支えながら、下に下がろうとする力に抗して弾性復帰しようとする。このとき、クッション材12の裏面側では、実線の矢印で示したように下(または前)に向けての力がかかろうとするが、シート22の背もたれ部22bと座部22aとの間のすべり止め作用によって、その力を相殺する力が生まれる。この結果、人体Aのずり落ちもカバーシート11のずり落ちも防止できる。しかも、このようなずり落ち防止は、少なくとも人体Aの背中側の部分と臀部との大きく2箇所で行われるので、臀部のみでずり落ち防止を図る場合に比して、効果が高い。
【0031】
その上、クッション材12が弾力的に負荷を支えるので、人体Aの動きは許容され、人体Aが拘束されるようなことはない。
【0032】
このため、着座時における自由さを有しながらも、シート22からの人体Aずり落ち防止を防止することができる。
【0033】
また、姿勢を保持する作用も有するので、自らの体を支えにくい患者の使用にも適する。
【0034】
この発明の構成と、前述の一形態の構成との対応において、
この発明の固定手段は、前記上端固定手段15、中間固定手段16、下端固定手段17に対応するも、
この発明は、前述の構成のみに限定されるものではなく、その他の形態を採用することもできる。
【0035】
たとえば、下端固定手段17を省略するもよい。
【0036】
また、シートカバー11のカバー背もたれ部11bは、シート22の背もたれ部22bの表面全体を覆う大きさでなくとも、腰が当たる大きさであれば、人体Aの腰と臀部のずれを防止できるので効果がある。また、シートの種類によっては、カバー背もたれ部11bを省略することも可能である。
【0037】
さらに、シートカバー11は、車椅子のほか、たとえば一般的な事務用の椅子などに使用することもできる。前述のように姿勢を保つ作用も有するので、特に、子ども用椅子やチャイルドシートなどに使用するとよい。
【符号の説明】
【0038】
11…シートカバー
12…クッション材
13…被包材
13a…すべり止め部
15…上端固定手段
16…中間固定手段
22…シート
22a…座部
22b…背もたれ部
A…人体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体が着座するシートの表面に取り付けられるシートカバーであって、
内部に収納されるシート状のクッション材と、該クッション材を被包する被包材を有し、
該被包材の表裏両面に、接触する部分との間ですべり止めを行うすべり止め部が設けられた
シートカバー。
【請求項2】
前記被包材がメッシュ状に形成された
請求項1に記載のシートカバー。
【請求項3】
前記すべり止め部が全面に設けられた
請求項1または請求項2に記載のシートカバー。
【請求項4】
当該シートカバーが、前記シートの座部と背もたれ部の表面に載置可能な形状に形成された
請求項1から請求項3のうちのいずれか一項に記載のシートカバー。
【請求項5】
前記背もたれ部の上端部に対応する位置と、前記座部と背もたれ部の間の部位に対応する位置に、シートに対して固定する固定手段が設けられた
請求項4に記載のシートカバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−246593(P2010−246593A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96062(P2009−96062)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(502020168)ユーバ産業株式会社 (11)
【出願人】(509104207)株式会社ウェルファン (1)