説明

シート送りシャフト

【課題】金属製丸棒周面への塑性加工により突起を形成する際に、突起形状を改良して用紙の特性が変わった場合においても、正確な位置に用紙を保持しながら目的の方向へ正確に送給できるシート送りシャフトを提供する。
【解決手段】送りローラとの間にシートを挾んで相対向する金属製丸棒の円周面上で回転方向に立ち上がる複数の突起を塑性加工によって形成させてなるシート送りシャフトにおいて、上記突起が金属製丸棒周面の対向するニ箇所に目打ち加工工具によって一対をなして形成されると共に互いに立ち上り方向が相反する複数のスパイク状の突起からなり、前記加工工具の方向から見た突起形状の頂角が70度から120度となるように形成し、更に互いに立ち上り方向が相反する複数の突起を円周方向と軸方向とに沿って列設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、印刷機器や事務機用プリンタなどの紙送りや、オーバヘッドプロジェクタなどで使用するフィルムなどのシートの送り出し等を行うのに利用するシート送りシャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、事務機用プリンタなどの紙送りには、送りローラとの間にシートを挾み、これに対向する金属製丸棒の円周面上で、回転方向に立ち上がる複数の突起を塑性加工によって形成したシート送りシャフトが用いられてきた。
【0003】
そして、この突起の形状としては、加工工具の方向から見た時の突起の頂角は、高さが30〜200μmの突起を形成するときには38〜60度未満程度の角度でそれぞれ形成していた。このような突起の高さであれば、紙送りの際のスリップによる送りムラが生じ難く、効率的に紙送りが行えた。
【0004】
具体的には、例えば特開平10―109777号公報に、突起形状ならびにその加工方法が詳細に開示されている。このようなシャフトによれば、紙送りの際のスリップなどが少なく紙送りムラが目立たないため、多色刷りプリンタ用のローラとして利用されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10―109777号公報(図8参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年における印刷機器や事務機用プリンタなどのプリント速度が高速化したことによって、プリント用紙にかかる紙送り力および送りローラからシート送りシャフトに加えられる圧接力が大きくなり、さらにはプリント用紙の低価格化が要求されるようになったため、プリント用紙自体の特性に変化が生じている。
【0007】
具体的には、用紙のプリント面ではない裏面に表面加工処理がされていない製品や柔軟性をもたせるようにした製品などがあり、このような用紙では紙厚方向の強度が弱く、突起が用紙に食い込み易くなる。そのために用紙を送り出す際の突起の食い込みと、用紙を戻す際の突起の食い込みとに差が生じる。
【0008】
ところで、所定の用紙にカラープリントを行う際には、主に液体のカラーインクの微粒を用紙に飛ばすカラーインクジェット方式と、カラーインクリボンを熱で気化(昇華)して紙に定着させる昇華型、さらにはカラートナーを使うカラーレーザー方式の3種類がある。
【0009】
その中でも、パソコンを使わなくてもデジタルビデオプリンタだけで印刷できることや、デジタルカメラ、テレビ画像の静止画などを簡単にフルカラー印刷できること、シールプリントなどもできることなどから、昇華型印刷方式を採用したプリンタが多い。
【0010】
昇華型印刷方式を採用したプリンタにおいては、カラーインクリボンを昇華させて紙に定着させるものであるが、インクリボンの三色をカラー信号に対応して積層させ、所定の発色を得るものである。この場合に三色の積層位置において位置ずれを生じると完全な発色が得られない。そのため他の方式に比べて用紙の位置ずれ許容量を厳しく管理して制御しなければならない。
【0011】
即ち、用紙を前後に送り出しあるいは引き戻す動作が繰り返し行われ、その都度印刷画像信号に対応する位置で、インクリボンの三色をカラー信号に対応して同一積層させるのである。このときに位置ずれを生じさせると、色彩の滲みやボケとなって良質な画像が得られない。
【0012】
また、カラーインクジェット方式の場合には、インクジェットヘッドからインク粒が用紙に吐出されるが、精細なカラー印刷のためには、インク粒を微細にして用紙を送り出しながら、その都度印刷画像信号に対応するインクジェットヘッドの位置でインク粒が吐出される。その場合に突起が用紙に食い込むことによって、スリップ等による給送ムラ等を生じさせることなく、送りを精細確実にしている。
【0013】
しかし、用紙の先端部分と終端部分とでは用紙にかかる負荷が異なる場合があり、突起が用紙に食い込む量が変化する虞がある。具体的には、用紙を複数枚セットして連続印刷するような場合に、用紙の負荷が直接用紙にかかることによって、用紙の先端部分と終端部分あるいは複数枚のうちの初期の用紙と終了時の用紙との間などで用紙にかかる負荷が異なる場合がある。特に、昇華型印刷方式を採用したプリンタにおいては、印刷する場合にはヘッドからの圧力が用紙に負荷として掛かるが、引き戻す場合にはこの負荷が掛からない。そのために、突起が用紙に食い込む量が変化し、紙送りローラの半径が実質的に変化するような現象となって紙送り量に差が生じ、結果として「用紙の送りズレ」となって現われる。
【0014】
このような状況下において、従来のシート送りシャフトでは、紙送りエラーが生じるため、印刷ズレによって「ボケ」画像になってしまい、好ましくない製品となり易い。
【0015】
この発明は、前記のような課題を解決するものであり、金属製丸棒周面への塑性加工により突起を形成する際に、突起形状を改良して用紙の特性が変わった場合においても、正確な位置に用紙を保持しながら目的の方向へ正確に給送できるシート送りシャフトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するため、本発明によれば、送りローラとの間にシートを挾んで相対向する金属製丸棒の円周面上で回転方向に立ち上がる複数の突起を塑性加工によって形成してなるシート送りシャフトにおいて、上記突起が金属製丸棒周面の対向するニ箇所に目打ち加工工具によって一対をなして形成されると共に互いに立ち上り方向が相反する複数のスパイク状の突起からなり、前記加工工具の方向から見た突起形状の頂角が70度から120度となるように形成し、更に互いに立ち上り方向が相反する複数の突起を円周方向と軸方向とに沿って列設したことを特徴とするシート送りシャフトを提供できる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の発明によれば、前記加工工具の方向から見た突起形状の頂角が70度から120度となるように形成し、用紙を送り出す際の用紙の進み量と、用紙を引き戻す際の用紙の戻り量とに差を生じさせないようにして、用紙の特性が変わった場合においても正確な位置に用紙を保持しながら、正確なインクの積層または吐出が可能なシート送りシャフトを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の実施の一形態によるシート送りシャフトを有する紙送り装置を示す要部の斜視図である。
【図2】図1におけるシート送りシャフトを拡大して示す斜視図である。
【図3】図1における突起形状を拡大して示す斜視図である。
【図4】突起が用紙に食い込んだ様子を示す断面図である。
【図5】図4における突起を目打ち部材の方向から見た図である。
【図6】この発明の紙送り量を測定する方法の概念を示す側面図である。
【図7】この発明の紙送りを測定した突起の痕跡の平面図である。
【図8】この発明の実施の一形態によるシート送りシャフトを製造する装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施の一形態を図面に基づいて説明する。図1は、この発明のシート送りシャフトを有する紙送り装置要部の斜視図であり、同図において、金属製丸棒1からなるシート送りシャフトSは、硬質ゴムの送りローラ2との間に給紙するための用紙3を挟み、このシート送りシャフトSが矢印方向へ回転することによって用紙3が矢印方向へ送られる。
【0020】
また、金属製丸棒1には、図2に拡大して示すように、全長を三つの領域に分けた円周上に、該金属製丸棒1の回転方向に鈍角で立ち上がる複数のスパイク状の突起A,Bが塑性加工によって、円周方向および軸方向に沿って形成されている。
【0021】
即ち、本発明に係るシート送りシャフトSは、上記突起A,Bが金属製丸棒1周面の対向するニ箇所に、目打ち加工によって一対をなして形成されると共に互いに立ち上り方向が相反する複数のスパイク状の突起からなり、更に互いに立ち上り方向が相反する複数の突起A,Bをそれぞれ円周方向と軸方向とに沿って列設して形成する。
【0022】
そして、各突起A,Bは、図3および図4に示すように、図8に示す従来の方法である目打ち切刃によって、金属製丸棒1の回転方向に鈍角に立ち上がるスパイク状に形成されている。しかも、目打ち切刃による加工方向から見た場合に、図5に示すように突起形状の頂角θが70度以上120度以下となるように互いに相反方向に形成される。そして、円周面上で円周方向に隣り合う突起A,B同士は、図3のように立ち上がり方向が互いに逆方向となる。
【0023】
即ち、円周面上で円周方向に列設した突起A,Bを軸方向に沿って複数列設け、それぞれ軸方向に隣り合う列の突起A,Bの立ち上り方向が互いに相反している。また、軸方向に隣り合う列の突起A,Bが軸方向に沿って半ピッチずれながら隣り合って交互に配置されている。
【0024】
ここで、頂角θが70度以上120度以下となるように突起を形成しているのは、例えば用紙のプリント面ではない裏面に表面加工処理がされていない製品などでは、用紙を送り出す際の突起の食い込みと、用紙を戻す際の突起の食い込みとに差が生じることに対応させたものである。即ち、従来のようにこの角度を60度未満となるように突起を形成すると、突起が用紙に比較的弱い力でも突き刺さるため、用紙を送り出す際の突起の食い込み量と、用紙を戻す際の突起の食い込み量とに差が生じ易くなる。
【0025】
具体的には、用紙に負荷が掛からない方向では食い込み量が少ないが、負荷がかかる方向に引っ張る場合には食い込み量が多くなって、シート送りシャフトの直径が見掛け上小さくなったように作用して紙送り量が減少する。即ち、図4において、円弧aで示すように用紙に負荷が掛からない方向では食い込み量が少ないが、円弧bで示すように用紙に負荷がかかる方向に引っ張る場合には食い込み量が多くなって、シート送りシャフトの直径DがDaからDbに変化し、見掛け上小さくなったように作用して紙送り量が減少する。その結果、用紙を送り出す際の用紙の進み量と、用紙を引き戻す際の用紙の戻り量とに差が生じることになり、正確な位置でのインクの積層または吐出がなされないこととなる。
【0026】
そこで、発明者はこの点に注目して、用紙を送り出す際の突起の食い込み量と用紙を戻す際の突起の食い込み量とに差が生じ難いような突起形状を追及し、好ましい突起の頂角として目打ち切刃による加工方向から見た場合に、突起形状の頂角が70度以上120度以下となる数値が妥当であることを見出すに至った。
【0027】
即ち、頂角が70度であれば従来の60度未満の場合に比べて、用紙に突き刺さり難くなる一方で120度を超えると、軸方向に形成される隣の突起と干渉して、単位面積当たりの突起数が減少することとなり、その結果用紙を送り出したり引き戻したりする搬送力が減少して好ましくない。
【0028】
ところで、発明者が試行錯誤の結果このような結論に至った経緯について、実験に用いた装置の概略を示す図面に基づいて詳細に説明する。図6は用紙3を加圧する送りローラ2と、シート送りシャフトSとを有する紙送り装置の要部を模式的に示すものである。ここで、用紙3と錘Fとは適宜用紙を取り変えて測定が可能なように、取り付け具4によって取り外しができる。そして、用紙3を送り出したり引き戻したりする場合に、用紙3にかかる負荷Fが変化したときに、シャフトSの突起が用紙に食い込む量を測定する方法を原理的に示している。
【0029】
即ち、送りローラ2に常時一定の圧力Pを加えておき、用紙3にかかる負荷に相当する錘Fを変化させて、シャフトSを矢印A方向に回転させて用紙3を左方向Bへ送り出す。この場合に送りローラ2は用紙3を介して矢印C方向に旋回する。次に、用紙3を別のものに取り変えて錘Fの重さを変えたあと、同様にシャフトSを矢印A方向に回転させて用紙3を左方向Bへ送り出す。
【0030】
このようにして得られた用紙3には、突起A、Bが食い込んだ痕跡が残されているので、この痕跡の間隔(距離)Lを測定すれば、用紙3が突起A、Bに食い込んだ深さを、図4に示す状態から想定することができる。図7に示すのは、用紙3に突起A、Bが食い込んだ痕跡の様子である。突起Aは順方向、突起Bは逆方向のものとして、それぞれの突起の痕跡形状を表している。この突起列の痕跡の間隔Lを測定すれば良い。
【0031】
つまり、図4において、円弧aの深さまで用紙が食い込んだとすれば、用紙3は直径Daの円筒に沿って搬送され、直径Daの円筒周の突起ピッチで痕跡が測定される。一方、円弧bの深さまで用紙が食い込んだとすれば、用紙3は直径Dbの円筒に沿って搬送され、直径Dbの円筒周の突起ピッチで痕跡が測定される。
【0032】
このようにして測定された痕跡の間隔Lが、錘Fを変化させた場合においても変動が所定の限界内であれば、用紙3の「送りムラ」を許容できると判断しても良いことになる。具体的には、錘Fとして1,0k〜1,8Kgくらいが想定されるが、これを変化させて錘Fに対応する間隔Lと錘Fに対応する間隔Lとの差δLが10μm以内であれば、プリントされた画像の価値判断において許容できると判断したものである。
【0033】
かかる構成になるシート送りシャフトでは、金属製丸棒1の外周に形成された突起A,Bの先端が目打ち切刃による加工方向から見た場合に、突起の頂角が70度以上120度以下となるように形成され鋭利に尖っていることと合わせて、金属製丸棒1のいずれの回転方向にあっても、前述の問題となる印刷用紙や比較的柔軟な印刷用紙などいずれをも確実に引っ掛けて、送りローラ2との相互作用によりスムースに規定方向および規定位置へ、許容できる範囲内で正しく送り出すことができる。従って、これを多色刷りのカラー印刷などに利用すれば、半永久的に特定の用紙やフィルムに変形が生じることがなく、色ずれが目立たない美しい色の多色印刷を実現可能にする。
【0034】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で適宜実施形態を変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 金属製丸棒
2 送りローラ
3 用紙
S シャフト
F 錘
A,B 突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送りローラとの間にシートを挾んで相対向する金属製丸棒の円周面上で回転方向に立ち上がる複数の突起を塑性加工によって形成させてなるシート送りシャフトにおいて、
上記突起が金属製丸棒周面の対向するニ箇所に目打ち加工工具によって一対をなして形成されると共に互いに立ち上り方向が相反する複数のスパイク状の突起からなり、前記加工工具の方向から見た突起形状の頂角が70度以上120度以下となるように形成し、更に互いに立ち上り方向が相反する複数の突起を円周方向と軸方向とに沿って列設したことを特徴とするシート送りシャフト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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