説明

ジアミン化合物

【目的】 電子写真用感光体の感光層の光導電性材料として有用かつ新規なジアミン化合物を提供する。
【構成】 下記化1で表わされるジアミン化合物。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、電子写真用の有機光導電性材料として有用な新規ジアミン化合物に関する。
【0002】
【従来技術】従来、電子写真方式において使用される感光体の有機光導電性素材としてポリ−N−ビニルカルバゾールをはじめ数多くの材料が提案されている。ここにいう「電子写真方式」とは、一般に、光導電性の感光体をまず暗所で、例えばコロナ放電などによって帯電せしめ、次いで画像露光し、露光部のみの電荷を選択的に放電せしめて静電潜像を得、この潜像部をトナーなどを用いて現像し可視化して画像を形成するようにした画像形成方法の一つである。
【0003】このような電子写真法において感光体に要求される基本的な特性としては、(1)暗所で適当な電位に帯電できること、(2)暗所において電荷の放電が少ないこと、(3)光照射によって速やかに電荷を放電せしめうることなどが挙げられる。しかし、従来の光導電性有機材料はそれらの要求をかならずしも満足していないのが実状である。
【0004】一方、セレンや酸化亜鉛は光導電性無機材料として知られており、中でもセレンは広く実用に供されている。しかし、最近電子写真のプロセスの点から、感光体に対する種々の要求、即ち一例として前述の基本的電子写真特性に加えて、例えばその形状についても可撓性のあるベルト状の感光体などが要求されるようになってきている。しかし、セレンの場合は一般にこのような形状のものに作成することは困難である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、先に述べた従来の感光体のもつ種々の欠点を解消し、電子写真方式において要求される基本的な電子写真特性を全て満足し、しかも可撓性にも優れた光導電性材料として有用な新規ジアミン化合物を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、下記化1で表わされるジアミン化合物が提供される。
【化1】


【0007】本発明の化1で表わされるジアミン化合物は、新規化合物であり、このものは一般的に相当するアミノ化合物のN−アルキル置換反応またはN−アリール置換反応とN−ピレニル置換反応との組み合わせにより合成される。アルキル化、アリール化、ピレニル化反応には一般的に相当するハライドが用いられ、アリール化反応はUllmann反応によるのが一般的な方法である。
【0008】例えば、下記化2
【化2】


で表わされるジアミン化合物のN,N′−ジアセチル体に、下記化3
【化3】R11〔式中、R1は置換はたは無置換のアルキル基、またはアリール基、Z1は塩素原子、臭素原子または沃素原子、をそれぞれ表わす。〕で表わされるハライドを作用させてN,N′−二置換反応を行ない、縮合生成物を加水分解後、更に下記化4
【化4】


〔式中、R2は水素原子、アルキル基、アルコキシ基、nは1または2の整数Z2は臭素原子または沃素原子をそれぞれ表わす。〕で表わされるピレニルハライドをU11mann反応により縮合して、前記化1で表わされる本発明のジアミン化合物を得る。或いは前記化2で表わされるジアミン化合物のN,N′−ジアセチル体に、前記化4で表わされるピレニルハライドとの縮合反応を先に行ない、次いで前記化2で表わされるハライドとの縮合反応を行ない、同様に前記化1で表わされる本発明のジアミン化合物を得る。
【0009】前記化3で表わされるハライドのR1がアルキル基である場合は、前記化2で表わされるジアミン化合物を脱酸剤兼用とするか、より塩基性の強い有機アミン、炭酸水素ナトリウムや、炭酸水素カリウム、或いは炭酸ナトリウム、炭酸カリウムを脱酸剤として用いて、ピリジンや、アセトン、THF、メタノール、エタノール等の極性溶媒中、或いは無溶媒下、N,N′−二置換反応を行なう。
【0010】一方、前記化3で表わされるアリールハライドや前記化4で表わされるピレニルハライドによるU11mann反応を行なう場合は、溶媒としてはN,N−ジメチルホルムアミド、ニトロベンゼン、ジメチルスルホキシド、ジクロロベンゼン等が用いられる。脱酸剤としての塩基性化合物には炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水素化ナトリウム等が用いられる。反応温度は通常、160〜250℃であり、溶媒の存在下あるいは無溶媒下で反応させる。更に反応性の悪い場合にはオートクレーブ等を用いてより高温反応を行なっても良い。又、通常、銅粉あるいは酸化銅やハロゲン化銅のような触媒を加えて反応を行なった方が有利な場合もある。
【0011】このようにして得られた本発明の新規なジアミン化合物を次の表1に例示する。
【表1−(1)】


【表1−(2)】


【表1−(3)】


【表1−(4)】


【表1−(5)】


【表1−(6)】


【表1−(7)】


【表1−(8)】


【表1−(9)】


【0012】本発明で得られた新規なジアミン化合物は電子写真用感光体に於ける光導電性素材として極めて有用であり、染料やルイス酸などの増感剤によって光学的あるいは化学的に増感される。更にこのものは、有機顔料あるいは無機顔料を電荷発生物質とするいわゆる機能分離型感光体に於ける電荷搬送物質としてとりわけ有用である。
【0013】上記増感剤としては、例えば、メチルバイオレット、クリスタルバイオレット等のトリアリールメタン染料、ローズベンガル、エリスロシン、ローダミン等のキサンチン染料、メチレンブルー等のチアジン染料、2,4,7−トリニトロ−9−フルオレノン、2,4−ジニトロ−9−フルオレノン等が挙げられる。
【0014】また有機顔料としてはシーアイピグメントブルー25(CI No.21180)、シーアイピグメントレッド41(CI No.21200)、シーアイピグメントレッド3(CI No.45210)等のアゾ系顔料、シーアイピグメントブルー16(CI No.74100)等のフタロシアニン系顔料、シーアイバットブラウン5(CI No.73410)、シーアイバットダイ(CINo.73030)等のインジゴ系顔料、アルゴスカーレットB、インダンスレンスカーレットR等のペリレン系顔料が挙げられる。又、セレン、セレン−テルル、硫化カドミウム、α−シリコン等の無機顔料も使用できる。
【0015】
【実施例】以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
実施例1m−フェニレンジアミン64.9g(0.60モル)を氷酢酸150mlに溶解し、室温で無水酢酸135g(1.32モル)を滴下して60℃で1時間反応させた。反応終了後、水600mlを注加して析出した結晶を濾過、水洗、乾燥した。ジアセチル体が109.6g(収率:95.0%)得られた。融点は189.5〜190.5℃であった。νc=0.1660cm-1(測定機器;日本分光工業(株)製、赤外分光光度計、IR−700型、測定法;KBr錠剤法)。次にN,N′−ジアセチル−m−フェニレンジアミン10g(0.052モル)、o−メチルヨードベンゼン26.8g(0.12モル)、無水炭酸カリウム25.2g(0.18モル)、Cu粉1.65g(0.026モル)とニトロベンゼン10mlを混合し190〜210℃で8時間反応させた。放冷後、イソアミルアルコール80ml及び水20mlに96%KOH12.3g(0.21モル)を溶解した水溶液を注加し125℃で5時間加水分解させた。水蒸気蒸留によりイソアミルアルコールを留去後、トルエン200mlで抽出し、不溶分を濾別除去後、水洗、乾燥し、濃縮した。得られた結晶をメタノールで洗浄、乾燥してN,N′−ビス(o−トリル)−m−フェニレンジアミン8.3g(55.3%)を得た。更に、N,N′−ビス(o−トリル)−m−フェニレンジアミン6.0g(0.021モル)、1−ヨードピレン15.1g(0.046モル)、無水炭酸カリウム10.8g(0.078モル)、Cu粉1.3g(0.02モル)、ニトロベンゼン20mlを混合し、200〜210℃で24時間反応させた。反応終了後、トルエン200mlを加え溶解、不溶物を濾別して水洗し濃縮乾固した。得られた結晶をカラム精製して(担体;シリカゲル、溶離液;トルエン/ヘキサン=1/2)、N,N′−ジ(1−ピレニル)−N,N′−ビス(o−トリル)−m−フェニレンジアミン7.9g(収率;54.6%)を得た。融点は263.5〜264.5℃であった。元素分析値はC52362として下記表2の通りであった。
【表2】


赤外線吸収スペントル(KBr錠剤法)を図1に示した。
【0016】実施例2実施例1で得られたN,N′−ジアセチル−m−フェニレンジアミン10g(0.052モル)、o−メトキシヨードベンゼン29.2g(0.11モル)、無水炭酸カリウム25.2g(0.18モル)、Cu粉1.65g(0.026モル)とニトロベンゼン10mlを混合し180〜200℃で10時間反応させた。放冷後、イソアミルアルコール80ml及び水20mlに96%KOH12.3g(0.21モル)を溶解した水溶液を注加し125℃で5時間加水分解させた。水蒸気蒸留によりイソアミルアルコールを留去後、トルエン200mlで抽出し、不溶分を濾別除去後、水洗、乾燥し、濃縮した。得られた結晶をメタノールで洗浄、乾燥してN,N′−ビス(o−メトキシフェニル)−m−フェニレンジアミン9.3g(収率;58.0%)を得た。更に、N,N′−ビス(o−メトキシフェニル)−m−フェニレンジアミン6.9g(0.021モル)、1−ヨードピレン15.1g(0.046モル)、無水炭酸カリウム10.8g/(0.078モル)、Cu粉1.3g(0.02モル)、ニトロベンゼン20mlを混合して200〜210℃で24時間反応させた。反応終了後、トルエン200mlを加え溶解、不溶物を濾別して水洗し濃縮乾固した。得られた結晶をカラム精製して(担体;シリカゲル、溶離物;トルエン/ヘキサン=2/1)、N,N′−ビス(o−メトキシフェニル)−N,N′−ジ(1−ピレニル)−m−フェニレンジアミン7.1g(収率;46.9%)を得た。融点は244.0〜245.0℃であった。元素分析値はC523622として下記表3の通りであった。
【表3】


【0017】実施例3実施例1で得られたN,N′−ジアセチル−m−フェニレンジアミン10g(0.052モル)、3,4−ジメチルブロモベンゼン21.2g(0.11モル)、無水炭酸カリウム25.2g(0.18モル)、Cu粉1.65g(0.026モル)とニトロベンゼン10mlを混合し、180〜190℃で20時間反応させた。放冷後、イソアミルアルコール80ml及び水20mlに96%KOH12.3g(10.21モル)を溶解した水溶液を注加し125℃で8時間加水分解させた。水蒸気蒸留によりイソアミルアルコールを留去後、トルエン200mlで抽出し、不溶分を濾別除去後、水洗、乾燥し、濃縮した。得られた結晶をメタノールで洗浄、乾燥してN,N′−ビス(3,4−ジメチルフェニル)−m−フェニレンジアミン10.7g(収率;64.8%)を得た。更に、N,N′−ビス(3,4−ジメチルフェニル)−m−フェニレンジアミン8.0g(0.025モル)、1−ヨードピレン18.0g(0.055モル)、無水炭酸カリウム15.0g(0.108モル)、Cu粉1.6g(0.025モル)、ニトロベンゼン20mlを混合し180〜200℃で15時間反応させた。反応終了後、トルエン200mlを加え溶解、不溶物を濾別して水洗し、濃縮乾固した。得られた結晶をカラム精製して(担体;シリカゲル、溶離液;トルエン/ヘキサン=1/2)、N,N′−ビス(3,4−ジメチルフェニル)−N,N′−ジ(1−ピレニル)−m−フェニレンジアミン8.6g(収率;48.0%)を得た。融点は243.0〜245.0℃であった。元素分析値はC54402として下記の表4の通りであった。
【表4】


【0018】実施例4,5実施例1で用いたo−メチルヨードベンゼンの代りにm−メチル−ヨードベンゼンあるいはp−メチルヨードベンゼンを用いた他は実施例1と同様に行なって、N,N′−ジ(1−ピレニル)−N,N′−ビス(m−トリル)−m−フェニレンジアミンあるいはN,N′−ジ(1−ピレニル)−N,N′−ビス(p−トリル)−m−フェニレンジアミンを得た。結果を表5にまとめて示した。
【0019】実施例6,7実施例2で用いたo−メトキシヨードベンゼンの代りにm−メトキシヨードベンゼンあるいはp−メトキシヨードベンゼンを用いた他は実施例2と同様に行って、N,N′−ビス(m−メトキシフェニル)−N,N′−ジ(1−ピレニル)−m−フェニレンジアミンあるいはN,N′−ビス(p−メトキシフェニル)−N,N′−ジ(1−ピレニル)−m−フェニレンジアミンを得た。結果を表5にまとめて示した。
【0020】実施例8実施例3で用いた3,4−ジメチルブロモベンゼン21.2gの代りに3,4−ジメトキシブロモベンゼン23.9gを用いた他は実施例3と同様に行ってN,N′−ビス(3,4−ジメトキシフェニル)−N,N′−ジ(1−ピレニル)−m−フェニレンジアミンを得た。結果を表5にまとめて示した。
【0021】実施例9〜13上述実施例1と同様にして、表5に示す化合物を得た。
【0022】
【表5−(1)】


【表5−(2)】


【0023】実施例14〜26また、上述の実施例と同様にして表6に示す化合物を得た。
【表6−(1)】


【表6−(2)】


【0024】
【発明の効果】本発明の前記化1で表わされる新規なジアミン化合物は、光導電性材料として有効に機能し、また染料やルイス酸等の増感剤によって、光学的あるいは化学的に増加されることから、電子写真用感光体の感光層の電荷搬送物質等として好適に使用され、特に電荷発生層と電荷搬送層を二層区分した、所謂機能分離型感光層における電荷搬送物質として有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のジアミン化合物である、N,N′−ジ(1−ピレニル)−N,N′−ビス(o−トリル)−m−フェニレンジアミンの赤外吸収スペクトル(KBr錠剤法)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記化1で表わされるジアミン化合物
【化1】


【図1】
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