説明

ジクロロキナクリドン顔料の製造方法

【課題】従来技術よりも廃溶剤処理或いは回収再利用の負荷が軽くて環境に優しい、黄味の赤色で透明なジクロロキナクリドン顔料の製造方法を提供する。
【解決手段】純度96%以上の2,5−ジ−(3−クロロアニリノ)テレフタル酸を、無水リン酸含有量が85質量%以上のポリリン酸中で環化し加水分解した後、濾過して固形分を水中で加熱することを特徴とする黄味の赤色で透明なジクロロキナクリドン顔料の製造方法。特徴的な色相及び高透明性の点から、例えば印刷インキ、塗料、プラスチック成型品、インクジェット用色素、静電荷現像用トナー、液晶カラーフィルター等の着色に使用することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃溶剤処理或いは回収再利用の負荷が軽くて環境に優しい、黄味の赤色で透明なジクロロキナクリドン顔料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
C.I.Pigment Red 209の様な赤色ジクロロキナクリドン顔料はよく知られている。この様なジクロロキナクリドン顔料は、2,5−ジ−(3−クロロアニリノ)テレフタル酸等をポリ燐酸中で環化し、加水分解してジクロロキナクリドン化合物(粗顔料)となした後、それを有機溶剤中で加熱する等の、着色剤として使用できる様に仕上げ処理を行うことで製造されている(特許文献1参照)。
【0003】
環化のための中間体として用いられるジ(クロロアニリノ)テレフタル酸には、C.I.Pigment Red 209の主な中間体である2,5−ジ−(3−クロロアニリノ)テレフタル酸以外に、幾つかの化学構造が類似した化合物が比較的多量に含有される場合があり、この様な類似化合物を含有する中間体混合物から、公知の製造方法に従って調製したジクロロキナクリドン化合物は、青味の赤色であった。
【0004】
また、ジクロロキナクリドン化合物は、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン等の極性有機溶剤中で加熱撹拌することで、結晶粒子径やその形状を調整する仕上げ処理を行って、ジクロロキナクリドン顔料とされる。しかしながら、この方法では、主として不透明な青味の赤色顔料となってしまう。目的とする黄味の赤色で透明な顔料に仕上げる方法も理論上はあり得るが、条件設定には過多な試行錯誤が要求される。
【0005】
また、この仕上げ処理は、前記した様な極性有機溶剤が大量に必要であり、廃溶剤処理或いは回収再利用という手間のかかるため、環境に優しい仕上げ処理が求められている。
【0006】
この様に、従来の製造方法で得られるジクロロキナクリドン顔料は、青味の赤色で不透明であり、結局、廃溶剤処理或いは回収再利用の負荷が軽くて環境に優しい、黄味の赤色で透明なジクロロキナクリドン顔料の製造方法は知られていなかった。
【0007】
【特許文献1】特開2000−38521公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者等は、黄味の赤色で透明なジクロロキナクリドン顔料を、廃溶剤処理或いは回収再利用の負荷が軽くて環境に優しく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、極めて限定された範囲ではあるが、ジクロロキナクリドン顔料の製造方法として、高純度の中間体を用いて、特定濃度以上のポリリン酸中でそれを環化する工程と、有機溶剤を不含か少量だけ含む様な実質的に水中で固形物を加熱する工程を含めることで、前記課題が解決されることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち本発明は、純度96%以上の2,5−ジ−(3−クロロアニリノ)テレフタル酸を、無水リン酸含有量が85質量%以上のポリリン酸中で環化し加水分解した後、濾過して固形分を水中で加熱することを特徴とするジクロロキナクリドン顔料の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法では、精製された中間体を用いて特定濃度以上のポリリン酸中で環化する工程を含むので、目的とする結晶形態のみを有するジクロロキナクリドン化合物が仕上げ処理を待たずに確実に得られる結果、容易に黄味の赤色のジクロロキナクリドン化合物となり、かつ、それに続き、従来用いられていた極性有機溶剤を少量使用或いは不使用にて仕上げ処理を行うので、透明なジクロロキナクリドン顔料を環境に優しく製造できるという格別顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、純度96%以上の2,5−ジ−(3−クロロアニリノ)テレフタル酸を、無水リン酸含有量が85質量%以上のポリリン酸中で環化し加水分解してジクロロキナクリドン化合物を析出する第一工程と、第一工程で得られたジクロロキナクリドン化合物を水中で仕上げ処理してジクロロキナクリドン顔料となす第二工程からなる。
【0013】
本発明の製造方法で得るべきジクロロキナクリドン顔料は、目的とする、黄味の赤色を呈するものである。この様なジクロロキナクリドン顔料は、CuKα線によるX線回折測定において、主にブラッグ角2θ(±0.2°)=5.8°、11.8°、12.9°、24.2°及び26.3°に特定のピークを有する。一方、本発明の製造方法で生成して欲しくないジクロロキナクリドン顔料は、主にブラッグ角2θ(±0.2°)=5.3°、15.0°及び27.7°に特定のピークを有する。従って下記する様に、本発明では、例えば、粗顔料として或いは顔料として、生成して欲しくないジクロロキナクリドンが生成しない様に、環化時の無水リン酸を特定濃度以上となる様に条件選択をしているわけである。
【0014】
本発明で使用できる、2,5−ジ−(3−クロロアニリノ)テレフタル酸は、その純度が96%以上であることが要求される。この2,5−ジ−(3−クロロアニリノ)テレフタル酸の純度は、高速液体クロマトグラフィー測定で得られたクロマトグラムのピーク面積比から容易に算出することができる。例えば、2,5−ジアニリノテレフタル酸、2−アニリノ−5−(3−クロロアニリノ)テレフタル酸等の不純物の合計量が4%を超えて含有された2,5−ジ−(3−クロロアニリノ)テレフタル酸は、これら不純物が環化して生成するキナクリドン化合物(例えば、無置換キナクリドン)によってジクロロキナクリドン顔料の色相は青味化するため、本発明における黄味の赤色顔料の製造方法への適用には不適当である。
【0015】
本発明の第一工程で使用するポリリン酸は、公知慣用の方法で調製すれば良いが、例えば含水リン酸と無水リン酸とから調製することが出来る。具体的には濃度80質量%以上のリン酸に無水リン酸を加えて攪拌することにより調製することが出来る。本発明で用いるポリリン酸の無水リン酸含有量は85質量%以上、特に好ましくは85〜90質量%であり、117〜124質量%のリン酸含有量に相当する。その使用量は質量換算で2,5−ジ−(3−クロロアニリノ)テレフタル酸1部に対して3〜10部である。このポリリン酸濃度は、目的の黄味の赤色顔料を得るためには重要な要因であり、無水リン酸含有量が85質量%以下のポリリン酸で環化したものを加水分解して得られるジクロロキナクリドン化合物には、最終的に目的とする黄味の赤色顔料とは異なる形態の結晶も生成してしまう。この異なる結晶形態の生成は、X線回折測定により特定のピークが現れるブラッグ角から容易に確認出来る。この異なる結晶形態が混在すると、ジクロロキナクリドン顔料の色相は青味の赤色となり、最終目的物である黄味の赤色顔料を得ることが出来ない。
【0016】
2,5−ジ−(3−クロロアニリノ)テレフタル酸を環化反応させるにあたっては、ポリリン酸に2,5−ジ−(3−クロロアニリノ)テレフタル酸を添加し、80〜150℃、特に好ましくは100〜130℃で、反応液を1〜10時間攪拌して行うことで、ジクロロキナクリドン化合物を含有する環化反応液を得ることが出来る。
【0017】
本発明の第一工程における加水分解は、前記方法で得られた環化反応液を、質量換算で環化反応液1部に対して2〜20部相当量の大過剰の水と混合することで行うことが出来る。この混合としては、水の攪拌下に前記環化反応液を添加するのが好ましい。この加水分解は、0〜100℃で0.1〜5時間攪拌することで行うことが出来る。特に好ましくは、10〜50℃で0.1〜2時間である。本発明の製造方法では、加水分解が終了した後、反応液は濾過をしてこの固形分を第二工程に適用する。加水分解によって析出した結晶粒子を濾別することでジクロロキナクリドン化合物のウエットケーキを得ることが出来る。こうして得られる化合物は、そのままでは着色剤としての機能を有さない、低結晶化度の微細で高度に凝集したものであり、粗顔料やクルードとも称される。
【0018】
ジクロロキナクリドン化合物のウエットケーキは、そのまま第二工程に用いても良いが、洗浄してから用いる方が、第一工程で使用したポリリン酸を完全に除去出来る点においてより好ましい。この洗浄は、質量換算でジクロロキナクリドン化合物のウエットケーキの固形分相当量1部に対して、2〜20部相当量の大過剰の水、湯等を用いて1〜5回行うのが好ましい。また、同様に質量換算で2〜20部の水、湯等にこのジクロロキナクリドン化合物のウエットケーキを加えて攪拌を行い濾過することで洗浄することも出来る。
【0019】
尚、ポリリン酸を完全に除去しないまま第二工程を行うことは、例えば、後に塩基等による中和が必要であったり、塩基の別途準備が必要で不経済な上、工程増となるので好ましくない。
【0020】
また、ウエットケーキを乾燥して得たジクロロキナクリドン化合物を第二工程に供してもよいが、第二工程では、第一工程で得られたジクロロキナクリドン化合物を、水中で加熱処理することから、ジクロロキナクリドン化合物は、品質の向上、或いは工程短縮や生産性向上の観点から、通常、水を含んだ状態のウエットケーキのまま第二工程に供される。
【0021】
本発明の第二工程では、第一工程で得られたジクロロキナクリドン化合物を、水中で加熱し、仕上げ処理を行い、ジクロロキナクリドン顔料を得ることを特徴とする。この仕上げ処理は、通常、ジクロロキナクリドン化合物を含有する水を加熱しながら攪拌することで行うことが出来る。
【0022】
第二工程における水の使用量は、質量換算でジクロロキナクリドン化合物のウエットケーキ中の固形分相当量1部に対して、ウエットケーキ中の水も含めて3〜20部である。
【0023】
第二工程における加熱温度は、50〜200℃、特に好ましくは80〜150℃であり、攪拌時間は0.5〜15時間、特に好ましくは2〜10時間である。必要であれば加圧下で加熱処理しても良い。
【0024】
この仕上げ処理では、攪拌翼による攪拌が好適である。また、粉砕メディアの別途準備が不要で経済的な上、粉砕メディアの破砕物のコンタミの混入による顔料品質の低下がないこと、また粘度や耐光性等の用途特性に影響を与える微粒の発生を低減できる点で、ジクロロキナクリドン化合物が粉砕されない様に行うことが好ましい。
【0025】
本発明においては水単独での加熱処理でも顔料を得ることができるが、結晶化度をさらに高めるため、必要に応じて有機溶剤を併用しても良い。有機溶剤としては、結晶成長がより緩慢であり、異結晶の発生防止や粒子径や形状のコントロールが、より容易なものが好ましい。本発明においては、脂肪族アルコール類を含有した水を使用することが好ましい。このとき使用できる脂肪族アルコール類としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール等の炭素原子数が1〜8のモノアルコール類又はジアルコール類が挙げられる。ジメチルホルムアミドやN−メチル−2−ピロリドン等の含窒素有機溶剤は、前記した脂肪族アルコール類に比べて、結晶変化が急峻であり、廃溶剤処理に手間がかかる上、それ自体も高価であるので好ましくない。
【0026】
第二工程で用いる水としては、20質量%以下の脂肪族アルコール類を含有する水を用いることが特に好ましい。水に対する脂肪族アルコール類の含有率は、20%以下とすることで、適度な結晶の制御が可能となり、水単独又は脂肪族アルコール類単独に比べて、異結晶の発生防止や粒子径や形状のコントロールを、より容易とすることが出来る。20%を越えると、異結晶の混入が増し、意図した色相からズレ易い。
【0027】
また、着色媒体に分散したときの分散体の性質をより向上させる目的で、必要に応じて下記式で示されるキナクリドン誘導体から選ばれる少なくとも一種の化合物を、本発明の製造方法における任意の工程において添加することも出来る。その添加時期は、第二工程の加熱処理前後もしくは同時であっても良い。その使用量は質量換算でジクロロキナクリドン化合物1部に対して0.005〜0.1部である。
【0028】
【化1】

【0029】
(式中、Xは水素と置換されたF、Br、I、−OH、−NO 、C 〜C アルキル基、C 〜C アルコキシ基、フェニル基、−COOH、−COO−C 〜C アルキル、−SO H、−SO M、−SO NH 、−SO−NH−(CH−N(CH 、−(SO−NH)−(CH−N(CH 、−N(CH 、−NH 、−NH−CH 、−N(CH 、−N(C 、−NH−C 、−N−(CH ,C )、−CONH 、−CON(CH 、−CONH−(CH )、−N(CH)、−CHN(CO)を表し、Mは一〜三価の金属、nは1または2を表す。)
【0030】
第二工程における水中での加熱によりジクロロキナクリドン顔料が得られる。仕上げ処理の顔料混合物中に含まれる生成物が、黄味の赤色のジクロロキナクリドン顔料であるかは、目視やX線回折測定により確認することが出来る。
【0031】
こうして、第二工程で得られた顔料混合物から、水及び必要がある場合は脂肪族アルコール類をも除去又は回収し、ジクロロキナクリドン顔料を主体とする固形物を洗浄、濾過、乾燥、粉砕等を行うことにより、黄味の赤色で透明なジクロロキナクリドン顔料の粉体を得ることが出来る。尚、その洗浄方法としては、水洗、湯洗のいずれをも採用することが出来る。
【0032】
前記した洗浄、濾過後の乾燥方法としては、例えば、乾燥機に設置した加熱源による80〜120℃の加熱等により、顔料の脱水をする回分式あるいは連続式で乾燥する方法等が挙げられる。またその際に使用する乾燥機としては、例えば、箱型乾燥機、バンド乾燥機、スプレードライヤー等が挙げられる。
【0033】
乾燥後の粉砕方法としては、箱型乾燥機やバンド乾燥機を使用して乾燥する場合に、ランプ形状等のものとなった顔料を解して粉末化するために行うものであり、例えば、乳鉢、ハンマーミル、ディスクミル、ピンミル、ジェットミル等による粉砕方法が挙げられる。
【0034】
このように本発明では、主として水中での加熱処理で黄味の赤色のジクロロキナクリドン顔料を製造することができる。水単独ないしは必要最小限の有機溶剤しか使用しないため、廃溶剤処理或いは回収再利用の負荷が軽くて環境に優しい製造方法であるといえる。
【0035】
かくして得られた黄味の赤色でジクロロキナクリドン顔料は、その特徴的な色相及び高透明性の点から、公知慣用の用途、例えば印刷インキ、塗料、プラスチック成型品、インクジェット用色素、静電荷現像用トナー、液晶カラーフィルター等の着色に使用することが出来る。
【0036】
以下、実施例及び比較例及び試験例により本発明を詳細に説明する。本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「部」及び「%」はいずれも質量基準である。
【実施例1】
【0037】
攪拌装置付の反応容器に85%リン酸218部、無水リン酸382部を加えて20分間攪拌し、無水リン酸含有量が86%のポリリン酸600部を得た。ここに、純度98%の2,5−ジ(3−クロロアニリノ)テレフタル酸100部を加え、125℃で3時間攪拌を行い、環化反応物を得た。別の攪拌装置付の容器に15℃の水3000部を張り、それを強攪拌下に、前記環化反応物を投入し、30分間そのまま攪拌し、濾過、水洗してジクロロキナクリドン化合物(粗顔料)のウエットケーキ350部(固形分25%)を得た。攪拌装置付の加圧可能な反応容器に、前記ジクロロキナクリドン化合物(粗顔料)のウエットケーキ350部、水800部を仕込み、粉砕メディアの存在無しに、攪拌翼で内容物を125℃で7時間攪拌した。その後、室温まで冷却し、濾過、湯洗、乾燥、粉砕し、85部のジクロロキナクリドン顔料(C.I.Pigment Red 209)を得た。
これは、CuKα線によるX線回折測定において、主にブラッグ角2θ(±0.2°)=5.8°、11.8°、12.9°、24.2°及び26.3°に特定のピークを有するジクロロキナクリドン顔料を主成分として含有していた。
【実施例2】
【0038】
攪拌装置付の加圧可能な反応容器に、実施例1で得たのと同一のジクロロキナクリドン化合物(粗顔料)のウエットケーキ350部、イソブタノール100部、水700部を仕込み、125℃で7時間攪拌した。その後、室温まで冷却し、濾過、湯洗、乾燥、粉砕し、85部のジクロロキナクリドン顔料(C.I.Pigment Red 209)を得た。
これは、CuKα線によるX線回折測定において、主にブラッグ角2θ(±0.2°)=5.8°、11.8°、12.9°、24.2°及び26.3°に特定のピークを有するジクロロキナクリドン顔料を主成分として含有していた。
【0039】
これら各実施例においては、適度な結晶の制御が可能となり、水単独又は脂肪族アルコール類単独に比べて、異結晶の発生防止や粒子径や形状のコントロールを、より容易とすることが出来た。また、攪拌翼による攪拌だけを行っているので、仕上げ処理中、ジクロロキナクリドン顔料が粉砕されることがなかった。その結果、粉砕メディアの別途準備も不要、粉砕メディアの破砕物のコンタミの混入による顔料品質の低下もなく、また粘度や耐光性等の用途特性に影響を与える顔料微粒の発生は最小限にとどめることが出来た。更に併用されている有機溶剤は水に対して少量であるため、廃溶剤処理或いは回収再利用の手間は軽減された。
【0040】
(比較例1)
攪拌装置付の反応容器に85%リン酸250部、無水リン酸350部を加えて20分間攪拌し、無水リン酸含有量が84%のポリリン酸600部を得た。ここに、純度98%の2,5−ジ(3−クロロアニリノ)テレフタル酸100部を加え、125℃で3時間攪拌を行い、環化反応物を得た。この環化反応物の同量を用いた以外は、その後の操作を実施例1と同様に行って、85部のジクロロキナクリドン顔料(C.I.Pigment Red 209)を得た。
【0041】
(比較例2)
実施例1と同様にしてジクロロキナクリドン化合物(粗顔料)のウエットケーキ350部(固形分25%)を得て、これを同様に乾燥して、ジクロロキナクリドン化合物(粗顔料)の粉体を得た。攪拌装置付の加圧可能な反応容器に、前記ジクロロキナクリドン化合物(粗顔料)87部、N−メチル−2−ピロリドン1000部を仕込み、125℃で7時間攪拌した。その後、室温まで冷却し、濾過、湯洗、乾燥、粉砕し、85部のジクロロキナクリドン顔料(C.I.Pigment Red 209)を得た。
尚、この比較例においてはN−メチル−2−ピロリドンが大量に必要であり、廃溶剤処理或いは回収再利用に手間がかかった。
【0042】
(比較例3)
攪拌装置付の反応容器に85%リン酸218部、無水リン酸382部を加えて20分間攪拌し、無水リン酸含有量が86%のポリリン酸600部を得た。ここに、純度93%の2,5−ジ(3−クロロアニリノ)テレフタル酸100部を加え、125℃で3時間攪拌を行い、環化反応物を得た。別の攪拌装置付の容器に15℃の水3000部を張り、それを強攪拌下に、前記環化反応物を投入し、30分間そのまま攪拌し、濾過、水洗してジクロロキナクリドン粗顔料のウエットケーキ350部(固形分25%)を得た。攪拌装置付の加圧可能な反応容器に、前記ジクロロキナクリドン粗顔料のウエットケーキ350部、水800部を仕込み、140℃で7時間攪拌した。その後、室温まで冷却し、濾過、湯洗、乾燥、粉砕し、85部のジクロロキナクリドン顔料(C.I.Pigment Red 209)を得た。
【0043】
(試験例)
(1)メラミンアルキッド樹脂による焼付塗料試験
実施例1〜2、及び比較例1〜3で得たジクロロキナクリドン顔料それぞれ4.0gと、アミラックNo.1026クリヤー(関西ペイント株式会社製)16.0gと、焼付シンナーNo.3(関西ペイント株式会社製)10.0gと3mmφガラスビーズ80gとを、容量100mlのポリエチレン製の瓶に入れ、ペイントコンディショナー(東洋精機株式会社製)で1時間分散させた後、アミラックNo.1026クリヤー50.0gを追加し、ペイントコンディショナーで更に10分間分散させて、それぞれ原色塗料を得た。
【0044】
得られた原色塗料のそれぞれ3.0gとアミラックNo.1531ホワイト(関西ペイント株式会社製)10.0gとをポリエチレン製のカップに入れ、遊星式攪拌機KK−102(倉敷紡績株式会社製)等で均一に混合して淡色塗料を得た。
【0045】
原色塗料をそれぞれ黒帯付アート紙上に並べて置き、10mil(254μm)のフィルムアプリケーターにより塗布展色し、約1時間静置した後、140℃に調整した乾燥器に入れ、約20分間焼付乾燥を行い、原色塗膜を得た。また、淡色塗料をそれぞれアート紙上に並べて置き、6mil(152μm)のフィルムアプリケーターにより塗布展色し、約1時間静置した後、140℃に調整した乾燥器に入れ、約20分間焼付乾燥を行い、淡色塗膜を得た。
【0046】
(2)評価基準
透明性:原色塗膜の黒帯部分の黒色度を、実施例1の顔料を標準として、10段階評価で実施例2および比較例1〜3の顔料の透明性を目視判定した。ここで、標準判定は5とし、数値が大きいほど黒色度が高いことを意味する。
色相:淡色塗膜をdatacolor international SPECTRA FLASH 500分光光度計(米国datacolor international社製)を用いて、D65光源10度視野で測色し、色相角h(CIE LAB表色系)を算出した。色相角hの数値は0〜360の範囲で変動し、360=0で元に戻る。すなわち、色相角350〜360=0〜10の範囲では、10に近づく程黄味の赤色であり、350に近づく程青味の赤色であることを意味する(表1)。
【0047】
表1
【0048】
【表1】

【0049】
実施例1と比較例1の評価結果からわかる通り、無水リン酸含有率が85質量%以上のポリリン酸で環化反応を行い得られた実施例1の顔料は、無水リン酸含有率が85質量%以下のポリリン酸で環化反応を行い得られた比較例1の顔料に比べて、色相は大幅に黄味で、透明性にも優れている。
実施例1と比較例2の評価結果からわかる通り、水中でジクロロキナクリドン化合物の加熱処理を行い得られた実施例1の顔料は、N−メチル−2−ピロリドン中でジクロロキナクリドン化合物の加熱処理を行い得られた比較例2の顔料に比べて、色相は大幅に黄味で、透明性にも優れている。
実施例1と比較例3の評価結果からわかる通り、純度が96%以上の2,5−ジ(3−クロロアニリノ)テレフタル酸を使用して得られた実施例1の顔料は、純度が96%以下の2,5−ジ(3−クロロアニリノ)テレフタル酸を使用して得られた比較例1の顔料に比べて、色相は大幅に黄味である。
【0050】
表1の測定結果から明らかなように、実施例1〜2で得られた本発明のジクロロキナクリドン顔料は、比較例1〜3の前記顔料に対して、大幅に黄味の赤の色相と高透明性を兼備したものであることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純度96%以上の2,5−ジ−(3−クロロアニリノ)テレフタル酸を、無水リン酸含有量が85質量%以上のポリリン酸中で環化し加水分解した後、濾過して固形分を水中で加熱することを特徴とするジクロロキナクリドン顔料の製造方法。
【請求項2】
水が20質量%以下の脂肪族アルコール類を含有する水である請求項1記載の製造方法。




【公開番号】特開2007−197630(P2007−197630A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−20501(P2006−20501)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)