説明

ジグリセリドおよびフィトステロールを含む、金属カチオンの送達用の逆ミセル組成物ならびに製造方法

本発明は、ステロール、アシルグリセロールおよび金属塩に基づく逆ミセルの製造方法およびそれにより得られる逆ミセル関する。それらは、医薬および栄養分野で好都合に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的撹拌または超音波処理によるステロール、アシルグリセロールおよび金属塩に基づく逆ミセルの製造方法に関する。本発明の方法により得られる逆ミセルは、粘膜、次いで、細胞膜を通過することが可能である。そこで、その逆ミセルは、標的細胞による金属イオンの吸収を可能とする。それらは、医薬および栄養分野で、工業的レベルで好都合に有用である。
【0002】
発明の背景
過去数年にわたって、標的部位への薬物の送達を改善するために、種々のアプローチが提案されている。第一に、薬物は、好適で容易な経路、例えば経口または経直腸経路で投与される必要があり、第二に、活性成分は、活性な形態で標的細胞に送達される必要がある。現在のところ、活性分子のそのようなベクトル化された輸送を可能にするのに使用しうる手段は存在しない。
【0003】
数多くの出版物および特許に、活性成分をナノ粒子またはミクロ粒子に封入する方法が記載されているが、これまでに解決されていない問題は、一方では、注入経路とは異なる簡単な投与経路、すなわち、経口または口腔内経路を提供することであり、他方では、活性生成物の標的部位への外見上完全な送達をすることである。この不可能性の最良の例は、経口投与インスリンを開発するために数十年間なされた研究である。例えば、これまでに開示された送達システムは、ほんの2〜5%のインスリンを吸収させるにすぎない。
【0004】
本発明者等は、先に、2種の脂質をある種の金属塩と共に撹拌すると、塩の生物学的利用効率が増大し、結果として、1000〜5000倍低い投与量で同じ治療効果を得ることができ;それで、その塩の潜在的な毒性を減少することができることを見出している(例えば、US6,129,924、WO02/36134およびWO2004/075990参照)。
【0005】
特に、本発明者等は、そうでもしなければコレステロール低下剤として不活性であるか不十分な活性である、ある種の生成物、植物フラクションまたはこれらのフラクションの金属との錯体が、それらがオリーブ油溶液中で投与されるとき、活性がかなり増大することを見出した。このことは、オリーブ油の多くの成分の中から、試験した生成物との混合物または反応によりより活性な生成物に導くことができるものを探索することを招来した。このようにして、本発明者等は、「有機金属錯体」の名称で表されるものであり、酸化状態4または5のバナジウムの誘導体と、植物抽出物から単離されシトステロールとアシルグリセロールからそれぞれ構成される2種の有機化合物との反応により得られる新規な生成物を同定することができた。
【0006】
本発明者等は、また、同様の錯体が、金属が少なくとも2の酸化状態にあり且つその抗糖尿病活性が知られている金属の他の誘導体から製造することができることを見出した。
【0007】
また、同様の錯体を、前述の2種の有機誘導体および生体の代謝において生体触媒として有用な金属の種々のカチオンから得ることができ、これらの錯体は、すべての場合に、そのカチオンのベクターとして特に有効な試剤であることを見出した。
【0008】
「生体触媒活性を有するカチオン」とは、直接的な生体触媒活性を有するカチオンおよび生体触媒の代わりとなり、従って、ある種の病的な代謝経路を修復することができるカチオンと理解される。バナジウムの例を挙げると、その同様の配位化学の故に、それはホスフェートの代わりとなり:そのため、酸性およびアルカリ性ホスファターゼの双方は、バナジルおよびバナデート化合物により阻害され;したがって、インスリンの末梢受容体ならびに関連するプロテインキナーゼのチロシンのリン酸化の促進を誘起するチロシンホスファターゼも同様である。
【0009】
本発明は、ここに、1以上の金属塩を含む逆ミセルの製造方法を提供し、そのような逆ミセルは、任意の経路、特に、粘膜を介して投与することができ、細胞膜を通過することができる。この方法は、医薬および栄養分野におけるそれらの後での使用のために、ミセルを含む組成物の調節および最適化を好都合に可能にする。
【0010】
発明の概要
本発明は、医薬および栄養分野において使用することを目的とする、ステロール、アシルグリセロールおよび金属塩に基づく逆ミセルの製造方法に関する。
【0011】
本発明は、また、100nm以下の水性コアを持つ逆ミセルであって、
(a)(i)ステロール、(ii)アシルグリセロール、好ましくは脂肪酸のジグリセロール、(iii)水(特に精製水)、(iv)金属カチオンを接触させ、
(b)工程(a)で得られた混合物を40℃以下で、逆ミセルが生成するのに十分な時間撹拌し、その撹拌を約1000〜約5000r/分の速度で機械的にまたは超音波処理により行うこと、
を含む製造方法により得られる逆ミセルに関する。
【0012】
発明の詳細な説明
逆ミセル
本発明に係る逆ミセル系は、油中における水のミクロな小滴の分散体を含むミクロエマルジョンとして特徴付けられる。この分散体は、水/油界面で、界面活性剤(アシルグリセロール、より好ましくは脂肪酸のジグリセロール)により安定化することができる。逆ミセル相は、水が内相を形成し且つ脂質の疎水性尾部が連続層を形成する系として定義することができる。油、界面活性剤、および水層を含む逆ミセルは、また、油中水型ミクロエマルジョンとして特徴付けられる。
【0013】
ミセルの大きさは、系中に溶解した水の量により調節される。それは、(水)/(界面活性剤)の重量比W(混合物中に溶解された水/混合物中の界面活性剤)により直線的に変化する。上記のように、比W=(水)/(アシルグリセロール)は、好ましくは、約2.5以下であり、より好ましくは1以下であり、より具体的には、0.01〜0.2である。特定の実施態様によれば、比Wは、好ましくは、0.05〜0.18の範囲である。
【0014】
逆ミセル、例えば、そのコアの大きさは、種々の方法:
−X線散乱
−中性子散乱
−透過型電子顕微鏡(TEM)
−動的光散乱(DLS)
により特徴付けることができる。
【0015】
本発明に係る逆ミセルの製造に必要な化合物は、2種の脂質:ステロールおよびアシルグリセロール、好ましくは脂肪酸のジグリセリドを含み、それは界面活性剤として作用する。本発明に係る逆ミセルは、さらに、少なくとも1種の金属カチオンを含む。
【0016】
脂質成分(ステロールおよびアシルグリセロール)の比は、大きい範囲で変わることができ、例えば、重量比ステロール/アシルグリセロールは、0.01〜1(を含む)の範囲であることができる。特定の実施態様によれば、ステロール(好ましくは、シトステロール)に比して、過剰のアシルグリセロール(好ましくは、脂肪酸のジグリセリド)を使用することができる。より特定的には、重量比ステロール/アシルグリセロールは、0.1以上、より好ましくは0.1〜0.2である。
【0017】
金属は、他の2種の成分に比べて、非常に少ない量で、有利には、アシルグリセロールに比して、1/100〜1/10000のモル比で使用することができる。
【0018】
種々の成分を、正式には、適した分析手段により同定することができる。シトステロールは、ガスクロマトグラフィー分析により、またアシルグリセロールは、光散乱検出器を用いる、溶離液、例えば定組成アセトニトリルの存在下のシリカカラム(kromasil C18)での高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により同定することができる。ガスクロマトグラフィーを、ジグリセリドを同定するために、使用することもできる。
【0019】
逆ミセルは、動的な系である。ブラウン運動は絶え間ないミセルの衝突を引き起こし、それにより、ミセルの合体と水性コアの交換が生じる。ミセルの分離と再生が生じ、異なる溶液間での化学反応が生起する。ミセル間での交換速度は、特に、温度、界面活性剤の炭化水素鎖の長さ、およびW比(遊離水はその交換を増加させる)と共に、増大する。本発明の文脈内で、ミセルの水性コアの大きさは、好ましくは、5〜100nmの範囲である。混合物中の水の相対的な量(W)は、好ましくは、アシルグリセロール、好ましくは脂肪酸のジグリセリドの量の2.5以下、好ましくは、1以下である。特定の実施態様によれば、比Wは、好ましくは0.01〜0.2である。
【0020】
従来技術の送達系に対する本発明の逆ミセルの利点は、任意の種類の金属イオンを含むことが可能であることである。
【0021】
本発明に係る逆ミセルの製造方法
特定の実施態様において、本発明は、100nm以下の水性コアが存在し、水溶性の薬学的に活性な金属カチオンを含む逆ミセルの製造方法であって、以下の工程:
(a)(i)ステロール、(ii)アシルグリセロール、好ましくは脂肪酸のジグリセロール、(iii)水(特に精製水)、および(iv)水溶性の金属カチオンを接触させ、ここで、比W=[精製水]/[アシルグリセロール、好ましくは脂肪酸のジグリセリド]が、好ましくは約2.5以下であり、
(b)工程(a)で得られた混合物を40℃以下で、逆ミセルが生成するのに十分な時間撹拌し、その撹拌を約1000〜約5000r/分の速度で機械的にまたは超音波処理により行うこと、
を含む方法に関する。
【0022】
得られて回収された逆ミセルは、その後、薬物送達システムとして特に有用である。方法の工程(b)は、人間または動物における標的部位での薬物送達用の輸送システムとして有用である、逆ミセルを得ることを可能とするので、特に重要である。
【0023】
逆ミセルを構成する化合物は、工程(a)の間に接触させられる。本発明で有用な化合物を、以下に、より詳細に説明する。
【0024】
工程(a)で得られる混合物の撹拌は、より特定的には、40℃以下、好ましくは30℃〜38℃、より好ましくは30℃〜35℃の範囲の温度で、逆ミセルを生成するのに十分な時間の間、行われる。十分な時間は、特に、使用した撹拌技術、すなわち、約1000〜約5000r/分の速度での機械的撹拌または超音波処理によって変動しうる。機械的撹拌または超音波処理の時間は、いずれにしても、初期の混合物を、単一相の逆ミセル溶液に変換するのに必要な時間である。超音波処理による撹拌が、好ましい。
【0025】
特定の実施態様において、金属カチオンは、まず、精製水に溶解され、次いで、他の成分と接触させられる(工程(a))。
【0026】
当業者は、それらの有益な特性を尊重するために、本発明に係る組成物と共に使用される賦形剤および/または成分をいかにして選択するかを知悉している。特に、グリセロールの存在は、大量に導入された場合、逆ミセルの生成を阻害するか、あるいは逆ミセル系を破壊する。より具体的には、1%未満の、好ましくは0%のグリセロール(組成物中のグリセロールの重量/水の全量で表された百分率)が、本発明に係る逆ミセルの製造に使用される。
【0027】
超音波処理
超音波処理の超音波は、液中での音響的キャビテーション、すなわち、液中での気泡形成をもたらす。振動の大きい振幅は、より大きなキャビテーションを発生させる。超音波は、反応チャンバーのすべての部分内で均一な撹拌を生じさせ、液中でほとんど乱流を生じない。それは、ナノ粒子を製造する上で、最も信頼できる方法である。
得られたナノエマルジョンの安定性は、特に、界面活性剤として作用するアシルグリセロール(好ましくは脂肪酸のジアシルグリセリド)の故である。
【0028】
様々なタイプの超音波処理用具を、実験室または工業的スケールで使用することができる。強力超音波プロセスが最適のプロセスである。少量を製造するには、20kHzでの超音波を用いる400Wまたは600Wの用具が、最終生成物の良好な均質性を持つ満足すべき結果を与えるので、好ましい。温度とそのプロセスの発生持続時間を電子的にコントロールすることも、その型の装置では可能である。同じ型の用具が、工業用途に存在する。
【0029】
物理的パラメーター、特に時間(1回以上の回数で、3〜5分)は、使用した用具、混合物の体積およびその粘度に依存する。当業者は、そのようなパラメーターを容易に定めることができる。より具体的には、混合物の温度は、反応物の分解を避けるために、40℃を超えてはならない。温度は、好ましくは、約38℃未満、さらにより好ましくは約35℃以下である。
【0030】
機械的撹拌
通常の用具は、プロペラを使用し、その迅速な動きが、乱流および渦巻きを発生させ、粒子の相互侵入および混合物内でのナノ粒子の生成を可能にする。
【0031】
最適の結果を得るために必要な撹拌速度は混合物の粘度に依存し:撹拌速度は、好ましくは1000〜5000r/分である。実際の体積、装置、撹拌速度およびW比は、入れられた薬学的に活性な金属カチオンに依存し、またそれに適合させる必要がある。
【0032】
この製造を最適化するために、混合物は、反応物の分解を避けるために、約40℃より低い温度、好ましくは、約35℃より低い温度、さらにより好ましくは約30〜35℃の間の範囲に維持される。
【0033】
本発明の他の目的は、上記のように、本発明に係る方法で得られる逆ミセルに関する。
【0034】
逆ミセル化合物
アシルグリセロール
本発明に係る逆ミセル系の製造に有用なアシルグリセロール、より特定的には、脂肪酸のアシルグリセロールは、植物の大部分から単離することができ、植物および動物の油脂物質の主要成分である。
【0035】
脂肪酸数、グリセロール上でのそれらの位置、それらの鎖長、およびそれらの可能な不飽和の数は、アシルグリセロール毎に異なる。アシルグリセロールは、特に、モノ−、ジ−もしくはトリ−アシルグリセロールを包含する。特定の実施態様において、本発明で使用されるモノ−、ジ−もしくはトリ−グリセリドは、以下の式(I):
【0036】
【化1】

【0037】
(式中、
−Rは、14〜24個の炭素原子を有する、直鎖状もしくは分枝状の、飽和もしくは不飽和脂肪酸のアシル残基、水素原子、またはモノ−、ジ−もしくはトリ−ガラクトースもしくはグルコースであり;
−Rは、2〜18個の炭素原子を有する、直鎖状または分枝状の、飽和または不飽和脂肪酸のアシル残基であり;
−Rは、14〜24個の炭素原子を有する、直鎖状もしくは分枝状の、飽和もしくは不飽和脂肪酸のアシル残基、または水素原子である)
を表す。
【0038】
好ましい実施態様によれば、RおよびRの少なくとも一つ、好ましくはただ一つは、オレイン酸(C18:1[シス]−9)のアシル残基を表す。
特定の態様によれば、Rは1個の不飽和結合(例えば、エチレン性結合)を有し、有利には、18個の炭素原子を有し、好ましくは、Rは、オレイン酸残基(オレオイル基)、二重結合(シス−6,7,9,11および13)に関するその位置異性体の一つまたはそのイソ分枝異性体である。
他の特定の態様によれば、Rは、アセチル基を表す。
好ましい実施態様によれば、Rは、水素原子を表す。
【0039】
本発明に係るミセルの製造において使用されるアシルグリセロールは、大部分の植物から単離しうる。
【0040】
不飽和植物油が、アシルグリセロールの源として、特に有利に使用され、特には、第一冷プレスからのオリーブ油である。
【0041】
一般的に、オレイン酸を高濃度で含有する油が、本発明に係るアシルグリセロールの有用な源として選択される。そのような油は、通常、本発明に係る有用なアシルグリセロールを高い割合で含有している。
【0042】
本発明の特定の態様によれば、好ましい脂肪酸のグリセリドは、1,2−ジオレインおよび1−オレオイル−2−アセチルグリセロールよりなる群の中で選択される。
【0043】
アシルグリセロール、より特定的には、求められている用途において最も活性であることが見出されているものも、市販されている。これは、特に、1−オレオイル−2−アセチルグリセロールおよび1,2−ジオレオイルグリセロールの場合であり、それらは、高純度の含有量で市販品として存在する。特に、約44%のジオレイングリセリドを含有するモノオレイン酸グリセリドは、それの、約14%が1,2−ジオレインである。そのような化合物は、薬学的に許容されている(European Pharmacopeia (第4版, USP 25/NF20,およびJapanese Standard of food Additives)。そのような生成物は、例えば、PECEOL(登録商標)の名前でGattefosse社から市販されている。
【0044】
ステロール
本発明に係る逆ミセル系の製造に有用なステロールは、任意のステロール、好ましくは植物ステロールであることができる。シトステロールが、本発明に係る逆ミセル系に有用な、好ましいステロールである。
【0045】
本発明の逆ミセル系において加えられるシトステロールは、[β]−または[γ]−シトステロール、好ましくは[β]−シトステロールであることができ、あるいはこれら二つの形態のシトステロールの少なくとも一つを含有する植物抽出物の形態で導入することができる。実際に、シトステロールは大部分の植物の成分である。
【0046】
種々の市販製品を使用することが特に可能である。より特定的には、大豆から抽出された市販のシトステロールを使用することができる。そのような製品では、シトステロールは、一般に、製品の50〜70重量%を示し、一般に、各々15%程度の割合のカンペステロールおよびシトスタノールとの混合物中に見出される。トール油と称される、種々の松から抽出された市販のシトステロールも、使用することができ、そのトール油は、平均して75重量%のβ−シトステロールを含んでいる。一般に、シトスタノールとの混合物中のシトステロールを使用することができる。好ましくは、その混合物は、混合物の少なくとも50重量%のシトステロールを含んでいる。
【0047】
以下のように処理して、95%、さらには99%を越える高い純度を有するβ−シトステロールを得ることもできる:市販の混合物を数回の連続的なアセトンでの再結晶に付し、混合物中に存在するカンペスタノールおよびシトスタノールを除去することによりβ−シトステロールの予備精製を行う。次いで、このようにして予備精製した生成物を、溶離液混合物、例えばメタノール、特にメタノール100%またはメタノールとアセトニトリルの混合物、特に80−20混合物または任意の中間的な混合物を用いて、分離用カラムC18で高速液体クロマトグラフィーによる1〜3段階の精製に付すと、95またはさらには99%を越える純度を有するシトステロールを得ることが可能となる。この純度は、ガスクロマトグラフィーで決定される。
【0048】
シトステロールおよび従ってシトスタノールは、また、文献、例えば、Claude Cerdonによる、<<Modulation de la production de sapogenines steroidiques en reponse a I'inhibition de la synthese de sterols>>と題された、1993年11月にMontpellierに提出された論文の95頁中の技術に従って、植物から抽出することにより製造することができる。
【0049】
この抽出は、有利には、3−ヒドロキシ−ステロイドおよび3−オキソ−ステロイドをこれらの化合物を含有する混合物から単離する方法を記載している、特にフランス特許FR2316247に記載の方法に従って、金属で錯体化することにより行われる。
【0050】
この抽出を達成するには、シトステロールが相対的に高い含有量であることが知られている任意の植物または植物由来の生成物を使用することができる。
【0051】
遊離シトステロール含有量が相対的に高い植物または植物起源の生成物の例として、特に、オリーブ油、大豆油、綿の葉、コーヒーの葉、小麦胚芽を挙げることができ、それらについての遊離ステロール含有量および遊離ステロール画分中のシトステロールの百分率を下表に示す。
【0052】
【表1】


%は重量で表されている。
【0053】
上記のように、ステロールとアシルグリセロールの比は、大幅に変動することができ、例えば、重量比ステロール/アシルグリセロールは、0.01〜1(を含む)の範囲であることができる。特定の実施態様によれば、ステロール(好ましくは、シトステロール)に対して、過剰量のアシルグリセロール(好ましくは、脂肪酸のジグリセリド)を使用することができる。より特定的には、重量比ステロール/アシルグリセロールは、0.1以上、より好ましくは0.1〜0.2である。
【0054】
金属
本発明に係る逆ミセル系を製造するために使用しうる金属カチオンは、少なくとも2の酸化状態にある任意のカチオンであり、その生体触媒活性が公知であるか、あるいは発見されるべきままとなっているものである。
本発明の文脈において、用語「生体触媒」は、生物学的な系において触媒活性を発揮するこれらの金属を表す。
【0055】
金属イオンは、酵素の約3分の1において、重要な役割を果たす(Metal Ions in Biological System, Jenny P. Glusker, Amy K. Kats and Charles W. Bock, The Rigaku Journal, vol 16, N°2, 1999)。それらは、様々なタイプの作用を持っている:
−基質または酵素からの電子の流れを修正し、酵素的触媒反応を調節する、
−酵素のタンパク質成分と結合して、その活性部位を示す空間配置を与える、
−金属がいくつかの価数を有する場合、酸化−還元の活性をもたらす。
【0056】
金属Mは、所望の生物学的活性に従って選択される。
【0057】
例として、生成物に脂質低下活性、あるいは血糖低下および/または抗糖尿病および/またはインスリン類似活性を求める場合には、バナジウム、ニオブ、モリブデン、セレン、クロム、亜鉛またはチタンの金属誘導体が、より特定的に選択される。
【0058】
これらの金属誘導体において:
−ニオブは、有利には、4または5、好ましくは5の酸化状態にあり、
−バナジウムは、有利には、3、4または5、好ましくは4の酸化状態にあり、
−セレンは、有利には、4または6、好ましくは4の酸化状態にあり、
−モリブデンは、一般に、3〜6の間、好ましくは3からなる酸化状態にあり、
−クロムは、好ましくは、3の酸化状態にあり、
−亜鉛は、好ましくは、2、3または4の酸化状態にある。
【0059】
他のタイプの活性に適合する金属の例は、以下に示される:
−特に神経系に関する自己免疫疾患、例えば、多発性硬化症および癌腫学の処置が所望である場合、アンチモンまたはスズ、
−運動系に影響する自己免疫疾患、例えば、関節リウマチにおいては、金、
−消化管、特に、膵臓、結腸、および直腸の腫瘍または新生組織形成においては、バナジウム、
−呼吸器腫瘍または新生組織形成においては、ルテニウムまたはパラジウム、
−中枢神経系、例えばハンチントン病の病変においては、リチウム、
−後天性免疫不全においては、スズ、
−癌腫学においては、セレン、
−骨粗鬆症においては、ストロンチウム。
【0060】
特定の実施態様において、金属カチオンは、亜鉛、ニオブ、バナジウム、セレン、モリブデン、クロム、アンチモン、スズ、金、ルテニウム、パラジウム、白金、リチウムおよびストロンチウムよりなる群の中で選択される。
【0061】
例として、本発明に係る特に有用な金属誘導体は、硫酸塩、水和物、ハロゲン化物、特に塩化物、および他の水溶性の塩から選択される。
ある場合には、好都合には、水またはたまにはアルコールに溶解できる、アンモニウム塩、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のメトキシドを使用することができる。アセチルアセトネート、アルコキシド、または有機溶媒、例えばエーテル、THF、DMFとの金属錯体のような有機金属誘導体も使用しうる。これらの有機金属誘導体は、一般に、有機溶媒に、より特定的には、クロロホルムやジクロロメタンのような塩素化溶媒に溶解性である。実験は、それらが、水性コア中の還元された金属形態にあるミセルにより集められ得ることを示している。しかしながら、水溶性の塩が好ましい。
【0062】
水溶性の塩を有する任意の金属を、本発明に係る逆ミセルに導入することができる。金属の選択は、所望の治療活性に応じて変動する。
【0063】
そのような応用は、一般的に、当業者が、有効活性量におけるその金属カチオンの毒性の故に、金属カチオンの治療への使用の固有の困難さを知っているだけに重要であり:周知の例は、精神または神経障害に使用されるリチウム塩または癌腫学において使用される白金、ルテニウムまたはパラジウム塩である。
【0064】
上記のように、好ましい金属は、生体触媒活性を示す金属である。
【0065】
金属は、他の2種の成分に比して、非常に少ない量で、好ましくは、アシルグリセロールに対して、1/100〜1/10,000のモル比で使用することができる。
【0066】
治療活性は、1000〜10000分の1の金属の量で、同じ金属の塩または有機誘導体で得られる活性に匹敵して、得られる。
【0067】
逆ミセルの特徴付け
逆ミセルは、種々の方法:
−X線散乱
−中性子散乱
−透過型電子顕微鏡(TEM)
−動的光散乱(DLS)
により物理的に特徴付けることができる。
【0068】
実施例1および実施例2に記載の生成物のX線散乱による分析は、ミクロエマルジョン中の逆ミセルを明らかにした。
【0069】
逆ミセル系の使用
本発明の逆ミセルは、その中に含まれる金属カチオンの生物学的利用効率を改善し、より少ない毒性または毒性が0でのその治療上もしくは栄養上の使用を可能にする。これは、技術の現状に比べて、相当の利点である。そのミクロエマルジョンとしての性質により、逆ミセル系は、種々の賦形剤、ビヒクルまたは支持体を含む様々なタイプの製剤をもたらすことを可能とし、それは、経粘膜を含む種々の経路、例えば経口または経直腸投与により、投与することができ、逆ミセルは、その後、細胞膜を通過することができる。
【0070】
本明細書で使用される、用語「粘膜」および「粘膜の」は、粘膜組織、例えば消化管における上皮、固有層、および平滑筋の層をいう。本明細書で使用される、「経粘膜送達」、「経粘膜投与」および類似の用語は、粘膜組織に組成物を投与することを指す。「経粘膜送達」、「経粘膜投与」および類似の用語は、気管支、歯肉、舌、鼻、口、膣、直腸、および腸の粘膜組織を通して組成物を送達することを包含するが、これらに限定されない。
【0071】
今日、逆ミセル系を、ミクロ反応器として作用するナノ材料の製造に使用することができることが知られており、それにより、イオンの共析出および化学還元の反応が促進される。それらは、通常は生成しない準安定状態のナノ材料を、大量の状態で、室温で製造することを可能にする。従って、本発明の方法によれば、銅、金、銀、ニッケル、カドミウム等ならびに半導体、合金および磁気流体の還元された金属粒子を製造することが可能である。
【0072】
系の動的な特性により、ミセルの内容積中でイオンの還元反応を行うことが可能となり、そのミセルの大きさ、形態および反応性は、上記のように、本発明に係る方法により、細かく調節される。
【0073】
ナノテクノロジーにおける研究チームは、逆ミセル系の水性コアがナノ反応器として働き、すなわち、室温で、金属塩を、理論上は不安定であるが、ミセルのコア中では完全に安定である、還元されたイオン形態の金属に変換することを可能とする。
【0074】
非常に少ない金属量(動物で1〜10μg/kg/日、金属に依存する)で得られる主な治療活性は、本発明に係る逆ミセルの内部での、遊離の還元された金属形態の金属の存在により、また、その細胞吸収によるミセルの脂質成分の特異性により説明することができる。金属塩(一般的には硫酸塩)の還元された遊離金属粒子へのこの変換は、金属が細胞内酵素的モジュレーションの生物学的活性を持つようになる基本的な要素である。
【0075】
また、4種の金属、糖尿病の処置におけるバナジウム、「SOD様」活性に対するマンガン、骨形成を促進し、骨粗鬆症を処置するストロンチウム、および特にハンチントン病を処置するための神経保護用のリチウムについて動物で得られた活性結果は、生物学的活性を示す任意の金属が、医薬組成物製造用の本発明に係るミセル中に包含され得ることを示している。
【0076】
第一の実施態様によれば、医薬組成物は、薬学的に許容しうる支持体中に前記のような逆ミセルを含んでいる。
【0077】
特定の実施態様によれば、医薬組成物は、前記の少なくとも2種のミセルの混合物を含み、各々の種類は、他の種類と区別される金属カチオンを含んでいる。
【0078】
そのような混合物は、ある場合には、相乗効果をもたらす:これは、特に、組成物が亜鉛とバナジウム錯体の混合物を含むときに、そうである。この場合、これら2種の錯体の混合物を含有する医薬組成物を糖尿病の処置に使用するときに、相乗効果が認められる(WO96/23811参照)。
【0079】
本発明のさらなる目的は、上記の1以上の金属カチオンの送達、より具体的には、経粘膜送達を目的とする医薬組成物を製造するための、上で定義された逆ミセルの使用に関する。医薬組成物は、より特定的には、疾患または異常に伴う1以上の症状を予防または治療することを目的としている。
【0080】
本発明の他の目的は、1以上の金属カチオンを動物に送達する方法であって、上で定義された逆ミセル組成物をその動物に投与することを含む方法に関する。特定の実施態様において、本発明は、1以上の金属カチオンを動物へ経粘膜送達する方法であって、上で定義された逆ミセル組成物をその動物に経粘膜的に投与することを含む方法を提供する。
【0081】
本発明は、疾患または異常に伴う1以上の症状の予防、治療、または改善方法であって、上で定義されかつその疾患または異常に伴う1以上の症状の予防、治療、または改善において有用な1以上の金属カチオンを含む逆ミセル組成物の有効量を、それを必要とするものを含む方法を提供する。特定の実施態様において、本発明は、疾患または異常に伴う1以上の症状の予防、治療、または改善方法であって、上で定義されかつその疾患または異常に伴う1以上の症状の予防、治療、または改善において有用な1以上の金属カチオンを含む逆ミセル組成物の有効量を、それを必要とするものに経粘膜的に含む方法を提供する。
【0082】
薬学的に許容しうる賦形剤、ビヒクルまたは担体として、当業者に周知の任意の賦形剤、ビヒクルまたは担体を使用しうる。以下のものを、非限定的な形で、例示として挙げることができる:ラクトース、トウモロコシ澱粉、グルコース、スクロース、甘味剤、例えばマルチトールシロップ、アラビアゴム、ゼラチン、カラギーナン、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、デキストリン、マルトデキストリン、マンニトール、タルク、天然起源の脂肪、特に、不飽和脂肪酸およびステロールに富む植物起源の油。特に、最終的に必要な場合には、当業者に周知の他の添加剤、例えば、安定剤、乾燥剤、結合剤またはpH緩衝剤を使用してもよい。本発明における好ましい賦形剤は、最終生成物の粘膜への付着を促進する。
【0083】
本発明の組成物は、様々な方法で、好ましくは、粘膜組織を介して、特に、舌下もしくは消化吸収で経口経路を介して、投与することができる。それは、経直腸経路であることもできる。
【0084】
本発明の好ましい実施態様において、本発明の逆ミセル組成物は、カプセル剤、カプレット剤、エアゾール剤、スプレー剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤、カシェ剤、錠剤、軟弾性ゼラチンカプセル剤、エアゾール剤、粉末剤または顆粒剤として、経粘膜的に投与される。本発明の組成物は、その内容物を口の中で放出するカプセル剤中に液体の形態で入れることができる。好ましくは、本発明の逆ミセル組成物を、哺乳動物、より好ましくは人間に投与して、疾患または異常を予防または治療する。
【0085】
他の特に重要な実施態様によれば、本発明は、また、前に定義された逆ミセルを組み込むことによる、栄養製品、特に代謝異常を調節するための食品補足物として有用な栄養製品ならびにこれらの製品を製造する方法に関する。
【0086】
実際、これらの製品は、脂肪酸のジグリセリド、β−もしくはγ−シトステロールに特に富む油またはシトステロールのその2つの形態の少なくともひとつを含有する植物抽出物の中で、金属塩と精製水を接触させ、次いで、先に定義された本発明に係る方法の条件下に撹拌することにより、簡単に形成することができる。
【0087】
先に見たように、植物油のオレイン酸C18:1含有量は、植物の性質およびその地理的な起源に従って、相当変動する。
【0088】
本発明に係る栄養製品の製造については、オレイン酸が脂肪酸の少なくとも60%を占める植物油を使用することが、好都合に可能である。
【0089】
好ましい実施態様によれば、オリーブ油が使用され、好ましくは第一冷プレスからの油である。
【0090】
シトステロールは、有利には、植物抽出物の形態で入れられる。特に、大豆から得られる、または好ましくはトール油から抽出される市販の植物抽出物を使用することができる。
【0091】
特に、糖質代謝の調節活性および/または心臓血管保護効果をもつ栄養補足物として有用な栄養製品を得るためには、金属塩として、バナジウムが酸化状態4であるバナジウムの塩、特に硫酸バナジルを有利に使用する。
【0092】
以下の実施例は、本発明の操作を例示することを意図するものであるが、その範囲を限定することを意図するものではない。
【0093】
実施例
【0094】
実施例1:バナジウムを含有する逆ミセルの製造
エタノール2.2mlに溶解したシトステロール1.1gに、硫酸バナジル85μg(金属バナジウム26μg)を含む精製水870μlおよびPeceol(登録商標)40ml(Gattefosseにより市販されているモノオレイン酸グリセリド)を加えた。
混合物の超音波処理を、温度を38℃未満にモニターすることにより、4分間行った。
W比は、0.07であった。
得られた生成物は、バナジウムを含有する安定な逆ミセルの均質な混合物より成っていた。
X線散乱による分析は、逆ミセルを有する均質なミクロエマルジョンを示した。
【0095】
実施例2:糖尿病ラットの処置用の、バナジウムを含有する逆ミセルの製造
エタノール2.2mlに溶解したシトステロール1.1gに、硫酸バナジル85μg(金属バナジウム26μg)を含む精製水4.14mlおよびPeceol(登録商標)40mlを加えた。
混合物の超音波処理を、温度を38℃未満にモニターすることにより、2回(3分づつ)行った。
W比は、0.27であった。
得られた生成物は、バナジウムを含有する安定な逆ミセルの均質な混合物より成っていた。
X線散乱による分析は、逆ミセルを有する均質なミクロエマルジョンを示した。
【0096】
実施例3:動物でのSOD様活性の評価用の、マンガンを含有する逆ミセルの製造
エタノール2.2mlに溶解したシトステロール1.1gに、硫酸マンガン313μg(金属マンガン102μg)を含む精製水4.14mlおよびPeceol(登録商標)40mlを加えた。
混合物を、磁気撹拌器で撹拌し、35℃で15分間加熱した。
W比は、0.27であった。
得られた生成物は、マンガンを含有する安定な逆ミセルの均質な混合物より成っていた。
【0097】
実施例4:動物での骨成長活性の促進の評価用の、ストロンチウムを含有する逆ミセルの製造(NP05A)
エタノール20mlに溶解したシトステロール5gに、硫酸ストロンチウム2570mg(金属ストロンチウム1229mg)を含む精製水20ml、Peceol(登録商標)48ml、およびオリーブ油160mlを加えた。
混合物を、磁気撹拌器で撹拌し、35℃で15分間加熱した。
W比は、0.85であった。
その後、経直腸経路により、2ml/kgで、ラットに投与することができた(金属Sr12.15mg/24h/kg)。
【0098】
実施例5:動物での骨成長活性の促進の評価用の、ストロンチウムを含有する逆ミセルの製造(NP05B)
エタノール20mlに溶解したシトステロール5gに、硫酸ストロンチウム257mg(金属ストロンチウム133mg)を含む精製水20ml、Peceol(登録商標)48ml、およびオリーブ油160mlを加えた。
混合物を、磁気撹拌器で撹拌し、35℃で15分間加熱した。
W比は、0.85であった。
その後、経直腸経路により、2ml/kgで、ラットに投与することができた(金属Sr1.21mg/24h/kg)。
【0099】
実施例6:動物での骨成長活性の促進の評価用の、ストロンチウムを含有する逆ミセルの製造(NP05C)
エタノール20mlに溶解したシトステロール5gに、硫酸ストロンチウム26mg(金属ストロンチウム12.3mg)を含む精製水20ml、Peceol(登録商標)48ml、およびオリーブ油160mlを加えた。
混合物を、磁気撹拌器で撹拌し、35℃で15分間加熱した。
W比は、0.85であった。
その後、経直腸経路により、2ml/kgで、ラットに投与することができた(金属Sr0.12mg/24h/kg)。
【0100】
実施例7:バナジウムを含有する逆ミセルの製造(NP01A)
エタノール2.2mlに溶解したシトステロール1.1gに、硫酸バナジル71μg(金属バナジウム22μg)を含む精製水1.5ml、オリーブ油(ジグリセリド4%)40mlを加えた。
混合物の超音波処理を、温度を38℃未満にモニターすることにより、4分間行った。
W比は、2.33であった。
【0101】
実施例8:バナジウムを含有する逆ミセルの製造(NP01B)
エタノール2.2mlに溶解したシトステロール1.1gに、硫酸バナジル85μg(金属バナジウム26μg)を含む精製水5.92ml、Peceol(登録商標)40mlを加えた。
混合物の超音波処理を、温度を38℃未満にモニターすることにより、4分間行った。
W比は、0.38であった。
【0102】
実施例9:バナジウムを含有する逆ミセルの製造(NP01C)
エタノール2.2mlに溶解したシトステロール1.1gに、硫酸バナジル85μg(金属バナジウム26μg)を含む精製水414μl、Peceol(登録商標)40mlを加えた。
混合物の超音波処理を、温度を38℃未満にモニターすることにより、4分間行った。
W比は、0.04であった。
【0103】
実施例10:ハンチントン病における脳保護用の、リチウムを含有する逆ミセルの製造(NP03)
エタノール5.4mlに溶解したシトステロール3.6gに、硫酸リチウム9.43mg(金属リチウム600μg)を含む精製水4ml、およびPeceol(登録商標)110mlを加えた。
混合物を、磁気撹拌器で撹拌し、35℃で15分間加熱した。
W比は、0.1であった。
その後、経直腸経路により、2ml/kgで、ラットに投与することができた(金属Li10μg/24h/kg)。
【0104】
薬理試験
1−フルクトースラットにおける抗糖尿病活性
フルクトースラットのモデルは、実際のヒト2型糖尿病と同様の、インスリン非依存性糖尿病(NIDD)である。
【0105】
この研究において、NP01生成物は、実施例2に従って製造された、バナジウムに基づく逆ミセルを含んでいた。その治療活性は、2種の参照薬物:メトホルミン(Metformin)およびロシグリタゾン(Rosiglitazone)と比較した。
【0106】
プロトコル
D−21に、ストーリングの期間の後、ラットの重さを量り、血液採取をして、生化学的なパラメーターの基準値を測定した。
ラットをランダムに、10匹ずつの群に分けた。次いで、飲料水を、蒸留水中の10%フルクトース溶液に変えた。この溶液は、21日間、無制限に与えた。その後、それらは、引き続く21日間の処理の間、再度、通常の水が与えられた。
D0に、動物は重さを量られ、血液が採取された。
次いで、毎日、
−対照群:経口で通常の水1mg/kg
−NP01群:経直腸経路で2mg/kg
−メトホルミン群:経口でメトホルミン50mg/kg
−ロシグリタゾン群:経口でロシグリタゾン5mg/kg
を投与しつつ、処置を21日の期間で開始した。
D3に、血液採取。
D7に、血液採取。
D21に、血液採取、処置終了。
【0107】
結果(血糖はmmol/lで、血中インスリンはμmol/mlで表示−SDは標準偏差を表す)−それぞれ、図1および図2
【0108】
【表2】

【0109】
D21に、すべての物質は活性であった。しかしながら、最も重要な効果は、NP01(本発明に係る実施例2)で、特に、好ましくない糖尿病の発生の始点におけるインスリン耐性のマーカーである血中インスリンについて認められた。
【0110】
2−ラットついての<<SOD様>>活性:アドリアマイシンでの試験
アドリアマイシンでの試験は、物質の遊離抗ラジカル活性を強調する特異的な試験である。生成物は、実施例3に従って製造されたマンガンに基づく逆ミセルを含んでいた。
【0111】
プロトコル
アドリアマイシンの溶液0.2mlを雄性ウイスターラットの脚に注入後1時間で、一時的な炎症が、約12時間現れた。二次的な炎症相は、3日目に始まり、5日間続いた。内皮膜の細胞の損傷と共に、血管の過透過性およびその結果としての浮腫が、遊離ラジカルの放出によって引き起こされた。この二次相の間、抗炎症性ステロイドおよび非ステロイドは全く効果がなかった。浮腫は、プレチスモグラフィーにより測定した(足の体積の%で表示)。
【0112】
10匹のラットの3バッチを作製した:
−陰性バッチ対照:経直腸経路でオリーブ油を投与(2ml/kg)
−陽性バッチ対照:ジオスミン(diosmine)100mg/kgを投与
−NP02(実施例3に従って製造)で処置したバッチ:経直腸経路で2ml/kg
【0113】
【表3】

【0114】
対照生成物ジオスミンは、マンガンスーパーオキシジスムーターゼ(MnSOD)に類似の遊離抗ラジカル活性を有し;それらの生成物は、この試験で活性を示した唯一の生成物である。本発明の実施例3に従って製造された生成物NP02は、同等の遊離抗ラジカル活性を有していた(参照生成物よりもやや高いほどに)。
【0115】
3−成長しているラットについての骨成長の促進
この研究の目的は、成長しているラットでの骨成長の促進活性を評価することである。
生成物は、実施例4に従って製造されたストロンチウムに基づく逆ミセルを含んでいた。
【0116】
プロトコル
動物は、200g(平均)のウイスター雌性ラットであった。
10匹のラットの均質なバッチを、それらの重量から出発して作製した。
処置は、6週間の間、1日あたり1回投与した。
投与されたバッチと生成物:
−対照バッチ(経直腸経路でオリーブ油を投与)
−SrClバッチ(SrClおよびストロンチウムラネレートは、骨成長および骨粗鬆症の処置のための公知の活性成分である)。金属Sr68.2mg/kg/日を、経直腸経路で投与した。
−NP05Aバッチ:本発明の実施例4に従って製造された生成物、金属Sr12.5mg/kg/日で。
−NP05Bバッチ:本発明の実施例5に従って製造された生成物、金属Sr1.21mg/kg/日で。
−NP05Cバッチ:本発明の実施例6に従って製造された生成物、金属Sr0.12mg/kg/日で。
処置の最後に分析したパラメーター:
−動物の重量
−安楽死とサンプリング後のラット大腿骨頭の直径の測定(双眼の拡大鏡下でのノギス)
−骨中のストロンチウム量(原子吸光)
−血漿中のストロンチウム量(原子吸光)。
【0117】
結果
大腿直径(mmで表示)−図4−SDは標準偏差を表す
【0118】
【表4】

【0119】
NP05生成物は、対照生成物よりも高い骨形成の促進活性を有していた。NP05C生成物は、600倍少ないストロンチウム金属で参照生成物よりも高い活性を有していた。
【0120】
骨中のストロンチウム量(μg/gで表示)−図5−SDは標準偏差を表す
【0121】
【表5】

【0122】
骨粗鬆症の処置(Protelos(登録商標))におけるストロンチウムの負の効果は、使用された治療量で、骨中でのストロンチウムの重要な固定に関連する(ヒトに対しては1日あたり2g、動物に対しては68.2mg/kg)。NP05生成物は、特に最少のストロンチウム量(NP05C)では、骨中でのストロンチウム固定を誘起しなかった。
【0123】
血漿中のストロンチウム量(μg/gで表示)−図6−SDは標準偏差を表す
【0124】
【表6】

【0125】
本発明の実施例6に従って製造されたNP05Cの血漿ストロンチウム率は、非処置対照バッチの率と同様であった。
【0126】
4−リチウムの神経保護効果:ハンチントン病のラットモデル
いくつかの刊行物は、リチウムが、NMDA受容体により媒介されるグルタミン酸に対して、培養したCNSニューロンを保護することを示している。インビボで、ハンチントン病のラットモデルにおいて、線条体損傷に対するリチウムの神経保護効果を評価した。この薬理学的活性は、双極性障害の処置において、ヒトでは炭酸リチウムの500mg〜1000mg/日(血中リチウム:0.5〜0.8mEq/l)およびマウスまたはラットでは2〜10mg/日の同じ臨床的投与量で得られた。
リチウムは、高い毒性を有し、副作用の故に、毎日血中リチウムを測定する必要がある。
【0127】
6匹は、キノリン酸の線条体への一方的な注入の24時間前およびその後の7日間、1日あたり2ml/kg(生成物実施例10:10μgLi)を経直腸経路で投与された。
線条体を収集し、ライカCM1850低温保持装置を用いて、低温切断した。切片を、エタノールで処理し、キシレン中で透明化し、次いで、DPXマウンタントを用いてカバースリップで保護し、乾燥した。
NMニューロンを含む切片を、立体学的プログラムを用いて分析して、損傷側と無傷の側でのニューロンの数を比較した。
QA注入の7日後に、NP03は、有意に、注入後の死からNMニューロンを保護していた。先の論文では、20/30%の細胞死が、生理食塩水処理対象物において得られていた。ここでは、NP03投与で、わずか9.2%の細胞死が得られたのみであった。
IP経路で投与した塩化リチウムで得られた結果と同様の結果が得られたが、10mg/日のリチウム金属の代わりに、わずか10μg/日のみが使用された。
【0128】
ミセルの大きさによる薬理学的活性の最適化
混合物に導入される水の量が唯一の可変パラメーターである(同量の溶解された硫酸バナジルが使用された)、本発明に従って製造された5種の生成物の活性を比較するために、薬理学的研究をSTZラットモデルについて行った。この結果、これらの5個の生成物の間の唯一の相違は、逆ミセルの大きさだけであるということになった。
【0129】
STZラットモデルは、1型および2型糖尿病の混合モデルである。このモデルは、物質の抗糖尿病活性についての迅速な応答を与える。
【0130】
プロトコル
ストレプトゾトシン(STZ)を、250〜300gのウイスター雄性ラットにIV経路で、50mg/kgの量を投与した。STZの投与3日後、動物の血糖値は、20〜30mmol/lの間であり、その後7日間の間、安定していた。検討生成物は、毎日、7日間投与した。血糖値は、D0、D1、D3およびD7に測定した。
【0131】
各々のバッチは、6匹のラットに対応した。
−対照バッチ:経直腸経路での、水とのエマルジョン中のオリーブ油
−バッチA:経直腸経路で投与[2mg/kg(W=2.30)]:実施例7
−バッチB:経直腸経路で投与[2mg/kg(W=0.38)]:実施例8
−バッチC:経直腸経路で投与[2mg/kg(W=0.04)]:実施例9
−バッチD:経直腸経路で投与[2mg/kg(W=0.90)]
−バッチE:経直腸経路で投与[2mg/kg(W=0.125)]
【0132】
【表7】

【0133】
図7Aおよび図7Bは、それぞれ、D3およびD7で得られた血糖値を示す。
【0134】
コメント
最も重要な抗糖尿病活性が、比率Wが0.12〜1の範囲である場合に得られるようである。
より大きいミセルは、遊離水を含み、その中では、金属はもはや還元された金属形態ではなく、低い活性をもたらす硫酸塩の形態に留まっている。
ミセルの大きさ(W比)を変動させると、本発明に従って製造された生成物の活性を最適化することができる。
【0135】
水の添加量の最適化
プロトコル
上記の実施例で示されたpeceol、シトステロールおよびエタノールの相対量を含有する試料を、金属イオンが溶解された水の量を変えて調製した。希釈スケールは、水の量を0.3%の増分で増加させることにより作製した。
試料を、上記のように、35℃で撹拌することにより均質化した。
逆ミセル系の安定性に対する水の量の影響は、視覚的に(濁度)および小角X線回折により調べた。
【0136】
結果
組成物中で水6.9%(すなわち、Wは約0.175)からおよびそれ以上で、ミクロエマルジョンは、次第に濁りはじめ、水の量が増えると、2相が現れた。水の百分率は、合計の水の重量:組成物の総重量で表した。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】参照薬物および対照と比較しての、バナジウムに基づく逆ミセルのフルクトースラットについての抗糖尿病活性アッセイ:処置の間(日)の血糖値(mmol/l)。
【図2】参照薬物および対照と比較しての、バナジウムに基づく逆ミセルのフルクトースラットについての抗糖尿病活性アッセイ:D0およびD21での血中インスリン(mmol/l)。
【図3】対照と比較しての、マンガンに基づく逆ミセルを用いる、ウイスターラットについてのアドリアマイシン試験:処置の間のpowの%。
【図4】対照および参照薬物と比較しての、ストロンチウムに基づく逆ミセルを用いる、成長するラットにおける骨成長の促進活性の評価:大腿骨直径(mm)。
【図5】対照および参照薬物と比較しての、ストロンチウムに基づく逆ミセルを用いる、成長するラットにおける骨成長の促進活性の評価:骨中のストロンチウム量(μg/gで表示)。
【図6】対照および参照薬物と比較しての、ストロンチウムに基づく逆ミセルを用いる、成長するラットにおける骨成長の促進活性の評価:血漿中のストロンチウム量(μg/gで表示)。
【図7A】バナジウムを含有する投与された逆ミセルのW比に応じて、D3でのSTZラットモデルにおいて得られた血糖値。
【図7B】バナジウムを含有する投与された逆ミセルのW比に応じて、D7でのSTZラットモデルにおいて得られた血糖値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100nm以下の水性コアを持つ逆ミセルの製造方法であって、
(a)(i)ステロール、(ii)アシルグリセロール、好ましくは脂肪酸のジグリセロール、(iii)水、特に精製水、および(iv)水溶性の金属カチオンを接触させ、
(b)工程(a)で得られた混合物を40℃以下で、逆ミセルが生成するのに十分な時間撹拌し、その撹拌を約1000〜約5000r/分の速度で機械的にまたは超音波処理により行うこと、
を含む方法。
【請求項2】
比W=(水)/(アシルグリセロール)が、約2.5以下、より好ましくは1以下、より具体的には0.01〜0.2である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステロールが、β−シトステロールである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
脂肪酸のジグリセロールが、1,2−ジオレインおよび1−オレオイル−2−アセチルグリセロールから選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
金属が、水溶性の塩を有する金属である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
金属が、生体触媒活性を示す金属である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
W比が、0.05〜0.18である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
混合物の撹拌が、約30〜35℃の間で行われる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
金属カチオンが少なくとも2の酸化状態にあるカチオンを表す、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
金属カチオンが、亜鉛、ニオブ、バナジウム、セレン、モリブデン、クロム、アンチモン、スズ、金、ルテニウム、パラジウム、白金、リチウムおよびストロンチウムよりなる群の中で選択される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の逆ミセル系。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法により得られる逆ミセル。
【請求項12】
薬学的に許容しうる担体中の請求項11に記載の逆ミセルを含む、医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【公表番号】特表2008−519026(P2008−519026A)
【公表日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−539653(P2007−539653)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【国際出願番号】PCT/IB2005/003605
【国際公開番号】WO2006/048773
【国際公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(505325235)メデシス・ファルマ・ソシエテ・アノニム (3)
【氏名又は名称原語表記】MEDESIS PHARMA S.A.
【Fターム(参考)】