説明

ジボランの製造方法

【課題】
半導体製造や太陽電池製造におけるドーパントやBPSG絶縁膜形成材料およびロケット推進薬等として有用であり、高次ボラン含量が低く、純度の高いジボランを簡便で安価な方法により、収率よく製造する方法を提供すること。例えば、半導体用途などで要求される超高純度ジボランを工業的に効率よく生産することができる。
【解決手段】
ソジウムボロハイドライドと、三ハロゲン化ホウ素とを、溶媒の存在下、水素濃度が0.01〜50vol%である不活性ガスの雰囲気で反応させる、ジボランの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造や太陽電池製造におけるドーパントやBPSG絶縁膜形成材料およびロケット推進薬等として有用なジボランの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジボランの製造方法としては、三塩化ホウ素や三フッ化ホウ素の還元による方法が知られ、ソジウムボロハイドライドと三塩化ホウ素からジボランを得る方法が、提案されている(特許文献1、特許文献2)。しかしながら、ジボラン分子(B)は、重合しやすく、高次ボラン(例えば、B10、B、B11等)を生成する性質を有することから、ジボランの製造において、高次ボランが生成して純度が低下する場合がある。特に、半導体製造用の材料に適したホウ素源として、超高純度のジボランが求められる場合には、ジボランの製造後、引き続き、精製する必要があるが、蒸留精製に要する負荷が大きくなることや収率が低下するなどの不具合がある。そこで、高次ボラン含有量が低く、純度の高いジボランが得られる製造方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第3142538号明細書
【特許文献2】特開平3−197301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、簡便で安価な方法により、高次ボラン含量が低く、純度の高いジボランを収率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ソジウムボロハイドライドと、三ハロゲン化ホウ素とを、溶媒の存在下、水素濃度が0.01〜50vol%である不活性ガスの雰囲気で反応させる、ジボランの製造方法に関する。
【0006】
本発明にかかるソジウムボロハイドライドと、三ハロゲン化ホウ素とからジボランを得る反応は、ソジウムボロハイドライド1モルに対して、三ハロゲン化ホウ素0.12〜0.16モルを反応温度−10〜40℃で、反応させる第1の反応工程と、三ハロゲン化ホウ素0.17〜0.21モルを反応温度20〜60℃で、反応させる第2の反応工程とからなることが好ましい。
【0007】
前記第1の反応工程における反応温度は、−10〜40℃であり、0〜40℃であることが好適である。反応時間としては、例えば、1〜2時間とするのが好ましい。
【0008】
前記第2の反応工程における反応温度は、20〜60℃であり、30〜50℃であることが好適である。反応時間としては、例えば、1〜6時間とするのが好ましい。
【0009】
前記三ハロゲン化ホウ素は、例えば、三塩化ホウ素、三フッ化ホウ素および三臭化ホウ素等が挙げられる。これらの中でも、三塩化ホウ素および三フッ化ホウ素である場合が好ましい。
【0010】
本発明にかかる第1の反応工程および第2の反応工程は、三ハロゲン化ホウ素が三塩化ホウ素である場合、それぞれ、下式(1)、(2)の反応式で表されるものと考えられる。
【0011】
7NaBH+BCl→4NaB+3NaCl (1)
6NaB+2BCl→7B+6NaCl (2)
即ち、式(1)で表される第1の発熱反応と式(2)で表される第2の吸熱反応により、2工程に分けて反応を行えば、目的とするジボランを収率よく、高純度で得られるので好適である。
【0012】
本発明にかかるソジウムボロハイドライドと、三ハロゲン化ホウ素との反応に用いられる溶媒としては、例えば、ジグライムおよびトリグライム等のエチレングリコールジメチルエーテル化合物が挙げられる。これらの中でも、ジグライムおよびトリグライムが好ましく用いられる。
【0013】
前記溶媒の使用量としては、例えば、ソジウムボロハイドライド1kgに対して、8〜30Lであることが好ましく、10〜18Lであることがより好ましい。
【0014】
前記溶媒の使用量が、ソジウムボロハイドライド1kgに対して、8L未満の場合、ソジウムボロハイドライドが、十分に溶解せず、反応しにくくなるおそれがあり、30Lを超える場合、容積効率が低く経済的でない。
【0015】
前記不活性ガスとしては、例えば、窒素、ヘリウムおよびアルゴン等が挙げられる。これらの中でも、窒素およびヘリウムが好ましく、窒素がより好ましく用いられる。
【0016】
本発明にかかる水素ガスと前記不活性ガスとの混合ガス中における水素ガスの濃度は、0.01〜50vol%であり、1〜30vol%であることが好ましい。混合ガス中の水素濃度が、0.01vol%未満である場合、高次ジボランの生成が抑制されにくく、50vol%を超える場合、使用量に見合う効果がなく経済的でない。
【0017】
次に、本発明の実施態様について、具体的に説明する。
【0018】
ガス吹込み管,撹拌器および還流冷却器を備えたステンレス製の反応容器に、所定量の溶媒およびソジウムボロハイドライドを仕込み、所定濃度の水素含有不活性ガスを冷却下(例えば、30℃以下)に液相に吹き込んで反応系内を置換する。次に、所定濃度の水素含有不活性ガスを用いて加圧状態(例えば、0.03MPaG)とし、所定の反応温度に保って、第1反応を行なう。この場合、未溶解のソジウムボロハイドライドが、懸濁状態を示す場合もあるが、そのまま、三ハロゲン化ホウ素の吹き込みを始め、所定量を添加して停止する。第1の反応工程は1〜2時間で完結するのがよい。時間が長くなるとメタン生成等の副反応等が起こって、収率や純度を向上する上で好ましくない。
【0019】
第1反応において、少量のメタンや塩化メチル等のガスが発生するため、次の第2の反応工程に先立って、所定濃度の水素含有不活性ガスを用いて反応系内から排出させる。
【0020】
所定濃度の水素含有不活性ガスによって、前述の副生ガスを含むガス成分をパージ後、引き続き、所定濃度の水素含有不活性ガスを用いて加圧状態(例えば、0.04MPaG)とし、所定の反応温度まで上げ、所定量の三ハロゲン化ホウ素を吹き込んで第2の反応工程を行なう。
【0021】
第2の反応工程の三ハロゲン化ホウ素の吹き込みにともなって、反応液中にジボランが生成する。かくして得られたジボランは、水素含有不活性ガスとともに、例えば、液体窒素を用いて約−196℃に冷却されたコールドトラップに導き、ジボランを凝縮、固化させることにより単離することができる。
【0022】
このようにして得られたジボランは、従来法で得られたものと比べて、高次ボラン含有量は低く、高い純度を有し、その結果、後述する蒸留精製における負荷を低減し、収率を高めることができる。
【0023】
本発明にかかる製造方法によって得られたジボランは、例えば、次のような方法で精製するとよい。
【0024】
即ち、上記のようにして得られたジボランをリボイラーでガス化し、次いで均一な細孔を持つ吸着剤を充填した充填塔で、ジボランと沸点が近接するCOやC等の不純物を吸着除去するとともに、還流液と向流接触させた後、塔上部に付設したコンデンサーで凝縮し、還流させることで精製することができる。
【0025】
前記吸着剤としては、シリカゲル、ゼオライトモレキュラーシーブおよび活性アルミナ等が挙げられるが、ジボランの品質に影響を及ぼさないものがよく、ゼオライトモレキュラーシーブが好適に用いられる。
【0026】
蒸留の圧力は0.01〜1.5MPaGであることが好ましい。0.01MPaG未満の場合、外気の漏れこみ等、安全上の問題を生じるおそれがあり、1.5MPaGを超える場合、装置の安全設計にコストがかかり経済的ではない。
【0027】
また、蒸留温度は、前記圧力に対応して定まり、−90〜−20℃であることが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明により、簡便で安価な方法により、高次ボラン含量が低く、純度の高いジボランを収率よく製造することができる。例えば、半導体用途などで要求される超高純度ジボランを工業的に効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに何ら限定されるものでない。
【0030】
実施例1
反応器出口に−50℃に冷却した還流冷却器を備え、その後に約−78℃に冷却した第1コールドトラップおよび約−196℃に冷却した第2コールドトラップを備えた内容積10LのSUS304製電磁撹拌式の反応器を用意した。
【0031】
前記反応器に、トリグライム6Lを仕込み、さらに粉末状のソジウムボロハイドライド500g(13.2モル)を加え、1vol%水素含有窒素ガスを、10L/分で吹き込みながら、内容液を25℃にした。
【0032】
次に、前記反応器の内容液中に、ガス状の三塩化ホウ素221.0g(1.89モル)を、流量計を用いて、1時間かけて吹き込み、第1の反応工程を行った。反応は発熱反応であり、少量のメタン含むガスが発生した。
【0033】
次に、反応系内を1vol%水素含有窒素ガスで置換した後、昇温して反応液温を40℃とし、三塩化ホウ素294.6g(2.51モル)を1.5時間かけて吹き込み第2反応を行った。
【0034】
全量の三塩化ホウ素を吹き込んだ後も、さらに40℃にて3時間、1vol%水素含有窒素ガスの吹き込みを継続し、生成するジボランの発生を完結させた。前記第2コールドトラップに捕集されたジボランのソジウムボロハイドライドに対する収率、純度および高次ボラン含量を表1に示す。
【0035】
得られたジボランを気化させた後、内径31mmφ、有効長さ1000mmのSUS316管に、吸着剤としてゼオライト モレキュラーシーブ(東ソー株式会社製ゼオラム4A(平均細孔径4Å))を充填したカラムを用い、吸着低温蒸留精製を行った。
【0036】
ゼオラム4Aは予め1.6mmφ×5〜7mmの押出円柱品を、400℃でヘリウム気流中で、4時間焼成したものを700ml充填した。原料ガスを導入する前に、全系を1vol%水素含有窒素ガスで置換し、無酸素状態にした。その後、リボイラーのジャケットを液体窒素で冷却しながら、前述で得られたジボランを仕込み、コンデンサーを−80℃、充填塔を−76℃に冷却した。リボイラーの温度を徐々に昇温し、ジボランを蒸発させた。昇温方法はリボイラーの冷媒を液体窒素からドライアイスメタノール液に切替え、これにメタノールを添加することにより約−71℃に温度調節しながら、前記ジボランを蒸発させ、精留を行った。この時の蒸留圧力は0.15MPaGに保った。全還流運転を実施した後、コンデンサー頂部に濃縮した低沸点ガスを放出し、精製された液化ジボランを分析し、メタン濃度が10ppm以下になった時点で精製ジボランとして回収した。精製ジボランのソジウムボロハイドライドに対する収率、純度および高次ボラン含量を表1に示す。
【0037】
実施例2
実施例1において、1vol%水素含有窒素ガスに代えて、20vol%水素含有窒素ガスを用いた以外は、実施例1と同様にして、ジポランを製造した。また、実施例1において、全系を1vol%水素含有窒素ガスで置換する代わりに、20vol%水素含有窒素ガスを用いた以外は、実施例1と同様にして、前記ジボランを精製し、精製ジボランを得た。得られたジボランおよび精製ジボランのソジウムボロハイドライドに対する収率、純度および高次ボラン含量を表1に示す。
【0038】
実施例3
実施例1において、トリグライム6Lに代えて、ジグライム6Lを、第1の反応工程における三塩化ホウ素221.0g(1.89モル)に代えて、三フッ化ホウ素128.1g(1.89モル)を、第2の反応工程における三塩化ホウ素294.6g(2.51モル)に代えて、三フッ化ホウ素170.2g(2.51モル)を、それぞれ用いた以外は、実施例1と同様にして、ジボランを製造した。また、実施例1と同様にして、前記ジボランを精製し、精製ジボランを得た。得られたジボランおよび精製ジボランのソジウムボロハイドライドに対する収率、純度および高次ボラン含量を表1に示す。
【0039】
比較例1
実施例1において、1vol%水素含有窒素ガスに代えて、窒素ガス単独を用いた以外は、実施例1と同様にして、ジボランを製造した。また、実施例1において、全系を1vol%水素含有窒素ガスで置換する代わりに、窒素ガス単独を用いた以外は、実施例1と同様にして、前記ジボランを精製し、精製ジボランを得た。得られたジボランおよび精製ジボランのソジウムボロハイドライドに対する収率、純度および高次ボラン含量を表1に示す。
【0040】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソジウムボロハイドライドと、三ハロゲン化ホウ素とを、溶媒の存在下、水素濃度が0.01〜50vol%である不活性ガスの雰囲気で反応させる、ジボランの製造方法。
【請求項2】
前記反応が、ソジウムボロハイドライド1モルに対して、三ハロゲン化ホウ素0.12〜0.16モルを反応温度−10〜40℃で反応させる第1の反応工程と、三ハロゲン化ホウ素0.17〜0.21モルを反応温度20〜60℃で反応させる第2の反応工程とからなる請求項1に記載のジボランの製造方法。
【請求項3】
三ハロゲン化ホウ素が、三塩化ホウ素または三フッ化ホウ素である請求項1または2に記載のジボランの製造方法。
【請求項4】
溶媒が、ジグライムまたはトリグライムである請求項1〜3のいずれか1つに記載のジボランの製造方法。
【請求項5】
不活性ガスが、窒素、ヘリウムまたはアルゴンである請求項1〜4のいずれか1つに記載のジボランの製造方法。

【公開番号】特開2011−46569(P2011−46569A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197316(P2009−197316)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)