説明

ジルコニウム系非晶質合金及びその使用

【課題】ガラス形成能が良好で、生体との適合性を改善した合金、特に、体液と接触してもニッケルを放出しない合金を提供する。
【解決手段】非晶質相を含み、一般式[ZrFe100−x(Al100−y100−a100−bで表され、式中、a、b、x、yは原子パーセントを示す実数であって、70≦a≦90、x≧50、y>0、0≦b≦6であり、Gはプラチナ及びパラジウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素であり、Zは少なくとも1つの元素からなる成分であり、G及びZの全ての元素は、互いに異なり、ジルコニウム、鉄、及びアルミニウムではなく、前記合金は実質的に銅及びニッケルを含まないことを特徴とする合金。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1から19の前文の特徴を有する合金、及びその使用に関する。また、本発明は、前記合金から製造された成形品、特に、人工臓器などのインプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
多くの合金を、例えば10K/秒の非常に高い冷却速度における超急冷により、ガラス質の状態、すなわち、非晶質の非結晶構造にすることができる。しかし、これらの合金のほとんどは、鋳造による冷却速度よりもかなり低い冷却速度では、バルクガラス質の構造に鋳造することができない。
【0003】
近年、冷却速度が1000K/秒未満であればガラス化に十分であるような、バルク金属ガラス形成液が多く見出されている。本明細書では、「バルク金属ガラス」とは、非晶質相の融点を上回る温度から、ガラス遷移温度を下回る温度まで、冷却速度1000K/秒以下、好ましくは100K/秒以下で冷却した場合に、少なくとも部分的に非晶質構造を発現する合金をいう。この範囲における冷却速度はバルク鋳造作業において一般的である。
【0004】
バルク金属ガラスは、一般に、それらの結晶体よりも優れた機械特性を有する。可塑変形のための転位機序がないために、バルク金属ガラスは往々にして高い降伏強さ及び弾性限界を有する。さらに、多くのバルク金属ガラスは、良好な破壊靭性、耐食性、及び疲労特性を有する。このような材料の性質及び応用分野の概略については、例えば、Johnson WL、MRS Bull、24、42(1999)及びLoffler JF、Intermetallics 11、529(2003)を参照されたい。これらの文献の開示事項及び、これら文献に引用されたガラス形成金属合金の性質、及び、ガラス形成金属合金の性質を決定するための方法を教示する援用例は、明らかに参照される。バルク金属ガラスの産業分野への適用は、例えば、Buchanan O, MRS Bull. 27, 850 (2002)に記載されている。
【0005】
現在、ジルコニウム系のバルク金属ガラス(及び宝石用プラチナ系ガラスのいくつか)だけは、その適用分野を見出している。従来技術に関する下記の文献が、ジルコニウム系のガラス形成合金に関するものである。
−米国特許5,740,854は、組成Zr65Al7.5Ni10Cu17.5の合金を開示している。
−米国特許5,288,344は、一般組成Zr−Ti−Cu−Ni−Beの合金を開示している。特に、商標名Vitreloy1又はVit1で知られる合金Zr41.2Ti13.8Cu12.5Ni10Be22.5及び商標名Vitreloy4又はVit4で知られる合金Zr46.75Ti8.8Ni10Cu7.5Be27.5がこの文献に開示されている。
−米国特許5,737,975は、一般組成Zr−Cu−Ni−Al−Nbの合金を開示している。特に、商標名Vitreloy106又はVit106で知られる組成Zr57Cu15.4Ni12.6Al10Nbの合金がこの文献に開示されている。
−Lin X H, Johnson W L, Rhim W K, Mater. Trans. JIM 38, 473 (1997)は、Vit105で知られる合金Zr52.2TiCu17.9Ni14.6Al10を開示している。
−Loffler JF, Bossuyt S, Glade SC,
Johnson WL, Wagner W, Thiyagarajan P, Appl. Phys. Lett. 77, 525 (2000) and Loffler JF, Johnson WL, Appl.
Phys. Lett. 76, 3394 (2000)には、Vit1、Vit105及びVit106の比較考察が記載されている。
−Kundig AA, Loffler JF, Johnson WL, Uggowitzer PJ, Thiyagarajan P, Scr. mater. 44, 1269 (2001)には、一般式Zr52.5Cu17.9Ni14.6Al10−xTi5+x、の合金、すなわちVit105の組成の近くで変わった合金組成が記載されている。
−Inoue A, Shibata T. and Zhang T., Mater. Trans. JIM 36, 1426 (1995)には、組成Zr65−xTiAl10Cu15Ni10の合金が開示されている。
−Zhang T, Inoue A, Mater. Trans. JIM 39, 1230 (1998)には、組成Zr70−x−yTiAlCu20Ni10の合金が開示されている。
−Xing LQ, Ochin P, Harmelin M et al, Mat. Sci. Eng. A220, 155 (1996)には、とりわけ、組成Zr57Cu20Al10NiTiの合金及び他のZr−Cu−Al−Ni−Ti系合金が開示されている。
−Loffler JF, Thiyagarajan P, Johnson WL, J. Appl. Cryst. 33, 500 (2000)には、その(Zr、Ti)及び(Cu、Be)含量が、Vit1及びVit4の組成の間で変化するZr−Ti−Cu−Ni−Be合金が開示されている。
−Inoue A, Zhang T, Nishiyama N, Ohba K, Masumoto T, Mater. Trans. JIM 34, 1234 (1993)には、組成Zr65Al7.5Cu17.5Ni10の合金が開示されている。
【0006】
下記の文献によれば、Zr−Al−Ni−Cu合金に鉄を添加すると、ガラス形成能が改良されないどころか、低下さえすると考えられていた。
-Inoue A, Shibata T, Zhang T, Mater. Trans. JIM 36, 1420 (1995)
−Eckert J, Kubler A, Reger−Leonhard A et al, Mater. Trans. JIM 41, 1415 (2000)
−Mattern N, Roth S, Kuhn U et al, Mater. Trans. JIM 42, 1509 (2001)
【0007】
その好ましい機械的特性により、バルク金属ガラスはバイオメディカル用途に使用すると有望である。しかし、最もよく知られているガラス形成合金、特にジルコニウム系の合金は、かなりの比率でニッケル(Ni)を含有している。ニッケルに曝されると、場合により、アレルギーを引き起こすことが知られている。それゆえ、これらの合金は、合金が体液、皮膚、細胞、又はその他の身体部分に接触する医療用途にはあまり向いていない。特に、これらの合金は、長時間身体に接触すると少量のニッケルを放出する傾向があるため、アレルギー反応を引き起こす。ニッケルほどではないにしろ、銅(Cu)もまた問題がある。
【0008】
Fan C, Inoue A, Mater. Trans. JIM 38, 1040 (1997)は、ナノ単位の化合物粒子を、Zr−Cu−Pd−Al非晶質合金に析出させることによって、機械的特性を改良できると記載している。しかしながら、これらの合金は、バルク金属ガラスではなく、溶融紡糸又は超急冷を実施する場合にのみ非晶質である。
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、ガラス形成能が良好で、生体との適合性を改善した合金、特に、体液と接触してもニッケルを放出しない合金を提供することにある。
【0010】
上記目的は、請求項1の特徴を有する合金によって達成される。
【0011】
本発明の他の目的は、ガラス形成能が良好で、生体との適合性を改善した合金、特に、銅とニッケルの両方を実質的に含有しない合金を提供することにある。
【0012】
上記目的は、請求項19の特徴を有する合金によって達成される。
【0013】
かくして、少なくとも4つの成分A、D、E及びGを含有する合金が提供される。必要に応じて、第5の成分Zが存在してもよい。この合金は、好ましくは、少なくとも1つの非晶質相を含むバルク構造を有する。すなわち、合金の少なくとも10%、好ましくは50%の体積分率が非晶質である。この文書の文脈においては、この構造を有する材料がX線回折パターンにおいて明らかなブラッグピークを示さない場合、この構造は完全に非晶質であると考えられる。よって、混合相材料における非晶質相の体積分率は、ブラッグピークの強度を積分し、非ブラッグ特性の強度と比較することによって概算することができる。
【0014】
好ましくは、非晶質相は、冷却速度1000K/秒以下で、非晶質相の融点を上回る温度から、かつガラス遷移温度を下回る温度まで冷却することによって得られる。すなわち、合金はバルク金属ガラスである。より好ましくは、非晶質相は、冷却速度100K/秒以下で得られる。これにより、材料を鋳造、特に、銅の鋳型を用いた鋳造によって形成することができる。換言すれば、少なくとも1つの非晶質相を有する合金が、空間のいずれの方向においても、少なくとも0.1ミリメートル、好ましくは少なくとも0.5ミリメートル、さらに好ましくは少なくとも1ミリメートルの寸法を有する形状で得られる。これは、超急冷もしくは溶融紡糸によって達成される冷却速度においてのみ非晶質構造をとる合金には不可能である。
【0015】
成分Aはジルコニウム、ハフニウム、チタニウム、ニオビウム、ランタン、パラジウム、及びプラチナからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素からなる。その他の成分D、E、G、及び、必要に応じて、Zは、それぞれ互いに異なり、成分Aとも異なる。これらの成分のそれぞれは、全ての成分の全ての元素が異なる限り、複数の元素からなっていてもよい。好ましくは、成分D、E及びGはそれぞれ単一の元素からなっている。合金の組成は「80:20の図式」に準じる。すなわち、成分A及びDの全原子含量と、成分E及びGの全原子含量の比率が、プラスマイナス10、好ましくはプラスマイナス5、特にプラスマイナス2の幅をもって、およそ80対20であるということである。
【0016】
本発明の合金は下記の化学式で表わされる。
[(A100−xa(E100−y100−a100−bb
(式中、x、y、a及びbは、原子パーセントを示す、ゼロ及び正の実数から選ばれる独立した数であり、70≦a≦90、好ましくは75≦a≦85、より好ましくは78≦a≦82である)下記の例は、原子パーセントの意味を説明するためのものである。かっこの外側及び内側の指数を乗じる前に、かっこの内側の指数を100で除する。例えば、(Zr72.5Cu27.580(Fe40Al6020はZr58Cu22FeAl12となる。すべてのかっこをはずすと、各指数は、合金の式単位に寄与する元素数を表す。この例では、ジルコニウムの58の元素は、銅の22の元素、鉄の8つの元素、及びアルミニウムの12の元素と結合して1つの式単位となる。換言すれば、もし1つの数が「原子パーセント」であるならば、これは100で除した場合に、通常の化学で理解されている化学当量論を示す。
【0017】
成分Aは、x≧50という意味で、本発明の合金における主成分である。成分Dの含量を有効にするため、好ましくはx≦95であり、より好ましくはx≦90である。成分Eに対する成分Gの含量が少なすぎないことが有利であり、好ましくはy≧5、より好ましくはy≧10である。一方、含量は多すぎてはならない。好ましくは、y≦95、より好ましくはy≦90である。もし、第5の成分Zが存在するならば、その成分は、ごく少ない比率においてのみ存在する。数でいえば、0≦b≦6、好ましくは0≦b≦4、より好ましくは0≦b≦2である。数x、y、a及びbは、通常、それぞれ互いに独立している。
【0018】
本発明の合金は実質的にニッケルを含まないことが重要である。本明細書において、「実質的にニッケルを含まない」とは、合金の全ニッケル含量が1原子パーセント未満、好ましくは0.1原子パーセント未満であることを意味する。医療用途では、ニッケル含量は10原子ppmを下回ることが要求される。特に、成分A、D、E、G又はZのいずれもニッケルを含有しないことが要求される。
【0019】
好ましくは、成分A及びEは広い組成及び温度範囲で混和する。「広い組成及び温度範囲」とは、「少なくとも600Kの温度範囲を超えて拡がる温度範囲」、及び、液状であり、A−E相の相図における液状温度を下回るいずれかの成分について、「少なくとも60原子パーセントを超えて拡がる組成範囲」を意味する。本例では、広い組成範囲とは、例えば、AからEの二成分系混合物において、成分Aが20原子パーセントから80原子パーセントであることを意味する。
【0020】
成分A及び成分Eが、他の成分の不在下で、深い共晶組成物を形成できることがより好ましい。「深い共晶組成物を形成できる」とは、A及びEが、他の成分の不在下で、溶融状態で混合した場合、A及びEが液相温度まで混和する組成物があり、その組成物に関する混合物の液相温度が、組成の関数としての極小値を有していることを意味する。換言すれば、深い共晶組成の近域で組成を変えた場合、液相温度が、深い共晶そのものの組成における温度よりも高いということである。往々にして、深い共晶組成物における二成分系の液相温度は、各成分の融点よりもさらに低くなる。深い共晶組成の一例として、成分Aがジルコニウムの場合、融点T(Zr)は2128Kであり、成分Eが鉄の場合、融点T(Fe)は1811Kであり、共晶は1201K=0.66T(Fe)で発生する。同様に、T(Au)=1337K、T(Si)=1687Kの場合、共晶は636K=0.47T(Au)である。
【0021】
好ましくは、成分AからEの混合物の深い共晶組成物が、組成Aa’100−a’(この場合、70≦a’≦90、好ましくは75≦a’≦85)で生じるように成分を選択する。それから、数字aを、好ましくはa及びa’の差の絶対値が10よりも小さいか10に等しくなるように(すなわち|a−a’|≦10、好ましくは|a−a’|≦5)選択する。
【0022】
好ましくは、成分A及びDは広い温度範囲及び組成範囲で混和する。より好ましくは、成分A及びDは、二成分系で混合した場合、深い共晶組成物を形成できる。もし、成分A及びDがAx’100−x’で深い共晶組成物を形成した場合、xは好ましくは、|x−x’|≦10、より好ましくは|x−x’|≦5となるように選択される。
【0023】
好ましくは、成分Gは、特に、成分Eが遷移金属、特に鉄及びコバルトからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素である場合、広い温度範囲及び組成範囲で成分Eと混和する。そして、好ましくは、成分Gは成分Aと共に深い共晶組成物を形成する。
【0024】
より好ましくは、成分G及びEは、Ey’100−y’で、深い共晶組成物を形成することができる。そして、yは、好ましくは|y−y’|≦10、より好ましくは|y−y’|≦5となるように選択される。又は、もしくはさらに、A及びGが、好ましくは深い共晶組成物を形成することが好ましい。
【0025】
好ましくは、成分Aの各元素のゴールドシュミット原子半径が比較的大きく、少なくとも0.137ナノメートル、好ましくは、少なくとも0.147ナノメートル、より好ましくは、少なくとも0.159ナノメートルである。特に、成分Aの各元素のゴールドシュミット原子半径が、少なくとも0.159ナノメートルの場合、好ましくは70≦a≦90である。もし、この半径が少なくとも0.147ナノメートルである場合、好ましくは、75≦a≦85である。もし、この半径が少なくとも0.137ナノメートルである場合、好ましくは、78≦a≦82である。特に、ジルコニウム、ハフニウム、及びランタン系の合金の場合、好ましくは70≦a≦90であることを意味する。チタニウム及びニオビウム系の合金の場合、好ましくは75≦a≦85である。プラチナ及びパラジウム系の合金の場合、好ましくは78≦a≦82である。
【0026】
成分A、D、E及びGは同様の原子半径及び原子特性を有してもよい。しかし、成分Eにおける各元素の原子半径は、成分Aにおける各元素の原子半径よりも小さいことが好ましい。
【0027】
元素の原子(ゴールドシュミット)半径を表にまとめたものが、標準的な教科書又は英国HuntingdonのGoodfellow社から出版された2004版GoodfellowCatalogに掲載されている。特に選択された元素については、下記の表1を参照されたい。
【0028】
【表1】

【0029】
一般に、成分Dは、好ましくは銅、ベリリウム、銀、及び金からなる群から選ばれる少なくとも1つの元素であることが好ましい。特に、成分Aが、ランタン、パラジウム、及びプラチナからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素である場合、成分Dは好ましくは銅である。成分Aが、ジルコニウム、ハフニウム、及びチタンからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素である場合、成分Dは好ましくは銅もしくはベリリウムである。銅及びベリリウムのどちらも、ジルコニウム、ハフニウム、及びチタンと深い共晶組成物を有する。
【0030】
一般に、成分Eは、好ましくはニッケルを除く遷移金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属である。特に、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、亜鉛、イットリウム、モルビデン、タンタリウム、及びタングステンである。遷移金属とは、原子番号21から30、39から48、71から80の、30個の化学元素のいずれかであると定義される。これらの金属は、成分Aと深い共晶組成物を形成しやすい傾向、及びその特殊な電子特性ゆえに好適である。特に、成分Eは、鉄及びコバルトから選択される少なくとも1つの金属であることが好ましい。これらの金属が好ましいことが、経験則的に見出された。
【0031】
成分Gは、好ましくはアルミニウム、ジルコニウム、リン、炭素、ガリウム、インジウム、及びメタロイドからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素である。特に、ホウ素、シリコン、及びゲルマニウムである。公知のメタロイドとしては、ホウ素、シリコン、ゲルマニウム、砒素、アンチモン、テルリウム、ポロニウムが挙げられる。これら元素の特有な電子特性が、ガラス形成能に良い影響を与えると考えられている。さらに、ホウ素、リン、炭素、及びシリコンは特に小さい原子サイズ(≦0.117ナノメートル)を有するが、これは、成分A及び成分Gのサイズの大きな違いに寄与する。特に、成分Eが鉄の場合、成分Gは、好ましくは、アルミニウム、ジルコニウム、リン、ホウ素、シリコン、及び炭素からなる群から選ばれる。より好ましくは、成分Eが鉄の場合、成分Gはアルミニウムである。この場合、yは、好ましくは、およそ30から50の範囲、特におよそ40になるように選択される。又は、成分Eがコバルトの場合、成分Gは好ましくは、ジルコニウム、アルミニウム、ホウ素、シリコン、ゲルマニウム、ガリウム及びインジウムから選択される少なくとも1つの元素である。
【0032】
好適な実施態様において、成分Aはジルコニウム又はジルコニウムと、ハフニウム又はチタンのうちのいずれかとの混合物、又はその両方との混合物であり、成分Aの少なくとも80原子パーセントがジルコニウムである。成分Dは、好ましくは銅である。この組み合わせによって、合金がすぐれたガラス形成能を有することが、経験則的に見出された。
【0033】
成分Aがジルコニウムで成分Dが銅の場合、xは62及び83の間(すなわち、62≦x≦83)から選択されるのが好ましい。好ましくは68≦x≦77で、特に好ましくは、xはおよそ72.5である。成分Aがジルコニウムで成分Dが銅の場合、成分Eが鉄であり、成分Gがアルミニウムであればさらに好ましい。この場合、yはおよそ30からおよそ50の範囲で選択されるのが好ましい。特に好ましくは、yはおよそ40である。この組成の合金、特に、Zr58Cu22FeAl12に近似した組成の合金が、これまでで最も優れたガラス形成能を有することが発明者等によって見出された。
【0034】
第5の成分Zが存在する場合、この成分は、好ましくは、チタン、ニオビウム、ハフニウムからなる群から選択された少なくとも1つの元素である。又は、成分Zは、好ましくは、遷移金属からなる群から選択された少なくとも1つの元素、又は、成分Zは、好ましくは、ベリリウム、イットリウム、パラジウム、銀、プラチナ、錫からなる群から選択された少なくとも1つの元素である。一般に、成分Zは、成分Aと共に、深い共晶組成物を形成可能なことが好ましい。
【0035】
本発明の合金は、少なくとも1つの非晶質相及び少なくとも1つの結晶相を含む構造を有することができる。非晶質相の体積分率は、好ましくは、少なくとも10パーセントである。非晶質相及び結晶相は、巨視的には分離されていてはならない。このような構造は、異なる手段によって生成できる。1つの方法として、非晶質のマトリックスに埋め込まれた結晶を含む複合物を、ガラス遷移温度を上回る温度で合金を熱処理することによって製造できる。詳細については、下記の好ましい態様の説明を参照されたい。別の方法として、例えば、Holland TB, Loffler JF, Munir ZA, J. Appl. Phys. 95, 2896 (2004)に記載されているように、本発明の合金に電流を流す方法がある。それには、高密度直流電流の影響下での金属ガラスの結晶化について記載されている。さらに別の方法としては、溶融状態の合金組成を、当初、ガラス形成領域外にあるように選択する方法がある。冷却時に、溶融物の内部で結晶が生成し始める。これによって、溶融物に残存する混合物の組成が、ガラス形成領域に変化する。さらに冷却すると、結晶が埋め込まれたガラス質のマトリックスが形成される。詳細については、Hays CC, Kim CP, Johnson WL, Phys Rev. Lett. 84, 2901 (2000)を参照されたい。さらに別の方法としては、第5の成分Zとして適当なものを選択することによって、非晶質マトリックスにおける結晶の成長を促進させる方法がある。適切な成分Zは、好ましくは、チタン、ニオビウム、タンタル、又は遷移金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの元素、又はベリリウム及びパラジウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素である。詳細については、例えば、He G, Eckert J, Loser W, Schultz L, Nature Materials 2, 33 (2003)を参照されたい。
【0036】
好ましい態様において、成分Aはジルコニウムであり、成分Dは、銅及び鉄からなる群から選ばれる。特に、成分Aがジルコニウムであり、成分Dが銅であり、成分Eが鉄及びコバルトからなる群から選ばれることが好ましい。そして、成分Gは、好ましくは、アルミニウム及びメタロイドからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素であることが好ましい。特に好ましい系は、Zr−Cu−Fe−Al系である。すなわち、成分Aがジルコニウム、成分Dが銅、成分Eが鉄、成分Gがアルミニウムである。この組成の合金が、前述した80:20の概念に従えば、好ましいガラス形成特性を有することが見出された。
【0037】
成分Aがジルコニウム及び成分Dが銅である場合、これらの比率は62≦x≦83に従って選択するのが好ましい。成分Eが鉄で成分Fがアルミニウムの場合、これらの比率は30≦y≦50に従って選択するのが好ましい。これらの範囲の組み合わせは、一般的な80:20の概念と共に、非常に優れたガラス形成特性を有する4成分系化合物の範囲を決定する。
【0038】
特に、本発明の合金は式(ZrCu100-x80(Fe40Al6020によって実質的に表される。ここでxは62≦x≦83である。特にxが62、64、66、68、72.5、77、79、81又は83、又は、下記の式のいずれかで表される。(Zr95Ti72Cu13Fe13Al、Zr70Cu13Fe13AlSn、Zr70Cu13Fe13AlCr、Zr70Cu13Fe13AlNb、Zr70Cu13Fe13AlZn、(Zr72Cu13Fe13Al98Mo、(Zr72Cu13Fe13Al98、(Z95Hf72Cu13Fe13Al、Zr70Cu11Fe11Al、Zr71Cu11Fe10Al、(Zr74Cu13Fe1390Al10、Zr72Cu13Fe13Al、(Zr74Cu13Fe1398Al、Zr73Cu13Fe13Al、Zr72Cu13Fe13Al、Zr71Cu13Fe13Al、Zr72Cu12Fe12Al、Zr70Cu13Fe13Al、Zr72Cu11Fe11Al、Zr72Cu11.5Fe11Al5.5、Zr73Cu11Fe11Al、Zr71Cu11Fe11Al、Zr69Cu11Fe11Al、Zr70Cu10.5Fe10.5Al、Zr70Cu10Fe11Al、Zr70Cu11Fe10Al、Zr69Cu10Fe10Al11、Zr69Cu10Fe11Al10、Zr70Cu13Fe13AlSn、Zr72Cu13Fe13Sn、(Zr74Cu13Fe1398Sn、(Zr79Cu2180(Fe40Al6020、(Zr81Cu1980(Fe40Al6020、(Zr83Cu1780(Fe40Al6020、(Zr66Cu3480(Fe40Al6020、(Zr64Cu3680(Fe40Al6020、及び(Zr62Cu3880(Fe40Al6020
【0039】
80:20の概念に従った場合に優れたガラス形成特性を有する別の系は、Zr−Fe−Al−(Pd/Pt)系である。この系は、銅が含まれていないという点でさらに有利である。換言すれば、好ましくは、成分Aはジルコニウム、成分Dは鉄、成分Eはアルミニウム、及び成分Gは、パラジウム及びプラチナから選択される1つ又は両方の元素である。特に、成分Gがパラジウムである場合、ガラス形成能が高まることが見出されたが、一方で、パラジウムをプラチナに全体的又は部分的に代えると、生体適合性が若干向上する。これに関連して、パラジウム及びプラチナが、元素周期表の同じグループに属すること、及び、同様の(外殻)電子構造を有し、ほとんど同じゴールドシュミット半径及び同様の化学的挙動を有することに注目されたい。それゆえ、パラジウムの代わりにプラチナを使用しても、合金のガラス形成能に大きな変化がないことが期待される。これらの系においては、鉄とアルミニウムの原子パーセントが実質的に等しい場合、有利である。ガラス形成能が高いのは、68≦x≦89及び73≦a≦87の場合であることが見出された。とりわけ良好な結果は、特に成分Gがパラジウムである場合、81≦x≦85、80≦a≦83、及び65≦y≦80について得られた。アルミニウムとパラジウム/プラチナとの比率は40≦y≦82に従って選択される。
【0040】
一般に、ごく少量の追加元素が存在することが好ましい。すなわち、0≦b≦2であることが好ましい。特に、b=0であることが好ましい。すなわち、実質的には、多くともごく少量の追加元素しか存在しないことが好ましい。このような元素が存在する場合、すなわちb>0であるならば、Zは、好ましくはチタン、ハフニウム、バナジウム、ニオビウム、イットリウム、クロム、モリブデン、鉄、銅、錫、亜鉛、燐、パラジウム、銀、金、及びプラチナからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素である。
【0041】
別の表現をすれば、Zr−Fe−Al−Pd/Pt系は、一般式Zr(Fe50+εAl50−εを満たす場合、良好なガラス形成能を有する。ここで、Xは、パラジウム、プラチナから選択される1つ又は両方の元素、a、b、c、及びεは、原子パーセントを示す、ゼロ又は正の実数で、ε≦10、i≧50、j≧19、k≧0.5、i+j+k=100である。Xがパラジウムの例において、良好なガラス形成能が達成された。一方、パラジウムを、パラジウムと非常によく似た特性を有するプラチナに部分的、又は全体的に代えると、生体適合性が若干向上する可能性が期待される。好ましい範囲は(独立又は組み合わせて)62≦i≦77、19≦j≦34、及びε≦2である。好ましくは、εは実質的にゼロ、すなわち、鉄及びアルミニウムの原子パーセントがほぼ等しいということである。この系で発見された最も良いガラス形成合金について、εは実質的にゼロであり、66≦i≦70、25≦j≦29、及び4≦k≦7である。この系の、最も良好なガラス形成合金は、上述した80:20の概念に準じるものである。
【0042】
特に、下記の式の1つで実質的に表される合金は、高いガラス形成能を有している。Zr67Fe13.2Al13.2Pd6.6、Zr69.7Fe12.95Al12.95Pd4.4、Zr66.7Fe14.45Al14.45Pd4.4、Zr68.3Fe13.4Al13.4Pd4.9、Zr65.4Fe14.85Al14.85Pd4.9、Zr62.3Fe16.7Al16.7Pd4.3、Zr59.2Fe18.3Al18.3Pd4.2、Zr72Fe11.5Al11.5Pd5、Zr73.4Fe10.9Al10.9Pd4.8、Zr75.2Fe10.2Al10.2Pd4.3、Zr77Fe9.5Al9.5Pd、Zr67.9Fe11.8Al11.8Pd8.5、Zr65Fe11.4Al11.4Pd12.2、Zr62.5Fe10.75Al10.75Pd16のいずれかで表される合金、式Zr(Fe50Al5030Pd70−i(62≦i≦69.5)、特に、式Zr69.5Fe15Al15Pd0.5、Zr69Fe15Al15Pd0.5、Zr68Fe15Al15Pd、Zr67Fe15Al15Pd、Zr66Fe15Al15Pd、Zr65Fe15Al15Pd、Zr64Fe15Al15Pd、Zr63Fe15Al15Pd、Zr62Fe15Al15Pdのいずれかで表される合金、又は、Zr71Fe12Al12Pd、Zr69Fe12.85Al12.85Pd5.3、Zr66.8Fe13.7Al13.7Pd5.8、Zr65Fe14.5Al14.5Pd、Zr61.9Fe16.2Al16.2Pd5.7、Zr50Fe12Al12Pd26、Zr53.2Fe12.6Al12.6Pd21.6、Zr57.6Fe13.95Al13.95Pd14.5、Zr60Fe14.3Al14.3Pd11.4のいずれかで表される合金である。
【0043】
好ましくは、合金は少なくとも1つの非晶質相及び少なくとも1つの結晶相を含む構造を有している。前記少なくとも1つの非晶質相は、好ましくは、合金の融点を超える温度から、非晶質相のガラス遷移温度を下回る温度まで、冷却速度1000K/秒以下で冷却することによって得られる。すなわち、本発明の合金は、好ましくは、バルク金属ガラスである。
【0044】
本発明は、さらに、上記の本発明の合金を製造する方法にも関する。その方法は、
−成分A、D、E、G、及び、必要に応じて、成分Zのアリコットの溶融物を準備し、及び
−前記溶融物を、融点を超える温度から、非晶質相のガラス遷移温度を下回る温度まで、冷却速度1000K/秒以下で冷却し、固体状の物質を得ることを含む。
【0045】
又は、本発明の合金は、例えば、Eckert J, Mater. Sci. Eng. A 226−228, 364 (1997):
Mechanical alloying of highly processable glassy alloysに記載されているような機械的な方法によっても製造できる。機械的な方法とは、合金又は固体状の成分を機械的に加工することを意味し、液体状態を経ない。特に、例えば結晶粒子を機械的に合金にすることにより、非晶質の金属合金が得られる可能性がある。好適な機械的方法としては、ボールミリメートルングがあるが、これに限定されるものではない。詳細については、上述したEckertの論文の教示に明確に言及されている。
【0046】
本発明の方法は、さらに、例えば、混合相の材料を得るために、上記の合金を、ガラス遷移温度を超えて加工する工程を含むことができる。特に、本発明の方法は、固化した材料を、最初の結晶化温度を下回る温度で、数分から15時間、熱処理する、又は、最初の結晶化温度を上回る温度で、数秒から2時間、熱処理する工程を含む。最初の結晶化温度は、温度をガラス遷移温度より上げた場合の、非晶質合金のDTAスキャンにおける最初の発熱特性の温度である。比較的低温度における熱処理は、反応速度をゆるやかにする。ゆるやかな反応速度は、小さい結晶の形成につながると考えられている。詳細については、下記に記載する好適な実施態様を参照されたい。
【0047】
特殊な表面特性を有する材料を得るには、例えば、Kundig AA, Cucinelli M, Uggowitzer PJ, Dommann A, Microelectr. Eng. 67, 405 (2003):「ジルコニウム系のバルク金属ガラスを用いた、高アスペクト比の表面微細構造の形成」、又は、特許出願PCT/CH2004/000401に記載されている方法で、合金を微細構造化させればよい。これらの文献の内容は、参考として、その全体をここに盛り込んでいる。微細化は、それ自体が微細構造を有する鋳型に、液状の合金を流し込むことによって達成できる。詳細については、上述のKundig等による論文及びPCT/CH2004/000401が参考となる。別の態様においては、すでに固化した合金を、ガラス遷移温度を超える温度まで熱することによって超可塑性の状態、すなわち、加工しやすい状態にし、微細化されたマトリックスに押し当てる。詳細については、PCT/CH2004/000401を参照されたい。好適な実施態様においては、微細構造を有するマトリックスは、エッチングで微細構造を設けたシリコンウェハーであって、当該技術分野では周知である。またさらに別の態様においては、液状の合金は、毛管効果によって毛管系に引き込まれ、毛管内で急速に固化する。詳細については、PCT/CH2004/000401の教示が参考となる。
【0048】
本発明はまた、人又は動物の身体に接触する成形品の製造への、本発明の合金の使用にも関する。特に、本発明は、外科用機器、宝石類、とりわけ時計ケースや人工器官、特に、いわゆるステントと称される人工臓器の製造への、本発明の合金の使用に関する。ステントは、血管に挿入する人工臓器で、血管の内表面をライニングするものである。ステントは、特に、血管に十分な血流を確保するため、又は動脈瘤の防止を目的として血管を安定させるために用いられる。本発明の合金が使用できるその他のインプラントは、骨接合の分野で使用できる。例えば、股関節インプラント、人口膝等である。本発明は、また、本発明の合金から製造された人口臓器、特にステントに関する。
【0049】
本発明の合金は、生体適合性が高く、高強度と高弾性のため、特に、このようなバイオメディカルの用途に好適である。特に、一般組成Zr−Cu−Fe−Al又はZr−Fe−Al−Pdで表される、本発明の合金がこれらの目的に非常に適している。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、ジルコニウムと鉄の二成分系合金の、ごく簡略化した、概略的な相図である。
【図2】図2は、銅とジルコニウムの二成分系合金の、ごく簡略化した、概略的な相図である。
【図3】図3は、鉄とアルミニウムの二成分系合金とε相の、ごく簡略化した、概略的な相図である。
【図4】図4は、組成Zr54.4Cu25.6Fe、Al12Zr58Cu22FeAl12及びZr61.6Cu18.4FeAl12の合金を1ミリメートルx1センチ平方に鋳造(鋳放し)した合金のXRDパターンである。
【図5】図5は、1ミリメートルx1センチ平方に鋳造した(鋳放し)、組成Zr54.4Cu25.6FeAl12、Zr58Cu22FeAl12及びZr61.6Cu18.4FeAl12(波数Q=4πsinθ/lであり、θは散乱角の半分であり、及びlは中性子の波長である)である合金の、小角中性子散乱強度データである。
【図6】図6は、Zr54.4Cu25.6FeAl12、Zr58Cu22FeAl12、Zr61.6Cu18.4FeAl12及びZr65Al7.5Ni10Cu17.5の組成を有するサンプルの、加熱速度20K/分で実施されたDTAスキャンである(Tはガラス遷移であり、Tx1は最初の結晶化温度である)。
【図7】図7は、Zr58Cu22FeAl12の、加熱速度20K/分で実施されたDTAスキャンである。
【図8】図8は、Zr58Cu22FeAl12の組成を有する鋳造されたサンプルを、実際のサイズを示すルーラーと共に示した写真である。
【図9】図9は、直径5、7、及び8ミリメートルの円筒ロッド、及び厚さ1ミリメートル(挿入図)の板に鋳造されたZr58Cu22FeAl12のXRDパターンである。
【図10】図10は、直径5、7、及び8ミリメートルの円筒ロッド(加熱速度20K/分)に鋳造されたZr58Cu22FeAl12のDTAスキャンである。
【図11】図11は、外径6ミリメートルの円錐に鋳造されたZr54.4Cu25.6FeAl12のXRDパターンである。
【図12】図12は、加熱速度20K/分で実施されたZr61.6Cu18.4FeAl12のDTAスキャンである。
【図13】図13は、ガラス質のZr61.6Cu18.4FeAl12の破面のSEM画像である。
【図14】図14は、直径5ミリメートルの円筒に鋳造された(鋳放し)Zr58Cu22FeAl12の室温での引張-歪曲線を示す。
【図15】図15は、製造状態及び数時間の焼きなまし後の、Zr58Cu22FeAl12のXRDパターンを示す。
【図16】図16は、708Kで12時間の焼きなまし後のZr58Cu22FeAl12のXRDパターン(72時間のスキャン)を示す。指数は、格子定数4.76オングストロームの正二十面体相の存在を示している。
【図17】図17は、製造直後及び図示したように温度を変えて数時間焼きなまし後の、Zr58Cu22FeAl12のDTAスキャンを示す(加熱速度は20K/分)。
【図18】図18は、Zr58Cu22FeAl12の、温度708Kで時間を変えて実施した、正常位置での小角中性子散乱測定結果である。
【図19】図19は、ギニア近似を用いた、Zr58Cu22FeAl12の粒径及びФの経持変化を示す。
【図20】図20は、擬三成分系混合ダイアグラムである。
【図21】図21は、厚さ1ミリメートルに鋳造した合金Zr68.3(Fe0.5Al0.526.8Pd4.9のDTAスキャンである。
【図22】図22は、厚さ1ミリメートルに鋳造した合金Zr68.3(Fe0.5Al0.526.8Pd4.9のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本発明の合金の具体例及びその特性を記載する前に、本発明の合金の開発に至った概念を記載、例示する。
【0052】
超急冷されると、金属ガラスを形成する多くの二成分系合金は、組成A8020を有する。ここで、成分Aの原子半径は成分Xの原子半径よりもかなり大きい。このような大きなサイズ比を有する合金のガラス形成能は、トポロジー効果によって説明される。本発明においては、この「80−20概念」は四成分系又はそれより大きい成分系の合金に一般化され、ニッケルを含まないバルク金属ガラスの開発にうまく適用できた。驚くべきことには、例外的に良好なガラス形成能を有する合金が、請求項1に記載された原理に従うと形成されることが見出された。当該技術分野では、ニッケルの存在が合金、特にジルコニウム系合金のガラス形成能を向上させ、ゆえに、ニッケルは多くの四成分系バルクガラス形成合金、特にジルコニウム系合金の必須成分であると考えられている。一方、本発明者らは、優れたガラス形成能を有する合金を得ながら、下記に記載する本発明の原理によってニッケルを省くことができることを見出した。
【0053】
本発明は、下記に記載する特殊な組成物に限定されないが、本発明の基礎となる原理は、一般組成Zr−Cu−Fe−Alを有する合金について、下記に例示する。このような合金に存在する、4つの成分の中で、ジルコニウムは最も大きい原子サイズ(半径=0.160ナノメートル)を有する。鉄(半径=0.128ナノメートル)と共に、ジルコニウムは鉄が20原子パーセント(at.%)に近い、深い共晶組成物を形成する。これは図1に示される。これは非常に概略的ではあるが、二成分系Zr−Fe合金の相図の一部分を示している。様々な固体相間の移動は、この図では省略されているが、それは、相図が期待された液相線、すなわち、組成の関数としての液相温度のみを示し、図をわかりやすいものとするためである(S=固体、L=液体)。鉄24原子パーセントにおける深い共晶の特徴が明らかに見られる。この深い共晶は、トポリジーによって定性的に説明できる。
【0054】
ジルコニウムと銅も共晶組成を有するが、図2に示すように、そのうちの1つはジルコニウム72.5%に生じる。この相図も非常に概略化して示してあるが、液相線を示している。38.2原子パーセントから72.5原子パーセントの間の様々な組成において、いくつかの他の共晶が期待される。
【0055】
上述した一般組成の、第4の成分はアルミニウムである。図3もまた非常に概略して示してあるが、二成分系Al−Fe合金の相図の一部分を示している。様々な固体相間の移動もこの図に示している。特に、高温相、いわゆるε相301が、組成AlFeの近くに存在する。この相は、Al−Fe相図の60原子パーセントの近くに深い共晶が存在することを防止する。この深い共晶は、防止されなければ、図3において点線で示されるように、外挿にて発生する。しかし、Zr76Fe24及びZr72.5Cu27.5の共晶がすでに1000℃を下回っているため、摂氏1102度及び1232度にまたがる高温のε相は、四成分系合金ではもう生成されない。
【0056】
これらの考察が、組成(Zr72.5Cu27.580(Fe40Al6020の開発に結びついた。これは下記に詳述する、さらなる観察の出発点である。この合金は、組成物をさらに精製しなくとも、優れたガラス形成能を発揮する。さらに、この合金の組成が変化し、組成の幅広い範囲において、良好なガラス形成能を保持することが見出された。
【0057】
このことは、「80:20概念」がうまく四成分系の合金に一般化されることを示すものである。この概念は、一般に適用可能であり、上述した特定のZr−Cu−Fe−Al系には限定されない。特に、同様の考察を、チタン、ハフニウム、ニオビウム、ランタン、パラジウム、又はプラチナを主成分とする系の合金に適用してもよい。銅の代わりに、深い共晶を主成分と共に有する他の元素を使用してもよい。特に好ましいのは、ベリリウム、銀、及び金である。鉄成分の代わりに、ニッケルを除く1つ以上の遷移金属、例えばコバルトなどを使用してもよい。アルミニウム成分の代わりに、例えばジルコニウム又は1つ以上のメタロイドを使用してもよい。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の合金の製造法及び特徴化の例を挙げる。
【0059】
実施例1
非晶質(ZrCu100−x80(Fe40Al6020サンプルの作製及び特徴化
ニッケルを含有しない、いくつかのジルコニウム系合金(ZrCu100−x80(Fe40Al6020を作製した。ここで、xは、60、62、64、66、68、72.5、77、79、81、83、及び85である。チタンでゲッターしたアルゴン雰囲気下で、成分(純度>99.9%)をアーク溶融することによってインゴットを作製した(純度:99.9999%)。加熱誘導コイルを使用して、インゴットを石英管(真空度≒10−5mbar)で再溶融し、高純度アルゴンで銅金型に射出鋳造した。サンプルは厚み0.5ミリメートル、幅5ミリメートル、長さ10ミリメートルの板に鋳造した。臨界鋳造厚さを決定するため、いくつかのサンプルを追加又は代わりに、直径10ミリメートルまでの範囲で、様々なロッド及び円錐状に鋳造した。さらに、いくつかのサンプルを、厚さ1ミリメートル及び断面1センチx4センチに作製した。次に、これらのサンプルを、適当と思われる場合、長さ1センチの様々な破片に切り取り、X線回折(XRD)、小角中性子散乱装置(SANS)、示差熱分析(DTA)及び/又は硬度測定で観察した。XRDは、平行ビーム単色CuKαX線源を使用し、Scintag XDS−2000X線回折装置にて行った。熱物理特性は、Netzsch Proteus C550 DTAを用いて観察し、SANSはスイスのPaul Scherrer協会にて行われ、使用した波長はλ=6オングストロームであり、サンプルと検出器の間の距離は1.8メートル、6メートル、及び20メートルであった。
【0060】
図4は、組成Zr54.4Cu25.6FeAl12、Zr58Cu22FeAl12、及びZr61.6Cu18.4FeAl12、すなわちx=68、72.5、及び77である(ZrCu100−x80(Fe40Al6020の鋳放しの合金のXRDパターンを示す。全てのサンプルが、ブラッグピークのない非晶質構造の典型的なXRDパターンを示す。非晶質性はSANSでも確認した。図5から明らかなように、広いQ範囲において、同じサンプルが小角散乱を示すことはない。これによって、均一な非晶質構造の存在が証明される。
【0061】
加熱速度20K/分で行われた、図6に示されるDTAスキャンから、全ての3つの合金について、その後に、冷却不十分な液体範囲が広がり、発熱結晶化ピークが続く、明らかなガラス遷移が存在することが分かる。比較のために、ニッケルを含む合金Zr65Al7.5Ni10Cu17.5もDTAで観察した。結果を比較のために図6に示す。さらに、図7に示されるDTAスキャンは、より広い温度範囲で行われたものであるが、Zr58Cu22FeAl12の発熱溶融ピークを示す。
【0062】
表2は、図6及び7のものと同様に、DTAスキャンから抽出した特徴値を示す。ガラス遷移温度Tは、図6における吸熱事象の始まり(上向きの矢印)から抽出され、最初の結晶化温度Tx1は、発熱ピークの始まり(下向きの矢印)から得られる。溶融の始まりT及び溶融の終わりTは、図7に示されるようなスキャンから得られた。ニッケルを含有しない新規な合金は、78から86Kの、冷却不十分な液体範囲ΔT=Tx1−T及び、0.56と0.57の間の換算ガラス遷移温度T/Tを示す。表2は、T/Tの比率を示している。なぜならば、多くの刊行物において、この比率が換算ガラス遷移温度として用いられているからである。T/Tの値は、ニッケルを含有しない新規な合金について0.59から0.62であり、Zr65Al7.5Ni10Cu17.5の値よりもかなり大きい。
【0063】
【表2】

【0064】
表3は、荷重500gで測定した、ニッケルを含有しない合金のビッカース硬さHVを示す。これらの測定値から、相似関係σy=3HVを用いて概算降伏強度1.56から1.68GPaが得られる。つまり、詳細な引っ張り強さ試験によって、合金Zr58Cu22FeAl12について、降伏強度σy=1.71GPa及び弾性限界2.25%であることが判明した。
【0065】
【表3】

【0066】
詳細な鋳造実験がこれらのニッケルを含有しない合金について行われた。そして、これらをZr65Al7.5Ni10Cu17.5及びZr52.5TiCu17.9Ni14.6Al10(Vit105(登録商標))の臨界鋳造厚さと、同等の実験条件下で比較した。合金Zr58Cu22FeAl12(x=72.5)は、ロッド直径7ミリメートルまで、完全に非晶質な状態に鋳造できた。図8は、このような鋳造サンプルのいくつかの例を示している。これらの例は、実際の用途で用いられる成形品が、本発明の合金から製造できることを証明している。くさび形のサンプルは、直径7ミリメートルまで完全に非晶質である。
【0067】
図9は、直径5、7、及び8ミリメートルの円筒形のロッド、及び厚み1ミリメートルの板(挿入図)に鋳造したZr58Cu22FeAl12のX線回折パターンを示している。5ミリメートルのロッドサンプル又は1ミリメートルの板のいずれにおいても、明らかなブラッグピークは観測できず、7ミリメートルのロッドサンプルに非常に弱いブラッグピークだけが見られる。これに対し、強いブラッグピークから明らかなように、はっきりとした結晶性の成分が8ミリメートルのロッドサンプルに存在している。
【0068】
これらの知見は、図10に示されるDTAスキャンと一致する。このDTAスキャンは、5ミリメートル、7ミリメートル、及び8ミリメートルのロッドサンプルについて実施された。はっきりとした発熱結晶化ピークが5ミリメートル及び7ミリメートルのサンプルに観察されるが、8ミリメートルのサンプルには観察されない。
【0069】
同様に、x=68、77である合金は、非晶質構造を有した、直径が少なくとも5ミリメートルのロッドの形状に鋳造できる。
【0070】
図11は、最大外径6ミリメートルの円錐に鋳造された、Zr54.4Cu25.6FeAl12(x=68)のXRDパターンを示している。XRDスキャンは、円錐の長手方向の軸に垂直に切られた厚さ0.5ミリメートルの板について実施した。これらの板の平均直径を図示する。直径5ミリメートル以下の板のXRDパターンは、典型的な非晶質構造を示し、直径6ミリメートルの板は、非晶質マトリックス内の、結晶の非常に小さい体積分率を示すいくつかのブラッグピークを示しているように見える。これは、均一な直径を有するロッドについての知見と完全に一致する。
【0071】
図12は、加熱速度20K/分で実施されたZr61.6Cu18.4FeAl12(x=77)のDTAスキャンを示す。明らかなガラス遷移、結晶化、及び溶融特性が観察される。図13は、非晶質ガラスに典型的な、ガラス質のZr61.6Cu18.4FeAl12(x=77)の破面を示すSEM画像である。これらの知見は、Zr61.6Cu18.4FeAl12(x=77)が、優れたガラス形成能を有することを証明するものである。
【0072】
要約すると、x=68、72.5、及び77である3つの合金の内、合金Zr58Cu22FeAl12(x=72.5)が、Vit105(登録商標)に匹敵する最も大きいガラス形成能を有している。その次に優れたガラス形成能を有するのは、Zr61.6Cu18.4FeAl12及びZr54.4Cu25.6FeAl12であり、さらにそれに続くのが、従来の合金Zr65Al7.5Ni10Cu17.5である。これらの実験結果は、Turnbull理論(D. Turnbull, Contemp. Phys. 10, 473 (1969), F. Spaepen and D. Turnbull, Proc. Sec. Int. Conf. on Rapidly Quenched Metals (Cambridge, Mass.: M.I.T. Press, 1976), pp. 205−229)とよく一致しており、最も優れたガラス形成能はT/Tの最も高い比率を有する合金において得られることが予測される。
【0073】
図14は、直径5ミリメートルに鋳放しの円筒形サンプルZr58Cu22FeAl12(x=72.5)について、引張応力-歪の曲線を示す。Hookの法則は2.25%までの歪についてよく当てはまる。この図から明らかな優れた弾性率及び高い引張強度は、本発明の合金の優れた機械特性の単に1つの例に過ぎない。
【0074】
x=60、62、64、66、79、81、83、85である合金もまた選択された同様な方法で観察した。xが62と81の間である合金は、厚み0.5ミリメートルに鋳造した場合、非晶質である。厚み0.5ミリメートルに鋳造した場合、x=60である合金は結晶性で、x=83である合金は部分的に非晶質であり、x=85である合金は結晶性である。
【0075】
この例から明らかなように、材料の組成は、ガラス形成能を損なうことなく、むしろ広い範囲において変化させることができる。特に、他の成分元素に関して組成に生じる変化、a及びyの数に生じる適度な変化は、ガラス形成能を大きく変化させることはない。さらに、少量の追加成分を添加しても、本発明の合金のガラス形成能に悪影響を及ぼすことも、向上させることもない。一方で、ある種の好ましい特性を向上させることがある。
【0076】
実施例2
混合相サンプルの作製
混合相構造を有するサンプルを下記のように作製した。完全に非晶質のサンプルZr58Cu22FeAl12を実施例1と同様に作製した。サンプルをさまざまな温度で12時間熱処理(焼きなまし、図15においてannと示す)した。熱処理したサンプルについて、XRDパターン及びDTAスキャンを記録した。図15は、作製された状態(ボトムトレース)及び焼きなまし直後のサンプルのXRDパターンを示す。XRDパターンは、焼きなまし温度683Kまでの、典型的な非晶質構造を示す。より高い焼きなまし温度において、二十面相(I.P.)に由来する明確なブラッグピークが観察される。さらに高い温度において、ZrFe構造に典型的なピークが観察される。図16は、708Kで12時間焼きなまししたサンプルのXRDパターンをより詳細に示したものである。指数は、格子定数0.476ナノメートルの正二十面体相の存在を示している。図17は、図15に示したものと同じサンプルのDTAスキャンを示す。このDTAスキャンは、ガラス質であり結晶質である構造の発現と一致している。
【0077】
焼きなまし後の構造をより良く特徴づけるため、正常位置での小角中性子散乱(SANS)実験を、最初に完全に非晶質であったZr58Cu22FeAl12温度708Kでの焼きなまし中に実施した。結果を図18に示す。合計の焼きなまし時間は、図示されたとおりである。この結果から、最初に完全に非晶質のサンプルにおいて、結晶性の領域が発現することを示している。その典型的なサイズはわずかナノメートル台である。これらのデータを、ギニエ近似を適用して分析した。図19は、この近似における粒径Фの経時変化を示す。これは、ガラス質のマトリックスにおけるナノクリスタルの発現を明確に証明するものである。このようなナノクリスタルの生成は、焼きなまし温度を、実験レベルのガラス遷移温度よりもわずか上に保つことによって助長される。特に、実験レベルのガラス遷移温度よりも、0から150Kだけ上回る範囲に保つことによって助長される。実験レベルのガラス遷移温度は、DSC(示差走査熱量測定)を用い、典型的な加熱速度20K/分で決定されたガラス遷移温度であると考えられる。焼きなまし温度が高いほど、往々にして、たとえば、0.1から20ミクロンのより大きな結晶の析出につながる。
【0078】
このような混合相の材料は、完全にガラス質の材料よりもいくぶん異なる機械特性を有する。特に、延性が往々にして向上する。それは、せん断力によって、生成中に発現し、材料の破壊につながるせん断帯が結晶によって粉砕されるという事実によって説明できる。これらの特性は、特に、最終製品の製造中に材料を加工、変形しなければならない用途において有利である。
【0079】
実施例3
組成の変化
非常に広い範囲の組成を有するサンプルを作製し、観察した。下記の表の組成物が、厚さ1ミリメートル(表4)、厚さ0.5ミリメートル(表5)、又は厚さ0.2ミリメートル(表6)の板に鋳造された場合、少なくとも部分的に非晶質であることが証明された。
【0080】
【表4】

【0081】
【表5】

【0082】
【表6】

【0083】
比較のため、表7に示す、二成分系、三成分系、又はニッケル含有の合金もまた観察したところ、厚さ0.2ミリメートルに鋳造した場合、少なくとも部分的に非晶質構造を発現した。
【0084】
【表7】

【0085】
特に、このリストは、「80:20の図式」に従って組成された場合、三成分系の、ニッケルフリーの合金が良好なガラス形成能を有することを示す。特に、このリストは、組成(Zr100−xFe100−aの三成分系合金が、数aがおよそ70からおよそ90の範囲、とりわけ80前後の時、良好なガラス形成能を有することを示している。ここで、Dは、好ましくは銅、ニオビウム、アルミニウム又は錫である。
【0086】
表8の合金もまた作製され、厚さ20ミクロンでおよそ10K/秒の高速冷却速度で超急冷した場合、完全に非晶質となることが判明した。これらの合金は、バルク金属ガラスの候補と見なされてよく、鋳造実験がこれらの内のどれかがバルク金属ガラスかを証明するために必要である。
【0087】
【表8】

【0088】
また、表9に挙げる、三成分系及び二成分系の合金も、超急冷した場合、完全に非晶質になることが判明した。これらは、比較の目的でリストアップしたものである。
【0089】
【表9】

【0090】
これらの実験で調査された本発明による広範囲の合金は、ガラス形成能を失うことなく、広い範囲で組成を変化させることができることが証明された。
【0091】
実施例4
生体適合性テスト
新規に開発されたニッケルを含有しない合金の一例として、合金Zr58Cu22FeAl12の細胞毒性を決定した。希釈した硝酸におけるパッシベーションによる表面変化の効果もまた調査した。
【0092】
XPSを用いた表面分析から、厚さが7−8ナノミリメートルの、ほとんど酸化ジルコニウムからなる自然の酸化物層が、このガラスの表面に形成したことが判明した。この層によって、バルクに存在する毒性金属、特に銅から、研究用マウスの繊維芽細胞が保護され、合金にとって良好な細胞の成長を促す。間接的試験の結果、この層はPBS(リン酸緩衝液)においても何週間も安定していること、及び媒体に拡散する高イオン濃度による毒性の影響がないことが判明した。
【0093】
ジルコニア層の厚みは硝酸によるパッシベーションでわずかに増加した。しかし、この処理は、表面層の質を明らかに向上させた。これによって、防食性が増加し、バルク元素の媒体への拡散が低下し、結果として、生体適合性の向上をもたらす。パッシベーション処理後、合金は、ここではネガティブコントロールとして使用されるポリスチレン上での細胞成長に匹敵する細胞成長を示す。
【0094】
結論として、本発明の、金属ガラスの細胞毒特性は非常に有望であり、非常に良好な生体適合性を示す。
【0095】
実施例5
銅及びニッケルを含有しない合金
多くの医療用途において銅は問題があるため、銅を含有しない合金の研究が行われてきた。前述した例の、Zr−Cu−Fe−Alのバルク金属ガラスに始まり、パラジウムはこのような合金の中の銅に代替する金属として有望であることが判明した。バルク金属合金を体系的に研究するため、擬三成分系Zr−(Fe0.5Al0.5)−Pd系の合金が挙げられた。最初、パラジウムの量は、擬三成分系Zr−(Fe0.5Al0.5)−Pd系において、(Fe0.5Al0.530ラインに沿って、0%及びおよそ22%の間で変更される。一方で、80:20の概念におおまかに従ってZrとFeの原子パーセントの合計と、AlとPdの原子パーセントの合計の比率を選択した。このようにして、好ましいガラス形成能を有する初期の合金組成が数多く同定された。組成は、擬二成分系Zr−(Fe0.5Al0.5)−Pd系組成の範囲における繰り返しにおいて、これらの初期の組成の近くで変わった。
【0096】
下記の表は、これらの観察で見出された結果をまとめたものである。
【0097】
【表10】

【0098】
【表11】

【0099】
【表12】

【0100】
表10、11及び12の例は、図20の擬三成分系の混合図において、黒い四角で示される。この図から、少なくとも50原子パーセントのジルコニウム、少なくとも0.5原子パーセントのパラジウム、及び少なくとも19原子パーセントの鉄とアルミニウムの混合物をほぼ等しい原子比率で含有する合金が優れたガラス形成能を有すると期待される。これは、少なくとも約59原子パーセントのジルコニウム、約36原子パーセントまでの鉄とアルミニウムの混合物、且つ/又は、少なくとも4原子パーセントのパラジウムを含有するこの種の合金についても当てはまる。特に、図20において、台形で示された領域の合金の全ては、優れたガラス形成能を有すると合理的に期待できる。鉄とアルミニウムの相対的比率における、数パーセント内のわずかな変化、すなわち60:40と40:60の間、又は、より好ましくは55:45と45:55の間は、ガラス形成能に強い影響を及ぼすとは期待されない。
【0101】
特に、表10及び11の全ての合金、及び表12のほとんどの合金が、下記の意味で、80:20の原則に対応している。その意味とは、ジルコニウムと鉄の原子パーセントの合計と、アルミニウムとパラジウムの原子パーセントの合計の比率が、およそ80:20であるということである。表10及び11の例において、Zr+Feの原子の含量とAl+Pdの原子の含量の比率はおよそ73:27とおよそ87:13の間で変化する。80:20の原則は、表10に示す合金、すなわち、最も高い臨界鋳造厚さを有することが見出された全ての合金組成について、良好に実現される。ここで、対応する比率は、およそ80:20とおよそ83:17の間で変化する。
【0102】
Zr−Feのサブシステムにおける変化に関して、表10及び11の好ましい組成において、ジルコニウムの原子パーセントと鉄の原子パーセントの比率はおよそ76:24とおよそ89:11の間である。これは好ましい範囲であると思われる。特に、表10の例において、この比率はおよそ81:19とおよそ85:15の間で変化する。対照的に、アルミニウムとパラジウムの比率は、合金のガラス形成能に悪影響を与えることなく、より広い範囲で明らかに変化する。表10及び11の例において、アルミニウムの原子パーセントのパラジウムの原子パーセントに対する比率は、およそ40:60と82:18の間で変化する。特に、表10の例において、この比率はおよそ65:35とおよそ78:22の間で変化する。
【0103】
上記の例で、パラジウムを部分的又は完全にプラチナに代えると、生体適合性がさらに向上する。プラチナは、外部電子構造など、パラジウムに非常に類似した特性を有し、その結果、ほぼ同様なゴールドシュミット半径を有する。それゆえ、パラジウムをプラチナに部分的又は完全に代替しても、合金の機械特性又はガラス形成能に強い影響を与えないであろう。
【0104】
銅を含有しない合金で実施した測定の例として、図21は、1ミリメートルに鋳造したZr68.3(Fe0.5Al0.526.8Pd4.9のDTAスキャンを示し、図22はX線源としてCo−Kαを使用した場合のX線回折パターンを示す。DTAスキャンは、明らかなガラス遷移及び第二の結晶化現象を示している。一方、X線回折パターンは、非晶質の材料の存在を示す、幅広いこぶ(hump)を示す。
【0105】
また、銅を含有しない下記の合金も、0.5ミリメートルに鋳造した場合、少なくとも部分的に非晶質であることが見出された。
Zr69Fe15Al15Y1, Zr68.5Fe15Al15Y1.5.
これらの例において、パラジウムは完全にイットリウムに代替されている。
【0106】
0.2ミリメートルに鋳造された場合、少なくとも部分的に非晶質であることが見出された合金のさらなる例は、Zr70Fe28NbSnである。
【0107】
上述の例は単に説明のためのものであり、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0108】
at% 原子パーセント
XRD X線回折
SEM 走査電子顕微鏡
SANS 小角中性子ニュートロン散乱
DTA 示差温度分析
DSC 示差走査熱量測定
ガラス遷移温度
x1 最初の結晶化温度
ΔT 冷却不十分液体領域
溶融終わり(液相線温度)
溶融開始
T 温度
σ 降伏強度
HV ビッカー硬さ
S 固体
L 液体
2θ 散乱角
Int 強度
a.u. 任意の単位
Q 波数
S(Q) 散乱強度
q 熱移動
cps 一秒当たりのカウント
σ 引張応力
ε 歪
IP 正20面体相
ann. 焼きなまし
Φ 粒径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質相を含み、一般式[ZrFe100−x(Al100−y100−a100−bで表され、式中、a、b、x、yは原子パーセントを示す実数であって、70≦a≦90、x≧50、y>0、0≦b≦6であり、Gはプラチナ及びパラジウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素であり、Zは少なくとも1つの元素からなる成分であり、G及びZの全ての元素は、互いに異なり、ジルコニウム、鉄、及びアルミニウムではなく、前記合金は実質的に銅及びニッケルを含まないことを特徴とする合金。
【請求項2】
Gがパラジウムであることを特徴とする、請求項1に記載の合金。
【請求項3】
鉄及びアルミニウムの原子パーセントが、等しいことを特徴とする、請求項1又は2に記載の合金。
【請求項4】
68≦x≦89及び73≦a≦87であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の合金。
【請求項5】
40≦y≦82であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の合金。
【請求項6】
81≦x≦85、80≦a≦83、及び65≦y≦80であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の合金。
【請求項7】
0≦b≦2であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の合金。
【請求項8】
b>0であり、Zが、チタン、ハフニウム、バナジウム、ニオビウム、イットリウム、クロム、モリブデン、鉄、コバルト、錫、亜鉛、リン、パラジウム、銀、金、及びプラチナからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素であることを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の合金。
【請求項9】
b=0であることを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の合金。
【請求項10】
非晶質相を含み、一般式Zr(Fe50+εAl50−εで表される合金(Xはパラジウム及びプラチナからなる群から選択される1つ以上の元素であり、i、j、k及びεは原子パーセントを表す実数であり、−10≦ε≦10、i≧50、j≧19、k≧0.5、i+j+k=100)。
【請求項11】
Xがパラジウムであることを特徴とする、請求項10に記載の合金。
【請求項12】
62≦i≦77であることを特徴とする、請求項10又は11に記載の合金。
【請求項13】
19≦j≦34であることを特徴とする、請求項10〜12のいずれかに記載の合金。
【請求項14】
−2≦ε≦2であることを特徴とする、請求項10〜13のいずれかに記載の合金。
【請求項15】
εがゼロであり、66≦i≦70、25≦j≦29、及び4≦k≦7であることを特徴とする、請求項10〜13のいずれかに記載の合金。
【請求項16】
前記合金が、下記の式Zr67Fe13.2Al13.2Pd6.6、Zr69.7Fe12.95Al12.95Pd4.4、Zr66.7Fe14.45Al14.45Pd4.4、Zr68.3Fe13.4Al13.4Pd4.9、Zr65.4Fe14.85Al14.85Pd4.9、Zr62.3Fe16.7Al16.7Pd4.3、Zr59.2Fe18.3Al18.3Pd4.2、Zr72Fe11.5Al11.5Pd、Zr73.4Fe10.9Al10.9Pd4.8、Zr75.2Fe10.2Al10.2Pd4.3、Zr77Fe9.5Al9.5Pd、Zr67.9Fe11.8Al11.8Pd8.5、Zr65Fe11.4Al11.4Pd12.2、Zr62.5Fe10.75Al10.75Pd16のいずれか、式Zr(Fe50Al5030Pd70−i(62≦i≦69.5)、特に、式Zr69.5Fe15Al15Pd0.5、Zr69Fe15Al15Pd0.5、Zr68Fe15Al15Pd、Zr67Fe15Al15Pd、Zr66Fe15Al15Pd、Zr65Fe15Al15Pd、Zr64Fe15Al15Pd、Zr63Fe15Al15Pd、Zr62Fe15Al15Pdのいずれか、又は、Zr71Fe12Al12Pd、Zr69Fe12.85Al12.85Pd5.3、Zr66.8Fe13.7Al13.7Pd5.8、Zr65Fe14.5Al14.5Pd、Zr61.9Fe16.2Al16.2Pd5.7、Zr50Fe12Al12Pd26、Zr53.2Fe12.6Al12.6Pd21.6、Zr57.6Fe13.95Al13.95Pd14.5、Zr60Fe14.3Al14.3Pd11.4のいずれかで表されることを特徴とする、請求項1〜15のいずれかに記載の合金。
【請求項17】
非晶質相及び結晶相を含むことを特徴とする、請求項1〜16のいずれかに記載の合金。
【請求項18】
記非晶質相が、合金の融点を上回る温度から、非晶質相のガラス遷移温度を下回る温度まで、冷却速度1000K/秒以下で冷却して得られることを特徴とする、請求項1〜17のいずれかに記載の合金。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−162805(P2012−162805A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−85428(P2012−85428)
【出願日】平成24年4月4日(2012.4.4)
【分割の表示】特願2007−529311(P2007−529311)の分割
【原出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【出願人】(502147960)