説明

スイカ酒製造方法およびスイカ酢製造方法

【課題】シトルリンの含有量の高い酒や酢を添加に依らず醸造により得ること。
【解決手段】 アルギニン要求性酵母を用いてスイカ果汁由来の酒を醸造することを特徴とするスイカ酒製造方法である。アルギニン要求性酵母としては、菌株NBRC10478、菌株NBRC10479を挙げることができる。本方法により、シトルリン含有量の高く、血流改善などの機能性の高い酒や酢を提供でき、また、スイカの用途開発が実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイカ酒製造方法およびスイカ酢製造方法に関し、特に、シトルリンの含有量の高い酒や酢を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコール飲料は、酵母により糖分をアルコールに変えて製造するものであるため、糖分の多い果物が用いられている。また、デンプンを糖化してこれを酵母によりアルコールに変える醸造方法の場合には、デンプン含有量の多い原料が用いられる。
【0003】
また、近年では、特許文献1に示すように、酒類の製造において、アミノ酸の含有量を改善する方法も研究されている。この文献では、例えば、γアミノ酪酸やアルギニンやグルタミン酸が通常の醸造では酵母がほぼ消費してしまうのに対し、特定の変異株により含有量の低下を抑制することに成功し、いわば機能性成分の維持を実現している。
【0004】
一方、梨の産地として知られる鳥取県は、近年ではスイカの産地として知名度が向上し、特に西日本では有数の生産量を誇る。ここで、スイカは基本的に生鮮果物としての消費が主で、季節も限定されるので、生産農家を増やしたり生産量の拡大を図りづらく、また、水分も多いため加工用にも不向きであるという問題点があった。すなわち、生産量の拡大を図るにしても、加工品開発が進んでいないため逆に生産量の拡大が図れないという問題点が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−149403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
すなわち、解決しようとする問題点は、水分の多いスイカを用い、好適な加工品であって、機能性成分を多く含んだ酒や酢を製造する技術を提供する点である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載のスイカ酒製造方法は、アミノ酸要求性酵母を用いてスイカ果汁由来の酒を醸造することを特徴とする。
【0008】
スイカは、糖度の高い品種が好ましく、例えば、祭ばやし777、春のだんらん、つくばの香を挙げることができる。なお、スイカ果汁由来とは、スイカ果汁のみからなるという限定的な意義ではなく、主原料にスイカが用いられていればよいものとする。
【0009】
請求項2に記載のスイカ酒製造方法は、請求項1に記載のスイカ酒製造方法において、アミノ酸要求性酵母が、菌株NBRC10478、菌株NBRC10479、菌株NBRC1334、菌株NBRC1335、菌株NBRC10480、菌株NBRC10481、菌株NBRC10482、または、菌株NBRC10483であることを特徴とする。
【0010】
これらの酵母は実際にシトルリンが低減せず、得られる酒や酢の機能性を確保することが可能となる。なお、菌株NBRC10478、菌株NBRC10479、菌株NBRC1334、菌株NBRC1335は、何れもアルギニン要求性酵母であり、菌株NBRC10480、菌株NBRC10481、菌株NBRC10482、または、菌株NBRC10483は、それぞれ、トリプトファン、ヒスチジン、ヒスチジン、ロイシン要求性酵母である。
【0011】
請求項3に記載のスイカ酒製造方法は、請求項1または2に記載のスイカ酒製造方法において、酒中のシトルリン含量率がスイカ果汁に含まれるシトルリン含有率の90%以上である、または、酒中のシトルリン含有量が100mg/100ml以上であることを特徴とする。
【0012】
すなわち、請求項3にかかる発明によれば、相対濃度が高く、または、絶対濃度が高い酒を醸造により得ることができる。なお、アミノ酸要求性酵母を用いない場合には含有率が約80%程度より小さくなり、また、スイカが原料でない場合には、絶対量がそもそも原料としても100mg/100mlに満たないため、醸造により得られる濃度として、相対濃度で90%以上、絶対濃度として100mg/100ml以上と規定したものである。
【0013】
請求項4に記載のスイカ酢製造方法は、酢酸菌を用いて請求項1、2または3に記載の方法により製造されたスイカ酒由来の酢を醸造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シトルリンの含有量の高い酒や酢を添加に依らず醸造により得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
スイカには、アミノ酸の一種でシトルリンが多く含まれ、その濃度は、スイカ果汁100mlの中に、200mg〜300mgである。このシトルリンは果物や野菜には多く含まれておらず、他のウリ科の植物に比しても、例えば、メロンがせいぜい50mg、胡瓜が10mg程度であることを鑑みると、スイカに特有の大きな数値といえる。
【0016】
シトルリンは、人体内では一酸化窒素(NO)を介したいわゆるNOサイクルを構成する物質であり、その機能性として、血管弛緩作用による血圧降下、血流改善、抗動脈硬化が認められる。また、更には尿素サイクルを構成する物質であるため、その機能性として、アンモニア解毒作用が認められる。このほか、ヒドロキシラジカル消去能も有している。
【0017】
本発明者は、鋭意検討の結果、水分の多い鳥取県特産のスイカの新商品開発を検討するにあたり、その糖分とシトルリンにも注目し、本発明をなすに至った。すなわち、通常であれば、より糖度の高い果物が選択され、醸造原料としては候補外となるスイカを利用して酒となし、かつ、引用文献1でも評価項目に挙げられておらず、一般的にも残存評価対象には挙げられないシトルリンを極力残存させ、スイカ固有の機能性を維持発揮する酒と酢を開発することに成功した。
【0018】
<実験例1>
スイカ(祭ばやし777)を破砕したスイカ果汁10mlにアルギニン要求性酵母1白金耳を植菌し25℃で3日間前培養した。それをスイカ果汁200mlに添加し、室温(20〜25℃)で5日間アルコール発酵させた。発酵終了後、遠心分離(5000rpm,20分)により得られた上清をスイカ酒とし、そのシトルリン含有量を測定した。
【0019】
なお、比較として、同条件にて清酒酵母協会7号(K7)、ワイン酵母協会1号(KW1)を用いて同様に醸造し、得られた酒のシトルリン含有量も測定した。
【0020】
また、得られたそれぞれの酒に対し、酢酸菌(Acetobacter aceti NBRC14818)を1白金耳接種し、室温(20〜25℃)で1ヶ月間酢酸発酵させ、遠心分離(10,000rpm,20分)により得られた上清をスイカ酢として、そのシトルリン含量を測定した。
【0021】
原料および得られたスイカ酒スイカ酢100ml中のシトルリンの含有量(mg)を表1に示す。なお、表中の括弧は原料に対する残存率を示す。
【表1】

【0022】
表から明らかなように、アルギニン要求性酵母を用いた場合には、原料の90%以上のシトルリンが維持され、絶対量としても250mg/100mlを超えるシトルリン含有酒ないし酢を得られることを確認できた。また、同じ酢酸菌を用いた場合であっても、酢にしたとき、従来の汎用酵母によれば、原料比にして7%〜8%のシトルリン含有量の低下が認められたものの、アルギニン要求性酵母を用いた場合には、3%程度の低下しか見られなかった。
【0023】
なお、得られたスイカ酒やスイカ酢を食したところ、風味はほどよく、一般に出回っている酒や酢と同様の消費態様に何ら支障がないことも確認した。
【0024】
次に、別のスイカ果汁に対して他のアミノ酸要求性酵母も含めて再度同様の発酵実験をおこなった。原料および得られたスイカ酒100ml中のシトルリンの含有量(mg)を表2に、スイカ酢100ml中のシトルリンの含有量(mg)を表3に示す。なお、表中の下段は原料に対する残存率を示す。
【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
これらの結果も、表1と同様で、アミノ酸要求性酵母を用いた場合、原料の90%以上のシトルリンが維持される酒や酢がえられることを確認した。特にヒスチジン、ロイシン要求性酵母(NBRC10482,NBRC10483)を用いた場合には、酒において特に良好な結果を得ることができることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、常用することにより、その成分に基づく、血圧上昇抑制や血流改善が期待できる酒や酢を醸造により提供可能となる。また、従来の生鮮果実としてではなく、水分と糖分に着目した好適な加工品(酒または酢)製造が可能となるので、スイカの作付面積の増大を見込め、生産農家の軒数拡大や生産量の拡大を期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸要求性酵母を用いてスイカ果汁由来の酒を醸造することを特徴とするスイカ酒製造方法。
【請求項2】
アミノ酸要求性酵母が、菌株NBRC10478、菌株NBRC10479、菌株NBRC1334、菌株NBRC1335、菌株NBRC10480、菌株NBRC10481、菌株NBRC10482、または、菌株NBRC10483であることを特徴とする請求項1に記載のスイカ酒製造方法。
【請求項3】
酒中のシトルリン含量率がスイカ果汁に含まれるシトルリン含有率の90%以上である、または、酒中のシトルリン含有量が100mg/100ml以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のスイカ酒製造方法。
【請求項4】
酢酸菌を用いて請求項1、2または3に記載の方法により製造されたスイカ酒由来の酢を醸造することを特徴とするスイカ酢製造方法。


【公開番号】特開2011−155851(P2011−155851A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17746(P2010−17746)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(307016180)地方独立行政法人鳥取県産業技術センター (32)
【Fターム(参考)】