説明

スエード調人工皮革およびその製造方法

【課題】 本発明は環境対応型の製造方法にて、天然皮革に類似したスエード感、表面タッチ、緻密感、充実感を有し、発色性、耐湿摩擦堅牢性等の耐水性、引裂強力等の力学物性に優れたスエード調人工皮革を工業的に安定して提供するものである。
【解決手段】 極細繊維束からなる繊維絡合体および高分子弾性体から構成され、以下
(1)極細繊維束が、水溶性高分子成分と水難溶性高分子成分からなる極細繊維発生型繊維を極細化して、単繊維繊度が0.0003〜0.4dtexの繊維から構成されていること、
(2)高分子弾性体を構成する樹脂が、水分散樹脂であること、
(3)パーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーが、極細繊維束内部および該表面、並びに高分子弾性体に付着していること
を特徴とするスエード調人工皮革。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は環境対応型の製造方法にて、天然皮革に類似したスエード感、表面タッチ、緻密感および充実感を有し、発色性、耐湿摩擦堅牢性等の耐水性および引裂強力等の力学物性に優れたスエード調人工皮革を工業的に安定して提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から人工皮革の製造に際して、主として極細繊維と高分子弾性体とで構成されたものが開発されており、このような極細繊維からなるスエード調人工皮革は、スエード感や表面タッチ感、柔軟性に優れており、天然皮革に近い素材として評価されてきた。
従来から、環境対応の観点から、高分子弾性体に水分散弾性体を用いた方法(例えば、特許文献1、2および3参照)が提案されているが、人工皮革で従来から用いられる溶剤系ポリウレタンに比べ、一般に吸水性が高く耐水性が劣るために、染色工程等の水処理工程で高分子弾性体の膨潤が起こって、高分子弾性体が脱落したり、極細繊維束内部の極細繊維を膠着させて、得られるスエード調人工皮革のスエード感や表面タッチ、風合い、引裂強力に劣る問題があったり、また、使用時、特に濡れた際の擦れによって、水分散樹脂が脱落して色移りが起こりやすい問題等がある。また、高分子弾性体には、従来から高級感や耐光性を高めるため等の目的で顔料を添加するが、これらの問題は、水分散樹脂に顔料を添加した場合に一層顕著となって、高級感のある耐光性に優れたスエード調人工皮革を得ることを、更に困難にしていた。
【0003】
極細化の方法としては、従来から溶剤抽出性成分を繊維の一成分に用いて溶剤抽出処理を行うことで極細化する方法が主に行われている。ただし、抽出方式では、溶剤抽出方式、水抽出方式を問わず、若干量の被抽出性成分が残存しやすく、その残存によって、得られるスエード調人工皮革のスエード感、表面タッチ、風合いや、諸性能が影響を受けやすい傾向がある。
【0004】
環境対応の観点から、水溶性高分子成分を繊維の一成分に用いて水抽出処理を行うことで極細化する方法へ転換する検討も近年盛んに行われている。水処理で極細化する場合、水溶性高分子成分が微量、抽出後に残存し、糊のように極細繊維束内部の極細繊維を膠着させて、得られるスエード調人工皮革のスエード感、表面タッチ、風合い、更には引裂強力が劣る傾向がある。更に、親水性の高い水溶性高分子成分が微量残存することに起因して、得られるスエード調人工皮革の吸水性が高くなり、湿潤下での色移りが起こりやすい傾向がある。
特に、水抽出方式と水分散樹脂を組合せた場合には、高分子弾性体の水膨潤性、高吸水性、低耐水性と、水溶性高分子成分残存に伴う高吸水性と合わさって、得られるスエード調人工皮革のスエード感、表面タッチ、風合い、引裂強力、湿潤下での色移りが一層劣る傾向がある。
また、抽出等の製造条件の微妙な変動によって、これらが影響され、安定的に一定品質の物が得られ難く、生産安定性にも問題を抱えている。
【0005】
つまり、環境対応型スエード調人工皮革において、スエード感、表面タッチ、風合い、発色性、各種堅牢性、力学物性の良好なスエード調人工皮革素材が強く求められているものの、従来から行われているアプローチで克服することは、既に限界の域に達しており、未だ満足するものは得られていない。
【0006】
【特許文献1】特開昭55−128078号公報
【特許文献2】特開平6−316877号公報
【特許文献3】特開平9−132876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は環境対応型の製造方法にて、天然皮革に類似したスエード感、表面タッチ、緻密感、充実感を有し、発色性、耐湿摩擦堅牢性等の耐水性、引裂強力等の力学物性に優れたスエード調人工皮革を工業的に安定して提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、極細繊維束からなる繊維絡合体および高分子弾性体から構成され、以下
(1)極細繊維束が、水溶性高分子成分と水難溶性高分子成分からなる極細繊維発生型繊維を極細化して、単繊維繊度が0.0003〜0.4dtexの繊維から構成されていること、
(2)高分子弾性体を構成する樹脂が、水分散樹脂であること、
(3)パーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーが、極細繊維束内部および該表面、並びに高分子弾性体に付着していることを特徴とするスエード調人工皮革である。
また、パーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーが、0.05〜5質量%付着していることが好ましく、スエード調人工皮革の吸水率が5〜80%であることが好ましい。
さらに、高分子弾性体を構成する樹脂が、ポリウレタン、アクリルおよびポリウレタン−アクリル複合樹脂の少なくとも1種から構成されてなる水分散樹脂で、かつ顔料を0.1〜10質量%有することが好ましく、顔料を含有する高分子弾性体の残存率が、水溶性高分子成分と水難溶性高分子成分からなる極細繊維発生型繊維を極細化後、さらに染色処理した後で95%以上となる高分子弾性体からなることが好ましく、高分子弾性体が、130℃熱水での重量膨潤率が20%以下、脱落率が3%以下であることが好ましく、高分子弾性体が、50℃メチルエチルケトン処理での重量膨潤率が150%以下で、脱落率が5%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、高分子弾性体が水分散樹脂であり、さらに水抽出方式による極細繊維発生型繊維の極細化による環境対応型のスエード調人工皮革の製造方法において、天然皮革に類似したスエード感、表面タッチ、緻密感、充実感を有し、発色性、耐湿摩擦堅牢性等の耐水性、引裂強力などの力学物性に優れたスエード調人工皮革を工業的に安定して提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
すなわち、本発明者らは、高分子弾性体が水分散樹脂であり、さらに水抽出方式による極細繊維発生型繊維の極細化による環境対応型のスエード調人工皮革の製造方法における課題であった、(1)水分散樹脂が熱水で膨潤しやすくかつ水溶性高分子成分が微量残存する結果、極細繊維が膠着することによって、得られるスエード調人工皮革のスエード感や表面タッチ、風合い、引裂強力に劣る問題。及び、(2)水分散樹脂および微量残存した水溶性高分子成分が高吸水性のために、使用時の湿潤下の擦れ等によって、色移りが起こりやすい問題。更にこれら(1)と(2)の問題が水分散樹脂に顔料を添加した場合に顕著に悪化する問題等について鋭意検討を行った。その結果、0.05〜4重量%のパーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーを極細繊維束の内部および該表面並びに高分子弾性体に含有させ、耐水性の高い水分散樹脂を高分子弾性体に用い、更には水溶性高分子成分の残存量を低減することで、これらの問題点を解消でき、天然皮革に類似したスエード感、表面タッチ、緻密感、充実感を有し、耐湿摩擦堅牢性等の耐水性、引裂強力などの力学物性に優れたスエード調人工皮革を工業的に安定して提供できることを見出した。
【0011】
また、本発明の極細繊維発生型繊維は、水溶性高分子成分と水難溶性高分子成分から構成されていることが必要である。この水溶性高分子成分とは、該成分が水溶液により抽出除去される成分を示し、水難溶性高分子成分とは、該成分が水溶液により抽出除去されにくい成分を示す。そして、水溶性高分子成分と水難溶性高分子成分からなる極細繊維発生型繊維は少なくとも1成分が水溶液による抽出処理で抽出除去されるものであれば、海島型複合繊維、混合紡糸型繊維などの多成分系複合繊維のいずれを使用してもよい。ここで水溶性高分子成分が水溶性ではなく有機溶剤可溶性である場合、極細繊維発生型繊維を極細化に有機溶剤を用い環境を汚染するのみならず、極細化する際に原着した繊維や高分子弾性体に含有した顔料の一部を溶解除去してしまい、得られるスエード調人工皮革の発色性が劣ったり、工業的生産性に劣ったものとなる。なお本発明で用いられる水溶性高分子成分としては、水溶液(以下、水系溶剤と称することもある。)で抽出処理できる紡糸可能なポリマーであれば、公知のポリマーが使用できるが、水系溶剤で溶解可能なポリビニルアルコール共重合体類(以下、PVAと略することもある。)を用いることが好ましい。PVAは容易に熱水で溶解除去が可能であり、水系溶剤で抽出除去する際の収縮挙動によって水難溶性高分子成分(極細繊維成分)の極細繊維発生型繊維に構造捲縮が発現し、繊維絡合体が嵩高く緻密なものとなって非常に柔軟な天然皮革のような優れた風合いの人工皮革基体が得られる点、および抽出除去する際に極細繊維成分や高分子弾性体成分の分解反応が実質的に起こらないため水難溶性高分子成分(極細繊維成分)に用いる熱可塑性樹脂および高分子弾性体成分の限定が無い点、更には環境に配慮した点等から好適に用いられる。
【0012】
上記PVAはホモポリマーであっても共重合単位を導入した変性ポリビニルアルコールであってもよいが、溶融紡糸性、水溶性、繊維物性および抽出処理時の収縮特性などの観点から、共重合単位を導入したPVAであることが好ましく、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数4以下のα―オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチレンビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類がより好ましい。また炭素数4以下のα−オレフィン類および/またはビニルエーテル類に由来する単位は、PVA中に1〜20モル%存在していることが好ましい。さらに、α−オレフィンがエチレンである場合において、繊維物性が高くなること、及び熱水での溶解性が良好となることから、特にエチレン単位が4〜15モル%変成されたPVAを使用することがより好ましい。
またけん化度は90〜99.99モル%が好ましく、92〜99.98モル%がより好ましく、94〜99.96モル%がさらに好ましく、95〜99.95モル%が特に好ましい。けん化度が90モル%未満の場合には、PVAの熱安定性が悪く熱分解やゲル化によって満足な複合溶融紡糸を行うことができない。一方、けん化度が99.99モル%よりも大きいPVAは安定に製造することが困難である。更に、PVAの一次構造や高次構造を調節し結晶性や水溶性を制御して、適当な熱水溶解性に調整する。
【0013】
また常温で水に溶出するタイプのPVAを水溶性高分子成分として用いた場合には水分散樹脂の含浸時に水溶性高分子成分が溶出し高分子弾性体水分散液を汚染してしまう場合があり、また水溶性高分子成分の一部溶出に伴い極細繊維部分が露出することによって含浸した高分子弾性体が極細繊維束内部に入り込んで、得られるスエード調人工皮革の風合いを硬化する傾向があることから、60〜100℃の熱水で容易に溶出するタイプのPVAを水溶性高分子成分として用いることが好ましい。さらに60〜100℃の熱水で水溶性高分子成分を溶出することによって、スエード調人工皮革に残存するPVAを1%以下に低減でき、また、繊維絡合体の収縮挙動が発生し構造捲縮を生じやすいことから天然皮革並みの優れた風合いの人工皮革基体が得られる点で好ましい。
【0014】
本発明の水難溶性高分子成分としては公知の極細繊維となりうる、例えば、ポリアミド系、ポリエステル系およびポリオレフィン系等の成分であれば特に限定するものではない。そして、PVAを高温で紡糸すると紡糸性の悪化を招くため、極細繊維を構成する水難溶性高分子成分の融点を適宜選択することが好ましく、極細繊維を構成する水難溶性高分子成分としては、極細繊維を形成する過程において抽出除去される水溶性高分子成分の融点〜+60℃の間の融点を有する熱可塑性成分を選択することが極細繊維発生型繊維の紡糸安定性の点で好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、イソフタル酸を共重合したポリエチレンテレフタレートあるいはイソフタル酸を共重合したポリブチレンテレフタレートなどで代表されるポリエステル系樹脂、あるいはナイロン6、ナイロン11、ナイロン12などで代表されるポリアミド系樹脂が好ましく挙げられる。なお水溶性高分子成分の融点としては、紡糸性などの点から160〜230℃が好ましい。
なお、極細繊維発生型繊維を構成する水溶性高分子成分と水難溶性高分子成分の質量比率としては、10/90〜60/40の範囲が、極細繊維発生型繊維の断面形成性が良好であり水溶性高分子成分が極細繊維を完全被覆しているために、繊維絡合体内部での均一な浸透性が得られ、水分散樹脂の均一含浸に有利である点、あるいは人工皮革基体とした場合、断面形成性が良好なため発生する極細繊維の絡合状態が均一であり、得られる人工皮革の風合いを損なわない点で好ましい。
【0015】
本発明の該極細繊維発生型繊維の繊度は人工皮革の用途によって任意に選択でき特に制限されるものではないが、極細繊維化後に極細繊維束からなる繊維絡合体を構成する単短繊維が0.0003〜0.4dtexの繊度を有し、0.003〜0.2dtexの繊度を有することが好ましく、0.007〜0.1dtexの繊度を有することが人工皮革基体を製造する上でより好ましい。
また織編物と併用する場合の織編物の糸を構成する繊維は極細化後に0.0003〜1.6dtex、好ましくは0.0003〜1.0dtex、さらには短繊維を構成する極細繊維の繊度と同等レベルの0.0003〜0.4dtexにすることがスエード調人工皮革にしたときの風合および表面立毛外観の均一性の点から特に好ましい。
また、短繊維の場合には平均繊維長が18〜110mmであることが好ましい。繊維長が18mm以上のものでないと効果的な絡合ができず、また110mmを越えた場合では、カード処理などの工程通過性が低下する傾向となる。ただし、その後のスライスやバフィングなどの後加工を経ることにより、最終製品中には切断されてしまい18mm未満になった繊維が一部含まれていることがあるが、これは効果的絡合が達成されてから後に発生した繊維であるので、特別不都合もなく差し支えないものである。なお上記工程通過性の観点から平均繊維長は20〜80mmが好ましい。
【0016】
本発明繊維絡合体は、少量の染料で発色させるよう、顔料を0.01〜5質量%添加していることが好ましい。この場合、最終製品として淡色系、すなわち、薄い色や淡い色としての発色性が必要な場合顔料は少量でよく、極細繊維内部への顔料添加は低濃度である。すなわち最終製品として要求される外観の色が淡色の場合には、極細繊維内部への顔料添加量は0〜1質量%が好ましく、中色の場合には1〜2質量%が好ましく、濃色の場合には2〜5質量%が好ましく、5質量%を越えると紡糸工程性や、また繊維強度が低下し、それに伴い得られる人工皮革の引裂強力が低下する傾向がある。なお、表面に露出された織編物糸の色が短繊維からなる不織布の色と大きく異なる場合は外観を損なう場合があるため、短繊維からなる不織布と織編物を構成する糸の繊度、および該繊維に添加されている顔料添加量は極力近いことが好ましいが、織編物糸から発生する島繊度/短繊維から発生する島繊度=0.5〜4.0、また織編物糸中の顔料濃度/短繊維からなる不織布中の顔料濃度=0.1〜10の範囲であれば好適である。
そして本発明では、極細繊維発生型繊維として、水溶性高分子成分と水難溶性高分子成分から構成されたものを用い、水溶性高分子成分を抽出する際に有機溶剤ではなく水溶液を用いることによって、特別な顔料を用いることなく、顔料の抽出での顔料脱落を起こさず、抽出での顔料減量による薄色化や色振れ、更には抽出浴の汚染を防ぐことができる。
【0017】
用いる顔料としては特に限定されず、例えば酸化チタン、カーボンブラックなどの無機顔料や、フタロシアニン系、アントラキノン系などの有機顔料など通常ポリマー原着に使用されているものを用いることができる。また、極細繊維に含有される顔料がカーボンブラックの場合は、カーボンブラックが極細繊維を構成するポリマー中に混在一体化して存在し、主として極細繊維を構成するポリマー中に埋包され易い点から、カーボンブラックの平均一次粒径としては10〜60nmであることが好ましい。カーボンブラックの平均一次粒径が10nm未満の場合には、紡糸中にカーボンブラックの凝集が起こり易いことに起因して均一な繊維を得ることができにくく、色斑、物性斑等の品質安定性の問題が生じ易く、かつ紡糸性が低下する傾向がある。 逆に、カーボンブラックの平均一次粒径が60nmを越える場合には、得られるスエード調人工皮革の耐光堅牢性、発色性が低下する傾向にあり、また、紡糸工程でのフィルター詰まりが起こり易く紡糸性が低下する傾向がある。そして、カーボンブラックは一般に複数の一次粒子が集合した集合体(以下アグリゲートと呼ぶ)で存在するが、カーボンブラックが極細繊維を構成するポリマー中に混在一体化して存在し、主として極細繊維を構成するポリマー中に埋包され易く、発色性、耐光堅牢性、紡糸性が良好であることから、アグリゲートの平均粒子径としては20〜200nmであることがより好ましい。また他の無機顔料、有機顔料においても同様の理由で平均粒子径としては20〜200nmであることがより好ましい。
また、顔料の添加方法としては、極細繊維を構成するポリマー中における顔料の分散性を良好にするため、極細繊維を構成するポリマーと顔料を押出機などのコンパウンド設備を用いて混練した後ペレット化したマスターバッチ方式を採用することが好ましい。また、極細繊維成分には本発明の目的や効果を損なわない範囲で、銅化合物などの安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤を重合反応時、またはその後の工程で添加しても良い。微粒子の種類は特に限定されず、例えばシリカ、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどの不活性微粒子を添加することができ、これらは単独で使用しても2種類以上併用しても良く、紡糸性、延伸性が向上する場合がある。
【0018】
上記の極細繊維発生型繊維は紡出した後、通常延伸するが、紡糸ノズルから吐出された後一旦捲き取りその後延伸する場合と、巻き取る前に延伸する場合があり、いずれの方法でもよい。延伸方法は通常熱延伸されるが、スチーム加熱、赤外線加熱、熱風、熱板、熱ローラー、水浴などのいずれを用いて行ってもよい。ただし、極細繊維発生型繊維の一成分を水溶性高分子成分とする場合は、水分の影響の少ない加熱雰囲気で延伸することが好ましい。
【0019】
本発明では、短繊維または長繊維どちらも使用可能である。ただし、短繊維の場合、得られるスエード調人工皮革の機械物性を高めるために織編物を併用しても構わず、編織物を用いる場合には、編織物を構成する糸が上記した繊維10本〜200本が集合して構成されることが好ましい。また、該織編物の撚数は10〜650T/mであり、15〜500T/mが好ましい。10T/m未満では、後述するように短繊維からなる不織布と絡合した場合に織編物の単糸が完全にばらけてしまい絡合処理時に単糸の切断が激しく起こって、短繊維と強固な絡合が行われず、高分子弾性体を低減する効果が低くなってしまう。また撚数が650T/mを越えると短繊維からなる不織布と強固に絡合した一体構造が得られにくく、より天然皮革ライクの風合いを得るためには不適当である。また織編物の目付けは、目的に応じて適宜設定可能であるが、20〜200g/mであることが好ましく、30〜150g/mがより好ましい。目付けが20g/m未満になると織編物としての形態が極めてルーズになり、目ずれなど布帛の形態安定性が低下する傾向にあり、また、目付けが200g/mを越えると織編物が密になりすぎ、不織ウエブの貫通が不充分となる傾向があり、不織ウエブの高絡合化が進まず不離一体化した構造物を作製し難くなる。また、織編物の種類としては、経編、トリコット編で代表される緯編、レース編およびそれらの編み方を基本とした各種の編物、あるいは平織、綾織、朱子織およびそれらの織り方を基本とした各種の織物など特に限定されるものではない。組織、密度などいずれを選ぶかは目的により適宜決定すればよい。また、必要に応じて仮撚処理を行っても構わない。
【0020】
そして、本発明の繊維絡合体としては、公知の方法を用いて製造することができる。長繊維絡合体の場合には、上記で得られる極細繊維発生型繊維をそのまま公知のスパンボンド法により製造する方法や各種絡合方法の組み合せ等から製造することができる。短繊維からなる繊維絡合体の場合、例えば、まず上記で得られる極細繊維発生型繊維を捲縮付与した後ステープル化し、カード、クロスラッパー、ランダムウエバー等によりウエブを形成し、ニードルパンチまたは、高圧水流処理等の公知の絡合処理を行うことにより繊維を絡ませて不織布からなる繊維絡合体を製造する。
または、極細繊維発生型繊維を捲縮付与した後ステープル化し、カード、クロスラッパー、ランダムウエバー等によりウエブを形成し、該ウエブの表層、下層、あるいは中間層に上記繊維を用いた織編物を積層し、ニードルパンチまたは、高圧水流処理等の公知の絡合処理を行うことにより不織布と織編物を構成する繊維同士を絡ませる。そして、ニードルパンチ処理が水溶性高分子成分を溶解し難い点で好ましく用いられる。ニードルパンチ条件としては、織編物構成繊維が不織布表面を貫通してくるようなニードルパンチ条件が用いることが好ましい。補強用織編物構成繊維と短繊維からなる不織布を用いた場合には、絡合を進めるため、織編物構成繊維がある程度表面に露出するようにニードルパンチを行うことが好ましく、また不織布と織編物とを重ね合わせた積層物の両面から行うのが天然皮革用の外観を得る点で好ましい。すなわち、不織布の表面側に補強用織編物構成繊維を露出させるとともに補強用織編物の表面側にも不織布構成繊維を露出させるのが好ましい。短繊維からなる不織布と織編物の比率は0/100〜10/90が好ましく、20/80〜60/40がより好ましい。短繊維からなる不織布と織編物の比率が10/90未満になると、表面に織編物が露出しやすくなって、布帛ライクな表面感のスエードとなり高級感に欠けたものとなりやすい。
具体的なニードルパンチ条件としては、ニードル針のバーブが不織布表面まで貫通するような条件でかつニードルパンチ数が400〜5000パンチ/cmの条件が好ましく、より好ましくは1000〜2000パンチ/cmの条件である。
【0021】
得られた繊維絡合体は、必要に応じ乾熱収縮、熱水収縮、熱プレスする、そして乾熱収縮処理、熱プレスを行うことが好ましく、この収縮処理により布帛の面積を収縮前の40〜90%にする。この収縮処理により緻密構造が得られ、収縮の程度が収縮前の面積の90%を越えるような低い収縮では緻密感が得られず風合いやスエード感が劣ったり、短繊維が素抜けやすくなって、それを固定するための高分子弾性体の必要量が多くなる傾向がある。逆に収縮前の面積の40%未満となるような大きな収縮の場合には風合いが硬化し好ましくない。なお収縮処理は、上記絡合絡合体を160〜200℃の雰囲気下に0.5〜3分放置することにより好適に行なわれる。
【0022】
必要に応じて、不織布に、溶解除去可能な樹脂たとえばポリビニルアルコール系樹脂などの水溶性糊剤を付与して、不織布を仮固定してもよし、表面平滑化や比重調整などのために、熱プレスなどの熱処理を行っても良い。
繊維絡合不織布の厚みは、得られる人工皮革の用途等によって任意に選択でき、特に制限されるものではないが、その厚みは0.2〜10mm程度であることが好ましく、0.4〜5mm程度であることがより好ましい。密度は0.20〜0.80g/cmが好ましく、0.30〜0.70g/cmが更に好ましい。0.20g/cm未満であると繊維の立毛感が不足し、さらに機械物性も低下する傾向がある。0.80g/cmを越えると得られる人工皮革の風合いが硬くなる傾向がある。
【0023】
本発明で繊維絡合体へ付与する水分散樹脂は、ポリウレタン水分散樹脂及び/又はアクリル樹脂とポリウレタン樹脂が複合されてなる水分散樹脂であることが好ましく、高分子弾性体は、平均粒径0.05〜0.6μmのカーボンブラック及び/又は有機系顔料を0.1〜10重量%有することが好ましく、130℃熱水での重量膨潤率が20%以下、脱落率が2%以下の高分子弾性体であることがより好ましい。
本発明の高分子弾性体を構成するポリウレタンに用いられるジイソシアネートとしては用途や必要性能に応じて公知のジイソシアネート成分を選択すれば良く、例えば、芳香環を有しない脂肪族系あるいは脂環族系の有機ジイソシアネートから構成された無黄変型ジイソシアネート(以下、無黄変タイプジイソシアネートと称することもある)、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどや、芳香族系ジイソシアネート、すなわちポリウレタン等のジイソシアネート成分として使用される芳香環を有するジイソシアネートとしては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの公知の芳香族系ジイソシアネートを挙げることができる。芳香族系ジイソシアネートを用いた場合には、得られたスエード調人工皮革において、高分子弾性体の光や熱での黄変に基づく光変色や熱変色、および高分子弾性体の光劣化や熱劣化に起因した顔料や染料の光退色や熱退色が起こりやすくなって、耐光堅牢性や耐熱堅牢性が不良となる場合があったり、染色機内に熱劣化した高分子弾性体が蓄積して色汚染が起こり染色工程性に問題が生じやすい場合があり、注意して使用する必要がある。あるいは、非常に耐光性の優れた特定の顔料や赤外線等の蓄熱の少ない特定の顔料を用いることが必要となって、製造コストの問題が生じるばかりか、限られた顔料で着色することが必要となるためバラエティに富んだ色調を揃えることが困難となる場合がある。なお、高い耐光性や高い耐熱性を必要としない用途でなければ、本発明の効果を妨げない範囲で有機ジイソシアネートとして芳香族系の有機イソシアネートを用いることができる。
【0024】
本発明のポリウレタンに用いられる高分子ポリオールとしては用途や必要性能に応じて公知の高分子ポリオールを選択すれば良く、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(メチルテトラメチレングリコール)などのポリエーテル系ポリオール;ポリブチレンアジペートジオール、ポリブチレンセバケートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレン アジペート)ジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレン セバケート)ジオール、ポリカプロラクトンジオールなどのポリエステル系ポリオール;ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレン カーボネート)ジオール、ポリペンタメチレンカーボネートジオール、ポリテトラメチレンカーボネートジオールなどのポリカーボネート系ポリオール;ポリエステルカーボネートポリオールなどが使用でき、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。特に、得られるスエード調人工皮革の耐光堅牢性、耐熱堅牢性や耐NOx黄変性、耐汗性、耐加水分解性などの耐久性が良好なものとする点、および、結晶性の高いポリカーボネート系のポリオールをポリオールの90%以上用いた場合は、染色工程での染料の洗い出しが不充分となりやすいことや、得られるスエード調人工皮革のスエード感や風合いが劣る傾向にあること等の観点から、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系などの2種以上を併用した高分子ポリオールを使用するか、或いは結晶性を落としたポリカーボネート系を主とした高分子ポリオールを使用することが特に好ましい例として挙げられる。
【0025】
本発明のポリウレタンに用いられる鎖伸長剤成分としては、用途や必要性能に応じて公知のウレタン樹脂の製造に用いられている鎖伸長剤を選択すれば良いが、例えば、ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンおよびその誘導体、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドなどのジアミン類;ジエチレントリアミン等のトリアミン類;トリエチレンテトラミン等のテトラミン類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオールなどのジオール類;トリメチロールプロパン等のトリオール類;ペンタエリスリトール等のペンタオール類;アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコールなどのアミノアルコール類などが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。中でも、含浸後に短時間の熱処理で高分子弾性体の固化が完了し、染色工程での脱落が少ないことから、ヒドラジン、ピペラジン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミンおよびその誘導体、エチレントリアミンなどのトリアミンの中から2〜4種類を併用することが好ましい。また、鎖伸長反応時に、鎖伸長剤とともに、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミンなどのモノアミン類;4−アミノブタン酸、6−アミノヘキサン酸などのカルボキシル基含有モノアミン化合物;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのモノオール類を併用してもよい。
また、ポリウレタン系重合体の樹脂骨格中へ水分散樹脂の粒径や各種性能を付与するためにカルボキシル基等のイオン性基を導入しても構わない。その方法は、特に制限されないが、ウレタン樹脂の原料として2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)ブタン酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)吉草酸などのカルボキシル基含有ジオールが好ましい例として挙げられる。特に、カルボキシル基含有2官能性化合物のカルボキシル基含有量がポリウレタン系重合体中に5〜30mmol/100gであると染色工程で脱落が少ない傾向がある。
【0026】
本発明の高分子弾性体は、上記したポリウレタン成分にアクリル成分を複合化したアクリル−ポリウレタン複合タイプの高分子弾性体を用いることも好ましい例として挙げられる。また、ポリウレタン成分が海島構造の海を構成し、アクリル成分が海島構造の島成分を構成して、ポリウレタン成分が連続相、アクリル成分が非連続相を形成していることが得られるスエード調人工皮革のスエード感、表面タッチや力学物性等の諸性能が良好な点で好ましく、顔料がポリウレタン中に混在一体化して存在することが、顔料の脱落を抑制して摩擦堅牢性などの堅牢性を確保する点で好ましい。ポリウレタン成分とアクリル成分の相構造に関しては、透過型電子顕微鏡などを用いることで確認することができる。
アクリル−ウレタン複合タイプの樹脂は、公知の方法でウレタン樹脂水性分散液の存在下で(メタ)アクリル酸誘導体を主成分とするエチレン性不飽和モノマーを乳化重合する方法などで得られる。また、従来既知のエチレン性不飽和モノマーの乳化重合と同様にして行うことができる。エチレン性不飽和モノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分として用いることが好ましい。さらに、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、(メタ)アクリル酸アリルなどの多官能性エチレン性不飽和モノマーを少量共重合し、樹脂を架橋構造とすることが好ましい。
【0027】
なお、高分子弾性体は、主剤樹脂用の架橋剤を含有していても良い。架橋剤としては、主剤樹脂の官能基と反応し得る官能基を分子内に2個以上含有する化合物であって、主剤樹脂の官能基と架橋剤の官能基の組み合わせは、カルボキシル基とオキサゾリン基、カルボキシル基とカルボジイミド基、カルボキシル基とエポキシ基、カルボキシル基とシクロカーボネート基、カルボキシル基とアジリジン基、カルボニル基とヒドラジド基などが挙げられる。これらの中でも、液安定性が優れ、しかも製造が容易であることから、カルボキシル基を有する主剤樹脂と、オキサゾリン基またはカルボジイミド基を有する架橋剤の組み合わせが好ましい例として挙げられる。
【0028】
また、本発明のアクリル−ポリウレタン複合タイプの高分子弾性体におけるポリウレタンの窒素含有率は、2.0〜5.0質量%の範囲が好ましい。窒素含有率が2.0質量%未満の場合には、ポリウレタン成分が海島構造の海(連続相)でアクリル成分が海島構造の島(非連続相)の構造をとり難くなって、抽出工程や染色工程での高分子弾性体の膨潤や脱落が起こりやすくなって染色工程性に劣るばかりか、得られるスエード調人工皮革の風合いやスエード感、更には引張強力などの力学性能に劣ったものとなったり、吸水性が高くなる傾向となる。逆に、ポリウレタンの窒素含有率は、5質量%を越える場合には、得られるスエード調人工皮革の風合いが堅くなる傾向となる。
【0029】
ポリウレタンーアクリル複合体のポリウレタン成分とアクリル成分の質量比率は、10:90以上が好ましい。ポリウレタン成分とアクリル成分の質量比率が10:90未満の場合には、ポリウレタン成分が海島構造の海(連続相)でアクリル成分が海島構造の島(非連続相)の構造をとり難くなって、抽出工程や染色工程での高分子弾性体の脱落が起こりやすくなり、得られるスエード調人工皮革の風合いやスエード感、更には引張強力などの力学性能に劣ったものとなる。
【0030】
本発明の高分子弾性体は、本発明の特徴を損なわない限り、浸透剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、造膜助剤、感熱ゲル化剤、柔軟剤、滑剤、防汚剤、蛍光剤、防黴剤、難燃剤、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、染料などを適宜含有していてもよい。
【0031】
本発明の高分子弾性体中に含有する顔料および高分子弾性体は、スエード調人工皮革を得る工程、すなわち極細繊維発生型繊維の水溶性高分子成分を水抽出する工程や染色する工程などの工程で、脱落しないことが好ましく、具体的には、本発明では、顔料を含有する高分子弾性体の製造工程での残存率が95%以上であることが好ましく、97%以上が更に好ましい。残存率は、高分子弾性体に含有する顔料と高分子弾性体を実際に製造する所定の割合で混合してフィルムを作成し、実際に製造するのと同様の条件、例えば90℃熱水処理で抽出した後、130℃高温染色処理しアルカリ洗浄処理および酸中和処理、水洗処理を行った後の質量保持率を残存率とする。残存率が95%未満の場合には、顔料や高分子弾性体の脱落が起こって得られるスエード調人工皮革の摩擦堅牢性、発色性、鮮明性が低下し、色振れが大きくなって色合わせが煩雑となるばかりか、染色機などでの汚れが起こって染色工程性が低下する傾向がある。
高分子弾性体に含有する顔料と高分子弾性体の総和の残存率が95%以上とするためには、前述のポリウレタンやアクリルの好適要件を選択することにより可能となる。そして、高分子弾性体は、130℃の熱水中に浸漬した直後の熱水膨潤率が20%以下であり、かつ、130℃の熱水中に浸漬した後の脱落率が2.0%以下であることが好ましい。更には、通常の染色工程と同様に130℃高温染色処理した後、アルカリ洗浄処理および酸中和処理、水洗処理を行った後の脱落率が2.0%以下であることが好ましい。高分子弾性体の熱水膨潤率が20%を越える場合や脱落率が2%を越える場合には、水溶液で極細化処理や柔軟化処理する際や、染料で染色する際に、高分子弾性体が膨潤変形して、顔料や高分子弾性体の脱落が起こったり、高分子弾性体が繊維を把持できず、スエード感や表面タッチが悪化する傾向があるのに加えて、湿潤下での摩擦堅牢性に劣る傾向にある。特に水分散樹脂は、溶剤系の高分子弾性体と比べて130℃での熱水膨潤率が高い傾向があり、130℃での熱水膨潤率や脱落率を低減することが本発明において好ましい。
【0032】
高分子弾性体の熱水膨潤性、脱落率などは高分子弾性体の架橋密度と相関していると考えられることから、高分子弾性体を膨潤させやすい溶剤である、メチルエチルケトン、トルエン、N,N,−ジメチルホルムアミドあるいはアセトンなどの質量膨潤率や質量保持率を測定することでも評価できる。具体的には、50℃のメチルエチルケトンに5時間浸漬した直後の質量膨潤率が150%以下で脱落率が5%以下、より好ましくは質量膨潤率が120%以下、脱落率が3%以下であることが好ましく、また、90℃のトルエンに1時間浸漬した直後の質量膨潤率が200%以下、脱落率が10%以下、より好ましくは質量膨潤率が150%以下、脱落率が6%以下であることが好ましい。更に、90℃の熱水中に浸漬した後に通常の染色工程と同様に130℃高温染色処理、アルカリ洗浄処理および酸中和処理、水洗処理を行った後、50℃のメチルエチルケトンに5時間浸漬した直後の質量膨潤率が150%以下で脱落率が5%以下であることが更に好ましい。
【0033】
ここでいう顔料を含有する高分子弾性体の、水溶性高分子成分と水難溶性高分子成分からなる極細繊維発生型繊維を極細化後さらに染色処理した後の残存率(以下、高分子弾性体と顔料の抽出・染色工程での残存率と略すこともある。)とは、後述するが、スエード調人工皮革を製造する場合と同様の高分子弾性体と顔料の質量比率で混合した顔料含有高分子弾性体水分散液を用いて、フィルムを作成し、120〜150℃熱処理した後の質量W0とし、その後、スエード調人工皮革を製造する場合と同様に90℃熱水抽出処理および染色工程と同等の処理の後乾燥し質量(Ws)を測定した。そして、下記の計算式に従い顔料と高分子弾性体の脱落率を計算した。
高分子弾性体と顔料の抽出・染色工程での残存率(%)=100−[(W0−Ws)/W0]×100
ここでいう高分子弾性体の130℃での熱水膨潤率とは、後述するが、水分散樹脂フィルムを120〜150℃で熱処理した後の質量をW0とし、130℃熱水に1時間浸漬した後の、質量をW1としたとき、下記の計算式に従って計算した膨潤率を言う。
高分子弾性体の130℃での熱水膨潤率(%)=[(W1−W0)/W0]×100
また、高分子弾性体の130℃での熱水脱落率とは、後述するが、高分子弾性体キャストフィルムを120〜150℃で熱処理した後の質量をW0とし、130℃熱水に1時間浸漬し乾燥した後の質量をW2としたとき、下記の計算式に従って計算した脱落率を言う。
高分子弾性体の130℃での熱水脱落率(%)=[(W0−W2)/W0]×100
【0034】
染色処理後の顔料と高分子弾性体の総和の残存率(高温染色での残存率と略すこともある。)とは、後述するが、スエード調人工皮革を製造する場合と同様の高分子弾性体と顔料の質量比率で混合した顔料含有高分子弾性体水分散液を用いて、厚み50±5μmの1辺10cmの正方形のキャストフィルムを作成し、120〜150℃熱処理した後、質量(W0)を測定した。その後、スエード調人工皮革を製造する場合と同様に90℃熱水抽出処理を行った後、染色工程と同等の処理、すなわち、130℃高温染色処理を行い、引き続き、後述のアルカリ洗浄処理および酸中和処理、水洗処理を行い、その後120〜150℃で乾燥した後の質量(W3)を測定し、下記の計算式に従い顔料と高分子弾性体の残存率を計算した。
染色処理後の顔料と高分子弾性体の総和の残存率(高温染色での残存率)(%)=100−[(W0−W3)/W0]×100
逆に高温染色での脱落率は、高温染色での脱落率(%)=[(W0−W3)/W0]×100となる。
溶剤処理における膨潤率や脱落率についても、所定の溶剤、温度にて同様の方法で、各溶剤に対する膨潤率や脱落率を測定する。
【0035】
本発明において、高分子弾性体を着色する顔料としては、一般的に用いられている無機顔料ではなく、鮮明性、発色性、更には顔料添加に伴う力学性能や摩擦堅牢性の低下を最小限とする点、および、顔料を含有する高分子弾性体の残存率を95%以上とする点から、有機系顔料及び/又はカーボンブラックを使用することが必要である。有機系顔料は有機溶剤に一部溶解するので、有機系顔料または有機系顔料を含む顔料粒子で高分子弾性体を着色する本発明においては、有機溶剤を使用しない水分散樹脂を用いることが必要となる。ここでいう水分散樹脂とは、有機溶剤を実質的に含まない水あるいは水溶液に分散した高分子弾性体のことを示す。つまり、従来から一般に用いられている、有機溶剤に溶解させた高分子弾性体を含浸、湿式凝固させる方法では凝固工程および有機溶剤洗浄工程で有機系顔料が一部溶解脱落するため、得られるスエード調人工皮革の発色性が低下したり、色ぶれが発生する問題が生じ、更には切り替えロスが大きくなって、工業的に有機系顔料を使用することが困難となる傾向がある。一方、無機系顔料は有機溶剤に殆ど或いは全く溶解しないため、有機溶剤に溶解させた高分子弾性体に配合することも考えられるが、鮮明性、発色性が劣って色範囲が非常に狭くなる点、および、高分子弾性体との均一混合性に劣って含浸が不十分となり顔料の付着斑が起こりやすい点、更には、スエード調人工皮革の引張物性、表面耐磨耗性、摩擦堅牢性などへ悪影響を及ぼす傾向があるため、無機系顔料のみで高分子弾性体を着色しても、本発明の効果は得られない場合がある。
【0036】
また、顔料は高分子弾性体中に混在一体化して存在し、主として顔料が高分子弾性体を構成するポリマーに埋包されていることが好ましい。ここでいう顔料が高分子弾性体中に混在一体化して存在し、主として顔料が高分子弾性体を構成するポリマーに埋包されているとは、顔料と高分子弾性体が別々に偏って単独で存在すること無く、実質的に顔料が高分子弾性体中に均一分散している状態をいう。顔料の添加量としては、0〜10質量%が好ましく、更に好ましくは0.01〜5質量%である。顔料が0.01質量%未満の場合には、得られるスエード調人工皮革において耐光堅牢性や発色性が不足する場合がある。逆に、顔料が10質量%を越える場合には、高分子弾性体に埋包されていない顔料の割合が増加して、得られるスエード調人工皮革の摩擦堅牢性などの堅牢性が低下する傾向があり、また、高分子弾性体の持つ繊維捕捉性能が低下して、得られるスエード調人工皮革の引張強力、表面磨耗性などが低下したり、染色工程での顔料と高分子弾性体の脱落が多くなって、顔料を含有する高分子弾性体の残存率を95%以上とすることが難しくなる場合がある。また、最終製品として要求される外観の色が淡色の場合には、高分子弾性体内部への顔料添加量は0〜1質量%が好ましく、中色の場合には1〜2質量%が好ましく、濃色の場合には2〜5質量%が好ましい。
【0037】
本発明の高分子弾性体に含有させる顔料それぞれの平均粒径は0.05〜0.6μmであることが好ましい。ここでいう平均粒径とは、顔料が高分子弾性体中に存在した状態における顔料の平均粒径であって、一次粒子径を指すものではない。つまり、顔料は一次粒子径の状態で存在することは稀であり、一般に、一次粒子径の顔料が多数凝集したストラクチャー、一次凝集体、二次凝集体、あるいは二次粒子などと呼ばれる凝集状態で存在する。また、高分子弾性体の種類等によってその凝集状態は影響され、凝集状態にある顔料の粒径が各種性能を支配するものと考えられる。本発明における平均粒径とは、高分子弾性体を構成するポリマー中における、ストラクチャー、一次凝集体、二次凝集体、あるいは二次粒子などと呼ばれる凝集状態の平均粒径を言う。
高分子弾性体に含有されている顔料の平均粒径が0.05μm未満である場合には、顔料自体の光隠蔽性、耐光堅牢性が低下することに起因すると思われるが、スエード調人工皮革の耐光堅牢性が劣る傾向があり、更に、高分子弾性体液中で顔料が凝集しやすくなって顔料を高分子弾性体液中に均一に分散させることが難しくなって、得られるスエード調人工皮革の発色斑や色斑が生じる傾向がある。逆に、高分子弾性体に含有されている顔料の平均粒径が0.6μmを越える場合には、顔料が高分子弾性体を構成するポリマーに埋包されにくくなって、得られる人工皮革用基体の摩擦堅牢性などの堅牢性が劣る傾向が有り、抽出工程や染色工程での顔料と高分子弾性体の脱落も多くなって、顔料を含有する高分子弾性体の残存率を95%以上とすることが難しくなる場合がある。更に高分子弾性体と顔料を配合した際に、顔料が沈降しやすくなって、顔料を含有する高分子弾性体の含浸が不十分になり、スエード調人工皮革の発色斑や色斑が生じる傾向がある。顔料の平均粒径は、0.1〜0.5μmが特に好ましい。なお、スエード調人工皮革の高分子弾性体中に含有する顔料の平均粒径や分散状態については、走査型あるいは透過型の電子顕微鏡等でスエード調人工皮革の断面および表面を観察する方法で確認できる。
【0038】
本発明の高分子弾性体に含有させる顔料は、有機系顔料としては例えば、フタロシアニン系、アントラキノン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、イソインドリン系、インジゴ系、キノフタロン系、ジケトピロロピロール系、ペリレン系、ペリノン系等の縮合多環系有機顔料およびベンズイミダゾロン系、縮合アゾ系、アゾメチンアゾ系等の不溶性アゾ系などが挙げられる。カーボンブラックには、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サマールブラックなどがあるが、本発明で使用するカーボンブラックはそれ自体の種類を何ら限定するものではない。これら有機系顔料やカーボンブラックを繊維に1種以上含有させる。本発明の効果を妨げない範囲で、無機系顔料を併用しても構わず、例えば、酸化チタン、べんがら、クロムレッド、モリブデンレッド、リサージ、群青、酸化鉄等が挙げられる。特に、得られるスエード調人工皮革の鮮明性、発色性、色調の広さ、耐光堅牢性、摩擦堅牢性および表面耐磨耗性などが優れる点で、高分子弾性体に含有する顔料としては縮合多環系有機顔料、フタロシアニン系および不溶性アゾ系顔料が特に好ましく、縮合多環系有機顔料、フタロシアニン系や不溶性アゾ系顔料のみの顔料からなる、縮合多環系有機顔料、フタロシアニン系や不溶性アゾ系顔料を主体とし、色調等の必要に応じてカーボンブラックや酸化チタン等を併用した顔料が特に好ましい例として挙げられる。また、カーシートなど高耐光性が必要な用途においては、耐光劣化の大きい顔料は使用を避けることが望ましい。
【0039】
本発明においては、高分子弾性体に対して非溶剤である水などの液体を使用して希釈した水分散樹脂、および、顔料に対して非溶剤である水などの液体を使用して希釈した水分散顔料を使用することが、高分子弾性体中における顔料の分散性が良好となる点で好ましい。また、水分散樹脂、水分散顔料双方共に、ノニオン系、アニオン系あるいはその併用系に分散されているものを用いることが、高分子弾性体中の顔料の分散性、および高分子弾性体と顔料の配合液の安定性が良好で、高分子弾性体中に顔料が均一に分散して、顔料が高分子弾性体に埋包されやすい点で好ましい。なお、高分子弾性体中の顔料の分散性、および高分子弾性体と顔料の配合液の安定性は、高分子弾性体中に顔料が均一に分散し、顔料が主として高分子弾性体に埋包されることを事前に確認することが好ましい。
【0040】
また高分子弾性体水溶液を含浸した後、高分子弾性体を固化させる。固化する方法としては、公知の方法が挙げられるが、例えば、熱処理して乾式凝固、あるいは熱水処理、スチーム処理、赤外線処理を行って感熱凝固する方法が好ましく挙げられる。
また本発明では、高分子弾性体水分散液に感熱ゲル化性化合物や金属塩を添加する等の公知の方法で、繊維絡合体全体に均一に存在できるように高分子弾性体を凝固する方法を加えることがより好ましい。
水分散樹脂を繊維絡合体内部に含浸する方法については、繊維絡合体中に高分子弾性体の水性分散液を均一に含浸させ得る公知の方法を採用すれば良いが、水性分散液中に繊維絡合体を浸漬した後にプレスロールやドクターナイフなどを用いて水分散樹脂の含浸量を適量なものに調整する方法や、定量ポンプ付きのコート塗工方法による方法などが好ましい例として挙げられる。
また、粘度としては高分子弾性体水分散液の含浸性の点から、1〜200cpoiseが好ましく、2〜100cpoiseがより好ましい。
【0041】
本発明の繊維絡合体と高分子弾性体の質量比率は、高分子弾性体:極細繊維絡合体=5:95〜40:60の質量範囲とすることが好ましく、より好ましくは10:90〜30:70である。高分子弾性体が5質量%未満の場合、繊維絡合体を十分固定できず、得られるスエード調人工皮革のスエード感や表面タッチ、表面磨耗性等の物性に劣る傾向がある。逆に、40質量%を越える場合には、高分子弾性体特有の反発感や抵抗感が大きくなって、得られるスエード調人工皮革の風合いや表面タッチが劣る傾向がある。
【0042】
極細繊維発生型繊維からなる繊維絡合体へ高分子弾性体水分散液を含浸した後、極細繊維および高分子弾性体の非溶媒であり且つ抽出除去成分の溶媒である水溶液で抽出除去成分を除去し、極細繊維発生型繊維を極細化する。
特に抽出除去する場合、環境問題の点および高分子弾性体などに含有する顔料の脱落を低減できる点から熱水等の水系溶媒で抽出除去成分を除去して極細繊維発生型繊維を極細化する方法が必要である。熱水抽出温度としては、残存するPVA量を1質量%以下にする点等の理由で、60〜100℃の温度が好ましく、80〜95℃がより好ましい。
また必要に応じて所望の厚みに加圧加熱処理や分割処理などで厚みあわせを行う。また、極細繊維発生型繊維を極細化する前あるいは後に、少なくとも一面をバフィング処理等の起毛処理を施し、極細繊維を主体とした極細繊維立毛面を形成させてスエード調人工皮革としてもよい。必要により、揉み柔軟化処理、逆シールのブラッシングなどの仕上げ処理を行うことができる。
【0043】
本発明のパーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーは、構成単位として下式(1);
CH=CX−COO−Y−Rf (1)
(但し、式中、XはHまたはCH基、Yは炭素数1以上のアルキレン基、―CHCHN(R)SO−[Rはアルキル基]、または、CHCH(OZ)CH[Zは水素またはアセチル基]基を示す。Rfは炭素数3〜21のフルオロアルキル基[但し、アルキル基中に酸素を含んでいても良い]を示す。)で表されるフルオロアルキル基を含有するアクリル酸エステル、またはメタクリル酸エステルから誘導されたフッ素系単量体(a)から重合されたフッ素系化合物である。また、該フッ素系単量体と共重合可能な1種類以上のエチレン性不飽和単量体を共重合した化合物も好ましい例として挙げられる。ここでフッ素系単量体(a)と共重合可能な1種類以上のエチレン性不飽和単量体(b)としては、特に限定されないが、エチレン、塩化ビニル、フッ化ビニル、ハロゲン化ビニルスチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、(メタ)アクリル酸およびそのアルキルエステル、ポリオキシアルキレン、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ビニルアルキルエーテル、ハロゲン化アルキルビニルエーテル、ビニルアルキルケトン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、アジリジニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソシアタートエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、無水マレイン酸、ポリシロキサン含有(メタ)アクリレート、N−ビニルカルバゾールなどが挙げられる。
【0044】
フッ素系単量体(a)と、フッ素系単量体(a)と共重合可能なエチレン性不飽和単量体(b)の構成比は、a/(a+b)=40〜95質量%が好ましい。(a)/(b)の共重合比率を調整することで、繊維との接着性、皮膜形成性、皮膜強度、耐水性などを調節することができる。また、ポリウレタンフッ素系ポリマーを一部導入したパーフルオロアルキルウレタン重合体でも構わない。数平均分子量としては皮膜形成性、皮膜強度、耐水性など点から数万〜数十万の範囲が好適である。
【0045】
本発明におけるパーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーによる改良効果の仕組みは定かではないが、適度な滑り効果と適度な繊維接着性を有することで、極細繊維の分繊性を向上しつつ、得られるスエード調人工皮革表面の摩擦抵抗を低減することで、スエード感、表面タッチ、緻密感、充実感、更には引裂強力などの力学物性を向上したり、特に吸水性の高い水分散樹脂において残存被抽出ポリマーの吸水性を低下させることで、得られるスエード調人工皮革の湿潤状態での擦れによる水分散樹脂や極細繊維の脱落を低減する効果が有ると考えられる。また、パーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーは皮膜形成性を有することが好ましく、皮膜形成性を有することで極細繊維束内部や極細繊維束間を適度に接着して、染色や実使用下での毛抜けや水分散樹脂の脱落をさらに抑制する効果も有ると考えられる。このような理由から、パーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーの付与は、水溶性高分子成分を1成分とする極細繊維発生型繊維を極細化した繊維からなる極細繊維束と水分散樹脂からなる高分子弾性体から構成されるスエード調人工皮革に特に有効と考えられる。更に、一般的にパーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーを付与すると、一般に静電気が大きくなることから、静電気防止剤を併用することが多いが、本発明では、水分散樹脂および水溶性高分子成分が高吸水性であるために静電気が発生しにくく、静電気防止剤を併用する必要がなく、静電気防止剤の添加に伴う染料のしみ出しや吸水性の増大を避けることができる予想外の効果も有する。
一方、アクリレート基を含有しないパーフルオロアルキル系ポリマーの場合には、滑り効果が大きすぎ、また、繊維接着性や皮膜形成性が劣るため、本発明の目的を達することが難しい。
【0046】
パーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーは、0.05〜5重量%を、極細繊維束の内部および該表面並びに高分子弾性体に含有させることが好ましい。0.05重量%未満では、改良効果が得られ難く、本発明の目的とする天然皮革に類似したスエード感、表面タッチ、緻密感、充実感を有し、耐湿摩擦堅牢性等の耐水性、引裂強力などの力学物性に優れたスエード調人工皮革を工業的に安定して提供することができない。一方、5重量%を超える場合には、風合いが堅くなったり、静電気が増大する傾向にある。より好ましくは、0.2〜4質量%である。
また、極細繊維束の内部および該表面並びに高分子弾性体の何れにもパーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーが付着していること必要があり、何れかに付着していない場合には、本発明の効果を得ることが難しい。従って、水溶性高分子成分を抽出して極細繊維を発生した後、且つ、高分子弾性体を付与した後にパーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーを付与する方法が好ましい例として挙げられる。具体的には、水分散樹脂を付与し、さらに極細繊維発生型繊維を極細化処理した後、あるいは、前述の処理後さらに染色処理した後などに、パーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーを処理することが好ましい。また、極細繊維発生型繊維を極細化処理した後、あるいは、染色処理した後などで、基体を乾燥することなく湿潤状態でさらに、パーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーの付与処理をしても構わない。なお、極細繊維束の内部および該表面並びに高分子弾性体に付着していれば、パーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーの付与方法は、特に限定されない。そして、パーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーは基体全体に付着していることが好ましい。付着方法は、特に限定されないが、ディップニップ法、コーティング法等公知の付与方法を用いることが可能であるまた、パーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーを処理した後、基体へ固着させる点から、100〜180℃、より好ましくは120〜160℃で熱処理することが好ましい。また、スエード調人工皮革の表(立毛)層から表層側を重点的にグラビア法等の公知の方法にて付与させても構わない。
【0047】
本発明のスエード調人工皮革は23℃の水中に24時間浸漬した時の吸水率が5〜80%であることが好ましい。吸水率を5〜80%にすることで、得られるスエード調人工皮革の湿潤状態での擦れによる水分散樹脂や繊維の脱落を低減することができる。より好ましくは、10〜60%である。吸水率が5%未満の場合には、静電気が大きくなる傾向にある。水分散樹脂や水溶性高分子成分からなる極細繊維発生型繊維を用いた場合、吸水率が高くなる傾向を有するが、吸水率を5〜80%に低減するには、パーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーを0.05〜5重量%含有させること、及び、水溶性高分子成分の残存率を1%以下にすることで達成できる。
【0048】
なお、本発明における水溶性高分子の残存率は以下のようにして求めることができる。
[水溶性高分子の残存率(%)]
以下の(1)から(3)の式で用いる繊維絡合体は全て同一組成および同一の手法により得られたサンプルを複数用意して測定する。
(1)抽出処理前の繊維絡合体の絶乾質量をAgとし、この繊維絡合体を液流染色機を用い、120℃の熱水浴中で2時間処理することを5回繰り返す。熱水処理後の繊維絡合体の絶乾質量をBgとする。AおよびBを用い、完全抽出した場合の抽出率を以下式で算出する。
完全抽出率X(%)=100×(A−B)/A
(2)(1)で用いたものと同じ別のサンプルの抽出処理前の絶乾質量をCgとし、任意の条件下で抽出処理を行い、抽出処理後の絶乾質量がDgであった場合、抽出率Yは以下の式で表される。
任意の抽出条件下での抽出率Y(%)=100×(C−D)/C
(3)上記の完全抽出率Xと、任意の抽出条件下でのサンプルの抽出率Yを用い、水溶性高分子成分の残存率Cは以下の式で算出する。
水溶性高分子成分の残存率Z(%)=X−Y
なおこの方式で、染色処理後の水溶性高分子成分の残存率の計算も可能である。
【0049】
また、前記したように、パーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーを極細繊維束内部および該表面並びに高分子弾性体に付着させることで、前記した改良効果が有るのに加えて、バフィング性の向上や、染色での柔軟剤としての柔軟化効果などもあると考えられる。
付与するパーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーには、本発明の特徴を損なわない限り、浸透剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、造膜助剤、高分子弾性体、柔軟剤、滑剤、防汚剤、蛍光剤、防黴剤、難燃剤、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、染料、顔料などを適宜含有していてもよい。
【0050】
本発明において、得られるスエード調人工皮革の密度は0.40〜0.85g/cmであることが好ましい。密度が0.40g/cm未満の場合には、天然皮革ライクな風合いが得られ難くなり、また密度が0.85g/cmより大きい場合には、柔軟性に劣る傾向となる。好ましくは、0.45〜0.80g/cmの範囲である。従来の人工皮革の密度は0.3〜0.45g/cmの範囲であり、本発明の人工皮革は密度が高く、この密度が高いことが本発明の人工皮革に天然皮革に酷似した風合いや充実感、ドレープ性をもたらす。
【0051】
本発明の繊維絡合体と顔料を含有した高分子弾性体からなる、(染色を行っていない)人工皮革用基体の耐熱堅牢度が、130℃で100時間熱処理条件においてが3級以上であることが好ましい。また、110℃で200時間熱処理した条件においても、3級以上であることが好ましい。染色しても耐熱堅牢性の優れたスエード調人工皮革が得られるのに加え、染色工程での熱劣化が少なく、高分子弾性体が少量脱落した場合にも染色機への付着汚れが少なく、染色工程性にも優れたものとなる。
【0052】
本発明のスエード調人工皮革は、必要に応じて樹脂層を付与して、銀付き調あるいは半銀付き調の人工皮革とすることもできる。また、表面を加熱し、平滑面に押圧することにより表層部を溶融して樹脂層とすることもできる。表面に付与する樹脂としては、ポリウレタンやアクリルで代表される弾性重合体が好適に用いられる。また、少量の染料あるいは少量の顔料を用いて着色処理を行っても良い。また、必要に応じて、本発明の人工皮革を上層に使用し、編物あるいは編物を下層となるよう貼り合わせたり、あるいは、本発明の立毛調人工皮革を上層に使用し、該立毛調人工皮革を構成する繊維とは異種の繊維からなる層を下層となるよう貼り合わせたりしても構わない。
表面に付与する高分子弾性体は、本発明の特徴を損なわない限り、浸透剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、造膜助剤、感熱ゲル化剤、柔軟剤、滑剤、防汚剤、蛍光剤、防黴剤、難燃剤、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、染料などを適宜含有していてもよい。
【0053】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお以下の実施例、比較例中に記載されている性能測定などの評価は以下の方法で行った。
【0054】
[湿摩擦堅牢性測定]
JIS L0801に準じて、ウエット状態で測定し級判定にて評価した。
【0055】
[引裂強力測定]
たて10cm×よこ4cmの試験片を切り取り短編の中央によこの辺と直角に5cmの切れ目をいれ、各切片をチャックに挟み引張試験機で10cm/minの速度で引裂く。引裂き最大荷重を求め、あらかじめ求めた試験片の目付で除した値を引裂強力値とする。そして、試験片3個の平均値で表す。
【0056】
[水分散顔料の平均粒径]
大塚化学株式会社製「ELS−800」を使用して動的光散乱法により測定し、キュムラント法(東京化学同人社発行「コロイド化学第IV巻コロイド化学実験法に記載」により解析して、水分散顔料の平均粒子径を測定した。
【0057】
[高分子弾性体中の顔料の平均粒径と分布状態]
酸化オスミニウム染色処理したスエード調人工皮革の断面を、走査型電子顕微鏡「S−2100日立走査型電子顕微鏡」(倍率2000〜1万倍)で10ケ所以上観察し、高分子弾性体中の顔料の平均粒径と分布状態を測定した。
【0058】
[高分子弾性体と顔料の抽出・染色工程での残存率]
高分子弾性体に含有する顔料の顔料残存率は、スエード調人工皮革を製造する場合と同様の高分子弾性体と顔料の質量比率で混合した顔料含有高分子弾性体水分散液を用いて、厚み50±5μmの1辺10cmの正方形のキャストフィルムを作成し、120〜150℃熱処理した後、質量(W0)を測定した。その後、スエード調人工皮革を製造する場合と同様に90℃熱水抽出処理および染色工程と同等の処理、すなわち、130℃高温染色処理を行い、引き続き、水酸化ナトリウム6g/l、テックライト(東海電化工業株式会社製)6g/lにて70℃×50分間アルカリ還元洗浄処理し、更に酢酸1g/lで60℃×10分間中和処理した後、水洗し、その後120〜150℃で乾燥した。2時間放置した後の質量(Ws)を測定し、下記の計算式に従い顔料と高分子弾性体の脱落率を計算した。
高分子弾性体と顔料の抽出・染色工程での残存率(%)=100−[(W0−Ws)/W0]×100
【0059】
[水分散樹脂フィルムの130℃での熱水膨潤率、脱落率の測定]
厚み50±5μmの1辺10cmの正方形の高分子弾性体キャストフィルムを120〜150℃で熱処理した後、質量(W0)を測定した。その後、130℃熱水に1時間浸漬した後、サンプルを取り出し、すぐに質量(W1)を測定し、下記の計算式に従い膨潤率を計算した。
高分子弾性体の130℃熱水膨潤率(%)=[(W1−W0)/W0]×100
脱落率に関しては、乾燥後の質量(W2)を測定し下記の計算式に従い脱落率を計算した。
高分子弾性体の130℃熱水脱落率(%)=[(W0−W2)/W0]×100
【0060】
[水分散樹脂フィルムの50℃メチルエチルケトンでの膨潤率、脱落率の測定]
厚み50±5μmの1辺10cmの正方形の高分子弾性体キャストフィルムを120〜150℃で熱処理した後、質量(W0)を測定した。その後、50℃メチルエチルケトンに5時間浸漬した後、サンプルを取り出し、すぐに質量(Wm)を測定し、下記の計算式に従い膨潤率を計算した。
高分子弾性体の50℃メチルエチルケトン膨潤率(%)=[(Wm−W0)/W0]×100
脱落率に関しては、乾燥後の質量(Wn)を測定し下記の計算式に従い脱落率を計算した。
高分子弾性体の50℃メチルエチルケトン脱落率(%)=[(W0−Wn)/W0]×100
【0061】
[高温染色での残存率および脱落率の測定]
厚み50±5μmの1辺10cmの正方形の高分子弾性体(顔料含む)キャストフィルムを120〜150℃で熱処理した後、質量(W0)を測定した。その後、130℃で60分高温染色した後、引き続き、水酸化ナトリウム6g/L、テックライト(東海電化工業株式会社製)6g/Lにて70℃×50分間アルカリ還元洗浄処理し、更に酢酸1g/Lで60℃×10分間中和処理した後、水洗した。その後120〜150℃で乾燥し2時間放置した後の質量(W3)を測定し、下記の計算式に従い残存率を計算した。なお、染料濃度はフィルムに対して2質量%以下で行った。
高温染色での残存率(%)=100−[(W0−W3)/W0]×100
高温染色での脱落率(%)=[(W0−W3)/W0]×100
【0062】
[残存PVA量の測定]
スエード調人工皮革をHFIP(ヘキサフルオロイソプロピルアルコール)に浸漬し、繊維構成成分や高分子弾性体成分などを溶解させた後、500MHzプロトンNMR(JEOL GX−500)装置で、スエード調人工皮革中に占めるPVA量を質量比率で定量した。仮に、高分子弾性体がHFIPに溶解しない場合には、HFIPに溶解した高分子弾性体を除く成分中のPVA量の質量比率を測定し、別に、HFIPに溶解しない高分子弾性体成分の質量を測定してスエード調人工皮革中に占める高分子弾性体成分の質量比率を測定することで、スエード調人工皮革中に占めるPVA量を求めることができる。
【0063】
[熱可塑性樹脂の融点]
DSC(TA3000、メトラー社)を使用し、試料10mg、窒素中、昇温速度10℃/分で250℃まで昇温後、室温まで冷却し、再度昇温速度10℃/分で250℃まで昇温した場合に示す吸熱ピークを測定して求めた。
【0064】
[吸水率]
縦15cm、横15cmの試験片を準備し、水浸漬前の重量(W0)を測定する。23℃水中に試験片を24時間浸漬した後、表面に余分に付着した水滴を濾紙で軽くふき取った後、浸漬後の重量(W1)を測定し、下記の計算式に従い吸水率を計算した。
吸水率(%)=[(W1−W0)/W0]×100
【実施例1】
【0065】
カーボンブラックを3.0質量%添加したイソフタル酸8モル%共重合ポリエチレンテレフタレート(融点235℃)を島成分とし、エチレン単位10モル%含有し、けん化度98.4モル%、融点210℃のポリビニルアルコール共重合体(株式会社クラレ製 エクセバール)を海成分とし、質量比を海/島=30/70とした64島の海島繊維を複合紡糸した後、延伸することで単糸繊度5.5dtexの繊維を得た。この繊維を捲縮処理した後51mmへカットし、カード処理することで目付120g/mの短繊維ウエブを作成した。
【0066】
次に、上記をポリマー構成で質量比を海/島=40/60とした36島の海島繊維を複合紡糸し、ローラープレート方式で通常の条件により延伸することで単糸繊度2.3dtexの繊維を得た。この繊維を撚数500T/mの条件で織密度105×84本/inch、目付120g/mの平織物を作成した。
【0067】
上記ウェブ2枚と平織物を積層した後1500パンチ/cmの条件でニードル処理し、190℃の乾熱収縮により20%面積収縮し、175℃熱プレスすることで目付け501g/cm、見掛け密度0.75g/cm、厚み0.70mmの繊維絡合体を得た。
【0068】
次に山陽色素製水分散顔料(平均粒径0.25μのカーボンブラック/平均粒径0.2μの有機系青顔料/平均粒径0.2μの有機系赤顔料=5/2/1;固形分比率)とアクリル−ウレタン複合樹脂(組成:アクリル/ウレタン比率=60/40、ポリウレタン成分がエーテル/ポリカーボネート/4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート系窒素含有率3.5%のポリウレタン、フィルムの測定:130℃熱水膨潤率=10%、130℃熱水脱落率1%、50℃メチルエチルケトン膨潤率110%、50℃メチルエチルケトン脱落率2%、高温染色での脱落率=1%、高分子弾性体と顔料の抽出・染色工程での残存率=99%)、およびシリコーン系感熱ゲル化剤(30%水溶液の曇点50℃)、硫酸ナトリウムを、顔料/感熱ゲル化剤/硫酸ナトリウム/複合樹脂=2/0.3/0.2/100の固形分質量比に混合し、濃度35質量%の水分散樹脂を得た。
【0069】
次に含浸設備としてリップコーター設備(株式会社ヒラノテクシード製 リップダイレクト方式)を用いて水分散樹脂を、高分子弾性体/極細繊維化後の繊維絡合体の質量比=20/80となるように含浸した。水分散樹脂を含浸後、赤外線加熱装置で予備乾燥した後、150℃の熱風乾燥機で5分間乾燥した。その後、両サイド5cmの未含浸個所をカットし、90℃の熱水でポリビニルアルコール共重合体成分を抽出した後、乾燥することなく、4重量%のパーフルオロアルキルアクリレート系ポリマー[日華化学社製NKガードNDN−2000]を含浸、絞液処理し130℃で乾燥して人工皮革基体を得た。得られた人工皮革基体はシワ、伸びの発生が無く良好な外観であり、皮革様の均一な風合いや優れた物性を有する人工皮革基体であった。そして、パーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーの付着率は固型分で1.8質量%で、電子顕微鏡により人工皮革基体の断面を観察したところ極細繊維束内部および該極細繊維束の表面並び高分子弾性体に付着しているのが見えた。また、織物を構成する単繊維はランダムな微捲縮を有するものであった。
【0070】
次に、少なくとも一面をバフィング処理で起毛処理を施した後、分散染料としてSumikaron UL染料(住友化学製)のYellow 3RF 1.5owf%、Red GF 1.5owf%、Blue GF 4.0owf%、アンチフェードMC−500(明成化学製)、1owf%、ディスパーTL(明成化学製)1g/Lを用い130℃高圧染色を行った後、引き続き、水酸化ナトリウム6g/L、テックライト(東海電化工業株式会社製)6g/Lにて70℃×50分間アルカリ還元洗浄処理し、更に酢酸1g/Lで60℃×10分間中和処理した後、水洗し、130℃で乾燥した後、逆シールのブラッシング仕上げ処理を行った。得られた黒色のスエード調人工皮革は短繊維繊度0.067dtex、織編物の単繊維繊度0.043dtexであり、密度が0.60g/cmであった。発色性良好な黒色でスエード感や表面タッチ、ドレープ性に優れ、引裂強力1.1kg/100g、湿摩擦堅牢性4級と優れたもので、静電気が発生しにくいことから汚れの付着も少ないものであった。水中に浸漬した時の吸水率は14%で、残存ポリビニルアルコール共重合体率は、0.1質量%あった。
【実施例2】
【0071】
(パーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーの付着量変更)
実施例1のパーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーを日華化学社製NDN−390Eに変更し、5.0質量%液で人工皮革用基体を処理して2.3質量%付着させた以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、得られた発色性に優れ、引裂強力1.2kg/100g、湿摩擦堅牢性4級と優れ、かつスエード感、ドレープ性などの風合いに優れたものであった。水中に浸漬した時の吸水率は11%で、残存ポリビニルアルコール共重合体率は、0.1質量%あった。
【実施例3】
【0072】
(短繊維のカーボンブラック添加量、繊度と色の変更)
実施例1の短繊維のカーボンブラック添加量を0.4質量%、単糸繊度を3dtex、海/島=40/60とし、山陽色素製水分散顔料(平均粒径0.25μのカーボンブラック/平均粒径0.2μの有機系青顔料/平均粒径0.2μの有機系赤顔料=1/15/10;固形分比率)、分散染料としてSumikaron UL染料(住友化学製)のYellow 3RF 0.5owf%、Red GF 1.0owf%、Blue GF 3.5owf%、アンチフェードMC−500(明成化学製)、1owf%、ディスパーTL(明成化学製)1g/Lを用い130℃高圧染色を行い、その他は実施例1と同様の操作を行った。その結果、得られたネイビーブルー調の人工皮革は短繊維繊度0.031dtexであり、密度が0.62g/cmで、発色性に優れ、引裂強力1.3kg/100g、湿摩擦堅牢性4級と優れ、かつスエード感、ドレープ性などの風合いに優れたものであった。水中に浸漬した時の吸水率は17%で、残存ポリビニルアルコール共重合体率は、0.1質量%あった。
【実施例4】
【0073】
(パーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーの付着量変更)
実施例1で行ったパーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーの20質量%溶液を染色後に含浸処理し8質量%付着した以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られたスエード調人工皮革は、引裂強力1.0kg/100g、湿摩擦堅牢性4−5級と良好であったが、若干風合いが堅いものであったが実用上全く問題は無かった。また、得られたスエード調人工皮革は静電気が発生し易く埃などの汚れが付着しやすかった。水中に浸漬した時の吸水率は4%であった。
【0074】
比較例1(パーフルオロアルキルアクリレート系ポリマー処理無し)
実施例1で行ったパーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーの処理を行わない以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られたスエード調人工皮革は、ざらざらとした表面タッチでスエード感にやや劣り、引裂強力0.9kg/100g、湿摩擦堅牢性2−3級と劣ったものであった。水中に浸漬した時の吸水率は120%であった。
【0075】
比較例2(パーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーの付着状態の変更)
実施例1で行ったパーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーの処理を水分散樹脂含浸前に行った以外は、実施例1と同様の操作を行った。パーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーは、極細繊維束間に付着しているものの、極細繊維束内部や高分子弾性体には付着していなかった。得られたスエード調人工皮革は、ざらざらとした表面タッチでラフな表面感であって、引裂強力0.9kg/100g、湿摩擦堅牢性3級と劣ったものであった。水中に浸漬した時の吸水率は110%であった。
【0076】
比較例3(パーフルオロアルキルアクリレート系ポリマー以外の撥水剤使用)
実施例1で行ったパーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーを、液状のジメチルシロキサン系ポリマー[信越化学製POLON−MNS]に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られたスエード調人工皮革は、ラフな表面感で毛抜けが起こり、また、引裂強力1.1kg/100g、湿摩擦堅牢性3級、水中に浸漬した時の吸水率は20%であった。
【0077】
比較例4(パーフルオロアルキルアクリレート系ポリマー以外の撥水剤使用)
実施例1で行ったパーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーを、テフロン(登録商標)系フッ素ポリマー[デュポン社製テフロン(登録商標)レザープロテクター]に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られたスエード調人工皮革は、ラフな表面感で毛抜けが起こり、また、引裂強力1.2kg/100g、湿摩擦堅牢性3級、水中に浸漬した時の吸水率は6%であった。
【実施例5】
【0078】
実施例1で使用した高分子弾性体を、ウレタン樹脂(成分がポリアルキレングリコール/エーテル/ポリカーボネート/4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート系窒素含有率3.0%のポリウレタン、フィルムの測定:130℃熱水膨潤率=8%、130℃熱水脱落率1%、50℃メチルエチルケトン膨潤率90%、50℃メチルエチルケトン脱落率4%、高温染色での脱落率=2%、高分子弾性体と顔料の抽出・染色工程での残存率=98%)を用い、シリコーン系感熱ゲル化剤(30%水溶液の曇点50℃)と硫酸ナトリウムを添加しない以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られたスエード調人工皮革は、発色性良好でスエード感や表面タッチ、ドレープ性に優れ、引裂強力1.2kg/100g、湿摩擦堅牢性4級と優れたものであった。水中に浸漬した時の吸水率は20%で、残存ポリビニルアルコール共重合体率は、0.1質量%あった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
極細繊維束からなる繊維絡合体および高分子弾性体から構成され、以下
(1)極細繊維束が、水溶性高分子成分と水難溶性高分子成分からなる極細繊維発生型繊維を極細化して、単繊維繊度が0.0003〜0.4dtexの繊維から構成されていること、
(2)高分子弾性体を構成する樹脂が、水分散樹脂であること、
(3)パーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーが、極細繊維束内部および該表面、並びに高分子弾性体に付着していること
を特徴とするスエード調人工皮革。
【請求項2】
パーフルオロアルキルアクリレート系ポリマーが、0.05〜5質量%付着している請求項1に記載のスエード調人工皮革。
【請求項3】
吸水率が5〜80%である請求項1または2に記載のスエード調人工皮革。
【請求項4】
高分子弾性体を構成する樹脂が、ポリウレタン、アクリルおよびポリウレタン−アクリル複合樹脂の少なくとも1種から構成されてなる水分散樹脂で、かつ顔料を0.1〜10質量%有する請求項1〜3いずれか1項に記載のスエード調人工皮革。
【請求項5】
顔料を含有する高分子弾性体の残存率が、水溶性高分子成分と水難溶性高分子成分からなる極細繊維発生型繊維を極細化後、さらに染色処理した後で95%以上となる請求項4に記載のスエード調人工皮革。
【請求項6】
高分子弾性体が、130℃熱水での重量膨潤率が20%以下、脱落率が3%以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載のスエード調人工皮革。
【請求項7】
高分子弾性体が、50℃メチルエチルケトン処理での重量膨潤率が150%以下で、脱落率が5%以下である請求項1〜6いずれか1項に記載のスエード調人工皮革。

【公開番号】特開2006−183206(P2006−183206A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−379665(P2004−379665)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】