説明

スエード調人工皮革

【課題】イラツキがなく優美な表面品位を有し、かつ、高耐光堅牢性を有したスエード調人工皮革を提供すること。
【解決手段】主として繊維太さが0.7dtex以下のポリエステル極細繊維を含む繊維絡合体とポリウレタンからなるスエード調人工皮革であって、該顔料が、明細書中に記載の方法で測定した還元洗浄脱落率20%以下でかつ、850nmにおける赤外線反射率60%以上であることを特徴とするスエード調人工皮革。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、耐光堅牢性に優れ、かつ、良好な発色性・外観品位を有するスエード調人工皮革に関するものである。
【0002】
【従来の技術】極細繊維からなるスエード調人工皮革はその高級外観、表面タッチ、発色性の点から、衣料分野はもとより、自動車内装材や家具用途に幅広く適用されている。しかしながら、これら人工皮革に対する感性、機能面からの要求はますます高度になっている。感性面の要求としては柔軟性の向上、表面品位の向上、優美な色調といったものが、また機能面の要求としては耐光堅牢性の向上があげられ特に自動車内装材用途では最も重要な要求特性のひとつである。
【0003】通常、該スエード調人工皮革はポリエステルの染色条件下で染色し、その後、染色堅牢性を向上させるために還元洗浄が行われるが、ポリウレタンにいったん着色した染料はこの還元洗浄で脱色あるいは変色し、ポリウレタンが白く目立ってしまい、特に中濃色分野では品位が著しく低下するという問題があった。
【0004】かかる問題を克服するため、ポリウレタン中にあらかじめカーボンブラックあるいは顔料などの着色剤を添加しておくという手段が一般に知られているが、ポリウレタンにカーボンブラックを添加した従来の人工皮革はカーボンブラック未添加の人工皮革と比べると耐光堅牢性が低下する。これに対し、特開平5−321159号公報では900から1500nmの近赤外線反射率60%以上のペリレン系あるいはアゾメチンアゾ系等の黒色顔料をポリウレタンに添加させ、蓄熱による発熱を抑制する技術が提案されているが、これらの黒色顔料は、黒の発色レベル(漆黒度合い)が非常に低く、顔料濃度を上げても深みのある黒色がでない、また、ある程度着色させることはできても、その後の還元洗浄等の染色加工工程において脱色や変色し、最終製品としてポリウレタンはほとんど着色していない等の問題点があった。
【0005】すなわち、これまでポリエステル極細繊維を用いた該人工皮革では耐光堅牢性と良好な発色性、外観品位を兼ね備えた人工皮革は知られていなかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、優美な色調の表面品位を有し、かつ、高耐光堅牢性を有するスエード調人工皮革を提供しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題を達成するために、本発明は以下の構成を有する。
【0008】すなわち、主として繊維太さが0.7d tex以下のポリエステル極細繊維を含む繊維絡合体とポリウレタンからなるスエード調人工皮革であって、該ポリウレタンが顔料によって着色されてなり、該顔料が明細書中に記載の方法で測定した還元洗浄脱落率が20%以下でかつ、850nmにおける赤外線反射率が60%以上であることを特徴とするスエード調人工皮革である。
【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】本発明のスエード調人工皮革は主として平均繊度0.7dtex以下のポリエステル極細繊維を含む繊維絡合体とポリウレタンとで構成されるものであって、該ポリエステル極細繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートおよびこれらの共重合体類、ポリブチレンテレフタレートおよびこれらの共重合体類、ポリプロピレンテレフタレートおよびこれらの共重合体類、ポリ乳酸およびこれらの共重合体類が例示できるが、物性や耐久性のバランスの点でポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0011】本発明に用いられる極細繊維は、従来法による直接紡糸法、あるいは極細繊維発生型繊維を割繊、あるいは少なくとも1成分を溶解除去する方法により得られる。また、その断面形状は特に限定されるものではない。
【0012】本発明に用いる極細繊維の単繊維繊度は、繊度0.7dtex以下であるが、表面の平滑性や柔軟な風合いを出すためには0.5dtex以下であることが好ましい。さらには緻密性、発色性の点から0.01dtex以上0.3dtex以下の範囲が好ましい。
【0013】極細繊維発生型繊維から少なくとも1成分を除去して極細繊維を発生させる場合、除去するポリマー成分は、極細繊維に実質的な損傷を与えずに化学的もしくは物理的に除去できる組み合わせであればよく、特に限定されるものではなく、極細繊維のポリマーと溶剤溶解性、または分解性を異にするのが好ましい。具体例としては、ポリオレフィン、ポリスチレンおよびその共重合体類、ポリビニルアルコール、ポリアミド、アルカリ可溶型共重合ポリエステル類などが好ましい。
【0014】かかる繊維の形態としては、通常の丸断面の他に、中空断面、三角型やY型の異形断面や芯鞘複合構造繊維等を採用することができる。これらの中から極細繊維の断面形成性、紡糸性、延伸性などを考慮して組み合わせればよい。
【0015】本発明において、繊維絡合体を形成するに当たり、カードクロスラッパーもしくはランダムウエッバーなど常法によりウェブを形成した後、ニードルパンチあるいはウォータジェットパンチ、もしくはこれを組み合わせて行うことにより絡合シートを形成する。この絡合シートをより高強度化するために、繊維絡合体が極細繊維を含む不織布と織物、もしくは編物とが一体化した構造とすることが好ましい。かかる構造体は、上記ウェブ中の繊維と織物もしくは編物との絡合一体化によって得ることができる。極細繊維発生可能型繊維を使用する場合、その後、溶剤、熱処理、あるいは機械的処理により極細化する。
【0016】なお、この際、ウェブの両面もしくは片面に織物を積層し絡合処理する方法や、さらに該繊維絡合体を複数重ねて再度絡合処理し、後工程で、厚み方向に直角にスライスして1/2厚さのものを2枚取りとする方法など、目的に応じ使用可能である。
【0017】織物もしくは編物を構成する糸種としては、フィラメントヤーン、紡績糸、フィラメントと短繊維の混紡糸などを用いることができ、特に限定されるものではない。また、織物もしくは編み物の種類としては、経編、トリコット編みで代表される緯編、レース編みおよびそれらの編み方を基本とした各種編み物、あるいは平織、綾織、朱子織およびそれらの織り方を基本とした各種織物などいずれも採用することができ、特に限定されるものではない。
【0018】糸種によっては、ニードルパンチで複合繊維と織物もしくは編み物との絡合を強固にする場合、切断されやすいことがあり、これを防止する手段として、該織物または編み物の構成糸の少なくとも一部に強撚糸を使用したものが好ましい。強撚糸の撚り数としては500T/m以上、4500T/m以下が好ましく、より好ましくは、1500T/m以上、最も好ましくは2000T/m以上である。500T/m未満では糸を構成する単糸同士の絞まりが不十分であるため、ニードルパンチ時にニードルに引っかかり損傷しやすく十分な強力が得られない場合がある。また、撚り数が4000T/m以上になると繊維が硬くなりすぎ、製品風合いや柔軟化の点から好ましくない場合がある。
【0019】織物もしくは編物を構成する繊維は、ポリエステル類、ポリアミド類、ポリエチレン類、ポリプロピレン類およびそれらの共重合体類を用いるのが好ましい。
【0020】次いで、本発明はこれらの極細繊維を含む繊維絡合体にポリウレタンを付与する。
【0021】本発明に用いられるポリウレタンとしては、基本的にはいずれのものも使用可能だが、耐久性や染色堅牢性の点からソフトセグメントとしてポリカーボネートジオールを50%〜95%含んでなるポリウレタンが好ましい。
【0022】本発明でいうポリカーボネートジオールとは、ジオール骨格がカーボネート結合を介して連結されて高分子鎖を形成し、その両末端に水酸基を有するものである。該ジオール骨格は、原料として用いるグリコールにより決定されるが、その種類は特に制限されることはなく、例えば、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオールを用いることができる。これらのグリコール群から選ばれた少なくとも2種以上のグリコールを原料として用いた共重合ポリカーボネートジオールは、特に柔軟性と外観に優れた皮革様シート状物を得ることができるので好ましい。
【0023】また、特に柔軟性に優れた皮革様シート状物を得る場合は、耐久性を損なわない範囲でポリマージオール中にカーボネート結合以外の結合、例えば、エステル結合、エーテル結合等を導入することが好ましい。かかる化学結合を導入する形態としては、ポリカーボネートジオールを重合する際にエーテル結合やエステル結合を有する化合物を混合して共重合せしめる方法や、ポリカーボネートジオールとそれ以外のポリマージオールをそれぞれ単独で重合した後に混合して、ポリウレタンの重合に用いる方法を採用することができる。
【0024】かかるポリカーボネートジオールに混合するポリマージオールとしては、ポリテトラメチレングリコール、ポリネオペンチルアジペートジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリ2,5−ジエチルペンタンアジペートが、風合いと耐久性のバランスがとれるため好ましい。これらのポリマージオールの混合比率は、好ましくは5重量%以上50重量%以下、さらに好ましくは5重量%以上30重量%以下である。また、この比率の範囲内であれば、2種以上のポリマージオールを混合して、ポリカーボネートジオールと併用することもできる。
【0025】これらポリマージオールの分子量は特に制限されることはなく、目標とする皮革様シート状物の特性に合わせて適宜選択することができるが、分子量が500未満の場合は、物性は向上するが風合いが硬くなり、3000より大きいと、風合いは柔らかくなるが物性が低下する傾向があるため、500以上3000以下が好ましい。
【0026】また、これらポリウレタンはポリエステル繊維重量に対して固形分で10〜60重量%含有することが好ましい。10重量%以下では得られる人工皮革の強力が弱く、60重量%以上では風合いが固くなるため好ましくない。
【0027】本発明は、これらポリウレタンの溶液あるいは分散液を上記繊維絡合体に含浸させ凝固させる。凝固方法は湿式、乾式いずれでもよいが、柔軟な風合いを得ようとする場合は湿式が好ましい。ポリウレタン中には、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、制電剤、難燃剤、柔軟剤、凝固調整剤、着色剤などの添加剤を配合するが、本発明は繊維絡合体に付与するこれらポリウレタン中に顔料が含有することが必要である。顔料によるポリウレタンへの着色がない場合、染色後の還元洗浄でポリウレタンにいったん着色した染料が変色あるいは脱色され、ポリウレタンが白く目立ってしまい、特に中濃色分野では表面品位が著しく低下し、優美な高級感を得ることができない。
【0028】本発明にかかる人工皮革は、蓄熱による耐光劣化を防止した高い耐光堅牢性とイラツキ(ポリウレタンのスペック)のない優れた発色性を併せ持つ人工皮革であり、このような人工皮革はポリウレタンを着色する顔料として、赤外線を反射し、かつ、還元洗浄で脱色あるいは変色しにくい顔料を用いることにより得ることができるものであり、このような性能を有する本発明の人工皮革は、上記顔料を用いるにあたって、還元洗浄脱落率20%以下でかつ850nmにおける赤外線反射率が60%以上である顔料をポリウレタンに添加することにより製造する事ができる。顔料は単独で用いても2種以上を混合して用いても構わない。
【0029】2種以上を混合して用いる場合は、850nmにおける赤外線反射率が、混合した顔料全体として60%以上、ならびに還元洗浄脱落率が、混合した顔料全体として20%以下であれば、単独では上記赤外線反射能ならびに還元洗浄脱落率を有しない顔料を組み合わせて用いることができる。
【0030】なお、ここでいう還元洗浄脱落率とは、本発明の人工皮革を構成するポリウレタン中に該顔料が混合された状態での特性値のことを言い、以下のようにして測定されるものである。
【0031】本発明の人工皮革を構成するポリウレタンを25重量%、溶剤を75重量%、顔料固形分を該ポリウレタン固形分に対し3重量%(顔料を2種以上混合する場合はポリウレタンに添加する比率に合わせ、顔料トータル量が該ポリウレタンに対し3重量%)になるように混合した後、ガラス板上30センチメートル四方にキャストし、30℃〜35℃の水に3時間浸漬・凝固させ湿式凝固方式で厚さ100〜150μmの湿式膜を作成し、20〜30℃の水で20分間水洗後40℃以下で乾燥する。この膜を10センチメートル四方にカットし、以下の条件で還元洗浄処理する。
<還元洗浄>(1)処理剤: 苛性ソーダ(固形): 10g/l ハイドロサルファイト: 20g/l グランアップUS20(三洋化成工業(株)社製): 5g/l 液量300ml(2)処理温度、時間: 80℃、30分(昇温2℃/分)
(3)処理装置: UR・ミニカラー(テクサム技研株式会社製)
還元洗浄処理後膜を水洗し40℃以下の温度で乾燥する。還元洗浄処理前後のポリウレタンのL*値を測定し、それぞれ処理前をL*1、処理後をL*2とし、次式によって求められるA値を本発明における還元洗浄脱落率と呼ぶ。
【0032】A=(L*2−L*1)/L*1×100<L値の測定>測定機として、MINOLTA SPECTROPHTOMETER CMー3700dまたはこれと同等の機能を有する装置を用いる。光源はハロゲンランプを用い、D65光源を測定光源とする。視野角は10度、基準となる白板には酸化マグネシウム、測定径は25.4mm、正反射光処理はSCE、これらの条件に基づきCIE(国際照明委員会)規定のL*値を測定する。
【0033】また、本発明でいう顔料の赤外線反射率とは、本発明の人工皮革を構成するポリウレタン中に該顔料が混合された状態での特性値のことを言い、以下のようにして測定する。
【0034】上記の還元洗浄脱落率の測定時と同様にして作成した湿式膜を、5センチメートル四方にカットし、分光光度計積分球で測定した850nmにおける反射率のことをいう。反射率の測定方法は以下の方法に従って行う。測定機として、自記分光光度計U3400((株)日立製作所製)またはこれと同等の機能を有する装置を用いる。基準となる白板には酸化マグネシウムを用い、まず、分光光度計から850nmの光を白板に照射し、反射した光を積分球で集めて反射光の強度を測定し、その値をR100とする。次に白板を測定したい試料に替えて同様の測定を行い、得られた値をRSampとする。これらの値を用いて求めた(Rsamp)/(R100)×100を、本発明における反射率とする。
【0035】さらに、本発明における還元洗浄脱落率20%以下でかつ、850nmにおける赤外線反射率が60%以上である顔料としては、ジケトピロロピロール系、アントラキノン系、ペリレン系、ペリノン系、キナクリドン系、アゾ系、ポリアゾ系、縮合アゾ系、イミダゾロン系、フタロシアニン系、アントラキノン系、イソインドリン系、インジゴ系、チオインジゴ系、アゾメチン系、アゾメチンアゾ系、ジオキサジン系、インダントロン系、フラバントロン系、ピラントロン系などの化合物がそれぞれ上げられるが、これらに限定されるものではない。このうち赤系顔料ではジケトピロロピロール系が、青系顔料ではフタロシアニン系が、黄色系顔料ではアゾ系がそれぞれ特に好ましく用いられる。ジケトピロロピロール系、フタロシアニン系、ならびにアゾ系とはおのおのの構造中に以下の構造を含むものをいう。
【0036】<ジケトピロロピロール系構造>
【0037】
【化1】


【0038】<フタロシアニン系構造>Meは金属を示す
【0039】
【化2】


【0040】<アゾ系構造>−N=N−本発明の人工皮革はポリウレタンとして、黄色系、赤色系、青色系顔料のそれぞれを少なくとも1種ずつ用いて着色されていて、かつ、該顔料が混合された後のポリウレタンの彩度が10以下、さらに好ましくは6.5以下であるものを用いることが好ましい。かかるポリウレタンを用いることにより、単独の顔料を用いて着色されたポリウレタンを用いる場合に比べ、人工皮革の色相に深みが増し高級感のある外観が得られる。かかる彩度のポリウレタンを得るためには、繊維絡合体に含浸する混合溶液(ポリウレタン、顔料、溶剤)を用いて作成した湿式膜の彩度が、好ましくは10以下、さらに好ましくは6.5以下であるように混合溶液を作成することによって得ることができる。
【0041】ここでいう顔料が混合された後のポリウレタンの彩度とは、本発明の人工皮革製造において繊維絡合体に含浸する混合溶液(ポリウレタン、顔料、溶剤)をガラス板上30センチメートル四方にキャストし、30℃〜35℃の水に3時間浸漬・凝固させ湿式凝固方式で厚さ70〜100μmの湿式膜を作成し、20〜30℃の水で20分間水洗後40℃以下の温度で乾燥する。この膜を10センチメートル四方にカットする。その後以下の条件で測定して得られた彩度を言う。
【0042】測定機として、MINOLTA SPECTROPHTOMETER CM−3700dまたはこれと同等の機能を有する装置を用いる。光源はハロゲンランプを用い、D65光源を測定光源とする。視野角は10度、基準となる白板には酸化マグネシウム、測定径は25.4mm、正反射光処理はSCE、これらの条件に基づきCIE(国際照明委員会)規定のa*およびb*を求め、得られた値を用いて求めた(a*2+b*21/2を本発明における彩度とする。
【0043】顔料の総添加量はポリウレタン固形分に対して0.03〜20%含有できる範囲が好ましい。より好ましくは0.05〜15%の範囲である。0.03%未満ではポリウレタンが着色されずイラツキ防止効果が得られない。また20%を越えると製品の物性に影響を及ぼす。
【0044】このシートを必要に応じて厚み方向にスライスし、少なくとも一面を起毛処理することにより、着色された立毛シートが得られる。
【0045】また、本発明のスエード調人工皮革は染色されてなることが好ましい。すなわち、染色されていることによって高級感のある優美な表面品位の人工皮革が得られるのである。染色にあたって使用する染色機は通常用いるものが使用でき、液流染色機が特に好ましく用いられる。使用される染料は分散染料、バット染料などから選ばれた耐光堅牢性の優れたものを用いることが好ましい。
【0046】本発明は、このように人工皮革を構成するポリウレタンにおける顔料を還元洗浄で脱落しにくく、かつ、赤外線を反射するものとすることにより、耐光堅牢性と良好な発色性、外観品位を兼ね備えたスエード調人工皮革を得ることを可能としたものである。
【0047】
【実施例】以下、本発明を実施例により説明する。
【0048】実施例および比較例における製品の耐光堅牢性、イラツキ、顔料の還元洗浄脱落率、顔料の赤外線反射率、および顔料の彩度の評価は以下に示す方法により行った。
(1)耐光堅牢性:JASO(日本自動車技術会) M346−93規定のキセノンウェザーメータ(SC750−WAP(スガ試験器(株)社製))を用い、厚み10mm、比重0.02±0.005のウレタンフォーム裏打ちを行い、以下の(A)+(B)の処理を1サイクルとし、38サイクル光照射後、JIS L0804規定の変褪色用グレースケールで等級を判定した。
(A)放射照度150W/m2 、ブラックパネル73℃、湿度50%RH、3.8時間照射。
(B)放射照度0W/m2 、ブラックパネル38℃、湿度95%RH、1時間照射(2)イラツキ:肉眼で評価し、イラツキ(スペックによる外観品位低下)の発生がないものを○、やや発生するものを△、非常に目立つものを×で示した。
(3)還元洗浄脱落率:人工皮革を構成するポリウレタンを25重量%、溶剤を75重量%、顔料固形分を該ポリウレタン固形分に対し3重量%(顔料を2種以上混合する場合は混合比率に合わせ配合し、顔料トータル量が該ポリウレタンに対し3重量%)になるように混合した後、ガラス板上30センチメートル四方にキャストし、30℃〜35℃の水に3時間浸漬・凝固させ湿式凝固方式で厚さ100〜150μmの湿式膜を作成し、20〜30℃の水で20分間水洗後40℃以下の温度で乾燥するする。この膜を10センチメートル四方にカットし、その後以下の条件で還元洗浄処理した。
【0049】
<還元洗浄>(1)処理剤: 苛性ソーダ(固形): 10g/l ハイドロサルファイト: 20g/l グランアップUS20(三洋化成工業(株)社製)5g/l 液量300ml(2)処理温度、時間: 80℃、30分(昇温2℃/分)
(3)処理装置: UR・ミニカラー(テクサム技研株式会社製)
還元洗浄処理後膜を水洗し40℃以下の温度で乾燥する。還元洗浄処理前後のポリウレタンのL* 値を測定し、それぞれ処理前をL*1、処理後をL*2とし、次式によって求められるA値を本発明における還元洗浄脱落率と呼ぶ。
【0050】A=(L*2−L*1)/L*1×100<L値の測定>測定機として、MINOLTA SPECTROPHTOMETER CM−3700dまたはこれと同等の機能を有する装置を用いる。光源はハロゲンランプを用い、D65光源を測定光源とする。視野角は10度、基準となる白板には酸化マグネシウム、測定径は25.4mm、正反射光処理はSCE、これらの条件に基づきCIE(国際照明委員会)規定のL*値を測定する。
(4)顔料の赤外線反射率:上記顔料の還元洗浄脱落率測定時と同様にして作成した湿式膜を10センチメートル四方にカットし日立自記分光光度計U3400((株)日立製作所製)積分球を用いて850nmにおける反射率を測定した。測定に当たっては、以下の方法に依った。
【0051】基準となる白板には酸化マグネシウムを用い、まず、分光光度計から850nmの光を白板に照射し、反射した光を積分球で集めて反射光の強度を測定し、その値をR100とする。次に白板を測定したい試料に代えて同様の測定を行い、得られた値をRSampとする。これらの値を用いて求めた(Rsamp)/(R100)×100を、本発明における反射率とした。
(5)彩度:人工皮革製造において繊維絡合体に含浸する混合溶液(ポリウレタン、顔料、溶剤)をガラス板上30センチメートル四方にキャストし、30℃〜35℃の水に3時間浸漬・凝固させ湿式凝固方式で厚さ70〜100μmの湿式膜を作成し、20〜30℃の水で20分間水洗する。この膜を10センチメートル四方にカットし、以下の条件で彩度を測定した。
【0052】測定機として、MINOLTA SPECTROPHTOMETER CM−3700dまたはこれと同等の機能を有する装置を用いる。光源はハロゲンランプを用い、D65光源を測定光源とする。視野角は10度、基準となる白板には酸化マグネシウム、測定径は25.4mm、正反射光処理はSCE、これらの条件に基づきCIE(国際照明委員会)規定のa**を求め得られた値を用いて求めた(a*2+b*21/2を本発明における彩度とした。
実施例1島成分がポリエチレンテレフタレート、海成分がポリスチレン、島/海比率=80/20重量%、島数25島、複合繊維太さ約5dtexの高分子相互配列体繊維のステープルを用い、このステープルをカード・クロスラッパーでウェブとし、ニードルパンチして目付600g/m2 のフェルトを作り、このフェルトを収縮処理し乾燥した。
【0053】次いで、このフェルトにポリビニールアルコール水溶液に含浸し、乾燥した。このシートをトリクロールエチレン中に浸漬、圧搾し脱海し乾燥した。その後、アゾ系黄色顔料ならびにアントラキノン系赤顔料および、フタロシアニン系青顔料、(上記3種の顔料混合後の還元洗浄脱落率4.6%、ならびに赤外線反射率86%)をポリウレタン固形分に対して、それぞれ固形分で0.2重量%、0.3重量%、0.2重量%、ポリカーボネート系ポリウレタン12重量%をジメチルホルムアミドに溶解させた。この溶液を、固形分で対島繊維当たり約29部となるようにフェルトに含浸し、湿式凝固し乾燥した。
【0054】次いで、このシートを厚み方向に垂直なスライス方向で2枚にスライス(厚み中間部でスライス)し、片面をサンドペーパーで起毛処理を行ない立毛シートを得た。この立毛シートを、耐光堅牢性の優れた分散染料を用いグレーに染色し、常法にて還元洗浄、仕上げ処理を施した。このスエード調人工皮革は、イラツキすなわちポリウレタンのスペックのない高級感のある落ち着いた色調のスエード調の人工皮革であった。このスエード調人工皮革の耐光堅牢性を評価したところ4級と優れた性能を示した。結果を表1に示す。
実施例2、比較例1〜3ポリウレタンに添加する顔料および濃度を表1に記載の内容で行った以外は実施例1と同様にしてスエード調人工皮革を得た。結果を表1に示す。
比較例4ポリウレタンに顔料を添加しない以外は実施例1と同様にしてスエード調人工皮革を得た。このスエード調人工皮革は表1に示したごとく、耐光堅牢性は優れているもののイラツキが目立ち高級感が劣ったスエード調人工皮革であった。
【0055】結果を表1に示す。
【0056】
【表1】


【0057】
【発明の効果】本発明により、極細繊維を用いたスエード調人工皮革の課題であったイラツキのない優美な表面品位を有し、かつ、高耐光堅牢性を有したスエード調人工皮革の実現を可能としたものである。
【0058】かくして得られた本発明のスエード調人工皮革は、自動車内装材、家具用途、鞄、靴、手袋などの資材用途としてはもちろんのこと、衣料用途としても好適に用いることができるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】主として繊維太さが0.7dtex以下のポリエステル極細繊維を含む繊維絡合体とポリウレタンからなるスエード調人工皮革であって、該ポリウレタンが顔料によって着色されてなり、該顔料が明細書中に記載の方法で測定した還元洗浄脱落率が20%以下でかつ、850nmにおける赤外線反射率が60%以上であることを特徴とするスエード調人工皮革。
【請求項2】ポリウレタンとして、黄色系、赤色系、青色系顔料のそれぞれを少なくとも1種ずつ用いて着色されていて、かつ、該顔料が混合された後のポリウレタンの彩度が10以下であるものを用いることを特徴とする請求項1記載のスエード調人工皮革。
【請求項3】ポリウレタンに含有する顔料固形分の総重量が、ポリウレタン固形分重量に対して0.03〜20重量%であることを特徴とする請求項1または2に記載のスエード調人工皮革。
【請求項4】ポリウレタンに含有する顔料がフタロシアニン系青色顔料を少なくとも1種以上含有することを特徴とする請求項1記載のスエード調人工皮革。
【請求項5】ポリウレタンに含有する顔料がアゾ系黄色顔料を少なくとも1種以上含有することを特徴とする請求項1記載のスエード調人工皮革。
【請求項6】ポリウレタンに含有する顔料がジケトピロロピロール系赤色顔料を少なくとも1種以上含有することを特徴とする請求項1記載のスエード調人工皮革。
【請求項7】ポリウレタンがポリカーボネート系ポリウレタンであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のスエード調人工皮革。
【請求項8】繊維絡合体が、極細繊維と織物もしくは編み物とが絡合一体化された構造を有していることを特徴とする請求項1記載のスエード調人工皮革。
【請求項9】織物もしくは編み物の構成糸の少なくとも一部に500T/m以上、4500T/m以下の強撚糸が用いられて構成されてなることを特徴とする請求項8記載のスエード調人工皮革。

【公開番号】特開2003−253572(P2003−253572A)
【公開日】平成15年9月10日(2003.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−53038(P2002−53038)
【出願日】平成14年2月28日(2002.2.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】