説明

スクリーニング方法、及び、スクリーニング装置

【課題】スクリーニング全体のハイスループットを実現すると共に、生理活性物質と特異的に結合する化合物をより正確に選別することの可能なスクリーニング方法、及び、スクリーニング装置を提供する。
【解決手段】ステップS20で、最初の化合物溶液YAの供給指示信号を出力し、ステップS21で、所定の反応時間T1が経過するまで待機する。反応時間T1の経過後、ステップS22で、バッファー液の供給指示信号をヘッド24へ出力する。これにより、ヘッド24が駆動され、液体流路45へバッファー液が供給される。ステップS23で、所定の洗浄時間T2が経過するまで待機する。そして、ステップS24で、前述の解離が不十分なままで測定の行われた可能性のある結合量データG3に信頼性表示Qを付与するための、信頼性表示付与処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の化合物の中から、1の生理活性物質と特異的に結合するものを選別するスクリーニング方法、及び、スクリーニング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛋白質などの生理活性物質と所定の化合物との相互作用を測定する装置として、様々なバイオセンサーが提案されている。そのうち、エバネッセント波を利用した測定装置の1つとして、表面プラズモンセンサーが知られている(特許文献1参照)。一般的に、表面プラズモンセンサーは、プリズムと、このプリズムの一面に配置され生理活性物質が固定される金属膜と、光ビームを発生させる光源と、光ビームをプリズムに対して、プリズムと金属膜との界面で全反射条件が得られるように種々の角度で入射させる光学系と、界面で全反射した光ビームの強度を検出する光検出手段と、を備え、光検出手段の検出結果に基づいて、生理活性物質に関する測定を行うものである。そして、この表面プラズモンセンサーによる測定では、金属膜の上に固定化された生理活性物質に対して化合物溶液を供給すると共に、金属膜の化合物溶液が供給されている側と逆側の面へ光ビームを入射し、その反射光から得られる屈折率の情報に基づいて、生理活性物質と化合物溶液中の化合物との相互作用が測定される。
【0003】
上記の表面プラズモンセンサーは、金属膜上での化合物間の微細な結合状態を精度よく検出することができるため、特定の生理活性物質を金属膜に固定し、この生理活性物質に対して特異的に結合可能か否かを指標として、大量の化合物を選別する大規模なスクリーニングに好適である。
【0004】
大量の化合物を選別するために、固定された1の生理活性物質を何度も使用して異なる化合物との間で測定が行われる場合がある。この場合、1の化合物を供給して生理活性物質と化合物との結合量の測定が行われ、その後洗浄が行われて前の化合物を除去し、次の化合物が供給される。この測定−洗浄という測定洗浄プロセスが繰り返されて、特異的結合が認められる化合物が選別される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
【特許文献1】特許第3294605公報 ところで、生理活性物質と化合物とが特異的に結合されると、洗浄が行われても容易に化合物が生理活性物質と解離されない場合がある。このような場合、解離が十分になされるまで洗浄を行うことも考えられるが、洗浄に時間がかかり、スクリーニング全体のスループットが低くなってしまう。一方、洗浄が不十分な場合には、正確に測定を行うことができない。
【0006】
本発明は上記事実を考慮してなされたものであり、スクリーニング全体のハイスループットを実現すると共に、生理活性物質と特異的に結合する化合物をより正確に選別することの可能なスクリーニング方法、及び、スクリーニング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載のスクリーニング方法は、固定された生理活性物質へ化合物を供給し、前記生理活性物質と前記化合物との結合量を測定して結合量データを取得し、前記生理活性物質へ供給された前記化合物を前記測定後に洗浄するという測定洗浄プロセスを、1つの生理活性物質について異なる複数の化合物毎に繰り返して行うことにより、前記生理活性物質と特異的に結合する結合化合物を選別するスクリーニング方法であって、前記結合化合物が検出された後に得られる前記結合量データについて信頼性の表示が必要かどうかを判断し、前記判断により前記表示が必要と判断された場合に、前記結合量データに信頼性識別標識を付与し、この信頼性識別標識を加味して、前記結合化合物を選別するものである。
【0008】
また、請求項6に記載のスクリーニング装置は、固定された生理活性物質へ化合物を供給し、前記生理活性物質と前記化合物との結合量を測定して結合量データを取得し、前記生理活性物質へ供給された前記化合物を前記測定後に洗浄するという測定洗浄プロセスを、1つの生理活性物質について異なる複数の化合物毎に繰り返して行うことにより、前記生理活性物質と特異的に結合する結合化合物を選別するスクリーニング装置であって、前記結合化合物が検出された後に得られる前記結合量データについて信頼性の表示が必要かどうかを判断する判断手段と、前記判断手段により前記表示が必要と判断された場合に前記結合量データに信頼性識別標識を付与する標識付与手段と、前記標識付与手段により付与された前記信頼性識別標識を加味して、前記結合化合物を選別する選別手段と、を備えたものである。
【0009】
一旦結合化合物が検出されると、生理活性物質との解離に時間がかかり、所定時間内の洗浄では十分に解離されず、生理活性物質と結合されたまま次の化合物が供給されてしまう場合がある。そこで、本発明のスクリーニング方法、及び、スクリーニング装置では、結合化合物が検出された後に得られた結合量データについて、信頼性の表示が必要かどうかを判断する。そして、信頼性の表示が必要と判断された場合には、結合量データに信頼性識別標識を付与する。これにより当該結合量データについて、解離が不十分である可能性のあることが表示され、この信頼性識別標識を加味して、前記結合化合物を選別することができる。
【0010】
本発明のスクリーニング方法、及び、スクリーニング装置によれば、結合化合物が検出された後でも、洗浄時間を延長したり、洗浄方法を変更したりすることなく、測定洗浄プロセスを進めることができるので、スクリーニング全体のハイスループットを実現することができる。また、結合化合物が検出された後の結合量データで解離が不十分であると判断されたものについては、信頼性識別標識が付与されるので、解離が十分に行われた状態で実行される測定で得られた結合量データと区別することができ、この信頼性識別標識を加味して、より正確にスクリーニングを行うことができる。
【0011】
請求項2に記載のスクリーニング方法での判断は、前記生理活性物質で最初に前記結合化合物が検出された後のすべての前記結合量データについて前記表示が必要であると判断する。
【0012】
また、請求項7に記載のスクリーニング装置の判断手段は、前記生理活性物質で最初に前記結合化合物が検出された後のすべての前記結合量データについて前記表示が必要であると判断する。
【0013】
このように判断することによって、結合化合物が検出された後のすべての結合量データについて、生理活性物質と結合化合物とが完全に解離されていない状態で当該化合物の測定が行われている可能性があることを識別することができる。
【0014】
請求項3に記載のスクリーニング方法では、前記結合量データが、前記測定洗浄プロセスの間に継続的に取得されて前記化合物の供給時に取得される測定ライン、及び、前記化合物を洗浄するための洗浄液の供給時に取得される洗浄ラインを含んで構成され、前記判断は、直前の前記洗浄ラインの判定時間内における平均傾きの絶対値が所定の閾値以上である前記結合量データについて前記表示が必要であると判断すること、を特徴とする。
【0015】
また、請求項8に記載のスクリーニング装置の判断手段は、前記結合量データが、前記測定洗浄プロセスの間に継続的に取得されて前記化合物の供給時に取得される測定ライン、及び、前記化合物を洗浄するための洗浄液の供給時に取得される洗浄ラインを含んで構成され、前記判断手段は、直前の前記洗浄ラインの判定時間内における平均傾きの絶対値が所定の閾値以上である前記結合量データについて前記表示が必要であると判断すること、を特徴とする。
【0016】
生理活性物質に化合物が結合されていない状態で測定が行われる場合には、当該測定の直前の洗浄ラインは、ほぼ同一となる。一旦結合化合物が検出され、当該結合化合物と生理活性物質との解離に時間がかかり、通常の洗浄プロセスでは十分に解離されない場合がある。解離途中での洗浄ラインは、解離が完了している状態での洗浄ラインと比較して、傾きが急勾配、すなわち、傾きの絶対値が大きい。そこで、所定の閾値を設定し、当該化合物の測定直前の洗浄ラインの判定時間内における平均傾きの絶対値がこの閾値以上である場合に、信頼性の表示が必要であると判断する。ここでの所定の閾値は、生理活性物質に化合物が結合されていない状態での洗浄ラインの取り得る傾きの最大値よりも大きいことが好ましい。また、判定時間内とは、すべての洗浄プロセスにおいて統一されて用いられる洗浄プロセス中の特定の時間、例えば、洗浄液の供給開始直後から次の測定直前までの全時間、この全時間を100とした場合の前半50時間、後半50時間など、ユーザーにより自由に設定される所定の時間をいう。
【0017】
このようにして信頼性の表示が必要かどうかを判断することにより、解離が不十分な状態で測定された結合量データを、他の結合量データと区別することができる。
【0018】
請求項4に記載のスクリーニング方法では、前記結合量データが、前記測定洗浄プロセスの間に継続的に取得されて前記化合物の供給時に取得される測定ライン、及び、前記化合物を洗浄するための洗浄液の供給時に取得される洗浄ラインを含んで構成され、前記判断は、直前の前記洗浄ラインの判定ポイントにおける値と2回前の前記洗浄ラインの判定ポイントにおける値との差の絶対値が、所定の解離閾値以上である前記結合量データについて前記表示が必要であると判断すること、を特徴とする。
【0019】
また、請求項9に記載のスクリーニング装置の判断手段は、前記結合量データが、前記測定洗浄プロセスの間に継続的に取得されて前記化合物の供給時に取得される測定ライン、及び、前記化合物を洗浄するための洗浄液の供給時に取得される洗浄ラインを含んで構成され、前記判断手段は、直前の前記洗浄ラインの判定ポイントにおける値と2回前の前記洗浄ラインの判定ポイントにおける値との差の絶対値が、所定の解離閾値以上である前記結合量データについて前記表示が必要であると判断すること、を特徴とする。
【0020】
前述のように、一旦結合化合物が検出されると、当該結合化合物と生理活性物質との解離に時間がかかり、通常の洗浄プロセスでは十分に解離されない場合がある。解離が不十分なままで、次の化合物が供給された場合の洗浄ラインは、生理活性物質に化合物が結合されていない状態での洗浄ラインと異なるものになる。そこで、当該化合物の測定が行われる直前の洗浄ラインの判定ポイントにおける値と、当該化合物の測定が行われる2回前の前記洗浄ラインの判定ポイントにおける値との差を求め、その絶対値が所定の解離閾値以上である結合量データについて信頼性の表示が必要であると判断する。ここでの所定の解離閾値は、生理活性物質に化合物が結合されていない状態での洗浄ラインの取り得る値の最大値よりも大きいことが好ましい。また、判定ポイントとは、すべての洗浄プロセスにおいて統一されて用いられる洗浄プロセス中の特定の時、例えば、洗浄液の供給開始直後、次の測定直前、洗浄プロセスの中間時、洗浄液の供給開始直後から次の測定直前までの全時間を100とした場合の80の時など、ユーザーにより自由に設定される所定の時をいう。なお、判定ポイントは、洗浄プロセスの後半、すなわち、洗浄プロセスの50%以降に設定されることが好ましく、洗浄プロセスの80%以降に設定されることがさらに好ましい。
【0021】
このようにして信頼性の表示が必要かどうかを判断することにより、解離が不十分な状態で測定された結合量データを、他の結合量データと区別することができる。
【0022】
なお、本発明のスクリーニング方法、及び、スクリーニング装置は、請求項5及び請求項10に記載のように、1つの生理活性物質について前記測定洗浄プロセスが3回以上繰り返される場合に、好適に使用される。
【発明の効果】
【0023】
本発明は上記構成としたので、スクリーニング全体のハイスループットを実現すると共に、生理活性物質と特異的に結合する化合物をより正確に選別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0025】
本実施形態のスクリーニング装置としてのバイオセンサー10は、金属膜の表面に発生する表面プラズモンを利用して、生理活性物質Dと化合物との相互作用を測定する、いわゆる表面プラズモンセンサーである。本実施形態では、このバイオセンサー10を、生理活性物質Dと特異的に結合する化合物を大量の化合物Aの中から選別するために使用される。
【0026】
図1に示すように、バイオセンサー10は、トレイ保持部12、搬送部14、容器載置台16、液体吸排部20、光学測定部54及び制御部60を備えている。
【0027】
トレイ保持部12は、載置台12A及びベルト12Bを含んで構成されている。載置台12Aは、矢印Y方向に架け渡されたベルト12Bに取り付けられており、ベルト12Bの回転により矢印Y方向に移動可能とされている。載置台12A上には、2枚のトレイTが位置決めして載置される。トレイTには、センサースティック40が8本収納されている。センサースティック40は、生理活性物質Dが固定されるチップであり、詳細については後述する。載置台12Aの下には、センサースティック40を後述するスティック保持部材14Cの位置まで押し上げるための押上機構12Dが配置されている。
【0028】
センサースティック40は、図2及び図3に示すように、誘電体ブロック42、流路部材44、及び、保持部材46、で構成されている。
【0029】
誘電体ブロック42は、光ビームに対して透明な透明樹脂等で構成されており、断面が台形の棒状とされたプリズム部42A、及び、プリズム部42Aの両端部にプリズム部42Aと一体的に形成された被保持部42Bを備えている。プリズム部42Aの互いに平行な2面の内の広い側の上面には、金属膜57が形成されている。誘電体ブロック42は、いわゆるプリズムとして機能し、バイオセンサー10での測定の際には、プリズム部42Aの対向する互いに平行でない2つの側面の内の一方から光ビームが入射され、他方から金属膜57との界面で全反射された光ビームが出射される。
【0030】
金属膜57の表面には、図4に示すように、リンカー層57Aが形成されている。リンカー層57Aは、生理活性物質Dを金属膜57上に固定化するための層である。
【0031】
プリズム部42Aの両側面には、上側の端辺に沿って保持部材46と係合される係合凸部42Cが形成されている。また、プリズム部42Aの下側には、側端辺に沿って図示しない搬送用レールと係合されるフランジ部42Dが形成されている。
【0032】
図3に示すように、流路部材44は、6個のベース部44Aを備え、ベース部44Aの各々に4本の円筒部材44Bが立設されている。ベース部44Aは、3個のベース部44A毎に、立設された円筒部材44Bのうちの1本の上部が連結部材44Dによって連結されている。流路部材44は、軟質で弾性変形可能な材料、例えば非晶質ポリオフィレンエラストマーで構成されている。
【0033】
ベース部44Aには、図5及び図6に示すように、底面側に略S字状の2本の流路溝44Cが形成されている。流路溝44Cは、端部の各々が1の円筒部材44Bの中空部と連通されている。ベース部44Aは、底面が誘電体ブロック42の上面と密着され、流路溝44Cと誘電体ブロック42の上面との間に構成される空間と前記中空部とで、液体流路45が構成される。1個のベース部44Aには、2本の液体流路45が構成される。各々の液体流路45において、円筒部材44Bの上端面に液体流路45の出入口43が構成される。
【0034】
ここで、2本の液体流路45のうち、1本は測定流路45Aとして用いられ、他の1本は参照流路45Rとして用いられる。測定流路45Aの金属膜57上には生理活性物質Dが固定され、参照流路45Rの金属膜57上には生理活性物質Dが固定されない状態で測定が行われる。測定流路45A及び参照流路45Rには、図5に示すように、各々光ビームL1、L2が入射される。光ビームL1、L2は、ベース部44Aの中心寄りに配置されるS字の屈曲部分に照射される。以下、流路45Aにおける光ビームL1の照射領域を測定領域E1、流路45Rにおける光ビームL2の照射領域を参照領域E2という。参照領域E2は、生理活性物質Dの固定された測定領域E1から得られるデータを補正するための測定を行う領域である。
【0035】
保持部材46は、長尺とされ、上面部材47及び2枚の側面板48が蓋状に構成された形状とされている。側面板48には、誘電体ブロック42の係合凸部42Cと係合される係合孔48C、及び、光ビームL1、L2の光路に対応する部分に窓48Dが形成されている。保持部材46は、係合孔46Cと係合凸部42Cとが係合されて、誘電体ブロック42に取り付けられる。なお、流路部材44は、後述するように保持部材46と一体成形されており、保持部材46と誘電体ブロック42の間に配置される。
【0036】
上面部材47には、流路部材44の円筒部材44Bに対応する位置に、受部49が形成されている。受部49は、図4に示すように、略円筒状とされ、中空の下部分に円筒部材44Bが配置されている。また、前記中空の円筒部材44Bよりも上側に、出入口43と連通する凹部49Aが構成されている。凹部49Aには、ピペットチップ50が挿入される。
【0037】
保持部材46は、流路部材44よりも硬質の材料、例えば、晶質ポリオフィレンで構成されている。
【0038】
ピペットチップ50は、図6に示すように、略錐筒状とされ、先端部51、本体部52、及び保持部53で構成されている。先端部51は円筒状とされ、挿入方向の最先端に液体を吐出または吸入する開口51Aが構成されている。本体部52は、先端部51より外周が大径の錐筒状とされ、先端部51との間に外周段差部52Aが構成されている。外周段差部52Aは、先端部51側が小径のテーパー状とされている。保持部53は、本体部52よりも外周が大径とされ、本体部52との間に保持段差部53Aが構成されている。保持段差部53Aは、不図示の保持孔の構成された上面板を有するピペットチップストッカにピペットチップ50を保持する際に用いられる部分である。
【0039】
受部49の凹部49Aは、流路部材44側の第1内壁部49B及び、第2内壁部49Cで囲まれて構成されている。第1内壁部49Bは、ピペットチップ50の挿入方向Zが、ピペットチップ50の先端部51よりも僅かに長く、先端部51の外径よりも僅かに大径とされ、先端部51に沿った形状とされている。
【0040】
第2内壁部49Cは、第1内壁部49Bとの間の内周段差部49D、内周段差部49Dと隣接する中央内壁部49E、最上部の上部内壁部49Fで構成されている。内周段差部49Dは、第1内壁部49Bから連続され、ピペットチップ50の外周段差部52Aに沿って上方が大径となるテーパー状とされている。中央内壁部49Eは、内周段差部49Dと連続され、ピペットチップ50の上方が大径となるテーパー状とされている。上部内壁部49Fは、中央内壁部49Eと連続され、ピペットチップ50の上方がさらに大径となるテーパー状とされている。
【0041】
保持部材46と流路部材44とは、同一金型内で異材料同士を組み合わせて成形する、いわゆる二色成形法(ダブルモールド)によって一体成形されている。
【0042】
図1に示すように、バイオセンサー10の搬送部14は、上部ガイドレール14A、下部ガイドレール14B、及び、スティック保持部材14C、を含んで構成されている。上部ガイドレール14A及び下部ガイドレール14Bは、トレイ保持部12及び光学測定部54の上部で、矢印Y方向と直交する矢印X方向に水平に配置されている。上部ガイドレール14Aには、スティック保持部材14Cが取り付けられている。スティック保持部材14Cは、センサースティック40の両端部の被保持部42Bを保持可能とされていると共に、上部ガイドレール14Aに沿って移動可能とされている。スティック保持部材14Cに保持されたセンサースティック40の係合溝42Eと下部ガイドレール14Bとが係合され、スティック保持部材14Cが矢印X方向に移動することにより、センサースティック40が光学測定部54上の測定部56に搬送される。また、測定部56には、測定時にセンサースティック40を押さえる押さえ部材58が備えられている。押さえ部材58は、図示しない駆動機構によりZ方向に移動可能とされ、測定部56に配置されたセンサースティック40を上側から押圧する。
【0043】
容器載置台16には、アナライト溶液プレート17、バッファー液ストック容器18、廃液容器19が載置されている。アナライト溶液プレート17は、マトリクス状に区画されており、各種のアナライト溶液がストックされている。バッファー液ストック容器18は、複数の容器で構成されており、複数種類の異なる屈折率のバッファー液がストックされている。バッファー液ストック容器18には、後述するピペットチップ50を挿入可能な開口Kが形成されている。廃液容器19は、複数の容器で構成されており、バッファー液ストック容器と同様にピペットチップ50を挿入可能な開口Kが形成されている。
【0044】
液体吸排部20は、図1に示すように、ヘッド24、及び、吸排駆動部26を含んで構成されている。ヘッド24は、図示しない搬送レールに沿って矢印Y方向(図1参照)に移動可能とされている。また、ヘッド24は、ヘッド24内部の図示しない駆動機構により、鉛直方向(矢印Z方向)にも移動可能とされている。
【0045】
ヘッド24での液体流路45への液体の供給は、2本のピペットチップ50を1つの液体流路45の2つの開口へ各々挿入し、一方のピペットチップ50から液体を吐出させると共に、他方のピペットチップ50で液体流路45中の液体を吸引することにより行われる。
【0046】
なお、本実施形態においてはセンサースティック40への液体供給はピペットチップ50により行われるが、ピペットチップの代わりに、一端が上記各溶液プレートに接続され、他端がセンサースティック40に接続可能とされたインジェクションチューブを設け、送液ポンプにより液体の供給を行ってもよい。
【0047】
光学測定部54は、図7に示すように、光源54A、第1光学系54B、第2光学系54C、受光部54D、信号処理部54Eを含んで構成されている。光源54Aからは、発散状態の光ビームLが出射される。光ビームLは、第1光学系54Bを介して、2本の光ビームL1、L2となり、測定部56に配置された誘電体ブロック42の測定領域E1と参照領域E2に入射される。測定領域E1及び参照領域E2において、光ビームL1、L2は、金属膜50と誘電体ブロック42との界面に対して種々の入射角成分を含み、かつ全反射角以上の角度で入射される。光ビームL1、L2は、誘電体ブロック42と金属膜50との界面で全反射される。全反射された光ビームL1、L2も、種々の反射角成分をもって反射される。この全反射された光ビームL1、L2は、第2光学系54Cを経て受光部54Dで受光されて、各々光電変換され、光検出信号が信号処理部54Eへ出力される。信号処理部54Eでは、入力された光検出信号に基づいて所定の処理が行なわれ、測定領域E1の測定データG1及び参照領域E2の参照データG2が求められる。この測定データG1、参照データG2が制御部60へ出力される。
【0048】
制御部60は、バイオセンサー10の全体を制御する機能を有し、図7に示すように、光源54A、信号処理部54E及びバイオセンサー10の図示しない駆動系と接続されている。制御部60は、図8に示すように、バスBを介して互いに接続される、CPU60A、ROM60B、RAM60C、メモリ60D、及びインターフェースI/F60Eを有し、各種の情報を表示する表示部62及び、各種の指示、情報を入力するための入力部64と接続されている。
【0049】
メモリ60Dには、バイオセンサー10を制御するための各種プログラムや、各種データが記憶されている。
【0050】
次に、本実施形態のバイオセンサー10でのスクリーニングについて説明する。
【0051】
本実施形態では、1本のセンサースティック40の各々の流路45に1種類の生理活性物質Dが固定されている。スクリーニングでは、センサースティック40に配された液体流路45に、異なる種類の化合物溶液YAを供給して結合量の測定を行い、その後洗浄処理を行って生理活性物質Dから化合物Aを除去し、次の化合物溶液YAを供給して結合量の測定を行い、その後洗浄処理を行うという、測定洗浄プロセスが複数回(N回)繰り返される。
【0052】
センサースティック40が測定部56へ搬送され、入力部64から測定開始の指示が入力されると、制御部60では、図9に示す測定処理が実行される。測定処理は、1つの生理活性物質Dについて継続的に行われる。まず、ステップS10で、光源54Aへ光ビームLの出射指示信号を出力する。これにより、光源54Aから光ビームLが出射される。出射された光ビームLは、第1光学系54Bで2本の光ビームL1、L2となり、液体流路45の測定領域E1、参照領域E2へ各々入射される。また、ステップS11で、受光部54D及び信号処理部54Eへ、作動指示信号を出力する。これにより、測定領域E1、参照領域E2で全反射され第2光学系54Cを経た光ビームL1、L2は、受光部54Dで受光され、受光された光は、測定領域E1、参照領域E2毎に光電変換されて光検出信号が信号処理部54Eへ出力される。信号処理部54Eでは、光検出信号に所定の処理が加えられ、測定データG1、参照データG2が生成され、これらが継続的に制御部60へ出力される。
【0053】
制御部60では、ステップS12で、所定時間経過したかどうかを判断し、所定時間の経過後、ステップS13で、入力された測定データG1、参照データG2を取得し、ステップS14で、測定データG1、参照データG2に基づいて結合量データG3を算出し、ステップS15で、この結合量データG3をメモリ60Dへ記憶する。ステップS12〜ステップS15により、所定時間毎の結合量データG3が記憶される。そして、ステップS16で終了の指示があったかどうか判断され、終了の指示があった場合には、本処理を終了し、終了の指示がない場合には、ステップS12へ戻って上記の処理を繰り返す。
【0054】
一方、上記の測定処理中に、液体流路45へ化合物溶液YAの供給、バッファー液の供給が行なわれる。制御部60は、前述の測定処理中に所定のタイミングで、図10に示す化合物供給・洗浄処理を実行する。
【0055】
ステップS20で、最初の化合物溶液YAの供給指示信号を出力する。これにより、ヘッド24が駆動され、液体流路45へ最初の化合物溶液YAが供給される。次に、ステップS21で、所定の反応時間T1が経過するまで待機する。この反応時間T1は、化合物溶液YAに含まれる化合物Aと生理活性物質Dとが反応するための時間であり、予めユーザーにより、すべての化合物について一定時間が設定されている。
【0056】
反応時間T1の経過後、ステップS22で、バッファー液の供給指示信号をヘッド24へ出力する。これにより、ヘッド24が駆動され、液体流路45へバッファー液が供給される。バッファー液が供給されると、液体流路45内の化合物溶液YAはバッファー液に置換される。ステップS23で、所定の洗浄時間T2が経過するまで待機する。この洗浄時間T2は、化合物溶液YAを洗浄するための時間であり、予めユーザーにより、すべての化合物について一定時間が設定されている。
【0057】
このように、化合物溶液YA、バッファー液の供給が行われ、1つの化合物Aについての結合量データG3が取得される。結合量データG3は、図11に示すように、化合物溶液YAの供給時からバッファー液の供給時までの間の測定ラインM、及び、バッファー液の供給時から次の化合物Aの供給時までの間の洗浄ラインNにより構成される。測定ラインMは、化合物供給・洗浄処理における反応時間T1の間に取得される結合量データG3であり、洗浄ラインNは、洗浄時間T2の間に取得される結合量データG3である。
【0058】
ここで、図11に示す測定ラインM1、洗浄ラインN1は、生理活性物質Dと化合物Aとが結合する場合にとる結合量データG3の一例である。生理活性物質Dと化合物Aとが結合すると、測定ラインM1で示されるように、化合物溶液YAの供給後から結合量が増加すると共に、洗浄ラインN1で示されるように、バッファー液の供給後から結合量が減少する。ところが、次の化合物溶液YAの供給時において、結合量が化合物溶液YAの供給前のラインまで戻らないと、その後の測定に影響が及び、生理活性物質Dと特異的に結合する化合物Aを正確に選別できない場合がある。
【0059】
そこで、ステップS24で、前述の解離が不十分なままで測定の行われた可能性のある結合量データG3に信頼性表示Qを付与するための、信頼性表示付与処理を実行する。信頼性表示付与処理としては、第1信頼性表示付与処理〜第3信頼性表示付与処理のいずれかを実行すればよい。3つのうちのいずれを実行するかについては、ユーザーの選択、設定によることができる。
【0060】
第1信頼性表示付与処理は、図12に示すように、ステップS30で、第1信頼性フラグF1が0かどうかを判断する。信頼性フラグFは、一旦生理活性物質Dと特異的に結合される化合物Aが検出された場合に1とされ、初期値は0とされている。第1信頼性フラグF1=0の場合には、ステップS31で、当該化合物Aと生理活性物質Dとの特異的結合があったかどうかを判断する。特異的結合があったかどうかの判断は、測定ラインMのピーク値が所定の閾値を超えた場合に特異的結合ありとしてもよいし、バッファー液の供給時における結合量が所定の閾値を超えたかどうかで判断してもよいし、その他の当該測定に適した方法で判断してもよい。
【0061】
判断が肯定された場合には、ステップS32で、第1信頼性フラグF1を1に書き換えて本処理を終了する。判断が否定された場合には、そのまま本処理を終了する。
【0062】
ステップS30の判断が否定された場合、すなわち、第1信頼性フラグF1=1の場合には、ステップS33で結合量データG3に信頼性表示Qを付与して本処理を終了する。
【0063】
上記の第1信頼性表示付与処理によれば、最初に生理活性物質Dと化合物Aとの特異的結合が検出された後に取得されたすべての結合量データG3について、信頼性表示Qが付与される。
【0064】
第2信頼性表示付与処理は、図13に示すように、ステップS40で、第2信頼性フラグF2が0かどうかを判断する。第2信頼性フラグF2は、初期値は0であり、生理活性物質Dと特異的に結合される化合物Aが検出された場合に1とされ、その後、結合量データG3の洗浄ラインNの平均傾きの絶対値が解離中傾斜I以下になると0に戻される。
【0065】
ここで、解離中傾斜Iは、図11に示す洗浄ラインN1のように、先の測定における生理活性物質Dと化合物Aとの特異的結合が、いまだ解離しきれていない場合に、傾斜が急であることに着目して設定される値であり、洗浄ラインNの平均傾きSTの絶対値が解離中傾斜Iよりも大きければ、解離途中であると判断できる数値が、予めユーザーにより設定されている。
【0066】
ステップS40での判断が肯定された場合には、ステップS41で、当該化合物Aと生理活性物質Dとの特異的結合があったかどうかを判断する。特異的結合があったかどうかの判断は、前述したように、測定ラインMのピーク値が所定の閾値を超えた場合に特異的結合ありとしてもよいし、バッファー液の供給時における結合量が所定の閾値を超えたかどうかで判断してもよいし、その他の当該測定に適した方法で判断してもよい。
【0067】
判断が肯定された場合には、ステップS42で、第2信頼性フラグF2を1に書き換えて本処理を終了する。判断が否定された場合には、そのまま本処理を終了する。
【0068】
ステップS40の判断が否定された場合、すなわち、第2信頼性フラグF2=1の場合には、ステップS43で、1つ前の化合物の測定における結合量データG3の洗浄ラインNの平均傾きSTの絶対値が、解離中傾斜I以上かどうかを判断する。解離中傾斜I以上の場合には、ステップS44で結合量データG3に信頼性表示Qを付与して本処理を終了する。解離中傾斜Iより小さい場合には、先の生理活性物質Dと化合物Aとの解離が完了して洗浄ラインNが安定したと考えられるため、ステップS45で、第2信頼性フラグF2を0に戻して本処理を終了する。
【0069】
上記の第2信頼性表示付与処理によれば、洗浄ラインNの傾きにより次の測定において得られた結合量データG3の信頼性が判断される。
【0070】
なお、上記の第2信頼性表示付与処理では、洗浄ラインNの平均傾きSTの絶対値を用いたが、これに代えて、洗浄ラインNの中の任意時間内(判定時間)におけるライン傾きの平均値の絶対値を用いてもよい。ここでの判定時間は、各洗浄ラインN内における一定の時間(例えば、洗浄ラインNの全体時間を100とした場合、前半50、後半50など)を、ユーザーが自由に設定することができる。
【0071】
第3信頼性表示付与処理は、図14に示すように、ステップS50で、第3信頼性フラグF3が0かどうかを判断する。第3信頼性フラグF3は、初期値は0であり、生理活性物質Dと特異的に結合される化合物Aが検出された場合に1とされ、その後、連続する2回の結合量データG3の洗浄ラインNの平均値AVの差AVSの絶対値が、解離閾値J以下になると0に戻される。
【0072】
ここで、解離閾値Jは、図11に示す洗浄ラインN1のように、先の測定における生理活性物質Dと化合物Aとの特異的結合が、いまだ解離しきれていない場合に、本来であれば、ほぼ一定の値を示す洗浄ラインNにバラツキが生じることに着目して設定される値であり、連続する測定における2つの洗浄ラインNの平均値AVのバラツキが解離閾値Jよりも大きければ、解離途中であると判断できる数値が、予めユーザーにより設定されている。
【0073】
ステップS50での判断が肯定された場合には、ステップS51で、当該化合物Aと生理活性物質Dとの特異的結合があったかどうかを判断する。特異的結合があったかどうかの判断は、前述したように、測定ラインMのピーク値が所定の閾値を超えた場合に特異的結合ありとしてもよいし、バッファー液の供給時における結合量が所定の閾値を超えたかどうかで判断してもよいし、その他の当該測定に適した方法で判断してもよい。
【0074】
判断が肯定された場合には、ステップS52で、第3信頼性フラグF3を1に書き換えて本処理を終了する。判断が否定された場合には、そのまま本処理を終了する。
【0075】
ステップS50の判断が否定された場合、すなわち、第3信頼性フラグF3=1の場合には、ステップS53で、1回前の結合量データG3の洗浄ラインNと2回前の結合量データG3の洗浄ラインNとの平均値の差AVSを求め、ステップS54で、差AVSの絶対値が解離閾値J以上かどうか、すなわち、|AVS|≧解離閾値J、かどうかを判断する。
【0076】
|AVS|≧解離閾値J、の場合には、ステップS55で結合量データG3に信頼性表示Qを付与して本処理を終了する。|AVS|≦解離閾値J、の場合には、先の生理活性物質Dと化合物Aとの解離が完了して洗浄ラインNが安定したと考えられるため、ステップS56で、第3信頼性フラグF1を0に戻して本処理を終了する。
【0077】
上記の第3信頼性表示付与処理によれば、洗浄ラインNの値の変動により次の測定において得られた結合量データG3の信頼性が判断される。
【0078】
なお、上記の第3信頼性表示付与処理では、洗浄ラインNの平均値AVを用いたが、これに代えて、洗浄ラインNの中の任意時(判定ポイント)における値を用いてもよい。ここでの判定ポイントは、各洗浄ラインN内における所定時(例えば、洗浄ラインNの開始時の値、終了時の値、中間時の値など)を、ユーザーが自由に設定することができる。ただし、判定ポイントは、洗浄ラインNの後半部分、特に、洗浄ラインN全体の後半80%部分に設定されることが好ましい。
【0079】
上記の第1〜第3信頼性表示付与処理のいずれかを実行したあと、ステップS25でN回目の化合物、すなわち、当該生理活性物質Dで測定を行う最後の化合物の供給が終了したかどうかを判断し、終了していなければ、ステップS20へ戻って、次の化合物溶液YAの供給指示信号を出力する。最後の化合物の供給が終了していれば、ステップS26で、測定終了指示信号を出力する。この測定終了指示信号により、前述の測定処理も終了される。
【0080】
上記のようにして、化合物供給・洗浄処理が、N個の異なる種類の化合物Aについて行われ、信頼性表示Qの付与された結合量データG3、または、信頼性表示Qの付与されていない結合量データG3が取得される。
【0081】
上記処理によれば、一定の反応時間T1、洗浄時間T2で、すべての化合物Aについての測定が行われるので、測定全体のハイスループットを実現することができる。
【0082】
次に、スクリーニング処理について説明する。スクリーニング処理は、上記のようにして得られた結合量データG3を用いて図15の手順で行われる。
【0083】
ステップS60で、結合量データG3が、予めユーザーが設定した閾値以上かどうかを判断する。ここでの閾値は、化合物が当該生理活性物質Dと結合したと判断される値である。判断が肯定されれば、当該化合物について一応結合有りとすることができ、その中に信頼性表示Qの付与された化合物と付与されていない化合物とが含まれていることになる。ステップS60での判断が肯定された場合には、ステップS62で、結合量データG3に信頼性表示Qの付与があるかどうかを判断する。信頼性表示Qの付与がなければ、ステップS64で、候補化合物として選択する。信頼性表示Qの付与がある場合には、生理活性物質Dとの特異的結合の判断について検討を要するため、ステップS66で、検討対象表示QHを付与して選別を行うことなく本処理を終了する。
【0084】
本スクリーニング処理によれば、確実に生理活性物質Dと特異的結合のあった化合物のみを選別することができる。また、結合量データG3に信頼性表示Qの付与がある化合物Aについては、再測定を行ったり、結合量データG3を他の方法で分析したりするなどにより、生理活性物質Dとの相互作用を測定することができる。
【0085】
なお、本発明の実施形態では、バイオセンサーとして、表面プラズモンセンサーを一例として説明したが、バイオセンサーとしては、表面プラズモンセンサーに限定されるものではない。その他の例えば、水晶発振子マイクロバランス(QCM)測定技術、金のコロイド粒子から超微粒子までの機能化表面を使用した光学的測定技術など、あらゆるバイオセンサーを用いた場合に本発明は適用することができる。
【0086】
また、全反射減衰を利用する他のバイオセンサーとしては、漏洩モード検出器をあげることができる。漏洩モードセンサは、誘電体と、この上に順に層設されたクラッド層と光導波層とによって構成された薄膜とからなり、この薄膜の一方の面がセンサ面となり、他方の面が光入射面となる。光入射面に全反射条件を満たすように光を入射させると、その一部が前記クラッド層を透過して前記光導波層に取り込まれる。そして、この光導波層において、導波モードが励起されると、前記光入射面における反射光が大きく減衰する。導波モードが励起される入射角は、表面プラズモン共鳴角と同様に、センサ面上の媒質の屈折率に応じて変化する。この反射光の減衰を検出することにより、前記センサ面上の反応を測定することができる。
【実施例】
【0087】
上記で説明したバイオセンサー10でのスクリーニングを行う場合に、対象化合物によっては、生理活性物資と結合した場合、短時間の洗浄では解離されないこと、及び、次の測定に影響を及ぼすことについて、具体的に示す。
(1)測定チップの作成
金属膜57として50nmの金が蒸着された誘電体ブロック42をModel−208UV−オゾンクリーニングシステム(TECHNOVISION INC.)で30分間処理した後、エタノール/水(80/20:容量比)で溶解した16−ヒドロキシ−1−ヘキサデカンチオールの1.0mM溶液を金属膜に接触するように添加し、25℃で1時間表面処理を行った。その後、エタノールで5回、エタノール/水混合溶媒で1回、水で5回洗浄を行った。
【0088】
次に、16−ヒドロキシ−1−ヘキサデカンチオールで被覆した表面に10重量(質量)%のエピクロロヒドリン溶液(溶媒:0.4M水酸化ナトリウム及びジエチレングリコールジメチルエーテルの1:1混合溶液)を接触させ、25℃の振盪インキュベーター中で4時間反応を進行させた。その後、表面をエタノールで2回、水で5回洗浄した。次に、25重量%のデキストラン(T500,Pharmacia)水溶液40.5mlに4.5mlの1M水酸化ナトリウムを添加し、その溶液をエピクロロヒドリン処理表面上に接触させた。次に振盪インキュベーター中で、25℃で20時間インキュベートした。表面を50℃の水で10回洗浄した。続いて、ブロモ酢酸3.5gを27gの2M水酸化ナトリウム溶液に溶解した混合物を上記デキストラン処理表面に接触させて、25℃の振盪インキュベーターで16時間インキュベートした。表面を水で洗浄し、その後同様のブロモ酢酸処理をさらに1回繰り返した。
(2)蛋白質の固定化
以下に示す手順で、(1)で作成したヒドロゲル被覆測定チップにCarbonic Anhydrase(Bovine由来、SIGMA製)を固定化した。
【0089】
まず、酢酸バッファー(pH5.0)を用いて、Carbonic Anhydrase250μg/mlの蛋白質溶液を調製する。ランニングバッファーは、以下の組成とした:50mMリン酸バッファー(pH7.4)/150mM NaCl。
【0090】
まず、ヒドロゲル被覆チップに、ランニングバッファーを添加し、ベースラインをとる。次に、1−エチル−2,3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド(400mM)とN−ヒドロキシスクシンイミド(100mM)との混合液を添加し、7分間静置後、ランニングバッファーで洗浄する。次に、作成した蛋白質溶液を添加し15分間静置後、ランニングバッファー(pH7.4)で洗浄する。次に、エタノールアミン・HCl溶液(1M,pH8.5)を添加し7分静置後、10mM NaOHランニングバッファーで3回洗浄、さらにランニングバッファーで3回洗浄する。最初のベースラインからの信号変化分をCarbonic Anhydraseの固定量(RU)とする。Carbonic Anhydraseの固定量は7300RUであった。
(3)化合物の結合測定
蛋白質を固定化した測定チップ(センサースティック40)を、表面プラズモン共鳴測定装置(バイオセンサー10)にセットし、表1の化合物の結合測定を以下のようにして行った。ここで、表1の化合物は、Carbonic Anhydraseに結合することが知られている化合物である。
【0091】
以下の組成のランニングバッファーを作成する:50mMリン酸バッファー(pH7.4)/150mM NaCl/DMSO 10容量%。
【0092】
次に、ランニングバッファーに表1の化合物が10μMになるように溶解する。次に、ヒドロゲル被覆チップ(センサースティック40)にランニングバッファーを添加し、ベースラインをとる。次に、調製した化合物溶液を添加して1分間静置後の信号変化分を、各化合物の結合量(RU)とする。次に再度ランニングバッファーを添加して、1分間洗浄する。洗浄後のベースラインと化合物添加前のベースラインの差を、洗浄残り量(RU)として表1に記載した。また、洗浄後、1分間ベースラインの変動を測定し、洗浄後ベースライン変動値(RU)として表1に記載した。
【0093】
また、化合物1、および化合物4について、Carbonic Anhydraseを固定化した測定チップに、それぞれ3回の繰り返し結合測定を行った。測定は、化合物溶液を添加して1分間静置、ランニングバッファーを添加して1分間静置を繰り返し、結合量は以下の式にて算出した。結果を表2に示す。
(計算式)
結合量(RU)=(化合物溶液添加1分後、洗浄前のRU値)−(化合物溶液を添加前のRU値)
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】

表1の結果から、化合物によっては、1分間のランニングバッファー洗浄では、多量の洗浄残りが発生することがわかる。また、表2に示すように、多量の洗浄残りが発生する化合物4は、その後の結合測定に影響を与え、その後の測定においては、理論結合量に対して、実測の結合量が少なく測定されることがわかる。
【0096】
このような簡単には洗浄できない化合物の測定後、それに引き続き測定されたデータは信頼性が欠けるため、それ以前のデータを区別して表示されることが必要である。区別のための閾値の決め方として、表1に示されるように、洗浄残り量を例えば2以下に設定する、あるいは洗浄後ベースライン変動を−1以上に設定する、といった方法をもちいることができる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本実施形態にかかるバイオセンサーの全体斜視図である。
【図2】本実施形態にかかるセンサースティックの斜視図である。
【図3】本実施形態のセンサースティックの分解斜視図である。
【図4】本実施形態のセンサースティックの1の液体流路部分の断面図である。
【図5】本実施形態のセンサースティックの測定領域、参照領域へ光ビームが入射している状態を示す図である。
【図6】本実施形態にかかるピペットの斜視図である。
【図7】本実施形態にかかるバイオセンサーの光学測定部付近の概略図である。
【図8】本実施形態にかかる制御部とその周辺の概略ブロック図である。
【図9】本実施形態の測定処理のフローチャートである。
【図10】本実施形態の化合物供給・洗浄処理のフローチャートである。
【図11】結合量データG3一例を示すグラフである。
【図12】本実施形態の第1信頼性表示付与処理のフローチャートである。
【図13】本実施形態の第2信頼性表示付与処理のフローチャートである。
【図14】本実施形態の第3信頼性表示付与処理のフローチャートである。
【図15】本実施形態のスクリーニング処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0098】
10 バイオセンサー
40 センサースティック
54 光学測定部
60D メモリ
60 制御部
D 生理活性物質
G1 測定データ
G2 参照データ
G3 結合量データ
I 解離中傾斜
J 解離閾値
M 測定ライン
N 洗浄ライン
Q 信頼性表示
T1 反応時間
T2 洗浄時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定された生理活性物質へ化合物を供給し、前記生理活性物質と前記化合物との結合量を測定して結合量データを取得し、前記生理活性物質へ供給された前記化合物を前記測定後に洗浄するという測定洗浄プロセスを、1つの生理活性物質について異なる複数の化合物毎に繰り返して行うことにより、前記生理活性物質と特異的に結合する結合化合物を選別するスクリーニング方法であって、
前記結合化合物が検出された後に得られる前記結合量データについて信頼性の表示が必要かどうかを判断し、前記判断により前記表示が必要と判断された場合に、前記結合量データに信頼性識別標識を付与し、この信頼性識別標識を加味して、前記結合化合物を選別するスクリーニング方法。
【請求項2】
前記判断は、前記生理活性物質で最初に前記結合化合物が検出された後のすべての前記結合量データについて前記表示が必要であると判断すること、を特徴とする請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記結合量データは、前記測定洗浄プロセスの間に継続的に取得されて前記化合物の供給時に取得される測定ライン、及び、前記化合物を洗浄するための洗浄液の供給時に取得される洗浄ラインを含んで構成され、
前記判断は、直前の前記洗浄ラインの判定時間内における平均傾きの絶対値が所定の閾値以上である前記結合量データについて前記表示が必要であると判断すること、を特徴とする請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記結合量データは、前記測定洗浄プロセスの間に継続的に取得されて前記化合物の供給時に取得される測定ライン、及び、前記化合物を洗浄するための洗浄液の供給時に取得される洗浄ラインを含んで構成され、
前記判断は、直前の前記洗浄ラインの判定ポイントにおける値と2回前の前記洗浄ラインの判定ポイントにおける値との差の絶対値が、所定の解離閾値以上である前記結合量データについて前記表示が必要であると判断すること、を特徴とする請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
1つの生理活性物質について前記測定洗浄プロセスが3回以上繰り返されること、を特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
固定された生理活性物質へ化合物を供給し、前記生理活性物質と前記化合物との結合量を測定して結合量データを取得し、前記生理活性物質へ供給された前記化合物を前記測定後に洗浄するという測定洗浄プロセスを、1つの生理活性物質について異なる複数の化合物毎に繰り返して行うことにより、前記生理活性物質と特異的に結合する結合化合物を選別するスクリーニング装置であって、
前記結合化合物が検出された後に得られる前記結合量データについて信頼性の表示が必要かどうかを判断する判断手段と、
前記判断手段により前記表示が必要と判断された場合に前記結合量データに信頼性識別標識を付与する標識付与手段と、
前記標識付与手段により付与された前記信頼性識別標識を加味して、前記結合化合物を選別する選別手段と、
を備えたスクリーニング装置。
【請求項7】
前記判断手段は、前記生理活性物質で最初に前記結合化合物が検出された後のすべての前記結合量データについて前記表示が必要であると判断すること、を特徴とする請求項6に記載のスクリーニング装置。
【請求項8】
前記結合量データは、前記測定洗浄プロセスの間に継続的に取得されて前記化合物の供給時に取得される測定ライン、及び、前記化合物を洗浄するための洗浄液の供給時に取得される洗浄ラインを含んで構成され、
前記判断手段は、直前の前記洗浄ラインの判定時間内における平均傾きの絶対値が所定の閾値以上である前記結合量データについて前記表示が必要であると判断すること、を特徴とする請求項6に記載のスクリーニング装置。
【請求項9】
前記結合量データは、前記測定洗浄プロセスの間に継続的に取得されて前記化合物の供給時に取得される測定ライン、及び、前記化合物を洗浄するための洗浄液の供給時に取得される洗浄ラインを含んで構成され、
前記判断手段は、直前の前記洗浄ラインの判定ポイントにおける値と2回前の前記洗浄ラインの判定ポイントにおける値との差の絶対値が、所定の解離閾値以上である前記結合量データについて前記表示が必要であると判断すること、を特徴とする請求項6に記載のスクリーニング装置。
【請求項10】
1つの生理活性物質について前記測定洗浄プロセスが3回以上繰り返されること、を特徴とする請求項6乃至請求項9のいずれか1項に記載のスクリーニング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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