説明

スコロダイトの製造方法及び洗浄方法

【課題】砒素溶出性の低いスコロダイトを安定的に製造するための方法を提供する。
【解決手段】スコロダイトを水洗した上でスコロダイトを水洗液から固液分離により分離する工程を行うことを含むスコロダイトの製造方法であって、第n回目(n≧1)の当該工程を実施した後の水洗液中に含まれるCu、S及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種の反応後液成分の濃度とAsイオン濃度を測定し、その測定結果に応じて目標とすべき該反応後液成分の濃度を設定した上で、スコロダイトの水洗に使用した水洗液中に含まれる該反応後液成分の濃度測定値が該目標値以下に低下するまで当該工程を繰り返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スコロダイトの製造方法に関する。とりわけ、銅製錬工程で産出する電解沈殿銅からのスコロダイトの製造方法に関する。また、本発明はスコロダイトから砒素の溶出を低減するための洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅鉱石中には種々の不純物が混入しており、そのような不純物には砒素(As)が含まれる。砒素(As)は銅製錬の乾式工程で高熱によって揮発分離されるが、一部は粗銅に混入して銅の電解精製工程へ持ち込まれることとなる。
粗銅(銅陽極)に含まれるAsは電解液に一部溶出し、未溶出分は電解槽底部に沈殿するアノードスライム中に混入する。また、陰極に析出する銅量よりも陽極から溶出する銅量の方が一般に多いので、電解液中の銅濃度は次第に増大する。そのため、電解液の一部を別の電解槽に抜き出して電解液の品質を制御している。抜き出した電解液に対しては脱銅電解を行い、陰極にCu及びAs等の不純物を析出させ、また、電解槽底部にこれらを沈殿させることでCu及びAs等の不純物を分離回収する。斯界では、これら電解槽底部に沈殿するものと陰極に析出するものを併せて電解沈殿銅と呼んでいる。
【0003】
電解沈殿銅は銅製錬工程に繰り返されるのが通常であるが、そのためには電解沈殿銅からAs等の不純物を分離しておくのが好ましい。また、Asは有価物として利用する道も残されている。従って、電解沈殿銅からAsを高い品位で分離・回収する技術が望まれる。分離・回収された砒素は、環境汚染を引き起こさないように、安定な化合物として固定化するのが好ましい。
【0004】
砒素を固定するために、鉄砒素化合物であるスコロダイト(FeAsO4・2H2O)の結晶を生成させることが有効であることが知られている。結晶性スコロダイトは化学的に安定であり、長期保存にも適している。一方、スコロダイトであっても非晶質のものは安定性に欠き、長期保存に適さない。
【0005】
例えば、特許文献1では、銅及び/又は亜鉛を含む非鉄金属成分と砒素とを含有する砒素含有溶液からの砒素の除去および固定方法において、前記砒素含有溶液に鉄(II)溶液及び/又は鉄(III)溶液を加えて120℃以上で反応させ、鉄・砒素化合物として安定な結晶性を持つスコロダイトを生成させ、前記砒素含有溶液から固液分離して銅を含む非鉄金属成分を含有するスコロダイトを回収する第1工程と、第1工程で得られた銅を含む非鉄金属成分を含有するスコロダイトに水を加えてリパルプし、スコロダイトに含有する銅を含む非鉄金属成分を液中に溶かし出してスコロダイトから分離する第2工程とを有することを特徴とする砒素含有溶液からの砒素の除去および固定方法が記載されている。これにより、銅等の有価金属をロスすることなく、砒素を結晶性の安定なスコロダイトとして除去・固定することが可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3756687号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、安定性の高いスコロダイトを得るための方法に関して、「Fe/Asモル比が1.5より低くても、2.0より高くても、生成する鉄砒素化合物の結晶性が著しく低下し、砒素が溶出しやすくなる。」という記載や、「150℃より低いと結晶性の鉄砒素化合物が生成せず、アモルファス状となり安定性が悪く、砒素が溶出しやすい。」という記載がある。
【0008】
そして、スコロダイトを合成する第1工程後に行う第2工程の意義について、「スコロダイトには銅や亜鉛等が硫酸塩の形で混入している。銅を例にとるとこの分の回収を行わないと全体の約10%のロスとなる。またこのままの状態では、砒素の溶出はないが、有価金属である銅が析出物中に混入してしまう。そこで、次の第2工程によって銅等とスコロダイトとを分離して銅等を回収する。」と記載されている。
すなわち、特許文献1の教示によれば、スコロダイトの砒素の溶出性は反応段階でのFe/Asモル比や温度条件が重要である。
【0009】
しかしながら、本発明者の実験結果によれば、スコロダイトの反応条件を最適化したとしても、得られたスコロダイトからは砒素が環境基準を超えて溶出することがあり、その溶出量にもばらつきがあることが分かった。スコロダイトの品質にばらつきが生じるのは好ましくない。そこで、本発明は砒素溶出性の低いスコロダイトを安定的に製造するための方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これまで、スコロダイトから砒素が溶出する要因として考えられていたのは、非晶質のスコロダイトの存在であった。非晶質のスコロダイトは安定性が低く、結晶性スコロダイト中に不純物として含まれれば、砒素が溶出する原因となる。そのため、得られたスコロダイトの安定性が低いのは主に非晶質のスコロダイトが混在していることによるものと考えられていた。そこで、これまでのスコロダイトの安定性向上のための技術は、合成時に結晶性のスコロダイトを高い選択率で生成させることに注力されてきたのである。
【0011】
ところが、本発明者がスコロダイトの砒素溶出性について鋭意検討したところ、溶出量やそのばらつきはスコロダイト合成後の洗浄操作に大きく左右されることを見出した。洗浄操作はスコロダイトに付着した反応後液を洗い流し、スコロダイトの品位を高めるという点で有効であると考えられ、これまでも、スコロダイトを合成した後には固液分離や水洗などの一般的な操作は行っていた。例えば、本発明者がこれまでスコロダイトの洗浄方法として採用していた方法は、ブフナー漏斗上でスコロダイトのケークの上に水を加えて洗浄する操作を、洗液から銅の青い色が認められなくなるまで繰り返すというものである。
【0012】
そして、従来の知見ではスコロダイトの安定性は主にスコロダイト合成時の結晶化の度合いによると考えられていたため、スコロダイトに付着した反応後液を除去するという洗浄操作を充分に行ったとしても、スコロダイト自体の結晶性が低ければやはり砒素の溶出は避けられない。そのため、洗浄後に溶出する砒素はスコロダイトの低結晶性に起因するものであると考えていた。
【0013】
しかしながら、実は、スコロダイトからの砒素の溶出は洗浄が不十分であることに起因するものが意外にも多いことが分かった。そして、洗浄液中に含まれる反応後液成分が低下すればスコロダイトの溶出試験による砒素等の金属イオンの溶出値も低下するという関係にあることが分かった。そのため、スコロダイトから反応後液を分離するための洗浄操作は洗浄液中に含まれる反応後液成分、例えばCuやAs等の金属イオン濃度を監視して行うことにより、所望の溶出量を有し、しかも溶出量にばらつきの少ないスコロダイトが簡便に得られることを見出したのである。
【0014】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、
・5価のAsと3価のFeを含有する酸性水溶液を結晶性スコロダイトの合成に有効な温度及び時間加熱する工程1と、
・合成されたスコロダイトを反応後液から固液分離によって分離する工程2と、
・その後に、スコロダイトを水洗した上でスコロダイトを水洗液から固液分離により分離する工程3と、
を行うことを含むスコロダイトの製造方法であって、
工程1の酸性水溶液の原料として電解沈殿銅の硫酸浸出液を使用し、工程3は、第n回目(n≧1)の工程3を実施した後の水洗液中に含まれるCu、S及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種の反応後液成分の濃度とAsイオン濃度を測定し、その測定結果に応じて目標とすべき該反応後液成分の濃度を設定した上で、スコロダイトの水洗に使用した水洗液中に含まれる該反応後液成分の濃度測定値が該目標値以下に低下するまで繰り返すことを含む方法である。
【0015】
本発明は別の一側面において、
・5価のAsと3価のFeを含有する酸性水溶液を結晶性スコロダイトの合成に有効な温度及び時間加熱する工程1と、
・合成されたスコロダイトを反応後液から固液分離によって分離する工程2と、
・その後に、スコロダイトを水洗した上でスコロダイトを水洗液から固液分離により分離する工程3と、
を行うことを含むスコロダイトの製造方法であって、
工程1の酸性水溶液の原料として電解沈殿銅の硫酸浸出液を使用し、工程3は、洗浄に使用する水量とスコロダイトの乾燥重量の比率を一定値に定めた上で、水洗液中に含まれるAs濃度測定値とCu、S及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種の反応後液成分の濃度測定値との関係をプロットし、該反応後液成分の濃度測定値の推移から洗浄液中に残存するAs濃度を推測し、スコロダイトの水洗に使用した水洗液中に含まれる該反応後液成分の濃度測定値から推定されるAsのイオン濃度が0.3mg/L以下に低下するまで繰り返すことを含む方法である。
【0016】
本発明に係るスコロダイトの製造方法の一実施形態においては、前記少なくとも1種の反応後液成分の濃度はCuイオン濃度である。
【0017】
本発明は更に別の一側面において、
・5価のAsと3価のFeを含有する酸性水溶液を結晶性スコロダイトの合成に有効な温度及び時間加熱する工程1と、
・合成されたスコロダイトを反応後液から固液分離によって分離する工程2と、
・その後に、スコロダイトを水洗した上でスコロダイトを水洗液から固液分離により分離する工程3と、
を行うことを含むスコロダイトの製造方法であって、
工程1の酸性水溶液の原料として電解沈殿銅の硫酸浸出液を使用し、反応後液中のAsイオン濃度を0.1〜3g/L、Cuイオン濃度を10〜60g/Lとし、工程3は1回の洗浄を、水量1L当たりスコロダイト100〜300g(乾燥重量)の比率として行い、スコロダイトの水洗に使用した水洗液中に含まれるCuイオン濃度を測定し、測定されたCuイオン濃度が10mg/L以下に低下するまで繰り返すことを含む方法である。
【0018】
本発明に係るスコロダイトの製造方法の更に別の一実施形態においては、スコロダイトの水洗に使用した水洗液中に含まれるCuイオン濃度分析を比色分析法により行う。
【0019】
本発明に係るスコロダイトの製造方法の更に別の一実施形態においては、工程3の水洗はスコロダイトに水を加えた後にリパルプ及び撹拌を行うことにより実施する。
【0020】
本発明に係るスコロダイトの製造方法の更に別の一実施形態においては、工程2は漏斗上での自然濾過により実施し、工程3は漏斗上に設置したスコロダイト上に洗浄水を注ぎ、洗浄水を注いでいる間はスコロダイト全体が洗浄水で覆われている状態を保つことを含む重力又は吸引濾過により実施する。
【0021】
本発明に係るスコロダイトの製造方法の更に別の一実施形態においては、工程3は縦型のフィルタープレス内にスコロダイトを配置した上で洗浄水を供給した後に圧搾を行うことにより実施する。
【0022】
本発明は別の一側面において、スコロダイトを水洗した上でスコロダイトを水洗液から固液分離により分離する操作を含むスコロダイトの洗浄方法であって、水洗に使用した水洗液中に含まれるスコロダイトから溶出した少なくとも1種の成分の濃度を測定し、その測定結果に応じて上記操作を繰り返すか判断することを含む方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、砒素溶出性の低いスコロダイトを安定的に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1で合成したスコロダイトを予備水洗した後に更に水洗した場合の水洗液中の砒素及び銅濃度の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の主題の一つは、
・5価のAsと3価のFeを含有する酸性水溶液を結晶性スコロダイトの合成に有効な温度及び時間加熱する工程1と、
・合成されたスコロダイトを反応後液から固液分離によって分離する工程2と、
・その後に、スコロダイトを水洗した上でスコロダイトを水洗液から固液分離により分離する工程3と、
を行うことを含むスコロダイトの製造方法であって、工程3はスコロダイトの水洗に使用した水洗液中に含まれる反応後液成分の濃度が予め設定した値以下に低下するまで繰り返すことを含む方法である。
【0026】
工程1
工程1ではスコロダイトの合成を行う。スコロダイトの合成は5価のAsと3価のFeを含有する酸性水溶液を結晶性スコロダイトの合成に有効な温度及び時間加熱することによって行うことができる。スコロダイトの合成条件については、結晶性スコロダイトの合成に有利であると当業者に知られている任意の条件を採用すればよいが、その好適な条件を以下に例示的に示す。
【0027】
5価のAsは例示的には砒酸(H3AsO4)等の形態で与えることができる。典型的には、5価のAsは電解沈殿銅を硫酸浸出した後の硫酸浸出液中に砒酸(H3AsO4)の形態で存在する。
3価のFeは例示的には酸化鉄、硫酸鉄及び塩化鉄、水酸化鉄等の形態で与えることができる。3価のFeは水溶液中での反応を行う観点から酸性水溶液の形態で提供されるのが好ましく、脱鉄後液を電錬の電解液に戻す事が最も有効である観点から硫酸第二鉄(Fe2(SO43)の水溶液の形態で提供されるのが好ましい。また、廃水処理等で使用される、ポリ硫酸第二鉄水溶液も使用可能である。
酸性水溶液は例示的には塩酸酸性、硫酸酸性、硝酸酸性、過塩素酸酸性等の水溶液として与えることができる。典型的には電解沈殿銅を硫酸浸出した後の硫酸浸出液が使用される。硫酸浸出の方法は後述する。
【0028】
酸性水溶液中に含まれるAsの反応率を高めるためには、3価のFeを5価のAs量に対して1.0当量以上とするのが好ましく、経済的な観点から1.1〜1.5当量とするのがより好ましい。
酸性水溶液のpHは1.0〜1.5とするのが結晶性スコロダイトの生成に好ましい。
【0029】
結晶性スコロダイトは上記酸性溶液を例えば大気圧下で60〜95℃に加熱することにより生成させることができ、例えば8〜72時間反応させることにより充分な量の結晶性スコロダイトが生成する。Asは5価に酸化されているため、3価の鉄と高い反応効率で結晶性のスコロダイトが生成する。
【0030】
工程2
工程2では、合成されたスコロダイトを反応後液から固液分離によって分離する。反応後液には砒素、銅及びその他の金属のイオンが含まれており、これらがスコロダイトに付着していると保管時に溶出するため、充分に除去しておく必要がある。固液分離の方法は公知の任意の方法で行えばよく、特に制限はないが、濾過が一般的である。濾過としては重力(自然)濾過、吸引濾過、加圧濾過、遠心濾過などが挙げられる。一般には重力濾過が最も分離効率が悪く、加圧濾過及び遠心濾過が最も効率がよい。吸引濾過はその中間である。
しかしながら、本発明が目標とする分離効率を得るには何れの方法によって固液分離しても不十分であり、その後に水洗が必要である。そこで、後の水洗効率のことも考慮すると、スコロダイトを反応後液から分離する段階では濾過により得られたスコロダイトのケークにクラックが生じないようにすることが重要である。ケークにクラックが生じると、その後の水洗では、クラック部分の水の抵抗が小さくなるため、その部分を集中的に水が流れてしまい、洗浄むらが出来てしまうからである。
クラックを避けるには吸引濾過は行わない方がよく、重力濾過(自然濾過)するのが好ましい。加圧濾過でもクラックは入ることがあるが、縦型(ケークの加圧方向が垂直方向)のフィルタープレスを用いた場合にはクラックの発生を抑えることができる。縦型は、量によらず均一な厚さのケークとすることができるからである。横型フィルタープレス(ケークの加圧方向が水平方向)ではスラリーはチャンバーの下から満たされ、縦型フィルタープレスのように厚さの均一なケークを作ることが難しく、重力によって、ケークにクラックが入りやすい。そのためそのケークを水洗する際はケークの厚さの薄い部分や、クラックに集中的に水が流れてしまい、全体を均一に洗浄することが難しい(洗いむらができてしまう)。
【0031】
工程3
工程2によって、スコロダイトに付着していた反応後液は大部分が除去されるが、この段階におけるスコロダイトでは砒素の溶出性が国内処分場の基準値を下回らないことが多く、製品毎の溶出値のばらつきも大きい。従って、低溶出性のスコロダイトを安定的に得るためには、更に水洗処理を行って徹底的にスコロダイトから反応後液を分離することが重要である。
【0032】
工程3ではスコロダイトを水洗した後にスコロダイトを水洗液から固液分離により分離する。水洗によって水溶性の成分は洗い流され、その回数を重ねる毎にスコロダイトの砒素溶出性は徐々に低下する。スコロダイトからの砒素の溶出の大半は、スコロダイト自体からの溶出ではなく、反応後液の付着が原因だからである。
なお、スコロダイトの合成時に副産物として生成し得る非晶質のスコロダイトは水溶性が高いので、この徹底的な洗浄操作によって、反応後液と共に除去されていると考えられる。従って、洗浄操作は単に反応後液をスコロダイトから除去するのみならず、副生成した非晶質スコロダイトの除去する役割もある。
【0033】
水洗の方法は公知の任意の方法で行えば良く、特に制限はないが、洗浄操作の単位を明確にし、そして水洗後に水洗液中に含まれる各種反応後液成分の濃度を正確に測定できるようにするため、1回の水洗に使用する水量を定め、そして水洗に使用した後の洗浄液を全部取っておくのがよい。水洗に使用する水を掛け流しにしてそのまま排水してしまうと、洗浄操作の単位が不明確になり、また、単一の洗浄操作においても、開始と終了時によって水洗液中の反応後液成分の濃度が変化するため、スコロダイトを洗浄した後の洗浄液濃度を正確に把握できなくなってしまう。
【0034】
効率的な洗浄方法としては以下のような方法が挙げられる。
漏斗を用いて洗浄と濾過を連続的に実施する場合にはスコロダイトのケークにクラックが発生しないような洗浄方法が好ましい。クラックが入ると、洗浄効率に悪影響を与えるからである。漏斗を用いた濾過ではケーク上に水が存在する間、すなわちケークが水に完全に浸漬している間はクラックは発生しないが、水が途切れてケークが水面上に露出すると、ケークの体積が縮小してクラックが発生してしまう。そこで、水を途切れなく供給し、ケーク全体が洗浄水に覆われている状態(例:完全に浸漬している状態)を保つように濾過を行うのが望ましい。
また、水洗槽中にスコロダイトを投入して撹拌やリパルプ等を行った後に固液分離する方法も有効である。水洗液中に含まれる反応後液成分の濃度は固液分離した後の水洗液に対して測定すればよい。この際の固液分離の方法は工程2で上述した何れの方法を使用してもよく、クラックの発生は気にしなくてよい。
他の好ましい方法の一つは、フィルタープレスでスコロダイトのケークを作製し、フィルタープレス内で、洗浄水を供給後圧搾することにより、ケークを直に洗浄及び濾過する方法(例えばラロックス社製縦型フィルタープレスを用いた洗浄)がある。使用した洗浄水は後に分析できるようにその全部を適当な容器に貯めておくのが好ましい。この方法によれば、リパルプよりも簡便に洗浄濾過操作を行うことができる。縦型のフィルタープレスであればクラックも入りにくい。
【0035】
ところで、合成直後にスコロダイトに付着しているAsイオンの濃度はロット毎に変動し、固液分離後のスコロダイトケークの含水率もスコロダイトの粒径の違い等により変動することから、所望の溶出特性をもつスコロダイトを得るために必要な水洗の回数や洗浄水の量はロット毎に変動する。そのため、単に洗浄回数や洗浄水の量を定めて洗浄を行う方法では水洗が不十分であったり、逆に過剰であったりなどして、スコロダイトの品質にばらつきを生じさせることとなる。また、スコロダイトの溶出試験は6時間の振盪(しんとう)を要するため、洗浄毎にスコロダイトの溶出試験を行って洗浄の終点を見極めていたのでは手間がかかりすぎて実用性に欠ける。
【0036】
そこで、本発明では洗浄液中に含まれる反応後液成分の濃度が低下すればスコロダイトの溶出試験による砒素等の金属イオンの溶出値も低下するという関係を利用し、スコロダイトを洗浄した後の洗浄液中の反応後液成分、例えばAs、Cu、Fe及びSから選択される少なくとも1種の濃度を監視することによって、スコロダイトの溶出特性を制御する。
【0037】
洗浄液中に含まれる反応後液成分の濃度が高い間はスコロダイトの溶出試験によるAsの溶出値との相関も小さいが、反応後液成分の濃度が低下するにつれ、スコロダイトの溶出試験(環境省告示13号に準拠)によるAsの溶出値との相関が強くなっていき、洗浄液中に含まれる反応後液成分の濃度からスコロダイトの溶出試験によるAsの溶出値の予測性が高まる。例えば、1回の洗浄を、水量1L当たりスコロダイト100〜300g、より典型的には150〜250g(乾燥重量)の比率として行う場合、洗浄液中のAsイオン濃度が1mg/L程度にまで低下すると、スコロダイトの溶出試験によるAsの溶出値は概ねその1/10〜10倍の濃度となる。洗浄液中のAsイオン濃度が0.1mg/L以下にまで低下すると、スコロダイトの溶出試験によるAsの溶出値は概ねその1/3〜3倍、典型的には1/2〜2倍の濃度となる。
【0038】
そのため、わざわざスコロダイトの溶出試験を行わなくとも水洗液中の砒素濃度を分析すれば溶出値を推定できる。洗浄操作は固液分離も含めて1回につき10分程度ですむため短時間でスコロダイトの溶出特性を把握できる。現在の国内処分場におけるAs溶出基準値は0.3mg/L以下となっているので、これをスコロダイトの溶出試験によるAsの溶出値の目標とする場合、洗浄液中のAsイオン濃度の目標値を0.1mg/L以下、好ましくは0.05mg/Lに設定すれば当該溶出基準を満たすスコロダイトが高い確率で得られる。
【0039】
反応後液に含まれる他の成分の濃度推移からスコロダイトの溶出試験によるAsの溶出値を予測することも可能である。洗浄に使用する水量とスコロダイトの乾燥重量の比率を一定値に定めた上で、洗浄液中に含まれるAs濃度とAs以外の任意の反応後液成分の濃度との関係をプロットすれば、その反応後液成分の濃度の推移から洗浄液中に残存するAs濃度を推測することができる。そして、洗浄液中に残存するAs濃度が予測できればスコロダイトの溶出試験によるAsの溶出値も上述したように予測できる。このようにして、洗浄液中に残存する任意の反応後液成分について目標とすべき濃度を設定することが可能となる。
【0040】
水洗液中のAsイオン濃度は一般に1〜0.01mg/Lという低濃度で推移するため、砒素の分析にはICPなどの高度な分析機器が必要となる。また、砒素は感度が低く、発光強度が弱い低濃度分析には困難を伴う。そこで、より高い濃度で洗浄液中に含まれる反応後液成分を監視することで、濃度分析を簡単に行うことができるようになる。
【0041】
例えば電解沈殿銅の硫酸浸出液を酸性水溶液の原料として用いた場合のスコロダイト反応後液には、Cuイオンが高濃度で含まれるので、これを監視することができる。洗液中のCuイオン濃度は一般に100〜1mg/Lの範囲で推移し、砒素よりも高濃度である。更にICPでは銅は砒素よりも感度が高い。従って、銅の分析は砒素の分析に比べて容易である。
【0042】
更に、上記範囲の銅濃度ならば、銅アンモニア錯体を用いた目視による比色分析(半定量)が可能であることが知られている。比色分析法は希薄な銅溶液にアンモニア水を入れると、青色に強く発色し、その発色の強さを標準サンプルと比較して、銅濃度を(半)定量する方法である。この方法を使えば、スコロダイトの洗浄の終点をICPなどの高度な分析機器を使わずとも、簡単に判定できる。
【0043】
ある時点において洗浄液中に含まれるCuイオン濃度とAsイオン濃度が分かれば、Cuイオン濃度がn桁低下するとAs濃度も概ねn桁(n−1桁〜n+1桁の範囲)低下することから、例えば、ある時点における洗浄液中のAsイオン濃度が1mg/L、Cuイオン濃度が200mg/Lであるなら、Cuイオン濃度が2mg/Lにまで低下すればAsイオン濃度は0.1〜0.01mg/L程度まで低下する。そして、1回の洗浄を、水量1L当たりスコロダイト100〜300g、より典型的には150〜250g(乾燥重量)の比率として行う場合、上述したように、洗浄液中のAsイオン濃度が0.1mg/L以下にまで低下すると、スコロダイトの溶出試験によるAsの溶出値は概ねその1/3〜3倍、典型的には1/2〜2倍の濃度であると予測できる。従って、この場合、洗浄液中のCuイオン濃度が2mg/Lに低下したことから、スコロダイトの溶出試験によるAsの溶出値は0.3mg/L以下となることが予測できる。
【0044】
従って、スコロダイトの原料となる酸性水溶液として電解沈殿銅の硫酸浸出液を使用した場合には以下の一般的方法によって、水洗液中のCuイオン濃度の推移から水洗液中のAsイオン濃度の推移を把握することができる。すなわち、工程3をn回(n≧1)、典型的には1回実施した後の水洗液中に含まれるCuのイオン濃度とAsイオン濃度を測定し、その測定結果に応じて目標とすべきCuイオン濃度を設定した上で、スコロダイトの水洗に使用した水洗液中に含まれるCuのイオン濃度を該目標値以下に低下するまで繰り返す。
【0045】
また、上述したような好適な反応条件下でスコロダイトを製造した場合には、反応後液中のAsイオン濃度は0.1〜3g/L、より典型的には0.3〜1g/L、Cuイオン濃度は10〜60g/L、より典型的には20〜40g/Lである。このような条件下で、1回の洗浄を、水量1L当たりスコロダイト100〜300g、より典型的には150〜250g(乾燥重量)の比率として行う場合、スコロダイトからの砒素溶出量を0.3mg/L以下にするためには、洗浄液中の銅濃度を10mg/L以下、好ましくは5mg/L以下にすればよいことが経験的に分かっている。反応後液中の砒素及び銅の比率が大幅に異なる場合は、Cuイオン濃度の目標値を見直せばよい。
【0046】
銅がスコロダイト洗浄後の水洗液中に主成分として含まれない場合は、他の主成分、例えば鉄、硫黄(硫酸根として含まれる)の水洗液中の濃度推移から、同様にスコロダイトの洗浄終点を判定することも可能である。
【0047】
以上をまとめると、工程3のポイントは、スコロダイトの水洗に使用した水洗液中に含まれる反応後液成分の濃度とスコロダイトの砒素溶出特性を関連付けたことにある。水洗液中に溶け出した反応後液成分の濃度を監視することによって間接的にスコロダイトの砒素溶出特性を把握することができ、洗浄の終点も簡便に判定できるのである。具体的には水洗液中に含まれる少なくとも1種の反応後液成分の濃度が予め設定した値以下に低下した場合にスコロダイトの洗浄を終了することができる。
工程1の酸性水溶液として電解沈殿銅の硫酸浸出液を使用した場合には、水洗液中に含まれる反応後液成分として監視するのに好ましいのはCu、S、Fe及びAsのイオンであり、より好ましいのはCuイオンである。
【0048】
電解沈殿銅の硫酸侵出液
スコロダイトの原料として好適な電解沈殿銅の硫酸浸出液は例えば以下のように得ることができる。
まず、電解沈殿銅に対して水洗処理を随意的に行う。水洗処理は電解沈殿銅を水でリパルプし、0.5〜6時間撹拌して、電解沈殿銅の製造時に付着した電解液(硫酸銅、Ni、Fe等を含む)や、電解沈殿銅に含まれる微量のNi及びFe等を溶解させた後に、スラリーを濾過し、固液分離することで実施することができる。この工程では電解沈殿銅からFe及びNiの大部分を分離することができる。
しかしながら、この操作は、電解沈殿銅中の銅量の中で、硫酸銅を排除した0価の(水に溶解しない)銅量を明らかにして、次工程で行う電解沈殿銅の硫酸浸出に必要な硫酸量をより正確に求めるために行うことを主目的とする操作である。NiやFe等の微量元素を特に気にしない場合や、硫酸銅の含有量が既知であったり電解沈殿銅への電解液の持込が少なかったりする場合は、この工程を行う必要はない。
【0049】
随意的に水洗処理を行った後、硫酸酸性中の電解沈殿銅に酸素含有ガスを導入しながら、電解沈殿銅中に含まれるAs成分を5価に酸化するのに充分な液温及び時間で該溶液を撹拌して硫酸浸出を行い、次いでSb成分及びBi成分を含有する浸出残渣と5価のAs成分を含有する硫酸浸出液に固液分離する。
【0050】
このときに起きる浸出反応は一般に次式に従い、CuはCu2+まで、AsはAs5+まで酸化される。
Cu+H2SO4+1/2O2 → CuSO4+H2O ・・・(1)
2As+5/2O2+3H2O → 2H3AsO4 ・・・(2)
硫酸使用量は、Cu量に対し好ましくは1.0〜1.2当量である。1.0当量未満の場合浸出液が弱酸性になり、Cu3AsO4等の沈殿物が生成しCu、Asの浸出率が低下する。1.2当量を超える場合は、Cu、Asの浸出率に影響しないが、使用硫酸量が多くなる。Cu、Asの硫酸溶液中の濃度は特に制限はないが、溶解度を越えるとCu、Asの浸出率が低下するので、Cu2+、As5+の溶解度以下が好ましい。
また、その後に合成する結晶性スコロダイトの生成に適したpHは1.0〜1.5であるが、硫酸濃度が低いと硫酸浸出の効率、すなわち銅や砒素の回収効率が低下する傾向にあるので、硫酸浸出時に使用する硫酸の濃度はpHが1未満となるような濃度であるのが好ましい。また、硫酸浸出液のpHが1以上であったとしても、スコロダイトを合成する際に添加する3価の鉄は酸性水溶液の形態で提供されるのが好ましく、例えば、硫酸第二鉄水溶液やポリ硫酸第二鉄水溶液のpHは0.6程度である。
【0051】
硫酸浸出では、Asを5価に酸化するために、例えば70〜95℃で4.5〜11時間、好ましくは80〜95℃で7〜11時間撹拌すればよい。硫酸浸出は発熱反応であるため特に外部から加熱しないで行うことも可能である。撹拌時間は更に長く行っても良く、経済性と効果との兼ね合いで適宜決定すればよい。
Asの酸化効率を高めるためには、導入する酸素含有ガスの気泡を細かくして充分な量(例えば銅に対して酸素10当量/7時間)供給した方がよい。そこで、撹拌を激しく行うのが好ましく、例えば酸素含有ガスの導入及び/又は撹拌はジェット噴射により行うのが好都合である。この値は、ジェット噴射(「ジェットアジター」商品名)場合であり、通常のタービン翼を用いた撹拌機の場合反応効率は低下し、酸素含有ガス量をこの3.5倍以上導入しても、2倍以上の反応時間が必要となる。この段階でAsの価数制御を行うことで、後のスコロダイト生成が容易となる。また、Cu2+もAsの酸化を促進する効果がある。
【0052】
酸素含有ガスとしては上記反応に有意な悪影響を与えない限り特に制限はないが、例えば純酸素、酸素と不活性ガスの混合物を使用することができる。取扱い性やコストの観点からは空気とするのが好ましい。
【0053】
このようにして得られた電解沈殿銅の硫酸浸出液に3価の鉄を添加することで、5価のAsと3価のFeを含有する酸性水溶液が得られる。この場合、3価の鉄としては、酸化鉄、硫酸鉄、塩化鉄、水酸化鉄等が挙げられるが、3価の鉄は水溶液中での反応を行う観点から酸性水溶液の形態で提供されるのが好ましく、脱鉄後液を電錬の電解液に戻す事が最も有効である観点から硫酸第二鉄(Fe2(SO43)の水溶液の形態で提供されるのが好ましい。また、廃水処理等で使用される、ポリ硫酸第二鉄水溶液も使用可能である。
3価鉄の使用量はAsを除去するという観点からは、As量に対して1.0当量以上必要であり、経済的な観点から1.1〜1.5当量であるのが好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を記載するが、本発明はそれらに限定されることはない。
【0055】
実施例1
<電解沈澱銅の硫酸浸出液の製造>
電解沈澱銅418g(乾重量)に98%の濃硫酸を259g(電解沈澱銅に含まれる銅に対して1当量。)加え、更に水を加えて、スラリー量を1.85L(スラリー濃度256g/L)とした。4L/分で空気を導入しながら、7時間撹拌して浸出した。反応効率を高めるためには、導入する空気の気泡を細かくすることが有効であるため、空気の導入、撹拌にはジェットアジター(SHIMAZAKI社製 JET AJITER)を使用した。尚、液温はウォーターバスにより80℃に制御した。浸出終了時の銅濃度は約90g/Lで、室温での溶解度50g/L程度を超えていた。硫酸銅5水塩を析出させないために3.5Lまで水で希釈した。その後、硫酸浸出濾過後液(硫酸浸出液)と硫酸浸出残渣をブフナー漏斗を用いた吸引濾過によって固液分離した。得られた硫酸浸出液、硫酸浸出残渣の物量を表1に示す。
上記の操作を2バッチ分行い、得られた硫酸浸出濾過後液を混合した。それを次のスコロダイト結晶の合成に用いた。
【0056】
【表1】

【0057】
<スコロダイト結晶の合成>
上で得られた電解沈澱銅の硫酸浸出液(pH0.86)6.95Lに、日鉄鉱業社製ポリ硫酸第2鉄(以下ポリ鉄)1.112Lを加えた。pHは0.59となった。その後、加熱中に液量を8.1Lに調整しながら95℃まで加熱し、24時間スコロダイトの合成を行った。加熱中、蒸発によって液量が減り過ぎないように、適宜水を追加して8.1Lに維持した。スコロダイトの合成終了後に、スコロダイト結晶をブフナー漏斗で自然濾過し、クラックが発生しないように注意しながら固液分離した。得られたスコロダイト結晶及び結晶濾過後液(反応後液)の物量を表2に示す。
なお、反応後液からスコロダイを分離した時点におけるスコロダイトからの砒素の溶出値をみるために、上記と同様の条件で別途スコロダイトを製造した。該スコロダイトに対する砒素の溶出試験(環境省告示13号に則った試験)の結果は、砒素の溶出が7mg/Lであり、銅の溶出が1200mg/Lであった(表3参照)。
【0058】
【表2】

【0059】
<スコロダイトの洗浄>
引き続き、ブフナー漏斗上のスコロダイトケーク(756.5g湿重量、605g乾重量相当)の上に500mLの水で6回(計3L)洗浄した。濾過は自然濾過(重力濾過)とし、前述のとおりケークにクラックを入れて洗浄むらが発生しないように、スコロダイト結晶が洗浄水中に浸漬されている状態が維持されるよう洗浄水を途切れなく注いで、細心の注意を払い洗浄効果の低下を防いだ。最終的に、洗液からは銅イオンの青い色は消え、無色透明であることを確認した(従来は、洗浄はこれで十分であると考えていた。)。そのスコロダイトの一部を用いて、砒素の溶出試験(環境省告示13号に則った試験)を行ったところ、砒素の溶出は0.21mg/Lであり、銅の溶出は170mg/Lであった(表3参照)。その後、ブフナー漏斗上のスコロダイト338.4gを分取し、3Lのビーカに入れ、水を2L加え、10分間リパルプ、撹拌した。その後これを吸引濾過し、固液分離した。
この、リパルプ、撹拌、固液分離の操作を10回繰り返し、それぞれの濾過液(洗浄液)中の砒素及び銅の残留濃度をICPで分析した。分析値を表4、図1に示す。更に、この10回の操作を終了したスコロダイトに対して、砒素の溶出試験(環境省告示13号)を行ったところ、砒素の溶出は0.05mg/Lであり、銅の溶出は6.6mg/Lであった(表3参照)。
【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

【0062】
実施例2
<電解沈澱銅の硫酸浸出液の製造>
電解沈澱銅742g(乾重量)に98%の濃硫酸を702g(電解沈澱銅に含まれる銅に対して1.1当量。)加え、更に水を加えて、スラリー量を2.7L(パルプ濃度274g/L)とした。5L/分で空気を導入しながら、13.5時間撹拌して浸出した。反応効率を高めるためには、導入する空気の気泡を細かくすることが有効であるため、空気の導入、撹拌にはジェットアジター(SHIMAZAKI社製 JET AJITER)を使用した。尚、液温はウォーターバスにより80℃に制御した。浸出終了時の銅濃度は約150g/Lで、室温での溶解度50g/L程度を超えていた。硫酸銅5水塩を析出させないために8Lまで水で希釈した。その後、硫酸浸出濾過後液(硫酸浸出液)と硫酸浸出残渣を濾過によって固液分離した。得られた硫酸浸出液、硫酸浸出残渣の物量を表5に示す。得られた硫酸浸出濾過後液を次に示すスコロダイト結晶の合成に用いた。
【0063】
【表5】

【0064】
<スコロダイト結晶の合成及び洗浄>
上で得られた電解沈澱銅の硫酸浸出液(pH1.02)8.08Lに、日鉄鉱業社製ポリ硫酸第2鉄(以下ポリ鉄)1.15Lを加えた。pHは0.74となった。その後、加熱中に液量を9.3Lに調整しながら95℃まで加熱し、24時間スコロダイトの合成を行った。加熱中、蒸発によって液量が減り過ぎないように、適宜水を追加して9.3Lに維持した。硫酸浸出液と硫酸第2鉄溶液を室温で混ぜ合わせた直後は、反応は進行しないが、加熱に伴い、85℃でスコロダイトの生成が観察された。スコロダイトの合成終了後に、スコロダイト結晶をブフナー漏斗で吸引濾過し、固液分離した。得られたスコロダイト結晶及び結晶濾過後液の物量を表6に示す。
【0065】
【表6】

【0066】
スコロダイト結晶に水を加えて、パルプ濃度約200〜250g/Lにリパルプし、10分間撹拌した後に濾過をし、スコロダイトと洗浄液に分離した。この操作を4回繰り返した。濾過は、実施例1と同様にケークにクラックが生じないように重力濾過とした。それぞれの洗液は、銅アンモニア錯体による比色法で、測定した。比色分析は以下の手順で行った。蓋つきの100mLの透明なガラス瓶に、スコロダイトを水洗した後の水洗液を約90mL採取し、25%アンモニア水(試薬)を約10mL添加し、撹拌して銅アンモニア錯体を生成させて発色させた。銅濃度が既知な銅標準液(例えば、50、20、10、5、1、0mg/L)についても同様に銅アンモニア錯体を生成、発色させ、銅標準液との発色の比較により試料の銅濃度を(半)定量した。
1回目の水洗液は銅イオンに青色が観察されたので、50mg/Lを大きく超えていると判断して、測定しなかった。2回目は30mg/L、3回目は7mg/L、4回目は7mg/Lであった。以上の洗浄の後、スコロダイトからの砒素の溶出試験を3回行った。溶出値は0.09、0.08、0.04mg/Lであり、溶出は少なく、安定していた。
【0067】
同様の条件で、電解沈澱銅の浸出−スコロダイト合成−スコロダイト洗浄の一連の操作を合計8回実施した。洗液中の銅濃度が10mg/L以下となることを(銅アンモニア錯体による)洗浄終了の判断とした。洗液中の銅濃度が10mg/L以下となるまでの洗浄回数はバッチ間でばらつきがあり、4〜7回であった。それぞれの溶出値を表7(右側)に示す。砒素の溶出値は平均0.05mg/L、標準偏差0.03mg/Lと少なく、安定している。
【0068】
【表7】

【0069】
実施例3
実施例2と同様の方法で合成したスコロダイト3.14kg(湿量、乾量換算2.59kg)をラロックス社製縦型フィルタープレス(型式:濾過試験装置PF 0.1型)で濾過し、その後圧搾し固液を分離してスコロダイトのケークとした。引き続きフィルタープレスのチャンバー内にあるケークに8Lの水を流し洗浄、圧搾した。この操作を4回繰り返した。それぞれの洗液は実施例2と同様に銅濃度を比色分析で定量した。1回目の洗液は測定しなかった。2、3、4回目の洗液はそれぞれ50、10、1mg/Lとなった。以上の洗浄後、ヒ素の溶出値は0.06mg/Lであった。これによって、フィルタープレスでも銅による洗浄終点の判定方法は有効であることが実証された。
【0070】
比較例1
<電解沈澱銅の硫酸浸出>
実施例1と同様の方法で電解沈澱銅から硫酸浸出液を得、次のスコロダイト結晶合成の原料とした。
【0071】
<スコロダイト結晶の合成方法及び洗浄>
電解沈澱銅の硫酸浸出液(pH1.03)1.24Lに、日鉄鉱業社製ポリ硫酸第2鉄(以下ポリ鉄)0.265Lを加えた。pHは0.61となった。その後、加熱中に液量を1.5Lに調整しながら95℃まで加熱し、24時間スコロダイトの合成を行った。加熱中、蒸発によって液量が減り過ぎないように、適宜水を追加して1.5Lに維持した。スコロダイトの合成終了後に、スコロダイト結晶をブフナー漏斗で自然濾過し、クラックが発生しないように注意しながら固液分離した。得られたスコロダイト結晶及び結晶濾過後液の物量を表8に示す。
【0072】
【表8】

【0073】
引き続きブフナー漏斗上のスコロダイトケーク(220.9g湿重量、163g乾重量相当)の上に160mLの水で5回(計0.8L)洗浄した。濾過は、実施例1と同様にケークにクラックが生じないように重力濾過とした。スコロダイト合成終了後、最終的に、洗液からは銅イオンの青い色は消え、無色透明であることを確認した。そのスコロダイトを用いて、砒素の溶出試験(環境省告示13号に則った試験)を2回行ったところ、砒素の溶出は0.2、0.5mg/Lであった。
同様の条件で、電解沈澱銅の浸出−スコロダイト合成−スコロダイト洗浄の一連の操作を合計13回実施した。それぞれは最終的に、洗液からは銅イオンの青い色は消え、無色透明であることを確認した。それぞれの溶出値を表7(左側)に示す。平均0.4mg/L、標準偏差0.4mg/Lと溶出値、ばらつき共に大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
・5価のAsと3価のFeを含有する酸性水溶液を結晶性スコロダイトの合成に有効な温度及び時間加熱する工程1と、
・合成されたスコロダイトを反応後液から固液分離によって分離する工程2と、
・その後に、スコロダイトを水洗した上でスコロダイトを水洗液から固液分離により分離する工程3と、
を行うことを含むスコロダイトの製造方法であって、
工程1の酸性水溶液の原料として電解沈殿銅の硫酸浸出液を使用し、工程3は、第n回目(n≧1)の工程3を実施した後の水洗液中に含まれるCu、S及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種の反応後液成分の濃度とAsイオン濃度を測定し、その測定結果に応じて目標とすべき該反応後液成分の濃度を設定した上で、スコロダイトの水洗に使用した水洗液中に含まれる該反応後液成分の濃度測定値が該目標値以下に低下するまで繰り返すことを含む方法。
【請求項2】
・5価のAsと3価のFeを含有する酸性水溶液を結晶性スコロダイトの合成に有効な温度及び時間加熱する工程1と、
・合成されたスコロダイトを反応後液から固液分離によって分離する工程2と、
・その後に、スコロダイトを水洗した上でスコロダイトを水洗液から固液分離により分離する工程3と、
を行うことを含むスコロダイトの製造方法であって、
工程1の酸性水溶液の原料として電解沈殿銅の硫酸浸出液を使用し、工程3は、洗浄に使用する水量とスコロダイトの乾燥重量の比率を一定値に定めた上で、水洗液中に含まれるAs濃度測定値とCu、S及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種の反応後液成分の濃度測定値との関係をプロットし、該反応後液成分の濃度測定値の推移から洗浄液中に残存するAs濃度を推測し、スコロダイトの水洗に使用した水洗液中に含まれる該反応後液成分の濃度測定値から推定されるAsのイオン濃度が0.3mg/L以下に低下するまで繰り返すことを含む方法。
【請求項3】
前記少なくとも1種の反応後液成分の濃度はCuイオン濃度である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
・5価のAsと3価のFeを含有する酸性水溶液を結晶性スコロダイトの合成に有効な温度及び時間加熱する工程1と、
・合成されたスコロダイトを反応後液から固液分離によって分離する工程2と、
・その後に、スコロダイトを水洗した上でスコロダイトを水洗液から固液分離により分離する工程3と、
を行うことを含むスコロダイトの製造方法であって、
工程1の酸性水溶液の原料として電解沈殿銅の硫酸浸出液を使用し、反応後液中のAsイオン濃度を0.1〜3g/L、Cuイオン濃度を10〜60g/Lとし、工程3は1回の洗浄を、水量1L当たりスコロダイト100〜300g(乾燥重量)の比率として行い、スコロダイトの水洗に使用した水洗液中に含まれるCuイオン濃度を測定し、測定されたCuイオン濃度が10mg/L以下に低下するまで繰り返すことを含む方法。
【請求項5】
スコロダイトの水洗に使用した水洗液中に含まれるCuイオン濃度分析を比色分析法により行う請求項3又は4記載の製造方法。
【請求項6】
工程3の水洗はスコロダイトに水を加えた後にリパルプ及び撹拌を行うことにより実施する請求項1〜5何れか一項記載の製造方法。
【請求項7】
工程2は漏斗上での自然濾過により実施し、工程3は漏斗上に設置したスコロダイト上に洗浄水を注ぎ、洗浄水を注いでいる間はスコロダイト全体が洗浄水で覆われている状態を保つことを含む重力又は吸引濾過により実施する請求項1〜6何れか一項記載の製造方法。
【請求項8】
工程3は縦型のフィルタープレス内にスコロダイトを配置した上で洗浄水を供給した後に圧搾を行うことにより実施する請求項1〜7何れか一項記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−100524(P2010−100524A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13238(P2010−13238)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【分割の表示】特願2007−275070(P2007−275070)の分割
【原出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】