説明

スタッド溶接ガン用治具

【課題】スタッド溶接時に発生する火花や溶融金属等の飛散を防止すると同時に爆風と爆音を低減することが可能なスタッド溶接ガン用治具を提供する。
【解決手段】上層の中空円筒状本体にあっては硬質材で形成されてなり、その一端が溶接ガンに装着できるようにあり、そして中空円筒体1の周壁部には複数個のガス抜き穴2を備えており、そしてそのガス抜き穴を塞ぐように耐熱・耐火性のフィルター3が貼設されてなるイ部と、下層の中空円筒状本体6にあっては弾性材で形成されてなり、その他端が母材面に密接できるようにあり、溶接時の溶接ガンの押し圧に追随して中空円筒体が屈伸変形されてなるロ部とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタッド溶接時に発生する火花や溶融金属等の飛散を防止すると同時に爆風や爆音を低減させる治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、溶接装置本体と溶接ガンとの組合せから成るコンデンサ放電溶接装置を利用してスタッド溶接を行う方法は、取扱いの簡便性や作業性の良さ等の点から種々の分野で広く利用されている。この種の溶接方法は溶接ガンに装着したスタッドと母材との間に溶接電流を流してアークを発生させ、スタッドと母材を溶着させるのである。従って、アーク発生時に火花や溶融した金属の飛散、それに大きな爆風と爆音が伴うことは避けられない。これらの現象は室内等の作業現場では、重大な問題を生じさせることになる。特に、作業現場の周囲に可燃性のものが存在していた場合の火災の危険や、天井に向かっての作業等の場合には作業者が火の粉を浴びて火傷する危険がある。
【0003】
このような問題点を解決するものとして、一端を溶接ガンに装着できるようにされ、他端が溶接ガンに装着した溶接すべきスタッドの先端とほぼ同じ平面までのびる電気絶縁性の中空円筒状本体の外周面に、中空円筒状本体の内側に連通した消音マフラーと、耐熱性透明部材からなる窓部とを設けたことを特徴とするスタッド溶接用治具が提案されている。(特許文献1を参照)
【0004】
このスタッド溶接用治具によれば、従来解放式でおこなってきたものを閉鎖式とすることと、これに消音マフラーを装着することによってアーク発生時に生じる火花や溶融した金属の飛散を防止すると供に騒音の発生を低減することができたとある。
【特許文献】特開平5−237660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような従来公知のスタッド溶接用治具は、アーク発生時に生じる火花や溶融した金属の飛散防止や騒音を低く抑える点では、ある程度の効果が認められる場合もあるが、認められない場合も起こり得る。
【0006】
即ち、スタッド溶接とは、前記したように溶接ガンに装着したスタッドと母材との間に瞬時に超高電圧の溶接電流を強制的に流すわけである。そしてスタッドの先端にアークを発生させて、スタッド先端で起こる金属溶融でもってスタッドと母材を溶着させるわけで、当然、スタッド先端で溶融した金属の溶融量だけスタッドの全長は溶けて短くなる。溶融量の度合いはスタッドの太さや先端の形状など諸々な条件によってそれぞれに異なる。
【0007】
ところで、特許文献が示すようなスタッドの先端とほぼ同じ平面までのびる中空円筒状本体を溶接ガンに装着した場合、例えば、中空円筒状本体の長さが長すぎて邪魔をした場合、スタッド先端と母材とが接触不良の状態となりやすい。このような条件下でスタッド先端にアークを発生させて、中空円筒状本体の作用で火花を飛散させることなく溶着できたとしても、金属の溶融量が不足して疑似溶着となりやすく強力な溶着は難しい。一方、スタッドの先端が中空円筒状本体からはみ出し、母材と中空円筒状本体との間に少しでも間隙が生じる状態でアークを発生させた場合、スタッドは母材に溶着できても火花や溶融金属の飛散はおろか爆風、爆音は防ぐことができず、冶具が目的とするところの効果は得られない。
【0008】
そこで本発明の目的は、上述したようなスタッド溶接に伴う火花や溶融金属の飛散や爆風、爆音の問題を完全に解決し、スタッドを母材に確実に溶着できるスタッド溶接用治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明によるスタッド溶接用治具は、イ部とロ部の上下二層の中空円筒状本体からなるスタッド溶接用治具Aにあって、上層の中空円筒状本体にあっては電気絶縁性と耐熱性を有する硬質材で中空円筒体に形成されてなり、その一端が溶接ガンに装着できるようにあり、その中空円筒体の周壁部には複数個のガス抜き穴を備えており、そしてそのガス抜き穴を塞ぐように通気性を有するフィルターが貼設されてなり、下層の中空円筒状本体にあっては電気絶縁性と耐熱性を有する弾性材で中空円筒体に形成されてなり、その他端が母材に密接できるようにあり、その母材密接周縁部が溶接ガンに装着されたスタッドの先端の表面よりも長尺の中空円筒体で保たれてなり、そして溶接時の溶接ガンの押し圧に追随して弾性の中空円筒体が屈伸変形されることを特徴とするスタッド溶接ガン用治具にある。
【0010】
また、その下層の中空円筒状本体にあっては、母材密接周縁部の周縁口径に対しより広い口径の側縁リブが母材密接周縁部の近傍に形成されてなるスタッド溶接ガン用治具にある。
【0011】
更には、その下層の中空円筒状本体の中空円筒体周壁部にあっては、側縁リブの位置から上層の中空円筒状本体との接合軸方向に向けて絞込みテーパが形成されてなるスタッド溶接ガン用治具にある。
【0012】
前記、上層の中空円筒状本体にあっては、電気絶縁性と耐熱性を有する硬質プラスチック材など目的に適合する材料から適宜に選択して硬質の中空円筒体に形成することで足りる。例えば、好ましい材料としては、ABS樹脂、 、および などが挙げられる。
【0013】
その上層の中空円筒状本体にあっては、その一端に溶接ガンが装着できるように中央に孔のある上蓋で閉じられる。上蓋は上層の中空円筒状本体と同質材で形成されることが好ましく、上蓋と該中空円筒状本体との接合にあっては、ネジ込み固定や嵌め込み固定などが適宜に選択できる。
【0014】
更に、上層の中空円筒状本体にあっては、その中空円筒体の周壁部には複数個のガス抜き穴が設けてなる。このガス抜き穴はスタッド溶接で発生する爆風がさほど抵抗なく外に抜きでる程度の面積が得られておれば足りる。
そして、ガス抜き穴には、中空円筒体のガス抜き穴を完全に覆い塞ぐように通気性のあるフィルターが貼設されてなる。このフィルターにあっては、通気性を有することが必要であり、耐火性と衝撃吸収性のある膜状または不織布状のものが好適である。例えば、好ましい材料としては溶接火花受けの防御シート、などが挙げられる。
【0015】
次に、下層の中空円筒状本体にあっては、電気絶縁性と耐火性を有する弾性材などから目的に適合する材料を適宜に選択して弾性の中空円筒体に形成することで足りる。例えば、成型性と屈伸性に優れたシリコン系ゴム材等の他、 、目的に適う材料から適宜に選択したもので成形される。
【0016】
そして、弾性の中空円筒体は溶接ガンに装着されたスタッドの先端の表面よりも長尺の空中円筒体に保たれており、溶接時の溶接ガンの押し圧動作に追随して弾性の中空円筒体が屈伸変形して、アーク発生において常に母材密接周縁部が母材に密接するように保たれてなる。溶接ガンの押し圧動作、即ち、溶接ガンの屈伸動作に追随して弾性の空中円筒体が屈伸変形される。この時、母材に向けての溶接ガンの押し圧は、上層の硬質の中空円筒状本体を介し下層の弾性の中空円筒状本体に伝わり、溶接ガンの押し圧に追随して弾性の中空円筒体が屈伸変形して、常に母材密接周縁部が母材に密着する状態が保たれる。
【0017】
更には、その弾性の中空円筒体にあっては、母材密接周縁部の周縁口径に対しより広い口径の側縁リブが、母材密接周縁部の近傍に形成されることにより、溶接ガンの押し圧が、側縁リブの作用で母材密接周縁部を内巻き方向に屈伸変形される。更なる押し圧が加わると側縁リブ自体も屈伸変形して母材に接し、弾性の中空円筒体にあっては重ねて母材との密接力が強化される。
【0018】
更には、その弾性の中空円筒体の周壁部にあっては、側縁リブの位置から上層の中空円筒状本体との接合軸方向に向けて絞込みテーパが形成されることにより、溶接ガンの押し圧で中空円筒体周壁部を屈伸変形にて凸状に膨らませて、そして、アークで発生する瞬時の爆風を屈伸変形で和らげられる。この絞込みのテーパ角は、リブの平面に対し内角70〜85度程度に保持されることが効果的である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によるスタッド溶接用治具Aにおいては、硬質の中空円筒体の周壁部に設けてなるガス抜き穴と、この穴を塞ぐフィルターの貼設で、アーク時に発生する中空円筒状本体内での爆風と爆音は有効にハウジング外に吐き出され実質的に低減させることができる。
【0020】
特に、弾性の中空円筒体からなる下層の中空円筒状本体が、溶接ガンに装着されたスタッドの先端の表面より長尺に保たれるように構成されることで、スタッドの先端が中空円筒体からはみ出すこともなく、常に溶接しようとするスタッドと母材との周辺を完全に包囲されることになり、安心してスタッドを溶接することができる。そして溶接時の溶接ガンの押し圧に追随して母材密接周縁部が屈伸変形して、側縁リブが屈伸変形して、中空円筒周壁部のテーパも屈伸変形して、これら連動する屈伸変形によって、母材密接周縁部と母材との密接度が強化され、アーク時に発生する火花や溶融金属等の飛散や爆風・爆音が周辺に飛び散ることなくハウジング内に留めて、ガス抜き穴より排出され、アーク発生によって生じる諸問題を実質的に減少できる。このことは安全な溶接作業を行う上で極めて有用であり実用的である。
因みに、スタッド溶接におけるアーク発生時の瞬時の爆風は500ccの空気量が20m/秒でのスピードで走るともいわれている。本発明はこの強烈な爆風を伴った火花や溶融金属の飛散を完全に防止することができる。
【発明の実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施例を添付する図面を参照して説明する。図1は本発明のスタッド溶接用治具Aを示す。そして図2はそのスタッド溶接用治具Aにスタッドおよび溶接ガンが装着された状態を示す。図1、2が示すようにスタッド溶接用治具Aは、イ部の上層の中空円筒状本体とロ部の下層の中空円筒状本体との上下2層からなる中空円筒状本体からなる。1は電気絶縁性と耐火性を有する硬質プラスチックで形成されてなる硬質の中空円筒体である。そして一端は溶接ガン10に装着できるように中央に孔4のある上蓋5で閉じられる。硬質の中空円筒体1の円筒周壁部には複数のガス抜き穴2が設けてなる。そして、その周壁部のガス抜き穴2の全てを覆い塞ぐように通気性を有する耐火性と衝撃吸収性のある防火布がフィルター3として貼りつけられてなる。そしてイ部の他端はロ部の一端と勘合されてなる。
【0022】
6は前記の硬質の中空円筒体1と異なり電気絶縁性と耐火性を有する弾性体で形成されてなる弾性を有する中空円筒体である。そしてこの弾性の中空円筒体6の他端7は母材Bに密接できるようにある。そして弾性の中空円筒体6は、溶接ガン10に装着されるスタッド11のスタッド先端12の表面よりも長尺に保たれてなる。これによってスタッド先端12を含むスタッド11と溶接ガン10は、硬質の中空円筒体1と弾性の中空円筒体6により構成するハウジングにより包囲されてなる。
【0023】
図3は、母材Bにスタッド11が溶接される時の状態を概念的に説明するものである。溶接に際し、スタッド11を溶接ガン10で母材Bに接触させることで弾性のシリコンゴム中空円筒体6の母材密接周縁部7が母材Bと密接される。そして溶接ガン10の押し圧動作に追随して母材密接周縁部7が内向きに巻き込まれるように屈伸変形される。更なる溶接ガンの押し圧動作で、側縁リブ8が母材Bに向けて屈伸変形されて母材Bに密接して、弾性のシリコンゴム中空円筒体6と母材Bとの密接度が更に強化される。この一連の屈伸変形は母材Bと密接する母材密接周縁部7の口径に対しより広い口径部を有する側縁リブ8を母材密接周縁部7の近傍に設けることによる作用の働きによるものである。
【0024】
更には、中空円筒体周壁部9にあっては、側縁リブ8の位置から硬質のアルミ中空円筒体1との接合軸方向に向けて絞込みテーパが形成されることにより、溶接ガンの押し圧が中空円筒体周壁部9を屈伸変形にて凸状に膨らませて、そして、アークで発生する瞬時の爆風を屈伸変形で受けて和らげる。このときの絞込みのテーパ角は、リブの平面に対し内角77.5度はである。
この結果、スタッドピン先端12で発生する火花や溶融した金属の飛散とこれに伴う強烈な爆風と爆音は、母材Bのところで漏れることなく、図中の矢印が示すように弾性の中空円筒体6と硬質の中空円筒体のハウジング内を通過してガス抜き穴2から放出されて、目的の火花の飛散防止と爆風、爆音が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明によるスタッド溶接用治具の一実施例を示す側面断面図。
【図2】本発明のスタッド溶接用治具に溶接ガンを装着した状態を示す側面断面図。
【図3】母材にスタッドが溶接される際の状態を概念的に示す説明断面図。
【符号の説明】
【0026】
A・・・・スタッド溶接用治具
イ・・・・上層の中空円筒体
ロ・・・・下層の中空円筒体
1・・・・硬質の中空円筒体
2・・・・ガス抜き穴
3・・・・フィルター
4・・・・孔
5・・・・上蓋
6・・・・弾性の中空円筒体
7・・・・母材密接周縁部
8・・・・側縁リブ
9・・・・中空円筒体周壁部
10・・・・溶接ガン
11・・・・スタッド
12・・・・スタッドピン先端
B・・・・母材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イ部とロ部の上下二層からなる中空円筒状本体からなり、
上層の中空円筒状本体にあっては耐熱・耐火性を有する硬質材で中空円筒体に形成されてなり、その一端が溶接ガンに装着できるようにあり、そして中空円筒体の周壁部には複数個のガス抜き穴を備えており、そのガス抜き穴を塞ぐように通気性を有するフィルターが貼設されてなるイ部であり、下層の中空円筒状本体にあっては電気絶縁性と耐熱・耐火性を有する弾性材で中空円筒体に形成されてなり、その他端が母材に密接できるようにあり、その母材密接周縁部が溶接ガンに装着されたスタッドの先端の表面よりも長尺の中空円筒体で保たれており、溶接時の溶接ガンの押し圧に追随して弾性の中空円筒体が屈伸変形されてなるロ部、とからなることを特徴とするスタッド溶接ガン用治具。
【請求項2】
下層の中空円筒状本体にあっては、母材密接周縁部の周縁口径に対しより広い口径の側縁リブが、母材密接周縁部の近傍に形成されてなるロ部であることを特徴とする請求項1に記載のスタッド溶接ガン用治具。
【請求項3】
下層の中空円筒状本体にあっては、中空円筒体周壁部が、側縁リブの位置から上層の中空円筒状本体との接合軸方向に向けて絞込みテーパが形成されてなるロ部であることを特徴とする請求項1に記載のスタッド溶接ガン用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−35058(P2013−35058A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184140(P2011−184140)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(594077367)一文機工株式会社 (17)