説明

スタッド溶接ピン

【課題】建築物の内壁や空調設備、機械設備などの構築物の外面に対して、耐火断熱材、防音材、保温材などの被覆材、特に硬質の被覆材を取付けて固定させるために有用なスタッド溶接ピンを提供する。
【解決手段】導電性を有する金属線材であって、これを渦巻き状に複数回巻きつけて形成する渦盤状の頭部において、頭部外周部に対し頭部中心部を凸状に形成して変移吸収機能を保持せしめ、且つ、該頭部中心部の金属線材先端を球心垂直方向に系下させてロッド状のピン部を一体に形成してなるスタッド溶接ピンにある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一般に、建築物の内外壁や空調設備、機械設備などの鉄鋼材からなる構築物の外面に対し、その表面は耐火断熱材、防音材、保温材などの被覆材が取付けられ固定されている。本発明は、広範囲にわたる被覆材の取付けに適応するスタッドピンを提供することにある。
【背景技術】
【0002】
従来から、空調設備、機械設備などの鉄鋼材からなる構築物の外面に対し、その外面は断熱効果や防音効果の向上、さらにはその外面の保護を図る目的で、グラスウール、ロックウールなどからなる所望の被覆材が取付けられ固定されている。
【0003】
これらの被覆材の取付け用材として、各種形状のスタッドピンが提案され用いられている。近年では、効率的な作業性を実現し得るなどの理由から、平板円の頭部とそれに垂直に立設されたロッド状のピン部を有してなるスタッドピンが広く用いられている。
【0004】
被覆材の取付け方法としては、目的の被覆材を構築物面に当て付けた後、かかるスタッドピンのピン部を該被覆材の所定位置に挿通する。次いで、該スタッドピンの平板円の頭部にスタッドガンを押し当て、スタッドピンのピン部先端が構築物面に圧接されている状態を維持して、大電流を通電しスタッドピンの先端にアークを発生さる。そしてスタッドピンの先端を溶融させて、その溶融物でもって先端を構築物面に溶接させる、所謂スタット溶接にて、広く採用されているところである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなスタッド溶接において、スタッドピンのピン部先端と構築物面とが完全に圧接している状態で通電することが必須条件であること。そして、大電流を通電してスタッドピンの先端にアークを発生させてピン部先端を溶融させる。その溶融物でもってピン先端を構築物面に溶接させるのである。その結果現象として、ピン部先端の溶融により、ピン部の全長が溶接前の当初より短く欠足することは周知のところである。
【0006】
一方、被覆材を構築物にしっかり固定するには、溶接後も溶接されたスタッドピンの頭部と被覆材との間に間隙が生じないように密着させておく必要がある。従来から断熱効果や防音効果の向上に採用されるグラスウール、ロックウールなどのようなクッション性がある軟らかな材質からなる被覆材の場合は、スタッドピンの頭部を被覆材に強く押し当てて被覆材に食い込ませ、ピン部先端を構築物面に充分圧接しながら通電できる。そのことによってピン部先端を確実に溶接することができる。そして、スタッドピンの頭部と被覆材の間に間隙が生じることなく、該被覆材を構築物にしっかり固定することができる。しかし、これはグラスウール、ロックウールなどのようなクッション性がある軟らかな材質からなる被覆材の場合のことである。
【0007】
ところが、クッション性のない硬質の被覆材、例えば硬質耐火ボードなどの場合は、スタッドピンの頭部を被覆材に強く押し当てても該頭部を被覆材に食い込ませることができない。この場合、被覆材の厚さと同等乃至は短めのピン部からなるスタッドピンでは、ピン部先端と構築物との圧接が不十分で溶接不良が生じる。仮に、ピン部先端で上手くアークして溶融できても、前述したように溶融した分だけピン部が短くなって被覆材との圧接が途切れて、当然ながら溶接不良が生じる。だからと言って被覆材の厚さより長いスタッドピンを用いてスタッド溶接すると、溶接は出来たとしても、スタッドピン先端の溶融量はその都度の諸条件で微妙な変化がある。そしてピン部の全長も溶融量に応じて微妙に変化する。その結果、頭部と被覆材との間に隙間が生じるケースが多く、本来の目的である被覆材の固定がしっかりできないという問題が生じる。
【0008】
故に、従来型のスタッドピンでは、クッション性のない硬質の被覆材の固定にあっては、あらゆるサイズのスタッドピンを揃えおかねばならないという欠点がある。このような問題もあって、硬質の被覆材はほとんど採用されていない現状にあり、また、欠足するピン部の全長を補正できるスタッドピンの提案もない。
【0009】
その他、溶接不良の原因の一つとして、スタッドピンの頭部が固い盤状であって、通電する際に、スタッドガンのヘッド面とスタッドピンの頭部面との平行度や相対位置がずれたりした場合には、接触面が少ない状態で補正されることなく通電されるため、必要とする適切な溶接強度が得られない場合が起こり得る。
【0010】
また、その他の問題として、一般に広く使用される溶接ピンは、前記した通りロッド状のピン部を平板の頭部中央部に溶接などの手段で取付けた単純な構成ある。しかし、個々の平板の頭部にピン部を固定する作業は、ピンの生産性を著しく低下させるものであり、ピンの価格に大きく影響している。
【発明を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明は、かかる事情と背景に鑑み、鋭意研究の結果なされたものであって、その問題解決とするとこは、導電性を有する金属線材であって、これを渦巻き状に複数回巻きつけて形成する渦盤状の頭部において、その頭部外周部に対し頭部中心部を凸状に突出して段差を形成して、ここに変移吸収機能を保持させ、且つ、該頭部中心部の金属線材先端を球心垂直方向に系下させたロッド状のピン部とを一体に形成してなるスタッド溶接ピンを提供するにある。
【0012】
以下、図面を参照しつつ、詳細に説明する。本発明のスタッド溶接ピンの使用にあっては、被覆材を構築物面に重ね合せた後、かかるスタッド溶接ピンのピン部4を該被覆材の所定位置に挿通する。もし、硬質な被覆材であってピン部4が簡単に刺さらず挿通できない場合は、予め被覆材の所定位置に貫通穴を施こせばこれで足りる。次いで、このスタッド溶接ピンの渦盤状の頭部1にスタッドガンを押し当てる。
【0013】
そして、渦盤状の頭部1をスタッドガンで押し当てるにあたり、頭部外周部2と頭部中心部3の段差が変移吸収機能を掌る。即ち、クッション性のない硬質な被覆材でも、スタッド溶接ピンの渦盤状の頭部1を被覆材に強く押し当てて被覆材に食い込ませた時と同じように、変移吸収機能が働いてピン部先端5を構築物面に常に圧接させるがごとき機能を発揮する。このときの段差は、後述する通電にてピン部先端5の溶融量でもっておおよそ定められるが、約1mmから5mm程度の範囲が望ましく1.5mm〜3mmの範囲がもっとも好ましい。
【0014】
次いで、大電流を通電しスタッド溶接ピンのピン部先端5にアークを発生させる。スタッド溶接ピンの該先端を溶融させて、その溶融物でもってスタッド溶接ピンを構築物面に溶接させるが、溶融で短くなったピン部4は、段差が支配する変移吸収機能の作用とスタッドガンの押圧でもって不足分が補足される。この結果、硬質な被覆材であっても、溶接後のスタッド溶接ピンの頭部外周部2と被覆材との間には間隙が発生せず、該スタッド溶接ピンでもって被覆材を構築物にしっかり固定することができる。
【0015】
本発明でいう導電性を有する金属線材とは、電気抵抗の少ない通電性のよい金属素材からなる細線であれば特に限定されない。例えば鉄、銅、ステンレス、アルミニウムおよび真鍮などの材質から選ばれてなるもの。または、これらの合金の材質から成るものでもよい。尚、金属線材の断面は円形もしくは楕円形のものの方が渦巻き状に成形するには好ましい。また、金属繊細の太さの選択は、求める渦盤状の頭部1の大きさや厚さで任意に決定できるが、被覆材の材質や被覆材の固定にかかる荷重量で金属線材の太さなどを決定すればよい。本発明においてはおよそ1mm〜5mm程度のものが好ましく、特に1.5mm〜3mm程度の細径が最適である。
【0016】
本発明でいう渦盤状の頭部1とは、導電性を有する金属線材からなり、これを渦巻き状に複数回まきつけて形成する渦盤状の頭部1であって、一般には円形状がもっとも成形加工の上で効率的であるが、これに限定されず楕円形、四角形から多角形のものであってもよく、その形状は用途によって任意に選択することで特に制限されるものではない。特殊なものでは直角のコーナー用として三角形状も有効である。
【0017】
また、渦盤状の頭部中心部3の金属線材先端は、凸状に突出する段差に対し、球心垂直方向に系下してロッド状のピン部4を構成するが、該ピン部4の長さは使用する被覆材の材質や厚さでもって、任意に選択することで特に制限されるものではない。
【効果】
【0018】
以上の説明からも明らかなように、本発明のスタッド溶接ピンにあっては、導電性を有する金属線材を渦巻状に複数回巻きつけて形成する渦盤状の頭部1と、該頭部中心部3から球心垂直方向に系下するピン部4とからなる。そして、スタッドガンで該溶接ピンの渦盤状の頭部1を押圧するに当たり、渦盤状の頭部1が、頭部外周部2と頭部中心部3に凸状に突出した段差に負荷がかかる。その段差でもって変移吸収機能を掌り、クッション性のない硬質な被覆材であっても、スタッド溶接ピンの渦盤状の頭部1が被覆材に強く押し当てて被覆材に食い込ませた状態と同様に、ピン部先端5を構築物面に常に圧接させるがごとき機能を発揮する。
【0019】
アークの発生でスタッド溶接ピンのピン部先端5を溶融させて、その溶融物でもって該ピンを構築物面に溶接させるが、溶融で短くなったピン部4は、該頭部の段差が支配する変移吸収機能の作用とスタッドガンの押圧とでもって、ピン部先端5の不足が補足される。また、通電する際、スタッドガンのヘッド面とスタッド溶接ピンの渦盤状の頭部面との平行度や相対位置がずれたりした場合も、該変移吸収機能が作用して補正される。
【0020】
その作用効果が、クッション性のない硬質な被覆材、例えば硬質耐火ボード、プラスチック板、ベニア板などの被覆材は無論のこと、従来のグラスウールやロックウールなどのクッション性がある被覆材に対しても、ピン部先端と被覆材との圧接を常にもって、渦盤状の頭部1と被覆材との間に隙間がないように補正し維持され、本来の目的である被覆材を構築物にしっかり固定するための、広く適応できるスタッド溶接ピンが提供できる。
【0021】
更には、渦盤状の頭部1とピン部4とが一体成形できるため、スタッド溶接ピンの生産性が著しく向上され、安価に提供できる効果も大きい。
【発明の実施するための最良の形態】
【0022】
先ず、図1、2は、本発明に従う構造を有するスタッド溶接ピンの一例が概略的に示されている。かかる図から明らかなように、例えば、本発明のスタッド溶接ピンは、直径2・6mmの鋼鉄製の線材から渦巻き状に5回巻きつけて形成された直径30mmの渦盤状の頭部1と、その頭部中心部3の線材先端を球心垂直方向に系下する53mmのピン部4とが一体に形成加工される。
【0023】
そして、渦盤状の頭部1は頭部外周部2に対し頭部中心部3が、段差3mmの差でもって凸状に突出するよう形成加工される。
【0024】
因みに、上述の如き構成された本発明のスタッド溶接ピンをサンプルとして用いて、厚さ50mmの硬質耐火ボードの被覆材にピン部2を挿通し、次いで、スタッドガンを渦盤状の頭部に押しあててピン部先端5を構築物面に圧接させながら大電流を通電してスタット溶接を行った。通電に際し、該頭部外周1は被覆材にピッタリ接触していて、それ以上の被覆材への押し込みはできなかった。通電でピン部先端5にアークが発生し溶融して溶け込んだとき、渦巻き段差の変移吸収機能が作用して頭部中心部3が被覆材に向かって微少移動し、ピン部先端5の圧接が継続維持された。この結果、本発明のスタッド溶接ピンにあっては、通電の不良操作もなく、作業性は飛躍的に安定しており、硬質耐火ボードの被覆材は、スタッドピンの頭部との隙間もなく接触していて、しっかり固定されていた。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施態様の一例を概略的に示す、スタッドピンの斜視図1である。
【図2】図1のピン部中央からのA−A断面を概略的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1・・・渦盤状の頭部
2・・・頭部外周部
3・・・頭部中心部
4・・・ピン部
5・・・ピン部先端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する金属線材であって、これを渦巻き状に複数回巻きつけて形成する渦盤状の頭部において、頭部外周部に対し頭部中心部を凸状に突出する段差を形成して変移吸収機能を保持させてなるスタッド溶接ピン。
【請求項2】
金属線材を渦巻き状に複数回巻きつけて形成する渦盤状の頭部と、頭部外周部に対して頭部中心部を凸状に形成し、該頭部中心部の金属線材先端を球心垂直方向に系下するロッド状のピン部を形成し、渦盤状の頭部とピン部とを一体に構成するスタッド溶接ピンであって、該渦盤状の頭部に変移吸収機能を保持させてなる請求項1記載のスタッド溶接ピン。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−155278(P2008−155278A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−357406(P2006−357406)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(594077367)一文機工株式会社 (17)