説明

スタンパー研磨方法

【課題】裏面が十分に平坦で均一な厚みのスタンパーを製造し得るスタンパー研磨方法を提供する。
【解決手段】第1面10aに凹凸パターン15が形成された板状のスタンパー10をスタンパーホルダー2に取り付けた状態においてスタンパー10における第2面10bを研磨処理する際に、スタンパーホルダー2における平面状の取付部2cの全域がスタンパー10における第1面10aに接すると共に、第1面10aにおける凹凸パターン形成領域A1の全域が取付部2cに接し、かつ、スタンパー10の外縁部(外縁部領域A2)における少なくとも一部が取付部2cの外縁部からはみ出すようにスタンパー10をスタンパーホルダー2に取り付けて、その状態で研磨処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク等の情報記録媒体を製造するためのスタンパーを研磨するスタンパー研磨方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のスタンパー研磨方法として、円盤状記録媒体製造用の金属スタンパーにおける裏面を研磨する金属スタンパー裏面研磨方法(以下、「研磨方法」ともいう)が特開昭60−216915号公報に開示されている。この研磨方法では、まず、研磨処理対象の金属スタンパー(以下、「スタンパー」ともいう)よりも大径の剥離補助シートを円盤状金属プレートの中央部に配置する。次いで、剥離補助シートを覆うようにして、剥離補助シートよりも大径の両面粘着シートを円盤状金属プレートに貼り付ける。続いて、スタンパーにおける信号面(凹凸パターンの形成面)に保護コートを施した後に、保護コートの層が両面粘着シートの表面に接するようにスタンパーを円盤状金属プレートの中央部に貼り付ける。この後、スタンパーの裏面が下向きとなるように円盤状金属プレートを研磨装置の円盤状研磨盤上に配置すると共に、円盤状金属プレートを介してスタンパーを円盤状研磨盤に向けて押圧した状態においてスタンパーの裏面を研磨処理する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−216915号公報(第1−2頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来の研磨方法には、以下の問題点がある。すなわち、従来の研磨方法では、研磨処理対象のスタンパーよりも大径の円盤状金属プレートにおける中央部にスタンパーを貼り付けた状態においてその裏面を円盤状研磨盤に押し付けて研磨処理している。この場合、研磨処理対象のスタンパーは、一例として、電鋳処理によって厚み300μm程度の板状に製作される。具体的には、まず、スタンパー製造用原盤における凹凸パターンの形成面に電鋳処理によって金属材料(ニッケル等)の層を形成することにより、金属材料の層にスタンパー製造用原盤の凹凸パターンを転写する。次いで、スタンパー製造用原盤から金属材料の層を剥離した後に所望の形状に切断する。これにより、研磨処理対象のスタンパーが製作される。
【0005】
この場合、電鋳処理によってスタンパー製造用原盤上に形成された金属材料の層は、電鋳処理中における各種処理条件の変化(電解液の濃度や温度の変化、および電極間に印加する電圧の変化等)に起因して内部応力(残留応力)が生じた状態となる。したがって、電鋳処理を完了してスタンパー製造用原盤から金属材料の層を剥離したときには、内部応力に起因して金属材料の層(研磨処理対象のスタンパー)に反りや歪み等の変形が生じることとなる。この際に、スタンパーを変形させようとする内部応力がスタンパーの端部(外縁部)に大きく作用することから、スタンパーの外縁部ほど変形の度合いが大きくなる傾向がある。
【0006】
一方、従来の研磨方法では、前述したように、研磨処理対象のスタンパーよりも大径の円盤状金属プレートにスタンパーを貼り付けた状態において円盤状金属プレートを介してスタンパーを円盤状研磨盤に向けて押圧している。したがって、従来の研磨方法では、スタンパーの全域に対して円盤状研磨盤に向けて押圧する力が加えられることとなる。この場合、外縁部において大きく変形した状態のスタンパーの全域を円盤状研磨盤に向けて押圧したときには、内側領域の変形を矯正することができる程度に内側領域を円盤状研磨盤に対して十分に押し付けるのが困難となる。そればかりか、外縁部に生じている変形が矯正されるようにしてスタンパーの全域が変形し、これに起因して、外縁部の変形量が小さくなるものの、内側領域の変形量が押し付け前よりも大きくなる。このような状態において研磨処理したときには、スタンパーの内側領域(凹凸パターンが形成されている形成領域)における各部の円盤状研磨盤に対する押圧力にばらつきが生じる結果、内側領域の各部における研磨処理の進行状態にばらつきが生じることとなる。このため、従来の研磨方法には、スタンパーの内側領域の各部における厚みが不均一な状態になるという問題点がある。
【0007】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、裏面(他方の面)が十分に平坦で、凹凸パターンの形成領域(内側領域)の厚みが均一なスタンパーを製造し得るスタンパー研磨方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく、本発明に係るスタンパー研磨方法は、一方の面に凹凸パターンが形成された板状のスタンパーをスタンパーホルダーに取り付けた状態において当該スタンパーにおける他方の面を研磨処理する際に、当該スタンパーホルダーにおける平面状のスタンパー取付部の全域が当該スタンパーにおける当該一方の面に接すると共に、当該一方の面における前記凹凸パターンの形成領域の全域が当該スタンパー取付部に接し、かつ、当該スタンパーの外縁部における少なくとも一部が当該スタンパー取付部の外縁部からはみ出すように当該スタンパーを当該スタンパーホルダーに取り付けて、その状態で前記研磨処理を行う。
【0009】
なお、「スタンパー取付部の全域がスタンパーにおける一方の面に接する」との状態や「一方の面における凹凸パターンの形成領域の全域がスタンパー取付部に接する」との状態には、スタンパー取付部とスタンパーとの間に粘着剤層(粘着シート)や保護コート層(保護シート)等の各種機能層が挟まれている状態が含まれるものとする。すなわち、「スタンパー取付部の全域がスタンパーにおける一方の面に接する」との状態には、「スタンパー取付部の全域が各種機能層を挟んでスタンパーにおける一方の面と対向するように一体化されている」との状態がこれに含まれ、「一方の面における凹凸パターンの形成領域の全域がスタンパー取付部に接する」との状態には、「一方の面における凹凸パターンの形成領域の全域が各種機能層を挟んでスタンパー取付部と対向するように一体化されている」との状態がこれに含まれる。また、本明細書では、一方の面において凹凸パターンが形成されている領域、および他方の面において「一方の面において凹凸パターンが形成されている領域」に対してスタンパーの厚み方向で重なる領域を区別することなく、凹凸パターンの形成領域という。
【0010】
また、本発明に係るスタンパー研磨方法は、前記スタンパーの外縁部が全周に亘って前記スタンパー取付部の外縁部からはみ出すように当該スタンパーを前記スタンパーホルダーに取り付けて、その状態で前記研磨処理を行う。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るスタンパー研磨方法によれば、スタンパーホルダーにおけるスタンパー取付部の全域がスタンパーにおける一方の面に接すると共に、一方の面における凹凸パターンの形成領域の全域がスタンパー取付部に接し、かつ、スタンパーの外縁部における少なくとも一部がスタンパー取付部の外縁部からはみ出すようにスタンパーをスタンパーホルダーに取り付けた状態においてスタンパーにおける他方の面を研磨処理することにより、内部応力が外縁部に大きく作用して外縁部における変形量が大きくなっている状態におけるスタンパーをスタンパーホルダーのスタンパー取付部に取り付けたときや、スタンパーホルダーに取り付けたスタンパーを研磨材に対して押圧したとき、または、スタンパーホルダーに取り付けたスタンパーに対して研磨材を押圧したときに、外縁部に作用している内部応力の影響によって凹凸パターンの形成領域(内側領域)の変形量が大きくなる事態を招くことなく、凹凸パターンの形成領域に生じている変形を、スタンパー取付部の外縁部からはみ出している外縁部領域に追いやって、その変形量を十分に小さくすることができる。したがって、このスタンパーの研磨方法によれば、研磨材に対してスタンパーを押し付ける場合には、凹凸パターンの形成領域における各部を研磨材に対して均一な押圧力で押し付けることができるため、凹凸パターンの形成領域における各部の研磨処理の進行の度合いをほぼ均一にすることができ、スタンパーに対して研磨材を押し付ける場合には、凹凸パターンの形成領域における各部に対して研磨材を均一な押圧力で押し付けることによって、凹凸パターンの形成領域における各部の研磨処理の進行の度合いをほぼ均一にすることができる結果、凹凸パターンの形成領域の厚みを十分に均一にすることができる。これにより、他方の面が十分に平坦で凹凸パターンの形成領域の全域の厚みが十分に均一なスタンパーを提供することができる。
【0012】
また、本発明に係るスタンパー研磨方法によれば、研磨処理に際して、スタンパーの外縁部が全周に亘ってスタンパー取付部の外縁部からはみ出すようにスタンパーをスタンパーホルダーに取り付けることにより、凹凸パターンの形成領域に生じている変形を、スタンパー取付部の外縁部からはみ出している外縁部領域に確実に追いやって、凹凸パターンの形成領域が十分に矯正された状態でスタンパーをスタンパー取付部に取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】スタンパー10の断面図である。
【図2】研磨装置1、スタンパーホルダー2およびスタンパー10の平面図である。
【図3】スタンパーホルダー2の断面図である。
【図4】スタンパー10を製造するためのスタンパー製造用原盤30の断面図である。
【図5】スタンパー製造用原盤30を使用した電鋳処理によって電解めっき層10xを形成した状態の断面図である。
【図6】第1面10aに保護コート層21を形成した状態の電解めっき層10xの断面図である。
【図7】電解めっき層10xの外縁部を切断すると共に中心孔11を形成した状態のスタンパー10の断面図である。
【図8】スタンパーホルダー2における取付部2cとスタンパー10との大きさ、および取付け位置関係の一例について説明するための平面図である。
【図9】スタンパーホルダー2に取り付けたスタンパー10を研磨装置1によって研磨処理している状態の断面図である。
【図10】スタンパーホルダー2における取付部2cとスタンパー10との大きさ、および取付け位置関係の他の一例について説明するための平面図である。
【図11】スタンパーホルダー2に取り付けたスタンパー10を研磨装置1Aによって研磨処理している状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明に係るスタンパー研磨方法の実施の形態について説明する。
【0015】
図1に示すスタンパー10は、一例として、ディスクリートトラック型の磁気記録媒体などの情報記録媒体(図示せず)を製造するための金属スタンパーであって、情報記録媒体に形成すべき凹凸パターンに対応して、第1面10a(「一方の面」の一例)の凹凸パターン形成領域A1に複数の凸部15aおよび複数の凹部15bを有する凹凸パターン15が形成されると共に、後述するスタンパー研磨方法に従い、図2に示す研磨装置1およびスタンパーホルダー2を使用して第2面10b(「他方の面」の一例)が研磨処理されて厚み200μm〜500μm程度(一例として、300μm程度)の板状に形成されている。なお、図1および後に参照する各図では、スタンパー10の構成についての理解を容易とするために、スタンパー10の厚みを誇張して厚く図示している。このスタンパー10は、一例として、その直径L1aが115mmの円板状に形成されると共に、その中心部には、直径10mm程度の中心孔11が開口されている。また、凹凸パターン15が形成されている凹凸パターン形成領域A1は、その直径L1bが90mmの円形に規定されている。なお、本明細書では、第1面10aにおいて凹凸パターン15が形成されている領域、および第2面10bにおいて「第1面10aにおいて凹凸パターン15が形成されている領域」に対してスタンパー10の厚み方向で重なる領域(この例では、両面10a,10bにおける直径L1bが90mmの円形の領域)を区別することなく、凹凸パターン形成領域A1という。
【0016】
また、このスタンパー10を研磨するための研磨装置1は、図2に示すように、研磨用回転定盤3、スラリー噴霧用ノズル4、リング状部材5および一対の支持用アーム6を備えると共に、研磨用回転定盤3を回転させるためのモータ、およびスラリー噴霧用ノズル4に研磨用スラリー(研磨剤)を供給するスラリー供給機構(共に図示せず)を備えている。研磨用回転定盤3(以下、単に「回転定盤3」ともいう)は、上面が平坦に加工されると共に、研磨用スラリーが噴霧された(塗布された)状態において「研磨材」として機能して、上記のモータによって矢印R1の向きに定速回転させられる。スラリー噴霧用ノズル4(以下、単に「ノズル4」ともいう)は、上記のスラリー供給機構によって供給されたスラリー(ダイヤモンド粉体および潤滑剤の懸濁液)を研磨用回転定盤3の上面に噴霧可能に配設されている。
【0017】
リング状部材5は、ノズル4から噴霧されたスラリーを回転定盤3の上に均一に均すための部材であって、その内径がスタンパーホルダー2やスタンパー10よりも大径となるようにリング状に形成されている。このリング状部材5は、図9に示すように、共にリング状のスキージ部5aおよび当接部5bを重ね合わせて形成されている。この場合、回転定盤3に接する側のスキージ部5aは、アルミナ(酸化アルミニウム)等の耐摩耗性材料で形成され、当接部5bは、SUS(ステンレス鋼)等の金属材料で形成されて、後述するようにしてスタンパーホルダー2や支持用アーム6に当接する。支持用アーム6は、回転定盤3の回転に伴ってリング状部材5が研磨処理位置から移動することのないように保持する部材であって、図2に示すように、その先端部には、リング状部材5における当接部5bの外周面に当接可能にローラー6aが取り付けられている。この支持用アーム6によってリング状部材5が支持されることにより、回転定盤3が矢印R1の向きに回転させられたときには、リング状部材5が研磨処理位置において矢印R2の向きに回転させられる。
【0018】
一方、スタンパーホルダー2は、研磨装置1によるスタンパー10の研磨処理に際してスタンパー10を保持するための部材であって、図3に示すように、共に平面視円形の円柱状(円板状)の大径部2aおよび小径部2bがSUS(ステンレス鋼)等の金属材料で一体的に形成されて、全体としても円柱状(厚手の円板状)に形成されている。この場合、このスタンパーホルダー2では、後述するようにして、その外周面がリング状部材5の内周面に当接させられる大径部2aの直径L2aがスタンパー10の直径L1aよりも大径の例えば125mmに規定されている。また、このスタンパーホルダー2では、その底面に規定された取付部2c(「スタンパー取付部」の一例)にスタンパー10が取り付けられる小径部2bの直径L2bがスタンパー10の直径L1aよりも小径で、かつスタンパー10における凹凸パターン形成領域A1の直径L1bよりも大径の例えば100mmに規定されている。この場合、取付部2cには、スタンパー10を貼り付けて固定する(取り付ける)ための粘着剤層25が貼付されている。
【0019】
次に、研磨処理対象のスタンパー10の製作方法、および製作したスタンパー10の研磨方法について、図面を参照して説明する。
【0020】
後述するスタンパー研磨方法に従って研磨処理する研磨処理対象のスタンパー10は、一例として、電鋳処理によって製作される。具体的には、まず、スタンパー10を製造するためのスタンパー製造用原盤30(図4参照)を製作する。このスタンパー製造用原盤30は、図4に示すように、一例として、フォトリソグラフィ法(電子ビームリソグラフィ法)によって形成したマスクパターン(図示せず)をマスクとして使用したエッチング処理によって複数の凸部35aおよび複数の凹部35bを有する凹凸パターン35が第1面30aに形成されている。この場合、凹凸パターン35は、スタンパー10における凹凸パターン15の各凸部15aに対応して各凹部35bが形成されると共に、凹凸パターン15の各凹部15bに対応して各凸部35aが形成されている。なお、フォトリソグラフィ法によるマスクパターンの形成方法や、マスクパターンを使用したエッチング処理によってスタンパー製造用原盤30を製作する方法については、公知のため、その説明および図示を省略する。
【0021】
次いで、スタンパー製造用原盤30を蒸着装置にセットして、第1面30a(凹凸パターン35の表面)に蒸着処理によってNiを蒸着して電極層(導電層:Niの薄膜)を形成する。この場合、蒸着処理による電極層の形成方法に代えて、無電解めっき処理やスパッタ処理の各種方法で電極層を形成することもできる。続いて、電極層の形成が完了したスタンパー製造用原盤30を電解めっき装置(図示せず)にセットして、めっき材料としてNiを使用し、かつ、上記の電極層を電極として用いて電解めっき処理(電鋳処理)を実行することにより、図5に示すように、厚み300μm程度の電解めっき層10xを形成する。この際には、同図に示すように、スタンパー製造用原盤30に形成された凹凸パターン35が金属材料(この例では、Ni)に転写されて、凹凸パターン35における各凹部35bに対応する複数の凸部15aと、凹凸パターン35における各凸部35aに対応する複数の凹部15bとを有する凹凸パターン15が形成される。
【0022】
次いで、スタンパー製造用原盤30から電極層および電解めっき層10xの積層体を剥離する。この場合、電鋳処理によって形成した電解めっき層10xには、前述したように、電鋳処理中における各種処理条件の変化に起因して内部応力(残留応力)が生じた状態となっている。したがって、スタンパー製造用原盤30から電解めっき層10xを剥離したときには、内部応力に起因して電解めっき層10xに反りや歪み等の変形が生じた状態となる。次いで、図6に示すように、電解めっき層10xの第1面10a(凹凸パターン15の形成面)に保護コート剤をスピンコートして保護コート層21を形成する。続いて、打ち抜き処理によって、電解めっき層10xの外縁部を切断すると共に中心孔11を開口する。これにより、図7に示すように、研磨処理対象のスタンパー10が製作される。
【0023】
この場合、電解めっき層10xに対する打ち抜き処理が完了した時点においても、スタンパー10を変形させようとする上記の内部応力がスタンパー10の外縁部に大きく作用することから、スタンパー10の内側領域と比較して、外縁部領域A2ほど、反りや歪み等の変形の度合いが大きくなっている。また、打ち抜き処理が完了した時点のスタンパー10(研磨処理する前の状態のスタンパー10)では、その第2面10bが大きく凹凸した状態となっている。なお、本明細書では、第1面10aにおける外縁部の領域、および第2面10bにおける外縁部の領域を区別することなく、外縁部領域A2という。
【0024】
続いて、スタンパー10をスタンパーホルダー2に取り付ける。この際には、図8に示すように、スタンパーホルダー2における取付部2c(粘着剤層25の表面)の全域がスタンパー10の第1面10a(保護コート層21の表面)に接すると共に、第1面10aにおける凹凸パターン形成領域A1の全域が取付部2cに接し、かつ、スタンパー10の外縁部領域A2が全周に亘って取付部2cの外縁部からはみ出すように、スタンパーホルダー2の中心とスタンパー10の中心とをほぼ一致させた状態においてスタンパー10をスタンパーホルダー2に向けて押し付ける。これにより、スタンパーホルダー2の取付部2cに粘着剤層25および保護コート層21を介してスタンパー10が取り付けられる。
【0025】
この状態においては、外縁部領域A2が全周に亘って取付部2cの外縁部からはみ出すようにスタンパー10がスタンパーホルダー2に取り付けられているため、外縁部領域A2に生じている変形の影響によって凹凸パターン形成領域A1が変形する事態が回避されるだけでなく、スタンパーホルダー2に対する取り付け前に凹凸パターン形成領域A1に生じていた変形が外縁部領域A2に確実に追いやられて凹凸パターン形成領域A1が十分に矯正された状態でスタンパー10が取付部2cに取り付けられる。したがって、外縁部領域A2よりも内側の領域(スタンパーホルダー2に取り付けた状態におけるスタンパー10において取付部2c(粘着剤層25)と接している領域:凹凸パターン形成領域A1等)の変形量が十分に小さな状態となる。
【0026】
次いで、図9に示すように、スタンパー10の第2面10bを下向きにしてスタンパーホルダー2を回転定盤3の上に載置する。具体的には、図2に示すように、支持用アーム6によって研磨処理位置に配置されているリング状部材5の内側にスタンパーホルダー2(スタンパー10)を載置する。この際には、スタンパーホルダー2の大径部2aがスタンパー10の直径L1aよりも大径の直径L2aに形成されているため、スタンパー10の外縁部がリング状部材5(スキージ部5a)の内周部に接する事態が回避される。また、スタンパーホルダー2の取付部2cがスタンパー10における凹凸パターン形成領域A1の直径L1bよりも大径の直径L2bに形成されているため、スタンパー10における第2面10bの凹凸パターン形成領域A1よりも広い領域がスタンパーホルダー2によって回転定盤3の表面に押し付けられる。
【0027】
この場合、スタンパー10における外縁部領域A2よりも内側の領域(凹凸パターン形成領域A1等)の変形量が十分に小さくなっているため、凹凸パターン形成領域A1を含む広い領域(スタンパーホルダー2の取付部2cと重なる領域)の全域に亘って、ほぼ均一な押圧力で回転定盤3の表面に押し付けられる。また、上記したように、スタンパー10の外縁部領域A2がスタンパーホルダー2(取付部2c)に接することなく(外縁部領域A2がフリー状態で)スタンパーホルダー2にスタンパー10が取り付けられているため、スタンパー10に生じた変形に起因して外縁部領域A2において回転定盤3側に突出している部位が回転定盤3の表面に対して過剰に大きな押圧力で押し付けられる事態が回避される。
【0028】
次いで、研磨装置1によるスタンパー10の研磨処理を開始する。この研磨処理に際しては、まず、図示しないスラリー供給機構から研磨用のスラリをノズル4に供給して回転定盤3の表面に噴霧させる。次いで、図示しないモータによって回転定盤3を図2に示す矢印R1の向きに回転させる。この際には、回転定盤3の回転に伴い、ノズル4から噴霧されたスラリーが、支持用アーム6によって支持されているリング状部材5の部位まで移動した後に、リング状部材5におけるスキージ部5aの底面と回転定盤3の表面との間を通過する際に均一に均されてリング状部材5の内側に進入する。また、回転定盤3が矢印R1の向きに回転するのに伴い、上記の研磨処理位置に支持されているリング状部材5が矢印R2の向きに回転する。さらに、リング状部材5が矢印R2の向きに回転するのに伴い、リング状部材5の内側に載置されて大径部2aの外周面が当接部5bの内周面に当接している状態のスタンパーホルダー2がリング状部材5内において矢印R3の向きに回転する。
【0029】
この結果、スタンパーホルダー2に取り付けられているスタンパー10の第2面10bと、回転定盤3の表面とがスラリーを介して相互に擦り合わされて研磨処理される。この場合、スタンパー10の第2面10bにおいてスタンパーホルダー2の取付部2cと重なる領域の全域(凹凸パターン形成領域A1を含む広い領域)が回転定盤3の表面に対してほぼ均一な押圧力で押し付けられているため、この領域内の各部における研磨処理の進行状態がほぼ均一となる。この後、予め規定された処理時間に亘る研磨処理が完了した時点において研磨装置1を停止させ、スタンパーホルダー2(取付部2c)からスタンパー10を剥離した後に、第1面10aから保護コート層21を剥離する。これにより、スタンパー10に対する一連の研磨処理が完了して、スタンパー10が完成する。
【0030】
このように、スタンパーホルダー2を用いたスタンパー10の研磨方法によれば、スタンパーホルダー2における取付部2cの全域がスタンパー10における第1面10aに接すると共に、第1面10aにおける凹凸パターン形成領域A1の全域が取付部2cに接し、かつ、スタンパー10の外縁部領域A2における少なくとも一部が取付部2cの外縁部からはみ出すようにスタンパー10をスタンパーホルダー2に取り付けた状態においてスタンパー10における第2面10bを研磨処理することにより、内部応力が外縁部領域A2に大きく作用して外縁部領域A2における変形量が大きくなっている状態におけるスタンパー10をスタンパーホルダー2の取付部2cに取り付けたときや、スタンパーホルダー2に取り付けたスタンパー10を研磨材(この例では、スラリーが塗布された回転定盤3の表面)に対して押圧したときに、外縁部領域A2に作用している内部応力の影響によって凹凸パターン形成領域A1の変形量が大きくなる事態を招くことなく、凹凸パターン形成領域A1に生じている変形を、取付部2cの外縁部からはみ出している外縁部領域A2に追いやって、その変形量を十分に小さくすることができる。したがって、スタンパーホルダー2を用いたスタンパー10の研磨方法によれば、凹凸パターン形成領域A1における各部を研磨材(この例では、研磨用スラリーが塗布された状態の研磨用回転定盤3)に対して均一な押圧力で押し付けることができるため、凹凸パターン形成領域A1における各部の研磨処理の進行の度合いをほぼ均一にすることができる結果、凹凸パターン形成領域A1の厚みを十分に均一にすることができる。これにより、第2面10bが十分に平坦で凹凸パターン形成領域A1の全域の厚みが十分に均一なスタンパー10を提供することができる。
【0031】
また、スタンパーホルダー2を用いたスタンパー10の研磨方法によれば、研磨処理に際して、スタンパー10における外縁部領域A2が全周に亘って取付部2cの外縁部からはみ出すようにスタンパー10をスタンパーホルダー2に取り付けることにより、凹凸パターン形成領域A1に生じている変形を、取付部2cの外縁部からはみ出している外縁部領域A2に確実に追いやって、凹凸パターン形成領域A1が十分に矯正された状態でスタンパー10を取付部2cに取り付けることができる。
【0032】
なお、研磨処理に際して、スタンパー10における外縁部領域A2が全周に亘って取付部2cの外縁部からはみ出すようにスタンパー10をスタンパーホルダー2に取り付ける方法を例に挙げて説明したが、スタンパーホルダー2に対するスタンパー10の取付け位置は、これに限定されない。具体的には、図10に示すように、スタンパーホルダー2における取付部2cの全域がスタンパー10における第1面10aに接すると共に、第1面10aにおける凹凸パターン形成領域A1の全域が取付部2cに接し、かつ、スタンパー10の外縁部領域A2における少なくとも一部(この例では、同図における左側の一部を除く領域)が取付部2cの外縁部からはみ出すようにスタンパー10をスタンパーホルダー2に取り付けることにより、上記の研磨処理と同様の効果を奏することができる。なお、同図に示す例では、第1面10aにおける凹凸パターン形成領域A1の全域が取付部2cに接するように、スタンパーホルダー2における取付部2cの直径L2cが、前述した取付部2cの直径L2bよりもやや大径(一例として、直径L2c=105mm)となるように取付部2cが形成されている。
【0033】
また、スラリーを塗布した回転定盤3によってスタンパー10の第2面10bを研磨処理する研磨装置1を使用する方法について説明したが、図11に示すように、ローラ41によって研磨テープ42を第2面10bに押し付けて研磨する研磨装置1Aを使用してもよい。この研磨装置1Aを使用して研磨処理する方法を採用した場合においても、内部応力が外縁部領域A2に大きく作用して外縁部領域A2における変形量が大きくなっている状態における研磨処理対象のスタンパー10をスタンパーホルダー2の取付部2cに取り付けたときや、スタンパーホルダー2に取り付けたスタンパー10に対して研磨材(この例では、研磨テープ42)を押し付けたときに、外縁部領域A2に作用している内部応力の影響によって凹凸パターン形成領域A1(内側領域)の変形量が大きくなる事態を招くことなく、凹凸パターン形成領域A1に生じている変形を、取付部2cの外縁部からはみ出している外縁部領域A2に追いやって、その変形量を十分に小さくすることができる。したがって、凹凸パターン形成領域A1の各部に対して研磨材(この例では、研磨テープ42)を均一な押圧力で押し付けることによって、凹凸パターン形成領域A1の各部における研磨処理の進行の度合いをほぼ均一にすることができる結果、凹凸パターン形成領域A1の厚みを十分に均一にすることができる。これにより、第2面10bが十分に平坦で凹凸パターン形成領域A1の全域の厚みが十分に均一なスタンパー10を製作することができる。
【0034】
さらに、スタンパーホルダー2の取付部2cに貼付した粘着剤層25によってスタンパー10をスタンパーホルダー2(取付部2c)に取り付ける方法について説明したが、スタンパーホルダー2(取付部2c)に対するスタンパー10の取付け方法はこれに限定されない。具体的には、スタンパーホルダー2内に磁石(永久磁石または電磁石)を配設して磁力によってスタンパー10を吸引してスタンパーホルダー2(取付部2c)に取り付ける取付け方法や、取付部2cに複数の吸入孔を設けて各吸入孔を介してスタンパー10とスタンパーホルダー2(取付部2c)との間の空気を吸引することによってスタンパー10をスタンパーホルダー2(取付部2c)に取り付ける取付け方法を採用することもできる。
【0035】
また、スタンパー製造用原盤30を用いた電鋳処理によって製作したスタンパー10を研磨処理する方法を例に挙げて説明したが、研磨処理対象のスタンパーはこれに限定されない。例えば、上記のスタンパー10を1回または数回転写して作製した(例えば、上記のスタンパー10を電極として用いた電鋳処理によって製作した)スタンパー(図示せず)を研磨処理対象とする研磨処理に際して、上記の研磨方法に従って、その裏面(スタンパー10の凹凸パターン15を転写した面の裏面)を研磨することもできる。加えて、Niで形成したスタンパー10等を研磨処理対象とする例について説明したが、研磨処理対象のスタンパーの材質は、Niに限定されず、NiP、NiB、NiCoおよびCoAgなどの各種スタンパー形成材料を使用して製作したスタンパーを研磨処理対象とすることができる。
【符号の説明】
【0036】
1,1A 研磨装置
2 スタンパーホルダー
2c 取付部
3 研磨用回転定盤
10 スタンパー
10a 第1面
10b 第2面
10x 電解めっき層
15 凹凸パターン
21 保護コート層
25 粘着剤層
42 研磨テープ
A1 凹凸パターン形成領域
A2 外縁部領域
L1a,L1b,L2a,L2b,L2c 直径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面に凹凸パターンが形成された板状のスタンパーをスタンパーホルダーに取り付けた状態において当該スタンパーにおける他方の面を研磨処理する際に、当該スタンパーホルダーにおける平面状のスタンパー取付部の全域が当該スタンパーにおける当該一方の面に接すると共に、当該一方の面における前記凹凸パターンの形成領域の全域が当該スタンパー取付部に接し、かつ、当該スタンパーの外縁部における少なくとも一部が当該スタンパー取付部の外縁部からはみ出すように当該スタンパーを当該スタンパーホルダーに取り付けて、その状態で前記研磨処理を行うスタンパー研磨方法。
【請求項2】
前記スタンパーの外縁部が全周に亘って前記スタンパー取付部の外縁部からはみ出すように当該スタンパーを前記スタンパーホルダーに取り付けて、その状態で前記研磨処理を行う請求項1記載のスタンパー研磨方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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