説明

スタータモータ制御回路

【課題】電源・スタータモータ間のプロテクトリレーを制御する回路の簡素化を図ることができるスタータモータ制御回路を提供する。
【解決手段】キースイッチ13のスタート位置STにスタータリレー16のコイル16cを接続する。スタータリレー16は、コイル16cの励磁により閉じる常開接点16aを備え、この常開接点16aは、電源側のライン17と、エンジン始動用のスタータモータ18のスタータモータ始動信号ライン19とに接続する。電源11とスタータモータ18との間の電源ライン21中の電源側には、プロテクトリレー22を設ける。このプロテクトリレー22のコイル22cの一端は上流側電源ライン21aに接続し、他端はプロテクトリレー励磁ライン23によりオフディレイタイマ14に接続する。このオフディレイタイマ14はライン15を介しキースイッチ13のオン位置に接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのスタータモータを始動/停止制御するスタータモータ制御回路に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン始動時に電源とスタータモータ間の電源ラインに瞬間的に過大電流が流れるため、この電源ラインの保護のためには大容量のブレーカ等が必要であり、実際に保護装置が設置されていないものがある。
【0003】
電源ラインが他の機器との干渉による破損や、ケーブルの緩みなどにより地絡に至った場合、火災を引起すおそれがあるので、実際はケーブルの固定やルーティングの工夫により対応しているが十分ではない。
【0004】
上記の問題を解決するために、電源とスタータモータ間にプロテクトリレーを設置し、地絡を検知したときは、制御手段により、プロテクトリレーとスタータモータのオン/オフ動作のタイミングを制御することで、すなわち、スタータモータより先にプロテクトリレーをオン動作させ、エンジンの始動が完了したら、スタータモータより後からプロテクトリレーをオフ動作させることで、現実的な容量のプロテクトリレーおよび制御手段を用い、スタータケーブルラインを保護する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−069644号公報(第4−5頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記制御手段を用いるものは、その制御手段により微小時間、具体的には数十ミリ秒のオーダでの制御が必要となり、制御回路が複雑になる問題がある。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、電源・スタータモータ間のプロテクトリレーを制御する回路の簡素化を図ることができるスタータモータ制御回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載された発明は、コイルへの通電により機械的なクラッチ接続動作を伴ないながら閉動作するマグネットスイッチを備えたエンジン始動用のスタータモータを制御するスタータモータ制御回路であって、電源に接続され、オフ位置、オン位置およびスタート位置の切換が可能なキースイッチと、このキースイッチのスタート位置により励磁されて閉じることで電源からマグネットスイッチのコイルに通電する常開接点を有するスタータリレーと、電源とマグネットスイッチとの間の電源ライン中における電源側に設けられた常開接点を有するプロテクトリレーと、キースイッチのオン位置からスタート位置への切換によりマグネットスイッチが閉動作される前にプロテクトリレーを閉じるとともに、キースイッチのスタート位置からオン位置への切換によりプロテクトリレーの開動作を遅延させてマグネットスイッチが開動作された後にプロテクトリレーを開くオフディレイタイマとを具備したスタータモータ制御回路である。
【0009】
請求項2に記載された発明は、請求項1記載のスタータモータ制御回路において、電源ラインの地絡状態を知らせるモニタを具備したものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載された発明によれば、コイルへの通電により機械的なクラッチ接続動作を伴ないながら閉動作するスタータモータのマグネットスイッチが有する機械的作動時間を遅延時間として有効利用し、マグネットスイッチが閉動作される前にキースイッチのオン位置からスタート位置への切換により、電源とマグネットスイッチとの間の電源ライン中の常開接点を有するプロテクトリレーを閉じるとともに、キースイッチのスタート位置からオン位置への切換によりプロテクトリレーの開動作をオフディレイタイマにより遅延させて、マグネットスイッチの開動作後にプロテクトリレーを開くことで、要するに、大電流に耐えうるマグネットスイッチが開いているときにプロテクトリレーを開閉することで、プロテクトリレーを大電流から保護できる遅延時間を確保でき、プロテクトリレーを制御する複雑なコントローラを設置する必要がなく、プロテクトリレー制御回路の簡素化を図ることができる。
【0011】
請求項2に記載された発明によれば、電源ラインに地絡が発生しているときは、モニタが地絡状態を知らせるので、オペレータは、キースイッチをスタート位置に操作するときのみ、このモニタを見て地絡状態に気を付ければ地絡に対処できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るスタータモータ制御回路の一実施の形態を示す回路図である。
【図2】同上回路の各部の制御手順を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を、図1および図2に示された一実施の形態を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
図1は油圧ショベルなどの作業機械の車両に搭載されたエンジンを始動制御するスタータモータ制御回路を示し、バッテリなどの電源11にヒューズ12を介してキースイッチ13が接続されている。このキースイッチ13は、オフ位置と、オフディレイタイマ14にライン15を介し接続されたオン位置と、エンジンクランキング用のスタート位置STとを備え、これらの位置の切換が可能である。キースイッチ13の接点は、クランキング用のスタート位置STにあるときは、オン位置にも接続されている。
【0015】
キースイッチ13のスタート位置STにはスタータリレー16のコイル16cの一端が接続されている。このコイル16cの他端はグラウンドに接続されている。このスタータリレー16は、コイル16cの励磁により閉じられる常開接点16aを備え、この常開接点16aは、電源側のライン17と、エンジン始動用のスタータモータ18のスタータモータ始動信号ライン19とに接続されている。
【0016】
電源11とスタータモータ18との間の電源ライン21中における電源側には、プロテクトリレー22が設けられている。このプロテクトリレー22のコイル22cは、一端が上流側電源ライン21aに接続され、他端がプロテクトリレー励磁ライン23によりオフディレイタイマ14に接続され、このオフディレイタイマ14はライン15を介しキースイッチ13のオン位置に接続されている。さらに、プロテクトリレー22には、コイル22cの励磁により閉じられる電源ライン21中の常開接点22aが設けられている。
【0017】
オフディレイタイマ14は、キースイッチ13がスタート位置STでは作動せず、キースイッチ13をスタート位置STからオン位置(クランキング終了位置)に戻した時のみ遅延オフ動作して、励磁状態のプロテクトリレー22のオフ動作のタイミングのみを遅らせ、オン動作のタイミングは制御しない。
【0018】
すなわち、オフディレイタイマ14は、キースイッチ13をスタート位置STからオン位置に戻した時に、プロテクトリレー22の励磁状態を微小時間維持した後、プロテクトリレー22を非励磁状態にするものであり、このオフディレイタイマ14には、遅延以外の他の制御機能、例えば地絡検知などによりプロテクトリレー22を制御する制御機能はない。
【0019】
一方、電源ライン21は、この電源ライン21の地絡を検知する地絡検知ライン24により、作業機械の機体を制御する電子制御モジュール(ECM)とも呼ばれる車両コントローラ26と接続され、さらにこの車両コントローラ26から通信手段27により、作業機械などのキャブ内のオペレータが目視可能な位置に設置されたモニタ28に接続されている。
【0020】
車両コントローラ26は、オフディレイタイマ14から独立して、電源ライン21の地絡を地絡検知ライン24により検知する機能を備えており、その検知結果は、通信手段27を経てモニタ28で警告表示または報知するなどして、オペレータに電源ライン21で発生した地絡状態を知らせる。この地絡検知信号は、プロテクトリレー22などの制御に利用されることはない。
【0021】
電源11は、ブレーカ31を介してオルタネータ32に接続され、ライン17を介してスタータリレー16の常開接点16aの端子に接続され、ヒューズ33を介して各負荷/回路にも接続されている。
【0022】
また、スタータモータ18は、常開接点であるマグネットスイッチ41を備え、このマグネットスイッチ41の作動軸42にコイル43が設けられ、このコイル43およびマグネットスイッチ41の接点44にフィールドコイル45を介してアーマチャ46が電気的に接続され、このアーマチャ46の回転軸に設けられたピニオン47が、エンジンのフライホイールに設けられたフライホイールギヤ48に対して、クラッチ49により係脱自在に設けられ、このクラッチ49を作動するレバー50は、マグネットスイッチ41の作動軸42に連結され、この作動軸42は、スプリング51によりマグネットスイッチ41を開く側に附勢されている。要するに、エンジン始動用のスタータモータ18は、コイル43への通電によりスプリング51に抗して機械的なクラッチ接続動作を伴ないながら閉動作するマグネットスイッチ41を備えている。
【0023】
スタータリレー16は、キースイッチ13のスタート位置STによりコイル16cが励磁されると、常開接点16aを閉じ、電源11からマグネットスイッチ41のコイル43に通電をする。
【0024】
オフディレイタイマ14は、キースイッチ13のオン位置からスタート位置STへの切換時は、マグネットスイッチ41自身が有する機械的遅れ要素により遅延時間を介し閉動作される前にプロテクトリレー22を閉じるとともに、キースイッチ13のスタート位置STからオン位置への切換によりプロテクトリレー22の開動作を遅延させてマグネットスイッチ41が開動作された後にプロテクトリレー22を開くものである。
【0025】
次に、図2を参照しながら、この実施の形態の作用を説明する。
【0026】
キースイッチ13を、オン位置を経てスタート位置ST(クランキング)に入れると、オフディレイタイマ14はクランキング時のオン動作には遅延機能を持たないので、電源11の+極からプロテクトリレー22のコイル22c、オフディレイタイマ14、キースイッチ13およびスタータリレー16のコイル16cを経てグラウンドに至る回路が閉成されて、プロテクトリレー22が閉じるとともに、スタータリレー16のコイル16cが励磁され、常開接点16aが閉じるので、スタータモータ18のコイル43が励磁され、マグネットスイッチ41が閉方向に動作するが、その際に、マグネットスイッチ41は、スプリング51に抗して、かつレバー50を介してクラッチ49をストローク動作しながら、ピニオン47とフライホイールギヤ48とを噛合わせるように作用する。
【0027】
すなわち、マグネットスイッチ41がオン動作し、レバー50を介してクラッチ49がストローク作動し、ピニオン47とフライホイールギヤ48とが機械的に噛合うタイミングは、プロテクトリレー22がオン動作するタイミングよりも確実に遅れるため、特別な遅延制御をしなくても、プロテクトリレー22の閉じ動作に対するマグネットスイッチ41の閉じ動作に遅延時間(図2におけるt1)を確保でき、プロテクトリレー22が閉じるときはマグネットスイッチ41は確実に開いている。
【0028】
一方、キースイッチ13がスタート位置STからオン位置に戻されると、電源11、プロテクトリレー22のコイル22c、オフディレイタイマ14、キースイッチ13およびスタータリレー16のコイル16cを経てグラウンドに至る回路が、キースイッチ13において開くので、スタータリレー16およびスタータモータ18のマグネットスイッチ41は、直ちに開き動作されるが、プロテクトリレー22は、オフディレイタイマ14の開き動作遅延作用により閉じ状態が設定時間維持され、マグネットスイッチ41が確実に開いた後に、電源11と電源ライン21との間を開く。すなわち、マグネットスイッチ41の開き動作に対するプロテクトリレー22の開き動作に遅延時間(図2におけるt2)を確保できる。
【0029】
そして、キースイッチ13がオン位置にあるときは、電装品への電力供給は可能であるが、プロテクトリレー22は、開き状態にあるので、電源ライン21に地絡が生じても、電源11から電源ライン21の地絡箇所に電流が流れることをプロテクトリレー22で遮断できる。要するに、クランキング時以外は、プロテクトリレー22により、予めスタータモータ18への電源ライン21を切断し、スタータモータ18を始動させるクランキング時のみ接続するので、クランキング時以外に電源ライン21が短絡しても短絡電流の発生を防止できる。
【0030】
このように、マグネットスイッチ41を開いて大電流が流れない状態の下で、プロテクトリレー22を閉じるとともに開くようにすることで、プロテクトリレー22の接点を開閉動作する。
【0031】
次に、この実施の形態の効果を説明する。
【0032】
コイル43への通電により機械的なクラッチ接続動作を伴ないながら閉動作するスタータモータ18のマグネットスイッチ41が有する機械的作動時間を遅延時間として有効利用し、このマグネットスイッチ41が閉動作される前に、キースイッチ13のオン位置からスタート位置への切換により、電源11とマグネットスイッチ41との間の電源ライン21中にあるプロテクトリレー22の常開接点22aを閉じるとともに、キースイッチ13のスタート位置からオン位置への切換によりプロテクトリレー22の開動作をオフディレイタイマ14により遅延させて、マグネットスイッチ41の開動作後にプロテクトリレー22の常開接点22aを開くことで、要するに、大電流に耐えうるマグネットスイッチ41が開いているときにプロテクトリレー22を開閉することで、このプロテクトリレー22を大電流から保護できる遅延時間を確保でき、プロテクトリレー22を制御する複雑なコントローラを設置する必要がなく、プロテクトリレー制御回路の簡素化を図ることができる。
【0033】
すなわち、プロテクトリレー22の制御手段はオフディレイタイマ14のみであり、他の複雑な制御手段は用いる必要がない。なお、このオフディレイタイマ14は、既設の車両コントローラ26内に設けられた機能でも対応可能であるが、この車両コントローラ26は、地絡を検知したら、地絡検知をモニタ28でオペレータに知らせるのみで、地絡検知信号をオフディレイタイマ14などの制御に利用するものではないので、既設コントローラをそのまま用いることができる。
【0034】
エンジン始動後に、電源ライン21に地絡が発生したときは、プロテクトリレー22の常開接点22aが開いているために、電源11から短絡電流が流れることはないとともに、車両コントローラ26からの地絡処理信号を受けたモニタ28が、地絡状態や地絡の改修処置をオペレータに知らせるので、オペレータは、キースイッチ13をスタート位置に操作するときのみ、このモニタ28を見て地絡状態に気を付ければ、地絡に対処できる。
【0035】
プロテクトリレー22とマグネットスイッチ41の開閉タイミングをずらして、マグネットスイッチ41を経た大電流が流れないときに、プロテクトリレー22の接点を開閉するので、プロテクトリレー22の接点電流容量を定格電流値より大きくすることができ、比較的小型のリレーでも対応できる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、油圧ショベル、ローダ、ブルドーザなどの作業機械、その他の車両、定置型動力装置などに利用可能である。
【符号の説明】
【0037】
11 電源
13 キースイッチ
14 オフディレイタイマ
16 スタータリレー
16a 常開接点
18 スタータモータ
21 電源ラインとしての電源ライン
22 プロテクトリレー
22a 常開接点
28 モニタ
41 マグネットスイッチ
43 コイル
49 クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルへの通電により機械的なクラッチ接続動作を伴ないながら閉動作するマグネットスイッチを備えたエンジン始動用のスタータモータを制御するスタータモータ制御回路であって、
電源に接続され、オフ位置、オン位置およびスタート位置の切換が可能なキースイッチと、
このキースイッチのスタート位置により励磁されて閉じることで電源からマグネットスイッチのコイルに通電する常開接点を有するスタータリレーと、
電源とマグネットスイッチとの間の電源ライン中における電源側に設けられた常開接点を有するプロテクトリレーと、
キースイッチのオン位置からスタート位置への切換によりマグネットスイッチが閉動作される前にプロテクトリレーを閉じるとともに、キースイッチのスタート位置からオン位置への切換によりプロテクトリレーの開動作を遅延させてマグネットスイッチが開動作された後にプロテクトリレーを開くオフディレイタイマと
を具備したことを特徴とするスタータモータ制御回路。
【請求項2】
電源ラインの地絡状態を知らせるモニタ
を具備したことを特徴とする請求項1記載のスタータモータ制御回路。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−163936(P2010−163936A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5983(P2009−5983)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(000190297)キャタピラージャパン株式会社 (1,189)