説明

ステアバイワイヤ式操舵装置

【課題】小型化と軸方向長さ短縮化が可能なステアバイワイヤ式操舵装置を提供する。
【解決手段】操舵入力装置と、これと機械的に分離された転舵装置2と、操舵入力装置からの入力信号により転舵装置2を制御する転舵制御装置とを備える。転舵装置2は、転舵アクチュータ6と、その回転出力軸7の回転を軸方向への直進運動に変換して操舵リンク機構に伝達する直動機構部8とでなる。直動機構部8は、回転出力軸7の外径側の外輪部材13と、回転出力軸7に支持されるキャリア14と、その支持ピン15に支持されて回転出力軸7・外輪部材13間に配置された複数の遊星ローラ16と、遊星ローラ16の自公転を外輪部材13や回転出力軸7に対する軸方向への相対移動に変換させる軸方向相対移動手段17と、遊星ローラ16の相対移動に応じた外輪部材13の軸方向移動を操舵リンク機構に伝達して転舵輪を転舵させるアーム18とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気自動車などにおける車両のステアバイワイヤ式操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のステアバイワイヤ式操舵装置として、ステアリングホイール等の操舵入力装置と、この操舵入力装置と機械的に分離された操舵リンク機構と、前記操舵入力装置の操作に応じて前記操舵リンク機構を駆動する転舵アクチュエータと、ボールねじ機構とを備えるものが提案されている(例えば特許文献1)。
このステアバイワイヤ式操舵装置では、前記ボールねじ機構がねじ軸とナット軸を備え、前記操舵リンク機構は前記ナット軸に回動自在に支承されており、ねじ軸が転舵アクチュエータにより回転駆動されることによって、操舵リンク機構がナット軸を介して駆動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−326459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気自動車においては、ガソリン車のエンジンルームに相当する部分にバッテリやインバータ等を搭載して、車内スペースを少しでも広く確保することが必要である。そのため、ステアバイワイヤ式操舵装置の転舵機構はホイールハウス内に収まる構造にする必要がある。しかし、ボールねじ機構を有する特許文献1に開示のステアバイワイヤ式操舵装置では、転舵に要するトルクを出すために転舵アクチュエータとボールねじ(直動機構)との間に減速機を介在させる必要がある。このため、軸方向のスペース確保が必要になる。また、タイヤからの逆入力時にモータが回されるため、常にモータを制御する(電力消費になる)か、逆入力防止機構を付加する必要がある。
【0005】
この発明の目的は、装置の小型化が可能で軸方向長さも短かくできるステアバイワイヤ式操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のステアバイワイヤ式操舵装置は、操舵入力装置と、この操舵入力装置と機械的に分離された転舵装置と、前記操舵入力装置からの入力信号に基づき前記転舵装置を制御する転舵制御装置とを備えるステアバイワイヤ式操舵装置において、
前記転舵装置は、回転出力軸を有し転舵の駆動源となる転舵アクチュータと、この転舵アクチュエータの前記回転出力軸の回転を軸方向への直進運動に変換して転舵輪に連結される操舵リンク機構に伝達する直動機構部とでなり、
前記直動機構部は、前記回転出力軸の外径側にこれと同心に配置された外輪部材と、前記回転出力軸に回転自在に支持されるキャリアと、このキャリアに設けられた支持ピンに回転自在に支持されて前記回転出力軸の外径面と前記外輪部材の内径面との間に配置され、前記回転出力軸の回転に伴い回転出力軸の周囲を自転しながら公転する複数の遊星ローラと、これらの各遊星ローラと前記外輪部材との間、または前記各遊星ローラと前記回転出力軸との間に設けられ、遊星ローラの自公転を軸方向移動に変換して前記外輪部材または前記回転出力軸に対して前記各遊星ローラを軸方向に相対移動させる軸方向相対移動手段と、前記各遊星ローラの相対移動に応じた前記外輪部材の軸方向移動を前記操舵リンク機構に伝達して転舵輪を転舵させるアームとを有することを特徴とする。
【0007】
この構成によると、転舵装置において、転舵アクチュエータの回転出力軸の回転を、遊星ローラの自公転により外輪部材の軸方向移動に変換するようにしているので、遊星ローラの機構が回転力を直線運動に変換する変換機構として機能するだけでなく、減速機の役割も担うことになり、小型化および軸方向長さの短縮化が可能となる。これにより、ステアバイワイヤ式操舵装置の転舵機構をホイールハウス内に収めることができ、それだけ車内スペースを広く確保することができる。
また、回転力を直線運動に変換する変換機構として遊星ローラを用いることにより、荷重保持も可能となるため、車両の直進等で転舵角を保持することができる。このことから、走行中の転舵輪からの逆入力を防止することが可能となり、これらのことから省電力化も可能となる。
【0008】
この発明において、前記軸方向相対移動手段は、前記外輪部材の内径面または前記回転出力軸の外径面に設けられた螺旋状の凸条と、この凸条と等ピッチで前記各遊星ローラの外径面に設けられ、前記凸条に嵌まり込む周方向溝とでなるものとしても良い。
この場合に、前記各遊星ローラの外径面に設けられた周方向溝は、前記螺旋状の凸条とリード角が異なるものとしても良い。
【0009】
この発明において、前記軸方向相対移動手段は、前記各遊星ローラの周方向配列と同一ピッチで前記回転出力軸の外径面に設けられ、前記各遊星ローラの外径面が嵌合する螺旋溝からなるものとしても良い。
【0010】
この発明において、前記直動機構部には、前記外輪部材の回転を防止する回り止めが設けられてる。
【0011】
この発明において、前記直動機構部は、前記各遊星ローラの自転を支持する1つまたは複数のスラスト軸受と、前記各遊星ローラの公転を支持する1つまたは複数のスラスト軸受とを有するものとしても良い。
【0012】
この発明において、前記直動機構部はハウジングで覆われており、このハウジング内に封入した潤滑剤で直動機構部が潤滑されるものとしても良い。
【0013】
この場合に、前記ハウジングには、前記転舵装置を車体に固定するための1つまたは複数の固定部が設けられていても良い。また、この場合に、前記固定部は、前記ハウジングにおける直動機構部の配置側に設けられていても良い。
【0014】
この発明において、前記アームは、前記操舵リンク機構に連結されていても良い。
【0015】
この発明において、前記転舵アクチュエータの本体部をその軸心が前記直動機構部に配置される前記回転出力軸と平行となるように配置し、転舵アクチュエータの本体部からの回転出力を動力伝達機構を介して前記回転出力軸に伝達するようにしても良い。本体部は例えばモータである。この構成の場合、装置の軸方向長さをさらに短縮化できる。
【0016】
この場合に、前記動力伝達機構が、ギア、ベルト、またはチェーンからなるものであっても良い。動力伝達機構として歯車機構を用いた場合には、より大きなトルクを得ることができる。なお、動力伝達機構の構成には、ギアのほか、ベルトやチェーンを用いても良い。また、前記動力伝達機構がギアで構成される場合、そのギアが、平歯車、はすば歯車、またはかさ歯車のいずれかであっても良い。
【0017】
この発明において、前記転舵アクチュエータの本体部はモータであっても良い。この場合に、前記モータが角度センサ付きモータであっても良い。
【0018】
この発明において、前記直動機構部における前記回転出力軸外径面の螺旋状凸条または螺旋溝の形成箇所、前記各遊星ローラ外径面および前記外輪部材内径面の螺旋状凸条の形成箇所が、表面改質された部材からなるものであることが耐磨耗性の観点から望ましい。表面改質された部材の一例として、無電解NiにPTEE等の摺動材を分散させた部材や、DLC膜等を挙げることができる。
【0019】
この発明の車両は、上記発明のいずれかのステアバイワイヤ式操舵装置を備えたことを特徴とする。
この構成によると、ステアバイワイヤ式操舵装置の小型化が可能で軸方向長さも短かくできるので、ステアバイワイヤ式操舵装置の転舵機構をホイールハウス内に収めることができ、それだけ車内スペースを広く確保することができる。
【発明の効果】
【0020】
この発明のステアバイワイヤ式操舵装置は、操舵入力装置と、この操舵入力装置と機械的に分離された転舵装置と、前記操舵入力装置からの入力信号に基づき前記転舵装置を制御する転舵制御装置とを備えるステアバイワイヤ式操舵装置において、前記転舵装置は、回転出力軸を有し転舵の駆動源となる転舵アクチュータと、この転舵アクチュエータの前記回転出力軸の回転を軸方向への直進運動に変換して転舵輪に連結される操舵リンク機構に伝達する直動機構部とでなり、前記直動機構部は、前記回転出力軸の外径側にこれと同心に配置された外輪部材と、前記回転出力軸に回転自在に支持されるキャリアと、このキャリアに設けられた支持ピンに回転自在に支持されて前記回転出力軸の外径面と前記外輪部材の内径面との間に配置され、前記回転出力軸の回転に伴い回転出力軸の周囲を自転しながら公転する複数の遊星ローラと、これらの各遊星ローラと前記外輪部材との間、または前記各遊星ローラと前記回転出力軸との間に設けられ、遊星ローラの自公転を軸方向移動に変換して前記外輪部材または前記回転出力軸に対して前記各遊星ローラを軸方向に相対移動させる軸方向相対移動手段と、前記各遊星ローラの相対移動に応じた前記外輪部材の軸方向移動を前記操舵リンク機構に伝達して転舵輪を転舵させるアームとを有するものとしたため、装置の小型化が可能で軸方向長さも短かくできる。
この発明の車両は、上記発明のステアバイワイヤ式操舵装置を備えたため、ステアバイワイヤ式操舵装置の小型化が可能で軸方向長さも短かくでき、ステアバイワイヤ式操舵装置の転舵機構をホイールハウス内に収めることができ、それだけ車内スペースを広く確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の一実施形態にかかるステアバイワイヤ式操舵装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】同ステアバイワイヤ式操舵装置における転舵装置の平面図である。
【図3】同転舵装置の直動機構部を破断して示す平面図である。
【図4】この発明の他の実施形態にかかるステアバイワイヤ式操舵装置における転舵装置の直動機構部を破断して示す平面図である。
【図5】この発明のさらに他の実施形態にかかるステアバイワイヤ式操舵装置における転舵装置の直動機構部を破断して示す平面図である。
【図6】図5のVI−VI矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明の一実施形態を図1ないし図3と共に説明する。このステアバイワイヤ式操舵装置は、図1に概略図で示すように、例えば電気自動車の転舵輪10(ここでは左右前輪)の操舵に適用されるものであって、操舵入力装置1と、この操舵入力装置1と機械的に分離された転舵装置2と、前記操舵入力装置1からの入力信号に基づき前記転舵装置2を制御する転舵制御装置3とを備える。操舵入力装置1は例えば運転者が操舵するステアリングホイールからなり、その操舵情報である転舵角などを入力信号として前記転舵制御装置3に入力する。転舵制御装置3は、車両の全体を制御するECU(電気制御ユニット)4に、その一部として組み込まれている。転舵装置2は、各転舵輪10に対応してそれぞれ別々に車体9内に配置され、各転舵装置2と、これに対応する転舵輪10との間に操舵リンク機構5が介在する。操舵リンク機構5はナックルアーム11とタイロッド12とで構成されている。
【0023】
転舵装置2は、図3に示すように、回転出力軸7を有し転舵の駆動源となる転舵アクチュエータ6と、直動機構部8とでなる。ここでは、転舵アクチュエータ6として電動式のモータが用いられ、転舵アクチュエータ6は直動機構部8と同一軸線上に並べて配置される。また、転舵アクチュエータ6の回転出力軸7として、モータのロータシャフトが用いられている。転舵アクチュエータ6となるモータとしては、例えば角度センサ付きモータが用いられる。直動機構部8は、転舵アクチュエータ6の回転出力軸7の回転を軸方向への直進運動に変換して、前記転舵輪10に連結される操舵リンク機構5に伝達する機能を有する。
【0024】
直動機構部8は、前記回転出力軸7の外径側にこれと同心に配置された外輪部材13と、回転出力軸7の外周に回転自在に支持されるキャリア14と、このキャリア14に設けられた支持ピン15に回転自在に支持された複数の遊星ローラ16と、外輪部材13または回転出力軸7に対して各遊星ローラ16を軸方向に相対移動させる軸方向相対移動手段17と、各遊星ローラ16の相対移動に応じた外輪部材13の軸方向移動を前記操舵リンク機構5に伝達して転舵輪10を転舵させるアーム18とを有する。アーム18は、操舵リンク機構5に連結されている。この直動機構部8は、前記モータからなる転舵アクチュエータ6の外装体と一体となったハウジング19で覆われており、このハウジング19内に封入した潤滑剤で直動機構部8が潤滑される。
【0025】
各遊星ローラ16は、回転出力軸7の外径面と外輪部材13の内径面との間において周方向に等ピッチの配列で3個またはそれ以上が配置され、回転出力軸7の回転に伴い回転出力軸7の周囲を自転しながら公転する。前記キャリア14は、前記各遊星ローラ16を挟んで軸方向に一対配置され、これら両キャリア14間に跨がって複数の支持ピン15が設けられている。両キャリア14の内径面と回転出力軸7の外径面との間には転がり軸受20が設けられている。また、両キャリア14とこれらの一側面に対向する各遊星ローラ16の端面との間には、それぞれ遊星ローラ16の自転を支持する複数のスラスト軸受21が設けられている。さらに、両キャリア14の遊星ローラ16と対向する側面とは反対側の各側面には、回転出力軸7に回転自在に支持された間座22,23がそれぞれ設けられている。転舵アクチュエータ6の主要部に近接した一方の間座22と、転舵アクチュエータ6の主要部から直動機構部8側に張り出す前記ハウジング19の一部19aとの間には、遊星ローラ16の公転を支持するスラスト軸受24が設けられている。また、転舵アクチュエータ6の主要部から軸方向に離間した他方の間座23と、外輪部材13の内径側に張り出す肩部13aとの間にも、遊星ローラ16の公転を支持するスラスト軸受24が設けられている。回転出力軸7の基端部は、転がり軸受27を介して前記ハウジング19の一部19aに支持されている。なお、前記間座24と外輪部材13の肩部13aとの間には、外輪部材13を回り止めする回り止め(図示せず)が設けられる。
【0026】
各遊星ローラ16を軸方向に相対移動させる軸方向相対移動手段17は、各遊星ローラ16と外輪部材13との間、または各遊星ローラ16と回転出力軸7との間に設けられる。ここでは、外輪部材13の内径面に設けられた螺旋状の凸条25と、この凸条25と等ピッチで各遊星ローラ16の外径面に設けられ、前記凸条25に嵌まり込む周方向溝26とで、前記軸方向相対移動手段17が構成される。この場合に、各遊星ローラ16の外径面に設けられた周方向溝26は、前記螺旋状の凸条25とリード角が異なっていても良い。このように軸方向相対移動手段17が構成された場合、回転出力軸7の回転に伴い回転出力軸7の回りを自公転する遊星ローラ16の動きで、外輪部材13が軸方向に移動する。
【0027】
このほか、螺旋状の凸条25を回転出力軸7の外径面に設け、この凸条25に嵌まり込む各遊星ローラ16の外径面の周方向溝26とで軸方向相対移動手段17を構成しても良い。このように軸方向相対移動手段17が構成された場合、回転出力軸7の回転に伴い、遊星ローラ16は回転出力軸7の回りを自公転しながら軸方向へ移動し、遊星ローラ16と共に外輪部材13も軸方向へ移動する。
【0028】
さらには、軸方向相対移動手段17として、各遊星ローラ16の周方向配列と同一ピッチで回転出力軸7の外径面に、各遊星ローラ16の外径面が嵌合する螺旋溝を形成しても良い。このように軸方向相対移動手段17が構成された場合にも、回転出力軸7の回転に伴い、遊星ローラ16は回転出力軸7の回りを自公転しながら軸方向へ移動し、遊星ローラ16と共に外輪部材13も軸方向へ移動する。
【0029】
これらの場合に、前記回転出力軸7の外径面の螺旋状凸条25または螺旋溝の形成箇所、前記各遊星ローラ16の外径面および前記外輪部材13の内径面の螺旋状凸条25の形成箇所は、表面改質された部材からなるものとするのが、耐磨耗性の観点から望ましい。表面改質された部材の一例として、無電解NiにPTEE等の摺動材を分散させた部材や、DLC膜等を挙げることができる。
【0030】
転舵装置2の外観図を示す図2のように、前記ハウジング19には、転舵装置2を車体9(図1)に固定するための1つまたは複数の固定部28が設けられる。その固定部28は、ここでは直動機構部8の配置側に設けられる。直動機構部8より軸方向に突出するアーム18から、操舵リンク機構5のナックルアーム11にわたる部分は蛇腹状のブーツ29により覆われている。
【0031】
この構成ステアバイワイヤ式操舵装置によると、ステアリングホイールなどの操舵入力装置1からその操作に伴う転舵情報が入力信号としてECU4の転舵制御装置3に入力され、転舵制御装置3はその入力信号に基づき両転舵輪10に対応する各転舵装置2を制御する。転舵装置2では、転舵アクチュエータ6がその回転出力軸7を前記転舵情報に応じた量だけ回転駆動する。回転出力軸7の回転に伴い、転舵装置2の直動機構部8では、各遊星ローラ16が回転出力軸7の周囲を自転しながら公転する。これに伴い、軸方向相対移動手段17は、各遊星ローラ16の自公転を、外輪部材13または回転出力軸7に対する軸方向への相対移動に変換させる。これにより、外輪部材13が各遊星ローラ16の相対移動量に応じた軸方向移動を行い、この軸方向移動がアーム18を経て操舵リンク機構5に伝達され、転舵輪10が転舵される。
【0032】
このように、このステアバイワイヤ式操舵装置では、転舵装置2において、転舵アクチュエータ6の回転出力軸7の回転を、遊星ローラ16の自公転により外輪部材13の軸方向移動に変換するようにしているので、遊星ローラ16の機構が回転力を直線運動に変換する変換機構として機能するだけでなく、減速機の役割も担うことになり、小型化および軸方向長さの短縮化が可能となる。すなわち、従来のボールねじを用いる直動機構では転舵に要するトルクを出すためにモータとボールねじの間に減速機を設ける必要があるが、前記遊星ローラ16の自公転を利用した直動機構部8とすることで、直線運動への変換機能と減速機能を兼ねることができ、小型化および軸方向長さの短縮化が可能となる。これにより、ステアバイワイヤ式操舵装置の転舵機構をホイールハウス内に収めることができ、それだけ車内スペースを広く確保することができる。
また、回転力を直線運動に変換する変換機構としてねじ付きの遊星ローラ16を用いることにより、荷重保持も可能となるため、車両の直進等で転舵角を保持することや、走行中の転舵輪からの逆入力を防止することが可能となり、これらのことから省電力化も可能となる。
【0033】
図4は、この発明の他の実施形態を示す。このステアバイワイヤ式操舵装置では、転舵装置2における転舵アクチュエータ6の本体部であるモータ30を、その軸心が直動機構部8に配置される回転出力軸7と互いに平行となるように配置している。すなわち、この場合、回転出力軸7は、モータ30のロータシャフトとは別体の部材とされる。モータ30からの回転出力は動力伝動機構31を介して回転出力軸7に伝達される。ここでは、動力伝達機構31の一部として、回転出力軸7に設けたギア等の入力回転部材32を示している。図示しないが、モータ30のロータシャフトにはギア等の出力回転部材が設けられ、この出力回転部材と前記入力回転部材32とが、中間ギア(図示せず)を介して、または直接に噛み合って、動力伝達機構31が構成される。この場合に、動力伝達機構31を構成する入力回転部材32や出力回転部材として、平歯車、はすば歯車、かさ歯車などを用いることができる。その他の構成は、図1〜図3に示した先の実施形態の場合と同様である。
【0034】
このように、この実施形態では、転舵装置2において、転舵アクチュエータ6の主要部であるモータ30を、その軸心が直動機構部8に配置される回転出力軸7と互いに平行となるように配置しているので、装置の軸方向長さをさらに短縮することができる。また、モータ30から回転出力軸7への回転伝達を行う動力伝達機構31として、この実施形態のように歯車機構を用いた場合には、より大きなトルクを得ることができる。
なお、動力伝達機構31には、スプロケットやプーリと無端のチェーンやベルトによる巻き掛け式の機構を用いても良い。
【0035】
図5および図6は、この発明のさらに他の実施形態を示す。なお、図6は、図5におけるVI−VI矢視断面図を示す。このステアバイワイヤ式操舵装置では、図1〜図3に示す実施形態において、アーム18の外輪部材13側の端面に複数の切欠き部18aを設け、外輪部材13のアーム側端面に設けた係合突部13bをアーム18の切欠き部18aに嵌合させ、外輪部材13の回り止めを行う回り止め手段33を構成している。その他の構成は図1〜図3に示した実施形態の場合と同様である。
【符号の説明】
【0036】
1…操舵入力装置
2…転舵装置
3…転舵制御装置
5…操舵リンク機構
6…転舵アクチュエータ
7…回転出力軸
8…直動機構部
10…転舵輪
13…外輪部材
14…キャリア
15…支持ピン
16…遊星ローラ
17…軸方向相対移動手段
18…アーム
19…ハウジング
21…スラスト軸受
24…スラスト軸受
25…螺旋状の凸条
26…周方向溝
28…固定部
30…モータ
31…動力伝達機構
32…入力ギア
33…回り止め

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵入力装置と、この操舵入力装置と機械的に分離された転舵装置と、前記操舵入力装置からの入力信号に基づき前記転舵装置を制御する転舵制御装置とを備えるステアバイワイヤ式操舵装置において、
前記転舵装置は、回転出力軸を有し転舵の駆動源となる転舵アクチュータと、この転舵アクチュエータの前記回転出力軸の回転を軸方向への直進運動に変換して転舵輪に連結される操舵リンク機構に伝達する直動機構部とでなり、
前記直動機構部は、前記回転出力軸の外径側にこれと同心に配置された外輪部材と、前記回転出力軸に回転自在に支持されるキャリアと、このキャリアに設けられた支持ピンに回転自在に支持されて前記回転出力軸の外径面と前記外輪部材の内径面との間に配置され、前記回転出力軸の回転に伴い回転出力軸の周囲を自転しながら公転する複数の遊星ローラと、これらの各遊星ローラと前記外輪部材との間、または前記各遊星ローラと前記回転出力軸との間に設けられ、遊星ローラの自公転を軸方向移動に変換して前記外輪部材または前記回転出力軸に対して前記各遊星ローラを軸方向に相対移動させる軸方向相対移動手段と、前記各遊星ローラの相対移動に応じた前記外輪部材の軸方向移動を前記操舵リンク機構に伝達して転舵輪を転舵させるアームとを有することを特徴とするステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項2】
請求項1において、前記軸方向相対移動手段は、前記外輪部材の内径面または前記回転出力軸の外径面に設けられた螺旋状の凸条と、この凸条と等ピッチで前記各遊星ローラの外径面に設けられ、前記凸条に嵌まり込む周方向溝とでなるステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項3】
請求項2において、前記各遊星ローラの外径面に設けられた周方向溝は、前記螺旋状の凸条とリード角が異なるステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項4】
請求項1において、前記軸方向相対移動手段は、前記各遊星ローラの周方向配列と同一ピッチで前記回転出力軸の外径面に設けられ、前記各遊星ローラの外径面が嵌合する螺旋溝からなるステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記直動機構部には、前記外輪部材の回転を防止する回り止めが設けられているステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記直動機構部は、前記各遊星ローラの自転を支持する1つまたは複数のスラスト軸受と、前記各遊星ローラの公転を支持する1つまたは複数のスラスト軸受とを有するステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記直動機構部はハウジングで覆われており、このハウジング内に封入した潤滑剤で直動機構部が潤滑されるステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記転舵アクチュエータの本体部をその軸心が前記直動機構部に配置される前記回転出力軸と平行となるように配置し、転舵アクチュエータの本体部からの回転出力を動力伝達機構を介して前記回転出力軸に伝達するようにしたステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記転舵アクチュエータの本体部がモータであり、角度センサ付であるステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載のステアバイワイヤ式操舵装置を備えたことを特徴とする車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−95310(P2013−95310A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241109(P2011−241109)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】