説明

ステッチパルス溶接方法

【課題】幅広い溶接ビードを形成できるステッチパルス溶接方法を提供する。
【解決手段】作業線L上の作業位置にアーク溶接トーチTを移動させて溶接を行った後、所定の移動ピッチだけ離間した次の作業位置で再度溶接を行うことを繰り返しながら、各作業位置での溶接によって形成される溶接痕を重ね合わせてワークW上に溶接ビードを形成するステッチパルス溶接方法において、作業位置Pnを含み、作業線方向Drおよび作業線Lと直交する方向に所定幅を有した所定領域に溶接軌道Kcを生成し、この溶接軌道Kcに従ってアーク溶接トーチTの先端部を移動させながら溶接を行う。溶接軌道Kcは、円または楕円または螺旋の溶接軌道であり、予め定めた軌道パターンの中から選択されたパターンに応じて生成される。各作業位置において溶接軌道Kcによって溶接痕が形成されるから幅広い溶接ビードを実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄板の母材に与える熱影響を最小限に抑えながら溶接を行うステッチパルス溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステッチパルス溶接とは、溶接時の入熱と冷却をコントロールすることにより、母材に与える熱影響を最小限に抑える溶接法である。薄板溶接の自動化を目的とした溶接法であって、従来の薄板溶接に比べ、溶接外観を向上させ、溶接歪み量を低減させることができるとされている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、アーク溶接トーチを停止させた状態で予め定めた時間だけアークを発生させて母材を溶融させ、その設定時間が経過した後にアークを停止させ、かつアーク溶接トーチを溶融部外周側のアーク再開始点に移動させる手段が開示されている。以下、この従来技術について説明する。
【0004】
図13は、従来のステッチパルス溶接装置51を示した図である。
【0005】
マニピュレータMは、ワークWに対してアーク溶接を自動で行うものであり、上アーム53、下アーム54及び手首部55と、これらを回転駆動するための複数のサーボモータ(図示せず)とによって構成されている。
【0006】
アーク溶接トーチTは、マニピュレータMの上アーム53の先端部分に取り付けられており、ワイヤリール56に巻回された直径1mm程度の溶接ワイヤ57をワークWの教示された溶接位置に導くためのものである。溶接電源APは、アーク溶接トーチTとワークWとの間に溶接電圧を供給する。ワークWに溶接を行う際は、溶接ワイヤ57をアーク溶接トーチTの先端から所望の突き出し長Ewだけ突き出した状態で行われる。突き出し長Ewの長さは、一般的に15mm前後にすることが多いが、溶接箇所の開先形状、溶接施工条件等に合わせて作業者が後述するティーチペンダントTPを用いて予め所望長に調整することが可能である。
【0007】
コンジットケーブル52は、内部に溶接ワイヤ57を案内するためのコイルライナ(図示せず)を備えており、アーク溶接トーチTに接続されている。さらにコンジットケーブル52は、溶接電源APからの電力及びガスボンベ58からのシールドガスをもアーク溶接トーチTに供給する。
【0008】
操作手段としてのティーチペンダントTPは、いわゆる可搬式操作盤であって、マニピュレータMの動作、ステッチパルス溶接を行わせるために必要な条件(溶接電流、溶接電圧、移動速度、移動ピッチ、溶接時間および冷却時間)等を設定するためのものである。作業者は、このティーチペンダントTPを用いて、マニピュレータMの動作とともに上記条件を設定した作業プログラムを作成する。
【0009】
ロボット制御装置RCは、マニピュレータMに溶接動作の制御を実行させるためのものであり、内部に主制御部、動作制御部およびサーボドライバ(いずれも図示せず)等を備えている。そして、作業者がティーチペンダントTPによって教示した作業プログラムに基づき、サーボドライバからマニピュレータMの各サーボモータに動作制御信号を出力し、マニピュレータMの複数の軸をそれぞれ回転させる。ロボット制御装置RCは、マニピュレータMのサーボモータに備えられたエンコーダ(図示せず)からの出力によって現在位置を認識しているので、アーク溶接トーチTの先端部を制御することができる。
【0010】
なお、ステッチパルス溶接を施す位置は、作業プログラムに記憶されている作業線を、設定されている移動ピッチで分割することによって予め算出されている。以下では、分割後の位置のことを作業位置と呼ぶことにする。アーク溶接トーチTの先端部は、算出された作業位置に順次導かれていき、以下に説明する溶接、移動、冷却を繰り返しながらステッチパルス溶接を行う。
【0011】
図14は、ステッチパルス溶接を行っているときの状態を説明するための図である。溶接ワイヤ57はアーク溶接トーチTの先端から突き出している。シールドガスGは、溶接開始時から溶接終了時まで常に一定の流量でアーク溶接トーチTから吹き出される。以下、ステッチパルス溶接時の各状態について説明する。
【0012】
同図(a)は、アーク発生時の様子を示している。設定された溶接電流および溶接電圧に基づいて、作業位置P1において溶接ワイヤ57の先端とワークWとの間にアークAが発生し、溶接ワイヤ57が溶融してワークWに溶融池Yが形成される。アークAが発生してから、設定された溶接時間が経過した後に、アークAを停止する。
【0013】
同図(b)は、アーク停止後の様子を示している。アーク停止後は、設定された冷却時間が経過するまで溶接後の状態を維持させる。すなわち、マニピュレータMおよびアーク溶接トーチTは溶接時の状態と同様に停止した状態で、アーク溶接トーチTからシールドガスGが吹き出されるだけとなるので、溶融池YがシールドガスGによって実質的に冷却されて凝固し、溶接痕Y’が形成される。
【0014】
同図(c)は、アーク溶接トーチTを次の作業位置P2に移動させる様子を示している。冷却時間の経過後は、アーク溶接トーチTを作業線方向に予め設定された移動ピッチMpだけ離間した次の作業位置P2に移動させる。このときの移動速度は、設定された移動速度である。上記移動ピッチMpは、同図(c)で示すように溶融池Yが凝固した後の溶接痕Y’の外周側に溶接ワイヤ57を位置づけるように予め設定された距離である。
【0015】
同図(d)は、作業位置P2においてアークAを再発生する様子を示している。溶接痕Y’の前端部に新たに溶融池Yが形成されて溶接が行われるようになる。このように、ステッチパルス溶接装置51では、アークを発生させて溶接を行っている状態と、冷却、移動を行っている状態とが交互に繰り返されることになる。その結果、溶接痕であるウロコが重ね合わさるように溶接ビードが形成される。
【0016】
図15は、溶接施工後に形成される溶接ビードを説明するための図である。同図に示すように、作業線Lが所定の移動ピッチMpで分割され、作業位置P1〜P4…が算出されている。そして、最初の作業位置P1において溶接痕Scが形成され、作業線方向Drに向けて移動ピッチMpだけ離間した作業位置P2においても同様の溶接痕Scが形成される。作業位置P3以降においてもさらなる溶接痕Scが順次形成されていく。このように、溶接痕が重なり合うように形成された結果、ウロコ状の溶接ビードBが形成される。
【0017】
【特許文献1】特開平6−55268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上述したように、ステッチパルス溶接は薄板の母材をアーク溶接の対象としている。一般的に、幅広い溶接ビードを形成するには高めの溶接電流または長めの溶接時間によって溶接する必要があるが、この場合、入熱が大きくなるために薄板の母材が溶け落ちてしまう。すなわち、ステッチパルス溶接では幅広い溶接ビードを形成できないという問題があった。
【0019】
そこで、本発明は、薄板の母材を溶接の対象とするステッチパルス溶接において、幅広い溶接ビードを容易に形成できるステッチパルス溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために、第1の発明は、
作業線上の作業位置に溶接トーチを移動させて溶接を行った後、所定の移動ピッチだけ離間した次の作業位置で再度溶接を行うことを繰り返しながら、各作業位置での溶接によって形成される溶接痕を重ね合わせてワーク上に溶接ビードを形成するステッチパルス溶接方法において、
前記作業位置を含み前記作業線方向および前記作業線と直交する方向に所定幅を有した所定領域に溶接軌道を生成し、この生成した溶接軌道に従って前記溶接トーチの先端部を移動させながら溶接を行うことを特徴とするステッチパルス溶接方法である。
【0021】
第2の発明は、前記溶接軌道は、円溶接軌道または楕円溶接軌道または螺旋溶接軌道であることを特徴とする第1の発明に記載のステッチパルス溶接方法である。
【0022】
第3の発明は、前記円溶接軌道は、円直径値または円半径値を含む予め定められたパラメータおよび前記作業位置における前記溶接トーチ先端部の位置姿勢情報に基づいて算出され、中心位置が前記作業線上に配置されかつ軌道上に溶接開始位置および溶接終了位置が配置されていることを特徴とする第2の発明に記載のステッチパルス溶接方法である。
【0023】
第4の発明は、前記楕円溶接軌道は、楕円の長軸値および短軸値を含む予め定められたパラメータおよび前記作業位置における前記溶接トーチ先端部の位置姿勢情報に基づいて算出され、中心位置が前記作業線上に配置されかつ軌道上に溶接開始位置および溶接終了位置が配置されていることを特徴とする第2の発明に記載のステッチパルス溶接方法である。
【0024】
第5の発明は、前記溶接開始位置および前記溶接終了位置は、前記作業位置であることを特徴とする第3または第4の発明に記載のステッチパルス溶接方法である。
【0025】
第6の発明は、前記中心位置は、前記作業位置であることを特徴とする第3または第4の発明に記載のステッチパルス溶接方法である。
【0026】
第7の発明は、前記溶接軌道に従って前記溶接トーチを移動する前に、前記中心位置で前記溶接トーチを停止したまま所定の溶接時間だけ溶接を行うことを特徴とする第6の発明に記載のステッチパルス溶接方法である。
【0027】
第8の発明は、前記楕円溶接軌道は、前記作業線方向への移動距離である最大螺旋半径値を含む予め定められたパラメータおよび前記作業位置における前記溶接トーチ先端部の位置姿勢情報に基づいて算出され、前記作業位置を溶接開始位置とし前記作業線方向に前記最大螺旋半径値分だけ離間した位置を溶接終了位置とすることを特徴とする第2の発明に記載のステッチパルス溶接方法である。
【0028】
第9の発明は、前記最大螺旋半径値は、前記移動ピッチと同一であることを特徴とする第8の発明に記載のステッチパルス溶接方法である。
【0029】
第10の発明は、前記パラメータは、前記溶接軌道を前記作業線方向と直交する方向に変形させるための扁平率を含むことを特徴とする第3〜第9のいずれか1の発明に記載のステッチパルス溶接方法である。
【0030】
第11の発明は、前記溶接軌道は、予め定められた円または楕円または螺旋を含む複数の軌道パターンから選択された1つの軌道パターンに応じて生成されることを特徴とする第1〜第10の発明に記載のステッチパルス溶接方法である。
【発明の効果】
【0031】
第1の発明によれば、各作業位置での溶接に際して、作業線方向および作業線と直交する方向に所定幅を有した所定領域に作業位置を含む溶接軌道を生成し、この溶接軌道に従ってアーク溶接トーチの先端部を移動させながら溶接を行うことによって、母材への入熱を抑えつつ、作業位置を含む大きな領域に溶接痕を形成できる。すなわち、従来の停止した状態で形成される溶接痕よりも大きな溶接痕を形成することができるから、幅広い溶接ビードを実現することができる。
【0032】
第2の発明によれば、溶接軌道を円または楕円または螺旋にしたことよって、第1の発明が奏する効果に加えて、溶接ビードの美観を向上させることができる。
【0033】
第3の発明によれば、円溶接軌道は、円直径値または円半径値を含む予め定められたパラメータおよび作業位置におけるアーク溶接トーチ先端部の位置姿勢情報に基づいて算出され、中心位置を作業線上に配置し、かつ軌道上に溶接開始位置および溶接終了位置を配置している。すなわち、第1および第2の発明が奏する効果に加えて、各作業位置において円形状の溶接痕を形成できる。
【0034】
第4の発明によれば、楕円溶接軌道は、長軸値および短軸値を含む予め定められたパラメータおよび作業位置におけるアーク溶接トーチ先端部の位置姿勢情報に基づいて算出された楕円溶接軌道であって、中心位置を作業線上に配置し、かつ軌道上に溶接開始位置および溶接終了位置を配置している。すなわち、第1および第2の発明が奏する効果に加えて、各作業位置において楕円形状の溶接痕を形成できる。
【0035】
第5の発明によれば、溶接開始位置および溶接終了位置を作業位置としたことによって、作業位置で溶接を開始した後、アーク溶接トーチ先端部を円溶接軌道または楕円溶接軌道に従って移動させ、作業位置に復帰させるようにしている。このことによって、第1〜第4の発明が奏する効果に加えて、円溶接軌道または楕円溶接軌道で生成された溶接痕によって幅広い溶接ビードを実現することができる。
【0036】
第6の発明によれば、円溶接軌道または楕円溶接軌道の中心位置を作業位置としている。第5の発明では、作業位置を基端部として作業線方向にオフセットした円溶接軌道または楕円溶接軌道が形成される。これに対し、第6の発明では、作業位置を中心とした円溶接軌道または楕円溶接軌道が形成される。このことによって、第1〜第4の発明が奏する効果に加えて、円溶接軌道または楕円溶接軌道による溶接痕の形成位置が理想的であって且つ作業者にとって分かり易いという効果を奏する。
【0037】
第7の発明によれば、生成した円溶接軌道または楕円溶接軌道に従ってアーク溶接トーチを移動する前に、軌道の中心位置において、アーク溶接トーチを停止したまま所定の溶接時間だけ溶接を行うようにしている。例えば、円溶接軌道の場合、パラメータとして定められる円半径値または円直径値が大きすぎる場合は、円の中心位置付近において溶接痕が形成されない場合があるが、まず最初に中心位置でアーク溶接トーチを停止したまま所定の溶接時間だけ溶接を行うようにしたことによって、円半径または円直径が大きくても中心位置付近に溶接痕が形成されるようになる。これは楕円溶接軌道であっても同様である。すなわち、第1〜第6の発明が奏する効果に加えて、大きな溶接痕をより確実に形成することができる。
【0038】
第8の発明によれば、螺旋溶接軌道は、作業線方向への移動距離である最大螺旋半径値を含む予め定められたパラメータおよび作業位置におけるアーク溶接トーチ先端部の位置姿勢情報に基づいて算出される。そして、作業位置で溶接を開始した後、アーク溶接トーチ先端部を螺旋溶接軌道に従って移動させて最大螺旋半径値分だけ離間した位置に到達させるようにしている。このことによって、第1および第2の発明が奏する効果に加えて、螺旋溶接軌道で生成された溶接痕によって幅広い溶接ビードを実現することができる。
【0039】
第9の発明によれば、螺旋溶接軌道の最大螺旋半径値を次の作業位置への移動距離である移動ピッチと同一にしている。このことによって、第1、第2および第8の発明が奏する効果に加えて、螺旋溶接軌道に関する教示工数を低減することができる。また、タクトタイムを短縮することもできる。すなわち、最大螺旋半径値を移動ピッチと異なる値に定めた場合は、螺旋溶接軌道を描いて作業線方向に最大螺旋半径値分だけ移動した後、移動ピッチ分だけ離間した次の作業位置に移動させる必要があるが、最大螺旋半径値を移動ピッチと同一にした場合は、次の作業位置への移動が不要になるからタクトタイムを短縮することができる。
【0040】
第10の発明によれば、パラメータとして、溶接軌道を作業線方向と直交する方向に変形させるための扁平率を定められるようにしたことによって、溶接軌道を変形することができる。すなわち、第1〜第9の発明が奏する効果に加えて、より一層、作業者のニーズに応じた溶接軌道を実現することができる。
【0041】
第11の発明によれば、幅広い溶接ビードを実現するために特に最適な溶接軌道のパターンを、予め定められたものから選択できるようにしたことによって、第1〜第10の発明が奏する効果に加えて、作業者のニーズに応じたビード外観を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
[実施の形態1]
【0043】
以下、発明の実施形態を実施例に基づき図面を参照して説明する。
【0044】
図1は、本発明に係るステッチパルス溶接方法を適用したステッチパルス溶接装置1のブロック図である。同図において、従来技術の図13との相違は、ロボット制御装置RC、操作手段としてのティーチペンダントTPである。その他、従来技術で説明したマニピュレータM、溶接電源AP、ワイヤリール56、ガスボンベ58等は、図示せずに省略している。以下、本発明の主要部分を構成するロボット制御装置RCおよびティーチペンダントTPについて、説明する。
【0045】
ロボット制御装置RCは、マニピュレータMに溶接動作の制御を実行させるためのものであり、その中枢となる主制御部3、マニピュレータMの軌道演算等を行って演算結果を駆動信号として駆動指令部12に出力する動作制御部11、マニピュレータMの各サーボモータを回転制御するためのサーボ制御信号を出力する駆動指令部12、作業プログラムおよび各種パラメータ等を記憶するためのハードディスク4、一時的な計算領域であるRAM5、中央演算処理装置であるCPU6、溶接の制御を司る溶接制御部13および図示しないサーボドライバを備えており、これらはバス(図示せず)を介して接続されている。
【0046】
操作手段であるティーチペンダントTPは、各種情報を表示する表示部41と、マニピュレータMの移動目標位置、動作パラメータ等の各種条件を設定する設定部42とを備えている。設定部42によって入力された各種条件等はロボット制御装置RCの主制御部3に入力される。
【0047】
主制御部3は、設定部42から入力された各種条件を記憶処理する教示処理部20、表示処理部21および解釈実行部22を備えている。教示処理部20は、ステッチパルス溶接時に必要な条件が設定部42から入力されると、溶接条件Tc(溶接電流、溶接電圧)、移動速度Ms、移動ピッチMp、冷却時間Ctおよび軌道パターンKpならびにそのパラメータPmをハードディスク4に記憶する。表示処理部21は、入力された各種データを必要に応じてティーチペンダントTPの表示部41に表示する。ここで、軌道パターンKpとは、作業位置を含む所定領域に溶接を行う際の軌道パターンである。上述した動作制御部11は、この軌道パターンKpおよびそのパラメータPmに基づき、溶接軌道を生成する。
【0048】
図2は、軌道パターンの例を示す図である。同図に示すような複数のパターンが、軌道パターン群Kgとしてハードディスク4に予め記憶されている。軌道パターン群Kgは、名称および形状をセットにしてティーチペンダントTPの表示部41に表示されるので、作業者は軌道パターンを視覚的に理解できるとともに、いずれか1つの軌道パターンを選択することができる。
【0049】
なお、軌道パターン群Kgは、幅広い溶接ビードを実現するために特に最適な円、楕円または螺旋を含む構成としておくことが望ましい。さらに、螺旋の場合は、同図(c)〜(f)に示すように、螺旋回転の開始位置、回転方向等がイメージできるよう、細分化したパターンを予め定めておくと、さらに良い。
【0050】
次に、円または楕円の軌道パターンに応じて動作制御部11が生成する溶接軌道について説明する。まずは、溶接軌道を生成する際の基準となる溶接線座標系について説明する。
【0051】
図3は、溶接線座標系を説明するための図である。同図(a)はアーク溶接トーチTが作業線Lに垂直に教示されている場合を示し、同図(b)はアーク溶接トーチTが作業線Lに角度を持たせて教示されている場合を示している。同図において、作業線Lは、ワークW1およびワークW2を接合するために教示された開始点Spおよび終了点Epを結んだ線である。作業線方向Drは、アーク溶接トーチTが開始点Spから終了点Epに向けて進行する方向である。従来技術と同様に、作業線Lは移動ピッチMpで分割され、作業線L上に複数の作業位置が算出される。作業位置Pnは、複数の作業位置のうちの1つを示している。以下、この作業位置Pnを含む所定領域に溶接線座標系を定義する方法を説明する。その他の作業位置においても同様の方法で溶接線座標系が定義される。
【0052】
溶接線座標系は、作業位置Pnにおけるアーク溶接トーチTの先端部の位置姿勢情報、すなわち作業線方向成分およびベース座標系における位置姿勢座標値に基づき、以下のように定義することができる。
【0053】
同図(a)に示すように、原点を作業位置Pnとし、この作業位置Pnにおける作業線方向DrをZ+方向とし、アーク溶接トーチTの内部を挿通している溶接ワイヤ(図示せず)のリトラクト方向をX+方向とし、Z+方向とX+方向とに直交するとともに、いわゆる右手座標系に従う方向をY+方向とする座標系を、溶接線座標系として定義する。溶接軌道は、YZ平面上で算出されることになる。
【0054】
アーク溶接トーチTに角度を持たせて教示されている場合は、同図(b)に示すように、作業位置Pnを含むとともに溶接線座標系のZ軸に直交する平面Hにアーク溶接トーチTを投影し、この投影後のアーク溶接トーチT’のリトラクト方向をX+方向とする。その他は同図(a)と同様である。
【0055】
なお、上記では、作業線Lが直線である場合を示したが、作業線Lが円弧である場合は、円弧の接線方向を作業線Lと見なせば、上記と同様の方法で溶接線座標系を定義できるので、説明を省略する。
【0056】
次に、上記溶接線座標系を基準にして円溶接軌道および楕円溶接軌道を生成する方法について説明する。
【0057】
図4は、円溶接軌道が生成された様子を示す図である。同図において、作業位置Pn、アーク溶接トーチT、ワークW1、ワークW2、開始点Sp、終了点Ep、作業線L、作業線方向Drおよび溶接線座標系のXYZ方向については、図3と同様であるので説明を省略する。
【0058】
円溶接軌道Kcは、作業位置Pnを含み作業線方向Drおよび作業線Lと直交する方向に所定幅を有した領域に生成される。また、作業位置Pnを溶接開始終了位置Wpとして配置している。溶接開始終了位置Wpとは、溶接を開始する位置であるとともに回転方向Rdに従って円溶接軌道Kcを1周し、溶接を終了する位置である。
【0059】
円半径値Crおよび回転方向Rdは、円溶接軌道のパラメータPmとして設定される。所定幅としての円半径値Crは、溶接痕の幅(すなわちビード幅)を決定するものであり、円半径値の代わりに円直径値でもよい。回転方向Rdは、円溶接軌道に従ってアーク溶接トーチTを移動させる際に、作業線方向Drに向かって左右どちらの方向に回転するのかを決定するためのものである。
【0060】
円溶接軌道Kcは、以下のように生成される。作業位置Pnから作業線方向Drに向かって円半径値Crだけ離間した位置を円の中心位置Ccとし、YZ平面において円半径値Crを有する円軌道を算出する。なお、この円軌道は、公知の関数等に基づいて容易に算出されるので詳細な計算式等については説明を省略する。そして、作業位置Pnを溶接開始終了位置Wpとする。これで、作業位置Pnを含む作業線方向側の領域に円溶接軌道Kcが生成される。
【0061】
上記と同様の方法で、楕円溶接軌道を生成することも可能である。すなわち、上記した円半径値Crの代わりに、楕円溶接軌道の左右方向長さ半径値および進行方向長さ半径値をパラメータPmとして設ける。左右方向長さ半径値および進行方向長さ半径値は、それぞれの直径値であっても良い。これらは、楕円溶接軌道を生成する上で必要な、いわゆる楕円の長軸値および短軸値に相当する。
【0062】
そして、作業位置Pnから作業線方向Drに向かって進行方向長さ半径値だけ離間した位置を楕円の中心位置Ccとし、YZ平面において左右方向長さ半径値および進行方向長さ半径値を有する楕円軌道を算出する。この楕円軌道もまた、公知の関数等に基づいて容易に算出されるので詳細な計算式等については説明を省略する。そして、作業位置Pnを溶接開始終了位置Wpとする。これで、作業位置Pnを含む作業線方向側の領域に楕円溶接軌道Kdが生成される。
【0063】
次に、ステッチパルス溶接を行う際の動作について説明する。図5は、ステッチパルス溶接時の処理の流れを示すフローチャートである。
【0064】
ステップS1において、作業線Lを移動ピッチMpで分割して作業位置を算出する。最初の作業位置をP1とすれば、作業位置P1は図4で示した開始点Spである。
【0065】
ステップS2において、作業位置P1にアーク溶接トーチTを移動させる。
【0066】
ステップS3において、作業位置P1における溶接線座標系を上述した方法によって設定する。
【0067】
ステップS4において、作業位置P1を溶接開始終了位置Wpとした溶接軌道を上述した方法によって生成する。さらに、生成した溶接軌道に従ってアーク溶接トーチTを移動させるための補間演算を行う。すなわち、円溶接軌道Kcの場合は、円半径値Crに基づいて円溶接軌道Kcの溶接長(円周長)を幾何学的に算出し、この溶接長および設定されている移動速度に基づいて各補間周期で採るべき溶接線座標系での座標値を算出し、これを座標変換によってベース座標系での座標値に変換し、さらに逆変換演算を行うことによってマニピュレータMの各関節の移動目標値を算出する。楕円溶接軌道Kdの場合は、左右方向長さ半径および進行方向長さ半径に基づいて楕円溶接軌道Kdの溶接長(楕円周長)を幾何学的に算出し、円溶接軌道Kcと同様に、マニピュレータMの各関節の移動目標値を算出する。なお、上記移動速度は、ステッチパルス溶接の条件として設定されている移動速度Msを使用しても良いし、軌道パターンのパラメータPmとして溶接速度を設定できるようにしておき、この溶接速度を使用しても良い。
【0068】
ステップS5において、溶接を開始し、溶接軌道に従ってアーク溶接トーチTを移動させ、溶接開始終了位置Wpに到達させる。なお、図示していないが、溶接開始終了位置Wpで溶接を終了した後は、従来技術と同様に、アーク溶接トーチTを停止した状態で設定されている冷却時間Ctの間、溶接痕の冷却処理が行われる。
【0069】
ステップS6において、現在の作業位置が終了点Epであるか否かを判定する。現在の作業位置が終了点Epである場合は、フローを終了する。現在の作業位置が終了点Epではない場合は、ステップS2に戻る。ステップS2に戻った後は、移動ピッチMpだけ離間した次の作業位置P2〜Pnの各々において、ステップS2〜S6を繰り返す。
【0070】
上述したように、各作業位置での溶接に際して、作業位置を含み作業線方向および作業線と直交する方向に所定幅を有した所定領域に溶接軌道を生成し、この溶接軌道に従ってアーク溶接トーチの先端部を移動させながら溶接を行うことによって、母材への入熱を抑えつつ、作業位置を含む大きな領域に溶接痕を形成できる。すなわち、従来の停止した状態で形成される溶接痕よりも大きな溶接痕を形成することができるから、幅広い溶接ビードを実現することができる。
【0071】
また、溶接軌道を円または楕円または螺旋にしたことよって、上記効果に加えて、溶接ビードの美観を向上させることができる。
【0072】
また、幅広い溶接ビードを実現するために特に最適な溶接軌道のパターンを、予め定められたものから選択できるようにしたことによって、上記効果に加えて、作業者のニーズに応じたビード外観を実現することができる。
【0073】
また、円溶接軌道は、円直径値または円半径値を含む予め定められたパラメータおよび作業位置におけるアーク溶接トーチ先端部の位置姿勢情報に基づいて算出され、軌道の中心位置を作業線上に配置し、かつ軌道上に溶接開始位置および溶接終了位置を配置している。すなわち、上記効果に加えて、各作業位置において円形状の溶接痕を形成できる。
【0074】
また、楕円溶接軌道は、長軸値および短軸値を含む予め定められたパラメータおよび作業位置におけるアーク溶接トーチ先端部の位置姿勢情報に基づいて算出され、中心位置を作業線上に配置し、かつ軌道上に溶接開始位置および溶接終了位置を配置している。すなわち、上記効果に加えて、各作業位置において楕円形状の溶接痕を形成できる。
【0075】
また、溶接開始位置および溶接終了位置を作業位置としたことによって、作業位置で溶接を開始した後、アーク溶接トーチ先端部を円溶接軌道または楕円溶接軌道に従って移動させ、作業位置に復帰させるようにしている。このことによって、上記効果に加えて、円溶接軌道または楕円溶接軌道で生成された溶接痕によって幅広い溶接ビードを実現することができる。
【0076】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について説明する。実施の形態1では、溶接軌道を作業位置Pnの作業線方向側に生成したが、実施の形態2では、溶接軌道を作業位置Pnの周囲に生成する。
【0077】
図6は、実施の形態2における作業位置Pnの周囲に円溶接軌道が生成された様子を示す図である。同図において、図4との相違は、作業位置Pnを円溶接軌道Kc’の中心位置Cc’とした点である。その他は実施の形態1と同様であるので説明を省略する。
【0078】
円溶接軌道Kc’は、以下のように生成される。まず、作業位置Pnを中心位置Cc’とし、YZ平面において円半径値Crを有する円軌道を算出する。そして、この円軌道上であって作業位置Pnから作業線方向Drと逆の方向に円半径値Crだけ離間した位置に溶接開始終了位置Wp’を算出する。これで、作業位置Pnの周囲の領域に円溶接軌道Kc’が生成される。
【0079】
実施の形態1と同様に、作業位置Pnの周囲に楕円溶接軌道を生成することも可能である。すなわち、上記した円半径値Crの代わりに、楕円溶接軌道の左右方向長さ半径および進行方向長さ半径をパラメータPmとして設け、作業位置Pnを中心位置Cc’とし、YZ平面において左右方向長さ半径および進行方向長さ半径を有する楕円軌道を算出する。そして、この楕円軌道上であって作業位置Pnから作業線方向Drと逆の方向に進行方向長さ半径だけ離間した位置に溶接開始終了位置Wp’を算出する。これで、作業位置Pnの周囲に楕円溶接軌道Kd’が生成される。さらに、実施の形態1と同様に、溶接軌道に従ってアーク溶接トーチTを移動させるための補間演算を行う。
【0080】
次に、ステッチパルス溶接を行う際の動作について説明する。図7は、実施の形態2におけるステッチパルス溶接時の処理の流れを示すフローチャートである。
【0081】
ステップS1において、作業線Lを移動ピッチMpで分割して作業位置を算出する。最初の作業位置をP1とすれば、作業位置P1は図4で示した開始点Spである。
【0082】
ステップS2において、作業位置P1おける溶接線座標系を上述した方法によって設定する。
【0083】
ステップS3において、作業位置P1を中心位置とし、作業線L上に溶接開始終了位置Wp’を有する溶接軌道を上述した方法によって生成する。さらに、実施の形態1と同様に、溶接軌道に従ってアーク溶接トーチTを移動させるための補間演算を行う。
【0084】
ステップS4において、アーク溶接トーチTを溶接軌道上の溶接開始終了位置Wp’に移動させる。
【0085】
ステップS5において、溶接を開始し、溶接軌道に従ってアーク溶接トーチTを移動させ、溶接開始終了位置Wp’に到達させる。また、図示していないが、溶接開始終了位置Wp’で溶接を終了した後は、従来技術と同様に、アーク溶接トーチTを停止した状態で設定されている冷却時間Ctの間、溶接痕の冷却処理が行われる。
【0086】
ステップS6において、現在の作業位置が終了点Epであるか否かを判定する。現在の作業位置が終了点Epである場合は、フローを終了する。現在の作業位置が終了点Epではない場合は、ステップS2に戻る。ステップS2に戻った後は、移動ピッチMpだけ離間した次の作業位置P2〜Pnの各々において、ステップS2〜S6を繰り返す。
【0087】
上述したように、実施の形態2においては、円または楕円の中心位置を作業位置としている。実施の形態1においては、作業位置を基端部として作業線方向にオフセットした円または楕円が形成されていたが、作業位置を円または楕円の中心位置としたことによって、作業位置を中心とした円または楕円が形成されることになる。このことによって、円または楕円による溶接痕の形成位置が理想的であって且つ作業者にとって分かり易いという効果を奏する。
【0088】
なお、上述した実施の形態2において、溶接軌道の中心位置において一旦溶接してから溶接軌道に従ってアーク溶接トーチを移動させてもよい。以下、溶接軌道の中心位置において一旦溶接する形態について説明する。
【0089】
図8は、溶接軌道の中心位置において一旦溶接してから溶接軌道に従ってアーク溶接トーチを移動させる場合のフローチャートである。同図において、点線で示したステップS1〜S4およびS6は、図7と同符号を付与した同一のステップであるので説明を省略する。以下、実線で示したステップS4’およびS5について説明する。
【0090】
ステップS4’において、作業位置でアーク溶接トーチTを停止したまま、所定の溶接時間だけ溶接を行う。この溶接時間は、ステッチパルス溶接時の条件として予め設定できるように構成しておく。
【0091】
そして、ステップS5において、アーク溶接トーチTを溶接軌道上の溶接開始終了位置Wp’に移動させる。この移動に際して、移動前にアークを停止しても良いし、アークを出した状態のままで溶接開始終了位置Wp’に移動してもよい。そして、溶接軌道に従って移動させた後、溶接開始終了位置Wp’に到達させる。
【0092】
このように、生成した円溶接軌道または楕円溶接軌道に従ってアーク溶接トーチを移動する前に、溶接軌道の中心位置において、アーク溶接トーチを停止したまま所定の溶接時間だけ溶接を行うようにしている。例えば、円溶接軌道の場合、パラメータとして定められる円半径値または円直径値が大きすぎる場合は、円の中心位置付近において溶接痕が形成されない場合があるが、まず最初に中心位置でアーク溶接トーチを停止したまま所定の溶接時間だけ溶接を行うようにしたことによって、円半径または円直径が大きくても中心位置付近に溶接痕が形成されるようになる。これは楕円溶接軌道であっても同様である。すなわち、大きな溶接痕をより確実に形成することができる。
【0093】
[実施の形態3]
次に、本発明の実施の形態3について説明する。実施の形態1および2では、円溶接軌道Kc(Kc’)または楕円溶接軌道Kd(Kd’)を作業位置Pnの作業線方向側または作業位置Pnの周囲に生成したが、実施の形態3では、作業位置Pnから外側に向けて螺旋状に回転する螺旋溶接軌道を生成する。
【0094】
図9は、螺旋溶接軌道を説明するための図である。同図は、実施の形態1で説明した溶接線座標系のYZ平面をX+方向から見た図であり、YZ平面上で螺旋溶接軌道Krを描く様子を示している。同図において、作業位置Pn、作業線L、作業線方向Drおよび回転方向Rdは、図4で同符号を付与したものと同一であるので、説明を省略する。
【0095】
同図に示す螺旋溶接軌道Krは、以下のように生成される。まず、作業位置Pnを溶接開始位置Wsとし、YZ平面において最大螺旋半径値Srを有する螺旋軌道を算出する。螺旋軌道とは、その半径が角度に比例して増加する、いわゆるアルキメデス螺旋を指す。アルキメデス螺旋の式は、半径R=aθ(aは定数、θは回転角度)で表現される。すなわち、作業位置Pnを中心として、図示するような象限(0π、1/2π、π、3/2π)を定めておき、回転開始角度、回転終了角度、回転終了時半径(=最大螺旋半径値Sr)をパラメータPmとして与えることによって、容易に螺旋軌道を算出できる。同図の場合、回転開始角度が1/2π、回転終了角度が4π、最大螺旋半径値がSrである。これらに基づき上記定数aが算出され、各回転角度での半径Rも算出される。すなわち、螺旋軌道上で取るべき溶接線座標系での座標値を容易に算出できることになる。
【0096】
図10は、螺旋軌道の例を示す図である。例えば、回転開始角度および回転終了角度を変化させることによって、同図(a)〜(f)に示すような螺旋溶接軌道Krを生成することができる。同図(a)〜(f)では、回転開始角度および回転終了角度を変化させた場合の例を示しているが、これらに回転開始時半径値を加えることによって、より螺旋軌道をより柔軟に定めることができる。すなわち、上記したアルキメデス螺旋の式を、半径R=Ri+aθとする。Riが回転開始時半径値である。同図(g)は、同図(e)に回転開始時半径値Riを考慮した螺旋軌道を示している。
【0097】
図9に戻り、螺旋軌道上であって作業位置Pnから作業線方向Drに最大螺旋半径値Srだけ離間した位置に溶接終了位置Weを算出する。これで、作業位置Pnの周囲の領域に螺旋溶接軌道Krが生成される。
【0098】
なお、上記最大螺旋半径値Srは、移動ピッチMpと同一値を使用しても良い。図11は、最大螺旋半径値と移動ピッチとの関係を説明するための溶接ビードのイメージ図である。同図(a)は、最大螺旋半径値Srが移動ピッチMpと同一値の場合の溶接ビードを示し、同図(b)は、最大螺旋半径値Srが移動ピッチMpよりも短い場合の溶接ビードを示し、同図(c)は、最大螺旋半径値Srが移動ピッチMpよりも長い場合の溶接ビードを示している。同図(b)および(c)では、螺旋溶接軌道Krを描いて作業線方向Drに最大螺旋半径値Srだけ移動した後、さらに移動ピッチMp分だけ離間した次の作業位置に移動させる必要があるが、同図(a)に示すように、最大螺旋半径値Srを移動ピッチMpと同一にした場合は、次の作業位置への移動が不要になる。
【0099】
次に、ステッチパルス溶接を行う際の動作について説明する。図12は、実施の形態3におけるステッチパルス溶接時の処理の流れを示すフローチャートである。
【0100】
ステップS1において、作業線Lを移動ピッチMpで分割して作業位置を算出する。最初の作業位置をP1とすれば、作業位置P1は図4で示した開始点Spである。
【0101】
ステップS2において、作業位置P1にアーク溶接トーチTを移動させる。
【0102】
ステップS3において、作業位置P1における溶接線座標系を上述した方法によって設定する。
【0103】
ステップS4において、作業位置P1を溶接開始位置Wsとし、作業線方向Drへ最大螺旋半径値Srだけ離間した位置を溶接終了位置Weとする螺旋溶接軌道Krを上述した方法によって生成する。さらに、螺旋溶接軌道Krに従ってアーク溶接トーチTを移動させるための補間演算を行う。すなわち、螺旋の回転開始角度、回転終了角度、最大螺旋半径値Sr、回転開始時半径値等に基づいて螺旋溶接軌道Krの溶接長(螺旋長)を幾何学的に算出し、この溶接長および設定されている移動速度に基づいて各補間周期で採るべき座標値を算出し、上述した実施の形態1と同様に、マニピュレータMの各関節の移動目標値を算出する。上記移動速度は、ステッチパルス溶接の条件として設定されている移動速度Msを使用しても良いし、軌道パターンのパラメータPmとして溶接速度を設定できるようにしておき、この溶接速度を使用しても良い。
【0104】
ステップS5において、溶接を開始し、螺旋溶接軌道Krに従ってアーク溶接トーチTを移動させ、溶接開始終了位置Wpに到達させる。また、図示していないが、溶接開始終了位置Wpで溶接を終了した後は、従来技術と同様に、アーク溶接トーチTを停止した状態で設定されている冷却時間Ctの間、溶接痕の冷却処理が行われる。
【0105】
ステップS6において、現在の作業位置が終了点Epであるか否かを判定する。現在の作業位置が終了点Epである場合は、フローを終了する。現在の作業位置が終了点Epではない場合は、次の作業位置への移動距離を、最大螺旋半径値Srと移動ピッチMpとの差によって算出してから、ステップS2に戻る。ステップS2に戻った後は、次の作業位置P2〜Pnの各々においてステップS2〜S6を繰り返す。
【0106】
以上説明したように、ステッチパルス溶接を行う各作業位置において、作業位置Pnで溶接を開始し、アーク溶接トーチTを回転方向Rdの方向へ螺旋溶接軌道Krを描きながら移動させ、作業位置Pnから作業線方向Drの方向へ最大螺旋半径値Srだけ離間した溶接終了位置Peへ到達させる。
【0107】
上述したように、螺旋溶接軌道は、作業線方向への移動距離である最大螺旋半径値を含む予め定められたパラメータおよび作業位置におけるアーク溶接トーチ先端部の位置姿勢情報に基づいて算出される。そして、作業位置で溶接を開始した後、アーク溶接トーチ先端部を螺旋溶接軌道に従って移動させて最大螺旋半径値分だけ離間した位置に到達させるようにしている。このことによって、螺旋溶接軌道で生成された溶接痕によって幅広い溶接ビードを実現することができる。
【0108】
また、螺旋溶接軌道の最大螺旋半径値を次の作業位置への移動距離である移動ピッチと同一にしている。このことによって、上記効果に加えて、螺旋溶接軌道に関する教示工数を低減することができる。また、タクトタイムを短縮することもできる。すなわち、最大螺旋半径値を移動ピッチと異なる値に定めた場合は、螺旋溶接軌道を描いて作業線方向に最大螺旋半径値分だけ移動した後、移動ピッチ分だけ離間した次の作業位置に移動させる必要があるが、最大螺旋半径値を移動ピッチと同一にした場合は、次の作業位置への移動が不要になるからタクトタイムを短縮することができる。
【0109】
以上、実施の形態について説明したが、各実施の形態において、各軌道パターンのパラメータPmに、溶接軌道を作業線方向と直交する方向に変形させるための扁平率を含めるようにしてもよい。この扁平率は、作業線方向に向かって右側と左側でそれぞれ右扁平率および左扁平率を設定できるようにすることが望ましい。このことによって、溶接軌道を変形することができる。特に螺旋溶接軌道は、例えば図9で示したように、回転方向Rdが作業線方向Drに向かって右である場合、作業線方向Drに向かって右側の軌道が左側の軌道よりもやや大きくなるので、扁平率を設定することによって、螺旋溶接軌道の偏りを防止することができる。すなわち、より一層、作業者のニーズに応じた溶接軌道を実現することができる。
【0110】
また、上記各実施の形態においては、溶接軌道の生成を各作業位置で都度行っているが、最初の作業位置でのみ溶接軌道を生成しておき、これを以降の作業位置において再度使用するように構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明に係るステッチパルス溶接方法を適用したステッチパルス溶接装置1のブロック図である。
【図2】予め定められた複数の軌道パターン例を示す図である。
【図3】溶接線座標系を説明するための図である。
【図4】実施の形態1において、作業位置を含む所定領域に円溶接軌道が生成された様子を示す図である。
【図5】実施の形態1において、ステッチパルス溶接時の処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】実施の形態2において、作業位置Pnの周囲に円溶接軌道が生成された様子を示す図である。
【図7】実施の形態2において、ステッチパルス溶接時の処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】実施の形態2において、溶接軌道の中心位置において一旦溶接してから溶接軌道に従ってアーク溶接トーチを移動させる場合のフローチャートである。
【図9】実施の形態3において、螺旋溶接軌道を説明するための図である。
【図10】実施の形態3において、螺旋溶接軌道の種類を説明するための図である。
【図11】実施の形態3において、最大螺旋半径値と移動ピッチとの関係を説明するための溶接ビードのイメージ図である。
【図12】実施の形態3において、ステッチパルス溶接時の処理の流れを示すフローチャートである。
【図13】従来のステッチパルス溶接装置を示した図である。
【図14】ステッチパルス溶接を行っているときの状態を説明するための図である。
【図15】溶接施工後に形成される溶接ビードを説明するための図である。
【符号の説明】
【0112】
1 ステッチパルス溶接装置
3 主制御部
4 ハードディスク
5 RAM
6 CPU
11 動作制御部
12 駆動指令部
13 溶接制御部
20 教示処理部
21 表示処理部
22 解釈実行部
41 表示部
42 設定部
51 従来のステッチパルス溶接装置
52 コンジットケーブル
53 上アーム
54 下アーム
55 手首部
56 ワイヤリール
57 溶接ワイヤ
58 ガスボンベ
A アーク
AP 溶接電源
B 溶接ビード
Cc 中心位置
Cc’ 中心位置
Cr 円半径値
Ct 冷却時間
Dr 作業線方向
Ep 終了点
Ew 突き出し長
G シールドガス
H 溶接線座標系のZ軸に直交する平面
Kc 円溶接軌道
Kc’ 円溶接軌道
Kd 楕円溶接軌道
Kd’ 楕円溶接軌道
Kg 軌道パターン群
Kr 螺旋溶接軌道
Kp 軌道パターン
L 作業線
M マニピュレータ
Mp 移動ピッチ
Ms 移動速度
P1 作業位置
P2 作業位置
P3 作業位置
P4 作業位置
Pn 作業位置
Pe 溶接終了位置
Pm パラメータ
RC ロボット制御装置
Rd 回転方向
Sc 溶接痕
Sp 開始点
Sr 最大螺旋半径値
T アーク溶接トーチ
Tc 溶接条件
TP ティーチペンダント
W ワーク
W1 ワーク
W2 ワーク
We 溶接終了位置
Wp 溶接開始終了位置
Wp’ 溶接開始終了位置
Y 溶融池
Y’ 溶接痕

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業線上の作業位置に溶接トーチを移動させて溶接を行った後、所定の移動ピッチだけ離間した次の作業位置で再度溶接を行うことを繰り返しながら、各作業位置での溶接によって形成される溶接痕を重ね合わせてワーク上に溶接ビードを形成するステッチパルス溶接方法において、
前記作業位置を含み前記作業線方向および前記作業線と直交する方向に所定幅を有した所定領域に溶接軌道を生成し、この生成した溶接軌道に従って前記溶接トーチの先端部を移動させながら溶接を行うことを特徴とするステッチパルス溶接方法。
【請求項2】
前記溶接軌道は、円溶接軌道または楕円溶接軌道または螺旋溶接軌道であることを特徴とする請求項1記載のステッチパルス溶接方法。
【請求項3】
前記円溶接軌道は、円直径値または円半径値を含む予め定められたパラメータおよび前記作業位置における前記溶接トーチ先端部の位置姿勢情報に基づいて算出され、中心位置が前記作業線上に配置されかつ軌道上に溶接開始位置および溶接終了位置が配置されていることを特徴とする請求項2記載のステッチパルス溶接方法。
【請求項4】
前記楕円溶接軌道は、楕円の長軸値および短軸値を含む予め定められたパラメータおよび前記作業位置における前記溶接トーチ先端部の位置姿勢情報に基づいて算出され、中心位置が前記作業線上に配置されかつ軌道上に溶接開始位置および溶接終了位置が配置されていることを特徴とする請求項2記載のステッチパルス溶接方法。
【請求項5】
前記溶接開始位置および前記溶接終了位置は、前記作業位置であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載のステッチパルス溶接方法。
【請求項6】
前記中心位置は、前記作業位置であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載のステッチパルス溶接方法。
【請求項7】
前記溶接軌道に従って前記溶接トーチを移動する前に、前記中心位置で前記溶接トーチを停止したまま所定の溶接時間だけ溶接を行うことを特徴とする請求項6記載のステッチパルス溶接方法。
【請求項8】
前記螺旋溶接軌道は、前記作業線方向への移動距離である最大螺旋半径値を含む予め定められたパラメータおよび前記作業位置における前記溶接トーチ先端部の位置姿勢情報に基づいて算出され、前記作業位置を溶接開始位置とし前記作業線方向に前記最大螺旋半径値分だけ離間した位置を溶接終了位置とすることを特徴とする請求項2記載のステッチパルス溶接方法。
【請求項9】
前記最大螺旋半径値は、前記移動ピッチと同一であることを特徴とする請求項8記載のステッチパルス溶接方法。
【請求項10】
前記パラメータは、前記溶接軌道を前記作業線方向と直交する方向に変形させるための扁平率を含むことを特徴とする請求項3〜9のいずれか1項に記載のステッチパルス溶接方法。
【請求項11】
前記溶接軌道は、予め定められた円または楕円または螺旋を含む複数の軌道パターンから選択された1つの軌道パターンに応じて生成されることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のステッチパルス溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−148801(P2009−148801A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−329679(P2007−329679)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】