説明

ステント用合金及びステント

【課題】加工性、機械的特性に優れ、高耐食性を有したステント用合金を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のステント用合金は、組成が重量比で、Coが28〜42%、Crが10〜27%、Moが3〜12%、Niが15〜40%、Tiが0.1〜1.0%、Mnが1.5%以下、Feが0.1〜26.0%、Cが0.1%以下及び不可避不純物と、Nbが3.0%以下、Wが5.0%以下、Alが0.5%以下、Zrが0.1%以下及びBが0.01%以下のうち少なくとも一種とからなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、狭窄した体内脈管を狭窄等が生じた血管を拡張して開通性を確保する為に用いられるステントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステントは、狭窄した体内脈管を拡張することを目的とした中空の管状物であり、大きく分けて自己拡張型ステントとバルーン拡張型ステントがある。
【0003】
自己拡張型ステントは形状記憶合金を用いる事で自己拡張性を付与したステントあり、Ni−Ti系の超弾性合金等が実用化されている。
【0004】
バルーン拡張型ステントについては管径圧縮によりバルーンカテーテルに固定し、所定の位置にてバルーンの拡張により管径拡張するステントであり、主にステンレスのSUS316Lが使用されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−3126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
SUS316でステンレス自体の耐食性の問題やメツキのピンホール腐食さらには異種金属との組み合わせによるガルバニック腐食等の問題が解決されておらず、長期埋め込みでは問題が起きる可能性がある。
【0007】
Ni−Ti系は軽量で且つ耐食性に優れたものであることから広く使用されている。しかし、抗張力が弱く適用部位によっては希望する管径に拡張できない場合がある。
加えて冷間加工性に乏しく、加工コストが他の材料に比較して著しく高くつくという大きな欠点がある。
【0008】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、加工性、機械的特性に優れ、高耐食性を有したステント用合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明は、以下の構成を採用した。
請求項1に記載のステント用合金は、組成が重量比で、Coが28〜42%、Crが10〜27%、Moが3〜12%、Niが15〜40%、Tiが0.1〜1.0%、Mnが1.5%以下、Feが0.1〜26.0%、Cが0.1%以下及び不可避不純物と、Nbが3.0%以下、Wが5.0%以下、Alが0.5%以下、Zrが0.1%以下及びBが0.01%以下のうち少なくとも一種とからなることを特徴とする。
【0010】
本発明のステント用合金の組成範囲を限定した理由を以下に説明する。
Coはそれ自体加工硬化能が大きく、切り欠け脆さを減じ、疲労強度を高め、高温強度を高める効果があるが、28%未満ではその効果が弱く、本組成では42%を越えるとマトリクスが硬くなり過ぎて加工困難となると共に面心立方格子相が最密六方格子相に対して不安定になるため、28〜42%とした。
【0011】
Crは耐食性を確保するのに不可欠な成分であり、またマトリクスを強化する効果があるが、10%未満では優れた耐食性を得る効果が弱く、27%を越えると加工性及び靱性が急激に低下することから、10〜27%とした。
【0012】
Moはマトリクスに固溶してこれを強化する効果、加工硬化能を増大させる効果、及びCrとの共存において耐食性を高める効果があるが、3%未満では所望する効果が得られず、12%を越えると加工性が急激に低下すること、及び脆いσ相が生成しやすくなることから、3〜12%とした。
【0013】
Niは面心立方格子相を安定化し、加工性を維持し、耐食性を高める効果があるが、本発明合金のCo、Cr、Mo、Nb、Feの組成範囲において、Niが15%未満では安定した面心立方格子相を得ることが困難であり、40%を越えると機械的強度が低下することから、15〜40%とした。
【0014】
Tiは強い脱酸、脱窒、脱硫の効果、及び鋳塊組織の微細化の効果があるが、0.1%未満ではその効果が弱く、例えば1.0%では問題がないが、多過ぎると合金中に介在物が増えたり、η相(Ni3 Ti)が析出して靱性が低下することから、0.1〜1.0%とした。
【0015】
Mnは脱酸、脱硫の効果、及び面心立方格子相を安定化する効果があるが、多過ぎると耐食性、耐酸化性を劣化させるため、1.5%以下とした。
【0016】
Feは、多過ぎると耐酸化性が低下するが、耐酸化性よりも、マトリクスに固溶してこれを強化する効果を重視して上限を26.0として、0.1〜26.0%とした。
【0017】
Cはマトリクスに固溶するほか、Cr、Mo、Nb、W等と炭化物を形成し、結晶粒の粗大化の防止効果があるが、多過ぎると靭性の低下、耐食性の劣化等が生じるため、0.1%以下とした。
【0018】
Nbはマトリクスに固溶してこれを強化し、加工硬化能を増大させる効果があるが、3.0%を越えるとσ相やδ相(Ni3Nb)が析出して靭性が低下することから、3.0%以下とした。
【0019】
Wは、マトリクスに固溶してこれを強化し、加工硬化能を著しく増大させる効果があるが、5.0%を越えるとσ相を析出して靭性が低下することから、5.0%以下とした。
【0020】
Alは、脱酸、及び耐酸化性を向上させる効果があるが、多過ぎると耐食性の劣化等が生じるため、0.5%以下とした。
【0021】
Zrは、高温での結晶粒界強度を上げて、熱間加工性を向上させる効果があるが、多過ぎると逆に加工性が悪くなるため、0.1%以下とした。
【0022】
Bは、熱間加工性を改善する効果があるが、多過ぎると逆に熱間加工性が低下し割れやすくなるため、0.01%以下とした。
【0023】
請求項2に記載のステント用合金は、請求項1に記載のステント用合金において、前記Feが0.1〜3.0%であり、前記少なくとも一種はNbが3.0%以下、Wが5.0%以下、Zrが0.1%以下及びBが0.01%以下のうちから選択されたことを特徴とする。
請求項2に記載の発明のステント用合金によれば、、Coについて、本組成では42%を越えるとマトリクスが硬くなり過ぎて加工困難となると共に面心立方格子相が最密六方格子相に対して不安定になるため、上限を42%とした。また、Feは多過ぎると耐酸化性が低下するため、上限を3.0%とした。また、Alを含まない。
【0024】
請求項3に記載のステント用合金は、請求項2に記載のステント用合金において、前記少なくとも一種はNb3.0%以下が選択されたことを特徴とする。
請求項3に記載の発明のステント用合金によれば、少なくとも一種はNbを3.0%以下が選択されることについて、マトリクスに固溶してこれを強化し、加工硬化能を増大させる効果を得るためであり、3%を超えると靭性が低下することから3%以下とした。
【0025】
本願請求項4に記載のステント用合金は、引張強さ750N/mm2以上の力学的特性を有することを特徴とする。
請求項4に記載の発明によれば、図2に示すとおり、加工率0%であっても、引張
強さ750N/mm2以上の力学的特性を有し、SUS304よりも単位面積当りの引張強さが高いステント用合金を得ることができる。
【0026】
請求項5に記載のステント用合金は、30℃NaCl中でのアノード腐食電位が700mV以上であることを特徴とする。
請求項5に記載の発明によれば、図3に示すとおり、30℃NaCl中でのアノー
ド腐食電位が、SUS316Lの最高電位650mVよりも高い、700mV以上のステント用合金を得ることができる。
【0027】
請求項6に記載のステントは、請求項1〜5に記載のステント用合金を用いてなることを特徴とする。
請求項6の発明によれば、前記ステント用合金を用いれば、従来よりも、薄型化でき、高強度、耐食性に優れたステントを得ることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明のステント用合金は機械的特性に優れており既存製品よりも薄型化を図れる。
このことより、装着時のステント直径を小さく抑えることができ、患部へのアプローチが容易となる。
【0029】
本発明のステント用素材は、Co、Ni、Crを主成分とする合金を冷間加工することにより、Mo、Nb、Fe等の溶質原子を転位芯ないしは拡張転位の積層欠陥に偏析させて交差すべりを起き難くすること、及び微細な変形双晶を形成させてすべり転位を阻止することの二つの方法により加工硬化されており、機械的強度が高い。また、その後の時効処理を行った場合は静的ひずみ時効硬化されてさらに機械的強度が高い。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明にかかるステントの図面である。
【図2】引張試験結果を示した図面である。
【図3】アノード分極曲線を示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明のステント用合金は、積層欠陥エネルギーが低く、周囲温度が室温であるような冷間加工を施すことにより、原子半径の大きさが1.25ÅであるCo、Ni、Crに比べ、原子半径が大きいかあるいは近似しているMo、Nb、Fe等の溶質原子が、転位芯ないしは拡張転位の積層欠陥に強く引き付けられて偏析して交差すべりが起き難くなるため、高い加工硬化能が発現する。即ち、原子半径の大きさが1.2Å以上の元素であればこの効果は顕著になる。
【0032】
また、本発明のステント用板材は、冷間塑性加工により高強度特性を付与した後、200℃以上再結晶温度以下の温度で時効処理することにより、転位芯ないしは拡張転位の積層欠陥にMo、Nb、Fe等の溶質原子が引き付けられ転位を固着する、いわゆる静的ひずみ時効により、一層高い強度特性が得られる。
【0033】
なお、本発明のステント用合金の高い加工硬化能は体温のみならず高温下においても発現するため、高温強度特性も高いという特徴を有している。
【実施例】
【0034】
図1は本発明にかかるステントである。
まず、外径1〜3mm、長さ:5〜50mm、肉厚:0.01〜0.5mmの細管を準備する。この細管をレーザーカット加工あるいは、エッチング加工によって格子状の開口部を形成させることで、このステントは製造される。
【0035】
実施例で用いた合金では以下の組成のものを採用した。
(実施例1)組成が不可避不純物を含み、且つ、重量比でCo:33.56%、Cr:22.84%、Mo:9.06%、Ni:29.90%、Ti:0.49%、Mn:0.31%、Fe:1.66%、Nb:0.52%、Wが1.55%、Zrが0.02%、Bが0.005%、及びC:0.04%とからなる合金を用いた。
(実施例2)組成が不可避不純物を含み、且つ、重量比でCo:38.40%、Cr:11.70%、Mo:4.00%、Ni:16.50%、Ti:0.58%、Mn:0.75%、Fe:23.08%、Wが4.01%、Alが0.06%、及びC:0.018%とからなる合金を用いた。
【0036】
実施例1、実施例2の合金について引張試験及びアノード分極曲線の測定を行った。
図2はSUS304と実施例1、2の合金の冷間加工率による引張特性を示しており、今回SUS304は400℃、実施例1、2の合金は500℃にて時効処理し、特性比較をおこなった。
SUS304はSUS316と比較して同一圧延率で引張強さ・耐力が高いことが知られている。
【0037】
すなわち、機械的特性に置いてSUS304を上回っていれば、ステントに使用されているSUS316Lよりも優れているといえる。(ステンレス鋼便覧参照)
このグラフの縦軸は引張強さ、横軸は冷間加工率を示しており、各合金を加工した際の強度の変化を表している。実施例2の合金は低加工率側で、実施例1の合金は全域にわたってはSUS304よりも単位面積当りの引張強さが高い事が確認された。
このことより、従来のステンレス材ステントと比較して肉厚をより薄型化することが可能である。
【0038】
図3はステンレス材と実施例1、2の合金とのアノード分極曲線の比較となる。
試験片を1150℃で溶体化処理し、30℃の3%NaClに浸漬した場合の値を示す。
ある金属はそれより貴な金属に対してアノードとなり、それより卑な金属に対してカソードとなる。電解質の中にある2つの金属を接続すると電流が流れ、アノードとなる金属が腐食する。
卑と貴は金属の電位差によって決まり、2つの金属を比べた場合電位が低い方が卑、高い方が貴となり、卑な金属が腐食する。
【0039】
このグラフの縦軸は電流密度、横軸は電位を示しており、前記してあるとおり電位が高ければ貴となり腐食されにくいことを表している。実施例1、2の合金は共にSUS316L材と比較しても貴の方向に位置しており、腐食されにくいということがわかる。
【符号の説明】
【0040】
1 ステント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成が重量比で、Coが28〜42%、Crが10〜27%、Moが3〜12%、Niが15〜40%、Tiが0.1〜1.0%、Mnが1.5%以下、Feが0.1〜26.0%、Cが0.1%以下及び不可避不純物と、Nbが3.0%以下、Wが5.0%以下、Alが0.5%以下、Zrが0.1%以下及びBが0.01%以下のうち少なくとも一種とからなることを特徴とするステント用合金。
【請求項2】
前記Feが0.1〜3.0%であり、前記少なくとも一種はNbが3.0%以下、Wが5.0%以下、Zrが0.1%以下及びBが0.01%以下のうちから選択されたことを特徴とする請求項1に記載のステント用合金。
【請求項3】
前記少なくとも一種はNb3.0%以下が選択されたことを特徴とする請求項2に記載のステント用合金。
【請求項4】
引張強さ750N/mm2以上の力学的特性を有することを特徴とするステント用合金。
【請求項5】
30℃NaCl中でのアノード腐食電位が700mV以上であることを特徴とするステント用合金。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のステント用合金を用いてなるステント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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