説明

ストレッチレース基布用加工糸とその加工糸の製造方法

【課題】ストレッチレース基布のストレッチ性によく追随し、パッカリングやだぶり現象が生じないストレッチレース基布用加工糸と、同加工糸の製造方法とを提供する。
【解決手段】ストレッチレース基布用加工糸、熱収縮性の異なる2種のポリエステル系ポリマーをサイドバイサイド型に貼り合せて複合紡糸してなる潜在捲縮型複合フィラメントポリエステル系弾性糸の仮撚糸からなり、この仮撚糸と水溶性繊維とを合撚してストレッチレース基布用の加工糸を製造する。仮撚糸の撚係数は4000〜20000であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はストレッチレース基布用の加工糸と、ストレッチレース基布に刺繍をしたときに、パッカリングやだぶり現象が生じない加工糸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりレース布帛においてストレッチ性を有する基布には、刺繍糸においてもストレッチ性を有する刺繍糸が用いられている。しかしながら、単純にストレッチ性を有する仮撚加工糸や、ポリウレタン等の弾性糸にカバリングを実施したストレッチ性の刺繍糸では、刺繍における張力条件が非常に困難で、刺繍時の張力が高すぎると、刺繍糸が縫製後に収縮し引きつりを起こしたり、刺繍時の張力低すぎると刺繍糸がだぶついたり、商品価値を損なうことが多かった。また、単純なストレッチ性を有する仮撚糸では、ストレッチ性に乏しく、ストレッチレース用基布に追従することができず、糸切れが多発した。
【0003】
こうした問題を解決するために、特開2000−54238号公報(特許文献1)、特開2006−233366号公報(特許文献2)に開示された刺繍糸では、構成糸中に水溶性ビニロンのような溶解糸を刺繍糸中に用い、刺繍後に該溶解糸を溶解除去する手法がとられている。
【特許文献1】特開2000−54238号公報
【特許文献2】特開2006−233366号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1においては、水溶性高分子糸に仮撚加工糸をダブルカバリングしているのみでストレッチ性能に乏しく、製品とした場合刺繍糸がだぶつくものであり、特許文献2においては、芯糸にポリウレタン弾性糸を用いていることから、セット性に乏しく複合糸として形態安定性に問題があり、刺繍工程において刺繍糸の引きつりが生じるなどの問題が起きやすく、満足出来るものとなっていない。
【0005】
本発明の目的は、ストレッチレース基布のストレッチ性によく追随し、パッカリングやだぶり現象が生じないストレッチレース基布用加工糸と、同加工糸の製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を効果的に達成するもので、次の構成よりなるものである。
すなわち、本発明は、熱収縮性の異なる2種のポリエステル系ポリマーをサイドバイサイド型に貼り合せて複合紡糸してなる潜在捲縮型複合フィラメントポリエステル系弾性糸の仮撚糸からなることを特徴とするストレッチレース基布用加工糸を第1の主要な構成としている。好適には、該ストレッチレース基布用加工糸の撚係数を、4000〜20000の範囲とするとよい。
また、本発明はポリエステル系弾性糸の仮撚加工糸と水溶性繊維を合撚することを特徴とするストレッチレース基布用加工糸の製造方法を第2の主要な構成としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明のストレッチレース基布用加工糸は、ポリエステル系弾性糸の仮撚糸からなる糸であって、該仮撚糸と水溶性繊維を用いた複合糸を使用することにより、刺繍縫製中の張力変動がなく作業性を容易にし、ストレッチレース用基布に刺繍後、水溶性繊維を溶解除去することにより、ストレッチレースにおいて問題となる、パッカリングやだぶつきと言った問題が発生せず、ストレッチ性に優れたストレッチレース布帛を作成することを可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の好適な実施の形態について具体的に説明する。
本発明のストレッチレース基布用加工糸は、熱収縮性の異なる2種のポリエステル系ポリマーをサイドバイサイド型に貼り合せて複合紡糸してなる潜在捲縮型複合フィラメントポリエステル系弾性糸の仮撚糸からなることが必要である。
【0009】
本発明のポリエステル系ポリマーは、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートのいずれのポリマーからなってもよい。これらのポリエステル系ポリマーをサイドバイサイドに貼り合わせ、貼り合わせたポリマーのη差により捲縮弾性を発現することができる。2種類のポリマーの貼り合わせについては、それぞれにη差を付与したポリマー単体、又は異種ポリマーとの複合、例えばポリエチレンテレフタレートと、ポリトリメチレンテレフタレートとの複合でも良い。
【0010】
また、本発明のストレッチレース基布用加工糸は、前記ポリエステル系弾性糸を仮撚加工したものであることが必要である。仮撚方法については、特に指定するものではないが、仮撚ピンを用いたピン仮撚や、フリクションディスクを用いたフリクション仮撚等、用途に応じて適宜選択すればよい。
【0011】
前記ポリエステル系弾性糸を仮撚加工した仮撚糸を用いたストレッチレースは、ポリウレタン等の弾性糸と比較しストレッチ性には若干劣るものの、通常のポリエステル系仮撚糸や、ポリエステル系弾性糸の原糸に対しては優れたストレッチ性能を有する。また、ポリウレタン弾性糸において問題となりやすい、布帛の熱セット性については、全く問題なく優れた熱セット性を有するため、該ポリエステル系弾性糸の仮撚糸を用いたストレッチレース布帛は、レース、リボン、テープ、水着、インナー、アウター等、多用途へと展開することが可能になる。
【0012】
本発明のストレッチレース基布用加工糸は、撚係数が4000〜20000の範囲で撚りがかかっていることが好ましい。撚係数が4000未満であるとレース基布上において仮撚糸がばらけてしまい、ムラ感を呈し、見た目の品位を損ねてしまう。また撚係数が20000を越えると、ストレッチ性を損ねてしまい、パッカリングやだぶりの原因となる。
【0013】
本発明のストレッチレース基布用加工糸は、捲縮率が20%以上、50%以下であることが好ましい。ストレッチレース基布用加工糸の捲縮率が20%未満であると、ストレッチレースにおいて、ストレッチレース基布用加工糸がストレッチレース基布のストレッチを阻害し、地糸切れや、ストレッチレース基布用加工糸による引きつりが発生してしまう。また、50%を超えると、加工糸のストレッチ性が過剰なものとなり、糸浮き過大となり、スナッグ性が低下する。
【0014】
本発明のストレッチレース基布用加工糸の製造方法は、ポリエステル系弾性糸を仮撚加工し、この仮撚加工糸と水溶性繊維とを合撚することが好ましい。ポリエステル系弾性糸の仮撚加工は、上述のようにピン、フリクション等を用いて、加工温度は融点−120〜−60℃にて、加工張力に於いては、0.1〜0.4cN/dtex程度にて実施することが良好なストレッチ性を得られることから好ましい。
【0015】
ポリエステル系弾性糸の仮撚糸と水溶性繊維とを合撚することで、ストレッチレース用基布に刺繍する際に、ポリエステル系弾性糸の仮撚糸のストレッチを抑制することが可能となり、刺繍時の縫製条件を容易に設定することが可能となるだけでなく、ストレッチ収縮のバラツキによる糸切れの多発や、ストレッチ収縮のバラツキ自体を防止するための対策が講じられたとき、刺繍時の高張力による刺繍糸縫製後の引きつり、また、刺繍時の張力が低すぎたときの刺繍糸のだぶつきが防止できる。このように、仮撚加工糸と水溶性繊維とを合撚すると、刺繍後に水溶性繊維を溶解除去することによって、良好なストレッチ性を有するストレッチレースを得ることができる。
【0016】
ポリエステル系弾性糸の仮撚糸と水溶性繊維との合撚方向は、仮撚トルクと撚糸トルクを考慮し、仮撚糸の加撚方向とは逆方向に加撚することが好ましい。仮撚の加撚方向と、合撚の方向が同方向であると、仮撚のトルクと撚糸のトルクが相殺されてしまい、良好なストレッチ性が得難くなる。
【0017】
本発明のポリエステル系弾性糸の仮撚糸は、先染め加工することが好ましい。
ポリエステル系弾性糸の仮撚加工糸の先染め加工は、特に指定するものではないが、通常のポリエステルの染色温度範囲100〜130℃にて染色することが好ましい。また、糸染め中にポリエステル系弾性糸の仮撚糸が収縮することから、仮撚糸の顕在捲縮を十分に発現させると共に、捲縮堅牢性を向上させることが可能となり、仮撚糸のストレッチ性能をさらに向上することができる。製法としては、マフ染め及び、かせ染めが好ましく用いられる。
【0018】
また、先染め加工前のポリエステル系弾性糸の仮撚加工糸に甘撚を付与しておくと、ストレッチ付与の観点から、さらに好ましい。ポリエステル系弾性糸の仮撚加工糸の甘撚加撚については、前述の同様に、仮撚糸の加撚方向とは逆方向に加撚することが好ましい。
【0019】
また、仮撚糸に甘撚が施され、なお且つ染色加工されている場合において、次のような諸撚り手法を採用すると、よりストレッチ性能を高めることができ好ましい。甘撚後に染色加工したポリエステル系弾性糸の仮撚糸と水溶性繊維とのそれぞれに、前記甘撚とは逆方向に、甘撚撚数より少し過剰に、好ましくは甘撚よりも1.2倍以上、1.65倍以上の下撚を加え、両糸を引揃え、前記下撚と逆方向に、下撚と同撚数の撚数を加えて上撚することが好ましい。
【0020】
1.2倍未満であると、一次的に加工糸における撚数が0付近となり、糸の捲縮バラツキが発生しやすく、ストレッチレース布帛としたときの品位が低下する。また、1.65倍を超えると過剰に逆トルクの撚賦形がなされてしまい、せっかく付与したストレッチ性能を低下させてしまう。
【0021】
上述した甘撚及び下撚、上撚の撚糸手法は特に指定するものでなく、任意の手法にて撚糸すればよいが、下撚、上撚については、ケーブルツイスター手法を用い、より簡易的な方法にて作成することも可能であり、コスト合理化や煩雑な各種条件設定を簡略化することが可能となる。
【0022】
本発明の染色加工したポリエステル系弾性糸の仮撚糸と水溶性繊維との合撚糸の捲縮率は2%以上、10%以下であることが好ましい。該捲縮率が2%未満であると、縫製時の伸縮性に乏しすぎ、糸切れが多発してしまう。また、10%を超えると、刺繍条件を設定することが非常に困難となり、刺繍後のストレッチレース布帛の収縮バラツキにより、ストレッチレースのムラが発生し品位が悪いものとなる。また、安定的に刺繍するために刺繍時の張力を高くすると、刺繍糸が縫製後に収縮し引きつりを起こしやすく、刺繍時の張力を低くすると、刺繍糸がだぶついてしまう。
【0023】
本発明の染色加工したポリエステル系弾性糸の仮撚糸と水溶性繊維との合撚糸における、水溶性繊維除去前後の糸長差は−14%以上、−2%以下であることが好ましい。糸長差が−2%を超えるとポリエステル系弾性糸の仮撚糸が緊張状態となっており、ストレッチレース基布に刺繍後、水溶性繊維を溶解除去しても、好ましいストレッチ性が得られず、地糸切れや、引きつりの原因となる。また、−14%未満であると、ポリエステル系弾性糸の仮撚糸がだぶついてしまい、糸の捲縮にバラツキが発生しやすく、刺繍縫製時の条件設定が困難となり、また、ストレッチレース布帛としたときの品位が低下する。
以下、本発明を代表的な実施例に基づいて更に詳しく説明する。
【実施例】
【0024】
以下の実施例及び比較例の評価は、次のように実施した。
1.撚係数の測定
ストレッチレース布帛から加工糸を抜き取り、検撚機により撚数を測定し、式(I) を用いて計算した。
撚係数=撚数(t/m)×√D ・・・(I)
ただし、Dは加工糸の繊度(dTex)値である。
【0025】
2.捲縮率の測定
(a)水溶性繊維溶解処理済みのストレッチレース布帛から抜き取ったストレッチレース基布用加工糸
ストレッチレース布帛から、過剰な張力がかからないようにストレッチレース基布用加工糸を抜き取り、水平状態で温度20±2℃、湿度65±2%RHの状態で24時間以上放置する。
【0026】
該加工糸に初荷重(加工糸の繊度(dTex)×8.82mN)をかけ、1分後に正確に500mmを測り、その終始の2点に印を打ち初荷重を除いたのち1分間放置する。次いで荷重(加工糸の繊度(dTex)×90.91mN)をかけ、1分後に前記2点の印間距離L1(mm)を測定し、式(II)により、ストレッチレース基布用加工糸の捲縮率を計算した。
ストレッチレース基布用加工糸の捲縮率(%)=(L1−500)/L1 ×100 ・・・(II)
【0027】
(b)ポリエステル系弾性糸の仮撚糸と、水溶性繊維との合撚糸
枠周1.125mの検尺機を用い、繊度×0.1cNの荷重をかけ120m/minの速度で巻き返し、巻数10回の小かせを作り、水平状態で温度20±2℃、湿度65±2%RHの状態で24時間以上放置する。
【0028】
該かせに初荷重(合撚糸の繊度(dTex)×8.82mN×20)をかけ、1分後の
全長L2(mm)を測定し初荷重を除き1分間放置する。次いで荷重(合撚糸の繊度(dTex)×90.91mN×20)をかけ、1分後の全長L3(mm)を測定し、下式(III) により捲縮率を計算した。
合撚糸の捲縮率(%)=(L3−L2)/L3×100 ・・・(III)
【0029】
(c)ポリエステル系弾性糸の仮撚糸と、水溶性繊維の合撚糸から、水溶性繊維を除去した加工糸
(b)にて作成したかせを、90℃の熱水中に20分間浸漬して熱水処理を行い、水溶性繊維を除去した。
【0030】
熱水処理後、かせの水を切ってかせが乱れないようにして、水平状態で温度20±2℃、湿度65±2%RHの状態で24時間以上放置する。
【0031】
該かせに初荷重(水溶性繊維を除去した加工糸の繊度(dTex)×8.82mN×20)をかけ、1分後に全長L4(mm)を測定し初荷重を除き1分間放置する。次いで荷重(水溶性繊維を除去した加工糸の繊度(dTex)×90.91mN×20)をかけ、1分後の全長L5(mm)を測定し、下式(IV)により捲縮率を計算した。
水溶性繊維を除去した加工糸の捲縮率(%)=(L5−L4)/L5×100 ・・・(IV)
【0032】
3.ポリエステル系弾性糸の仮撚糸と水溶性繊維との合撚糸における、水溶性繊維除去前後における糸長差
JIS L−1013 熱水収縮率A法に従い、下式(V) により糸長差を測定した。
糸長差(%)=(L6−L7)/L6 ・・・(V)
ただし、L6は熱水浸漬前の糸長さ(mm)であり、L7は熱水浸漬し、風乾後の糸長(mm)である。
【0033】
〔実施例1〕
異なるηのポリエチレンテレフタレートを貼り合わせた単糸丸型断面のポリエステルフィラメントコンジュゲート糸(三菱レイヨン社製、セミダル110dtex/24フィラメント(f))の仮撚糸(仮撚方向Z)を作成し、水溶性ビニロンマルチフィラメント糸(ニチビ社製、ブライト84dtex/25フィラメント(f)SFタイプ)と、ダブルツイスターを用いて400T/m(S撚)にて合撚した。
【0034】
該合撚糸を用い、ストレッチレース基布へコップ糸として刺繍したところ、刺繍時には合撚糸中に含まれる水溶性ビニロンにより、他の仮撚糸のストレッチ性を抑制することで、安定した張力で刺繍することができ、引きつりやだぶりがなく簡単に刺繍することができた。
【0035】
また、刺繍後に合撚糸中の水溶性ビニロンを溶解除去することによって、ストレッチレース基布の伸縮に合わせてコップ糸が伸縮し、刺繍のズレ等が発生せず審美性の高いストレッチレース布帛を得ることができた。
【0036】
各種物性については、表1に示している。
【0037】
〔実施例2〕
異なるηのポリエチレンテレフタレートを貼り合わせた単糸丸型断面のポリエステルフィラメントコンジュゲート糸(三菱レイヨン社製、セミダル110dtex/24フィラメント(f))の仮撚糸(仮撚方向Z)を作成した。
該仮撚糸をマフ染色機を用い、常法にて130℃で糸染めし、糸染め後の仮撚糸をチーズアップした。
【0038】
この糸染め後の仮撚糸と、水溶性ビニロンマルチフィラメント糸(ニチビ社製、ブライト84dtex/25フィラメント(f)SFタイプ)とを、ダブルツイスターを用い400T/M(S撚)にて合撚した。
該合撚糸を用い、ストレッチレース基布へコップ糸とし刺繍したところ、刺繍時には合撚糸中に含まれる水溶性ビニロンにより、他の仮撚糸のストレッチ性を抑制することによって、安定した張力で刺繍することができ、引きつりやだぶりが無く、簡単に刺繍することができた。
【0039】
また、刺繍後に合撚糸中の水溶性ビニロンを溶解除去したため、ストレッチレース基布の伸縮に合わせてコップ糸が伸縮し、刺繍のズレ等が発生せず審美性の高いストレッチレース布帛を得ることができた。
【0040】
〔実施例3〕
異なるηのポリエチレンテレフタレートを貼り合わせた単糸丸型断面のポリエステルフィラメントコンジュゲート糸(三菱レイヨン社製、セミダル110dtex/24フィラメント(f))の仮撚糸(仮撚方向Z)を、ダブルツイスターを用いて400T/m(S撚)の撚を加え追撚した。
該追撚糸をマフ染色機を用い常法にて130℃で糸染めし、糸染め後の追撚糸をチーズアップした。
【0041】
この糸染め後の追撚糸と、水溶性ビニロンマルチフィラメント糸(ニチビ社製、ブライト84dtex/25フィラメント(f)SFタイプ)とを、それぞれ個別にダブルツイスターを用いて600T/m(Z撚)の下撚を加え、その後それぞれの下撚糸を併せて600T/M(S撚)の上撚を加え諸撚糸とした。
【0042】
該諸撚糸を用い、ストレッチレース基布へ刺繍糸として刺繍したところ、刺繍時には諸撚糸中に含まれる水溶性ビニロンにより、他の仮撚糸のストレッチ性を抑制することにより、安定した張力で刺繍することができ、引きつりや、だぶりがなく簡単に刺繍することができた。
【0043】
また、刺繍後に諸撚糸中の水溶性ビニロンを溶解除去することによって、ストレッチレース基布の伸縮に合わせて刺繍糸が伸縮し、刺繍のズレ等が発生せず審美性の高いストレッチレース布帛を得ることができた。
【0044】
〔実施例4〕
異なるηのポリエチレンテレフタレートを貼り合わせた単糸丸型断面のポリエステルフィラメントコンジュゲート糸(三菱レイヨン社製、セミダル110dtex/24フィラメント(f))の仮撚糸(仮撚方向Z)と、異なるηのポリトリメチレンテレフタレートを貼り合わせた単糸丸型断面のポリトリメチレンフィラメントコンジュゲート糸(ソロテックス社製 セミダル167dtex/72フィラメント(f))の仮撚糸(仮撚方向Z)を、ダブルツイスターを用いて400T/M(S撚)の撚を加え合撚した。
該合撚糸をマフ染色機を用い常法にて130℃で糸染めし、糸染め後の合撚糸をチーズアップした。
【0045】
この糸染め後の合撚糸と、水溶性ビニロンマルチフィラメント糸(ニチビ社製、ブライト84dtex/25フィラメント(f)2本 SFタイプ)とを、ダブルツイスターを用い、ケーブルツイスター手法にて1200T/mの条件に設定し、各々の糸に600T/m(Z撚)の下撚を加え、その後それぞれの下撚糸を合わせて600T/m(S撚)の上撚を加えケーブル糸とした。
【0046】
該ケーブル糸を用い、ストレッチレース基布へ刺繍糸として刺繍したところ、刺繍時にはケーブル糸中に含まれる水溶性ビニロンにより、他の仮撚糸のストレッチ性が抑制され、安定した張力で刺繍することができ、引きつりや、だぶりが無く簡単に刺繍することができた。
【0047】
また、刺繍後にケーブル糸中の水溶性ビニロンを溶解除去することでによって、ストレッチレース基布に併せ合わせて刺繍糸が伸縮し、刺繍のズレ等が発生せず審美性の高いストレッチレース布帛を得ることができた。
【0048】
〔比較例1〕
異なるηのポリエチレンテレフタレートを貼り合わせた単糸丸型断面のポリエステルフィラメントコンジュゲート糸(三菱レイヨン社製、セミダル110dtex/24フィラメント(f))の仮撚糸(仮撚方向Z)と、異なるηのポリトリメチレンテレフタレートを貼り合わせた単糸丸型断面のポリトリメチレンフィラメントコンジュゲート糸(セミダル167dtex/72フィラメント(f))の仮撚糸(仮撚方向Z)を、ダブルツイスターを用いて400T/m(S撚)の撚を加え合撚した。
【0049】
該合撚糸をマフ染色機を用いて常法にて130℃で糸染めし、糸染め後の合撚糸をチーズアップした。糸染め後の合撚糸を用い、ストレッチレース基布へ刺繍したところ、刺繍時の張力が安定せず、引きつりや、だぶりが発生し、良好なストレッチ刺繍布帛が得られなかった。
【0050】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱収縮性の異なる2種のポリエステル系ポリマーをサイドバイサイド型に貼り合せて複合紡糸してなる潜在捲縮型複合フィラメントポリエステル系弾性糸の仮撚糸からなることを特徴とする、ストレッチレース基布用加工糸。
【請求項2】
撚係数が4000〜20000の範囲であることを特徴とする、請求項1記載のストレッチレース基布用加工糸。
【請求項3】
請求項1に記載の仮撚糸と水溶性繊維とを合撚することを特徴とするストレッチレース基布用加工糸の製造方法。

【公開番号】特開2010−95806(P2010−95806A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265202(P2008−265202)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(301067416)三菱レイヨン・テキスタイル株式会社 (102)
【Fターム(参考)】