説明

スプラグ型ワンウェイクラッチ

【課題】 外輪が高速空転してもスプラグの揺動を抑え、リボンスプリングの疲労折損やリボンスプリング先端部の磨耗を防止する。
【解決手段】 ディスエンゲージタイプのスプラグ型ワンウェイクラッチにおいて、ほぼ環状の内周軌道面を有する外輪と、外輪と半径方向に離間されると共に相対回転自在に同心状に配置され、ほぼ環状の外周軌道面を有する内輪と、外輪及び前記内輪間に配置され内外周軌道面でトルクを伝達する複数のスプラグと、スプラグに起き上がりモーメントを与えるリボンスプリングとから成り、スプラグの外径側カム面に、所定の外輪空転回転数においてスプラグの揺動を防止する機構を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワンウェイクラッチに関する。より詳細には、ディスエンゲージタイプのスプラグ型ワンウェイクラッチの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、外輪が回転する形式のワンウェイクラッチは、噛合い性を重視したエンゲージタイプと低ドラグ性を重視したディスエンゲージタイプとがある。そのうち、ディスエンゲージタイプのワンウェイクラッチは、噛合い時においては、内輪と外輪は停止もしくは低い回転時において内輪駆動で噛合い外輪側に動力伝達し、外輪側オーバーランする場合は空転する構成となっている。
【0003】
図4は.従来のディスエンゲージタイプのワンウェイクラッチを示しており、スプラグ23の重心Gがスプラグ23と外輪21の接点Aよりも左側にあるときに遠心力が働らくとスプラグ23はA点を中心にして時計方向に傾く。そのためスプラグ23の高さが低くなりスプラグ23の内輪側カム面は内輪22の軌道面から離れる。
【0004】
また、リボンスプリング27は反時計方向に回転するトルクをスプラグ23に与える。外輪21が矢印X方向に高速空転するとスプラグ23はより時計方向に傾いた状態となり、リボンスプリング27による回転力とスプラグ23の遠心力による回転力がつりあい位置でスプラグ23の傾いた状態が維持される。このような、形式のワンウェイクラッチは、例えば特許文献1や特許文献2に開示されている。
【0005】
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては次のものがある。
【特許文献1】特開2000−220663号公報
【特許文献2】特開昭63−285336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のディスエンゲージタイプのワンウェイクラッチでは、高速回転時における振動や回転変動に起因してスプラグが揺動してリボンスプリングに繰り返し荷重を与え、リボンスプリングの疲労折損やスプラグ接触部のリボンスプリング先端部の磨耗の原因となることがあった。
【0007】
特に二輪車のスタータに使用される場合、高速空転での振動、回転変動によりスプラグが揺動し、ワンウェイクラッチのリボンスプリングの折損が生じる可能性が高くなる。
【0008】
従って、本発明の目的は、外輪が高速空転してもスプラグの揺動を抑え、リボンスプリングの疲労折損やリボンスプリング先端部の磨耗を防止することができるスプラグ型ワンウェイクラッチを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明のプラグ型ワンウェイクラッチは、
ディスエンゲージタイプのスプラグ型ワンウェイクラッチにおいて、
ほぼ環状の内周軌道面を有する外輪と、
外輪と半径方向に離間されると共に相対回転自在に同心状に配置され、ほぼ環状の外周軌道面を有する内輪と、
外輪及び内輪間に配置され内外周軌道面間でトルクを伝達する複数のスプラグと、
前記スプラグに起き上がりモーメントを与えるリボンスプリングと、
から成り、スプラグの外径側カム面に、所定の外輪空転回転数においてスプラグの揺動を防止する機構を設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、以下のような効果を奏する。
スプラグの外径側カム面に、所定の外輪空転回転数においてスプラグの揺動を防止する機構を設けたため、スプラグの揺動によって生じる問題点が解消できる。例えば、高速回転時における振動や回転変動に起因してスプラグが揺動してリボンスプリングに繰り返し荷重を与え、リボンスプリングの疲労折損やスプラグ接触部のリボンスプリング先端部の磨耗を防ぐことができる。これにより、ワンウェイクラッチの寿命が延びる。
【実施例】
【0011】
以下、本発明の実施例を添付図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明のスプラグ型ワンウェイクラッチを一部破断して示す部分正面図である。ディスエンゲージタイプのスプラグ型ワンウェイクラッチ10は、ほぼ環状の内周軌道面1aを有する外輪1と、外輪1と半径方向に離間されると共に相対回転自在に同心状に配置され、ほぼ環状の外周軌道面2aを有する内輪2とを有する。図1では、外輪1及び内輪2は図示を省略してある。
【0012】
スプラグ型ワンウェイクラッチ10は更に、外輪1及び内輪2間に配置され内周軌道面1aと外周軌道面2aとの間でトルクを伝達する複数のひょうたん形のスプラグ3と、スプラグ3に起き上がりモーメント、すなわち回転トルクを与えるリボンスプリング7とを有する。スプラグ3は、円周方向等配に設けられている。
【0013】
外輪1及び内輪2間には、スプラグ3を保持する複数の窓をそれぞれ備えた内側保持器4と外側保持器5とが配置されている。複数の窓と、それに保持されるスプラグ3とは、円周方向等配に設けられている。
【0014】
スプラグ型ワンウェイクラッチ10の軸方向両端には、エンドベアリング6が配置され、外輪1と内輪2とを同心に維持している。ワンウェイクラッチ10は外輪1の回転に急加減速があるとスプラグ3は慣性のため外輪1の内周軌道面1aで滑りによる磨耗や噛合いが不確実になる。これを防止するため、外側保持器5と外輪1との間に所定の摩擦力を与え、ワンウェイクラッチ10が常に外輪1と一体に回転するように外側保持器5にはiバー加工8が設けられている。
【0015】
ディスエンゲージタイプのスプラグ型ワンウェイクラッチ10において、スプラグ3の外輪側カム面3aの空転側にスプラグが傾斜した時に、内周軌道面1aとスプラグ3を円周方向2箇所で接触するように構成して、所定以上の空転回転数でのスプラグ3の重心Gからの遠心力作用線の方向が2箇所の接点間にあるようにすることによりスプラグの揺動を防止する。
【0016】
次に、図2を参照して本発明の第1実施例を説明する。図2は、本発明の第1実施例のスプラグ型ワンウェイクラッチの軸方向部分断面図である。スプラグ3の外側カム面3aは所定回転数で外輪が空転することにより、スプラグ3が傾斜した状態で、スプラグ3は外輪1の内周軌道面1aと二つの接点、A点及びB点にて接触している。このとき、スプラグ3は内輪2の外周軌道面2aに対して離間している。また、スプラグ3はリボンスプリング7の開口部7aに縊れた部分を嵌合している。接点A点及びB点間の周面は、スプラグ3の姿勢を安定させるための姿勢安定領域3bとなっている。姿勢安定領域3bは、平面であるが、外輪1の内周軌道面1aより大きな曲率を有するものであれば曲面でも良い。
【0017】
スプラグ3の重心Gからの遠心力の作用線Yの方向が接点AとBとの間にあることによりスプラグ3が揺動に対し安定位置を保つように作用する。すなわち、スプラグが時計回転に揺動するときA部を含む左側の接触点と遠心力により反時計方向のモーメントが働きスプラグは定位置に戻ろうとする。またスプラグ3が反時計方向に揺動するときB点を含む右側の接触点と遠心力による時計方向のモーメントが働きスプラグ3は定位置に戻ろうとする。これにより、スプラグ3の姿勢が安定する。
【0018】
図3は、第2実施例のスプラグ型ワンウェイクラッチの軸方向部分断面図である。図3では、姿勢安定領域3cは、外輪1の内周軌道面1aに接触する接点Aと接点Bとの間に設けられた凹部として形成されている。姿勢安定領域3cの距離Lは、揺動安定性を確保できる範囲で設定する。
【0019】
第2実施例においても、スプラグ3の重心Gからの遠心力の作用線Yの方向が接点AとBとの間にあることによりスプラグ3が揺動に対し安定位置を保つように作用する。姿勢安定領域3cは、図2及び図3に示した形状以外の形状も可能である。例えば、外側カム面3aの接点A及び接点Bを突起として形成することもできる。尚、図2及び図3においては保持器は図示を省略している。
【0020】
上述した各実施例において、スプラグ3の重心Gからの遠心力の作用線Yの方向が接点AとBとのほぼ中間に位置するようにすれば、スプラグ3が揺動に対しより安定するように作用する。
【0021】
また、各実施例において、姿勢安定領域3b及び3cはスプラグ3の外側カム面3aの周方向の一端側に設けたが、必ずしも端部ではなく、端部から中央寄りに変位した所定位置に設けることもできる。
【0022】
各実施例において、姿勢安定領域3bまたは3cにおいて、スプラグ3は円周方向において外輪1の内周軌道面1aに所定長さで面接触すると共に、所定回転数での外輪空転時において外輪1と姿勢安定領域3bまたは3cと面接触するように構成し、かつスプラグ3の重心Gからの遠心力の作用線Yの方向が姿勢安定領域3bまたは3c内にあるように構成することができる。
【0023】
また、姿勢安定領域3bまたは3cにおいて、スプラグ3は円周方向において所定の長さ離れた位置で外輪1と線接触すると共に、所定回転数での外輪空転時において外輪1と姿勢安定領域3bまたは3cの両側の二点と線接触するように構成し、かつスプラグ3の重心Gからの遠心力の作用線Yの方向が姿勢安定領域3bまたは3c内にあるように構成することもできる。
【0024】
以上説明したスプラグ型ワンウェイクラッチ10は、図1に示したような外側及び内側の二重保持器を備えたタイプだけでなく、単一の保持器を備えたタイプであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のディスエンゲージタイプのスプラグ型ワンウェイクラッチを一部破断して示す部分正面図である。
【図2】本発明の第1実施例のスプラグ型ワンウェイクラッチの軸方向部分断面図である。
【図3】本発明の第2実施例のスプラグ型ワンウェイクラッチの軸方向部分断面図である。
【図4】従来のディスエンゲージタイプのワンウェイクラッチの軸方向部分断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 外輪
2 内輪
3 スプラグ
4 内側保持器
5 外側保持器
7 リボンスプリング
10 ワンウェイクラッチ
3b,3c 姿勢安定領域
3a 外側カム面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスエンゲージタイプのスプラグ型ワンウェイクラッチにおいて、
ほぼ環状の内周軌道面を有する外輪と、
前記外輪と半径方向に離間されると共に相対回転自在に同心状に配置され、ほぼ環状の外周軌道面を有する内輪と、
前記外輪及び前記内輪間に配置され前記内外周軌道面でトルクを伝達する複数のスプラグと、
前記スプラグに起き上がりモーメントを与えるリボンスプリングと、
から成り、前記スプラグの外径側カム面に、所定の外輪空転回転数において前記スプラグの揺動を防止する機構を設けたことを特徴とするスプラグ型ワンウェイクラッチ。
【請求項2】
請求項1のスプラグ型ワンウェイクラッチにおいて、前記機構は、前記スプラグの前記外径側カム面の空転側の所定位置に設けた姿勢安定領域を有し、前記姿勢安定領域において、前記スプラグは円周方向において前記外輪の内周軌道面に所定長さで面接触すると共に、所定回転数での外輪空転時において前記外輪と前記姿勢安定領域と面接触し、かつ前記スプラグの重心からの遠心力の作用線方向が前記姿勢安定領域内にあることを特徴とするスプラグ型ワンウェイクラッチ。
【請求項3】
請求項1のスプラグ型ワンウェイクラッチにおいて、前記機構は、前記スプラグの前記外径側カム面の空転側の所定位置に設けた姿勢安定領域を有し、前記姿勢安定領域において、前記スプラグは円周方向において所定の長さ離れた位置で前記外輪と線接触すると共に、所定回転数での外輪空転時において前記外輪と前記姿勢安定領域の両側の二点と線接触し、かつ前記スプラグの重心からの遠心力の作用線方向が前記姿勢安定領域内にあることを特徴とするスプラグ型ワンウェイクラッチ。
【請求項4】
請求項2乃至3のスプラグ型ワンウェイクラッチにおいて、重心からの遠心力の作用線方向は前記姿勢安定領域内の略中央部であることを特徴とするスプラグ型ワンウェイクラッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−292140(P2006−292140A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−116919(P2005−116919)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(000102784)NSKワーナー株式会社 (149)