説明

スプラグ型ワンウェイクラッチ

【課題】 エンジン振動の激しい条件、かつエンジンオイルなどの極圧添加剤などの摩擦係数が低い潤滑条件においても信頼ある噛合い性能を維持するスプラグ型ワンウェイクラッチを提供する。
【解決手段】 半径方向に離間され、相対回転自在に同心状に配置されると共に、内周軌道面を有する外輪および外輪内に配され環状の外周軌道面を有する内輪と、外輪および内輪の間に配置されて外輪の内周軌道面と内輪の外周軌道面との間でトルクを伝達する複数のスプラグと、スプラグを保持する保持器と、スプラグを付勢するスプリングとから成るスプラグ型ワンウェイクラッチにおいて、スプラグの初期噛合い高さにおけるストラト角が、2°以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等に使用されるスプラグ型ワンウェイクラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、スプラグ型ワンウェイクラッチは、外輪と、外輪と相対回転自在の内輪と、外輪及び内輪の間でトルクを伝達するトルク伝達部材としてのスプラグとからなっている。内外輪の相対回転に伴って、スプラグが例えば内輪の外周面に噛合い、内外輪間でトルクを伝達する。
【0003】
また、スプラグ型ワンウェイクラッチでは、スプラグのカム面は外側カム面と内側カム面の曲率半径の中心をずらし、スプラグが噛合い方向に回転するに従いスプラグ高さが高くなる形状に作られていることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては次のものがある。
【特許文献1】特開平2−206713公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このとき、スプラグは、噛合いに必要な条件として摩擦係数μとストラト角αはμ>tanαを満足しなければならない。このストラト角の測定方法は特許文献1に記載されている。
【0006】
エンジンオイルには有機モリブデンなどの極圧添加材が含まれている。そのため、これらのエンジンオイルの摩擦係数は低く、ワンウェイクラッチの噛合いにおいて、摩擦係数μとストラト角αの関係はtanα>μとなりスベリを生じ噛合わず、ワンウェイクラッチの噛合い機能を発揮できないことがある。
【0007】
更に、エンジン振動の激しい環境で使用される場合、特に空転時のスプラグの内径側に摩耗の問題が生じる場合があった。
【0008】
従って、本発明の目的は、エンジン振動の激しい条件、かつエンジンオイルなどの極圧添加剤などの摩擦係数が低い潤滑条件においても信頼ある噛合い性能を維持するスプラグ型ワンウェイクラッチを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のスプラグ型ワンウェイクラッチは、
半径方向に離間され、相対回転自在に同心状に配置されると共に、内周軌道面を有する外輪および外輪内に配され環状の外周軌道面を有する内輪と、外輪および内輪の間に配置されて外輪の内周軌道面と内輪の外周軌道面との間でトルクを伝達する複数のスプラグと、スプラグを保持する保持器と、スプラグを付勢するスプリングとから成るスプラグ型ワンウェイクラッチにおいて、
スプラグの初期噛合い高さにおけるストラト角が、2°以下であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下のような効果が得られる。
【0011】
スプラグの初期噛合い高さ=(外輪の内周軌道面の直径―内輪の外周軌道面の直径)/2で表せるスプラグ高さにおけるストラト角が2°以下(好ましくは1.2〜1.8°)、かつ通常噛合い領域(トルク負荷)におけるストラト角が3°以下とすることにより、極圧剤の含まれた摩擦係数が低い潤滑油が使用されている環境においても確実な噛合いができる信頼性あるスプラグ型ワンウェイクラッチが提供できる。
【0012】
本明細書において、スプラグの高さとストラト角の測定方法は、特許文献1の図1に記載されている方式に従った。本発明のストラト角は初期噛合い高さ時が2°以下(好ましくは1.2〜1.8°)かつ通常噛合い領域(トルク負荷)におけるストラト角が3°以下であり、小さすぎると、噛合い方向のトルク力が出せなくなりワンウェイクラッチの機能を果たせなくなる。
【0013】
また、スプラグの初期噛合い高さより低い空転域における、外径側カム面および内径側カム面のカム形状中心からのカム面までの半径寸法は、スプラグの初期噛合い高さより高い噛合い域における、外径側カム面および内径側カム面を形成しているカム面の半径寸法より小さな半径寸法で形成されているスプラグとすることにより、スプラグの許容偏心量が大きく取れるため、スプラグと内輪との磨耗が防止される。スプラグが空転側に最大に傾いた時に、内輪軌道面とスプラグのスペースを大きくすることができるため、偏芯荷重が加わってもスプラグが傾くことが可能となり、スプラグは外輪の内周軌道面または内輪の外周軌道面からの過大な荷重に対して逃げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例を示すスプラグ型ワンウェイクラッチの軸方向部分断面図である。
【図2】図1に示すワンウェイクラッチのスプラグの正面図である。
【図3】平行平面で測定したスプラグのストラト角曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。尚、以下説明する各実施例は、本発明を例示として示すだけであり、いかなる意味においても限定するものではない。
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。尚、図面において同一部分は同一符号にて示してある。また、実施例は本発明を例示として説明するものであり、本発明を限定するものではないことは言うまでもない。
【0017】
図1は、本発明の実施例を示すスプラグ型ワンウェイクラッチ10の軸方向部分断面図である。ワンウェイクラッチ10は、内周軌道面11を備えた外輪1と、外輪1と相対回転自在に配置され、外周軌道面12を備えた内輪2と、外輪1と内輪2との間でトルクを伝達するトルク伝達部材としての複数のスプラグ3とからなっている。
【0018】
スプラグ3は、外輪1と内輪2との間に配置された外側保持器4と内側保持器5に保持されている。また、外側保持器4と内側保持器5との間にはリボンスプリング6が設けられ、内輪2の外周軌道面12に噛合うための起き上がりモーメントをスプラグ3に与えている。外側保持器4の一部には、外輪1との間に摩擦力を付与する手段7が設けられている。例えば、摩擦力付与手段としてT字型バーや保持器の柱部分を折り曲げたiバー等が知られている。
【0019】
図2は、図1に示すワンウェイクラッチ10のスプラグ3の正面図である。スプラグ3は、径方向の中間でくびれた部分を有するひょうたん形の形状をしている。図2では、実際の使用状況ではないが説明の便宜上、外輪1の内周軌道面11と内輪2の外周軌道面12をそれぞれ平行としている。
【0020】
スプラグ3は、外輪1側に、内周軌道面11とスプラグ3とが接触している接点Aを挟んで、それぞれ異なる半径を有する曲面であるカム面21及び22を備え、内輪2側に、外周軌道面12とスプラグ3とが接触している接点Bを挟んで、同じく異なる半径を有する曲面であるカム面23及び24を備えている。本実施例では、カム面21とカム面23がほぼ同一の半径を有し、カム面22とカム面24とがほぼ同一の半径を有している。また、カム面22とカム面24の半径は、カム面21とカム面23の半径より大きい。
【0021】
スプラグ3の外径側のカム面21は、スプラグ3の初期噛合い高さHより低い領域X(空転域)に対応し、カム面22は、スプラグ3の初期噛合い高さHより高い領域Y(噛合域)に対応している。また、内径側のカム面23は、スプラグ3の初期噛合い高さHより低い領域X(空転域)に対応し、カム面24は、スプラグ3の初期噛合い高さHより高い領域Y(噛合域)に対応している。
【0022】
図2において、接点Aと接点Bとを結ぶ直線と、曲面、すなわちカム面24の中心Oとがなす角度αが、スプラグ3のストラト角である。本実施例では、スプラグ3の初期噛合い高さHにおけるストラト角αは、2°以下、好ましくは、1.2°以上1.8°以下に設定されている。
【0023】
尚、図2において内周軌道面11とカム面22の中心O’とがなす角及び外周軌道面12とカム面24の中心Oとがなす角は、それぞれほぼ直角である。但し、説明を分かりやすくするため、ストラト角αを誇張して描いているため、図2では直角よりやや小さく見える。
【0024】
スプラグ3の初期噛合い高さHよりスプラグ3の高さが約0.1mm大きいスプラグの噛合い領域でのストラト角は3°以下である。
【0025】
図3は、平行平面で測定したスプラグのストラト角曲線を示すグラフである。スプラグ3のストラト角は、スプラグ3の初期噛合い高さHに対するストラト角で表し、図3が本実施例の代表的なストラト角曲線である。
【0026】
一般に、スプラグ3が滑りを起こさないためには、ストラト角αは小さくしてtanαは、鋼の摩擦係数μより小さくなければならない。すなわち、
tanα<μ
の関係を満たす必要がある。また、ストラト角を小さくしすぎると、トルク容量が低下するので、最適のストラト角に設定しなくてはならない。
【0027】
図3において、R1は、空転域を示し、R2とR3が噛合域を示している。このうち、特にR2が実用に供する噛合域を示しており、本発明の実施例に相当する領域である。ストラト角αをこのように設定することで、エンジン振動の激しい条件、かつエンジンオイルなどの極圧添加剤などの摩擦係数が低い潤滑条件においても信頼ある噛合い性能を維持することができる。
【0028】
以上説明したスプラグ型のワンウェイクラッチは、外側保持器と内側保持器の二重保持器タイプであるが、本発明は単一の保持器を備えたスプラグ型ワンウェイクラッチにも適用できることは言うまでもない。また、その他の形状のスプラグを有するワンウェイクラッチにも適用できる。
【符号の説明】
【0029】
1 外輪
2 内輪
3 スプラグ
4 外側保持器
5 内側保持器
10 ワンウェイクラッチ
α ストラト角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半径方向に離間され、相対回転自在に同心状に配置されると共に、内周軌道面を有する外輪および外輪内に配され環状の外周軌道面を有する内輪と、外輪および内輪の間に配置されて外輪の内周軌道面と内輪の外周軌道面との間でトルクを伝達する複数のスプラグと、スプラグを保持する保持器と、スプラグを付勢するスプリングとから成るスプラグ型ワンウェイクラッチにおいて、
スプラグの初期噛合い高さにおけるストラト角が、2°以下であることを特徴とするスプラグ型ワンウェイクラッチ。
【請求項2】
前記スプラグの初期噛合い高さよりスプラグの高さが0.1mm大きいスプラグの噛合い領域でのストラト角が3°以下であることを特徴とする請求項1に記載のスプラグ型ワンウェイクラッチ。
【請求項3】
スプラグの初期噛合い高さより低い空転域における、外径側カム面および内径側カム面のカム形状中心からのカム面までの半径寸法は、スプラグの初期噛合い高さより高い噛合域における、外径側カム面および内径側カム面を形成しているカム面の半径寸法より小さな半径寸法で形成されているスプラグを有するスプラグ型ワンウェイクラッチ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2010−533267(P2010−533267A)
【公表日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−554801(P2009−554801)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【国際出願番号】PCT/JP2007/064045
【国際公開番号】WO2009/008093
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(000102784)NSKワーナー株式会社 (149)