スペースデブリ検出方法
【課題】複数の撮影画像から重ね合わせ法を用いてスペースデブリを効率よく検出する。
【解決手段】過去に地球周回軌道上で破砕した可能性のある破砕起源物体にデブリ破砕モデルを適用して、質量保存則にしたがい仮想的なスペースデブリを生成し(ステップS1,3)、これにデブリ軌道伝播モデルをそれぞれ適用して、定点観測中における各仮想的なスペースデブリの軌道計算を行い(ステップS5)、軌道計算結果に基づいて、天球上における各仮想的なスペースデブリの移動ベクトルの出現頻度分布を生成する(ステップS13)。これらを複数回行って(ステップS9、ステップS11)、移動ベクトルの出現頻度分布が高い移動ベクトルに基づいて探査範囲ベクトルを設定し、定点観測中に時間をおいて撮影した各画像を撮影順に探査範囲ベクトルに沿って順次移動した各領域に重ね合わせ法を適用し、画像に写ったスペースデブリを検出する(ステップS17〜21)。
【解決手段】過去に地球周回軌道上で破砕した可能性のある破砕起源物体にデブリ破砕モデルを適用して、質量保存則にしたがい仮想的なスペースデブリを生成し(ステップS1,3)、これにデブリ軌道伝播モデルをそれぞれ適用して、定点観測中における各仮想的なスペースデブリの軌道計算を行い(ステップS5)、軌道計算結果に基づいて、天球上における各仮想的なスペースデブリの移動ベクトルの出現頻度分布を生成する(ステップS13)。これらを複数回行って(ステップS9、ステップS11)、移動ベクトルの出現頻度分布が高い移動ベクトルに基づいて探査範囲ベクトルを設定し、定点観測中に時間をおいて撮影した各画像を撮影順に探査範囲ベクトルに沿って順次移動した各領域に重ね合わせ法を適用し、画像に写ったスペースデブリを検出する(ステップS17〜21)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地球周回軌道上のスペースデブリを検出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スペースデブリは、運用されることなく地球周回軌道上を周回している人工物である。例えば、寿命や事故、故障により運用を終えた宇宙機(人工衛星や宇宙ステーション、スペースシャトル等)とか、人工衛星の打ち上げに使用したロケットの本体及び部品、多段ロケットの切り離し時に生じた破片、宇宙飛行士が船外活動で落とした工具等が、スペースデブリとなる。また、スペースデブリどうしが衝突して粉砕されることで生じた微細デブリも、スペースデブリに含まれる。したがって、スペースデブリには大小様々なものがある。
【0003】
スペースデブリを検出することは、宇宙機(人工衛星や宇宙ステーション、スペースシャトル等)の円滑な運用を実現する上で重要である。従来から行われているスペースデブリの検出方法の一つとして、地球上や軌道上においてCCDカメラにより撮影した画像中の高輝度部分を抽出することで、スペースデブリの存在を特定する方法がある。
【0004】
この方法では、時間をおいて撮影した3コマ以上の画像から、スペースデブリ等の移動体の動作(ベクトル方向、スカラー量)に合わせた領域の画像を同じ大きさで切り取り、切り取った画像に対して重ね合わせ法を適用している。具体的には、切り取った各画像を重ね合わせて、同じ画素について画素値の中央値又は平均値を求める。そして、求めた中央値又は平均値が一定値以上となる画素を、移動体が存在する画素として抽出する(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−323625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、時間をおいて撮影した複数の画像から重ね合わせ法を用いてスペースデブリを検出する場合には、各画像に写った検出対象のスペースデブリが重なるように、画像の撮影間隔の間にスペースデブリが移動する分だけ各画像から切り取る領域をずらして重ね合わせる必要がある。ところが、検出対象のスペースデブリの動作(ベクトル方向、スカラー量)は、事前に分かっていないことが通常である。
【0007】
そのため、各画像から切り取る領域を様々な方向に様々な量ずつずらして重ね合わせる試行錯誤を繰り返して、検出対象のスペースデブリが重なる画像の切り取り領域を見つけなければならない。それに要する処理は膨大な量となり、汎用計算機レベルでは月又は年単位の長い時間を要するものとなってしまう。
【0008】
このように、時間をおいて撮影した観測空間の複数の画像からその画像に写ったスペースデブリを画像処理によって検出することは、容易に実現できないという実体がある。
【0009】
本発明は前記事情に鑑みなされたもので、本発明の目的は、時間をおいて撮影した観測空間の複数の撮影画像からスペースデブリを効率よく簡便な処理で検出することができるスペースデブリ検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1に記載した本発明のスペースデブリ検出方法は、
定点観測中に時間をおいて撮影された複数の画像に写った地球周回軌道上のスペースデブリを検出する方法であって、
過去に地球周回軌道上で破砕した可能性のある破砕起源物体を特定する物体特定ステップと、
前記物体特定ステップで特定した破砕起源物体にデブリ破砕モデルを適用して、質量保存則にしたがい仮想的なスペースデブリを生成する仮想デブリ生成ステップと、
前記仮想デブリ生成ステップで生成した各仮想的なスペースデブリにデブリ軌道伝播モデルをそれぞれ適用して、定点観測中における前記各仮想的なスペースデブリの軌道計算を行う軌道計算ステップと、
前記軌道計算ステップによる軌道計算結果に基づいて、定点観測中の天球上における前記各仮想的なスペースデブリの移動ベクトルの出現頻度分布を生成する移動ベクトル分布生成ステップと、
前記仮想デブリ生成ステップ、前記軌道計算ステップ、及び、前記移動ベクトル分布生成ステップを複数回行って得た複数回分の前記生成した移動ベクトルの出現頻度分布の積算分布において、出現頻度分布が高い移動ベクトルに基づいて、前記画像上でのスペースデブリの移動ベクトルを推定する移動ベクトル推定ステップと、
定点観測中に時間をおいて撮影された前記各画像の前記推定した移動ベクトルの方向及び量だけ撮影順に順次移動した各領域の画素情報の照合により、前記画像に写った地球周回軌道上のスペースデブリを検出する検出ステップと、
を含むことを特徴とする。
【0011】
請求項1に記載した本発明のスペースデブリ検出方法によれば、仮想デブリ生成ステップ、軌道計算ステップ、及び、移動ベクトル分布生成ステップを行うと、各仮想的なスペースデブリが将来の定点観測中に軌道上を移動する際の天球上における移動ベクトルの出現頻度分布が得られる。これを複数回行って得られた移動ベクトルの出現頻度の積算分布において、出現頻度分布が高い移動ベクトルが存在する場合には、その移動ベクトルは、実際のスペースデブリが定点観測中に移動する際の移動ベクトルである確率が高いと考えることができる。
【0012】
そこで、定点撮影中に時間をおいて撮影した各画像の、定点観測中において出現頻度分布が高い仮想的なスペースデブリの移動ベクトルの方向及び量だけ、撮影順に順次移動した領域について、それぞれの画素情報を照合(同一画素の画素値の一致又は不一致)することで、各画像に写ったスペースデブリを検出できる確率を高くすることができる。これにより、定点観測中に時間をおいて撮影した観測空間の複数の撮影画像からスペースデブリを効率よく簡便な処理で検出することができる。
【0013】
また、請求項2に記載した本発明のスペースデブリ検出方法は、請求項1に記載した本発明のスペースデブリ検出方法において、
前記推定した移動ベクトルに基づいて、前記各画像上に写ったスペースデブリの探索範囲の移動方向及び移動量を示す探索範囲ベクトルを設定する探索範囲ベクトル設定ステップをさらに含み、
前記検出ステップは、
定点観測中に時間をおいて撮影された前記各画像の前記設定した探索範囲ベクトルの方向及び量だけ撮影順に順次移動した各領域に重ね合わせ法を適用することで、前記画像に写った地球周回軌道上のスペースデブリを検出する、
ことを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載した本発明のスペースデブリ検出方法によれば、請求項1に記載した本発明のスペースデブリ検出方法において、定点撮影中に時間をおいて撮影した各画像の、推定したスペースデブリの移動ベクトルに基づいて設定した探索範囲ベクトルの方向及び量だけ、撮影順に順次移動した領域に、重ね合わせ法を適用することで、各画像に写ったスペースデブリが同一画素上で重なる確率を高くすることができる。これにより、定点観測中に時間をおいて撮影した観測空間の複数の撮影画像から重ね合わせ法を用いてスペースデブリを効率よく簡便な処理で検出することができる。
【0015】
さらに、請求項3に記載した本発明のスペースデブリ検出方法は、請求項1又は2に記載した本発明のスペースデブリ検出方法において、
前記軌道計算ステップが、
定点観測の開始から終了までの一定時間間隔の各時刻について、前記仮想デブリ生成ステップで生成した各仮想的なスペースデブリの軌道計算を行う時刻別軌道計算ステップを含み、
前記移動ベクトル分布生成ステップが、
前記時刻別軌道計算ステップによる各時刻の前記軌道計算結果に基づいて、前記移動ベクトルの出現頻度分布を生成する、
ことを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載した本発明のスペースデブリ検出方法によれば、請求項1又は2に記載した本発明のスペースデブリ検出方法において、特に定点観測中に仮想的なスペースデブリが存在すると予測される天球上の位置における、仮想的なスペースデブリの移動ベクトルの出現頻度分布が高い範囲を基に、探索範囲ベクトルを決定することになる。
【0017】
したがって、定点観測中に撮影する複数の画像に写る実際のスペースデブリの移動ベクトルが探索範囲ベクトルと一致する確度を高め、スペースデブリの検出確度をより高めることができる。
【0018】
また、請求項4に記載した本発明のスペースデブリ検出方法は、請求項1、2又は3に記載した本発明のスペースデブリ検出方法において、
前記軌道計算ステップによる軌道計算結果に基づいて、定点観測中の天球上における前記各仮想的なスペースデブリの存在確率分布をそれぞれ生成するデブリ分布生成ステップと、
前記仮想デブリ生成ステップ、前記軌道計算ステップ、及び、前記デブリ分布生成ステップを複数回行って得た複数回分の前記生成した存在確率分布の積算分布に基づいて、定点観測中の天球上における前記仮想的なスペースデブリの存在確率分布が高い領域を含む空間を、定点観測中の前記画像の撮影空間に設定する撮影空間設定ステップと、
をさらに含み、
前記設定した撮影空間を時間をおいて撮影することで前記各画像を得るようにした、
ことを特徴とする。
【0019】
請求項4に記載した本発明のスペースデブリ検出方法によれば、請求項1、2又は3に記載した本発明のスペースデブリ検出方法において、仮想デブリ生成ステップ、軌道計算ステップ、及び、デブリ分布生成ステップを行うと、各仮想的なスペースデブリが将来の定点観測中に軌道上を移動する際の天球上における存在確率分布が得られる。これを複数回行って得られた定点観測中の天球上における仮想的なスペースデブリの存在確率分布が高い領域は、実際のスペースデブリが定点観測中に存在する確率が高い領域であると考えることができる。
【0020】
そこで、定点観測中の天球上における仮想的なスペースデブリの存在確率分布が高い領域を含む空間を、定点観測中に画像を撮影する空間とすることで、定点観測中に時間をおいて撮影した画像に実際のスペースデブリが写る確率を高くすることができる。これにより、定点観測中に時間をおいて撮影した観測空間の複数の撮影画像からスペースデブリを効率よく簡便な処理で検出することができる。
【0021】
さらに、請求項5に記載した本発明のスペースデブリ検出方法は、請求項4に記載した本発明のスペースデブリ検出方法において、
前記軌道計算ステップが、
定点観測の開始から終了までの一定時間間隔の各時刻について、前記仮想デブリ生成ステップで生成した各仮想的なスペースデブリの軌道計算を行う時刻別軌道計算ステップを含み、
前記デブリ分布生成ステップが、
前記時刻別軌道計算ステップによる各時刻の前記軌道計算結果に基づいて、該各時刻の前記各仮想的なスペースデブリの天球上における存在位置を計算する存在位置計算ステップと、
前記存在位置計算ステップによる計算結果に基づいて、定点観測中の天球上における前記各仮想的なスペースデブリの存在確率分布を生成する存在確率分布生成ステップとを含む、
ことを特徴とする。
【0022】
請求項5に記載した本発明のスペースデブリ検出方法によれば、請求項4に記載した本発明のスペースデブリ検出方法において、特に定点観測中に仮想的なスペースデブリが存在すると予測される天球上の位置における、仮想的なスペースデブリの存在確率分布が高い空間に、定点観測中の画像の撮影空間を設定することになる。
【0023】
したがって、定点観測中に画像を撮影する空間が、定点観測中に実際のスペースデブリが存在する空間と一致する確度を高め、重ね合わせ法を適用したスペースデブリの検出確度をより高めることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、定点観測中に時間をおいて撮影した観測空間の複数の撮影画像からスペースデブリを効率よく簡便な処理で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】重ね合わせ法を適用したスペースデブリの検出処理の概要を示す説明図である。
【図2】図1の検出処理を行う際に必要なスペースデブリの移動ベクトルの想定範囲を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るスペースデブリの検出方法の手順を示すフローチャートである。
【図4】図3の軌道計算ステップの手順を示すフローチャートである。
【図5】図3のデブリ分布生成ステップの手順を示すフローチャートである。
【図6】図8の存在確率分布を生成する際に行う仮想的なスペースデブリの赤経及び赤緯の各方向についての分布を示す2変量ヒストグラムの説明図である。
【図7】モンテカルロシミュレーションにより複数回生成した図6の2変量ヒストグラムによる仮想的なスペースデブリの分布を合成する手順を示す説明図である。
【図8】図7の合成により得られた定点観測中の天球上における仮想的なスペースデブリの存在確率分布を示す説明図である。
【図9】図6の2変量ヒストグラムによる仮想的なスペースデブリの存在確率分布を1回だけ生成した場合の分布例を示すグラフである。
【図10】図6の2変量ヒストグラムによる仮想的なスペースデブリの存在確率分布をモンテカルロシミュレーションにより複数回生成した場合の分布例を示すグラフである。
【図11】モンテカルロシミュレーションにより複数回生成した仮想的なスペースデブリの存在確率分布が複数のグループに分散して分布する場合の分布例を示すグラフである。
【図12】図3のスペースデブリ検出ステップの手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0027】
まず、時間をおいて撮影した複数の画像から画像処理によってスペースデブリを検出する処理の代表的な一例として、図1の説明図を参照して、重ね合わせ法を適用したスペースデブリ検出処理の基本的考え方について説明する。
【0028】
地上からの光学観測は、静止軌道上のスペースデブリを検出する方法として広く用いられている。観測の際に撮影された画像に画像処理を施し、明度によって背景と区別することでスペースデブリを検出する。ところが、背景との明度差が小さく区別不可能な暗いスペースデブリが画像上に存在する可能性がある。そこで、そのようなスペースデブリでも検出できる方法として、重ね合わせ法が知られている。
【0029】
重ね合わせ法では、図1の説明図に示すように、検出対象の暗いスペースデブリDが直線運動として現れるように、定点観測中に短い時間間隔をおいて複数の画像A1〜A4をCCDカメラ等により撮影する。そして、画像A1〜A4の撮影間隔に対応するスペースデブリDの移動ベクトルp(=Δx[pixel],Δy[pixel])を仮定し、その移動ベクトルpに沿って、複数の画像A1〜A4を時系列順に重ね合わせる。つまり、各画像A1〜A4をスペースデブリDの移動ベクトルp分ずつ順次ずらして重ね合わせる。
【0030】
そして、各画像A1〜A4の明度の平均値を計算して一枚の画像Aに合成する。背景の明度を構成する主な要素はノイズ成分である。合成された画像Aでは背景のノイズ成分が平滑化されることで背景の明度が低下し、背景と検出対象のスペースデブリDとが明度により区別可能になる。この一連の手続きにより、撮影した複数の画像A1〜A4からスペースデブリDを検出することができる。
【0031】
例えば、各画像A1〜A4に恒星等の静止物体が高い明度で写っていても、その像は重ねた各画像A1〜A4の同じ位置で重ならない。そのため、一枚の画像Aに合成する際に恒星等の像が写った画素の明度は背景と平均化されて小さくなる。したがって、重ねた各画像A1〜A4の同一箇所に写るスペースデブリDの明度を背景の明度よりも相対的に高くなる。
【0032】
ところで、重ね合わせ法のクリティカルポイントは、スペースデブリDの移動ベクトルpの仮定が必要な点である。スペースデブリDは画像上で様々な移動方向・量を持つため、移動ベクトルpは1つの値に仮定出来ず、移動ベクトルpの成分である(Δx,Δy)の2変量の探索領域を定める必要がある。
【0033】
従来、1枚の画像からでは検出不可能な暗いスペースデブリDの移動ベクトルpの探索領域を適切に仮定する手法は存在しない。したがって、図2の説明図中に「デブリモデリング未適用時の最大必要探索領域」として示すように、最大で、画像の撮影幅(X,Y)の2倍の大きさの移動ベクトルpの探索領域が必要であった。
【0034】
この大きさの探索領域でスペースデブリDを探索するには非現実的な解析時間が要求される。通常、一夜で取得する大量の撮像に対して、上述した大きさの探索領域を適用し、汎用計算機1台により解析処理を行う場合、数ヶ月から数年の時間が要求される。
【0035】
以下に説明する本発明の一実施形態に係るスペースデブリの検出方法では、デブリモデリングの手法(デブリ破砕モデル並びにデブリ軌道伝播モデル)を適用することで、スペースデブリDの移動ベクトルpを適切に推定し、図2の説明図中に「デブリモデリング適用時の必要探索領域」として示すように、移動ベクトルpの探索領域を劇的に絞り込むようにしている。
【0036】
解析処理に必要な時間は、移動ベクトルpの探索領域の面積に比例するため、以下に説明する本実施形態の検出方法により、最大でデブリモデリング未適用時の数%程度の解析時間に抑えることができる。これにより、解析時間が現実的な時間ですむようになり、数日分の大量の観測画像を少数の汎用計算機上で有限時間内に解析し、明度の低いデブリを検出することが可能となる。
【0037】
そのために、本実施形態に係るスペースデブリ検出方法では、図3のフローチャートに示すように、物体特定ステップ(ステップS1)、仮想デブリ生成ステップ(ステップS3)、軌道計算ステップ(ステップS5)、及び、デブリ分布生成ステップ(ステップS7)を順次実行する。なお、仮想デブリ生成ステップ以降の各ステップは、ステップS9において規定回数(例えば60回)に達したと確認される(YES)まで、モンテカルロシミュレーションにより繰り返して実行する。
【0038】
また、本実施形態に係るスペースデブリ検出方法では、仮想デブリ生成ステップ以降の各ステップを規定回数繰り返して実行した後(ステップS9でYES)、撮影空間設定ステップ(ステップS11)を実行する。
【0039】
さらに、本実施形態に係るスペースデブリ検出方法では、ステップS11の撮影空間設定ステップを行った後、移動ベクトル分布生成ステップ(ステップS13)を、ステップS15において規定回数(例えば60回)に達したと確認される(YES)まで、モンテカルロシミュレーションにより繰り返して実行する。
【0040】
そして、ステップS13の移動ベクトル分布生成ステップを規定回数繰り返して実行した後(ステップS15でYES)、移動ベクトル推定ステップ(ステップS17)、探索範囲ベクトル設定ステップ(ステップS19)、定点観測ステップ(ステップS21)、及び、スペースデブリ検出ステップ(ステップS23)を実行する。
【0041】
このうち、ステップS1の物体設定ステップでは、過去に地球周回軌道上で破砕した可能性のある破砕起源物体を特定する。具体的には、既に公開された文献等から、過去に破砕した可能性がある物体(宇宙機)をリストアップして、破砕起源物体とする。
【0042】
次に、ステップS3の仮想デブリ生成ステップでは、リストアップした破砕起源物体にデブリ破砕モデルを適用し、質量保存則にしたがい仮想的なスペースデブリDを生成する。デブリ破砕モデルとは、地球を周回する人工物(宇宙機)が爆発及び衝突といった破砕を経験した際に放出される破片(仮想的なスペースデブリD)のサイズ、面積質量比、平均断面積、質量及び放出速度を計算する一連の関数式である。デブリ破砕モデルには、米航空宇宙局(NASA)によるNASA標準破砕モデルを使用することができる。
【0043】
上述したデブリ破砕モデルにおいて、地球を周回する人工物の質量が既知であれば、破砕モデルのサイズ分布モデルから、発生し得る破片のサイズが一意的に計算される。
【0044】
また、上述したデブリ破砕モデルにおいて、面積質量比分布モデルは、サイズの関数であるが、面積質量比の範囲と確率密度が二つの正規分布の重ね合わせとして記述されているため、一意的に面積質量比を計算できない。よって、面積質量比の範囲と確率密度を加味して発生する乱数を用いて面積質量比を決定する。
【0045】
さらに、上述したデブリ破砕モデルにおいて、平均断面積は、サイズの関数として一意的に記述されている。破片の質量は、平均断面積を面積質量比で除算することにより計算されている。
【0046】
上記の面積質量比の決定、決定した面積質量比をサイズの関数とする平均断面積の特定、及び、決定した面積質量比と特定した平均断面積とからの破片の質量の計算を繰返し、破片の総質量が人工物の質量に達するまで続ける。したがって、生成される破片、つまり仮想的なスペースデブリiの個数Nは、破砕起源物体の質量をM、仮想的なスペースデブリiの質量をmi とすると(但し、i=1,2,3,…,N)、
M=m1 +m2 +m3 +…+mN
を満たす値となる。
【0047】
また、上述したデブリ破砕モデルにおいて、放出速度分布モデルは、面積質量比の関数であるが、破片の放出速度の範囲と確率密度が一つの正規分布として記述されているため、一意的に放出速度を計算できない。よって、面積質量比の決定と同様に、放出速度の範囲と確率密度を加味して発生する乱数を用いて放出速度を決定している。
【0048】
以上の手順により、慣性空間内での位置ベクトル、速度ベクトル、代表長(サイズ)、面積質量比、質量、及び、平均断面積の各パラメータを有する仮想的なスペースデブリが生成される。
【0049】
ステップS5の軌道計算ステップは、仮想的なスペースデブリDの定点観測中における地球周回軌道を計算するために行うものである。具体的には、定点観測の開始予定時刻から終了予定時刻にかけて、ステップS3において予測した各仮想的なスペースデブリDが存在する軌道(軌跡)を、軌道伝播モデルを用いて計算により求める。
【0050】
この軌道計算ステップは、図4のフローチャートに示すように、時刻合わせ軌道計算ステップ(ステップS51)と、時刻別軌道計算ステップ(ステップS53)とを含んでいる。
【0051】
ステップS51の時刻合わせ軌道計算ステップは、ステップS3で生成した各仮想的なスペースデブリDについて、破砕から定点観測の開始予定時刻までの軌道計算を行う。また、ステップS53の時刻別軌道計算ステップでは、ステップS51で軌道計算した定点観測の開始予定時刻から、定点観測の終了予定時刻まで、一定時間間隔の各時刻(タイムステップ)について、各仮想的なスペースデブリDの軌道計算をそれぞれ行う。なお、本実施形態では、各時刻を、定点観測中に時間をおいて観測空間の画像A1〜A4を撮影する時刻としている。
【0052】
図3のステップS7のデブリ分布生成ステップは、後述するステップS11の撮影空間決定ステップにおいて、定点観測中に天球上のどの空間を撮影するかを決定するために行うものである。具体的には、定点観測中に仮想的なスペースデブリDが存在する位置の天球上における存在確率分布を生成する。
【0053】
このデブリ分布生成ステップは、図5のフローチャートに示すように、存在位置計算ステップ(ステップS71)と、存在確率分布生成ステップ(ステップS73)とを含んでいる。
【0054】
ステップS71の存在位置計算ステップは、図4のステップS53で計算した定点観測の開始予想時刻から終了予想時刻までの一定時間間隔の各時刻における各仮想的なスペースデブリDの軌道計算結果に基づいて、定点観測中の各時刻における各仮想的なスペースデブリDの天球上における存在位置を計算する。
【0055】
具体的には、ステップS53で軌道計算した各時刻における各仮想的なスペースデブリDの、地球慣性座標系における位置ベクトル及び速度ベクトルを、赤道面座標系に座標変換することで、定点観測中における天球上の各仮想的なスペースデブリDの存在位置(座標系原点からの距離、赤経、赤緯)を計算する。
【0056】
ステップS73の存在確率分布生成ステップでは、ステップS71で計算した各仮想的なスペースデブリDの天球上の存在位置の存在確率分布を生成する。具体的には、ステップS71で計算した定点観測中における天球上の各仮想的なスペースデブリDの存在位置の赤経、赤緯の2変量について、図6の説明図に示すヒストグラムを作成する。
【0057】
図6の2変量ヒストグラムでは、縦軸方向に赤緯の変量を取り、横軸に赤経の変量を取って、変量範囲を3つに区切ることで、3×3の9つのビンを設けている。そして、定点観測中の各時刻について、図6の2変量ヒストグラムの各ビンに納まる仮想的なスペースデブリDの数を、ステップS71で計算した各仮想的なスペースデブリDの存在位置に基づいてカウントする。このようにしてヒストグラムを作成することで、定点観測中の天球上における各仮想的なスペースデブリDの存在確率分布を生成する。生成した存在確率分布は、後述する図3のステップS11における撮影空間決定ステップで使用する。
【0058】
なお、上述した3×3=9つのビンを有する赤経及び赤緯のヒストグラムのサイズは、例えば、画像A1〜A4の撮影に用いるCCDカメラ等の光学系の視野に合わせたサイズとすることができる。
【0059】
図3のステップS11の撮影空間設定ステップでは、図5のステップS73で規定回数分生成した、定点観測中の天球上における各仮想的なスペースデブリDの存在確率分布の、積算分布を求める。図7の説明図では、生成したa〜dの4つの各存在確率分布を積算する場合を例示している。積算後、例えば、全ビン中の最大値等の代表値で各ビンの値を除して正規化することで、天球上の各仮想的なスペースデブリDの積算分布を得ることができる。
【0060】
なお、本実施形態では上述したように、図3のステップS7のデブリ分布生成ステップを数値的なアプローチにより実行する場合を例示した。即ち、仮想的なスペースデブリDの存在確率を数値的に計算し、ヒストグラムを用いてその分布を求める内容で説明した。しかし、デブリ分布ステップ(ステップS7)は、解析的なアプローチにより実行することもできる。即ち、特定の赤経、赤緯を仮想的なスペースデブリDが飛行する時刻を解析的に計算し、その結果から、仮想的なスペースデブリDの天球上における存在確率分布を求めるようにすることもできる。
【0061】
このようにして求めた、定点観測中の天球上における各仮想的なスペースデブリDの存在確率分布の積算分布を模式化したのが、図8の天球上における仮想的なスペースデブリDの存在確率分布を示す説明図である。この説明図では、右側のスケールに示す色の濃さで、仮想的なスペースデブリDの存在確率分布の高低を示している。
【0062】
そこで、図3のステップS11の撮影空間設定ステップでは、図8の説明図におけるスペースデブリDの存在確率分布の高い領域を含む空間(赤経、赤緯)を、定点観測中に画像A1〜A4を撮影する空間として設定する。これにより、定点観測中に撮影する画像A1〜A4に実際のスペースデブリDが写る確度を高めることができる。なお、撮影空間に極端に明るい天体が入らないように撮影空間を設定することが望ましい。また、撮影空間は、定点観測を行う観測所の仰角や方位角の視野の制約を考慮して設定することが望ましい。
【0063】
図3のステップS13の移動ベクトル分布生成ステップは、後述するステップS17の探索範囲ベクトル設定ステップにおいて、定点観測中に撮影する画像A1〜A4上で仮想的なスペースデブリDが移動する可能性のある範囲を定めるために行うものである。具体的には、定点観測中の各仮想的なスペースデブリDの移動ベクトルpの出現頻度分布を生成する。
【0064】
この移動ベクトル分布生成ステップでは、図5のステップS71で計算した定点観測中の各時刻における各仮想的なスペースデブリDの天球上における存在位置のうち、図3のステップS11で設定した定点観測中の画像A1〜A4を撮影する空間中に存在する仮想的なスペースデブリDについて、そのスペースデブリDが持つ移動ベクトルの出現頻度分布を生成する。
【0065】
具体的には、図4のステップS53の計算結果に対して地球慣性座標系→地球固定座標系→赤道面座標系→直下点緯度経度の時間積分取得→スケール変換の各手順を経ることで、画像A1〜A4上における各仮想的なスペースデブリDの移動ベクトルpを計算する。計算した移動ベクトルpは、図9に示す、横軸に移動ベクトルpのX方向成分(X Shift[px])を取り、縦軸にY方向成分(Y Shift[px])を取ったグラフ上に展開したような分布を持つ。
【0066】
そして、図3のステップS13の移動ベクトル分布生成ステップを、ステップS15で規定回数に到達したと確認される(YES)まで繰り返すことで、図10のグラフに示すように、定点観測中の画像を撮影する空間に存在する各仮想的なスペースデブリDの持つ移動ベクトルpの出現頻度分布の積算分布を得る。
【0067】
なお、図9及び図10の各グラフでは、右側のスケールに示す色の濃さで、移動ベクトルpの出現頻度分布の高低を示している。
【0068】
次に、図3のステップS17の移動ベクトル推定ステップでは、図10のグラフにおける移動ベクトルpの出現頻度分布の高い領域(X Shift[px],Y Shift[px])から、仮想的なスペースデブリDの移動ベクトルpを推定する。
【0069】
続く、図3のステップS19の探索範囲ベクトル設定ステップでは、ステップS17の移動ベクトル推定ステップで推定した移動ベクトルpを、図2の説明図に「デブリモデリング適用時の必要探索領域」として示した探索領域のベクトル成分を示す探索範囲ベクトルとして設定する。
【0070】
ちなみに、ステップS1の物体設定ステップで特定した破砕起源物体が複数である場合は、図11のグラフに示すように、破砕起源物体毎に仮想的なスペースデブリDの移動ベクトルpの分布がグループ化される。その場合、最も移動ベクトルpの出現頻度分布が高いグループの領域を含む空間を探索範囲ベクトルとして設定すれば、そのグループに対応する破砕起源物体から発生した実際のスペースデブリDを検出対象とすることになる。
【0071】
図3のステップS21の定点観測ステップでは、好ましくは上述した開始予想時間から終了予想時間に亘って、ステップS11で設定した撮影範囲を撮影空間とする定点観測を行う。即ち、開始予想時間から終了予想時間に亘る定点観測中に一定時間間隔で画像A1〜A4の撮影を行う。
【0072】
続く、ステップS23のスペースデブリ検出ステップは、図12のフローチャートに示すように、高明度デブリ検出ステップ(ステップS231)と、重ね合わせ処理ステップ(ステップS233)と、低明度デブリ検出ステップ(ステップS235)とを含んでいる。
【0073】
ステップS231の高明度デブリ検出ステップでは、図3のステップS21の定点観測ステップ中に一定時間間隔で撮影した複数の画像A1〜A4から、一般的で処理が高速な公知の画像解析方法により検出可能な明度が明るいスペースデブリや、米国が管理、所有し公開している軌道上物体データベースに既に登録されている公知のスペースデブリを検出する。
【0074】
ステップS233の重ね合わせ処理ステップでは、図3のステップS21で撮影した各画像A1〜A4を、その撮影順に、ステップS19で設定した探索範囲ベクトルの示す方向及び量だけ順次ずらして重ね合わせ、図1を参照して冒頭に説明した手順による重ね合わせ法を適用して、画像A1〜A4中に写った実際のスペースデブリDを検出する。
【0075】
ステップS235の低明度デブリ検出ステップでは、ステップS233の重ね合わせ処理ステップで検出した全てのスペースデブリDと、ステップS231の高明度デブリ検出ステップで検出した既知のスペースデブリDとを比較し、ステップS233の重ね合わせ処理ステップのみによって検出したスペースデブリDを、検出結果として出力する。
【0076】
なお、ステップS231の高明度デブリ検出ステップを省略し、ステップS233の重ね合わせ処理ステップで検出した全てのスペースデブリDを、ステップS235で検出結果として出力するようにしてもよい。その場合、ステップS235は、最早、低明度のスペースデブリDを限定的に出力するステップではなくなるので、「低明度デブリ検出ステップ」と言うよりも、むしろ、「デブリ検出ステップ」と言うべき内容となる。
【0077】
以上が、本実施形態によるスペースデブリ検出方法の手順である。上述したように、本実施形態のスペースデブリ検出方法ではデブリ破砕モデルを利用している。デブリ破砕モデルでは、ステップS3の説明でも述べたように、乱数を用いて面積質量比と放出速度を決定している。このため、決定された破片(仮想的なスペースデブリD)群は偶然の組合せである。偶然の組合せが現実の破砕(実際のスペースデブリD)を正確に計算しているのであれば、これほど観測に適した手法はないが、その可能性は極めて小さい。したがって、単にデブリ破砕モデルを用いただけでは、偶然を期待するスペースデブリDの観測計画しか立案できない。
【0078】
あらゆる可能性を勘案するためには、面積質量比と放出速度について、多数の偶然の組合せから必然を見いだすことが肝心である。見いだした必然(面積質量比と放出速度)を基に、スペースデブリDを高確率で検出できる観測計画が立案できる。また、必然(面積質量比と放出速度)を見いだせれば、これを基に、定点観測中に一定時間間隔で撮影する画像A1〜A4の中から明度が非常に暗い(S/N比が低い)スペースデブリDを確実に検出するために重要な、スペースデブリDの持つ適切な移動量(移動ベクトルp)を推定することができる。
【0079】
そこで、本実施形態では、図3のステップS17の移動ベクトル推定ステップにおいて、スペースデブリDの移動ベクトルpを推定するようにした。そのために、本実施形態によるスペースデブリ検出方法では、モンテカルロ法を用い、図3のステップS9及びステップS15の手順を設けることにした。
【0080】
即ち、図3のステップS17で移動ベクトルpを推定するのに必要な、ステップS3の仮想デブリ生成ステップ、ステップS5の軌道計算ステップ、及び、ステップS13の移動ベクトル分布生成ステップを、ステップS9及びステップS15の確認によって規定回数繰り返して実行するようにした(モンテカルロシミュレーション)。
【0081】
なお、本実施形態では、実際のスペースデブリDが定点観測中の撮影画像A1〜A4に写る確度を高くするために、定点観測中の各時刻における仮想的なスペースデブリDの存在確率分布を、ステップS3の仮想デブリ生成ステップ、ステップS5の軌道計算ステップ、及び、ステップS7のデブリ分布生成ステップを、ステップS9の確認によって規定回数繰り返して実行するようにした(モンテカルロシミュレーション)。
【0082】
そして、ステップS3、ステップS5、及び、ステップS7の繰り返しの実行により求めた仮想的なスペースデブリDの存在確率分布の積算分布を基に、ステップS11の撮影空間設定ステップにおいて、仮想的なスペースデブリDの存在確率分布の高い領域を含む空間(赤経、赤緯)を、定点観測中に画像A1〜A4を撮影する空間として設定するようにした。
【0083】
この構成は省略してもよいが、本実施形態のようにこの構成を設けることで、定点観測中に撮影する画像A1〜A4に実際のスペースデブリDが写る確度を高めることができる。
【0084】
以上に説明した本実施形態のスペースデブリ検出方法によれば、定点観測中に時間をおいて撮影した観測空間の複数の画像A1〜A4から、重ね合わせ法を用いて明度の低いスペースデブリDを効率よく簡便な処理で検出することができる。
【0085】
また、検出した明度の低いスペースデブリDを新たに軌道上物体データベースに登録して、軌道上物体データベースの充実化を図ることができる面でも、本実施形態のスペースデブリ検出方法は極めて有用である。
【0086】
さらに、上述した実施形態では、定点観測中に一定時間毎に撮影した画像A1〜A4に重ね合わせ法を適用してスペースデブリの検出を行う場合について説明した。しかし、本発明は、勾配法やブロックマッチング法によるオプティカルフロー等、重ね合わせ法以外の画像処理法を画像A1〜A4に適用してスペースデブリDの検出を行う際にも適用可能である。
【符号の説明】
【0087】
A 画像
A1〜A4 画像
D スペースデブリ
【技術分野】
【0001】
本発明は、地球周回軌道上のスペースデブリを検出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スペースデブリは、運用されることなく地球周回軌道上を周回している人工物である。例えば、寿命や事故、故障により運用を終えた宇宙機(人工衛星や宇宙ステーション、スペースシャトル等)とか、人工衛星の打ち上げに使用したロケットの本体及び部品、多段ロケットの切り離し時に生じた破片、宇宙飛行士が船外活動で落とした工具等が、スペースデブリとなる。また、スペースデブリどうしが衝突して粉砕されることで生じた微細デブリも、スペースデブリに含まれる。したがって、スペースデブリには大小様々なものがある。
【0003】
スペースデブリを検出することは、宇宙機(人工衛星や宇宙ステーション、スペースシャトル等)の円滑な運用を実現する上で重要である。従来から行われているスペースデブリの検出方法の一つとして、地球上や軌道上においてCCDカメラにより撮影した画像中の高輝度部分を抽出することで、スペースデブリの存在を特定する方法がある。
【0004】
この方法では、時間をおいて撮影した3コマ以上の画像から、スペースデブリ等の移動体の動作(ベクトル方向、スカラー量)に合わせた領域の画像を同じ大きさで切り取り、切り取った画像に対して重ね合わせ法を適用している。具体的には、切り取った各画像を重ね合わせて、同じ画素について画素値の中央値又は平均値を求める。そして、求めた中央値又は平均値が一定値以上となる画素を、移動体が存在する画素として抽出する(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−323625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、時間をおいて撮影した複数の画像から重ね合わせ法を用いてスペースデブリを検出する場合には、各画像に写った検出対象のスペースデブリが重なるように、画像の撮影間隔の間にスペースデブリが移動する分だけ各画像から切り取る領域をずらして重ね合わせる必要がある。ところが、検出対象のスペースデブリの動作(ベクトル方向、スカラー量)は、事前に分かっていないことが通常である。
【0007】
そのため、各画像から切り取る領域を様々な方向に様々な量ずつずらして重ね合わせる試行錯誤を繰り返して、検出対象のスペースデブリが重なる画像の切り取り領域を見つけなければならない。それに要する処理は膨大な量となり、汎用計算機レベルでは月又は年単位の長い時間を要するものとなってしまう。
【0008】
このように、時間をおいて撮影した観測空間の複数の画像からその画像に写ったスペースデブリを画像処理によって検出することは、容易に実現できないという実体がある。
【0009】
本発明は前記事情に鑑みなされたもので、本発明の目的は、時間をおいて撮影した観測空間の複数の撮影画像からスペースデブリを効率よく簡便な処理で検出することができるスペースデブリ検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1に記載した本発明のスペースデブリ検出方法は、
定点観測中に時間をおいて撮影された複数の画像に写った地球周回軌道上のスペースデブリを検出する方法であって、
過去に地球周回軌道上で破砕した可能性のある破砕起源物体を特定する物体特定ステップと、
前記物体特定ステップで特定した破砕起源物体にデブリ破砕モデルを適用して、質量保存則にしたがい仮想的なスペースデブリを生成する仮想デブリ生成ステップと、
前記仮想デブリ生成ステップで生成した各仮想的なスペースデブリにデブリ軌道伝播モデルをそれぞれ適用して、定点観測中における前記各仮想的なスペースデブリの軌道計算を行う軌道計算ステップと、
前記軌道計算ステップによる軌道計算結果に基づいて、定点観測中の天球上における前記各仮想的なスペースデブリの移動ベクトルの出現頻度分布を生成する移動ベクトル分布生成ステップと、
前記仮想デブリ生成ステップ、前記軌道計算ステップ、及び、前記移動ベクトル分布生成ステップを複数回行って得た複数回分の前記生成した移動ベクトルの出現頻度分布の積算分布において、出現頻度分布が高い移動ベクトルに基づいて、前記画像上でのスペースデブリの移動ベクトルを推定する移動ベクトル推定ステップと、
定点観測中に時間をおいて撮影された前記各画像の前記推定した移動ベクトルの方向及び量だけ撮影順に順次移動した各領域の画素情報の照合により、前記画像に写った地球周回軌道上のスペースデブリを検出する検出ステップと、
を含むことを特徴とする。
【0011】
請求項1に記載した本発明のスペースデブリ検出方法によれば、仮想デブリ生成ステップ、軌道計算ステップ、及び、移動ベクトル分布生成ステップを行うと、各仮想的なスペースデブリが将来の定点観測中に軌道上を移動する際の天球上における移動ベクトルの出現頻度分布が得られる。これを複数回行って得られた移動ベクトルの出現頻度の積算分布において、出現頻度分布が高い移動ベクトルが存在する場合には、その移動ベクトルは、実際のスペースデブリが定点観測中に移動する際の移動ベクトルである確率が高いと考えることができる。
【0012】
そこで、定点撮影中に時間をおいて撮影した各画像の、定点観測中において出現頻度分布が高い仮想的なスペースデブリの移動ベクトルの方向及び量だけ、撮影順に順次移動した領域について、それぞれの画素情報を照合(同一画素の画素値の一致又は不一致)することで、各画像に写ったスペースデブリを検出できる確率を高くすることができる。これにより、定点観測中に時間をおいて撮影した観測空間の複数の撮影画像からスペースデブリを効率よく簡便な処理で検出することができる。
【0013】
また、請求項2に記載した本発明のスペースデブリ検出方法は、請求項1に記載した本発明のスペースデブリ検出方法において、
前記推定した移動ベクトルに基づいて、前記各画像上に写ったスペースデブリの探索範囲の移動方向及び移動量を示す探索範囲ベクトルを設定する探索範囲ベクトル設定ステップをさらに含み、
前記検出ステップは、
定点観測中に時間をおいて撮影された前記各画像の前記設定した探索範囲ベクトルの方向及び量だけ撮影順に順次移動した各領域に重ね合わせ法を適用することで、前記画像に写った地球周回軌道上のスペースデブリを検出する、
ことを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載した本発明のスペースデブリ検出方法によれば、請求項1に記載した本発明のスペースデブリ検出方法において、定点撮影中に時間をおいて撮影した各画像の、推定したスペースデブリの移動ベクトルに基づいて設定した探索範囲ベクトルの方向及び量だけ、撮影順に順次移動した領域に、重ね合わせ法を適用することで、各画像に写ったスペースデブリが同一画素上で重なる確率を高くすることができる。これにより、定点観測中に時間をおいて撮影した観測空間の複数の撮影画像から重ね合わせ法を用いてスペースデブリを効率よく簡便な処理で検出することができる。
【0015】
さらに、請求項3に記載した本発明のスペースデブリ検出方法は、請求項1又は2に記載した本発明のスペースデブリ検出方法において、
前記軌道計算ステップが、
定点観測の開始から終了までの一定時間間隔の各時刻について、前記仮想デブリ生成ステップで生成した各仮想的なスペースデブリの軌道計算を行う時刻別軌道計算ステップを含み、
前記移動ベクトル分布生成ステップが、
前記時刻別軌道計算ステップによる各時刻の前記軌道計算結果に基づいて、前記移動ベクトルの出現頻度分布を生成する、
ことを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載した本発明のスペースデブリ検出方法によれば、請求項1又は2に記載した本発明のスペースデブリ検出方法において、特に定点観測中に仮想的なスペースデブリが存在すると予測される天球上の位置における、仮想的なスペースデブリの移動ベクトルの出現頻度分布が高い範囲を基に、探索範囲ベクトルを決定することになる。
【0017】
したがって、定点観測中に撮影する複数の画像に写る実際のスペースデブリの移動ベクトルが探索範囲ベクトルと一致する確度を高め、スペースデブリの検出確度をより高めることができる。
【0018】
また、請求項4に記載した本発明のスペースデブリ検出方法は、請求項1、2又は3に記載した本発明のスペースデブリ検出方法において、
前記軌道計算ステップによる軌道計算結果に基づいて、定点観測中の天球上における前記各仮想的なスペースデブリの存在確率分布をそれぞれ生成するデブリ分布生成ステップと、
前記仮想デブリ生成ステップ、前記軌道計算ステップ、及び、前記デブリ分布生成ステップを複数回行って得た複数回分の前記生成した存在確率分布の積算分布に基づいて、定点観測中の天球上における前記仮想的なスペースデブリの存在確率分布が高い領域を含む空間を、定点観測中の前記画像の撮影空間に設定する撮影空間設定ステップと、
をさらに含み、
前記設定した撮影空間を時間をおいて撮影することで前記各画像を得るようにした、
ことを特徴とする。
【0019】
請求項4に記載した本発明のスペースデブリ検出方法によれば、請求項1、2又は3に記載した本発明のスペースデブリ検出方法において、仮想デブリ生成ステップ、軌道計算ステップ、及び、デブリ分布生成ステップを行うと、各仮想的なスペースデブリが将来の定点観測中に軌道上を移動する際の天球上における存在確率分布が得られる。これを複数回行って得られた定点観測中の天球上における仮想的なスペースデブリの存在確率分布が高い領域は、実際のスペースデブリが定点観測中に存在する確率が高い領域であると考えることができる。
【0020】
そこで、定点観測中の天球上における仮想的なスペースデブリの存在確率分布が高い領域を含む空間を、定点観測中に画像を撮影する空間とすることで、定点観測中に時間をおいて撮影した画像に実際のスペースデブリが写る確率を高くすることができる。これにより、定点観測中に時間をおいて撮影した観測空間の複数の撮影画像からスペースデブリを効率よく簡便な処理で検出することができる。
【0021】
さらに、請求項5に記載した本発明のスペースデブリ検出方法は、請求項4に記載した本発明のスペースデブリ検出方法において、
前記軌道計算ステップが、
定点観測の開始から終了までの一定時間間隔の各時刻について、前記仮想デブリ生成ステップで生成した各仮想的なスペースデブリの軌道計算を行う時刻別軌道計算ステップを含み、
前記デブリ分布生成ステップが、
前記時刻別軌道計算ステップによる各時刻の前記軌道計算結果に基づいて、該各時刻の前記各仮想的なスペースデブリの天球上における存在位置を計算する存在位置計算ステップと、
前記存在位置計算ステップによる計算結果に基づいて、定点観測中の天球上における前記各仮想的なスペースデブリの存在確率分布を生成する存在確率分布生成ステップとを含む、
ことを特徴とする。
【0022】
請求項5に記載した本発明のスペースデブリ検出方法によれば、請求項4に記載した本発明のスペースデブリ検出方法において、特に定点観測中に仮想的なスペースデブリが存在すると予測される天球上の位置における、仮想的なスペースデブリの存在確率分布が高い空間に、定点観測中の画像の撮影空間を設定することになる。
【0023】
したがって、定点観測中に画像を撮影する空間が、定点観測中に実際のスペースデブリが存在する空間と一致する確度を高め、重ね合わせ法を適用したスペースデブリの検出確度をより高めることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、定点観測中に時間をおいて撮影した観測空間の複数の撮影画像からスペースデブリを効率よく簡便な処理で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】重ね合わせ法を適用したスペースデブリの検出処理の概要を示す説明図である。
【図2】図1の検出処理を行う際に必要なスペースデブリの移動ベクトルの想定範囲を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るスペースデブリの検出方法の手順を示すフローチャートである。
【図4】図3の軌道計算ステップの手順を示すフローチャートである。
【図5】図3のデブリ分布生成ステップの手順を示すフローチャートである。
【図6】図8の存在確率分布を生成する際に行う仮想的なスペースデブリの赤経及び赤緯の各方向についての分布を示す2変量ヒストグラムの説明図である。
【図7】モンテカルロシミュレーションにより複数回生成した図6の2変量ヒストグラムによる仮想的なスペースデブリの分布を合成する手順を示す説明図である。
【図8】図7の合成により得られた定点観測中の天球上における仮想的なスペースデブリの存在確率分布を示す説明図である。
【図9】図6の2変量ヒストグラムによる仮想的なスペースデブリの存在確率分布を1回だけ生成した場合の分布例を示すグラフである。
【図10】図6の2変量ヒストグラムによる仮想的なスペースデブリの存在確率分布をモンテカルロシミュレーションにより複数回生成した場合の分布例を示すグラフである。
【図11】モンテカルロシミュレーションにより複数回生成した仮想的なスペースデブリの存在確率分布が複数のグループに分散して分布する場合の分布例を示すグラフである。
【図12】図3のスペースデブリ検出ステップの手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0027】
まず、時間をおいて撮影した複数の画像から画像処理によってスペースデブリを検出する処理の代表的な一例として、図1の説明図を参照して、重ね合わせ法を適用したスペースデブリ検出処理の基本的考え方について説明する。
【0028】
地上からの光学観測は、静止軌道上のスペースデブリを検出する方法として広く用いられている。観測の際に撮影された画像に画像処理を施し、明度によって背景と区別することでスペースデブリを検出する。ところが、背景との明度差が小さく区別不可能な暗いスペースデブリが画像上に存在する可能性がある。そこで、そのようなスペースデブリでも検出できる方法として、重ね合わせ法が知られている。
【0029】
重ね合わせ法では、図1の説明図に示すように、検出対象の暗いスペースデブリDが直線運動として現れるように、定点観測中に短い時間間隔をおいて複数の画像A1〜A4をCCDカメラ等により撮影する。そして、画像A1〜A4の撮影間隔に対応するスペースデブリDの移動ベクトルp(=Δx[pixel],Δy[pixel])を仮定し、その移動ベクトルpに沿って、複数の画像A1〜A4を時系列順に重ね合わせる。つまり、各画像A1〜A4をスペースデブリDの移動ベクトルp分ずつ順次ずらして重ね合わせる。
【0030】
そして、各画像A1〜A4の明度の平均値を計算して一枚の画像Aに合成する。背景の明度を構成する主な要素はノイズ成分である。合成された画像Aでは背景のノイズ成分が平滑化されることで背景の明度が低下し、背景と検出対象のスペースデブリDとが明度により区別可能になる。この一連の手続きにより、撮影した複数の画像A1〜A4からスペースデブリDを検出することができる。
【0031】
例えば、各画像A1〜A4に恒星等の静止物体が高い明度で写っていても、その像は重ねた各画像A1〜A4の同じ位置で重ならない。そのため、一枚の画像Aに合成する際に恒星等の像が写った画素の明度は背景と平均化されて小さくなる。したがって、重ねた各画像A1〜A4の同一箇所に写るスペースデブリDの明度を背景の明度よりも相対的に高くなる。
【0032】
ところで、重ね合わせ法のクリティカルポイントは、スペースデブリDの移動ベクトルpの仮定が必要な点である。スペースデブリDは画像上で様々な移動方向・量を持つため、移動ベクトルpは1つの値に仮定出来ず、移動ベクトルpの成分である(Δx,Δy)の2変量の探索領域を定める必要がある。
【0033】
従来、1枚の画像からでは検出不可能な暗いスペースデブリDの移動ベクトルpの探索領域を適切に仮定する手法は存在しない。したがって、図2の説明図中に「デブリモデリング未適用時の最大必要探索領域」として示すように、最大で、画像の撮影幅(X,Y)の2倍の大きさの移動ベクトルpの探索領域が必要であった。
【0034】
この大きさの探索領域でスペースデブリDを探索するには非現実的な解析時間が要求される。通常、一夜で取得する大量の撮像に対して、上述した大きさの探索領域を適用し、汎用計算機1台により解析処理を行う場合、数ヶ月から数年の時間が要求される。
【0035】
以下に説明する本発明の一実施形態に係るスペースデブリの検出方法では、デブリモデリングの手法(デブリ破砕モデル並びにデブリ軌道伝播モデル)を適用することで、スペースデブリDの移動ベクトルpを適切に推定し、図2の説明図中に「デブリモデリング適用時の必要探索領域」として示すように、移動ベクトルpの探索領域を劇的に絞り込むようにしている。
【0036】
解析処理に必要な時間は、移動ベクトルpの探索領域の面積に比例するため、以下に説明する本実施形態の検出方法により、最大でデブリモデリング未適用時の数%程度の解析時間に抑えることができる。これにより、解析時間が現実的な時間ですむようになり、数日分の大量の観測画像を少数の汎用計算機上で有限時間内に解析し、明度の低いデブリを検出することが可能となる。
【0037】
そのために、本実施形態に係るスペースデブリ検出方法では、図3のフローチャートに示すように、物体特定ステップ(ステップS1)、仮想デブリ生成ステップ(ステップS3)、軌道計算ステップ(ステップS5)、及び、デブリ分布生成ステップ(ステップS7)を順次実行する。なお、仮想デブリ生成ステップ以降の各ステップは、ステップS9において規定回数(例えば60回)に達したと確認される(YES)まで、モンテカルロシミュレーションにより繰り返して実行する。
【0038】
また、本実施形態に係るスペースデブリ検出方法では、仮想デブリ生成ステップ以降の各ステップを規定回数繰り返して実行した後(ステップS9でYES)、撮影空間設定ステップ(ステップS11)を実行する。
【0039】
さらに、本実施形態に係るスペースデブリ検出方法では、ステップS11の撮影空間設定ステップを行った後、移動ベクトル分布生成ステップ(ステップS13)を、ステップS15において規定回数(例えば60回)に達したと確認される(YES)まで、モンテカルロシミュレーションにより繰り返して実行する。
【0040】
そして、ステップS13の移動ベクトル分布生成ステップを規定回数繰り返して実行した後(ステップS15でYES)、移動ベクトル推定ステップ(ステップS17)、探索範囲ベクトル設定ステップ(ステップS19)、定点観測ステップ(ステップS21)、及び、スペースデブリ検出ステップ(ステップS23)を実行する。
【0041】
このうち、ステップS1の物体設定ステップでは、過去に地球周回軌道上で破砕した可能性のある破砕起源物体を特定する。具体的には、既に公開された文献等から、過去に破砕した可能性がある物体(宇宙機)をリストアップして、破砕起源物体とする。
【0042】
次に、ステップS3の仮想デブリ生成ステップでは、リストアップした破砕起源物体にデブリ破砕モデルを適用し、質量保存則にしたがい仮想的なスペースデブリDを生成する。デブリ破砕モデルとは、地球を周回する人工物(宇宙機)が爆発及び衝突といった破砕を経験した際に放出される破片(仮想的なスペースデブリD)のサイズ、面積質量比、平均断面積、質量及び放出速度を計算する一連の関数式である。デブリ破砕モデルには、米航空宇宙局(NASA)によるNASA標準破砕モデルを使用することができる。
【0043】
上述したデブリ破砕モデルにおいて、地球を周回する人工物の質量が既知であれば、破砕モデルのサイズ分布モデルから、発生し得る破片のサイズが一意的に計算される。
【0044】
また、上述したデブリ破砕モデルにおいて、面積質量比分布モデルは、サイズの関数であるが、面積質量比の範囲と確率密度が二つの正規分布の重ね合わせとして記述されているため、一意的に面積質量比を計算できない。よって、面積質量比の範囲と確率密度を加味して発生する乱数を用いて面積質量比を決定する。
【0045】
さらに、上述したデブリ破砕モデルにおいて、平均断面積は、サイズの関数として一意的に記述されている。破片の質量は、平均断面積を面積質量比で除算することにより計算されている。
【0046】
上記の面積質量比の決定、決定した面積質量比をサイズの関数とする平均断面積の特定、及び、決定した面積質量比と特定した平均断面積とからの破片の質量の計算を繰返し、破片の総質量が人工物の質量に達するまで続ける。したがって、生成される破片、つまり仮想的なスペースデブリiの個数Nは、破砕起源物体の質量をM、仮想的なスペースデブリiの質量をmi とすると(但し、i=1,2,3,…,N)、
M=m1 +m2 +m3 +…+mN
を満たす値となる。
【0047】
また、上述したデブリ破砕モデルにおいて、放出速度分布モデルは、面積質量比の関数であるが、破片の放出速度の範囲と確率密度が一つの正規分布として記述されているため、一意的に放出速度を計算できない。よって、面積質量比の決定と同様に、放出速度の範囲と確率密度を加味して発生する乱数を用いて放出速度を決定している。
【0048】
以上の手順により、慣性空間内での位置ベクトル、速度ベクトル、代表長(サイズ)、面積質量比、質量、及び、平均断面積の各パラメータを有する仮想的なスペースデブリが生成される。
【0049】
ステップS5の軌道計算ステップは、仮想的なスペースデブリDの定点観測中における地球周回軌道を計算するために行うものである。具体的には、定点観測の開始予定時刻から終了予定時刻にかけて、ステップS3において予測した各仮想的なスペースデブリDが存在する軌道(軌跡)を、軌道伝播モデルを用いて計算により求める。
【0050】
この軌道計算ステップは、図4のフローチャートに示すように、時刻合わせ軌道計算ステップ(ステップS51)と、時刻別軌道計算ステップ(ステップS53)とを含んでいる。
【0051】
ステップS51の時刻合わせ軌道計算ステップは、ステップS3で生成した各仮想的なスペースデブリDについて、破砕から定点観測の開始予定時刻までの軌道計算を行う。また、ステップS53の時刻別軌道計算ステップでは、ステップS51で軌道計算した定点観測の開始予定時刻から、定点観測の終了予定時刻まで、一定時間間隔の各時刻(タイムステップ)について、各仮想的なスペースデブリDの軌道計算をそれぞれ行う。なお、本実施形態では、各時刻を、定点観測中に時間をおいて観測空間の画像A1〜A4を撮影する時刻としている。
【0052】
図3のステップS7のデブリ分布生成ステップは、後述するステップS11の撮影空間決定ステップにおいて、定点観測中に天球上のどの空間を撮影するかを決定するために行うものである。具体的には、定点観測中に仮想的なスペースデブリDが存在する位置の天球上における存在確率分布を生成する。
【0053】
このデブリ分布生成ステップは、図5のフローチャートに示すように、存在位置計算ステップ(ステップS71)と、存在確率分布生成ステップ(ステップS73)とを含んでいる。
【0054】
ステップS71の存在位置計算ステップは、図4のステップS53で計算した定点観測の開始予想時刻から終了予想時刻までの一定時間間隔の各時刻における各仮想的なスペースデブリDの軌道計算結果に基づいて、定点観測中の各時刻における各仮想的なスペースデブリDの天球上における存在位置を計算する。
【0055】
具体的には、ステップS53で軌道計算した各時刻における各仮想的なスペースデブリDの、地球慣性座標系における位置ベクトル及び速度ベクトルを、赤道面座標系に座標変換することで、定点観測中における天球上の各仮想的なスペースデブリDの存在位置(座標系原点からの距離、赤経、赤緯)を計算する。
【0056】
ステップS73の存在確率分布生成ステップでは、ステップS71で計算した各仮想的なスペースデブリDの天球上の存在位置の存在確率分布を生成する。具体的には、ステップS71で計算した定点観測中における天球上の各仮想的なスペースデブリDの存在位置の赤経、赤緯の2変量について、図6の説明図に示すヒストグラムを作成する。
【0057】
図6の2変量ヒストグラムでは、縦軸方向に赤緯の変量を取り、横軸に赤経の変量を取って、変量範囲を3つに区切ることで、3×3の9つのビンを設けている。そして、定点観測中の各時刻について、図6の2変量ヒストグラムの各ビンに納まる仮想的なスペースデブリDの数を、ステップS71で計算した各仮想的なスペースデブリDの存在位置に基づいてカウントする。このようにしてヒストグラムを作成することで、定点観測中の天球上における各仮想的なスペースデブリDの存在確率分布を生成する。生成した存在確率分布は、後述する図3のステップS11における撮影空間決定ステップで使用する。
【0058】
なお、上述した3×3=9つのビンを有する赤経及び赤緯のヒストグラムのサイズは、例えば、画像A1〜A4の撮影に用いるCCDカメラ等の光学系の視野に合わせたサイズとすることができる。
【0059】
図3のステップS11の撮影空間設定ステップでは、図5のステップS73で規定回数分生成した、定点観測中の天球上における各仮想的なスペースデブリDの存在確率分布の、積算分布を求める。図7の説明図では、生成したa〜dの4つの各存在確率分布を積算する場合を例示している。積算後、例えば、全ビン中の最大値等の代表値で各ビンの値を除して正規化することで、天球上の各仮想的なスペースデブリDの積算分布を得ることができる。
【0060】
なお、本実施形態では上述したように、図3のステップS7のデブリ分布生成ステップを数値的なアプローチにより実行する場合を例示した。即ち、仮想的なスペースデブリDの存在確率を数値的に計算し、ヒストグラムを用いてその分布を求める内容で説明した。しかし、デブリ分布ステップ(ステップS7)は、解析的なアプローチにより実行することもできる。即ち、特定の赤経、赤緯を仮想的なスペースデブリDが飛行する時刻を解析的に計算し、その結果から、仮想的なスペースデブリDの天球上における存在確率分布を求めるようにすることもできる。
【0061】
このようにして求めた、定点観測中の天球上における各仮想的なスペースデブリDの存在確率分布の積算分布を模式化したのが、図8の天球上における仮想的なスペースデブリDの存在確率分布を示す説明図である。この説明図では、右側のスケールに示す色の濃さで、仮想的なスペースデブリDの存在確率分布の高低を示している。
【0062】
そこで、図3のステップS11の撮影空間設定ステップでは、図8の説明図におけるスペースデブリDの存在確率分布の高い領域を含む空間(赤経、赤緯)を、定点観測中に画像A1〜A4を撮影する空間として設定する。これにより、定点観測中に撮影する画像A1〜A4に実際のスペースデブリDが写る確度を高めることができる。なお、撮影空間に極端に明るい天体が入らないように撮影空間を設定することが望ましい。また、撮影空間は、定点観測を行う観測所の仰角や方位角の視野の制約を考慮して設定することが望ましい。
【0063】
図3のステップS13の移動ベクトル分布生成ステップは、後述するステップS17の探索範囲ベクトル設定ステップにおいて、定点観測中に撮影する画像A1〜A4上で仮想的なスペースデブリDが移動する可能性のある範囲を定めるために行うものである。具体的には、定点観測中の各仮想的なスペースデブリDの移動ベクトルpの出現頻度分布を生成する。
【0064】
この移動ベクトル分布生成ステップでは、図5のステップS71で計算した定点観測中の各時刻における各仮想的なスペースデブリDの天球上における存在位置のうち、図3のステップS11で設定した定点観測中の画像A1〜A4を撮影する空間中に存在する仮想的なスペースデブリDについて、そのスペースデブリDが持つ移動ベクトルの出現頻度分布を生成する。
【0065】
具体的には、図4のステップS53の計算結果に対して地球慣性座標系→地球固定座標系→赤道面座標系→直下点緯度経度の時間積分取得→スケール変換の各手順を経ることで、画像A1〜A4上における各仮想的なスペースデブリDの移動ベクトルpを計算する。計算した移動ベクトルpは、図9に示す、横軸に移動ベクトルpのX方向成分(X Shift[px])を取り、縦軸にY方向成分(Y Shift[px])を取ったグラフ上に展開したような分布を持つ。
【0066】
そして、図3のステップS13の移動ベクトル分布生成ステップを、ステップS15で規定回数に到達したと確認される(YES)まで繰り返すことで、図10のグラフに示すように、定点観測中の画像を撮影する空間に存在する各仮想的なスペースデブリDの持つ移動ベクトルpの出現頻度分布の積算分布を得る。
【0067】
なお、図9及び図10の各グラフでは、右側のスケールに示す色の濃さで、移動ベクトルpの出現頻度分布の高低を示している。
【0068】
次に、図3のステップS17の移動ベクトル推定ステップでは、図10のグラフにおける移動ベクトルpの出現頻度分布の高い領域(X Shift[px],Y Shift[px])から、仮想的なスペースデブリDの移動ベクトルpを推定する。
【0069】
続く、図3のステップS19の探索範囲ベクトル設定ステップでは、ステップS17の移動ベクトル推定ステップで推定した移動ベクトルpを、図2の説明図に「デブリモデリング適用時の必要探索領域」として示した探索領域のベクトル成分を示す探索範囲ベクトルとして設定する。
【0070】
ちなみに、ステップS1の物体設定ステップで特定した破砕起源物体が複数である場合は、図11のグラフに示すように、破砕起源物体毎に仮想的なスペースデブリDの移動ベクトルpの分布がグループ化される。その場合、最も移動ベクトルpの出現頻度分布が高いグループの領域を含む空間を探索範囲ベクトルとして設定すれば、そのグループに対応する破砕起源物体から発生した実際のスペースデブリDを検出対象とすることになる。
【0071】
図3のステップS21の定点観測ステップでは、好ましくは上述した開始予想時間から終了予想時間に亘って、ステップS11で設定した撮影範囲を撮影空間とする定点観測を行う。即ち、開始予想時間から終了予想時間に亘る定点観測中に一定時間間隔で画像A1〜A4の撮影を行う。
【0072】
続く、ステップS23のスペースデブリ検出ステップは、図12のフローチャートに示すように、高明度デブリ検出ステップ(ステップS231)と、重ね合わせ処理ステップ(ステップS233)と、低明度デブリ検出ステップ(ステップS235)とを含んでいる。
【0073】
ステップS231の高明度デブリ検出ステップでは、図3のステップS21の定点観測ステップ中に一定時間間隔で撮影した複数の画像A1〜A4から、一般的で処理が高速な公知の画像解析方法により検出可能な明度が明るいスペースデブリや、米国が管理、所有し公開している軌道上物体データベースに既に登録されている公知のスペースデブリを検出する。
【0074】
ステップS233の重ね合わせ処理ステップでは、図3のステップS21で撮影した各画像A1〜A4を、その撮影順に、ステップS19で設定した探索範囲ベクトルの示す方向及び量だけ順次ずらして重ね合わせ、図1を参照して冒頭に説明した手順による重ね合わせ法を適用して、画像A1〜A4中に写った実際のスペースデブリDを検出する。
【0075】
ステップS235の低明度デブリ検出ステップでは、ステップS233の重ね合わせ処理ステップで検出した全てのスペースデブリDと、ステップS231の高明度デブリ検出ステップで検出した既知のスペースデブリDとを比較し、ステップS233の重ね合わせ処理ステップのみによって検出したスペースデブリDを、検出結果として出力する。
【0076】
なお、ステップS231の高明度デブリ検出ステップを省略し、ステップS233の重ね合わせ処理ステップで検出した全てのスペースデブリDを、ステップS235で検出結果として出力するようにしてもよい。その場合、ステップS235は、最早、低明度のスペースデブリDを限定的に出力するステップではなくなるので、「低明度デブリ検出ステップ」と言うよりも、むしろ、「デブリ検出ステップ」と言うべき内容となる。
【0077】
以上が、本実施形態によるスペースデブリ検出方法の手順である。上述したように、本実施形態のスペースデブリ検出方法ではデブリ破砕モデルを利用している。デブリ破砕モデルでは、ステップS3の説明でも述べたように、乱数を用いて面積質量比と放出速度を決定している。このため、決定された破片(仮想的なスペースデブリD)群は偶然の組合せである。偶然の組合せが現実の破砕(実際のスペースデブリD)を正確に計算しているのであれば、これほど観測に適した手法はないが、その可能性は極めて小さい。したがって、単にデブリ破砕モデルを用いただけでは、偶然を期待するスペースデブリDの観測計画しか立案できない。
【0078】
あらゆる可能性を勘案するためには、面積質量比と放出速度について、多数の偶然の組合せから必然を見いだすことが肝心である。見いだした必然(面積質量比と放出速度)を基に、スペースデブリDを高確率で検出できる観測計画が立案できる。また、必然(面積質量比と放出速度)を見いだせれば、これを基に、定点観測中に一定時間間隔で撮影する画像A1〜A4の中から明度が非常に暗い(S/N比が低い)スペースデブリDを確実に検出するために重要な、スペースデブリDの持つ適切な移動量(移動ベクトルp)を推定することができる。
【0079】
そこで、本実施形態では、図3のステップS17の移動ベクトル推定ステップにおいて、スペースデブリDの移動ベクトルpを推定するようにした。そのために、本実施形態によるスペースデブリ検出方法では、モンテカルロ法を用い、図3のステップS9及びステップS15の手順を設けることにした。
【0080】
即ち、図3のステップS17で移動ベクトルpを推定するのに必要な、ステップS3の仮想デブリ生成ステップ、ステップS5の軌道計算ステップ、及び、ステップS13の移動ベクトル分布生成ステップを、ステップS9及びステップS15の確認によって規定回数繰り返して実行するようにした(モンテカルロシミュレーション)。
【0081】
なお、本実施形態では、実際のスペースデブリDが定点観測中の撮影画像A1〜A4に写る確度を高くするために、定点観測中の各時刻における仮想的なスペースデブリDの存在確率分布を、ステップS3の仮想デブリ生成ステップ、ステップS5の軌道計算ステップ、及び、ステップS7のデブリ分布生成ステップを、ステップS9の確認によって規定回数繰り返して実行するようにした(モンテカルロシミュレーション)。
【0082】
そして、ステップS3、ステップS5、及び、ステップS7の繰り返しの実行により求めた仮想的なスペースデブリDの存在確率分布の積算分布を基に、ステップS11の撮影空間設定ステップにおいて、仮想的なスペースデブリDの存在確率分布の高い領域を含む空間(赤経、赤緯)を、定点観測中に画像A1〜A4を撮影する空間として設定するようにした。
【0083】
この構成は省略してもよいが、本実施形態のようにこの構成を設けることで、定点観測中に撮影する画像A1〜A4に実際のスペースデブリDが写る確度を高めることができる。
【0084】
以上に説明した本実施形態のスペースデブリ検出方法によれば、定点観測中に時間をおいて撮影した観測空間の複数の画像A1〜A4から、重ね合わせ法を用いて明度の低いスペースデブリDを効率よく簡便な処理で検出することができる。
【0085】
また、検出した明度の低いスペースデブリDを新たに軌道上物体データベースに登録して、軌道上物体データベースの充実化を図ることができる面でも、本実施形態のスペースデブリ検出方法は極めて有用である。
【0086】
さらに、上述した実施形態では、定点観測中に一定時間毎に撮影した画像A1〜A4に重ね合わせ法を適用してスペースデブリの検出を行う場合について説明した。しかし、本発明は、勾配法やブロックマッチング法によるオプティカルフロー等、重ね合わせ法以外の画像処理法を画像A1〜A4に適用してスペースデブリDの検出を行う際にも適用可能である。
【符号の説明】
【0087】
A 画像
A1〜A4 画像
D スペースデブリ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
定点観測中に時間をおいて撮影された複数の画像に写った地球周回軌道上のスペースデブリを検出する方法であって、
過去に地球周回軌道上で破砕した可能性のある破砕起源物体を特定する物体特定ステップと、
前記物体特定ステップで特定した破砕起源物体にデブリ破砕モデルを適用して、質量保存則にしたがい仮想的なスペースデブリを生成する仮想デブリ生成ステップと、
前記仮想デブリ生成ステップで生成した各仮想的なスペースデブリにデブリ軌道伝播モデルをそれぞれ適用して、定点観測中における前記各仮想的なスペースデブリの軌道計算を行う軌道計算ステップと、
前記軌道計算ステップによる軌道計算結果に基づいて、定点観測中の天球上における前記各仮想的なスペースデブリの移動ベクトルの出現頻度分布を生成する移動ベクトル分布生成ステップと、
前記仮想デブリ生成ステップ、前記軌道計算ステップ、及び、前記移動ベクトル分布生成ステップを複数回行って得た複数回分の前記生成した移動ベクトルの出現頻度分布の積算分布において、出現頻度分布が高い移動ベクトルに基づいて、前記画像上でのスペースデブリの移動ベクトルを推定する移動ベクトル推定ステップと、
定点観測中に時間をおいて撮影された前記各画像の前記推定した移動ベクトルの方向及び量だけ撮影順に順次移動した各領域の画素情報の照合により、前記画像に写った地球周回軌道上のスペースデブリを検出する検出ステップと、
を含むことを特徴とするスペースデブリ検出方法。
【請求項2】
前記推定した移動ベクトルに基づいて、前記各画像上に写ったスペースデブリの探索範囲の移動方向及び移動量を示す探索範囲ベクトルを設定する探索範囲ベクトル設定ステップをさらに含み、
前記検出ステップは、
定点観測中に時間をおいて撮影された前記各画像の前記設定した探索範囲ベクトルの方向及び量だけ撮影順に順次移動した各領域に重ね合わせ法を適用することで、前記画像に写った地球周回軌道上のスペースデブリを検出する、
ことを特徴とする請求項1記載のスペースデブリ検出方法。
【請求項3】
前記軌道計算ステップは、
定点観測の開始から終了までの一定時間間隔の各時刻について、前記仮想デブリ生成ステップで生成した各仮想的なスペースデブリの軌道計算を行う時刻別軌道計算ステップを含み、
前記移動ベクトル分布生成ステップは、
前記時刻別軌道計算ステップによる各時刻の前記軌道計算結果に基づいて、前記移動ベクトルの出現頻度分布を生成する、
ことを特徴とする請求項1又は2記載のスペースデブリ検出方法。
【請求項4】
前記軌道計算ステップによる軌道計算結果に基づいて、定点観測中の天球上における前記各仮想的なスペースデブリの存在確率分布をそれぞれ生成するデブリ分布生成ステップと、
前記仮想デブリ生成ステップ、前記軌道計算ステップ、及び、前記デブリ分布生成ステップを複数回行って得た複数回分の前記生成した存在確率分布の積算分布に基づいて、定点観測中の天球上における前記仮想的なスペースデブリの存在確率分布が高い領域を含む空間を、定点観測中の前記画像の撮影空間に設定する撮影空間設定ステップと、
をさらに含み、
前記設定した撮影空間を時間をおいて撮影することで前記各画像を得るようにした、
ことを特徴とする請求項1、2又は3記載のスペースデブリ検出方法。
【請求項5】
前記軌道計算ステップは、
定点観測の開始から終了までの一定時間間隔の各時刻について、前記仮想デブリ生成ステップで生成した各仮想的なスペースデブリの軌道計算を行う時刻別軌道計算ステップを含み、
前記デブリ分布生成ステップは、
前記時刻別軌道計算ステップによる各時刻の前記軌道計算結果に基づいて、該各時刻の前記各仮想的なスペースデブリの天球上における存在位置を計算する存在位置計算ステップと、
前記存在位置計算ステップによる計算結果に基づいて、定点観測中の天球上における前記各仮想的なスペースデブリの存在確率分布を生成する存在確率分布生成ステップとを含む、
ことを特徴とする請求項4記載のスペースデブリ検出方法。
【請求項1】
定点観測中に時間をおいて撮影された複数の画像に写った地球周回軌道上のスペースデブリを検出する方法であって、
過去に地球周回軌道上で破砕した可能性のある破砕起源物体を特定する物体特定ステップと、
前記物体特定ステップで特定した破砕起源物体にデブリ破砕モデルを適用して、質量保存則にしたがい仮想的なスペースデブリを生成する仮想デブリ生成ステップと、
前記仮想デブリ生成ステップで生成した各仮想的なスペースデブリにデブリ軌道伝播モデルをそれぞれ適用して、定点観測中における前記各仮想的なスペースデブリの軌道計算を行う軌道計算ステップと、
前記軌道計算ステップによる軌道計算結果に基づいて、定点観測中の天球上における前記各仮想的なスペースデブリの移動ベクトルの出現頻度分布を生成する移動ベクトル分布生成ステップと、
前記仮想デブリ生成ステップ、前記軌道計算ステップ、及び、前記移動ベクトル分布生成ステップを複数回行って得た複数回分の前記生成した移動ベクトルの出現頻度分布の積算分布において、出現頻度分布が高い移動ベクトルに基づいて、前記画像上でのスペースデブリの移動ベクトルを推定する移動ベクトル推定ステップと、
定点観測中に時間をおいて撮影された前記各画像の前記推定した移動ベクトルの方向及び量だけ撮影順に順次移動した各領域の画素情報の照合により、前記画像に写った地球周回軌道上のスペースデブリを検出する検出ステップと、
を含むことを特徴とするスペースデブリ検出方法。
【請求項2】
前記推定した移動ベクトルに基づいて、前記各画像上に写ったスペースデブリの探索範囲の移動方向及び移動量を示す探索範囲ベクトルを設定する探索範囲ベクトル設定ステップをさらに含み、
前記検出ステップは、
定点観測中に時間をおいて撮影された前記各画像の前記設定した探索範囲ベクトルの方向及び量だけ撮影順に順次移動した各領域に重ね合わせ法を適用することで、前記画像に写った地球周回軌道上のスペースデブリを検出する、
ことを特徴とする請求項1記載のスペースデブリ検出方法。
【請求項3】
前記軌道計算ステップは、
定点観測の開始から終了までの一定時間間隔の各時刻について、前記仮想デブリ生成ステップで生成した各仮想的なスペースデブリの軌道計算を行う時刻別軌道計算ステップを含み、
前記移動ベクトル分布生成ステップは、
前記時刻別軌道計算ステップによる各時刻の前記軌道計算結果に基づいて、前記移動ベクトルの出現頻度分布を生成する、
ことを特徴とする請求項1又は2記載のスペースデブリ検出方法。
【請求項4】
前記軌道計算ステップによる軌道計算結果に基づいて、定点観測中の天球上における前記各仮想的なスペースデブリの存在確率分布をそれぞれ生成するデブリ分布生成ステップと、
前記仮想デブリ生成ステップ、前記軌道計算ステップ、及び、前記デブリ分布生成ステップを複数回行って得た複数回分の前記生成した存在確率分布の積算分布に基づいて、定点観測中の天球上における前記仮想的なスペースデブリの存在確率分布が高い領域を含む空間を、定点観測中の前記画像の撮影空間に設定する撮影空間設定ステップと、
をさらに含み、
前記設定した撮影空間を時間をおいて撮影することで前記各画像を得るようにした、
ことを特徴とする請求項1、2又は3記載のスペースデブリ検出方法。
【請求項5】
前記軌道計算ステップは、
定点観測の開始から終了までの一定時間間隔の各時刻について、前記仮想デブリ生成ステップで生成した各仮想的なスペースデブリの軌道計算を行う時刻別軌道計算ステップを含み、
前記デブリ分布生成ステップは、
前記時刻別軌道計算ステップによる各時刻の前記軌道計算結果に基づいて、該各時刻の前記各仮想的なスペースデブリの天球上における存在位置を計算する存在位置計算ステップと、
前記存在位置計算ステップによる計算結果に基づいて、定点観測中の天球上における前記各仮想的なスペースデブリの存在確率分布を生成する存在確率分布生成ステップとを含む、
ことを特徴とする請求項4記載のスペースデブリ検出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図12】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図12】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−56517(P2012−56517A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203481(P2010−203481)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
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