説明

スポット溶接装置

【目的】 インナーパネルと給電パッドの密着性を良くする。
【構成】 電極チップ3による溶接位置から離れた位置でドアインナーパネルPbを加圧挾持する給電用クランプ機構14を設け、給電用クランプ機構14のクランプレバー17に対向するクランププレート9に給電パッド21を設ける。ドアインナーパネルPbを給電パッド21とクランプレバー17とでその表裏両面からクランプして、ドアインナーパネルPbに対する給電パッド21の密着性を安定化させる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、アウターパネルとインナーパネルとをヘミング結合してなる自動車のドア等のパネル部品のヘミング結合部にスポット溶接を施す装置に関する。
【0002】
【従来の技術】この種のスポット溶接装置として、例えば図5に示すようにインダイレクト方式と称されるものが知られている。これは、ドアアウターパネルPaとドアインナーパネルPbとをヘミング結合してなる自動車のドアパネルPをゲージ51上に位置決めした上、ヘミング結合部HのうちドアインナーパネルPb側に折り返されたドアアウターパネルPaのヘミングフランジ部Faにスポット溶接ガン52の電極チップ53を押し付ける一方、前記ドアインナーパネルPbにはスポット溶接ガン52による溶接位置から離れた位置で給電パッド54を加圧装置55により押し付け、前記ドアインナーパネルPbそのものを通じて溶接電流を流すことによりヘミング結合部Hの溶接を行うようにしたものである。56は溶接トランス、57は溶接タイマーである。
【0003】そして、このインダイレクト方式のスポット溶接装置は、溶接対象となるドアパネルPの片側すなわちドアインナーパネルPb側にのみ電極チップ53および給電パッド54を配置して溶接を行うことができることから、自動車の外板面となるドアアウターパネルPa側には溶接に伴う圧痕等が生じないという利点がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のような従来のスポット溶接装置においては、ドアインナーパネルPbに対して単に給電パッド54を上から押し付けているだけであることから、前記ドアインナーパネルPb自体の剛性が必ずしも十分でないこともあって、ドアインナーパネルPbと給電パッド54との密着性が不安定となり、両者の接触部に電蝕が発生するほか、通電電流の過不足を原因として溶接部位に、ちり、穴あき、圧痕等の溶接不良が発生することとなって好ましくない。
【0005】その一方、上記のドアインナーパネルPbと給電パッド54との密着性を良くするためには、給電パッド54の加圧面54aの形状がドアインナーパネルPbに忠実に追従するように、摺り合わせ等の手段により給電パッド54の加圧面54aの形状精度を高めることが有効であるとされている。
【0006】しかしながら、前記給電パッド54自体も使用により摩耗することから、その加圧面54aの修整作業を定期的に行わなければならず、加えて、ドアインナーパネルPb自体の加工誤差を考慮すると、給電パッド54の加圧面54aの形状精度の向上による給電パッド54の密着性改善にもおのずと限界がある。
【0007】このようなことから、例えば図6に示すように、細い銅線を網目状に編んだものを何層か重ね合わせてキャップ58とし、このキャップ58を前記給電パッド54にかぶせることも行われているが、その材質自体の耐久性が乏しいことからキャップ58の劣化が激しく、そのキャップ58を頻繁に交換しなければならないために、メンテナンス工数の上でなおも課題を残している。
【0008】本発明は以上のような課題に着目してなされたもので、メンテナンスに多大な工数を要することなくインナーパネルと給電パッドとの密着性を改善した構造を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、アウターパネルとインナーパネルとをヘミング結合してなるパネル部品のヘミング結合部に溶接電極を押し付けるとともに、前記溶接電極による溶接位置から離れた位置でインナーパネルに給電パッドを押し付けて、前記インナーパネルを通じて溶接位置に通電することにより前記ヘミング結合部にスポット溶接を施すようにしたインダイレクト方式のスポット溶接装置において、前記溶接電極による溶接位置から離れた位置で前記インナーパネルをその表裏両面から加圧挾持する給電用クランプ手段を設け、前記給電用クランプ手段のうちインナーパネルの表裏両面のいずれか一方に圧接する加圧面に給電パッドを設けたことを特徴としている。
【0010】
【作用】この構造によると、給電用クランプ手段によりインナーパネルを直接その表裏両面から加圧挾持することによって給電パッドがインナーパネルに圧接することから、単に給電パッドを押し付けた場合に比べてインナーパネルに対する給電パッドの密着性が安定化してきわめて良好なものとなる。
【0011】
【実施例】図1は本発明の一実施例を示す図で、位置決め治具として機能するゲージプレート1上には、ドアアウターパネルPaとドアインナーパネルPbとをヘミング結合部Hにおいて予めヘミング結合してなるドアパネルPが位置決めされる。そして、前記ゲージプレート1を基準として位置決めされたドアパネルPは、そのヘミング結合部Hがスポット溶接ガン2の電極チップ(溶接電極)3とバックプレート4とで加圧挾持された状態でスポット溶接が施されるようになっている。
【0012】前記ゲージプレート1には、スポット溶接ガン2による溶接位置と近接する位置において、前記ドアパネルPをゲージプレート1に押し付けてクランプするためのワーククランプ機構5が設けられている。このワーククランプ機構5は、前記ゲージプレート1にブラケット6を介して固定されたクランプシリンダ7と、同じ前記ゲージプレート1にヒンジピン8を介して回転可能に連結されたクランププレート9とから構成され、前記クランププレート9はリンク10を介して前記クランプシリンダ7のピストンロッド11にピン12を介して連結されている。
【0013】そして、前記クランプシリンダ7の伸縮動作に応じてクランププレート9がヒンジピン8を回転中心として回転運動することによりそのクランプ,アンクランプ動作が行われ、クランプ時には、図1に示すように前記クランププレート9の爪部13でヘミング結合部Hの根元部を加圧して拘束するようになっている。
【0014】また、前記クランププレート9の先端部には、後述する給電パッド21をドアインナーパネルPbに対して押し付けるための給電用クランプ機構14が設けられている。
【0015】この給電用クランプ機構14は、前記クランププレート9を支持体としてこれにトラニオン型のクランプシリンダ15を設けるとともにヒンジピン16を介してクランプレバー17を回転可能に設け、さらに前記クランププレート9のうち最先端の爪部20の加圧面20aに給電パッド21を装着したもので、前記クランプレバー17はクランプシリンダ15のピストンロッド22にピン23を介して連結されている。なお、前記給電パッド21は電極チップ3とともに二次ケーブル24,25を介して溶接トランス26の二次側に接続されている。27は溶接タイマーである。
【0016】そして、前記クランプシリンダ15の伸縮動作に応じてクランプレバー17がヒンジピン16を回転中心として回転運動することによりそのクランプ,アンクランプ動作が行われ、図1に実線で示すクランプ状態では、前記クランプレバー17の先端の加圧面17aと給電パッド21とでドアインナーパネルPbをその表裏両面から挾持するようになっている。
【0017】このように構成されたスポット溶接装置においては、図1に仮想線で示すように前記ワーククランプ機構5および給電用クランプ機構14がともにアンクランプ状態にある状態のもとで前記ゲージプレート1上にドアパネルPがセットされる。
【0018】そして、前記ドアパネルPがゲージプレート1を基準として位置決めされると、給電用クランプ機構14がアンクランプ状態のままでワーククランプ機構5がクランプ動作する。これにより、前記クランププレート9が図1に示す仮想線位置から実線位置まで回転して、前記ドアパネルPのヘミング結合部Hの根元部を加圧して拘束し、同時に前記給電パッド21がドアインナーパネルPbに圧接する。
【0019】前記ドアパネルPがワーククランプ機構5によりクランプされると、このワーククランプ機構5に続いて給電用クランプ機構14がクランプ動作する。すなわち、それまでアンクランプ状態にあった前記給電用クランプ機構14のクランプレバー17がクランプシリンダ15の伸長動作に応じて回転すると、図1に示すようにドアインナーパネルPbに予め形成されている作業穴Qからクランプレバー17がドアパネルPの内部に進入し、そのクランプレバー17の先端の加圧面17aと給電パッド21とでドアインナーパネルPbを表裏両面から加圧挾持する。これにより、前記給電パッド21がドアインナーパネルPbに確実に密着するようになる。
【0020】こうして、前記給電パッド21がドアインナーパネルPbに密着したならば、図2に示すようにヘミング結合部Hのうち前記クランププレート9で加圧拘束されている部分に近接する部位をスポット溶接ガン2の電極チップ3とバックプレート4とで加圧挾持した上で通電する。その結果、前記電極チップ3から溶接部位さらにはドアインナーパネルPbそのものを通じて給電パッド21側へと溶接電流が流れて前記ヘミング結合部Hにスポット溶接が施される。
【0021】ここで、前記給電用クランプ機構14による加圧力の大きさ次第でドアインナーパネルPbに傷が付いたり圧痕が残るおそれがある場合には、図3,4に示すような構造とする。すなわち、ドアインナーパネルPbに形成された作業穴Qの開口縁部に、後工程で切断されて除去されるフランジ部Fbを予め形成しておき、前記給電用クランプ機構14でドアインナーパネルPbをクランプする際にはそのフランジ部Fbをクランプしてスポット溶接を行い、スポット溶接完了後に上記のフランジ部Fbを切断して除去する。このようにすることにより、前記ドアインナーパネルPbの品質に影響を及ぼすことがなくなる。
【0022】
【発明の効果】以上のように本発明によれば、溶接電極による溶接位置から離れた位置でインナーパネルを加圧挾持する給電用クランプ手段を設けるとともに、前記給電用クランプ手段のうちインナーパネルの表裏両面のいずれか一方に圧接する加圧面に給電パッドを設け、この給電パッドと他方の加圧面とでインナーパネルをその表裏両面から加圧挾持するようにしたものであるから、インナーパネルの剛性不足等の影響を受けることなしに給電パッドを確実にかつ安定的にインナーパネルに圧接させることができるようになって両者の密着性が向上する。その結果、従来のような給電パッド圧接部での電蝕や、溶接部位での溶接不良の発生を未然に防止できるようになってパネル部品の品質が向上する。
【0023】また、上記のようにインナーパネルをその表裏両面から加圧挾持する方式としたことにより、給電パッドの加圧面形状を極端に高精度に仕上げる必要もなければ、耐久性に乏しい従来のキャップを併用する必要もなくなり、給電パッドのメンテナンス工数を大幅に削減できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示す構成説明図。
【図2】図1に示すスポット溶接ガンの詳細を示す構成説明図。
【図3】本発明の他の実施例を示す要部の構成説明図。
【図4】図3に示すドアインナーパネルの平面説明図。
【図5】従来のスポット溶接装置の一例を示す構成説明図。
【図6】従来の給電パッドの他の構造を示す構成説明図。
【符号の説明】
2…スポット溶接ガン
3…電極チップ(溶接電極)
5…ワーククランプ機構
9…クランププレート
14…給電用クランプ機構(給電用クランプ手段)
15…クランプシリンダ
17…クランプレバー
17a…加圧面
20a…加圧面
21…給電パッド
H…ヘミング結合部
P…ドアパネル(パネル部品)
Pa…ドアアウターパネル
Pb…ドアインナーパネル
Q…作業穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】 アウターパネルとインナーパネルとをヘミング結合してなるパネル部品のヘミング結合部に溶接電極を押し付けるとともに、前記溶接電極による溶接位置から離れた位置でインナーパネルに給電パッドを押し付けて、前記インナーパネルを通じて溶接位置に通電することにより前記ヘミング結合部にスポット溶接を施すようにしたインダイレクト方式のスポット溶接装置において、前記溶接電極による溶接位置から離れた位置で前記インナーパネルをその表裏両面から加圧挾持する給電用クランプ手段を設け、前記給電用クランプ手段のうちインナーパネルの表裏両面のいずれか一方に圧接する加圧面に給電パッドを設けたことを特徴とするスポット溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開平5−318133
【公開日】平成5年(1993)12月3日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−124010
【出願日】平成4年(1992)5月18日
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)