説明

スポレーション評価システムおよび画像処理プログラム、並びに消弧装置

【課題】 スポレーション現象を解明することで、スポレーション現象を利用して電力機器を消弧する技術を確立することを目的とする。
【解決手段】本発明にかかるスポレーション評価システム100の代表的な構成は、ポリマー材料118にアークプラズマ110aを照射するプラズマ照射部110と、ポリマー材料118の表面付近の様子を高速に連続撮像可能な撮像部112と、高速に連続撮像した複数の画像を処理して、スポレーション粒子122の軌跡が表示された合成画像を出力する画像処理部114と、この合成画像を解析して、スポレーション粒子122の飛散範囲若しくは飛散高さ、または密度の少なくともいずれか1つを評価するスポレーション評価部116と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポレーション粒子を評価するためのスポレーション評価システムおよびその画像処理プログラム、並びに端子間のアークプラズマを消弧する消弧装置(遮断器、がいし連のアークホーン等)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高い電力がかかる遮断器の引き外しの際には、アークプラズマが発生する。アークプラズマは非常に高温であるため導電性が維持され、電流を遮断するためには、アークプラズマを迅速に消弧する必要がある。そのため、従来、絶縁性の高いSF(六フッ化硫黄)ガスを端子間(電極間)に吹き付け、アークプラズマを消弧していた。しかし、SFガスは地球温暖化係数(Global Warming Potential)がCO(二酸化炭素)ガスの約23900倍であり、総使用量の削減が求められている。
【0003】
特許文献1は、アーク空間から誘導されるアークエネルギーにて加熱されることによりアブレーション(溶発)してガスを放出する被着部を設けた遮断器を開示している。特許文献1では、かかる遮断器により、SFガスの使用量を削減しても高い遮断性能を確保可能であるとされている。
【0004】
特許文献2は、アークヘガス流を誘導する絶縁ノズルの上流部を、ガス流を絞るためのスロート部よりも黒色濃度指数の大きい材料で形成した遮断器を開示している。特許文献2では、かかる遮断器により、スロート部の内径の拡大を防止しつつ高い吹き付け圧力を発生させることができ、電流遮断性能を安定して発揮可能であるとされている。
【0005】
一方、近年、非特許文献1に記載されているように、宇宙工学分野では、所定の条件下においてアブレータ(熱防護材)がアブレーションに加えスポレーションと呼ばれる固体粒子が飛び出す現象を生じるのではないかと推察されている。かかるスポレーション現象は、現状において、どのような条件下でどのような物質に生じるのか解明されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−75147号公報
【特許文献2】特開2007−73384号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】“アブレータから放出されるスポレーション粒子の研究”、[online]、九州大学 大学院工学府 航空宇宙工学専攻 流体力学研究室、[平成22年8月31日検索]、インターネット<URL: http://www.aero.kyushu-u.ac.jp/fml/research/spallation/spallation-1.htm>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
地球温暖化への対策が求められる昨今、温室効果ガスをなるべく使用しない遮断器が望まれている。特許文献1および2の遮断器では、確かにある程度の温室効果ガスの使用量を削減できるのかもしれないが、依然として不十分である。
【0009】
一方、宇宙工学分野において提唱されているスポレーション現象は、スポレーションによって固体粒子が飛び出すのを可視化するに到ったばかりである。かかるスポレーション現象をさらに明らかにするためには、各スポレーション粒子の挙動を正確に捉え、評価するシステムが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、温室効果ガスをなるべく使用せず、且つ充分な遮断性能を確保することができる消弧装置を提供するために鋭意検討し、宇宙工学分野において提唱されているスポレーション現象に着目した。すなわち、宇宙工学分野における熱防護材としては不測の(回避すべき)現象として研究されているスポレーション現象を、電力機器の消弧に積極的に利用できないかと考えた。しかし、上述のように、現状においてスポレーション現象は可視化に到ったばかりであり、どのような条件下でどのような物質に生じるのか解明されていない。
【0011】
そこで、本発明者らは研究を重ね、アークプラズマが照射されたポリマー材料の表面付近の様子を高速に連続撮像して、撮像した複数の画像を適切に処理することにより、スポレーション粒子の軌跡が表示された合成画像を出力する技術を確立することに成功した。そして、この技術思想に基づき、スポレーション粒子の飛散範囲や飛散高さ、密度を評価する評価システムを完成するに到った。これにより、アークプラズマによってスポレーション粒子を発生するポリマー材料を評価、選択可能となり、アークプラズマにスポレーション粒子を混入させ消弧を促す消弧装置を完成するに到った。
【0012】
本発明にかかるスポレーション評価システムの代表的な構成は、ポリマー材料にアークプラズマを照射するプラズマ照射部と、ポリマー材料の表面付近の様子を高速に連続撮像可能な撮像部と、高速に連続撮像した複数の画像を処理してスポレーション粒子の軌跡が表示された合成画像を出力する画像処理部と、合成画像を解析してスポレーション粒子の飛散範囲若しくは飛散高さ、または密度の少なくともいずれか1つを評価するスポレーション評価部と、を有することを特徴とする。
【0013】
かかる構成では、スポレーション粒子の軌跡が鮮明に表示された合成画像を取得することができる。これにより、スポレーション粒子の飛散範囲や飛散高さ、密度を適切に評価することができる。よって、アークプラズマの照射により、スポレーション粒子を発生するポリマー材料を適切に選択(評価)することができる。
【0014】
上記の画像処理部は、ピクセルごとに、高速に連続撮像した複数枚の画像の中から明度が最大となる値を選択し、各ピクセルに選択された値を設定することによって合成画像を生成するとよい。これにより、一度でも明るくなったピクセルは、合成画像でも明るく表示される。そのため、スポレーション粒子の軌跡がはっきりと表示された合成画像(グレースケール、カラー画像)を生成することができる。
【0015】
上記の複数の画像は3原色からなるカラー画像であって、上記の画像処理部は、複数の画像の対応するピクセルごとに、特定の原色の明度が最大となる1つの色情報を抽出するとよい。これにより、スポレーション粒子の軌跡がはっきりと表示された合成画像(カラー画像)を生成することができる。
【0016】
本発明にかかる画像処理プログラムの代表的な構成は、スポレーション粒子の軌跡が表示された合成画像を出力するためにコンピュータを、アークプラズマが照射されたポリマー材料の表面付近の様子を高速に連続撮像した複数の画像を取得する画像取得手段、複数の画像の対応するピクセルごとに、明度に基づき1つの色情報を抽出する色情報抽出手段、およびピクセルごとに抽出された色情報を組み合わせることにより合成画像を生成する合成画像生成手段、として機能させることを特徴とする。
【0017】
かかる構成により、スポレーション現象の解明に寄与する汎用性の高い画像処理プログラムを提供することができる。なお、上述したスポレーション評価システムにおける技術的思想に対応する構成要素やその説明は、当該画像処理プログラムにも適用される。
【0018】
本発明の他の代表的な構成は、2つの端子間に生じるアークプラズマを消弧するための消弧装置であって、アークプラズマによってスポレーション粒子を発生するポリマー材料を、端子間の近傍且つこのアークプラズマにこのスポレーション粒子が混入する位置に配置したことを特徴とする。
【0019】
かかる構成では、スポレーション粒子がアークプラズマの内部まで突入してからアブレーションするため、より広範囲にアークプラズマを冷却して消弧することができる。スポレーション粒子がアークプラズマに突入して、物理的にアークプラズマを分断する効果も望める。これは、アブレーションしたガスよりも、物理的な塊であるスポレーション粒子の方が飛躍的に大きな貫通力を有しているためである。これより、温室効果ガスをなるべく使用せず、充分な遮断性能を確保することができる。
【0020】
なお、熱防護材としてのアブレータにおいては、スポレーション現象は材料の消耗を早めるため避けるべき現象である。これに対し本発明の消弧装置は、スポレーション現象(スポレーション粒子)を積極的に利用しようとする点で対極に位置するものである。
【0021】
上記のポリマー材料は、ポリアミド系の合成樹脂であるとよい。ポリアミド系の合成樹脂にアークプラズマを照射すると、スポレーション粒子を発生することが確認された。そのため、ポリアミド系の合成樹脂ならば、一定の消弧効果を奏することが期待できる。
【0022】
上記の端子の少なくとも一方を外側より囲繞する円筒形状の絶縁ノズルを有し、絶縁ノズルの内周面の少なくとも一部が上記ポリマー材料で形成されているとよい。すなわち、一方の端子の外側に絶縁ノズルが備えられる遮断器において、絶縁ノズルの内周面の少なくとも一部をスポレーションするポリマー材料で形成することで、引き外しの際に発生するアークプラズマを好適に消弧することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、スポレーション粒子の軌跡が表示された合成画像を取得し、スポレーション粒子の飛散範囲や飛散高さ、密度を適切に評価可能なスポレーション評価システムを提供可能である。また、スポレーション粒子の軌跡が表示された合成画像の取得に利用される汎用性の高い画像処理プログラムを提供可能である。また、温室効果ガスをなるべく使用せず、且つ充分な遮断性能を確保することができる消弧装置を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態にかかるスポレーション評価システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態にかかるスポレーション評価システムの動作を説明するフローチャートである。
【図3】図1のプラズマ照射部および撮像部について例示した図である。
【図4】図3のプラズマ照射部および撮像部によりポリマー材料を高速に連続撮像した複数の画像のうちの一枚である。
【図5】図1の画像処理部による処理を模式的に例示した図である。
【図6】図4(a)〜(d)の各ポリマー材料の合成画像である。
【図7】本実施形態にかかる消弧装置としての遮断器の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0026】
[スポレーション評価システム]
図1は、本実施形態にかかるスポレーション評価システム100の概略構成を示すブロック図である。また、図2は、スポレーション評価システム100の動作を説明するフローチャートである。図1に示すように、スポレーション評価システム100は、システム制御部102および記憶部104を含んで構成されるコンピュータシステムとして実現可能である。
【0027】
システム制御部102は、中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)を含む半導体集積回路であって、スポレーション評価システム100全体の管理、制御を行う。記憶部104は、ROM、RAM、EEPROM、不揮発性RAM、フラッシュメモリ、HDD等で構成され、システムで利用されるプログラムや各種データ(撮像部112が撮像した画像のデータ等)を記憶する。
【0028】
また、スポレーション評価システム100には、入力部106および出力部108が備えられている。入力部106は、キーボードやマウス、タッチパネル、あるいはファイル入出力装置やネットワークを通じたデータ通信等により、外部からシステムへ所定の情報を取り込む。出力部108は、ディスプレイやプリンタ等で構成され、ユーザに情報を表示したり、印刷を行ったりする。また、出力内容をデータとして記録媒体に保存したり、ネットワークを通じたデータ通信やウェブ表示などを行ったりすることも可能である。
【0029】
以下、図2のフローチャートに則り、スポレーション評価システム100の動作について説明する。また、これに併せて、スポレーション評価システム100のプラズマ照射部110、撮像部112、画像処理部114(色情報抽出部114a、合成画像生成部114b)およびスポレーション評価部116について説明する。図2に示すように、スポレーション評価システム100は、ポリマー材料118(図3参照)のスポレーション現象をステップS150〜S162により評価する。
【0030】
ステップS150では、プラズマ照射部110が、ポリマー材料118にアークプラズマ110aを照射する。そして、撮像部112が、ポリマー材料118の表面付近の様子を高速に連続撮像する(例えば、1000fps(Frames Per Second)で連続撮像する)。本実施形態では、撮像部112の撮像画像はRGBの3原色からなるカラー画像とする。
【0031】
図3は、プラズマ照射部110および撮像部112について例示した図である。図3(a)がその具体的な構成を例示した図であり、図3(b)が図3(a)のポリマー材料118、サンプルホルダー120aの側面図、図3(c)が図3(a)のポリマー材料118、サンプルホルダー120aの上面図である。
【0032】
図3(a)に例示するように、プラズマ照射部110は、熱プラズマトーチ110bおよび反応容器110cで構成される。熱プラズマトーチ110bおよび反応容器110cにはArガスまたはNガスなどが充填され、ポリマー材料118にアークプラズマ110aを照射する。撮像部112は、ハイスピードカメラ112a(静止画カメラやシャッタースピードの遅いカメラは不可)およびCスワン系スペクトル光を透過するバンドパスフィルター112bで構成される。
【0033】
かかるバンドパスフィルター112bを使用するのは、アブレーション(溶発)による蒸気やスポレーション粒子122が発する青白い光(主にCスワン系スペクトル光)を観測するためである。なお、アブレーションを生じていたとしても、Cスワン系スペクトル光を発しない場合には、かかるバンドパスフィルター112bによって撮像画像にほぼ写らなくなる。
【0034】
図3(b)および(c)に例示するように、ポリマー材料118は、所定の厚みおよび直径を有するバルク材(ポリマーバルク)として構成される。そして、ホルダー部120のサンプルホルダー120aに支持される。
【0035】
図2のフローチャートに戻る。ステップS152では、システム制御部102が、ステップS150にて高速に連続撮像した複数の画像より、アークプラズマ110aを照射したポリマー材料118がスポレーション現象を生じるか否かを判断する。このポリマー材料118がスポレーション現象を生じない場合には(ステップS152No)、出力部108がその旨をユーザに出力する(ステップS162)。
【0036】
図4は、図3のプラズマ照射部110および撮像部112によりポリマー材料118を高速に連続撮像した複数の画像のうちの一枚である。図4(a)がポリマー材料118としてのPTFE(Poly Tetra Fluoroethylene:ポリテトラフルオロエチレン)の撮像画像、図4(b)がポリマー材料118としてのPOM(Poly Oxy Methylene:ポリオキシメチレン)の撮像画像、図4(c)がポリマー材料118としてのPA6(ナイロン6(PAはPoly Amide:ポリアミド))の撮像画像、図4(d)がポリマー材料118としてのPA66(ナイロン66)の撮像画像である。図4(a)〜(d)に示すように、上述したプラズマ照射部110および撮像部112によれば、スポレーション現象の有無をはっきりと確認することができる。
【0037】
図4(a)に示すように、PTFEの場合には、その表面付近が青白い光(もやのようなもの)で覆われる。この青白い光はCスワン系スペクトル光であり、アブレーションによる蒸気が発生していると考えられる。なお、PTFEの場合、演算によるアブレーションのシミュレートとその分布がよく一致し、スポレーション現象は発生していないと考えられる。
【0038】
図4(b)に示すように、POMでは、ほとんど青白い光が撮像されていない。実際には、POMのアブレーションの量は4つの資料の中で最も多いのであるが、Cスワン系スペクトル光がほとんど発せられないためバンドパスフィルター112bで遮断され、撮像画像にはそれが表れていない。ただし、POMでもスポレーションが発生していないことは、別途の実験(別の偏光フィルタを用いた実験)によって確認されている。
【0039】
これらに対し、図4(c)のPA6および図4(d)のPA66、すなわちポリアミド系の合成樹脂では、アブレーションによる表面付近のもやに加えて、スポレーション粒子122が飛散している様子を鮮明に捉えることができる。
【0040】
図2のフローチャートに戻る。アークプラズマ110aを照射したポリマー材料118がスポレーション現象を生じる場合には(ステップS152Yes)、ステップS154へと移行する。ステップS154では、画像処理部114が、スポレーション粒子122が撮像された複数の画像を抽出する。
【0041】
例えば、アークプラズマ110aの照射開始から、撮像部112がポリマー材料118の表面付近の様子を20秒間高速に連続撮像していたとする。この場合には、必ずしも全ての複数の画像を抽出する必要はない。スポレーション粒子122が撮像された任意の時間帯の複数の画像(合成対象とする時間帯の複数の画像)を抽出すれば充分である。具体的には、撮像スピードが1000fpsの場合、スポレーション粒子122が撮像された任意の0.1秒間の複数の画像(1000枚/秒×0.1秒=100枚)を抽出するようにしてよい。
【0042】
図5は、画像処理部114による処理を模式的に例示した図である。上記のように、本実施形態では、撮像部112の撮像画像はRGBの3原色からなるカラー画像である。かかるカラー画像において、各ピクセルには色情報が設定されている。色情報とは、RGB各チャンネルの明度情報、すなわちR(赤)の明度、G(緑)の明度およびB(青)の明度をそれぞれ0〜255の値で表したものである(24ビットカラーの場合)。
【0043】
図2のフローチャートに戻る。ステップS156では、色情報抽出部114aが、ステップS154にて抽出された複数の画像について、ピクセルごとに、特定の原色の明度が最大となる1つの色情報を抽出する。換言すれば、ピクセルごとに時間軸方向にスキャンして、明度が最大となる色情報を抽出する。本実施形態では、Cスワン系スペクトル光がB(青)に近いため、B(青)の原色が最大となる1つの色情報を抽出する。そして、ステップS158では、合成画像生成部114bが、ステップS156にてピクセルごとに抽出された色情報を組み合わせ、合成画像を生成する。
【0044】
図5に示すように、この合成画像には、Cスワン系スペクトル光を発するアブレーションの蒸気やスポレーション粒子122の軌跡が表示される。スポレーション粒子122等が通過することによって一度でも明るくなったピクセルは、合成画像でも明るく表示されるためである。
【0045】
なお、上記の方法ではなく、例えば単純に全ての画像を足し合わせると、アブレーションしている試料近傍がすぐに飽和してしまい、長時間の観察をすることが困難になってしまう。また、単に画像を重ね合わせて平均を取ると、常にアブレーションが発生している試料近傍は飽和せずに明るくなるが、スポレーションの飛沫は一瞬の通過であるために平均によって弱められてしまって観察できなくなってしまう。すなわち、上記の方法によれば、試料近傍が飽和することなく、かつスポレーション粒子も同等の明るさを持った軌跡として観察することが可能となる。
【0046】
図6は、図4(a)〜(d)の各ポリマー材料118の合成画像である。すなわち、図6(a)が上述した方法により生成されるPTFEの合成画像、図6(b)が上述した方法により生成されるPOMの合成画像、図6(c)が上述した方法により生成されるPA6の合成画像、図6(d)が上述した方法により生成されるPA66の合成画像である。
【0047】
図6(a)および(b)において、PTFEおよびPOMではそもそもスポレーション現象が発生していなかったため、合成画像でも当然にスポレーション粒子122は観察されない。これらの場合には、合成画像と一枚一枚の撮像画像とはあまり変化がない。
【0048】
図6(c)および(d)に示すように、ポリアミド系の合成樹脂であるナイロン6、ナイロン66の合成画像では、スポレーション粒子122の軌跡が鮮明に表示されている。なお、これらの合成画像においてはスポレーション粒子122が粒として表示されているが、さらに高速なシャッターで密に画像を撮像すれば、軌跡が線となって表示されることになる。
【0049】
図2のフローチャートに戻る。ステップS160では、スポレーション評価部116が、ステップS158にて生成された合成画像を解析して、スポレーション粒子の飛散範囲若しくは飛散高さ、または密度の少なくともいずれか1つを評価する。そして、ステップS162では、出力部108がユーザにその評価結果を出力する。
【0050】
スポレーション粒子の飛散範囲若しくは飛散高さ、または密度の評価結果は後述する消弧装置としての遮断器130に適用されるポリマー材料118の選択に用いることができる。表1は、スポレーション現象が確認されたPA6、PA66のスポレーション粒子122の飛散高さの評価結果である。ここでは、参考のためにPTFEのアブレーションによる蒸気の高さも評価している。なお、PA6、PA66のスポレーションの高さと、PTFEのアブレーションのみの高さとでは単純に比較することはできないため、あくまでも参考である。
【0051】
【表1】

【0052】
以上、上記スポレーション評価システム100によれば、スポレーション粒子122の軌跡が鮮明に表示された合成画像を取得することができる。これにより、スポレーション粒子122の飛散範囲や飛散高さ、密度を適切に評価することができる。よって、アークプラズマ110aの照射により、スポレーション粒子122を発生するポリマー材料を適切に選択(評価)することができる。
【0053】
なお、上記では、RGBの3原色からなるカラー画像の合成画像を生成するものとしたが、グレースケールの合成画像を生成してもよい。グレースケールの合成画像においても、上記の方法と基本的に同様に生成することができる。グレースケールの場合には、色情報抽出部114aは、明度が最大となる値を抽出する。
【0054】
また、画像処理部114を独立したソフトウェアである画像処理プログラムとして構築すれば、上記画像処理の汎用性を高めることができる。かかる画像処理プログラムは、アークプラズマ110aが照射されたポリマー材料118の表面付近の様子を高速に連続撮像した複数の画像を取り込む画像取得手段、上記色情報抽出部114aに相当する色情報抽出手段、上記合成画像生成部114bに相当する合成画像生成手段、としてコンピュータを機能させるものである。
【0055】
[消弧装置]
図7は、本実施形態にかかる消弧装置としての遮断器130の概略構成を示す図である。図7に示すように、遮断器130の固定接触子部132の第1アーク接触子134(端子)から、可動接触子部136の第2アーク接触子140(端子)を引き外す場合には、アークプラズマ110aが発生する。
【0056】
本実施形態では、第2アーク接触子140を外側より囲繞する円筒形状の絶縁ノズル138を、アークプラズマ110aによりスポレーション粒子122を発生する所定のポリマー材料118で形成する。具体的には、アークプラズマ110aを照射すると、スポレーション粒子122を発生することが確認されているポリアミド系の合成樹脂(PA6、PA66)で形成する。
【0057】
スポレーション粒子122を発生させる所定のポリマー材料118は、第1アーク接触子134、第2アーク接触子140間(端子間)の近傍、且つ発生するスポレーション粒子122がアークプラズマ110aに混入する位置に配置されていればよい。よって、この所定のポリマー材料118で必ずしも絶縁ノズル138全体を形成する必要はなく、絶縁ノズル138の内周面の少なくとも一部に備えられていればよい。
【0058】
上記構成によれば、発生するスポレーション粒子122が、アークプラズマ110aの内部まで突入してからアブレーションする(スポレーション粒子122のアブレーションにアークプラズマ110aのエネルギが利用される)ため、より広範囲にアークプラズマ110aを冷却して消弧することができる。スポレーション粒子がアークプラズマに突入して、物理的にアークプラズマを分断する効果も望める。これは、アブレーションしたガスよりも、質量を有する塊であるスポレーション粒子122の方が飛躍的に大きな貫通力を有しているためである。これより、温室効果ガスをなるべく使用せずに、充分な遮断器130の遮断性能を確保することができる。このように、積極的にスポレーション粒子122を発生させて消弧する点に本発明の特徴がある。PA6およびPA66によってアークプラズマ110aを好適に分断(消弧)できることは、がいし連のアークホーンにて確認されている。
【0059】
なお、スポレーション現象は、スポレーション粒子122(固体粒子)が飛び出す現象である。そのため、コーティングのように表面にスポレーション粒子122を発生させる所定のポリマー材料118を付与しただけでは、早期に材料が消耗してしまって耐久性が不足するおそれがある。
【0060】
すなわち、スポレーション現象を電力機器の消弧に利用するには、スポレーション粒子122を発生させる所定のポリマー材料が一定容量以上(所定の厚み以上)存在していることが必要となる。したがって、理想的には、絶縁ノズル138全体がスポレーション現象を発生する所定のポリマー材料118であることが好ましい。
【0061】
本実施形態のスポレーション粒子122による消弧技術に、絶縁性の高いCOガス等の端子間への吹き付けなどの従来技術を併用すると、より高い消弧効果を奏する。複数のポリマー材料118を組み合わせてもよい。例えばPOMは、スポレーションは生じないが、アブレーションによる大量の蒸気を生じるため、組み合わせることに利点がある。ただし、この場合には、つなぎ目部分が内部の圧力に耐え得る接合強度を確保する必要がある。
【0062】
上述したスポレーション評価システム100(飛散範囲や飛散高さ、密度の評価結果)は、遮断器130の消弧に利用する所定のポリマー材料118の選択に利用することができる。現状においてスポレーション現象が明確に解明されていないため、かかるスポレーション評価システム100は有用である。例えば、従来、熱防護材に使用されているカーボンフェノール(炭素繊維強化型フェノール樹脂)はスポレーション現象を生じると推測されていたが、かかるスポレーション評価システム100によりフェノール樹脂を評価するとスポレーション粒子122が確認されないことが分かっている。
【0063】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、スポレーション粒子を評価するためのスポレーション評価システムおよびその画像処理プログラム、並びに端子間のアークプラズマを消弧する消弧装置(遮断器、がいし連のアークホーン等)として利用することができる。
【符号の説明】
【0065】
100…スポレーション評価システム、102…システム制御部、104…記憶部、106…入力部、108…出力部、110…プラズマ照射部、110a…アークプラズマ、110b…熱プラズマトーチ、110c…反応容器、110d…観測窓、112…撮像部、112a…ハイスピードカメラ、112b…バンドパスフィルター、114…画像処理部、114a…色情報抽出部、114b…合成画像生成部、116…スポレーション評価部、118…ポリマー材料、120…ホルダー部、120a…サンプルホルダー、122…スポレーション粒子、130…遮断器、132…固定接触子部、134…第1アーク接触子、136…可動接触子部、138…絶縁ノズル、140…第2アーク接触子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー材料にアークプラズマを照射するプラズマ照射部と、
前記ポリマー材料の表面付近の様子を高速に連続撮像可能な撮像部と、
前記高速に連続撮像した複数の画像を処理して、スポレーション粒子の軌跡が表示された合成画像を出力する画像処理部と、
前記合成画像を解析して、前記スポレーション粒子の飛散範囲若しくは飛散高さ、または密度の少なくともいずれか1つを評価するスポレーション評価部と、
を有することを特徴とするスポレーション評価システム。
【請求項2】
前記画像処理部は、ピクセルごとに、前記高速に連続撮像した複数枚の画像の中から明度が最大となる値を選択し、各ピクセルに選択された値を設定することによって前記合成画像を生成することを特徴とする請求項1に記載のスポレーション評価システム。
【請求項3】
前記複数の画像は、3原色からなるカラー画像であって、
前記画像処理部は、前記複数の画像の対応するピクセルごとに、特定の原色の明度が最大となる1つの色情報を抽出することを特徴とする請求項2に記載のスポレーション評価システム。
【請求項4】
スポレーション粒子の軌跡が表示された合成画像を出力するためにコンピュータを、
アークプラズマが照射されたポリマー材料の表面付近の様子を高速に連続撮像した複数の画像を取得する画像取得手段、
前記複数の画像の対応するピクセルごとに、明度に基づき1つの色情報を抽出する色情報抽出手段、および
前記ピクセルごとに抽出された色情報を組み合わせることにより前記合成画像を生成する合成画像生成手段、
として機能させるための画像処理プログラム。
【請求項5】
2つの端子間に生じるアークプラズマを消弧するための消弧装置であって、
前記アークプラズマによってスポレーション粒子を発生するポリマー材料を、前記端子間の近傍且つ該アークプラズマに該スポレーション粒子が混入する位置に配置したことを特徴とする消弧装置。
【請求項6】
前記ポリマー材料は、ポリアミド系の合成樹脂であることを特徴とする請求項5に記載の消弧装置。
【請求項7】
前記端子の少なくとも一方を外側より囲繞する円筒形状の絶縁ノズルを有し、該絶縁ノズルの内周面の少なくとも一部が前記ポリマー材料で形成されていることを特徴とする請求項5または6に記載の消弧装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−59539(P2012−59539A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201586(P2010−201586)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】