説明

スポーツ用衣服

【課題】スキー、スノーボード、スケート等、普段の服装に近い格好で行うレジャー用のスポーツ用衣服において、転倒時の衝撃吸収性を確保しつつ、硬いパッドによる不快感や動きの阻害が無く身体にフィットし、また、パッドの重さによる衣服の重量増を防いで軽量で軽快なスポーツ用衣服を提供すること。
【解決手段】多数個の球状の発泡体を密封した1又は2以上の袋体5を、衣服の内側に設けた1又は2以上のポケット4に収納しているスポーツ用衣服A。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スキーやスノーボード等の雪上遊技等のレジャースポーツを行う場合に着用し、転倒した時に身体を保護するためのスポーツ用衣服に関する。
【背景技術】
【0002】
スキーやスノーボードなどの雪上遊技を行う場合に、転倒による事故から身体を守るための防具として、身体の保護せんとする部位に衝撃吸収用の保護パットを設けたスポーツ用衣服を着用することが行われており、特に、上述したスキーやスノーボード等の雪上遊技においては、後方への転倒の発生が生じやすく、このような後方への転倒による後頭部や脊髄の損傷が重大な事故を引き起こすことになるので、スキーやスノーボードなどの雪上遊技用のスポーツ用衣服は、上着の胴部における少なくとも背中の部位に脊髄保護パットを設け、また、帽子は後頭部に保護パッドを設けた構造になっている。
【0003】
上記した従来のスポーツ用衣服は、脊髄保護パットを上着の胴部で背中の部位に、上下に連続した長い状態や、複数に分割して所定の間隔で上下に並べた配置で設けられ、この上着を着用することによって、脊髄保護パットで脊髄の首下部分から尾てい骨の範囲を保護するようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、脊髄保護パッドが激しい運動に対してずれないように腰ベルトを用いたものや(例えば、特許文献2参照)、転倒発生時に脊髄のみならず胸部や両側脇腹部をも保護できるようにしたものもある(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
更に、転倒時の後頭部保護用としては、主に後頭部付近に発泡ウレタンのような衝撃吸収部材を配したものがある(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
上記したスポーツ用衣服において、転倒時の衝撃吸収を行うパッド用の材料としては柔軟性と弾力性を持つものが種々使用されているが、エチレンビニールアセテート(Ethylene-Vinyl Acetate 以下、EVAという)を用い、これを板状や積層体としてパッドとして衝撃吸収性に優れたスポーツ用衣服も提案されている。
【0007】
上記EVAを利用したものとしては、その衝撃吸収性が優れた利点を生かして、サッカー競技用プロテクターや(例えば、特許文献5参照)、スポーツ用ストッキング(例えば、特許文献6参照)など激しい衝撃が加えられるスポーツ競技用衣服に用いられている。
【特許文献1】特開2002−30502号公報(図2b、図4b)
【特許文献2】実用新案登録第3100069号公報(図1、図2、図3)
【特許文献3】実用新案登録第3103393号公報(図1、図2、図3)
【特許文献4】特開平9−299539号公報(図1、図4、図6)
【特許文献5】実用新案登録第3085194号公報(請求項1、段落0004)
【特許文献6】特開2006−63483号公報(請求項5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来のスポーツ用衣服に用いられているパッドは、転倒時の人体への衝撃吸収性を考慮し、比較的硬質な発泡プラスチックやEVAなどを板状にしたものが用いられており、衝撃吸収性を高めるためには、パッド部分の厚みを厚くすれば良いが、それだけパッド部分も重くなり、衣服全体の重量が増えて軽快感が失われることになる。
【0009】
例えば自転車のBMXやコンクリート上で行うローラスケート等、危険を伴ったり本格的なスポーツの競技中にのみ用いるプロテクターの類ならば、パッドが大きくて重くても衝撃吸収性確保のためにやむを得ないが、スキー場でのスキーやスノーボード、或いはスケート場でのスケートなどレジャーとしての雪上遊技や氷上遊技を行う場合、服装はファッション性が重視され、大きく重いパッドを用いた服装は好まれない傾向にある。
【0010】
また、スキーやスノーボードの合間に、スキーやスノーボードを行った服装のままで、スキー場の食堂やショップに入って食事や買い物をすることがあり、その際、重厚な衝撃保護パッドを用いた服装で行うこともファッション性から抵抗感があり、衣服からパッドが目立たないようにして、普段着のような感覚で着られるスポーツ用衣服が求められている。
【0011】
しかし、軽量化やパッドを外から目立たないようにするために、従来から用いられている板状のパッドの厚みを単に薄くしても、人体がパッド部分を硬い感触として感じたり、また、関節部位にあるパッドだと、関節を動かすたびに板状のパッドが動きを阻害したりして不快感を感じたりすることがある。
【0012】
また、板状のパッドを薄くしても、パッドの保形性により、人体の関節の曲げの動きに反して衣服を伸ばす方向に働いてしまい、外から見てもパッドの存在がわかってしまうことになる。
【0013】
そこで、この発明の課題は、スキー、スノーボード、スケート等、普段の服装に近い格好で行う氷上遊技や雪上遊技用のスポーツ用衣服において、転倒時の衝撃吸収性を確保しつつ、硬いパッドによる不快感や動きの阻害が無く身体にフィットし、また、パッドの重さによる衣服の重量増を防いで軽量で軽快なスポーツ用衣服を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記のような課題を解決するため、請求項1の発明は、多数個の球状の発泡体を密封した1又は2以上の袋体を、衣服の内側に設けた1又は2以上のポケットに収納している構成を採用したスポーツ用衣服である。
【0015】
ここで球状の発泡体としては、発泡ポリスチレン(発泡スチロール)が挙げられ、これらを球状として多数用いることで衝撃吸収材料として用いるのである。
【0016】
請求項2の発明は、請求項1に記載のスポーツ用衣服において、球状の発泡体の平均粒径が0.1mm〜1mmの範囲内にある構成を採用したものである。
【0017】
球状の発泡体を細かくすることで、あらゆる凹凸にフィットするようになるが、粒径が細かすぎると動きすぎて発泡体の持つ衝撃吸収性等が失われるので、上記範囲の粒径とするのが好ましい。
【0018】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載のスポーツ用衣服において、各袋体は複数の部屋に分割して仕切られ、各部屋に発泡体が分散して収納されている構成を採用したものである。
【0019】
球状の発泡体は袋体の中で自由に移動するので、袋体内で偏りが生じないように分割しした部屋を作って部屋内のみでの移動を許容するようにした。
【0020】
請求項4の発明は、請求項1乃至3の何れか1項に記載のスポーツ用衣服において、胴部を覆う衣服として用いられ、少なくとも背骨の部位に袋体を収納した構成を採用したものである。
【0021】
レジャー中の転倒時の背骨(脊椎)への衝撃を、多数の球状の発泡体により緩和するようにした衣服である。
【0022】
請求項5の発明は、請求項1乃至3の何れか1項に記載のスポーツ用衣服において、腰部を覆う衣服として用いられ、少なくとも尾てい骨の部位に袋体を収納した構成を採用したものである。
【0023】
レジャー中の転倒時の腰の尾てい骨の骨折等を、多数の球状の発泡体により防止するようにしたものである。
【0024】
請求項6の発明は、請求項1乃至3の何れか1項に記載のスポーツ用衣服において、頭部に被る帽子として用いられ、少なくとも後頭部の部位に袋体を収納した構成を採用したものである。
【0025】
レジャー中の転倒による後頭部への衝撃を、多数の球状の発泡体により緩和するようにした帽子である。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、請求項1の発明によると、袋体内の球状の発泡体により従来のパッドと同様の衝撃吸収性を有しつつ、体の凹凸部分に会わせて球状の発泡体が移動することで体に完全にフィットし、従来のEVA等の板状体を用いたパッドのように硬いパッドの感触を感じるような違和感が無くなる。
【0027】
また、関節部分の動きに合わせて球状の発泡体が移動して体にフィットし続けるので、体の動きを阻害することも無い。
【0028】
また、多数の発泡体の粒の集まりで構成されていることで、袋体と同体積の発泡体と比較して粒の隙間の分軽量でありつつ、万が一衝撃を受けた時には、各発泡体の収縮及び移動の両作用により衝撃を分散しやすいので、重量や体積比での衝撃吸収性に優れる。
【0029】
更に、粒同士の隙間により通気性もあり、従来の板状のパッドのようにパッド部分で人体が蒸れたりすることが無い。
【0030】
また、ポケットに袋体を収納する方式で袋体を固定するので、ファスナーなどを使った方法に比較して人体を傷つけたりせず、また低コストである。
【0031】
そして、上記のようにパッド部分を軽量で目立たなくし、しかも関節の動きを阻害しないようにしながら衝撃吸収性を確保することができ、加えて、通気性も有しているので、普段着と同じ感覚で着用でき、パッドの存在が目立たないのでファッション性も阻害することがないスポーツ用衣服とすることができる。
【0032】
請求項2の発明によると、球状の発泡体の大きさを規定することで、体へのフィット性や衝撃吸収性を最適に調整でき、更には、粒の隙間を調整して通気性にも優れたスポーツ用衣服とすることができる。
【0033】
請求項3の発明によると、球状の発泡体のある程度の移動は許容しつつ、袋体全体で球状の発泡体を均等に分散させることができ、関節部分等の人体により袋体が押される部分であっても発泡体の厚みが薄くなって衝撃吸収性が低下するといったことが無くなる。
【0034】
請求項4乃至6の発明によると、転倒時に衝撃を受けやすい人体の肩胛骨、脊髄、肘、膝、尾てい骨などのあらゆる骨部分に当接する位置に上記球状の発泡体を収納した袋体を取り付け、外部からの衝撃を緩和することで、各種骨や急所部分を保護することができる、シャツ、ジャンパー、トレーナー、ジャケット、ズボン、トランクス、帽子、キャップ等各種スポーツ用衣服とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、この発明の実施の形態を図示例と共に説明する。
【0036】
図1のように、スポーツ用衣服Aは、見た目は上着の普段着と同じであり、雪上遊技用として防水性も加味した材質からなる胴部1と、その両側肩部に設けた長袖2からなる上着3に縫製され、この上着3における胴部1の背中の背骨に沿った部位に脊髄保護用として複数箇所、両側の肩部に肩保護用として2箇所、両側の脇部に脇保護用として2箇所、それぞれの箇所にポケット4が設けられ、また、長袖2の肘部分にポケット4が2箇所設けられた構造になっている。
【0037】
上記ポケット4は、胴部1や長袖2の内側の面に、四角形の布を当てて上側の辺を残して三辺を縫い合わせて構成され、このポケット4の上側の縫い合わせて無い辺の開口部を利用して袋体5を収納するようになっている。
【0038】
袋体5はポケット4の大きさとほぼ同じ大きさの四角形をしており、ポケット4の内側との摩擦力によりポケット4内に固定されることになるが、ポケット4の開口上辺両側を少し縫い合わせて、開口部を袋体5の一辺より小さくしておき、袋体5を折り畳んで入れてから広げれば、激しく動いてもポケット4から袋体5が外れることがない。
【0039】
また、袋体5の固定は、上記のようにポケット4に収納する方式を採用し、人体を傷つけるおそれのあるファスナーなどの器具は極力使わないようにするのが好ましい。
【0040】
図2は袋体5の内部構造を示すものであり、図2(a)のように、球状の発泡体6の多数を、ナイロンなどの繊維の細かい布など空気を通す材質からなる布製の袋体5の開口部から入れ、その後袋体5の開口部を縫い合わせて発泡体6を袋体5内に密閉する図2(b)。
【0041】
なお、この図2(b)のままでも良いが、更に、球状の発泡体6が袋体5内で均等に配置するよう、図2(c)のように縫い糸7により縫い合わせて複数の部屋8に分割し、各部屋8で球状の発泡体6を分割入れておくことで、袋体5内で全体として球状の発泡体6が均一に配置されるようにするようにしても良い。
【0042】
図3は、スポーツ用衣服の他の例で、このスポーツ用衣服Bは、雪上遊技用のズボンに適用したものを示し、このスポーツ用衣服Bを構成するズボン本体9は、図1での胴部1や長袖2と同様、雪上遊技用として防水性も加味した材質からなっている。
【0043】
このズボン本体9の内側には、尾てい骨と接する部分やその他人体を保護するための必要部分にポケット4が設けられて、ポケット4には袋体5が収納されることになる。
【0044】
なお、ポケット4や袋体5の材質、構造や作用は、図1や図2で示したものと同じであり説明を省略する。
【0045】
図4は、スポーツ用衣服の他の例で、このスポーツ用衣服Cは、雪上遊技用のニットキャップに適用したものを示し、このスポーツ用衣服Cを構成するニットキャップ10は、ニット地からなる伸縮性のある通常の帽子用の材料であり、その内側の、後頭部に接する部分にはポケット4が設けられて、ポケット4には袋体5が収納されることになる。
【0046】
なお、この例についてもポケット4や袋体5の材質、構造や作用は、図1や図2で示したものと同じであり説明を省略する。
【0047】
以上、この発明のスポーツ用衣服の実施形態について示したが、この発明は上記実施形態に限定されるものではなく、ポケット4の位置や数は適宜変更して実施でき、また、適用される衣服も、上着、シャツ、ジャンパー、トレーナー、ジャケット、ズボン、トランクス、帽子、ニットキャップに限定されず、手袋、靴下等、人体に装着し衝撃保護の目的のために使用されるものであれば種々のものに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】この発明に係るスポーツ用衣服(上着)の斜視図である。
【図2】この発明に係るスポーツ用衣服に用いる袋体で(a)(b)は製造を示す説明図、(c)は他の例の袋体の正面図である。
【図3】この発明に係るスポーツ用衣服(ズボン)の正面図である。
【図4】この発明に係るスポーツ用衣服(キャップ)の縦断側面図である。
【符号の説明】
【0049】
A,B,C スポーツ用衣服
1 胴部
2 長袖
3 上着
4 ポケット
5 袋体
6 球状の発泡体
7 縫い糸
8 部屋
9 ズボン本体
10 ニットキャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数個の球状の発泡体を密封した1又は2以上の袋体を、衣服の内側に設けた1又は2以上のポケットに収納していることを特徴とするスポーツ用衣服。
【請求項2】
球状の発泡体の平均粒径が0.1mm〜1mmの範囲内にある請求項1に記載のスポーツ用衣服。
【請求項3】
各袋体は複数の部屋に分割して仕切られ、各部屋に発泡体が分散して収納されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のスポーツ用衣服。
【請求項4】
胴部を覆う衣服として用いられ、少なくとも背骨の部位に袋体を収納したことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のスポーツ用衣服。
【請求項5】
腰部を覆う衣服として用いられ、少なくとも尾てい骨の部位に袋体を収納したことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のスポーツ用衣服。
【請求項6】
頭部に被る帽子として用いられ、少なくとも後頭部の部位に袋体を収納したことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のスポーツ用衣服。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−107176(P2007−107176A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2006−280983(P2006−280983)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【出願人】(503279769)株式会社日新企画 (2)
【Fターム(参考)】