説明

スライド式クロマチックハーモニカ

【課題】楽器本体とマウスピースとの間から息漏れを生じない、気密性の良いスライド式クロマチックハーモニカを提供する。
【解決手段】音階に従って配列されている多数の歌口12より成る歌口部の前面に、各歌口に対応した開口を有するマウスピース17を、所定のすき間を設けて取り付け、1箇所の歌口について一定の吹音と吸音及びそれらよりも半音階高い吹音と吸音を発音するために、上記すき間にスライドレバー15を摺動可能に取り付ける。上記歌口の配列方向に沿った楽器本体11の両側のほぼ全域に、一定の断面形状から成る係合部21を設けるとともに、上記係合部と係合して、マウスピースを上記歌口の配列方向に沿って移動させることが可能な係合相手部22を設け、楽器本体11とマウスピース17が係合部21と係合相手部22の係合により歌口部の両側にてほぼ全域で固定されているようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歌口の前面に、各歌口に対応した開口を有するマウスピースを所定のすき間を設けて取り付け、上記すき間にスライドレバーを滑動可能に取り付け、1箇所の歌口について一定の吹音と吸音及びそれらよりも半音階高い吹音と吸音を発音可能としたスライド式クロマチックハーモニカに関するものである。
【背景技術】
【0002】
スライド式クロマチックハーモニカは、楽器本体とマウスピースとの間に、スライドレバーを備えており、楽器本体には、発音体であるリードを設けた通気路の開口、即ち歌口が密接的に並んでいる。このような構造を有するため、マウスピースは歌口の列よりも外方の両端で楽器本体に、ねじ止め等の手段によって固定されている(例えば特開2004−219732号)。このため歌口の列の両端間、特に中央部では、息漏れを起こし易いという問題があった。
【0003】
これに対して従来は、マウスピースを必要以上に堅牢に形成し、かつ反らしを付けて、押さえを強化するようなことが行なわれた。つまり、歌口部に接触する側を凸状に反らせて、組み立てたときに必要な圧接力を得ることにより、息漏れを防止するものである。このような反らしを設けるには、それだけの強度負担に適した材料を用いなければならず、必然的に鉄系合金などの金属に限られることになった。しかし、この方法では、マウスピース本来の性能を大幅に超えた高強度の堅牢性を必要とすることになり、過剰な品質管理を要求され、しかも息漏れを完全に止めることはできない。また、金属製マウスピースの場合、楽器本体側の強度も要求されるので全体の重量が重くなり、コストを抑制することも中々難しいことである。
【0004】
【特許文献1】特開2004−219732号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記の点に着目してなされたものであり、その課題は、楽器本体とマウスピースとの間から息漏れを生じない、気密性の良いスライド式クロマチックハーモニカを提供することである。また本発明の他の課題は、従来の金属製マウスピース使用のものよりも軽量に形成でき、かつ安価に製造可能なスライド式クロマチックハーモニカを提供することである。また本発明の他の課題は、樹脂によって形成されたマウスピースを使用可能なスライド式クロマチックハーモニカを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するため、本発明は、音階に従って配列されている多数の歌口より成る歌口部の前面に、各歌口に対応した開口を有するマウスピースを、所定のすき間を設けて取り付け、1箇所の歌口について一定の吹音と吸音及びそれらよりも半音階高い吹音と吸音を発音するために、上記すき間にスライドレバーを滑動可能に取り付け、上記歌口の配列方向に沿った楽器本体の両側のほぼ全域に、一定の断面形状から成る係合部を設けるとともに、上記係合部と係合して、マウスピースを上記歌口の配列方向に沿って移動させることが可能な係合相手部を設け、楽器本体とマウスピースが係合部と係合相手部の係合により歌口部の両側にてほぼ全域で固定されるように構成する、という手段を講じたものである。
【0007】
本発明に係るスライド式クロマチックハーモニカは、音階に従って配列されている多数の歌口より成る歌口部の前面に、各歌口に対応した開口を有するスライドレバーと、マウスピースを有している。マウスピースと、楽器本体側の多数の歌口より成る歌口部前面との間には、スライドレバーが取り付けられており、本発明はこのタイプのハーモニカにおいて、マウスピースを楽器本体にねじ止め手段によらずに取り付けるものである。
【0008】
スライドレバーは、多数の歌口より成る歌口部の前面とマウスピースとの間に設けた、所定のすき間に滑動可能に組み込んで取り付けられる。このような構成を有することにより、このタイプのハーモニカでは1箇所の歌口について一定の吹音と吸音を発音するとともに、スライドレバーの操作により、一定の吹音と吸音の発音よりも半音階高い吹音と吸音を発音する。
【0009】
そして本発明では、上記歌口の配列方向に沿った楽器本体の両側のほぼ全域に、一定の断面形状を有する係合部を設けるとともに、上記係合部と係合して、マウスピースを上記歌口の配列方向に沿って移動させることが可能な係合相手部を設ける。係合部と係合相手部は、相互に係合しあって、マウスピースの動き得る条件を、歌口の配列方向のみに規制する。
【0010】
これによりマウスピースは、多数の歌口より成る歌口部のほぼ全域で、楽器本体に一様に密接して取り付けられ、かつ、マウスピースと楽器本体の相互の係合により楽器本体に保持されているので隙間を生じることもない。即ち、係合部と係合相手部とが係合という機械的な結合状態に置かれることにより、マウスピースは楽器本体に一体化している。機械的な結合は、歌口両側の全域に連続していることが望ましいけれども、息漏れを起こさないことを条件として、設計上、係合の連続が途切れることも許される。即ち、係合部と係合相手部はほぼ全域にあれば良い。
【0011】
より具体的な構成として、楽器本体は、歌口内方の通気路の壁面にリードを装備した発音部を有しており、楽器本体の歌口部には、開口の両側部を楽器本体よりもやや突出させた係合部を形成することができる。この場合、マウスピースは、各開口の並ぶ方向に沿った両側端に内向きに設けられ、上記係合部と係合する溝状の係合相手部を有していることが望ましい。また、マウスピースは、マウスピースの開口と係合相手部を形成した両側端との間に、スライドレバーを取り付けるすき間を構成する凹部を有していることが望ましい。
【0012】
上記の例では、係合部が凸部、係合相手部が凹部であるが、この逆の、係合部を凹部、係合相手部を凸部に変更することは当然考えられることである。また、凸部と凹部が、係合部及び係合相手部に混合して適用されていても良く、そうした係合部、係合相手部の具体的な変化は設計上のことである。
【0013】
このような本発明では、マウスピースは、音階に従って配列されている楽器本体の歌口部に対応した開口を有する、という本来的な条件を満たすものであれば足り、従来の反りを付けたマウスピースに必要とされるほどの堅牢性は不要である。例えば、従来のマウスピースが、鋼製の材料を必要としたとしても、本発明によれば、プラスチック材料による製品化が可能になる。また、必要であれば、マウスピースを木製やアルミニウムなどの軽合金製とする選択も可能である。
【発明の効果】
【0014】
本発明は以上のように構成されかつ作用するものであるから、係合部と係合相手部の、係合という機械的な結合状態により組み立てを行えるので、楽器本体とマウスピースとの間から息漏れを生じない、気密性の良いスライド式クロマチックハーモニカを提供することができる。また、本発明によれば、従来の過剰な堅牢性を必要とせず、金属製マウスピース使用の場合よりも軽量に形成でき、かつ安価に製造可能なスライド式クロマチックハーモニカを提供することが可能になる。また、本発明によれば、プラスチックを始めとする多様な材料によって形成されたマウスピースを使用可能であり、スライド式クロマチックハーモニカとして、より製造し易く、かつコストを低減することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下図示の実施形態を参照し、本発明に係るスライド式クロマチックハーモニカ10について、より詳細に説明する。本発明に係るスライド式クロマチックハーモニカ10は、図1に示すように、音階に従って配列されている多数の歌口12すなわち通気路開口から成る歌口部13を有する楽器本体11と、その歌口部13の前面に配置される通気口14を有するスライドレバー15と、各歌口12の位置に対応した多数の開口16を有するマウスピース17を有する。
【0016】
図示の例において、楽器本体11は、夫々の歌口12の内方の通気路18の壁面に位置するリード19を装備した、一対のリード板23、23′を発音部として有しており(図4参照)、各通気路18の開口が歌口12に相当する。また、スライドレバー15を取り付けるために、多数の歌口12より成る歌口部13の前面とマウスピース17との間に所定のすき間を設けており、そこに滑動可能に組み込むようにする。この構成により、1箇所の歌口12について、一定の吹音と吸音を発音することができるとともに、スライドレバー15の操作により、一定の吹音と吸音の発音よりも半音階高い吹音と吸音を発音することができる。
【0017】
図示の例では、マウスピース17を取り付けるために、マウスピース17の開口16と係合相手部を形成する両側端との間に、凹部20を設けて、スライドレバー15が滑動可能に収まるすき間としている(図2参照)。すき間は、マウスピース17の全長に亘っている。即ち、マウスピース17は、全域のどの部分においても同じ横断面形状を有する。
【0018】
そして、本発明では、上記歌口12の配列方向に沿った楽器本体11の両側の全域に、一定の断面形状を有する係合部21を設け、また、上記係合部21と係合して、マウスピース17を上記歌口12の配列方向に沿って移動させることが可能な係合相手部22を、楽器本体11の側に設ける。図示の係合部21は、楽器本体11の歌口部13に取り付けてある歌口部13の両側の、楽器本体よりもやや突出した側端部であり、この係合部21と相互に係合しあう係合相手部22は、マウスピース17の取り付け部側に設けられた、断面形状がコの字型の溝状の部分である。
【0019】
このような係合部21と係合相手部22の機械的な結合により、マウスピース17の動き得る条件が歌口の配列方向のみに規制される。即ち、係合部21と係合相手部22とが係合という機械的な結合状態に置かれることにより、マウスピース17は楽器本体11の歌口の配列方向のみに動き得るだけであり、それは、止めねじなどの固定手段24を用いて、マウスピース17を楽器本体11に固定することにより上記規制方向についても位置決めがなされ、最終的な一体化が完成する。
【0020】
のみならず、本発明においては、マウスピース17の、係合部21と係合相手部22の相互の機械的結合により、楽器本体11に保持されるので隙間を生じることもなく、息漏れが防止される。なお、25はマウスピースに形成した小孔、26はスライドレバーに形成した長孔、27は楽器本体11に形成したねじ孔を示す。28は楽器本体側から突出したばねの端部であり、スライドレバー15定位置にばね付勢する。ばねの端部28はスライドレバー15の嵌合孔29に嵌合し、ノブ30を使用するスライド操作によって、一定の吹音と吸音の発音及びそれらよりも半音階高い吹音と吸音を発音可能にする。
【0021】
このように構成されている本発明のハーモニカ10では、連動ピン28を嵌合孔29に嵌合させて、スライドレバー15を楽器本体11の歌口部13に配置し、ノブ30の無い方の端部から、係合部21と係合相手部22を係合させ、マウスピース17を歌口部13上にて所定の位置まで滑動させ、固定手段24により固定する(図3参照)。よって、係合部21と係合相手部22の機械的結合によりマウスピース17が楽器本体11に、息漏れの恐れなく取り付けられ、固定手段24は所定の位置にマウスピース17を固定するだけである。
【0022】
図示の例では、マウスピース17としてプラスチック製の成型部品を使用し、また、歌口板23として金属製品を使用している。よって、プラスチック材のシール性能の高いものを使用し、密着状態を得ることにより、息漏れを完全に止めることが可能になる。本発明によるマウスピース17は、従来の金属製のものに比較すると、図4に示されるように大型でカバー31、31′よりも膨出しており、口唇との接触性も改善し得る。
【産業上の利用可能性】
【0023】
あらゆる種類のハーモニカにおいて、マウスピース又はマウスピースに類似する部材を歌口部に取り付ける場合に、その部材を楽器本体に取り付ける手段として利用できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るスライド式クロマチックハーモニカの1例を分解して示した斜視図。
【図2】同上の要部を拡大して示した断面図。
【図3】図1に示したハーモニカを組み立てたものの外観を示す斜視図。
【図4】同上のものの断面図。
【符号の説明】
【0025】
10 スライド式クロマチックハーモニカ
11 楽器本体
12 歌口
13 歌口部
14 通気口
15 スライドレバー
16 開口
17 マウスピース
18 通気路
19 リード
20 凹部
21 係合部
22 係合相手部
23、23′ リード板
24 固定手段
25 小孔
26 長孔
27 ねじ孔
28 連動ピン
29 嵌合孔
30 ノブ
31、31′ カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音階に従って配列されている多数の歌口より成る歌口部の前面に、各歌口に対応した開口を有するマウスピースを、所定のすき間を設けて取り付け、1箇所の歌口について一定の吹音と吸音及びそれらよりも半音階高い吹音と吸音を発音するために、上記すき間にスライドレバーを滑動可能に取り付け、上記歌口の配列方向に沿った楽器本体の両側のほぼ全域に、一定の断面形状から成る係合部を設けるとともに、上記係合部と係合して、マウスピースを上記歌口の配列方向に沿って移動させることが可能な係合相手部を設け、楽器本体とマウスピースが係合部と係合相手部の係合により歌口部の両側にてほぼ全域で固定されていることを特徴とするスライド式クロマチックハーモニカ。
【請求項2】
楽器本体は、歌口内方の通気路の壁面にリードを装備した発音部を有しており、楽器本体の歌口部には、開口の両側部を楽器本体よりもやや突出させた係合部を設け、マウスピースは、各開口の並ぶ方向に沿った両側端に内向きに設けられ、上記係合部と係合する溝状の係合相手部を有している請求項1記載のスライド式クロマチックハーモニカ。
【請求項3】
マウスピースは、マウスピースの開口と係合相手部を形成した両側端との間に、スライドレバーを取り付けるすき間を構成する凹部を有している請求項1記載のスライド式クロマチックハーモニカ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−122529(P2008−122529A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−304350(P2006−304350)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(000155975)株式会社鈴木楽器製作所 (7)