説明

スラリー調製方法及びこれに関連した真空装置

【課題】作業環境を汚染することなく、また、特別な技倆を必要とすることなく気泡を含まない緻密なスラリーを調製する。
【解決手段】粉末石膏材料1及び水を入れたプラスチックフィルム袋2の上端部から僅かに空気が抜け出ることのできる程度に若干弛めに粘着テープ14を巻回して袋2を閉じて手で揉む。次いで、密封容器100の容器本体100aの中に袋2を入れて真空引きすると共に振動を与える。これにより袋2の内部も真空引きされると共に、良く練和した緻密な石膏スラリーになる。次いで、袋2を取り出して角部2aに石膏スラリー20を集める。角部2aをハサミで切断して袋2を“絞り袋”を操作する要領で手で押圧しながら石膏スラリー20を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末材料に液体を混ぜてスラリーを調製するスラリー調製方法及びこれに関連した真空装置に関し、粉末材料の典型例は石膏や歯科技工に用いられる埋没材、レジンである。
【背景技術】
【0002】
液体を混ぜてこれを練和することでスラリーを調製する粉末材料として石膏、レジン、埋没材が知られている。
【0003】
スラリーの調製は、計量した粉末材料を適当な容器に入れ、更に、計量した水や専用液を加えてヘラで練ることにより行われる。作業者は、例えば石膏であれば、調製した石膏スラリーを型に流し込んで、この型の中の石膏スラリーが固まるまで待つことになるが、その間に、使用した容器やヘラを洗浄して次に備える。
【0004】
例えば石膏は使い易い材料であるものの、精密な賦形のためには膨張係数を極力抑える必要があるため、特許文献1に見られるように石膏材料の改良が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−155731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
石膏の問題点として、石膏スラリーが硬化するときに膨張することであり、このため上述したように、石膏材料の観点から膨張係数を極力低下させる工夫が行われている。石膏の他の問題点として、石膏スラリーを調製する作業中に気泡が混入し易く、気泡混じりの石膏スラリーを使うと型に欠陥が生じてしまうため、石膏スラリーを調製する際に気泡が入らないように注意する必要がある。また、石膏の別の問題点として、石膏スラリーの調製中や、使用した容器やヘラなどを洗浄する際に石膏スラリーが飛散して作業環境を汚染するという問題がある。このような問題は、歯科用材料で言えば埋没材やレジンについても同様である。
【0007】
本発明の目的は、作業環境を汚染することなく、また、特別な技倆を必要とすることなく気泡を含まない緻密なスラリーを調製することのできるスラリー調製方法及びこれに関連した真空装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の技術的課題は、本発明の一つの観点によれば、
一端が開口したプラスチックフィルム袋に粉末材料と液体とを入れて、粉末材料と液体とを混ぜる第1工程と、
プラスチックフィルム袋の中の空気を絞り出した後に、プラスチックフィルム袋の開口を閉じる第2工程と、
プラスチックフィルム袋の中の液体が混じった粉末材料をプラスチックフィルム袋の外側から揉む第3工程と、
プラスチックフィルム袋に振動を与えながら該プラスチックフィルム袋の内部を真空引きして前記粉末材料のスラリーを調製する第4工程と、
第4工程で調製した前記スラリーを前記プラスチックフィルム袋のシール底の角部に集めて、前記プラスチックフィルム袋を手で押圧することで該プラスチックフィルム袋から前記スラリーを絞り出すことを可能にするために、前記角部を切断する第5工程とを有するスラリー調製方法を提供することにより達成される。
【0009】
上記の技術的課題は、本発明の他の観点によれば、
上記のスラリー調製方法の第4工程で用いる真空装置であって、
該真空装置が、密封容器と装置本体とを有し、
前記密封容器が、前記液体が混じった粉末材料を収容したプラスチックフィルム袋を取り出し可能に収容する有底筒体の容器本体と、該容器本体を密封する蓋であって前記容器本体に対して脱着可能な蓋とで構成され、
前記装置本体には、作業者が操作するマニュアルスイッチと負圧発生源とが設けられて、前記マニュアルスイッチをON操作することにより、前記負圧発生源によって前記プラスチックフィルム袋の内部の真空引きが行われ、前記マニュアルスイッチをOFF操作することによって前記真空引きが停止されることを特徴とする真空装置を提供することにより達成される。
【0010】
本発明によれば、例えば上記の粉末材料が石膏であるときに、石膏と水とを混ぜて練和することで石膏スラリーを調製する過程で、作業者が直接的に手に触れることなく、また、従来用いられていた容器やヘラなどを必要としないで石膏スラリーを調製することができる。また、この石膏スラリーを調製する際に振動及び真空引きするため、緻密で且つ気泡を含まない石膏スラリーを特別の技倆無しに調製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例のスラリー調製方法で用いる器具などを説明するための図である。
【図2】実施例のスラリー調製方法で、プラスチックフィルム袋の中の空気を真空引きするのに好適に使用できる真空装置の概要を説明するための図である。
【図3】プラスチックフィルム袋の中に、計量した粉末石膏材料及び計量した水を入れる工程を示す図である。
【図4】混水した石膏材料を入れたプラスチックフィルム袋から空気を排出させる作業を説明するための図である。
【図5】混水した石膏材料を入れたプラスチックフィルム袋から空気を排出させた後の状態を示す図である。
【図6】空気を排出したプラスチックフィルム袋の上端部を絞って、この上端部から弛めに粘着テープで閉じて、この上端部からプラスチックフィルム袋の内部を真空引きできる状態を示す図である。
【図7】粘着テープで閉じたプラスチックフィルム袋の中の混水した石膏を手で揉んでいる状態を示す図である。
【図8】図7の作業が終わった後に、真空装置の密封容器にプラスチックフィルム袋を入れて蓋をする作業を説明するための図である。
【図9】プラスチックフィルム袋を収容した密封容器を振動機に乗せて加振しながら密封容器を真空引きする工程を説明するための図である。
【図10】真空装置の密封容器からプラスチックフィルム袋を取り出して、プラスチックフィルム袋の角部に石膏スラリーを寄せた状態を示す図である。
【図11】図10の角部を切断して“絞り袋”を作る工程を示す図である。
【図12】プラスチックフィルム袋を手で押圧して、プラスチックフィルム袋から石膏スラリーを絞り出している状態を示す図である。
【図13】石膏スラリーを絞り出した後のプラスチックフィルム袋を示す図であり、このプラスチックフィルム袋はゴミ箱に廃棄される。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0012】
以下に、本発明の好ましい実施例を、歯科用石膏材料を例に添付の図面に基づいて説明する。
【0013】
図1、図2は、粉末の石膏材料と水とを練和して石膏スラリーを作るのに必要な器具を説明するための図である。先ず、図1を参照して、計量した粉末石膏材料1を入れるためのプラスチックフィルム袋2が用意され、このプラスチックフィルム袋2は、日常的に目にする透明のポリ塩化ビニル袋であってもよいし、また、通気性を備えたプラスチックフィルム袋であってもよい。また、粉末石膏材料に混ぜる水の量は所定の比率があることから、水の量を計量するためのメスシリンダ3が用意される。また、石膏は振動させると流動性が増すことから、従来から使用されている振動機4が用意される。図1の参照符号5は、患者から型採りした印象型を示し、この印象型5をコピーした石膏模型を作るのに石膏スラリーが調製される。
【0014】
図2は、石膏スラリーの練和に用いる真空装置を示す。真空装置10は、密封容器100と装置本体102とを有し、装置本体102のマニュアルスイッチ104をONすることにより装置本体102に内蔵した開閉バルブ(図示せず)が開成して、負圧を生成するエジェクタによってチューブ106を通じて密封容器100の内部を真空引きすることができる。エジェクタで負圧を生成するために必要とされる圧縮エアは、図外のチューブを使ってコンプレッサ(図示せず)から装置本体102に供給される。勿論、この負圧発生源であるエジェクタに代えて電動真空ポンプを使ってもよい。いずれにせよ、マニュアルスイッチ104をON操作することで、密封容器100つまりプラスチックフィルム袋2の内部の真空引きが開始され、マニュアルスイッチ104をOFFすることで、真空引きが停止される。
【0015】
密封容器100は、側面が透明な樹脂で作られた有底筒体の容器本体100aと、この容器本体100aの上端開口に螺着される蓋100bとを有し、蓋100bの頂部に、上記のチューブ106の一端が連結されている。なお、図1の装置本体102に見られるメータ108は真空度を表示するものである。
【0016】
図3以降の図面を参照して、実施例のスラリー調製方法つまり石膏スラリーの調製方法を説明する。
【0017】
第1工程(図3)
透明なプラスチックフィルム袋2の中に、計量した粉末石膏材料1を入れると共に、メスシリンダ3で計量した水を入れる。この実施例では、プラスチックフィルム袋2は、家庭用に広く流通している一端が開放した有底の平面視長方形の形状のポリ塩化ビニル袋であるが、先細りのシール底、例えば、平面視三角形の形状を有していてもよい。
【0018】
第2工程(図4、図5)
混水した石膏12を収容したプラスチックフィルム袋2を手で絞って、プラスチックフィルム袋2から空気を絞り出す。図5は、プラスチックフィルム袋2から空気を絞り出した状態を示す。
【0019】
第3工程(図5)
プラスチックフィルム袋2の上端部に粘着テープ14を巻回して、プラスチックフィルム袋2を閉じる。プラスチックフィルム袋2がポリ塩化ビニル袋であるときには、粘着テープ14でプラスチックフィルム袋2の絞り込んだ上端部を閉じるときに、これを完全に密閉するのではなく、プラスチックフィルム袋2の上端部から僅かに空気が抜け出ることのできる程度に若干弛めに粘着テープ14を巻回する。
【0020】
第5工程(図7)
プラスチックフィルム袋2の中の混水した石膏12を手で揉んで水を均一に行き渡らせる。
【0021】
第6工程(図8)
第5工程を行った後、プラスチックフィルム袋2を密封容器100の容器本体100aの中に入れた後に、容器本体100aを蓋100bで密封する。
【0022】
第7工程(図9)
振動機4の振動テーブル4aの上に、プラスチックフィルム袋2を入れた密封容器100を載置する。振動機4でプラスチックフィルム袋2に振動を与えながら、適当な時間、真空装置本体102を動作させて密封容器100の中の空気を真空引きする。この第7工程の加振及び真空引きより、プラスチックフィルム袋2の上端部(粘着テープ14で結束した部分)の僅かな隙間から空気が取り出され、これにより袋2の内部も真空引きされると共に、良く練和した緻密な石膏スラリーになる。
【0023】
第8工程(図10)
第7工程つまり加振及び真空引き工程を終えて気泡のない且つ緻密な石膏スラリー20を調製したら、密封容器100からプラスチックフィルム袋2を取り出す。密封容器100からプラスチックフィルム袋2を取り出した直後に、プラスチックフィルム袋2の結束部つまり粘着テープ14を巻いた部分の近傍を折り曲げる又は粘着テープ14の部分を指で押し付ける又は別の粘着テープ14でプラスチックフィルム袋2の上端部をしっかりと巻き締めて、この上端部から空気がプラスチックフィルム袋2の中に流入しないようにするのが好ましい。尤も、この作業は必須ではなく任意である。次いで、取り出したプラスチックフィルム袋2のシール底の一端角部、つまり平面視長方形の袋2のシール底の一方の角部2aに石膏スラリー20を集めて“絞り袋”の状態にする(図10)。
【0024】
第9工程(図11、図12)
角部2aをハサミで切断して、プラスチックフィルム袋2を絞り袋の状態にした後に、プラスチックフィルム袋2を“絞り袋”を操作する要領で手で押圧しながら、プラスチックフィルム袋2の中の石膏スラリー20を絞り出して、例えば前述した印象型5の上に石膏スラリー20を盛る。
【0025】
プラスチックフィルム袋2の中の石膏スラリー20を全て絞り出した状態を図13に示す。このプラスチックフィルム袋2はゴミ箱に廃棄される。
【0026】
如上の説明から分かるように、粉末石膏材料1、混水した石膏12、石膏スラリー20に全く手を触れることなく石膏スラリー20を調製できるため作業者の手荒れの問題を解消でき、また、絞り袋と同じに目的の部位に的確に石膏スラリーを盛ることができる。また、プラスチックフィルム袋2が、石膏スラリー20を調製するための容器であり且つヘラの役目をするため、石膏スラリーを調製するための道具である容器やヘラは不要であり、したがって、これらの道具を洗浄する必要がないため、作業環境を汚染することもない。
【0027】
また、真空引きしながら振動を加えることで、気泡のない且つ緻密な石膏スラリー20を調製できることから、この石膏スラリーを使った型の成形面は緻密な表面性状になる。
【0028】
したがって、実施例のスラリー調製方法によれば、手や作業環境を全く汚すことはない。また、特別な技倆無しに誰でも緻密な且つ気泡を含まない石膏スラリー20を調製することができ、また、緻密な成形面を備えた石膏型を作ることができる。
【0029】
以上、本発明の実施例を説明したが、液体を混ぜてスラリーを調製する粉末材料として、石膏に限らず、歯科技工に用いられる埋没材やレジンであっても同様に本発明を適用することができる。また、石膏材料や埋没材は宝飾技工にも用いられるが、宝飾技工においても同様に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 粉末石膏材料
2 プラスチックフィルム袋
4 振動機
10 真空装置
100 密封容器
100a 容器本体
100b 蓋
102 装置本体
106 チューブ
108 真空度メータ
12 混水した石膏
14 粘着テープ
20 石膏スラリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が開口したプラスチックフィルム袋に粉末材料と液体とを入れて、粉末材料と液体とを混ぜる第1工程と、
プラスチックフィルム袋の中の空気を絞り出した後に、プラスチックフィルム袋の開口を閉じる第2工程と、
プラスチックフィルム袋の中の液体が混じった粉末材料をプラスチックフィルム袋の外側から揉む第3工程と、
プラスチックフィルム袋に振動を与えながら該プラスチックフィルム袋の内部を真空引きして前記粉末材料のスラリーを調製する第4工程と、
第4工程で調製した前記スラリーを前記プラスチックフィルム袋のシール底の角部に集めて、前記プラスチックフィルム袋を手で押圧することで該プラスチックフィルム袋から前記スラリーを絞り出すことを可能にするために、前記角部を切断する第5工程とを有するスラリー調製方法。
【請求項2】
前記第4工程で調製した前記スラリーを前記プラスチックフィルム袋のシール底の角部に集めて、前記プラスチックフィルム袋を手で押圧することで該プラスチックフィルム袋から前記スラリーを絞り出すことを可能にするために、前記角部を切断する第5工程を更に有する、請求項1に記載のスラリー調製方法。
【請求項3】
前記粉末材料が、石膏、埋没材、レジンから選択された一つである、請求項1又は2に記載のスラリー調製方法。
【請求項4】
請求項1のスラリー調製方法の第4工程で用いる真空装置であって、
該真空装置が、密封容器と装置本体とを有し、
前記密封容器が、前記液体が混じった粉末材料を収容したプラスチックフィルム袋を取り出し可能に収容する有底筒体の容器本体と、該容器本体を密封する蓋であって前記容器本体に対して脱着可能な蓋とで構成され、
前記装置本体には、作業者が操作するマニュアルスイッチと負圧発生源とが設けられて、前記マニュアルスイッチをON操作することにより、前記負圧発生源によって前記プラスチックフィルム袋の内部の真空引きが行われ、前記マニュアルスイッチをOFF操作することによって前記真空引きが停止されることを特徴とする真空装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−375(P2011−375A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147630(P2009−147630)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(593193767)株式会社キャスティングオカモト (6)