説明

スリープスプリント製作用咬合採得用器具

【課題】睡眠時無呼吸症候群の患者の治療に用いられるスリープスプリントを精度良く迅速にしかも安価に作製する咬合採得用器具を提供すること。
【解決手段】厚みの異なる複数のバイトテーブルを有する2つのプレートの平坦な面同士を重ねた器具で、2つのプレートにおける種々の厚みを有するバイトテーブルの組み合わせで所望の厚みを選択し、重ねたバイトテーブルの両面にシリコンバイトを塗布し、ベーススプリントを装着した上下の歯で噛むことにより最適の垂直的下方移動量を決定する。次に下顎を前方に突き出して、下歯で噛んでいるバイトテーブルのプレートを上歯で噛んでいるバイトテーブルのプレートに対して前方にスライドさせて最適の前方移動量を決定する。本器具を用いることにより、患者に負担のない位置で下顎位を決定できるので、良好なスリープスプリントを作製できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠時無呼吸症候群の患者の治療に用いられるスリープスプリントの製作時に使用される咬合採得用器具に関するものであり、簡便で安価にスリープスプリントを作製する器具を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
睡眠時無呼吸症候群(SAS=Sleep Apnea Syndrome)とは、人間が眠っているときに呼吸の止まる症状群であり、ギルミノーによれば、「7時間の睡眠中に10秒以上の無呼吸が30回以上、または、睡眠1時間あたりの無呼吸・低呼吸数が5回以上出現する症候群」である。睡眠時無呼吸症候群は、気道の閉塞により無呼吸を生じる閉塞型(OSAS=Obstructive Sleep Apnea Syndrome)と呼吸運動そのものが停止する中枢型(CSAS=Central Sleep Apnea Syndrome)、OSASとCSASの混合型に分類される。
【0003】
OSASの原因は、人間が睡眠時に舌根が沈下し気道を圧迫して鼻腔からの空気の出入を遮ってしまうことである。これを防止するためには、就寝時に少し口をあけるとともに、下顎を通常より少し前方に保持すると良い。すなわち、下顎を通常の状態(口を閉じて歯を噛み合せた自然な状態)から前下方に誘導させて気道を確保する。図8(a)は、自然な状態で上歯202と下歯203が咬み合った状態を顔の横側から見た模式図である。単純化するために、一番前にある歯だけを示す。図8(a)に示すように、上歯202と下歯203は通常少し重なっている。この重なりをオーバーバイトと呼び、この重なり部分の距離をhとする。図8(b)は、OSASを防止するための最適な口の状態を顔の横側から見た模式図である(単純化するために、一番前の歯の状態だけを示す)。最適な状態とは、患者にとって違和感がなく、舌根が沈下し気道を圧迫することがなく、気道が確実に確保される状態である。上歯202と下歯203の間は少し離れた状態にあり、上下にyの距離だけ離れている。すなわち、上顎と下顎は通常状態より上下にy+hだけ移動している状態が良く、このy+hは垂直的下方移動量または単に下方移動量と呼ぶ。また、下顎は通常より前方に出ているため、下歯3は自然に咬み合った状態よりxの距離だけ前方へ出ている。このxを前方移動量と呼ぶ。このxは下顎の通常状態からの前方への移動量と考えることもできる。
【0004】
就寝中の患者においては、上記のxおよびy+hを強制的に保持するために、OSAS治療用口腔内装置として、スリープスプリントが用いられるようになってきた。このスリープスプリントを装着すると舌根の沈下を押さえることができ、舌根沈下による気道圧迫を抑制し、睡眠時無呼吸を防止できる。また、睡眠時無呼吸症候群予防の口腔内装置として種々提案されている。(特許文献1)
【0005】
図9は、一般的な一体型スリープスプリントを示す模式図である。図9(a)は、スリープスプリント211の斜視図であり、上歯に嵌める上歯ベーススプリント212と下歯に嵌める下歯ベーススプリント213は奥歯側部分214でつながり、一体型となっている。ベーススプリントはセルロースを主成分とした熱可塑性樹脂などであり、歯に違和感が少ない材料で作られる。スリープスプリント211の中央部は、空間215になっている。図9(a)においては、歯がスリープスプリント211にどのように装着されるのか分かるように、一番前の上歯202と下歯203がスリープスプリント211に装着された状態を部分断面で示している。上歯ベーススプリント212には歯形に合わせた溝穴216があいていて、上歯はこの溝穴216に入って上歯ベーススプリント212に固定される。たとえば、一番前の上歯202は溝穴の対応する部分217に入り込み固定装着される。下歯ベーススプリント213にも歯形に合わせた溝穴(裏側にあるので図示されていない)があいていて、下歯はこの溝穴に入って下歯ベーススプリント213に固定される。たとえば、一番前の下歯203は溝穴の対応する部分218に入り込み固定装着される
【0006】
図9(b)は、一番手前の上下の前歯202および203がスリープスプリント211に装着された状態を顔の横側から見た模式図である。上歯202は上歯ベーススプリント212の溝穴の対応する部分217に入り込み固定装着されている。下歯203は下歯ベーススプリント213の溝穴の対応する部分218に入り込み固定装着されている。上歯202と下歯203はyだけ離間している。上歯ベーススプリント212の厚みをi、下歯ベーススプリント213の厚みをjとし、上歯ベーススプリント212と下歯ベーススプリント213の空間距離をkとすると、y=k+i+jとなる。i=j=tのときは、y=k+2tとなる。また、下歯は自然な状態よりもxだけ前方になるように、上歯ベーススプリント212と下歯ベーススプリント213が固定されて、スリープスプリント211が作製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-312853
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
スリープスプリントを作成するには、垂直的下方移動量y+hと前方移動量xを決定する必要がある。これまでの症例から、y+hは5〜10mm位と言われているが、患者による個体差があり、少しでも(約1mm以下)ずれると、効果が少なく、また患者に違和感があるので、試行錯誤的に隙間を調節して、患者に最適な距離を探していた。このため、作製に時間を要していただけでなく、作り直しも多く費用がかなりかかっていた。
【0009】
また、前方移動量xについては、下顎を前下方に誘導する器具がないため、上下顎の装置を固定する作業が極めて困難である。これまでの症例から、前方移動量xは最大前方移動量nの約80%が良いと判断されているが、やはり患者による個体差があり、少しでも(約1mm以下)ずれると、効果が少なく、また患者に違和感があるので、試行錯誤的に前方移動量xを調節して、患者に最適なxを探していた。このため、作製に時間を要していただけでなく、作り直しも多く費用がかなりかかっていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以上の課題を解決するために、スリープスプリント作製のための咬合採得用器具に関するもので、容易にしかも効率的に垂直的下方移動量と前方移動量を決定する簡便な器具である。本発明は、第1のバイトテーブルを有する第1のプレートと、第1のバイトテーブルおよび第1のプレートに対して移動可能な第2のバイトテーブルを有する第2のプレートから成る器具である。第1のバイトテーブルは1つまたは厚みの異なる複数のバイトテーブルである。第2のバイトテーブルは1つまたは厚みの異なる複数のバイトテーブルである。第1のバイトテーブルと第2のバイトテーブルを重ねて、第1のバイトテーブルと第2のバイトテーブルを上下の歯で噛んだときに違和感がないような厚さになるように、第1のバイトテーブルと第2のバイトテーブルの組み合わせを選択する。この重ねたバイトテーブルの重ね面と反対側にある第1のバイトテーブルの面と第2のバイトテーブルの面にシリコンバイト材を塗布し、シリコンバイト材を上下の歯で噛む。このとき、歯にベーススプリントを装着しても良い。べーススプリントは上歯および下歯に合わせたマウスピースである。上歯に合わせるものを上歯ベーススプリント、下歯に合わせるものを下歯ベーススプリントと呼ぶ。これによって患者にとって違和感が少なく舌根の沈下を押さえ気道を確実に確保できる最適な垂直的下方移動量が決定される。すなわち、第1のバイトテーブルの厚みをa、第2のバイトテーブルの厚みをb、シリコンバイト材の厚みをcとすると、垂直的下方移動量mはa+b+2c+hとなる。(hはオーバーバイト量)ベーススプリントを装着したときには、ベーススプリントの厚さ、すなわち上歯ベーススプリントの厚さおよび下歯ベーススプリントの厚さを加える。
【0011】
この噛んだ状態を基準にする。この基準状態から、次に下顎を前方に突き出していくと、下歯で噛んでいる第1のバイトテーブルを有する第1のプレートが上歯で噛んでいる第2のバイトテーブルを有する第2のプレートに対してスライドする。第1のプレートおよび第2のプレートの重ね面は平坦で平滑になっているので、第1のプレートおよび第2のプレートを重ねたままでスムーズにスライドできる。これによって最大前方移動量nを容易に知ることができる。たとえば、第1のプレートまたは第2のプレートにスケールをつけておき、基準状態を0に設定し、移動量をスケールで測定できる。nが分かれば、スリープスプリントの前方移動量xを簡単に計算できる。たとえば、最大前方移動量nのα%が最適であれば、前方移動量x=αn/100とすれば良い。さらに、本発明の器具を用いれば、違和感がなく患者に負担のない下顎位置に下顎を移動できるので、直接前方移動量xを決定しても良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明の咬合採得用器具を用いることにより、非常に簡便にしかも精度良く垂直的下方移動量および最大前方移動量(最大前方突出量)や前方移動量(前方突出量)を知ることができる。これにより、簡単にスリープスプリントを作製できるとともに、患者にとって違和感や負担の少ないスリープスプリントを試行錯誤で何回も繰り返し手直しをすることなく作製できるので、スピーディでしかもコストを最小限にできる。さらに、本発明の咬合採得用器具は単純な器具であるため、器具自体の費用も少ない。また、ベーススプリントを上下の歯に装着し、直接前方移動量xを決定した場合には、即時重合レジンなどで上下顎の装置(上下ベーススプリント)を固定し、口腔外で完全に一体化させて非常に迅速に一体型スリープスプリントを作製できる。この一体型スリープスプリントを再び口腔内に装着することもできるので、患者は短時間で一体型スリープスプリントを体感できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の咬合採得用器具における第1の実施形態を示す図である。
【図2】図2は、本発明の咬合採得用器具における第1のプレートと第2のプレートを重ねた状態を示す図である。
【図3】図3は、本発明の咬合採得用器具を用いて、垂直下方移動量および前方移動量を測定する方法を示す図である。
【図4】図4は、本発明の第2の実施形態を示す図である。
【図5】図5は、本発明の第3の実施形態を示す図である。
【図6】図6は、本発明の第3の実施形態における第1のプレートと第2のプレートを重ねた状態を示す図である。
【図7】図7は、円板状の部材を用いて本発明の器具を作製する方法を示す図である
【図8】図8は、自然な状態における上下の歯の噛み合った状態およびOSASを防止するための最適な口(歯)の状態を示す図である。
【図9】図9は、一般的な一体型スリープスプリントを示す模式図である。
【図10】図10は、本発明の咬合採得用器具を用いて作製したスリープスプリントの効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明の第1の実施形態を示す図である。図1(a)は、本発明の器具の一部である第1のプレート11の平面図(上)および立面図(下)である。図1(a)から分かるように、第1のプレート11は、一方の端部13が長円形でその端部13に連結する部分12が長方形の平板である。長円形平板13と長方形平板12は一体となっていて、長円形の大きさは、後に説明するように口で挟むほどの大きさである。この長円形平板13は歯で噛むので、第1のバイトテーブルと呼ぶ。ここで長円形とは、図1(a)に示すような形状、すなわち、所定の方向に相互に間隔をあけて平行にのびる一対の直線部と各直線部の長手方向一端部を長手方向他端部から長手方向一端部に向かう方向に円弧状に凸に湾曲して連結する第1湾曲部と、各直線部の長手方向他端部を長手方向一端部から長手方向他端部に向かう方向に円弧状に凸に湾曲して連結する第2湾曲部とによって囲まれた形状およびそれに類似する形状である。長方形の平面部にはボルト穴16が切られていて、後に示すボルトと嵌合する。その中心を通るように長方形の各辺に平行な中心線14および15が描かれている。
【0015】
図1(b)は、本発明の器具の一部である第2のプレート21の平面図(上)および立面図(下)である。第2のプレート21の形状は、第1のプレート11とほぼ同じ形と大きさの形状であり、一方の端部23が長円形でその端部23に連結する部分22が長方形の平板である。長円形平板23と長方形平板22は一体となっていて、長円形の大きさは、後に説明するように口で挟むほどの大きさである。この長円形平板23は歯で噛むので、第2のバイトテーブルと呼ぶ。第2のプレートの長方形平板22には、長方形形状の穴25が空いている。この穴25は、後に説明するようにボルトが入るほどの大きさの穴で、ボルトを入れたまま第1のプレート11をスライドさせるので、スライド溝穴と呼ぶ。長方形平板22の長手方向にはスケール24が描かれている。このスケール24はまた、スライド溝穴25にほぼ平行になっている。
【0016】
図1(c)は、図1(a)で示す第1のプレート11と第2のプレート21を組み合わせて重ねた状態を示した図である。上が平面図で下が立面図である。第1のプレート11のボルト穴16が上になるようにして、その上に第2のプレート21を重ね、第2のプレート21のスケール24が上になるようにする。尚、プレートが透明な場合には、スケール24は透けて見えるのでスケール24が下になっていても良い。また、第1のバイトテーブル13と第2のバイトテーブル23も重なるようにする。第1のバイトテーブル13と第2のバイトテーブル23の長円形の大きさは同じでも良いし、少し異なっていても良い。また長方形12と長方形22の大きさも同じでも良いし、少し異なっていても良い。図1(c)においては、重ねた状態が分かるように、第1のプレートが第2のプレートより大きく記載しているが、この大きさは同じでも、逆に第2のプレートが第1のプレートより大きくなっていても良い。
【0017】
図1(c)においては、第1のプレート11と第2のプレート21をぴったりと重ねて、スライド溝穴にボルト28を入れて第1のプレートにあいているボルト穴にさしこんで第1のプレート11と第2のプレート21を固定している。この状態で、ボルト28の位置を第2のプレートの長方形平板22に描かれたスケール24で読み取る。次に、図1(d)に示すように、ボルト28をゆるめて、第2のプレート21に対して、第1のプレート11を長方形の長手方向に平行に移動させる。第1のプレート11と第2のプレート21の平面部を滑らかにし、材質を適当に選択すれば、第1のプレート11と第2のプレート21を重ねたままスムーズに移動できる。また、スライド溝穴をボルトの大きさに一致させれば、ガタつきがないように平行に移動させることができる。適度に移動させたところで、ボルトをしめて(しめなくても良いが)ボルトの位置をスケールで読めば、移動前のスケールとの差から、第1のスケールと第2のスケールの移動距離(移動量)xを正確に知ることができる。
【0018】
図1において、第1のプレートおよび第2のプレートの長円形部分13および23は後で詳細に説明するように口で挟む(あるいは、歯で噛む)部分であるので、第1のバイトテーブル13および第2のバイトテーブル23とも呼ぶが、この部分の厚みを調整して、挟む(あるいは、噛む)量(あるいは、高さ)を変えることができる。たとえば、第1のプレートや第2のプレートの厚みを変えて、第1のバイトテーブル13および第1のバイトテーブル23の厚みを変えることができる。或いは、図2に示すような器具を用いても良い。
【0019】
図2は、第1のプレート31と第2のプレート41を重ねた器具を示す図である。図2(a)は平面図であり、図2(b)は立面図である。
図2に示すように、第1のプレート31(長方形平板32と長円形平板33からなる)の長円形平板33上(尚、図2では下側)にこの長円形と同じ形の長円形平板状部材34や35を付着させて、第1のバイトテーブルの厚みをかえることができる。たとえば、第1のプレート31の厚みが1.5mmで、厚みが1.5mmの部材34を付着させた場合、第1のバイトテーブルの厚みは3.0mmとなる。さらに厚みが1.5mmの部材35も付着させた場合、第2のバイトテーブルの厚みは4.5mmとなる。また、図2に示すように、第2のプレート41(長方形平板42と長円形平板43からなる)の長円形平板43上に、この長円形と同じ形の長円形平板状部材44付着させて、第2のバイトテーブルの厚みをかえることができる。たとえば、第2のプレート41の厚みが1.5mmで、厚みが1.5mmの部材44を付着させた場合、第2のバイトテーブルの厚みは3.0mmとなる。図2に示す器具の場合には、全体のバイトテーブルの厚み(第1のバイトテーブルと第2のバイトテーブルを合わせた厚み)は、7.5mmとなる。
【0020】
図2に示すような第1のプレートおよび第2のプレートでも平坦な面同士を合わせてぴったりと重ねることができる。スライド溝穴46にボルト48を通してボルト穴36に入れてボルトを締めることにより、重ねた第1のプレートおよび第2のプレートを固定できる。また、ボルト48をゆるめて第1のプレートおよび第2のプレートを重ねたまま、第2のプレートに対して第1のプレートを移動させることもできる。従って、図1に示す場合と同様に、この移動距離を測定できる。
【0021】
図3は、本発明の器具を用いて、垂直下方移動距離(移動量)および前方移動距離(移動量)を測定する方法を示す。図3においては、本発明の器具の立面図のみで示す。図3(a)に示すように、第1のプレート51における長方形平板52の端部に連なる長円形平板53には長円形平板状部材54を付着させ所望の厚みにしている。この部分を第1のプレート51における第1のバイトテーブル55と呼ぶ。この第1のプレート51に重ねて第2のプレート61を重ねている。第2のプレート61は長方形平板62と長円形平板63からなる。第2のプレート61の長円形平板63には長円形平板状部材を付着させていない。従って、長円形平板63は第2のプレート61における第2のバイトテーブルと一致するので、第2のバイトテーブル63と呼ぶ。
【0022】
この器具のバイトテーブルの厚みは、第1のバイトテーブル55の厚みと第2のバイトテーブル63の厚みとの和となる。このバイトテーブルを噛んだときに違和感のない厚みとなるようにバイトテーブルの厚みを決める。そのバイトテーブルの厚みになるように、第1のバイトテーブルの厚みと第2のバイトテーブルの厚みの組み合わせを決定する。逆に種々の厚みを有する第1のバイトテーブルと第2のバイトテーブルを組み合わせて歯で噛んだときに違和感のないようにしても良い。
【0023】
図3に示す第1の実施形態では、第1のバイトテーブルは第1のプレートの長円形平板53に長円形平板状部材54を付着させ、第2のバイトテーブルは第2のプレートの長円形平板63と同じとなっている。図3(a)に示すように第1のプレートと第2のプレートを重ねた後、図3(b)に示すように、この違和感のない高さのバイトテーブルの両面、すなわち第1のバイトテーブル55の下側になっている長円形平面および第2のバイトテーブル63の上側になっている長円形平面に、シリコンバイト材58、66を付着塗布する。このシリコンバイト材はバイトテーブルに歯を仮固定するための材料であり、ワックスバイト材を使うこともある。
【0024】
次に、図3(c)に示すように、本発明の器具、すなわち第1のプレート51と第2のプレート61をボルト64をボルト穴56に入れて固定する。このとき、第1のプレート51のボルト穴56における中心線57(ボルト64の中心線と一致する)に合った第2のプレート61のスケールを読む。(このスケールを基準線65とし、たとえば、この状態を距離0と設定する)この状態で、バイトテーブルの両面を口で挟み、シリコンバイト材に歯をあてて、バイトテーブルを自然な噛み方状態(セントリックバイト)で噛む。すなわち、図3(c)においては、第1のバイトテーブル55上に塗布したシリコンバイト材58に下歯59をあて、第2のバイトテーブル63上に塗布したシリコンバイト材66に上歯67をあてて噛む。通常は、上歯に上歯ベーススプリントを被せ、下歯に下歯ベーススプリントを被せて噛むが、図3においてはこれらのベーススプリントを示していない。(垂直的)下方移動量および(最適)前方移動量を測定し合わせこんだ後ですぐにスリープスプリントを作製するときは上下のベーススプリントを上下の歯に装着して行うと良い。
【0025】
図3(c)においても違和感がないようになっている必要があるが、このときのバイトテーブル全体の厚みをsとして、上歯と第2のバイトテーブルの間にあるシリコンバイト材66の厚みをu、下歯と第1のバイトテーブルの間にあるシリコンバイト材58の厚みをvとすると、垂直的下方移動量はs+u+v+h(hはオーバーバイト)となる。尚、歯にベーススプリントを装着した場合には、ベーススプリントの厚さも考慮する必要がある。すなわち、上歯ベーススプリントの厚みをi、下歯ベーススプリントの厚みをjとすると、垂直下方移動量はs+i+j+u+v+hとなる。i=j=tのときは、垂直下方移動量はs+2t+u+v+hである。さらに、シリコンバイト材は噛みこんだときに非常に薄くなるので、uおよびvは非常に小さく無視しても良い場合は、垂直下方移動量はs+2t+hである。(尚、(0010)ではu=v=cとした。)図9に示す記号を用いると、垂直下方移動量y+h=s+2t+hであるから、y=s+2tとなり、s=kである。
【0026】
次に、ボルト64をゆるめ、第1のプレート51と第2のプレート61を重ねた状態でスライドできる状態にして、第1のバイトテーブル55および第2のバイトテーブル63を噛みながら下顎を前方へ誘導し、違和感も少なく最適な位置に下顎を前方へ突出したときにボルトを締める。この状態のボルトの位置をスケールで読む。すなわち、第1のプレート51におけるボルト穴56の中心線57(ボルト64の中心線と一致する)に合った第2のプレート61のスケールを読む。(このスケールを移動線68とし、たとえば、この状態、すなわち基準線65と移動線68との距離をxと設定する)このスケールの値xが(水平的)前方突出量または(水平的)前方移動量となり、その最大値nが最大前方突出量または最大前方移動量である。
【0027】
患者にとって最適な水平的前方移動量(単に前方移動量)は、これまでは下顎の最大前方突出量nの80%位と言われている。本発明の器具を用いることにより、容易にこのnを求めることができるので、この80%の水平的前方移動量を簡単に決定できる。しかし、患者によっては、最適な前方移動量は下顎の最大前方突出量nの80%位でない場合もある。従来は、80%で一度スリープスプリントを作り、問題があれば手直しをしてこの前方移動量を試行錯誤的に変更していたため、最適なスリープスプリントを作るのに数回作り直していた。これにより、費用負担が増すだけでなく、時間もかかり、患者や医師や設計技工士に過大な負荷がかかっていた。
【0028】
これに対して、本発明の器具を用いると、患者が歯で噛んだままで第2のプレートに対して第1のプレートを自由にスライドできるので、患者にとって最適な下顎の位置をその場で決定できる。すなわち、最大前方突出量(移動量)nを測定した後に、仮の値として(水平的)前方移動量を、下顎の最大前方突出量nの80%位に設定し、違和感が強い場合は第1のプレートをスライドさせて、徐々に後方位または前方位をとり、違和感が少なくなった位置に設定し、第1のプレートと第2のプレートをボルトで固定する。この操作は一連動作で行うので、短時間に最適値を決定できる。上下の歯にベーススプリントを装着した場合には、上記のようにして下顎位置(最適前方移動量)を決定した後、即時重合レジンで上下顎の装置(本発明の上記器具)を固定し、口から外して口腔外で上下ベーススプリントを完全に一体化させる。それを再び口腔内に装着すれば違和感が少なく効果があるか直ちに判定できる。
【0029】
図4は、本発明の第2の実施形態を示す図である。図4において、上が平面図で下が立面図である。図4(a)に示すように、第1のプレート71における長方形平板72の両端に第1のバイトテーブルがついている。この2つのバイトテーブルを第1のバイトテーブル1Aおよび1Bと名付ける。第1のバイトテーブル1Aには長円形平板73に部材78が付着されているが、第1のバイトテーブル1Bにおいて長円形平板74に部材はついていない。従って、第1のバイトテーブル1Aの厚みは、第1のバイトテーブル1Bの厚みよりも部材78の分だけ厚くなっている。第1のプレート71の厚さを1.5mmとし、部材78の厚さも1.5mmとすると、部材78を長円形平板73に付着させる接着剤の厚みを無視すれば、第1のバイトテーブル1Aの厚さは3.0mmとなり、第1のバイトテーブル1Bの厚さは1.5mmである。第1のプレート71の長方形平板72には、図1に示したものと同様に、中心線75および76、ボルト穴77が設けられている。
【0030】
図4(b)に示すように、第2のプレート81における長方形平板82の両端に第2のバイトテーブルがついている。この2つのバイトテーブルを第2のバイトテーブル2Aおよび2Bと名付ける。第2のバイトテーブル2Aには長円形平板83に部材87が付着されているが、第2のバイトテーブル2Bには長円形平板84に部材はついていない。従って、第2のバイトテーブル2Aの厚みは、第2のバイトテーブル2Bの厚みよりも部材87の分だけ厚くなっている。第2のプレート81の厚さを1.5mmとし、部材87の厚さも1.5mmとすると、部材87を長円形平板83に付着させる接着剤の厚みを無視すれば、第2のバイトテーブル2Aの厚さは3.0mmとなり、第2のバイトテーブル2Bの厚さは1.5mmである。第2のプレート81の長方形平板82には、図1に示したものと同様に、スライド溝穴85およびスケール86が設けられている。
【0031】
図4(c)は、図4(a)に示す第1のプレート71と図4(b)に示す第2のプレート81を重ねて、本発明の器具に組み立てた図である。第1のバイトテーブル1Aは第2のバイトテーブル2Aと重なり、第1のバイトテーブル1Bは第2のバイトテーブル2Bと重なっている。第2のプレート81のスライド溝穴85にボルト88を通し、ボルト88は第1のプレート71のボルト穴77に入り、第1のプレート71と第2のプレート81を固定するときはボルト88を締める。また、第2のプレート81に対して第1のプレート71をスライドさせるときは、ボルト88をゆるめる。上述した厚み1.5mmを使用すれば、図4(c)の左側のバイトテーブルの厚みは、1Aと2Aの和となるから、6mmである。また、図4(c)の右側のバイトテーブルの厚みは、1Bと2Bの和となるから、3mmである。このように組み合わせることにより、1組の器具により、2種類の厚みのバイトテーブルを作製できる。
【0032】
図4(d)は、図4(a)に示す第1のプレート71と図4(c)に示す第2のプレート81を重ねて、本発明の器具に組み立てた図であるが、図4(c)の場合と異なるのは、第1のバイトテーブル1Aは第2のバイトテーブル2Bと重なり、第1のバイトテーブル1Bは第2のバイトテーブル2Aと重なっている。第2のプレート81のスライド溝穴85にボルト88を通し、ボルト88は第1のプレート71のボルト穴77に入り、第1のプレート71と第2のプレート81を固定するときはボルト88を締める。また、第2のプレート81に対して第1のプレート71をスライドさせるときは、ボルト88をゆるめる。上述した厚み1.5mmを使用すれば、図4(d)の左側のバイトテーブルの厚みは、1Aと2Bの和となるから、4.5mmである。また、図4(d)の右側のバイトテーブルの厚みは、1Bと2Aの和となるから、4.5mmである。このように組み合わせることにより、1組の器具により、2種類の厚みのバイトテーブルを作製できる。(この場合は、左右のバイトテーブルの厚みは同じになった。)
【0033】
図4(c)と図4(d)の組み合わせは、ボルト88をゆるめて第1のプレートに対して第2のプレートをボルト88のまわりに回転させて作ることができる。従って、第1のプレート71と第2のプレート81の2枚のプレートを用いて、3種類の厚みを有するバイトテーブルを作製できる。図4においては、第1のプレートの厚みと第2のプレートの厚みを同じ値としたが、異なる厚みであれば、4種類の厚みを持つバイトテーブルを簡単に作ることが可能である。このように本発明を用いると、簡単な器具で、バリエーションの豊富なバイトテーブルを作製できる。
【0034】
図5は、本発明の第3の実施形態を示す図である。図5(a)の左上の図は、十字形をした第1のプレートの平面図である。長方形平板102および103がそれらの中央付近で十字に交差している。長方形平板102の両端には長円形平板107および109がついている。長方形平板103の両端には長円形平板108および110がついている。長方形平板102および103には中心線104および105が描かれていて、その交点付近にはボルト穴106が設けられている。図5(a)の左下の図は十字形をした第1のプレートの立面図である。長円形平板107の下面には長円形部材111が付着されていて、第1のバイトテーブル3Aを構成している。長円形平板109には部材が付いていず、第1のバイトテーブル3Cを構成している。図5(a)の右側の図は十字形をした第1のプレートの側面図である。長円形平板108の下面には長円形部材112および113が付着されていて、第1のバイトテーブル3Bを構成している。長円形平板110の下面には長円形部材114、115および116が付着されていて、第1のバイトテーブル3Dを構成している
【0035】
本発明の第3の実施形態における第1のプレートは、図4(a)に示した第1のプレートを2つそれらの中心で一体としたものと考えることもできる。第1のプレートの厚みを1.5mm、各部材111〜116は同じ厚みで1.5mmとすると、第1のバイトテーブル3Aは3mm、3Bは4.5mm、3Cは1.5mm、3Dは6.0mmとなる。このように、本発明の第3の実施形態における第1のプレートは、1.5mm〜6.0mmの間で4種類の厚みを有する第1のバイトテーブルを持つ。
【0036】
図5(b)は本発明の第3の実施形態における第2のプレート121を示す図であり、上が平面図で、下が立面図である。図5(b)に示すように、第2のプレート121における長方形平板122の両端に第2のバイトテーブルがついている。この2つのバイトテーブルを第2のバイトテーブル4Aおよび4Bと名付ける。第2のバイトテーブル4Aにおいては長円形平板123に部材127が付着されているが、第2のバイトテーブル4Bには長円形平板124に部材はついていない。従って、第2のバイトテーブル4Aの厚みは、第2のバイトテーブル4Bの厚みよりも部材127の分だけ厚くなっている。第2のプレート121の厚さを1.5mmとし、部材127の厚さも1.5mmとすると、部材127を長円形平板123に付着させる接着剤の厚みを無視すれば、第2のバイトテーブル4Aの厚さは3.0mmとなり、第2のバイトテーブル4Bの厚さは1.5mmである。第2のプレート121の長方形平板122には、図1に示したものと同様に、スライド溝穴125およびスケール126が設けられている。図5(b)に示す第2のプレート121は、図4(b)に示した第2のプレート81と同様の形状である。
【0037】
図5に示す第1のプレート101と第2のプレート121をそれらの平坦な面同士を重ねて、ボルト128をスライド溝穴125に通し、第1のプレート101のボルト穴106へはめて固定したものが、図6である。図6の左上の図が平面図で、図6の左下の図が立面図で、図6の右図が側面図である。図6においては、第1のバイトテーブル3Aと第2のバイトテーブル4Aが重なり、第1のバイトテーブル3Cと第2のバイトテーブル4Bが重なっている。従って、重なったバイトテーブルの厚みは、上記の厚みを用いて、6mmと3mmになる。ボルト128をゆるめると、第1のプレート101に対して、第2のプレート121をボルト128のまわりに回転することができる。90度回転させると3Bと4A、3Dと4Bを重ねることができ、そのときのバイトテーブルの厚みは、7.5mmになる。(この場合は、2つのバイトテーブルの厚みは同じである。)上記の例では、プレートの厚みや部材の厚みをすべて1.5mmと考えたので、同じ厚みのバイトテーブルができたが、それぞれのバイトテーブルの厚みは、部材の厚みを調節することにより、自由に変えることができるので、本発明における第3の実施形態の場合には、最大8種類の厚みを有するバイトテーブルを作製できる。このように、4種類のバイトテーブルを有する第1のプレートと2種類のバイトテーブルを有する第2のプレートを重ねた本発明の器具を用いることにより、種々の厚みのバイトテーブルを実現できるので、患者にとって違和感のない、垂直的下方移動量および前方突出量を正確に測定できる。
【0038】
さらに、第3の実施形態においては、第2のプレートのバイトテーブルは2つであったが、第2のプレートの形状を第1のプレートと同じ形状とすることにより、第2のプレートもバイトテーブルを4つにすることもできる。この場合には、十字形の第1のプレートに対して、十字形の第2のプレートを回転させることにより、最大16種類の厚みを有するバイトテーブルを実現でき、さらに正確な厚み調整が可能となる。
【0039】
図7は、円板状の部材を用いて本発明の器具を作製する方法を示す図である。図7(a)に示すように、バイトテーブル部分が口で挟むのに適当な大きさとなるように、また取扱いに支障がない程度の器具となるように、適度な大きさの円板を用いて、図7(a)に示すような、4つのバイトテーブルを持つプレートを描く。これを切り出すことにより、十字形のバイトテーブルを有するプレートを作製できる。バイトテーブルの大きさは、たとえば、長手方向が30mm〜150mmで、奥行きが10mm〜70mm程度である。また、長方形部分の長さは、たとえばバイトテーブルの大きさにもよるが20〜200mm程度である。長方形部分の幅はプレートの強度を確保できれば細くても良いが、スライドさせたりするので、たとえば10mm〜50mm程度である。yは3〜20mm程度であり、厚さの調整は約0.5mm以上で行うと良いので、プレートやバイトテーブル部材の厚みは0.5〜3mm程度で変化させたものを用いれば良い。
【0040】
図7(b)は、適度な大きさの円板に2つのバイトテーブルを有するプレートを描いている。長方形の内部にはスライド溝穴部分を描いている。これを切り出すことにより、図4(b)に示すようなプレートを作製できる。また、図4(b)に示すように、母材の空いている場所を利用して、バイトテーブルに付着させる部材も作製できる。本発明の器具は、このように簡単に作成することができる。尚、図7におけるバイトテーブルとなる部分は、上記で定義した長円形ではない。バイトテーブルとなる部分は、必ずしも長円形でなくても良く、歯でスムーズに噛めるような、或いは口でスムーズに挟めるような形状であれば良い。たとえば、正方形や長方形状等の矩形形状や楕円形状等のバイトテーブルでも良い。また長方形の部分も必ずしも長方形である必要もないことは、これまでの説明で自明である。ただし、形状は長方形のような単純な形状が最も作成しやすい。
【0041】
さらに切り出さずに円板そのものを用いても良いし、長方形や矩形平板そのものを用いることもできる。バイトテーブルになる部分の厚みを変化さて用いることができる。2つの円板や矩形の平板を重ねて本発明の器具を作製することもできる。また、第1のプレートや第2のプレートは線対称や点対称のものを用いれば、回転させたときにバイトテーブルを簡単に合わせることができる。
【0042】
さらに、作成前の母材も図7に示すような円板でなくても良い。たとえば、長方形や矩形形状でも良い。また、十字形形状以外でも、3つのバイトテーブルからなるプレートでも良いし、5つ以上のバイトテーブルを有するプレートでも良い。
【0043】
上述したように、本発明は、第1のバイトテーブルを有する第1のプレートと、第1のバイトテーブルに対して移動可能な第2のバイトテーブルを有する第2のプレートから成る、スリープスプリントを作製するための咬合採得器具(スリープスプリント作製器具)であって、第1のバイトテーブルの厚みと第2のバイトテーブルの厚みからスリープスプリントの垂直方向の下方移動量(垂直的下方移動量)を決定し、第1のバイトテーブルと第2のバイトテーブルの移移動距離より前方移動量を決定することを特徴とする、スリープスプリント作製器具である。
【0044】
本発明のスリープスプリント作製器具を使用すると、第1のバイトテーブルおよび第2のバイトテーブルの平坦な面を重ね、第1のバイトテーブルおよび第2のバイトテーブルの重ね面と反対側の第1のバイトテーブルおよび第2のバイトテーブルの面にシリコンバイトを付着させ、第1のバイトテーブルに付着させたシリコンバイト(下側シリコンバイト)に下歯をあて、第2のバイトテーブルに付着させたシリコンバイト(上側シリコンバイト)に上歯をあて、上歯および下歯の間に上側シリコンバイト、第2のバイトテーブル、第1のバイトテーブル、および下側シリコンバイトを噛みこむことにより垂直的下方移動量を決定できる。
【0045】
また、本発明のスリープスプリント作製器具を使用すると、本発明は、第1のプレートは1つまたは厚みの異なる複数の第1のバイトテーブルを有し、第2のプレートは1つまたは厚みの異なる複数の第2のバイトテーブルを有しているので、第1のバイトテーブルと第2のバイトテーブルの組み合わせから、患者にとって違和感のない高さを選択することにより、垂直的下方移動量を決定できる。
【0046】
さらに、本発明のスリープスプリント作製器具を使用すると、第1のバイトテーブルおよび第2のバイトテーブルを重ね、第1のバイトテーブルおよび第2のバイトテーブルの重ね面と反対側にある第1のバイトテーブルおよび第2のバイトテーブルの面に下歯および上歯をあててセントリックバイトで噛みこんだ状態で、第2のプレートに対する第1のプレートの基準位置を設定して、第1のバイトテーブルおよび第2のバイトテーブルを噛みながら下顎を前方に誘導し、第2のプレートに対して第1のプレートを移動して、下顎が前方に最大突出したときにおける第2のプレートに対する第1のプレートの基準位置からの距離を最大前方移動量として決定できる。
【0047】
また、本発明のスリープスプリント作製器具を使用すると、第1のバイトテーブルおよび第2のバイトテーブルを重ね、第1のバイトテーブルおよび第2のバイトテーブルの重ね面と反対側にある第1のバイトテーブルおよび第2のバイトテーブルの面に上歯および下歯をあててセントリックバイトで噛みこんだ状態で、第2のプレートに対する第1のプレートの基準位置を設定して、第1のバイトテーブルおよび第2のバイトテーブルを噛みながら下顎を前方に誘導し、患者にとって違和感の少ない位置を設定し、その位置における第2のプレートに対する第1のプレートの基準位置からの距離をスリープスプリントの前方移動量とすることができる。
【0048】
本発明の咬合採得用器具の材質は、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリカーボネート、ポリブチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂等の高分子材料であり、これらの高分子材料の複合材でも良い。或いは、鉄、ニッケル、銅、アルミニウム、チタン等の金属やこれらの合金も使用できる。各種ステンレス系材料も良好な材料である。また、ガラスやセラミック等の無機質材料も使用できる。さらに、これらの材料を複合したものや積層したものなども使用できる。
【0049】
本発明の咬合採得用器具を用いて、下方移動量、最大突出量、最適前方突出量を測定して、下顎位置を設定し、上下一体型スリープスプリントを製作した。5つの症例のデータを表1に示す。また、図10にこのスリープスプリントを装着した効果を示す。図10は、スリープスプリント装着前後において、ODI4%値(酸素飽和度が4%低下する1時間あたりの回数)を測定したグラフであるが、すべての患者に対して顕著な効果があったことが分かる。さらに、表1から、最適前方突出量は最大前方突出量の約64%であることが分かる。従来は約80%と言われていたが、この値は妥当でないように考えられる。また、患者により大きな差があることも分かり、一律に最適値を決めることは危険であることも分かる。すなわち、実際に本発明の器具を用いることにより、最適前方突出量を測定して、下顎位を設定できるので、本発明の器具を使用する有用性をさらに確認できた。
【0050】
【表1】

【0051】
上記で詳細に説明したように、本発明の目的は、睡眠時無呼吸症候群の患者の治療に用いられるスリープスプリントを精度良く迅速にしかも安価に作製する咬合採得用器具を提供することである。そのために、厚みの異なる複数のバイトテーブルを有する2つのプレートの平坦な面同士を重ねた器具で、2つのプレートにおける種々の厚みを有するバイトテーブルの組み合わせで所望の厚みを選択し、重ねたバイトテーブルの両面にシリコンバイトを塗布し、ベーススプリントを装着した上下の歯で噛むことにより最適の垂直的下方移動量を決定する。次に下顎を前方に突き出して、下歯で噛んでいるバイトテーブルのプレートを上歯で噛んでいるバイトテーブルのプレートに対して前方にスライドさせて最適の前方移動量を決定する。本器具を用いることにより、患者に負担のない位置で下顎位を決定できるので、良好なスリープスプリントを作製できる。
尚、これまで説明してきた内容でお互いに矛盾なく適用できる内容については、具体的な記載がなくとも、お互いに適用や応用ができることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、睡眠時無呼吸症候群治療用口腔内装置の製作に用いることができる。さらにいびき防止用の口腔内装置の製作に用いることができる。
【符号の説明】
【0053】
11・・・第1のプレート、12・・・長方形平板、13・・・長円形平板、
14・・・中心線、15・・・中心線、16・・・ボルト穴、21・・・第2のプレート、
22・・・長方形平板、23・・・長円形平板、24・・・スケール、
25・・・スライド溝穴、28・・・ボルト、31・・・第1のプレート、
32・・・長方形平板、33・・・長円形平板、34・・・長円形平板状部材、
35・・・長円形平板状部材、41・・・第2のプレート、42・・・長方形平板、
43・・・長円形平板、44・・・部材、46・・・スライド溝穴、48・・・ボルト、
51・・・第1のプレート、52・・・長方形平板、53・・・長円形平板、
54・・・長円形平板状部材、55・・・第1のバイトテーブル、56・・・ボルト穴、
57・・・中心線、58・・・シリコンバイト材、59・・・下歯、
61・・・第2のプレート、62・・・長方形平板、63・・・長円形平板、
64・・・ボルト、65・・・基準線、66・・・シリコンバイト材、67・・・上歯、
68・・・移動線、71・・・第1のプレート、72・・・長方形平板、
73・・・長円形平板、74・・・長円形平板、75・・・中心線、76・・・中心線、
77・・・ボルト穴、78・・・部材、81・・・第2のプレート、
82・・・長方形平板、83・・・長円形平板、84・・・長円形平板、
85・・・スライド溝穴、86・・・スケール、87・・・部材、88・・・ボルト
101・・・第1のプレート、102・・・長方形平板、103・・・長方形平板、
104・・・中心線、105・・・中心線、106・・・ボルト穴、
107・・・長円形平板、108・・・長円形平板、109・・・長円形平板、
110・・・長円形平板、111・・・長円形部材、112・・・長円形部材、
113・・・長円形部材、114・・・長円形部材、115・・・長円形部材、
116・・・長円形部材、121・・・第2のプレート、122・・・長方形平板、
123・・・長円形平板、124・・・長円形平板、125・・・スライド溝穴、
126・・・スケール、127・・・部材、128・・・ボルト、
202・・・上歯、203・・・下歯、211・・・スリープスプリント、
212・・・上歯ベーススプリント、213・・・下歯ベーススプリント、
214・・・奥歯側部分(結合部分)、215・・・空間、216・・・溝穴、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のバイトテーブルを有する第1のプレートと、第1のバイトテーブルに対して移動可能な第2のバイトテーブルを有する第2のプレートから成る、スリープスプリントを作製するための咬合採得用器具(スリープスプリント作製器具)であって、第1のバイトテーブルの厚みと第2のバイトテーブルの厚みからスリープスプリントの垂直方向の下方移動量(垂直的下方移動量)を決定し、第1のバイトテーブルと第2のバイトテーブルの移動距離よりスリープスプリントの前方移動量を決定することを特徴とする、スリープスプリント作製器具。
【請求項2】
第1のバイトテーブルおよび第2のバイトテーブルの平坦な面を重ね、第1のバイトテーブルおよび第2のバイトテーブルの重ね面と反対側の第1のバイトテーブルおよび第2のバイトテーブルの面にシリコンバイトを付着させ、第1のバイトテーブルに付着させたシリコンバイト(下側シリコンバイト)に下歯をあて、第2のバイトテーブルに付着させたシリコンバイト(上側シリコンバイト)に上歯をあてて、上歯および下歯の間に上側シリコンバイト、第2のバイトテーブル、第1のバイトテーブル、および下側シリコンバイトを噛みこむことによりスリープスプリントの垂直的下方移動量を決定することを特徴とする、特許請求の範囲第1項に記載のスリープスプリント作製器具。
【請求項3】
第1のプレートは1つまたは厚みの異なる複数の第1のバイトテーブルを有し、第2のプレートは1つまたは厚みの異なる複数の第2のバイトテーブルを有していて、第1のバイトテーブルと第2のバイトテーブルの組み合わせから、患者にとって違和感のない高さを選択することにより、垂直的下方移動量を決定することを特徴とする、特許請求の範囲第2項に記載のスリープスプリント作製器具。
【請求項4】
上歯および下歯にベーススプリントを装着して、上側シリコンバイトおよび下側シリコンバイトを噛みこむことを特徴とする、特許請求の範囲第2項または第3項に記載のスリープスプリント作製器具。
【請求項5】
垂直的下方移動量は、「オーバーバイト+(第1のバイトテーブルの厚さ+第2のバイトテーブルの厚さ)+上歯ベーススプリントの厚さ+下歯ベーススプリントの厚さ」であることを特徴とする、特許請求の範囲第4項に記載のスリープスプリント作製治具。
【請求項6】
第1のバイトテーブルおよび第2のバイトテーブルを重ね、第1のバイトテーブルおよび第2のバイトテーブルの重ね面と反対側にある第1のバイトテーブルおよび第2のバイトテーブルの面に下歯および上歯をあててセントリックバイトで噛みこんだ状態で、第2のプレートに対する第1のプレートの基準位置を設定して、第1のバイトテーブルおよび第2のバイトテーブルを噛みながら下顎を前方に誘導し、第2のプレートに対して第1のプレートを移動して、下顎が前方に最大突出したときにおける第2のプレートに対する第1のプレートの基準位置からの距離を最大前方移動量として決定することを特徴とする、特許請求の範囲第1項〜第5項に記載のスリープスプリント作製治具。
【請求項7】
第1のバイトテーブルおよび第2のバイトテーブルを重ね、第1のバイトテーブルおよび第2のバイトテーブルの重ね面と反対側にある第1のバイトテーブルおよび第2のバイトテーブルの面に上歯および下歯をあててセントリックバイトで噛みこんだ状態で、第2のプレートに対する第1のプレートの基準位置を設定して、第1のバイトテーブルおよび第2のバイトテーブルを噛みながら下顎を前方に誘導し、患者にとって違和感の少ない位置を設定し、その位置における第2のプレートに対する第1のプレートの基準位置からの距離をスリープスプリントの前方移動量とすることを特徴とする、特許請求の範囲第1項〜第6項に記載のスリープスプリント作製治具。
【請求項8】
第1のプレートおよび/または第2のプレートにスケールが備えられ、そのスケールを用いて、基準位置および/または前方移動量を測定することを特徴とする、特許請求の範囲第6項または第7項に記載のスリープスプリント作製治具。
【請求項9】
第1のプレートおよび/または第2のプレートは4個のバイトテーブルを有する十字形形状であることを特徴とする、特許請求の範囲第3項〜第8項に記載のスリープスプリント作製治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−213872(P2010−213872A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63542(P2009−63542)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)