説明

セメント混和剤

【課題】 特に高性能AE減水剤やAE減水剤が用いられる領域(水/セメント重量比=0.3〜0.6)において、優れた減水性能とスランプ保持性を兼ね備え、かつ使用量が少なく経済性の高いセメント混和剤を提供することを目的とする。
【解決手段】 少なくとも2種以上の共重合体を含んでなるセメント混和剤であって、該セメント混和剤は、下記一般式(1);
【化1】


(式中、ROは、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基の1種又は2種以上を表す。mは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜500の数を表す。Rは、水素原子、又は、炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。Yは、炭素原子数2〜8のアルケニル基を表す。)で表される(ポリ)アルキレングリコールモノアルケニルエーテル系単量体(a)由来の構成単位と、不飽和カルボン酸系単量体(b)由来の構成単位とを含む共重合体(A)及び共重合体(B)含むものであり、該共重合体(A)は、セメント粒子への吸着率が40%以上であり、該共重合体(B)は、セメント粒子への吸着率が40%未満であるセメント混和剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント混和剤に関する。より詳しくは、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物等に対して減水剤等として広く用いることができるセメント混和剤であって、セメント組成物に含ませることにより、土木・建築構造物等を構築することができるセメント混和剤に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント混和剤は、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物等に対して減水剤等として広く用いられており、セメント組成物から土木・建築構造物等を構築するために欠かすことのできないものとなっている。このようなセメント混和剤は、セメント組成物の流動性を高めてセメント組成物を減水させることにより、硬化物の強度や耐久性等を向上させる作用を有することになる。このような減水剤の中でもポリカルボン酸系重合体を含むものは、従来のナフタレン系等の減水剤に比べて高い減水性能を発揮するため、高性能AE減水剤として多くの実績がある。
【0003】
このようなセメント混和剤においては、セメント組成物に対する減水性能に加えて、セメント組成物を取り扱う現場において作業しやすくなるように、その粘性を良好にすることができるものが求められている。すなわち減水剤として用いられるセメント混和剤は、セメント組成物の粘性を低下させることによる減水性能を発揮することになるが、このような性能を発揮すると共に、それを取り扱う現場において作業しやすくなるような粘性とすることができるものが土木・建築構造物等の製造現場において求められている。セメント混和剤がこのような性能を発揮すると、土木・建築構造物等の構築における作業効率等が改善されることとなる。
【0004】
セメント組成物のスランプロスの防止能を改善する方法としては、例えば、ポリカルボン酸系重合体の重量平均分子量が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で10,000〜500,000の範囲内にあり、かつ重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が0〜8,000であるセメント分散剤が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この技術により、セメント組成物等に優れた流動性を長時間に渡って与えることが記載されている。また、このセメント分散剤において、ポリカルボン酸系重合体のセメント粒子への吸着率が60%未満である場合、及び、ポリカルボン酸系重合体のセメント粒子への吸着率が60%以上である場合が記載されている。このセメント分散剤は、(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体を用いたポリカルボン酸系重合体を用いたものであり、(アルコキシ)ポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化工程を含むため、製造コストが割高になるため、コストパフォーマンスが低下することから、この点で工夫の余地があった。特に、高性能AE減水剤やAE減水剤が用いられる領域(水/セメント重量比=0.3〜0.6)においては、優れた減水性能とスランプ保持性を兼ね備えたものが求められていた。また、減水性能とスランプ保持性を更に向上させる余地があった。
【特許文献1】特許第3179022号明細書(第1−2頁及び第14−15頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記問題点を改善し、特に高性能AE減水剤やAE減水剤が用いられる領域(水/セメント重量比=0.3〜0.6)において、優れた減水性能とスランプ保持性を兼ね備え、かつ使用量が少なく経済性の高いセメント混和剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、さらに、高強度・超高強度構造物等の構築現場において求められているセメント混和剤について、特に減水性とコストパフォーマンスに優れたセメント組成物等を形成することができるものを検討した。まず、ポリカルボン酸系重合体がセメント組成物等に対して優れた減水性能を発揮することができることに着目し、エステル化工程が不要な(ポリ)アルキレングリコールモノアルケニルエーテル系の共重合体を用いることで、(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系よりもコストパフォーマンスが向上し、さらに該共重合体のセメント粒子への吸着率が40%以上の重合体、及び、40%未満の重合体を併用することで、優れた減水性能とスランプ保持性を兼ね備えるセメント混和剤とすることができることを見出し、本発明に到達したものである。なお共重合体のセメント粒子への吸着率の測定方法については、後述するようにセメントに対して共重合体を固形分換算で0.1重量%添加し、25℃で5分後に測定することが好ましい。
従来のポリカルボン酸系共重合体において、(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体を含んでなる単量体成分を重合させて得られるエステル系については、当該エステル系単量体を調製するに際し、通常では(メタ)アクリル酸にアルキレンオキシドを付加させることが工業的に難しいため、アルコール等の活性水素基を有する化合物にアルキレンオキシドを付加させる工程の後、更に、(メタ)アクリル酸とエステル交換反応に供する工程を経ることによって、(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体が調製されている。
これに対して、本発明のセメント混和剤は、(ポリ)アルキレングリコールモノアルケニルエーテル系単量体に由来する共重合体を含んでなるエーテル系のものである。ここで、(ポリ)アルキレングリコールモノアルケニルエーテル系単量体は、重合性不飽和結合及び活性水素基を有する化合物にアルキレンオキシドを付加させる工程によって調製することができる。
したがって、本発明のセメント混和剤における、エーテル系の重合体は、エステル系の重合体と比較して、単量体の調製工程においてエステル化工程が不要である。すなわち、工業的生産において負荷が大きいエステル化工程を省略することが可能となるため、製造にかかる時間を短縮することができ、省力化することができるものである。これによって、本発明は、上記のようにコストパフォーマンスが向上することとなる。
なお、(ポリ)アルキレングリコールモノアルケニルエーテル系単量体は、重合性不飽和結合及び活性水素基を有する化合物にアルキレンオキシドを付加させて調製する方法で得ることが好ましいが、必ずしもこのような方法によって得られるものに限られない。
【0007】
また、エーテル系とエステル系とを比べると、エーテル系のほうが吸着率がより広範囲のものを使用することができるという点で好ましい。例えば、エーテル系は、セメント混和剤として有効に効果を発揮する吸着率の範囲が広いことに起因し、種々のセメントの種類に適用することができる等、種々の条件下でセメント混和剤としての優れた効果を発揮することができる。
更に、エステル系の場合には、吸着率が高いと、セメント組成物等にセメント混和剤を添加して混練した直後は流動性が高いが、その後、経時的に流動性が低下し、最後にはセメント粒子が凝集してほとんど流動性が発現されなくなる傾向が認められる。それに対して、本発明のエーテル系の場合には、吸着率と流動性との関係において、吸着率が高い場合でも流動性を維持する効果が高い。言い換えれば、エステル系とエーテル系とを対比すると、吸着率の適用範囲が異なるといえる。また、エーテル系のほうが吸着率を特定することによる効果が際立っている。例えば、吸着率が40%以上であれば、エーテル系のほうが流動性を維持する効果が高いという優れた効果を発揮することになる。本発明においては、減水性能及びスランプ保持性を優れたものとすることができる。
吸着率40%以上で、エーテル系のほうがエステル系より流動性を維持する効果が高いという理由は、明確ではないが、以下のように考えられる。
すなわち、エステル系共重合体は、エステル系単量体とカルボン酸系単量体とがランダムに共重合できるため、共重合体構造に占める−COOMの密度に分布が生じやすくなる結果、エステル系共重合体では、−COOMの密度が非常に高い共重合体や−COOMの密度が非常に低い共重合体が混在したものとなっている。
一方、吸着率を高めるには、共重合体を構成するカルボン酸系単量体の質量%を上げればよいが、これは、共重合体構造に吸着基である−COOMの密度が高くなることで、セメント粒子に吸着する速度が高まることによっている。
吸着率40%以上と高くするため、エステル系共重合体を構成するカルボン酸系単量体の質量%を高くすればするほど、−COOMの密度により大きな分布が生じてしまう。その結果、−COOMの密度が非常に高いエステル系共重合体が多く混在することになり、その混在により、セメント粒子を分散される効果よりも、凝集させる効果が強くなってしまい、流動性を発現できなくなると、考えられる。
しかし、エーテル系共重合体は、エーテル系単量体が単独重合性を持たないため、エーテル系単量体とカルボン酸系単量体がほぼ同じ速度で重合が進行するので、エーテル系共重合体を構成するカルボン酸系単量体の質量%を高くしても、共重合体構造に占める−COOMの密度に分布は生じにくい。
つまり、流動性に悪影響を与える−COOMの密度が非常に高い共重合体は、エーテル系の方がエステル系に比べて生じにくいため、吸着率が高いエーテル系共重合体でも、凝集効果が強くなることがなく、流動性よく広範囲に使用することができるのである。
【0008】
すなわち本発明は、少なくとも2種以上の共重合体を含んでなるセメント混和剤であって、
上記セメント混和剤は、下記一般式(1);
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、ROは、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基の1種又は2種以上を表す。mは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜500の数を表す。Rは、水素原子、又は、炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。Yは、炭素原子数2〜8のアルケニル基を表す。)で表される(ポリ)アルキレングリコールモノアルケニルエーテル系単量体(a)由来の構成単位と、不飽和カルボン酸系単量体(b)由来の構成単位とを含む共重合体(A)及び共重合体(B)含むものであり、上記共重合体(A)は、セメント粒子への吸着率が40%以上であり、上記共重合体(B)は、セメント粒子への吸着率が40%未満であるセメント混和剤である。
【0011】
なお、共重合体が3種以上含まれる場合、いずれか2種の共重合体の組み合わせが上記共重合体(A)及び上記共重合体(B)の条件を満たせばよい。そのような場合にも、セメント混和剤中に共重合体(A)と共重合体(B)とが存在することになり、吸着率の異なる2種の共重合体によって本発明の効果が発揮されることになる。この場合、共重合体(A)と共重合体(B)とがセメント混和剤においてセメント減水性能を発揮する全共重合体中において、主成分となることが好ましい。実質的に全ての共重合体が上記共重合体(A)と上記共重合体(B)とによって構成されることが好適であるが、本発明の効果を奏する限り、例えば、全共重合体100質量%中、上記共重合体(A)及び上記共重合体(B)の合計量が50質量%以上であることが好ましい。より好ましくは80質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上である。
以下に本発明を詳述する。
【0012】
上記共重合体(A)及び上記共重合体(B)は、共に、(ポリ)アルキレングリコールモノアルケニルエーテル系単量体(a)(以下、単に単量体(a)ということがある。)由来の構成単位と、不飽和カルボン酸系単量体(b)(以下、単に単量体(b)ということがある。)由来の構成単位とを含むものである。すなわち、上記共重合体(A)及び上記共重合体(B)は、共に、(ポリ)アルキレングリコールモノアルケニルエーテル系単量体(a)由来の構成単位と、不飽和カルボン酸系単量体(b)由来の構成単位とを有するものである。
なお、上記共重合体(A)及び上記共重合体(B)は、単量体(a)由来の構成単位、及び、単量体(b)由来の構成単位以外の構造を有していてもよいが、上記単量体(a)由来の構成単位、及び、単量体(b)由来の構成単位が主成分であることが好ましい。主成分であるとは、共重合体100質量%中、上記単量体(a)由来の構成単位、及び、単量体(b)由来の構成単位が50〜100質量%であることを意味する。より好ましくは、70質量%以上、更に好ましくは、80質量%以上、特に好ましくは、90質量%以上である。
【0013】
上記Yで表される炭素原子数2〜8のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、3−メチル−3−ブテニル基、2−メチル−3−ブテニル基、3−メチル−2−ブテニル、2−メチル−2ブテニル基、2−ブテニル基、2−メチル−2−プロペニル基、1,1−ジメチル−2−プロペニル基等が挙げられる。
上記Yの好ましい形態としては、炭素原子数2〜8のアルケニル基である。より好ましくは、炭素原子数4〜5のアルケニル基である。
上記ROは、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基の1種又は2種以上を表すものであるが、2種以上のオキシアルキレン基が存在する場合には、ランダム付加、ブロック付加、交互付加等のいずれの付加形態であってもよい。
上記ROで表されるオキシアルキレン基からなる構造は、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド、1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド等のアルキレンオキシドの1種又は2種以上により形成される構造である。このようなアルキレンオキシド付加物の中でも、エチレンオキシド、プロピレンオキシドであることが好ましい。更にエチレンオキシドが主体であるものが好ましい。
【0014】
上記ROで表されるオキシアルキレン基からなる構造は、エチレンオキシドを主体として形成されるものであることが好ましい。上記エチレンオキシドを主体として形成されるものとは、上記ROで表されるオキシアルキレン基からなる構造が2種以上のアルキレンオキシドにより形成されるときに、全アルキレンオキシドのモル数において、エチレンオキシドが大半を占めるものであることを意味する。本発明においては、上記ROで表されるオキシアルキレン基からなる構造を形成するアルキレンオキシドにおいて、大半を占めるものがエチレンオキシドであることにより、上記共重合体(A)及び上記共重合体(B)の親水性が適度に向上し、セメント粒子へ吸着することで減水性が発現される作用効果を充分に発揮することができる。上記ROで表されるオキシアルキレン基からなる構造において、大半を占めることを全オキシアルキレン基100モル%中のオキシエチレン基のモル%で表すと、50〜100モル%であることが好ましい。50モル%未満であると、上記ROで表されるオキシアルキレン基からなる構造の親水性が低下するおそれがある。より好ましくは、60モル%以上、更に好ましくは、70モル%以上、特に好ましくは80モル%以上、最も好ましくは、90モル%以上である。
【0015】
上記Rは、水素原子、又は、炭素原子数1〜10の炭化水素基であることが好ましい。より好ましくは、水素原子、又は、炭素原子数1〜5の炭化水素基であり、更に好ましくは、水素原子、又は、炭素原子数1〜3の炭化水素基であり、特に好ましくは、水素原子である。上記Rの炭素原子数が5よりも大きくなると、セメント粒子等を分散させるために充分な親水性を持たせることができず、それに伴い良好な減水性能が得られずに使用量が極端に増大するおそれがある。また、界面活性能が上がるため、空気連行性が向上し、粗大な泡が混入したセメント組成剤となり、硬化したコンクリートの圧縮硬度が充分に発現されなくなるおそれがある。
上記mは、2〜400であることが好ましい。より好ましくは、3〜300であり、更に好ましくは、5〜250であり、特に好ましくは、10〜200である。
また、重合性と親水性の面からは、10〜150であることが好適である。より好ましくは、20〜130であり、更に好ましくは、25〜120である。
【0016】
上記不飽和カルボン酸系単量体(b)としては、重合性不飽和基とカルボアニオンを形成しうる基とを有する単量体であればよいが、不飽和モノカルボン酸系単量体や不飽和ジカルボン酸系単量体等が好適である。上記不飽和モノカルボン酸系単量体としては、分子内に不飽和基とカルボアニオンを形成しうる基とを1つずつ有する単量体であればよく、好ましい形態としては、下記一般式(2)で表される化合物である。
【0017】
【化2】

【0018】
上記一般式(2)中、R及びRは、同一又は異なっても良く、水素原子又はメチル基を表す。Mは、水素原子、金属原子、アンモニウム基又は有機アミン基を表す。
上記一般式(2)のMにおける金属原子としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子等の一価の金属原子;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属原子等の二価の金属原子;アルミニウム、鉄等の三価の金属原子が好適である。また、有機アミン基としては、エタノールアミン基、ジエタノールアミン基、トリエタノールアミン基等のアルカノールアミン基や、トリエチルアミン基が好適である。更に、アンモニウム基であってもよい。このような不飽和モノカルボン酸系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等;これらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩が好適である。これらの中でも、セメント減水性能の向上の面から、メタクリル酸;その一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩を用いることが好ましく、不飽和カルボン酸系単量体(b)として好適である。
上記不飽和ジカルボン酸系単量体としては、分子内に不飽和基を1つとカルボアニオンを形成しうる基を2つとを有する単量体であればよいが、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、フマル酸等や、それらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩及び有機アミン塩等、又は、それらの無水物が好適である。上記不飽和カルボン酸系単量体(b)としては、これらの他にも、不飽和ジカルボン酸系単量体と炭素数1〜22個のアルコールとのハーフエステル、不飽和ジカルボン酸類と炭素数1〜22のアミンとのハーフアミド、不飽和ジカルボン酸系単量体と炭素数2〜4のグリコールとのハーフエステル、マレアミン酸と炭素数2〜4のグリコールとのハーフアミドが好適である。
【0019】
上記不飽和カルボン酸系単量体(b)の使用量が多くなるほど、共重合体(A)又は(B)が有するカルボキシル基の数が増加し、上記吸着率が高くなる。また、上記(ポリ)アルキレングリコールモノアルケニルエーテル系単量体(a)が有するオキシアルキレン基の平均付加モル数が多くなるほど、共重合体が有するオキシアルキレン基による構造が多数となり、上記吸着率が高くなる。
上記共重合体(A)、すなわち、ポルトランドセメント粒子への吸着率が40%以上の共重合体を調製することは、上記不飽和カルボン酸系単量体(b)の使用量、及び、上記(ポリ)アルキレングリコールモノアルケニルエーテル系単量体(a)が有するアルキレンオキシド基の平均付加モル数を適宜調製することによって行うことが好適である。
上記吸着率が40%以上である共重合体、すなわち、上記共重合体(A)は、例えば、下記(1)〜(4)のような形態で調製すればよい。
(1)上記オキシアルキレン基の平均付加モル数を10モル未満である上記単量体(a)を用い、かつ、上記不飽和カルボン酸系単量体(b)の使用量を20質量%以上とする。
(2)オキシアルキレン基の平均付加モル数を10〜25モルである上記単量体(a)を用い、かつ、上記不飽和カルボン酸系単量体(b)の使用量を15質量%以上とする。
(3)オキシアルキレン基の平均付加モル数を25〜50モルである上記単量体(a)を用い、上記不飽和カルボン酸系単量体(b)の使用量を7質量%以上とする。
(4)オキシアルキレン基の平均付加モル数を50モル以上である上記単量体(a)を用い、かつ、上記不飽和カルボン酸系単量体(b)の使用量を5質量%以上とする。
上記実施形態(1)〜(4)は、上記共重合体(A)を好適に調製することができる方法の例示であって、共重合体(A)は、これらの形態に限られるものではない。これらの形態は、上記吸着率を40%以上とするために通常必要と思われる臨界点付近の条件であり、その他の要因によって吸着率を40%以上にできる場合には、上記形態(1)〜(4)の範囲を外れてもよい。また、上記実施形態(1)〜(4)は、オキシアルキレン基の平均付加モル数がより大きい単量体(a)を用いること、及び/又は、上記不飽和カルボン酸系単量体(b)の使用量をより多くして調製することにより、吸着率を更に向上することが好ましい。これらに加えて、本明細書の参考例における共重合体の構成及び吸着率を参照することによって、40%以上の吸着率を有する共重合体を調製することが可能である。
【0020】
上記共重合体(B)は、単量体(a)及び単量体(b)以外の単量体(c)由来の構成単位を有していてもよい。単量体(c)は、(メタ)アクリル酸エステル系単量体であることが好ましい。より好ましくは、ヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルである。ヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルとは、下記一般式(3)で表される化合物である。
【0021】
【化3】

【0022】
上記一般式(3)中、R及びRは、同一又は異なっても良く、水素原子又はメチル基を表す。Rは、炭素原子数1〜10のヒドロキシアルキル基を表す。
上記Rがヒドロキシアルキル基であることによって、セメント粒子等を分散させるために充分な親水性を持たせることができる。
上記Rとしてより好ましくは、炭素原子数1〜5のヒドロキシアルキル基であり、更に好ましくは、炭素原子数1〜3のヒドロキシアルキル基であり、特に好ましくは、炭素原子数2のヒドロキシアルキル基である。上記一般式(3)で表される化合物として最も好ましくは、2−ヒドロキシエチルアクリレートである。
上記Rの炭素原子数が大きすぎると、セメント粒子等を分散させるために充分な親水性を持たせることができず、それに伴い良好な減水性能が得られずに使用量が極端に増大するおそれがある。また、界面活性能が上がるため、空気連行性が向上し、粗大な泡が混入したセメント組成剤となり、硬化したコンクリートの圧縮硬度が充分に発現されなくなるおそれがある。
また、上記R及びRは、水素原子であることが好ましい。
【0023】
上記共重合体(B)が上記単量体(c)由来の構成単位を有する場合、共重合体100質量%中、上記単量体(c)由来の構成単位は、30質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、20質量%以下であり、更に好ましくは、10質量%以下である。
このような範囲であると、スランプ保持性に優れた共重合体(B)が効果的に調製できるので有利である。
【0024】
上記吸着率が40%未満である共重合体、すなわち、上記共重合体(B)は、例えば、下記(5)〜(8)のような形態で調製すればよい。
(5)上記オキシアルキレン基の平均付加モル数が10モル未満である上記単量体(a)を用い、かつ、上記不飽和カルボン酸系単量体(b)の使用量を20質量%未満とする。
(6)オキシアルキレン基の平均付加モル数が10〜25モルである上記単量体(a)を用い、かつ、上記不飽和カルボン酸系単量体(b)の使用量を15質量%未満とする。
(7)オキシアルキレン基の平均付加モル数が25〜50モルである上記単量体(a)を用い、かつ、上記不飽和カルボン酸系単量体(b)の使用量を7質量%未満とする。
(8)オキシアルキレン基の平均付加モル数が50モル以上である上記単量体(a)を用い、かつ、上記不飽和カルボン酸系単量体(b)の使用量を5質量%未満とする。
上記実施形態(5)〜(8)は、上記共重合体(B)を好適に調製することができる方法の例示であって、共重合体(B)は、これらの形態に限られるものではない。これらの形態は、上記吸着率を40%未満とするために通常必要と思われる臨界点付近の条件であり、その他の要因によって吸着率を40%未満にできる場合には、上記形態(5)〜(8)の範囲を外れてもよい。また、上記実施形態(5)〜(8)は、オキシアルキレン基の平均付加モル数がより小さい単量体(a)を用いること、及び/又は、上記不飽和カルボン酸系単量体(b)の使用量をより少なくして調製することにより、吸着率を更に下げることが好ましい。これらに加えて、本明細書の参考例における共重合体の構成及び吸着率を参照することによって、40%未満の吸着率を有する共重合体を調製することが可能である。
【0025】
本発明のセメント混和剤においては、セメント粒子への吸着率が40%以上である共重合体(A)とセメント粒子への吸着率が40%未満である共重合体(B)とを用いることになるが、吸着率を測定して評価する場合、セメント100質量%に対して共重合体の固形分が0.1質量%となるように添加したときに、添加から5分後の25℃でのセメント粒子への吸着率を測定して共重合体の吸着率を評価することが好ましい。
この場合、上記共重合体(A)は、セメント100質量%に対して共重合体の固形分が0.1質量%となるように添加したときに、添加から5分後の25℃でのセメント粒子への吸着率が40%以上であり、上記共重合体(B)は、セメント100質量%に対して共重合体の固形分が0.1質量%となるように添加したときに、添加から5分後の25℃でのセメント粒子への吸着率が40%未満であるということになる。
【0026】
上記吸着率の測定は、例えば、下記のようにして行うことが好適である。
25℃に調温された室内において、まず、ビーカーに普通ポルトランドセメント100質量%に対して固形分換算で0.1質量%となるように重合体あるいは重合体が溶解した水溶液を入れ、さらに水を加えて合計100gとなるようにし、スターラーで攪拌して均一に溶解させる。次いで、同じビーカーにスターラーで攪拌しながら100g(水/セメント比で100重量%)のセメントを加えてから5分間攪拌した後、濾過を行ない濾液を採取する。得られた濾液中に残存する重合体の量を示差屈折計(以下、RIともいう。)で測定する。そして、下記式で吸着率を計算する。
吸着率(%)={[(0.1質量%水溶液のRIチャート上での共重合体分の面積)−(吸着後のセメント濾液のRIチャート上での共重合体分の面積)]/(0.1質量%水溶液のRIチャート上での共重合体分の面積)}×100
上記吸着率の試験は、室温で行うことができるが、上述したように25℃で行うことが好ましい。また、試験の開始前から吸着率の測定時まで室温を25℃に保つことが好適である。
【0027】
上記吸着率の試験に用いるセメントとしては、普通ポルトランドセメントを用いることが好適である。上記普通ポルトランドセメントとしては、JIS R−5210−2003に適合するものを用いることが好ましく、例えば、太平洋セメント社製普通ポルトランドセメントを用いることが好適である。なお、上記太平洋セメント社製普通ポルトランドセメントは、通常、下記のような特性を有するものである。
強熱減量:1.81(lg.loss%)
酸化マグネシウム含有量:1.28(質量%)
三酸化硫黄含有量:2.09(質量%)
塩化物イオン含有量:0.017(質量%)
全アルカリ含有量:0.51(質量%)
ケイ酸三カルシウム含有量:54(質量%)
ケイ酸二カルシウム含有量:21(質量%)
アルミン酸三カルシウム含有量:9(質量%)
鉄アルミン酸四カルシウム含有量:9(質量%)
密度:3.16(g/cm
比表面積:3300(cm/g)
凝結 水量:27.6%、始発:2−20(h−min)、終結:3−30(h−min)
水和熱 7日間:331(J/g)、28日間:379(J/g)
【0028】
上記示差屈折計としては、例えば、下記のGPC分子量測定条件を用いることが好適である。GPCとは、ゲル浸透クロマトグラフィー(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー;以下、「GPC」という。)のことであり、更に具体的には、下記条件のように示差屈折検出器(RIという)を用いた標準物質から算出される分子量測定装置のことである。
(GPC分子量測定条件)
使用カラム:東ソー社製TSKguardColumn SWXL+TSKge1 G4000SWXL+G3000SWXL+G2000SWXL
溶離液:水10999g、アセトニトリル6001gの混合溶媒に酢酸ナトリウム三水和物115.6gを溶かし、更に酢酸でpH6.0に調整した溶離液溶液を用いる。
打込み量:0.1%水溶液あるいは吸着率の測定で得られたろ液100μL
溶離液流速:0.8mL/min
カラム温度:40℃
標準物質:ポリエチレングリコール、ピークトップ分子量(Mp)272500、219300、85000、46000、24000、12600、4250、7100、1470
検量線次数:三次式
検出器:日本Waters社製 410 示差屈折検出器
解析ソフト:日本Waters社製 MILLENNIUM Ver.3.21
上記RIチャート上での共重合体分の面積とは、上記0.1質量%水溶液又は吸着後のセメント濾液をGPCを用いて分子量分布を測定した分子量分布図において、縦軸を溶出容量、横軸を溶出時間(高分子量体になるほど溶出が早いものとする。)とすると、分子量分布を示す曲線とベースラインを示す直線とに囲まれる部分のうち、共重合体分が検出されるピークの面積を意味するものである。GPCによる分子量測定においては、高分子量体になるほど溶出が早いため、上記共重合体によって形成されるピークに続いて、例えば、共重合体の調製において副生するオリゴマー、及び、残存する単量体等の低分子量体が検出されることとなるが、これらの低分子量体によって形成される面積は、上記共重合体分の面積に含まれない。分子量分布を示す曲線において、共重合体が溶出した後の最初の谷からベースラインに対して垂直に線を引き(以下、たんに垂線とする。)、垂線と分子量分布を示す曲線とベースラインとに囲まれる部分をもって、上記RIチャート上での共重合体分の面積とすることが好適である。上記共重合体分の面積の測定方法は、垂線と分子量分布を示す曲線とベースラインとに囲まれる部分の面積を計測できる方法であれば特に限られないが、例えば、日本Waters社製MILLENNIUM Ver.3.21によって測定することが好適である。上記吸着率の測定方法については、後述する実施例において図を用いて具体的に説明する。
セメント粒子に吸着した共重合体は、濾過されて溶液中から取り除かれるため、分子量測定においては検出されない。したがって、この面積は、液中に含まれる共重合体の総重量に比例する値となるから、この面積を用いて上記式のよう計算すれば、重合体の吸着率、すなわち、共重合体100重量%中において、何重量%の共重合体がセメント粒子に吸着しているかを算出することができる。例えば、重合体がすべてセメント粒子に吸着して、濾液から検出されなければ吸着率は100%となる。このように、上記吸着率とは、共重合体100重量%中において何重量%の共重合体がセメント粒子に吸着しているかを表す値である。したがって、上記吸着率は、そのような値を算出することができれば、上述した共重合体分の面積を用いる計算式による方法に限られず、他の方法によっても適宜算出することが可能である。
【0029】
なお、上記測定は、普通ポルトランドセメントを用いて行うことが好適であるが、本発明のセメント混和剤は、普通ポルトランドセメントにのみ有効であることを意味するものではない。その他のセメント粒子であっても、セメント粒子の表面に陽イオンが存在してプラスに荷電していれば、上記共重合体(A)及び上記共重合体(B)が有するそれぞれの構造に由来して、吸着率に差が生じると考えられ、本発明の効果を発揮することができる。
上記のように共重合体の吸着率に差が生じれば、吸着率の高い共重合体によってセメント粒子等の減水性が向上し、吸着率の低い共重合体によってスランプ保持性能が発揮されることになる。これによって、これらの性能がバランス良く発揮され、優れた減水性能とスランプ保持性を兼ね備え、かつ使用量が少なく経済性の高いセメント混和剤とすることが可能となる。従来において、減水性が相対的に高い共重合体と、スランプ保持性能が相対的に高い共重合体とを組み合わせること、またこのような組合せがセメント粒子に対する共重合体の吸着率に関わっていることに関する知見は見あたらない。したがって、ここに本発明の特徴があるといえる。
また粒子の表面に陽イオンが存在してプラスに荷電していることは、セメント混和剤を用いることになるセメント組成物に含有されているセメント等において共通の性質であると考えられる。
これらのことから、普通ポルトランドセメントを用いて測定した吸着率が上記のようになる共重合体を用いれば、他のセメント等に対しても同様の効果を発揮することができるといえる。
すなわち、上記セメント混和剤は、普通ポルトランドセメントを用いて、セメント100質量%に対して共重合体の固形分が0.1質量%となるように添加したときに、添加から5分後の25℃でのセメント粒子への吸着率が上記のようになる共重合体(A)と共重合体(B)とを用いるのが好適であり、普通ポルトランドセメントによって構成されるセメント組成物に対して適用するのが特に好適であるといえるが、セメントの種類にかかわらず、すなわち、普通ポルトランドセメントのうち上記の特性をもつもの以外や、他のセメント等によって構成される組成物ついても、セメント混和剤を用いることになるセメント組成物(モルタル、コンクリート等も含めた、いわゆるセメント組成物)であれば、適用することができる。一方で、セメント混和剤を用いることになるセメント組成物に含有されているセメント等に対する共重合体の吸着率が上記のようになることも好ましい形態であるといえるが、本発明においては、上述したとおり、普通ポルトランドセメントを用いて測定した共重合体の吸着率が上記のようになれば、他のセメント等が用いられたセメント組成物に対しても用いることができる。
【0030】
上記共重合体(A)のセメント粒子への吸着率が43%以上であることも本発明の好適な実施形態の1つである。
上記形態として、具体的には、上記共重合体(A)の添加から5分後のセメント粒子への吸着率が43%以上であると、少ない使用量で所望の流動性及びスランプ値を得ることができるため、優れた減水性能がより発揮されることとなる。
上記共重合体(A)の添加から5分後のセメント粒子への吸着率は、43%以上であることが好ましい。より好ましくは、45%以上であり、更に好ましくは、55%以上であり、特に好ましくは、60%以上である。
【0031】
上記共重合体(B)のセメント粒子への吸着率が35%未満であることも本発明の好適な実施形態の1つである。
上記形態として、具体的には、上記共重合体(B)の添加から5分後のセメント粒子への吸着率が35%未満であると、初期における吸着速度が遅くなり、後から吸着する割合が増大するため、優れたスランプ保持性がより発揮されることとなる。
上記共重合体(B)の添加から5分後のセメント粒子への吸着率は、35%未満であることが好ましい。特に好ましくは、25%未満である。
【0032】
上記共重合体(A)のセメント粒子への吸着率と上記共重合体(B)のセメント粒子への吸着率との差が5%以上であることも本発明の好適な実施形態の1つである。
上記形態として、具体的には、上記共重合体(A)の添加から5分後のセメント粒子への吸着率と上記共重合体(B)の添加から5分後のセメント粒子への吸着率との差が5%以上であると、優れた減水性能とスランプ保持性を兼ね備えるという効果がより発揮されることとなる。
上記形態を有するセメント混和剤は、例えば、共重合体(A)及び共重合体(B)をそれぞれ調製した後、それぞれを適宜混合することによって得ることができる。
上記吸着率の差は、10%以上であることが好ましい。より好ましくは、15%以上であり、更に好ましくは、20%以上であり、特に好ましくは、25%以上であり、最も好ましくは、30%以上である。さらに最も好ましくは40%以上である。
なお、上記吸着率の差は、共重合体(A)の吸着率から共重合体(B)の吸着率を引いた値である。例えば、共重合体(A)の吸着率が60%、共重合体(B)の吸着率が30%の場合、上記吸着率の差は、60%−30%=30%ということになる。
【0033】
上記セメント混和剤は、平均吸着率が50%以上になるように配合すると、特に分散性が優れるセメント混和剤が得られ、平均吸着率が40%以下になるように配合すると、特に保持性が優れるセメント混和剤が得られ、平均吸着率40〜50%になるように配合すれば、分散性と保持性のバランスが優れるセメント混和剤が得られる。したがって、要求される性能に応じて、ポリマーの配合割合を調整するのが好ましい。
【0034】
前記セメント混和剤は、共重合体(A)と共重合体(B)との質量比が1:9〜9:1であることも本発明の好適な実施形態の1つである。
上記質量比が1:9〜9:1であると、優れた減水性能とスランプ保持性を兼ね備えるという効果がより発揮されることとなる。
上記共重合体(A)と共重合体(B)との質量比が1:9〜9:1であるセメント混和剤は、例えば、共重合体(A)及び共重合体(B)をそれぞれ調製した後、それぞれの適量を適宜混合することによって得ることができる。なお、上記質量比は、固形分換算による値である。
上記質量比は、1:5〜5:1であることが好ましい。より好ましくは、1:4〜4:1である。更に好ましくは、1:3〜3:1である。特に好ましくは、1:2.5〜2.5:1である。最も好ましくは、1:2〜2:1である。
【0035】
上記共重合体(A)の重量平均分子量は、酸量よりも吸着率に対する影響は少なく、酸量が小さくなるほど、重量平均分子量が吸着率に与える影響は少なくなる傾向が増大する。
上記共重合体(A)の重量平均分子量は、上記共重合体(A)を構成する(ポリ)アルキレングリコールモノアルケニルエーテル系単量体(a)由来の構造、特に、アルキレンオキシド基の平均付加モル数や酸量などの違いにより一義的には決められないが、
上記共重合体(A)の重量平均分子量は、20000以上であることが好ましい。より好ましくは、30000以上であり、更に好ましくは、40000以上である。
上記共重合体(B)の重量平均分子量は、50000以下であることが好ましい。より好ましくは、40000以下であり、更に好ましくは、30000以下であり、特に好ましくは、20000以下である。
なお、重合体の重量平均分子量は、GPCによるポリエチレングリコール換算の重量平均分子量であり、下記GPC測定条件により測定することが好ましい。
(GPC分子量測定条件)
使用カラム:東ソー社製TSKguardColumn SWXL+TSKge1 G4000SWXL+G3000SWXL+G2000SWXL
溶離液:水10999g、アセトニトリル6001gの混合溶媒に酢酸ナトリウム三水和物115.6gを溶かし、更に酢酸でpH6.0に調整した溶離液溶液を用いる。
打込み量:0.5%溶離液溶液100μL
溶離液流速:0.8mL/min
カラム温度:40℃
標準物質:ポリエチレングリコール、ピークトップ分子量(Mp)272500、219300、85000、46000、24000、12600、4250、7100、1470
検量線次数:三次式
検出器:日本Waters社製 410 示差屈折検出器
解析ソフト:日本Waters社製 MILLENNIUM Ver.3.21
【0036】
本発明者らは、上記共重合体(A)及び上記共重合体(B)のセメント粒子への吸着は、分子量が高くなるほど速やかに行なわれ、高分子量体がセメント粒子に吸着した後、経時的に順次、低分子量体が吸着していくことを発見した。更に、本発明者らは、このような吸着は、セメント粒子が上記セメント混和剤と接触した直後から始まり、上記共重合体(A)であれば、1時間前後あるいはそれ以上の時間で、また、上記共重合体(B)であれば、2時間前後あるいはそれ以上の時間で飽和吸着に達する。
【0037】
そして、上記共重合体(B)は、セメント粒子への初期吸着を極力抑えて、その後の経時的な吸着を稼ぐものであり、セメント減水性能を時間と共に向上、あるいは持続させるものである。逆に、上記共重合体(A)はセメント粒子への吸着を極めて短時間で終わらせて、初期のセメント減水性能を高めるものである。
【0038】
上記共重合体(A)及び上記共重合体(B)とは、GPCチャートにおいて、それぞれ別個のピークをもつものであることが好ましい。それぞれ別個のピークをもつとは、共重合体(A)が1つのピーク又は山をもち、共重合体(B)が1つのピーク又は山をもつということであり、それぞれの山が重なっていてもよい。
それぞれ別個のピーク又は山をもつ共重合体であれば、吸着率の違いによる効果が充分発揮されるといえる。それぞれの山が重なっていてもよいのは、吸着率は分子量のみによって決まるものではなく、オキシアルキレン基の平均付加モル数、不飽和カルボン酸系単量体(b)の含有量によっても影響されるからである。
【0039】
上記共重合体(A)及び上記共重合体(B)を調製する方法としては、例えば、単量体成分と重合開始剤とを用いて、溶液重合や塊状重合等の通常の重合方法により行うことができる。重合開始剤としては、通常使用されるものを用いることができ、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;アゾビス−2メチルプロピオンアミジン塩酸塩、アゾイソブチロニトリル等のアゾ化合物;ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド等のパーオキシドが好適である。また、促進剤として、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、モール塩、ピロ重亜硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート、アスコルビン酸等の還元剤;エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、グリシン等のアミン化合物を併用することもできる。これらの重合開始剤や促進剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記水溶重合は、重合開始剤として、アンモニアまたはアルカリ金属の過硫酸塩:過酸化水素;アゾビス−2メチルプロピオンアミジン塩酸塩等のアゾアミジン化合物などの水溶性の重合開始剤が使用され、この際、亜硫酸水素ナトリウムなどの促進剤を併用することもできる。また、低級アルコール、芳香族あるいは脂肪族炭化水素、エステル化合物あるいはケトン化合物を重合系の溶剤として用いる際には、ベンゾイルパーオキシドやラウロイルパーオキシドなどのパーオキシド;クメンハイドロパーオキシドなどのハイドロパーオキシド;アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物などが重合開始剤として用いられる。この際、アミン化合物などの促進剤を併用することもできる。更に、水−低級アルコール混合溶剤を用いる場合には、上記の種々の重合開始剤あるいは重合開始剤と促進剤との組み合わせの中から適宜選択して用いることができる。
上記塊状重合は、重合開始剤としてベンゾイルパーオキシドやラウロイルパーオキシド等のパーオキシド;クメンハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等を用い、50〜200℃の温度範囲内で行うことが好適である。
【0040】
上記共重合方法では、上記不飽和モノカルボン酸系単量体(b)の中和率を0〜60mol%として単量体成分の共重合を行うことが好ましい。不飽和モノカルボン酸系単量体(b)の中和率は、不飽和モノカルボン酸系単量体(b)の全モル数を100mol%としたときに、塩を形成している不飽和モノカルボン酸系単量体(b)のmol%で表されることになる。不飽和モノカルボン酸系単量体(b)の中和率が60mol%を超えると、共重合工程における重合率が上がらず、得られる重合体の分子量が低下したり、製造効率が低下したりするおそれがある。より好ましくは50mol%以下であり、更に好ましくは40mol%以下であり、より更に好ましくは30mol%以下であり、特に好ましくは20mol%以下であり、最も好ましくは10mol%以下である。
上記不飽和モノカルボン酸系単量体(b)の中和率を0〜60mol%として共重合を行う方法としては、全て酸型である不飽和モノカルボン酸系単量体(b)、すなわち全ての不飽和モノカルボン酸系単量体(b)において上記一般式(2)におけるMが水素原子であるものを中和せずに共重合に付することにより行う方法や、不飽和モノカルボン酸系単量体(b)をアルカリ性物質を用いてナトリウム塩やアンモニウム塩等の塩の形態に中和するときに中和率を0〜60mol%としたものを共重合に付することにより行う方法が好適である。
【0041】
上記共重合方法においては、連鎖移動剤も必要に応じて使用することができ、通常使用されるものを1種又は2種以上使用できる。このような連鎖移動剤としては、親水性連鎖移動剤が好適に用いられるが、必要に応じて、疎水性連鎖移動剤を用いることもできる。上記共重合方法においてはまた、単量体成分が、オキシアルキレン基を有する単量体、すなわちポリアルキレングリコール系不飽和単量体(a)の1種又は2種以上を含む場合、疎水性連鎖移動剤を用いることもできる。
共重合の際に連鎖移動剤を用いると、得られる共重合体(A)及び共重合体(B)の分子量調整が容易となる。特に、全単量体の使用量が、重合時に使用する原料の全量に対して30重量%以上となる高濃度で重合反応を行う場合、連鎖移動剤を用いることが有効である。上記連鎖移動剤は、共重合の際に、常に反応系中に存在するようにすることが好ましい。特に、前記連鎖移動剤としてチオール系連鎖移動剤あるいは低級酸化物およびその塩を用いる場合には、連鎖移動剤を一括投入せずに、滴下等により連続的に投入するか、分割投入するなど、反応容器内に長時間かけて逐次添加することが有効である。反応の初期と後半とで、モノマーに対する連鎖移動剤の濃度が極端に異なって、反応後半で連鎖移動剤が不足する場合には、共重合体の分子量が極端に大きくなり、セメント混和剤として性能が低下することになる。
【0042】
上記親水性連鎖移動剤としては、通常用いられるものを使用することができ、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、メルカプトプロピオン酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、2−メルカプトエタンスルホン酸等のチオール系連鎖移動剤;2−アミノプロパン−1−オール等の1級アルコール;イソプロパノール等の2級アルコール;亜リン酸、次亜リン酸及びその塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等)や亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸及びその塩(亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜二チオン酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、亜二チオン酸カリウム、メタ重亜硫酸カリウム等)の低級酸化物及びその塩が好適である。
【0043】
上記親水性連鎖移動剤は、必要に応じて疎水性連鎖移動剤の1種又は2種と併用してもよい。上記疎水性連鎖移動剤とは、炭素数3以上の炭化水素基をもつチオール化合物又は25℃の水に対する溶解度が10%以下の化合物が好適であり、上述した連鎖移動剤や、ブタンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール、シクロヘキシルメルカプタン、チオフェノール、チオグリコール酸オクチル、2−メルカプトプロピオン酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル、メルカプトプロピオン酸2−エチルヘキシルエステル、オクタン酸2−メルカプトエチルエステル、1,8−ジメルカプト−3,6−ジオキサオクタン、デカントリチオール、ドデシルメルカプタン等のチオール系連鎖移動剤;四塩化炭素、四臭化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム、ブロモトリクロロエタン等のハロゲン化物;α−メチルスチレンダイマー、α−テルピネン、γ−テルピネン、ジペンテン、ターピノーレン等の不飽和炭化水素化合物が好適である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、炭素数3以上の炭化水素基を有するチオール系連鎖移動剤を含むことが好ましい。
【0044】
上記連鎖移動剤の反応容器への添加方法としては、直接、反応容器内に全量を添加する一括投入方法や、滴下、分割投入等の連続投入方法を適用することができる。また、連鎖移動剤を単独で反応容器へ導入してもよく、単量体成分を構成するオキシアルキレン基を有する単量体、すなわち、(ポリ)アルキレングリコールモノアルケニルエーテル系単量体(a)や溶媒等とあらかじめ混合してから反応容器へ導入してもよい。
上記共重合方法は、回分式でも連続式でも行うことができる。また、共重合の際、必要に応じて使用される溶媒としては、通常用いられるものを使用でき、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘプタン等の芳香族又は脂肪族炭化水素類;酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類が好適である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、単量体成分及び得られるポリカルボン酸系重合体の溶解性の点から、水及び炭素数1〜4の低級アルコールからなる群より選択される1種又は2種以上の溶媒を用いることが好ましい。
上記共重合方法において、単量体成分や重合開始剤等の反応容器への添加方法としては、反応容器に単量体成分の全てを仕込み、重合開始剤を反応容器内に添加することによって共重合を行う方法;反応容器に単量体成分の一部を仕込み、重合開始剤と残りの単量体成分を反応容器内に添加することによって共重合を行う方法;反応容器に重合溶媒を仕込み、単量体と重合開始剤の全量を添加する方法等が好適である。このような方法の中でも、得られる重合体の分子量分布を狭く(シャープに)することができ、セメント組成物等の流動性を高める作用であるセメント減水性を向上することができることから、重合開始剤と単量体を反応容器に逐次滴下する方法で共重合を行うことが好ましい。
上記共重合方法において、共重合温度等の共重合条件としては、用いられる共重合方法、溶媒、重合開始剤、連鎖移動剤により適宜定められるが、共重合温度としては、通常5℃以上であることが好ましく、また、150℃以下であることが好ましい。より好ましくは40℃以上であり、更に好ましくは45℃以上であり、特に好ましくは50℃以上である。また、より好ましくは120℃以下であり、更に好ましくは100℃以下であり、特に好ましくは85℃以下である。
上記共重合方法により得られる重合体は、そのままでもセメント添加剤の主成分として用いられるが、必要に応じて、更にアルカリ性物質で中和して用いてもよい。アルカリ性物質としては、一価金属及び二価金属の水酸化物、塩化物及び炭酸塩等の無機塩;アンモニア;有機アミンを用いることが好ましい。
【0045】
上記セメント混和剤中における上記共重合体(A)と共重合体(B)との合計量は、所望の減水性能に応じて適宜調節すればよく、例えば、固形分換算で、セメント混和剤100質量%中、50質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、60質量%以上であり、更に好ましくは70質量%以上であり、特に好ましくは、80%以上である。
上記セメント混和剤は、セメント混和剤として各種の性能が発揮されることになるように、必要に応じて、消泡剤等の添加剤や他の重合体、化合物等を適宜添加することができる。また上記セメント混和剤は、水溶液の形態で使用してもよいし、又は、反応後にカルシウム、マグネシウムなどの二価金属の水酸化物で中和して多価金属塩とした後に乾燥させたり、シリカ系微粉末などの無機粉体に担持して乾燥させたり、ドラム型乾燥装置、ディスク型乾燥装置又はベルト式乾燥装置を用いて支持体上に薄膜状に乾燥固化させた後に粉砕したり、スプレードライヤーによって乾燥固化させたりすることにより粉体化して使用してもよい。また、粉体化した本発明のセメント混和剤を予めセメント粉末やドライモルタルのような水を含まないセメント組成物に配合して、左官、床仕上げ、グラウトなどに用いるプレミックス製品として使用してもよいし、セメント組成物の混練時に配合してもよい。上記セメント混和剤は、他のセメント混和剤と組み合わせて使用してもよい。その他のセメント混和剤としては、例えば、従来のセメント分散剤、空気連行剤、セメント湿潤剤、膨張剤、防水剤、遅延剤、急結剤、水溶性高分子物質、増粘剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、硬化促進剤、及び消泡剤等が挙げられる。このように上記セメント混和剤は、上記重合体以外の成分を含んでいてもよい。
【0046】
上記セメント混和剤は、公知のセメント分散剤と併用することが可能であり、複数の公知のセメント分散剤の併用も可能である。尚、公知のセメント分散剤を用いる場合、本発明のセメント混和剤と公知のセメント分散剤との配合質量比は、使用する公知のセメント分散剤の種類、配合及び試験条件等の違いにより一義的には決められないが、1〜99/99〜1が好ましく、5〜95/95〜5がより好ましく、10〜90/90〜10が更に好ましい。上記併用する公知のセメント分散剤としては、分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系分散剤(S)が好ましい。分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系分散剤(S)を併用することにより、高い分散保持性を有し、かつ、セメントの銘柄やロットNo.によらず安定した減水性能を発揮するセメント混和剤となる。スルホン酸系分散剤(S)は、主にスルホン酸基によってもたらされる静電的反発によりセメントに対する減水性を発現する分散剤であって、公知の各種スルホン酸系分散剤を用いることができるが、分子中に芳香族基を有する化合物であることが好ましい。具体的には、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のポリアルキルアリールスルホン酸塩系;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸塩系;アミノアリールスルホン酸−フェノール−ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸塩系;リグニンスルホン酸塩、変成リグニンスルホン酸塩等のリグニンスルホン酸塩系;ポリスチレンスルホン酸塩系等の各種スルホン酸系分散剤が挙げられる。水/セメント比が高いコンクリートの場合にはリグニンスルホン酸塩系の分散剤が好適に用いられ、一方、より高い減水性能が要求される水/セメント比が中程度のコンクリートの場合には、ポリアルキルアリールスルホン酸塩系、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸塩系、芳香族アミノスルホン酸塩系、ポリスチレンスルホン酸塩系等の分散剤が好適に用いられる。尚、分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系分散剤(S)を2種類以上併用してもよい。
【0047】
尚、本発明のセメント混和剤中の各重合体成分(共重合体(A)、共重合体(B))と分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系分散剤(S)とは、セメント組成物の混練前に予め各々を溶解させた水溶液をセメントに添加してもよく、セメント組成物の混練時に各々の水溶液をセメントに添加してもよく、粉体化した各々の配合物をセメントに添加してもよく、セメント組成物の混練時に各々の粉体化物をセメントに添加してもよく、セメント組成物の混練時にいずれかの水溶液と粉体化物とをセメントに添加してもよい。
【0048】
本発明のセメント混和剤と分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系分散剤(S)との配合比率、すなわち(上記セメント混和剤中の各重合体成分(共重合体(A)、共重合体(B))の合計量/スルホン酸系分散剤(S))(質量%)は、併用する本発明のセメント混和剤と分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系分散剤(S)との性能バランスによって最適な比率は異なるが、1〜99/99〜1が好ましく、5〜95/95〜5がより好ましく、10〜90/90〜10が更に好ましい。
【0049】
本発明のセメント混和剤と分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系分散剤(S)とを必須成分として含むセメント混和剤と、セメントとの配合割合としては、例えば、水硬セメントを用いるモルタルやコンクリート等に使用する場合には、セメント質量の0.01〜10.0%とすることが好ましい。より好ましくは0.02〜5.0%、更に好ましくは0.05〜2.0%である。
【0050】
尚、水/セメント比が比較的高く、特に高い減水性能が要求されない場合には、共重合体(A)又は共重合体(B)と分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系分散剤(S)とを必須成分として含むセメント混和剤も好適である。
【0051】
上記セメント混和剤は、各種水硬性材料、すなわち、セメントや石膏などのセメント組成物やそれ以外の水硬性材料に用いることができる。このような水硬性材料と水と本発明のセメント混和剤とを含有し、更に必要に応じて、細骨材(砂など)や粗骨材(砕石など)を含む水硬性組成物の具体例としては、例えば、セメントペースト、モルタル、コンクリート、プラスターなどが挙げられる。上記水硬性組成物の中では、水硬性材料としてセメントを使用するセメント組成物が最も一般的であり、セメント組成物は、本発明のセメント混和剤、セメント及び水を必須成分として含有する。このようなセメント組成物は、本発明の好ましい実施形態の1つである。
【0052】
上記セメント組成物に使用されるセメントは、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩、及びそれぞれの低アルカリ形)、各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント)、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント(1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント)、グラウト用セメント、油井セメント、低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント)、超高強度セメント、セメント系固化材、エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の1種以上を原料として製造されたセメント)などが挙げられる。さらに、セメント組成物には、高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石灰石粉末などの微粉体や石膏などを添加してもよい。また、骨材としては、砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材など以外に、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質などの耐火骨材を使用することができる。
【0053】
上記セメント組成物においては、その1mあたりの単位水量、セメント使用量及び水/セメント比(質量比)は、単位水量が好ましくは100kg/m以上、185kg/m以下、より好ましくは120kg/m以上、175kg/m以下であり、使用セメント量が好ましくは200kg/m以上、800kg/m以下、より好ましくは250kg/m以上、800kg/m以下であり、水/セメント比(質量比)が好ましくは0.1以上、0.7以下、より好ましくは0.2以上、0.65以下であり、貧配合から富配合まで幅広く使用可能である。上記セメント混和剤は、高減水率領域、すなわち、水/セメント比(質量比)が0.15以上、0.5以下(好ましくは0.15以上、0.4以下)といった水/セメント比の低い領域においても使用可能であり、さらに、単位セメント量が多く水/セメント比が小さい高強度コンクリートや、単位セメント量が300kg/m以下の貧配合コンクリートのいずれにも有効である。
【0054】
上記セメント組成物において、上記セメント混和剤の配合量は、例えば、水硬性セメントを用いるモルタルやコンクリートなどに使用する場合には、固形分換算で、セメントの質量に対して、好ましくは0.01質量%以上、10.0質量%以下、より好ましくは0.02質量%以上、5.0質量%以下、更に好ましくは0.03質量%以上、3.0質量%以下、特に好ましくは、0.05質量%以上、2.0質量%以下である。このような配合量により、単位水量の低減、強度の増大、耐久性の向上などの各種の好ましい諸効果がもたらされる。上記セメント混和剤の配合量が0.01質量%未満であると、減水性能を充分に発揮することができないことがある。逆に、上記セメント混和剤の配合量が10.0質量%を超えると、減水性を向上させる効果が実質的に飽和することに加え、必要以上にセメント混和剤を使用することになり、製造コストが上昇することがある。
【0055】
上記セメント組成物は、高減水率領域においても高い減水性と減水保持性能を有し、かつ、低温時においても充分な初期減水性と粘性低減性とを発揮し、優れたワーカビリティを有することから、レディーミクストコンクリート、コンクリート2次製品(プレキャストコンクリート)用のコンクリート、遠心成形用コンクリート、振動締め固め用コンクリート、蒸気養生コンクリート、吹付けコンクリート等に有効であり、さらに、中流動コンクリート(スランプ値が22cm以上、25cm以下のコンクリート)、高流動コンクリート(スランプ値が25cm以上で、スランプフロー値が50cm以上、70cm以下のコンクリート)、自己充填性コンクリート、セルフレベリング材などの高い流動性を要求されるモルタルやコンクリートにも有効である。
【0056】
更に、本発明のセメント組成物は、以下の(1)〜(20)に例示するような他の公知のセメント添加剤(材)を含有することができる。
(1)水溶性高分子物質:ポリアクリル酸(ナトリウム)、ポリメタクリル酸(ナトリウム)、ポリマレイン酸(ナトリウム)、アクリル酸・マレイン酸共重合物のナトリウム塩等の不飽和カルボン酸重合物;メチルセルローズ、エチルセルローズ、ヒドロキシメチルセルローズ、ヒドロキシエチルセルローズ、カルボキシメチルセルローズ、カルボキシエチルセルローズ、ヒドロキシプロピルセルロース等の非イオン性セルローズエーテル類;メチルセルローズ、エチルセルローズ、ヒドロキシエチルセルローズ、ヒドロキシプロピルセルロース等の多糖類のアルキル化若しくはヒドロキシアルキル化誘導体の一部又は全部の水酸基の水素原子が、炭素数8〜40の炭化水素鎖を部分構造として有する疎水性置換基と、スルホン酸基又はそれらの塩を部分構造として含有するイオン性親水性置換基で置換されてなる多糖誘導体;酵母グルカンやキサンタンガム、β−1.3グルカン類(直鎖状、分岐鎖状のいずれでも良く、一例を挙げれば、カードラン、パラミロン、パキマン、スクレログルカン、ラミナラン等)等の微生物醗酵によって製造される多糖類;ポリアクリルアミド;ポリビニルアルコール;デンプン;デンプンリン酸エステル;アルギン酸ナトリウム;ゼラチン;分子内にアミノ基を有するアクリル酸のコポリマー及びその四級化合物等。
【0057】
(2)高分子エマルジョン:(メタ)アクリル酸アルキル等の各種ビニル単量体の共重合物等。
(3)遅延剤:グルコン酸、グルコヘプトン酸、アラボン酸、リンゴ酸又はクエン酸、及び、これらの、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、トリエタノールアミン等の無機塩又は有機塩等のオキシカルボン酸;グルコース、フラクトース、ガラクトース、サッカロース、キシロース、アピオース、リボース、異性化糖等の単糖類や、二糖、三糖等のオリゴ糖、又はデキストリン等のオリゴ糖、又はデキストラン等の多糖類、これらを含む糖蜜類等の糖類;ソルビトール等の糖アルコール;珪弗化マグネシウム;リン酸並びにその塩又はホウ酸エステル類;アミノカルボン酸とその塩;アルカリ可溶タンパク質;フミン酸;タンニン酸;フェノール;グリセリン等の多価アルコール;アミノトリ(メチレンホスホン酸)、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)及びこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等のホスホン酸及びその誘導体等。
【0058】
(4)早強剤・促進剤:塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム等の可溶性カルシウム塩;塩化鉄、塩化マグネシウム等の塩化物;硫酸塩;水酸化カリウム;水酸化ナトリウム;炭酸塩;チオ硫酸塩;ギ酸及びギ酸カルシウム等のギ酸塩;アルカノールアミン;アルミナセメント;カルシウムアルミネートシリケート等。
(5)鉱油系消泡剤:燈油、流動パラフィン等。
(6)油脂系消泡剤:動植物油、ごま油、ひまし油、これらのアルキレンオキシド付加物等。
(7)脂肪酸系消泡剤:オレイン酸、ステアリン酸、これらのアルキレンオキシド付加物等。
(8)脂肪酸エステル系消泡剤:グリセリンモノリシノレート、アルケニルコハク酸誘導体、ソルビトールモノラウレート、ソルビトールトリオレエート、天然ワックス等。
(9)オキシアルキレン系消泡剤:(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン付加物等のポリオキシアルキレン類;ジエチレングリコールヘプチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン2−エチルヘキシルエーテル、炭素原子数12〜14の高級アルコールへのオキシエチレンオキシプロピレン付加物等の(ポリ)オキシアルキルエーテル類;ポリオキシプロピレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等の(ポリ)オキシアルキレン(アルキル)アリールエーテル類;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール,3−メチル−1−ブチン−3−オール等のアセチレンアルコールにアルキレンオキシドを付加重合させたアセチレンエーテル類;ジエチレングリコールオレイン酸エステル、ジエチレングリコールラウリル酸エステル、エチレングリコールジステアリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレン脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタントリオレイン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル類;ポリオキシプロピレンメチルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルフェノールエーテル硫酸ナトリウム等の(ポリ)オキシアルキレンアルキル(アリール)エーテル硫酸エステル塩類;(ポリ)オキシエチレンステアリルリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルリン酸エステル類;ポリオキシエチレンラウリルアミン等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン類;ポリオキシアルキレンアミド等。
【0059】
(10)アルコール系消泡剤:オクチルアルコール、ヘキサデシルアルコール、アセチレンアルコール、グリコール類等。
(11)アミド系消泡剤:アクリレートポリアミン等。
(12)リン酸エステル系消泡剤:リン酸トリブチル、ナトリウムオクチルホスフェート等。
(13)金属石鹸系消泡剤:アルミニウムステアレート、カルシウムオレエート等。
(14)シリコーン系消泡剤:ジメチルシリコーン油、シリコーンペースト、シリコーンエマルジョン、有機変性ポリシロキサン(ジメチルポリシロキサン等のポリオルガノシロキサン)、フルオロシリコーン油等。
【0060】
(15)AE剤:樹脂石鹸、飽和又は不飽和脂肪酸、ヒドロキシステアリン酸ナトリウム、ラウリルサルフェート、ABS(アルキルベンゼンスルホン酸)、LAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸)、アルカンスルホネート、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル、ポリオキシエチレンアルキル(フエニル)エーテル硫酸エステル又はその塩、ポリオキシエチレンアルキル(フエニル)エーテルリン酸エステル又はその塩、蛋白質材料、アルケニルスルホコハク酸、α−オレフィンスルホネート等。
【0061】
(16)その他界面活性剤:オクタデシルアルコールやステアリルアルコール等の分子内に6〜30個の炭素原子を有する脂肪族1価アルコール、アビエチルアルコール等の分子内に6〜30個の炭素原子を有する脂環式1価アルコール、ドデシルメルカプタン等の分子内に6〜30個の炭素原子を有する1価メルカプタン、ノニルフェノール等の分子内に6〜30個の炭素原子を有するアルキルフェノール、ドデシルアミン等の分子内に6〜30個の炭素原子を有するアミン、ラウリン酸やステアリン酸等の分子内に6〜30個の炭素原子を有するカルボン酸に、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを10モル以上付加させたポリアルキレンオキシド誘導体類;アルキル基又はアルコキシ基を置換基として有してもよい、スルホン基を有する2個のフェニル基がエーテル結合した、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩類;各種アニオン性界面活性剤;アルキルアミンアセテート、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド等の各種カチオン性界面活性剤;各種ノニオン性界面活性剤;各種両性界面活性剤等。
(17)防水剤:脂肪酸(塩)、脂肪酸エステル、油脂、シリコン、パラフィン、アスファルト、ワックス等。
(18)防錆剤:亜硝酸塩、リン酸塩、酸化亜鉛等。
(19)ひび割れ低減剤:ポリオキシアルキルエーテル等。
(20)膨張材;エトリンガイト系、石炭系等。
【0062】
その他の公知のセメント添加剤(材)としては、セメント湿潤剤、増粘剤、分離低減剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、セルフレベリング剤、防錆剤、着色剤、防カビ剤等を挙げることができる。尚、上記公知のセメント添加剤(材)は、複数の併用も可能である。
【0063】
本発明のセメント組成物において、セメント及び水以外の成分についての特に好適な実施形態としては、次の1)〜4)が挙げられる。
1)(1)本発明のセメント混和剤、(2)オキシアルキレン系消泡剤の2成分を必須とする組み合わせ。尚、(2)のオキシアルキレン系消泡剤の配合質量比としては、(1)のセメント混和剤に対して0.01〜10質量%が好ましい。
【0064】
2)(1)本発明のセメント混和剤、(2)材料分離低減剤の2成分を必須とする組み合わせ。材料分離低減剤としては、非イオン性セルローズエーテル類等の各種増粘剤、部分構造として炭素数4〜30の炭化水素鎖からなる疎水性置換基と炭素数2〜18のアルキレンオキシドを平均付加モル数で2〜300付加したポリオキシアルキレン鎖とを有する化合物等が使用可能である。尚、(1)のセメント混和剤と(2)の材料分離低減剤との配合質量比としては、10/90〜99.99/0.01が好ましく、50/50〜99.9/0.1がより好ましい。この組み合わせからなるセメント組成物は、高流動コンクリート、自己充填性コンクリート、セルフレベリング材として好適である。
【0065】
3)(1)本発明のセメント混和剤、(2)遅延剤の2成分を必須とする組み合わせ。遅延剤としては、グルコン酸(塩)、クエン酸(塩)等のオキシカルボン酸類、グルコース等の糖類、ソルビトール等の糖アルコール類、アミノトリ(メチレンホスホン酸)等のホスホン酸類等が使用可能である。尚、(1)のセメント混和剤と(2)の遅延剤との配合質量比としては、50/50〜99.9/0.1が好ましく、70/30〜99/1がより好ましい。
【0066】
4)(1)本発明のセメント混和剤、(2)促進剤の2成分を必須とする組み合わせ。促進剤としては、塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム等の可溶性カルシウム塩類、塩化鉄、塩化マグネシウム等の塩化物類、チオ硫酸塩、ギ酸及びギ酸カルシウム等のギ酸塩類等が使用可能である。尚、(1)のセメント混和剤と(2)の促進剤との配合質量比としては、10/90〜99.9/0.1が好ましく、20/80〜99/1がより好ましい。
【0067】
本発明はまた、上記セメント混和剤を製造する方法でもある。
上記製造方法において、共重合体(A)及び共重合体(B)等の構成成分は、上記セメント混和剤に記載した方法に準じて行うことができ、また、上記製造方法は、その他通常の方法で行うことができる。
【発明の効果】
【0068】
本発明のセメント混和剤は、上述の構成よりなり、特に高性能AE減水剤やAE減水剤が用いられる領域(水/セメント重量比=0.3〜0.6)において、優れた減水性能とスランプ保持性を兼ね備え、かつ使用量が少なく経済性の高いセメント混和剤である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0069】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0070】
(参考例1〜16)
[共重合体の調製]
上記共重合体(A)として、共重合体(A−1)〜共重合体(A−5)を調製した。上記共重合体(B)として、共重合体(B−1)〜(B−6)を調製した。更に、比較例において用いるエステル系の共重合体として共重合体(C−1)〜共重合体(C−5)を調製した。各共重合体について、原料として用いた単量体の組成比、及び、ポルトランドセメント粒子への吸着率を下記表1に示す。
[共重合体(A−1)の製造例]
温度計、撹拌機、滴下装置、窒素導入管及び冷却管を備えた反応器にイオン交換水333.7gとイソプレノールのエチレンオキサイド(EO)50モル付加体(IPN−50)463.9gを仕込み、60℃に昇温した。続いて、30%の過酸化水素水溶液2.43gを加えた後、アクリル酸62.7gをイオン交換水37.3gに溶解した水溶液を3時間で、及びL−アスコルビン酸0.94gと3−メルカプトプロピオン酸2.44gをイオン交換水96.6gに溶解させた水溶液を3.5時間でそれぞれ同時に滴下した。滴下後さらに1時間撹拌を続け、その後水酸化ナトリウム水溶液と濃度調製用の水を加えて、pH6.5、固形分濃度45%、重量平均分子量が39400のポリカルボン酸系共重合体(A−1)の水溶液を得た。
【0071】
【表1】

【0072】
上記表1については、以下に説明する。表中の略語は、下記事項を表す。
IPN−25:イソプレノールに25モルのEOを付加させたもの
IPN−50:イソプレノールに50モルのEOを付加させたもの
MLA−50:メタリルアルコールに50モルのEOを付加させたもの
MLA−100:メタリルアルコールに100モルのEOを付加させたもの
MLA−120:メタリルアルコールに120モルのEOを付加させたもの
PGM−25E:メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(n=25)
SA:アクリル酸のナトリウム塩
SMAA:メタクリル酸のナトリウム塩
HEA:2−ヒドロキシエチルアクリレート
また、共重合体(A)及び(B)を構成する単量体(b)であるSAやSMAAは、便宜上ナトリウム塩での記載としているが、重合体の調製に用いた単量体はナトリウム塩ではなく、アクリル酸やメタクリル酸である。酸型単量体を使用して共重合体を合成した後、水酸化ナトリウムで中和することによって、共重合体(A)及び(B)を調製した。例えば、表1の参考例1における「IPN−50/SA=85.0/15.0」とは、上述した共重合体(A−1)の製造例から明らかなように、イソプレノールに50モルのEOを付加させた単量体を85質量%、及び、アクリル酸のナトリウム塩に換算して15質量%に相当する量のアクリル酸を用いて共重合した後に水酸化ナトリウムで中和して、共重合体(A−1)を調製したことを表す。参考例2−16も同様である。
【0073】
なお、上記表1における共重合体(A)、共重合体(B)、及び、共重合体(C)の吸着率は、下記のように測定した。25℃に調温された室内において、まず、ビーカーに普通ポルトランドセメント100質量%に対して固形分換算で0.1重量%となるように重合体を入れ、さらに水を加えて合計100gとなるようにし、スターラーで攪拌して均一に溶解させた。次いで、同じビーカーにスターラーで攪拌しながら100g(水/セメント比で100重量%)のセメントを加えてから5分間攪拌した後、濾過を行ない濾液を採取した。得られた濾液中に残存する重合体の量を示差屈折計で測定した。そして、下記式で吸着率を計算した。
吸着率(%)={[(0.1%水溶液のRIチャート上での共重合体分の面積)−(吸着後のセメント濾液のRIチャート上での共重合体分の面積)]/(0.1%水溶液のRIチャート上での共重合体分の面積)}×100
なお、上記吸着率の試験に用いるセメントとして、太平洋セメント社製普通ポルトランドセメントを用いた。また、上記示差屈折計として、日本Waters社製410示差屈折検出器を用い、下記GPC測定条件で測定を行った。
【0074】
(GPC分子量測定条件)
使用カラム:東ソー社製TSKguardColumn SWXL+TSKge1 G4000SWXL+G3000SWXL+G2000SWXL
溶離液:水10999g、アセトニトリル6001gの混合溶媒に酢酸ナトリウム三水和物115.6gを溶かし、更に酢酸でpH6.0に調整した溶離液溶液を用いる。
打込み量:0.1%水溶液あるいは吸着率の測定で得られたろ液100μL
溶離液流速:0.8mL/min
カラム温度:40℃
標準物質:ポリエチレングリコール、ピークトップ分子量(Mp)272500、219300、85000、46000、24000、12600、4250、7100、1470
検量線次数:三次式
検出器:日本Waters社製 410 示差屈折検出器
解析ソフト:日本Waters社製 MILLENNIUM Ver.3.21
【0075】
上記吸着率の算出方法を図を用いて説明すると、例えば、下記のようである。図1は、参考例1において、上記共重合体(A)として合成された共重合体(A−1)の0.1質量%水溶液となるようにして調製したセメント混和剤をGPCを用いて測定した結果を示す図であるが、斜線で示される部分が上記0.1%水溶液のRIチャート上での共重合体分の面積である。図2は、参考例1において、上記共重合体(A)として合成された共重合体(A−1)について、上記吸着後のセメント濾液を測定した結果を示す図であるが、斜線で示される部分が上記吸着後のセメント濾液のRIチャート上での共重合体分の面積である。図1及び図2における共重合体分の面積を上記式に適用すれば、64.2%となり、共重合体(A−1)の吸着率を算出することができる。すべての実施例及び比較例について、同様に吸着率を算出した。
【0076】
[コンクリート試験]
(実施例1)
セメントとして普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製)、細骨材として大井川水系産陸砂及び千葉県君津産山砂(比重2.62、FM2.71)、粗骨材として青梅産硬質砂岩砕石(比重2.64、MS20mm)を用いた。空気量は、必要に応じて市販の消泡剤を用い、4〜5%に調節した。参考例1において調製した共重合体(A−1)と参考例6において調製した共重合体(B−1)とを50:50の質量比で混合して調製した本発明のセメント混和剤(1)を用いて試験を行った。また、コンクリートの配合条件は、下記表2に示す通りとした。
【0077】
【表2】

【0078】
上記表2における略語は、下記を表す。
W/C(質量%):セメント(C)に対する水(W)の質量比(質量%)
細骨材比(体積%):全骨材の絶対容積に対する細骨材の絶対容積の比(体積%)
セメント(C):普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント株式会社製)
粗骨材(G):大井川水系産陸砂及び千葉県君津産山砂(比重2.62、FM2.71)
細骨材(S):青梅産硬質砂岩砕石(比重2.64、MS20mm)
【0079】
上記表2に示される配合条件で、パン型強制練りミキサーを用いて50リッターのコンクリートを製造し、混練直後のスランプフロー値が420±20mmになるように、使用量を決定した後、15分後、30分後のスランプフロー値を測定した。なお、スランプ、空気量の測定は、すべて日本工業規格(JIS A1101、1128、6204)に準じて行った。結果を下記表3−1に示す。
【0080】
(実施例2〜24)
実施例2〜24は、下記表3−1に示される共重合体を含むセメント混和剤を用いた以外は、上記実施例1に準じて行った。各実施例において用いた共重合体の名称、及び、試験の結果を下記表3−1に示す。
【0081】
【表3−1】

【0082】
(比較例1〜4)
比較例1〜4は、下記表3−2に示されるように、1種の共重合体を用いて調製したセメント混和剤を用いた以外は、上記実施例1に準じて行った。各比較例において用いた共重合体の名称、及び、試験の結果を下記表3−2に示す。
(比較例5〜15)
比較例5〜15は、下記表3−2に示される共重合体を含むセメント混和剤を用いた以外は、上記実施例1に準じて行った。各比較例において用いた共重合体の名称、及び、試験の結果を下記表3−2に示す。
【0083】
【表3−2】

【0084】
上記表3−1及び表3−2については、以下に説明する。表3−1及び表3−2において、添加量とは、上記普通ポルトランドセメントに対する共重合体の質量比(%)(固形分換算)を表す。配合とは、全共重合体の質量100%中における、各共重合体の質量比(%)を表す。例えば、共重合体(A−1)、共重合体(A−2)共重合体(B−1)、及び、共重合体(B−2)とは、上記表1に示される共重合体である。例えば、実施例1のセメント混和剤は、共重合体(A−1)と共重合体(B−1)とを50:50の質量比で含むことを意味する。
上記表3−1及び表3−2において、吸着率(%)とは、各実施例及び比較例のセメント混和剤において用いた各共重合体の上記吸着率を表す。例えば、実施例1のセメント混和剤について、表3−1には、64.2/32.7と記載されているが、これは、共重合体(A−1)の吸着率が64.2%であり、共重合体(B−1)の吸着率が32.7%であることを意味する。
上記表3−1及び表3−2において、平均吸着率とは、共重合体の吸着率の平均値を意味する。例えば、実施例1のセメント混和剤は、吸着率が64.2%である共重合体(A−1)と吸着率が32.7%である共重合体(B−1)とを50:50の質量比で含むものであるが、この場合における平均吸着率は、(64.2×50/100)+(32.7×50/100)=48.5%となる。1種の共重合体を用いた比較例1−4における平均吸着率は、それぞれの共重合体の吸着率となる。他の実施例及び比較例も上記同様である。
上記表3−1及び表3−2において、吸着率の差とは、2種の共重合体の吸着率の差を表す。例えば、実施例1のセメント混和剤は、吸着率が64.2%である共重合体(A−1)と吸着率が32.7%である共重合体(B−1)とを含むものであるが、この場合における吸着率の差は、64.2−32.7=31.5%となる。他の実施例及び比較例も上記同様である。
上記表3−1及び表3−2における減水性は、混練直後のスランプフロー値が420±20mmになるようにするために必要なセメント混和剤の添加量によって評価した。セメント混和剤の添加量が少いほど、減水性が優れていることを意味する。上記表3−1及び3−2における減水性評価、及び、スランプ保持性評価は、下記表4に基づいて行った。
【0085】
【表4】

【0086】
上記試験ついて、縦軸を「吸着率が40%以上の共重合体」の吸着率とし、横軸を「吸着率が40%未満の共重合体」の吸着率としたグラフにおいて、本発明の実施例及び比較例をプロットしたものを図7に示す。図7における吸着率の分布と、上記表3−1及び表3−2の結果とを関連づけることによって本発明において吸着率を上述のように特定することによる臨界的意義が明らかである。
【0087】
上記表3−1及び表3−2から、本発明のセメント混和剤を用いたコンクリートの減水性能及びスランプ保持性は、例えば、実施例2と、実施例2の平均吸着率とほぼ同じ吸着率を持つ比較例3と比較してみると、明らかに向上していることが分かる。また同様に実施例1と比較例2との比較でも同様である。このことはブレンドすることによる性能向上を示すものである。(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系である比較例5は、実施例1の平均吸着率とほぼ同等であり、吸着率が40%以上の共重合体と40%未満の共重合体とを含むものであるにもかかわらず、減水性及びスランプ保持性は劣る結果となっている。実施例11と比較例8との関係及び実施例14と比較例9との関係についても同様のことがいえる。したがって、本発明の上述した効果は、(ポリ)アルキレングリコールモノアルケニルエーテル系特有のものであることがわかる。すなわち、(ポリ)アルキレングリコールモノアルケニルエーテル系単量体単位を必須とするような共重合体を含むセメント混和剤において、上述した、際立って優れた効果が発揮されるといえる。
【0088】
上記表3−1及び表3−2において、例えば、比較例7、10、11、12、及び、13は、吸着率が40%未満の共重合体(B)の2種を含んでなるセメント混和剤であるが、これらは、実施例と比較すると減水性に劣ることが明らかである。また、例えば、比較例6、14、及び15は、吸着率が40%以上の共重合体(A)の2種を含んでなるセメント混和剤であるが、これらは、実施例と比較するとスランプ保持性に劣ることが明らかである。したがって、これらより、吸着率が40%以上の共重合体(A)と吸着率が40%未満の共重合体(B)とのいずれをも含むことによって、減水性能及びスランプ保持性という2つの性能のバランスが優れることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】参考例1において、共重合体(A−1)を0.1質量%の水溶液としたセメント混和剤をGPCを用いて測定したIRチャートである。
【図2】参考例1において、共重合体(A−1)を0.1質量%の水溶液としたセメント混和剤をセメントに添加し、5分後の水溶液をGPCを用いて測定したIRチャートである。
【図3】参考例2において、共重合体(A−2)を0.1質量%の水溶液としたセメント混和剤をGPCを用いて測定したIRチャートである。
【図4】参考例2において、共重合体(A−2)を0.1質量%の水溶液としたセメント混和剤をセメントに添加し、5分後の水溶液をGPCを用いて測定したIRチャートである。
【図5】参考例7において、共重合体(B−2)を0.1質量%の水溶液としたセメント混和剤をGPCを用いて測定したIRチャートである。
【図6】参考例7において、共重合体(B−2)を0.1質量%の水溶液としたセメント混和剤をセメントに添加し、5分後の水溶液をGPCを用いて測定したIRチャートである。
【図7】縦軸を「吸着率が40%以上の共重合体」の吸着率とし、横軸を「吸着率が40%未満の共重合体」の吸着率としたグラフにおいて、本発明の実施例及び比較例をプロットした図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種以上の共重合体を含んでなるセメント混和剤であって、
該セメント混和剤は、
下記一般式(1);
【化1】

(式中、ROは、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基の1種又は2種以上を表す。mは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜500の数を表す。Rは、水素原子、又は、炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。Yは、炭素原子数2〜8のアルケニル基を表す。)で表される(ポリ)アルキレングリコールモノアルケニルエーテル系単量体(a)由来の構成単位と、不飽和カルボン酸系単量体(b)由来の構成単位とを含む共重合体(A)及び共重合体(B)を含むものであり、
該共重合体(A)は、セメント粒子への吸着率が40%以上であり、
該共重合体(B)は、セメント粒子への吸着率が40%未満である
ことを特徴とするセメント混和剤。
【請求項2】
前記共重合体(A)のセメント粒子への吸着率と前記共重合体(B)のセメント粒子への吸着率との差が5%以上である
ことを特徴とする請求項1に記載のセメント混和剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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