説明

セメント焼成設備の排ガス処理方法および処理システム

【課題】回収した微粉ダストをセメントクリンカーまたはセメントに添加して有効利用することができ、かつ容易かつ確実に最終製品のセメントにおける塩素濃度を基準値以下に保持して品質を一定に保つことができるセメント焼成設備の排ガス処理方法を提供する。
【解決手段】セメントキルン1から排出された排ガスの一部を抽気ガスとして抽気し、この抽気ガスを塩素化合物の融点以下に冷却した後に、粗いダストをセメントキルン1に戻すとともに、ダスト捕捉手段13によって微粉ダストを捕集・除去して抽気ガス中の塩素化合物を除去するに際し、ダスト捕捉手段13によって捕集された微粉ダストに液体を添加し、スラリー状にしてセメントクリンカーまたはセメント中に散布するとともに、これと併行して上記スラリーの塩素濃度に基づいて、上記液体の添加量および上記スラリーの散布量を、上記セメントの塩素濃度が許容値以下となるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント焼成設備の系内における塩素濃度の上昇を抑える塩素バイパスを用いたセメント焼成設備の排ガス処理方法および処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄物の廃棄処分問題を解決するため、セメント原料の一部あるいはセメントキルン内の加熱用燃料の一部として、各種の廃棄物が使用されている。しかしながら、特に合成樹脂等の廃棄物を上記燃料の一部としてセメントキルン内に投入する場合には、燃焼時に揮発性を有する塩素成分を発生する。このような塩素成分は、セメントキルン内から排出される排ガスに同伴して、上流側のプレヒータへと送られて行くものの、プレヒータの上段側へ移送されるにつれて雰囲気温度が融点以下になると、凝縮してセメント原料に付着し、再びセメントキルン内へと送られるとともに、雰囲気温度の上昇に伴って再度蒸発することになる。
【0003】
このように、セメント焼成設備の系内に取り込まれた塩素成分は、セメントキルンおよびプレヒータ内で蒸発および凝縮を繰り返して循環するとともに、これに新たに投入される廃棄物から発生する塩素成分が加わることにより、その濃度が上昇して、コーチングによる上記プレヒータにおける閉塞が発生する等、安定的な操業を妨げるとともに、製造されたセメントクリンカーの品質にも悪影響を与えるという問題点を生じる。
【0004】
そこで、上記問題点を解決すべく、例えば下記特許文献1においては、キルン排ガスの一部をキルンから抽気する行程と、該抽気した該排ガスを塩素化合物の融点以下に冷却する行程と、該排ガス中のダストを分級器により粗粉と微粉とに分離する行程と、分離された粗粉をキルンに戻し、微粉を分級器の下流側に送出する行程とを備えたキルン排ガス処理方法であって、前記キルン排ガスの抽気量の割合が、0%を超え5%以下であり、前記分級器での分離粒度を5μm〜7μmにして、前記送出される微粉量をキルン生産量の0.1%以下にしたことを特徴とする塩素バイパスによるキルン排ガス処理方法が提案されている。
【0005】
上記構成からなるキルン排ガスの処理方法によれば、分級器において分離された塩素含有率の高い微粉ダストを含む排ガスを集塵機に送り、高塩素濃度の上記微粉ダストを集塵して系外に排出することにより、ロータリーキルンを安定運転することができるとともに、最小の熱損失で効果的に塩素を除去でき、しかも抽気ガス量が少なくて済むため、処理設備が小型となり、スペース、設備費用が共に少なく、経済的にキルンの安定運転を確保できるといった効果が得られる、とされている。
【特許文献1】特許第3318714号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、製品としてのセメントにおいては、高い濃度の塩素を含んでいると、最終的に鉄筋コンクリートとして使用された場合に、当該塩素分が鉄筋の腐食の一因となる等の不都合を生じるために、JIS規格において当該塩素の含有量が350ppm以下であることが義務づけられている。
【0007】
一方、この種の塩素バイパスが設置されたセメント設備においても、通常製造されるセメントの塩素濃度は、上記JIS規格よりも充分に低い。このため、一般に、上記塩素バイパスの集塵機において捕集された上記微粉ダストは、セメントクリンカーまたはセメントに添加されることにより利用されている。
【0008】
しかしながら、上記従来のキルン排ガスの処理方法にあっては、集塵機によって回収する微粉ダストの粒径を、5μm〜7μm以下といった極めて微細な粒径範囲に設定している結果、回収された上記微粉ダストにおける塩素濃度が極めて高くなる。このため、最終的なセメントにおける塩素濃度を基準値以下にするための添加量の調整が難しいという問題点があった。
【0009】
加えて、上記集塵機で回収される微粉ダスト中の塩素濃度は、ロータリーキルンの運転条件の変化等によっても変動する。このため、一層上記セメントクリンカーあるいはセメントへの微粉ダストの添加量制御が難しくなるという問題点があった。
【0010】
この発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、回収した微粉ダストをセメントクリンカーまたはセメントに添加して利用することにより経済性に優れるとともに、容易かつ確実に、最終製品のセメントにおける塩素濃度を基準値以下に保持して品質を一定に保つことができるセメント焼成設備の排ガス処理方法および処理システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、セメント原料を焼成するセメントキルンから排出されて上記セメント原料を予熱するプレヒータへと送られるダストを含む排ガスの一部を、上記プレヒータの最下部または上記セメントキルンの窯尻部から抽気ガスとして抽気し、この抽気ガスを塩素化合物の融点以下に冷却した後に、固気分離手段によって所定粒度以上の上記ダストを上記抽気ガスから分離して上記セメント原料の焼成工程に戻すとともに、ダスト捕捉手段によって上記所定粒度以下の微粉ダストを含む上記抽気ガスから当該微粉ダストを捕集・除去することにより上記抽気ガスに含まれていた塩素化合物を除去するセメント焼成設備の排ガス処理方法において、上記ダスト捕捉手段によって捕集・除去された上記微粉ダストに液体を添加してスラリー状にして、得られた上記微粉ダストを含むスラリーを、上記セメントキルンから排出されたセメントクリンカーまたはセメント中に散布するとともに、これと併行して上記スラリーの塩素濃度に基づいて、上記液体の添加量および上記スラリーの散布量を、上記セメントの塩素濃度が許容値以下となるように制御することを特徴とするものである。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記スラリーの散布量に上限設定値を設けるとともに、当該上限設定値を超えた余剰の上記スラリーを分離し、次いで分離された上記スラリーを脱水処理した後に、得られた上記微粉ダストを上記セメントクリンカーもしくは上記セメントまたは上記セメント原料に添加することを特徴とするものである。
【0013】
次いで、請求項3に記載の発明は、セメント原料を焼成するセメントキルンから排出されて上記セメント原料を予熱するプレヒータへと送られるダストを含む排ガスの一部を抽気ガスとして抽気して、当該抽気ガスに含まれていた塩素化合物を除去するためのセメント焼成設備の排ガス処理システムであって、上記プレヒータの最下部または上記セメントキルンの窯尻部に接続されて上記抽気ガスを抽気する抽気ダクトに沿って、この抽気ダクトから抽気された上記抽気ガスを塩素化合物の融点以下に冷却する冷却器と、この冷却器から排気された上記抽気ガスから所定粒度以上の上記ダストを分離する固気分離手段と、この固気分離手段において所定粒度以上の上記ダストが分離された抽気ガスから同伴した上記所定粒度以下の微粉ダストを捕集・除去するダスト捕捉手段と、このダスト捕捉手段から除去された上記微粉ダストが供給されるタンクと、このタンクに液体を供給する供給ラインと、上記タンク内のスラリーの塩素濃度を検出する塩素濃度検出手段と、上記タンク内のスラリーを上記セメントキルンから排出されたセメントクリンカーまたはセメントに散布する散布手段とを備えてなり、かつ上記供給手段および上記散布手段には、上記塩素濃度検出手段からの検出信号に基づいて、上記液体の添加量および上記スラリーの散布量を、上記セメントの塩素濃度が許容値以下となるように制御する制御手段が設けられていることを特徴とするものである。
【0014】
さらに、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、上記タンクには、内部の上記スラリーの液面を検出するレベル計と、上記スラリーを抜き出すポンプを備えた排出ラインとが設けられ、かつ、上記制御手段は、上記塩素濃度検出手段からの検出信号に基づいて上記タンク内の塩素濃度が一定の範囲内に保持されるように上記供給手段からの上記液体の添加量を制御する第1の制御手段と、上記レベル計が高位設定値を検出した際に上記排出ラインの上記ポンプを作動させるとともに、低位設定値を検出した際に上記ポンプの作動を停止させる第2の制御手段を有してなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の発明においては、ダスト捕捉手段によって捕集・除去された微粉ダストに液体を添加してスラリー状にして、得られた上記微粉ダストを含むスラリーを、セメントキルンから排出されたセメントクリンカーまたはセメント中に散布しているために、上記微粉ダストをセメントの一部として活用することができるとともに、上記微粉ダストを均一に最終製品のセメント中に分散させることができる。
【0016】
加えて、上記タンク内のスラリーの塩素濃度を検出し、この塩素濃度に基づいてタンク内に供給する液体の添加量と、セメントクリンカーまたはセメントへの散布量を制御しているために、容易かつ確実に最終製品のセメントの塩素濃度を許容値以下とすることができる。
【0017】
なお、最終製品のセメントの塩素濃度を許容値以下とするための、上記液体の添加量およびセメントクリンカーまたはセメントへの散布量の制御とは、予め上記微粉ダストを添加しない状態におけるセメントクリンカーまたはセメントに含まれる塩素の量を検出しておき、上記スラリーの塩素濃度および散布量が上記セメントに許容される基準値から当該塩素の量を差し引いた余裕の範囲内に納まるように制御することをいう。
【0018】
例えば、請求項4に記載の発明のように、上記タンク内のスラリーの塩素濃度が一定になるように、上記液体の供給量を制御するとともに、当該一定の塩素濃度のスラリーを散布する流量(散布量)を、最終製品における塩素濃度が許容される基準値以下となるように設定すれば、制御が容易になって好ましい。
【0019】
この際に、ダスト捕捉手段によって回収された微粉ダストの塩素濃度が高くなると、スラリーを一定の塩素濃度に保持するために、タンク内に供給する液体の量も増加する。他方、最終製品のセメントにおける塩素濃度を許容される基準値以下にするためには、セメントクリンカーまたはセメントへのスラリーの散布量にも限度がある。このため、経時的にタンク内のスラリー量が増加して、最終的には当該タンクから溢れることになる。
【0020】
この点、請求項2または4に記載の発明によれば、上記散布量の上限設定値を超えた余剰のスラリーをタンクから排出して、このスラリーを脱水処理した後に、得られた上記微粉ダストのみを上記セメントクリンカー、セメントまたはセメント原料に添加するようにすれば、上記タンクが溢れることを防止することができる。なお、脱水処理において排出された液体分は、塩素成分を含むために、別途水処理した後に放流することにより、廃液処理設備における負担を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1および図2は、本発明に係るセメント焼成設備の排ガス処理システムの実施形態を示すものである。
先ず、上記排ガス処理システムが設けられたセメント製造設備について説明すると、図中符号1がセメント原料を焼成するためのセメントキルンある。このセメントキルン1は、軸芯回りに回転自在に設けられたロータリーキルンであり、その図中左方の端部に、ロータリー部分を支持する窯尻ハウジング2aおよびその立ち上がり部2bからなる窯尻部2が設けられている。
【0022】
また、この窯尻部2の上流側に、セメント原料を予熱するためのプレヒータ3が設けられるとともに、図中右方の窯前(図示を略す。)に、内部を加熱するための主バーナが設けられている。
【0023】
ここで、プレヒータ3は、上下方向に直列的に配置された複数段(例えば4段)のサイクロンによって構成されており、最下段(4段目)のサイクロン3aに、上段のサイクロンから順次下方に送られてきたセメント原料が供給されるとともに、このサイクロン3aの底部には、内部のセメント原料をセメントキルン1の窯尻部2へと送る原料シュート4が接続されている。
【0024】
他方、窯尻部2の立ち上がり部2bには、セメントキルン1から排出された燃焼排ガスを最下段のサイクロンへと供給する排ガス管5が接続されているおり、最上段のサイクロンの上部から排出された排ガスが、排気ファンによって排気ラインを介して排気されて行くようになっている。
さらに、このセメント製造設備においては、セメントキルン1の窯尻部2に、下水汚泥(有機質汚泥)を含水状態のまま直接内部に導入して焼却処理するための移送管25が接続されている。
【0025】
そして、上記構成からなるセメント製造設備に、塩素バイパスと呼ばれる排ガス処理システムが併設されている。
この処理システムは、セメントキルン1から排出されてプレヒータ3へと送られるダストを含む排ガスの一部を抽気ガスとして抽気して、当該抽気ガスに含まれていた塩素化合物を除去するためのもので、図中符号10がセメントキルン1の窯尻部2の立ち上がり部2bに接続されて上記抽気ガスを抽気する抽気ダクトである。
【0026】
そして、この処理システムにおいては、抽気ダクト10に沿って、順次この抽気ダクト10から抽気された抽気ガスを冷却する冷却器11と、この冷却器11から排気された抽気ガスから所定粒度以上のダストを分離するサイクロン型分級機(固気分離手段)12と、このサイクロン型分級機12において所定粒度以上のダストが分離された抽気ガスから同伴した微粉ダストを捕集・除去するバグフィルタ(ダスト捕捉手段)13と、このバグフィルタ13の下流側に設けられて抽気ガスを吸引する誘引ファン14とが設けられている。
【0027】
ここで、冷却器11は、例えば冷却ファンからの冷気や冷却ポンプからの冷却水を冷媒として抽気ガスと熱交換させることにより、抽気ガスの温度を塩素化合物の融点(600〜700℃)以下に冷却するものである。
また、サイクロン型分級機12における抽気ガスの入口には、モータ15aによって開度調整自在とされた流量調整用の弁15が介装されている。他方、このサイクロン型分級機12の底部には、分離された所定粒度以上のダストを再び窯尻部2へと戻す戻り管16が接続されている。
【0028】
さらに、誘引ファン14の吸入側には、モータ17aによって開度調整自在とされた流量調整用の弁17が介装されている。
そして、窯尻部2内には、上記排ガスにセメント原料を分散させるための分散板(分散手段)18が設けられている。
【0029】
この分散板18は、方形、楕円形、多角形などの形状に形成された板状部材であり、その板面を水平にして、原料シュート4の落口4aの下方に、落口4aの直下に向けて出没自在に設けられている。この分散板18は、落口4aから落下するセメント原料を、窯尻部2内において排ガス中に分散させるためのもので、その基端部には、当該分散板18を出没させて落口4aの直下に位置する面積を変えることにより、分散させるセメント原料の量を調整するための駆動モータ(駆動手段)19が設けられている。
【0030】
さらに、窯尻部2の立ち上がり部2bであって、抽気ダクト10の接続部の近傍に、抽気ガスの温度を検出するための温度検出器(温度検出手段)20が設けられている。そして、この温度検出器20からの検出信号に基づいて、駆動モータ19を作動させて分散板18を出没させることにより、抽気ガスの温度を950℃〜1150℃の範囲に保持する第1の制御装置21aが設けられている。
【0031】
また、バグフィルタ13の底部には、捕集された微粉ダストの量を検出するダスト量検出手段22と、上記微粉ダストにおける塩素濃度を検出するための塩素濃度検出手段23が設置されている。
【0032】
そして、塩素濃度検出手段23からの検出信号が5%に満たない値となった際、および20%を超える値となった場合、並びにダスト量検出手段22によって検出された微粉ダスト量が、50g/m3Nに満たない値となった際、および150g/m3Nを超える値となった場合に、モータ15aおよび/またはモータ17aを作動させて流量調整用の弁15および/または弁17を開閉させ、抽気ガスの流速を変化させることにより、サイクロン型分級機12における分級粒度を15μm〜30μmの範囲内において調整して、バグフィルタ13において回収する上記微粉ダストの量を50〜150g/m3Nの範囲に保持しつつ、捕集された上記微粉ダストの塩素濃度が5〜20%の範囲になるように制御する第2の制御装置21bが設けられている。
【0033】
なお、この第2の制御装置21bは、上記弁15、17の制御とともに、あるいはこれらの制御に代えて、誘引ファン14による吸引量をインバータ制御することにより、サイクロン型分級機12における抽気ガスの流速を調整するように構成することもできる。そして、これら第1および第2の制御装置21a、21bにより、全体の制御装置21が構成されている。
【0034】
そして、この排ガス処理システムにおいては、バグフィルタ13の下方に、当該バグフィルタ13において捕集された微粉ダストが投入されるタンク30が配設されているとともに、このタンク30内にポンプ31によって水(液体)を供給する供給ライン32が設けられている。また、タンク30内には、内部に供給された水と微粉ダストとのスラリーを攪拌・混合する撹拌機33が設置されている。
【0035】
さらに、このタンク30には、内部のスラリーの塩素濃度を検出するための塩素イオンメータ(塩素濃度検出手段)34と、スラリーの液面を検出するレベル計35が取り付けられている。他方、このタンク30の底部には、内部のスラリーを抜き出すためのポンプ36が介装された抜き出しライン37が接続されている。
【0036】
また、この抜き出しライン37には、流量の上限設定値を有する流量調整弁38が介装されており、この流量調整弁38を経た抜き出しライン37が、セメントクリンカーに石膏を添加して最終製品となるセメントにするための仕上げミル(図示を略す。)に導かれ、先端に取り付けられた散布ノズルから上記スラリーが上記仕上げミル内に散布されるようになっている。そして、これらポンプ36、抜き出しライン37、流量調整弁38、散布ノズル等によって、スラリーの散布手段が構成されている。
【0037】
加えて、この抜き出しライン37のポンプ36の上流側には、枝配管となる排出ライン39が接続されている。そして、この排出ライン39には、ポンプ40が介装されている。
【0038】
また、この排ガス処理システムにおいては、塩素イオンメータ35の検出信号に基づいて、タンク30内のスラリーの塩素濃度が一定の範囲内に保持されるようにポンプ31を駆動制御して供給ライン32から供給される水の量を調整する第1の制御手段41が設けられている。ここで、上記タンク30内のスラリーの塩素濃度および流量調整弁38による流量は、予め上記微粉ダストを添加しない状態におけるセメントクリンカーまたはセメントに含まれる塩素の量を検出しておき、上記スラリーの塩素濃度および抜き出しライン37の流量(散布量)が上記セメントに許容される基準値から当該塩素の量を差し引いた余裕の範囲内に充分納まる値に設定されている。
【0039】
さらに、レベル計35からの検出信号が予め設定されている高位設定値を検出した際に排出ライン39のポンプ40を作動させるとともに、低位設定値を検出した際にポンプ40の作動を停止させる第2の制御手段42が設けられている。
【0040】
次に、以上の構成からなる排ガス処理システムを用いた本発明に係る排ガス処理方法の一実施形態について説明する。
先ず、このセメント焼成設備においては、図示されない供給管からプレヒータ3の1段目のサイクロンに供給されたセメント原料は、順次下方のサイクロンへと落下するにしたがって、下方から上昇するセメントキルン1からの高温の排ガスによって予熱され、最終的に最下段のサイクロン3aから原料シュート4を介してセメントキルン1の窯尻部2に導入される。
【0041】
そして、このセメントキルン1内において、窯尻部2側から窯前側へと図中右方に徐々に送られる過程において、主バーナからの燃焼排ガスによって約1450℃まで加熱され、焼成されてクリンカとなる。次いで、窯前に到達したクリンカは、クリンカクーラ内に落下して送られてゆく。この際に、クリンカクーラ内に供給された空気によって所定温度まで冷却されて最終的に当該クリンカクーラから取り出される。
【0042】
これと併行して、移送管25を通じて、セメントキルン1の窯尻部2側から、下水汚泥(有機質汚泥)が内部に投入され、高温雰囲気下において焼却処理されるとともに、焼却後の灰分がセメント原料の一部として利用される。
そして、上述したセメントクリンカーの製造工程において、連続的あるいは間欠的に、誘引ファン14によってセメントキルン1から排出された排ガスの量の1%以上を、セメントキルン1の窯尻部2から抽気ダクト10を通じて抽気ガスとして抽気する。
【0043】
この際に、分散板18を原料シュート4の落口4aの下方に位置させて、原料シュート4から落下するセメント原料を排ガス中に分散させるとともに、第1の制御装置21aによって、温度検出器20によって検出された抽気ガスの温度が950℃〜1150℃の範囲に保持されるように、駆動モータ19を作動させることにより分散板18を原料シュート4の落口4aの下方で進退させて、排ガスへのセメント原料の分散量を調整する。
これにより、図3に示すように、上述するバグフィルタ13によって回収された微粉ダストの塩素濃度が、5〜20%の範囲に保持される。
【0044】
なお、上記分散板18によるセメント原料の分散と併行して、立ち上がり部2bに接続された上記導入管から、3段目のサイクロンからの600℃〜700℃のセメント原料、またはプレヒータ3へと搬送される前の温度が50℃〜100℃と低いセメントの生原料を、窯尻部2に導入することにより窯尻部2の温度を調整することもできる。
【0045】
次いで、この抽気ガスを、冷却器11において塩素化合物の融点(600℃〜700℃)以下まで冷却した後に、サイクロン型分級機12に送って15μm〜30μmの範囲内の分級粒度によって粗ダストを分離し、当該粗ダストについては、戻り管16から再び窯尻部2へと戻す。
【0046】
他方、上記分級粒度よりも細く、よって塩素濃度の高い微粉ダストを含む抽気ガスについては、バグフィルタ13に送って同伴した上記微粉ダストを捕集し、回収することにより上記抽気ガスから除去する。これにより、セメントキルン1およびプレヒータ3の系内における塩素濃度の上昇が防止される。そして、上記微粉ダストが除去された抽気ガスは、誘引ファン14の排気側から排気ガスラインへと送られて排気される。
【0047】
ここで、抽気ガスの温度を950℃〜1150℃の範囲に保持することにより、図3に示すように、バグフィルタ13によって回収された微粉ダストの塩素濃度が、5〜20%の範囲に保持されるが、このバグフィルタ13によって回収された微粉ダストについては、ダスト量検出手段22によってその量が検出されるとともに、塩素濃度検出手段23によって塩素濃度が検出される。
【0048】
そして、上記微粉ダストの塩素濃度が5〜20%の範囲から逸脱した場合や、微粉ダスト量が50〜150g/m3Nの範囲から逸脱した場合には、第2の制御装置21bによって、誘引ファン14による抽気ガスの吸引量および/またはモータ15a、17aを作動させることにより弁15、17の開度を調整する。これにより、抽気ダクト10を流れる抽気ガスの流速を増減させて、サイクロン型分級機12における分級粒度を調整することにより、回収される微粉ダスト量が50〜150g/m3Nの範囲を保持しつつ、上記塩素濃度が再び5〜20%の範囲内になるように制御する。
【0049】
したがって、第1の制御装置21aによって、抽気温度を上述した950℃〜1150℃の範囲内に保持することによって、予め設定されたサイクロン型分級機12における分級粒度により安定的に回収される微粉ダスト量が50〜150g/m3Nの範囲であって、かつ上記微粉ダストにおける塩素濃度が5〜20%の範囲に保持できる場合には、上記第2の制御装置21bが作動することはない。
【0050】
次いで、バグフィルタ13において回収された微粉ダストは、下方のタンク30へと供給される。そして、このタンク30内において、攪拌装置33によって供給ライン32から供給される水と混合されてスラリーになる。この際に、塩素イオンメータ34によって、タンク30内の塩素濃度が検出されるとともに、当該検出信号に基づいて、供給ライン32から供給される水の量がタンク30内の塩素濃度を予め設定された一定の範囲内に保持する量となるように、第1の制御手段40によって供給ライン32のポンプ31が制御される。
【0051】
そして、このようにしてほぼ一定の塩素濃度に制御されたスラリーは、ポンプ36によって抜き出しライン37から排出されて、流量調整弁38により一定の流量に調整された後に、図示されない仕上げミルに散布される。
【0052】
この際に、セメントキルン1の運転条件の変動等に起因して、バグフィルタ13によって回収された微粉ダストの塩素濃度が高くなると、スラリーを一定の塩素濃度に保持するために、タンク30内に供給する水の量も増加する。そして、タンク30内のスラリーの液面が、第2の制御手段42における高位設定値に達すると、これを検出したレベル計35からの信号によって、排出ライン39のポンプ40が作動する。
【0053】
これにより、タンク30内のスラリーの一部が、排出ライン39に送られ、脱水処理された後に、得られた上記微粉ダストのみが上記セメントクリンカーまたはセメントに添加される。また、上記セメントクリンカーまたはセメントに添加するには、上記排出ライン39から排出されて脱水処理した上記微粉ダストの量が多すぎる場合には、当該微粉ダストの一部または全部が、別途セメントの生原料等のセメント原料に添加される。
【0054】
次いで、ポンプ40による排出ライン39へのスラリーの排出によって、タンク30内のスラリーの液面が下がり、第2の制御手段42における低位設定値に至ると、これを検出したレベル計35からの振動によって、ポンプ40の作動が停止させる。
【0055】
以上のように、上記構成からなる排ガス処理方法によれば、窯尻部2から抽気した抽気ガス中に含まれる塩素濃度の高い微粉ダストを、バグフィルタ13によって捕集して除去することにより、セメントキルン1およびプレヒータ3を含めた系内における塩素濃度が上昇することを防止することができる。
【0056】
しかも、第1の制御装置によって、抽気ガスの温度に基づいて分散板18を移動させ、抽気ガスが抽気される窯尻部2の排ガスに対するセメント原料の分散量を調整して当該抽気ガスの温度を950℃〜1150℃の範囲に保持することにより、容易に最終的に捕集された微粉ダストの塩素濃度を20%以下にすることができる。
【0057】
このため、バグフィルタ13において捕集された上記微粉ダストのハンドリング性に優れるとともに、搬送中に当該微粉ダストに含まれる塩素成分によって、設備に閉塞や詰まり等の弊害が生じるおそれがなく、安定的な操業を行うことができる。
【0058】
また、移送管25を介して窯尻部2からセメントキルン1の内に下水汚泥(有機質汚泥)を含水状態のまま直接内部に導入して焼却処理すると、排ガス中に塩化水素(HCl)ガスが発生し、当該塩化水素ガスは上記塩素バイパスにおいては除去され難いことが知られている。
【0059】
これに対して、本発明者等の研究によれば、回収された微粉ダストのハンドリング性を向上させるために、抽気ガス中に従来よりも多くの量のセメント原料を分散させると、上記プレヒータの最下部またはセメントキルンの窯尻部のセメント原料は、仮焼が終了した活性度の高いCaOを多く含むために、抽気ガス中の塩化水素ガス(HCl)が上記CaOと反応してCaClが生成して、これをバグフィルタ13によって効果的に回収できることが判明した。
【0060】
すなわち、図4に示すように、有機質汚泥として、下水汚泥をクリンカ1tあたり50kg(50kg/t−cli)投入して焼却処理する際に、ダスト捕集手段で回収されるダスト量(単位抽気風量あたりの回収されるダスト量)を変化させて、上記塩素バイパス量を測定した。この結果、回収ダスト量を増加させると、すなわちセメント原料の分散量を増加させて抽気ガス中のダスト濃度を高めると、図中点線矢印で示すように、塩素バイパス量が増加し、上述した塩化水素ガスの回収効果が発現していることが判った。
【0061】
そして、回収ダスト量を50g/m3N以上にすることにより、塩素バイパス量は、ほぼ8g−Cl-/m3Nに到達し、回収ダスト量をそれ以上増加させても塩素バイパス量に大きな変化が見られないことも判明した。
【0062】
したがって、回収ダスト量を50〜150g/m3Nの範囲に設定することにより、過度のダストを回収することなく、しかも排ガス中に含まれる塩化水素ガスを効果的に回収できることが判った。
【0063】
さらに、セメントキルンの運転状態やコーチングの付着状態等が変動して、抽気ガス中のダスト量が増加した場合においても、図5に示すように、サイクロン型分級機(固気分離手段)における分級粒度を15〜30μmの範囲で調整することにより、上記回収ダスト量を50〜150g/m3Nの範囲に保持しうることも確認できた。
【0064】
このように、本実施形態においては、バグフィルタ13において回収する上記微粉ダストの量を50〜150g/m3Nの範囲に設定しているために、排ガス中に含まれる有機質汚泥を焼却処理することに起因した塩化水素ガスも、仮焼が終了したセメント原料中の活性度の高いCaOと反応させてCaCl2としてダスト捕捉手段によって効果的に回収できる。
【0065】
さらに、抽気ガス中に従来よりも多くのCaOを含むセメント原料が同伴しているために、バグフィルタ13のろ布の表面にCaO層が形成されるとともに、このCaO層に、抽気ガス中のSO2や、その酸化により生じたSO3が化学的に吸収されてCaSO3やCaSO4として固定されるために、上述した抽気ガス中に含まれるSO2やSO3に起因する硫酸腐食も低減させることができる。
【0066】
加えて、バグフィルタ13によって回収された微粉ダストに水を添加してスラリー状にし、得られた微粉ダストを含むスラリーを、セメントクリンカーの仕上げミルおいてに散布しているために、上記微粉ダストをセメントの一部として活用することができるとともに、上記微粉ダストを均一に最終製品のセメント中に分散させることができる。
【0067】
しかも、タンク30内のスラリーの塩素濃度を検出し、この塩素濃度に基づいてタンク30内に供給する水の添加量を制御するとともに、流量調整弁38によってスラリーの散布量を、その上限設定値以下に制御しているために、容易かつ確実に最終製品のセメントの塩素濃度を許容値以下とすることができる。
【0068】
さらに、万一微粉ダストの塩素濃度が急激に上昇した際にも、第2の制御手段42によって、上記散布量の上限設定値を超えた余剰のスラリーをポンプ40によって排出ライン39から排出して、このスラリーを脱水処理した後に、得られた上記微粉ダストのみを上記セメントクリンカーまたはセメントに添加するか、あるいはセメント原料に添加しているために、タンク30が溢れることを未然に防止して安定的な操業を確保することができる。
【0069】
なお、上記実施の形態においては、抽気ガスをセメントキルン1の窯尻部2から抽気した場合についてのみ説明したが、これに限定されるものではなく、プレヒータ3における排ガス管5から抽気するようにしてもよい。
また、固気分離手段やダスト捕捉手段についても、上述したサイクロン型分級機12やバグフィルタ13の他、様々な形式のものを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係るセメント焼成設備の排ガス処理システムの一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図1の要部の拡大図である。
【図3】抽気ガスの温度と捕集された微粉ダストにおける塩素濃度との関係を示すグラフである。
【図4】塩素バイパスにおいてダスト捕捉手段での回収ダスト量と塩素バイパス量との関係を示すグラフである。
【図5】塩素バイパスにおける固気分離手段での分離粒度とダスト捕捉手段での回収ダスト量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0071】
1 セメントキルン
2 窯尻部
3 プレヒータ
10 抽気ダクト
11 冷却器
12 サイクロン型分級機(固気分離手段)
13 バグフィルタ(ダスト捕捉手段)
16 戻り管
30 タンク
32 水(液体)の供給ライン
34 塩素イオンメータ(塩素濃度検出手段)
35 レベル計
36、40 ポンプ
37 抜き出しライン
38 流量調整弁
39 排出ライン
41 第1の制御手段
42 第2の制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント原料を焼成するセメントキルンから排出されて上記セメント原料を予熱するプレヒータへと送られるダストを含む排ガスの一部を、上記プレヒータの最下部または上記セメントキルンの窯尻部から抽気ガスとして抽気し、この抽気ガスを塩素化合物の融点以下に冷却した後に、固気分離手段によって所定粒度以上の上記ダストを上記抽気ガスから分離して上記セメント原料の焼成工程に戻すとともに、ダスト捕捉手段によって上記所定粒度以下の微粉ダストを含む上記抽気ガスから当該微粉ダストを捕集・除去することにより上記抽気ガスに含まれていた塩素化合物を除去するセメント焼成設備の排ガス処理方法において、
上記ダスト捕捉手段によって捕集・除去された上記微粉ダストに液体を添加してスラリー状にして、得られた上記微粉ダストを含むスラリーを、上記セメントキルンから排出されたセメントクリンカーまたはセメント中に散布するとともに、これと併行して上記スラリーの塩素濃度に基づいて、上記液体の添加量および上記スラリーの散布量を、上記セメントの塩素濃度が許容値以下となるように制御することを特徴とするセメント製造設備の排ガス処理方法。
【請求項2】
上記スラリーの散布量に上限設定値を設けるとともに、当該上限設定値を超えた余剰の上記スラリーを分離し、次いで分離された上記スラリーを脱水処理した後に、得られた上記微粉ダストを上記セメントクリンカーもしくは上記セメントまたは上記セメント原料に添加することを特徴とする請求項1に記載のセメント製造設備の排ガス処理方法。
【請求項3】
セメント原料を焼成するセメントキルンから排出されて上記セメント原料を予熱するプレヒータへと送られるダストを含む排ガスの一部を抽気ガスとして抽気して、当該抽気ガスに含まれていた塩素化合物を除去するためのセメント焼成設備の排ガス処理システムであって、
上記プレヒータの最下部または上記セメントキルンの窯尻部に接続されて上記抽気ガスを抽気する抽気ダクトに沿って、この抽気ダクトから抽気された上記抽気ガスを塩素化合物の融点以下に冷却する冷却器と、この冷却器から排気された上記抽気ガスから所定粒度以上の上記ダストを分離する固気分離手段と、この固気分離手段において所定粒度以上の上記ダストが分離された抽気ガスから同伴した上記所定粒度以下の微粉ダストを捕集・除去するダスト捕捉手段と、このダスト捕捉手段から除去された上記微粉ダストが供給されるタンクと、このタンクに液体を供給する供給ラインと、上記タンク内のスラリーの塩素濃度を検出する塩素濃度検出手段と、上記タンク内のスラリーを上記セメントキルンから排出されたセメントクリンカーまたはセメントに散布する散布手段とを備えてなり、
かつ上記供給手段および上記散布手段には、上記塩素濃度検出手段からの検出信号に基づいて、上記液体の添加量および上記スラリーの散布量を、上記セメントの塩素濃度が許容値以下となるように制御する制御手段が設けられていることを特徴とするセメント焼成設備の排ガス処理システム。
【請求項4】
上記タンクには、内部の上記スラリーの液面を検出するレベル計と、上記スラリーを抜き出すポンプを備えた排出ラインとが設けられ、
かつ、上記制御手段は、上記塩素濃度検出手段からの検出信号に基づいて上記タンク内の塩素濃度が一定の範囲内に保持されるように上記供給手段からの上記液体の添加量を制御する第1の制御手段と、上記レベル計が高位設定値を検出した際に上記排出ラインの上記ポンプを作動させるとともに、低位設定値を検出した際に上記ポンプの作動を停止させる第2の制御手段を有してなることを特徴とする請求項3に記載のセメント焼成設備の排ガス処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−116299(P2010−116299A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291184(P2008−291184)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】