説明

セラミックフィルター及びその製造方法

【課題】燃費を悪化させないように、圧力損失は抑えながら、超微粒子を含むPMを効率的に捕集することが可能なセラミック多孔体及び該多孔体からなるセラミックフィルターを提供する。
【解決手段】焼結体からなるセラミック多孔体の隔壁に形成した気孔部の内壁表面の部分に針状結晶が形成されていること、上記内壁表面の部分が、機械加工を施していない状態の、いわゆる焼成面であり、該焼成面に基材と基本的に同一成分の針状結晶が形成されていること、及び気孔部の径が、50ミクロン以上であり、その内部に形成した針状結晶の長さが、5ミクロンから30ミクロンの範囲にあることを特徴とするセラミック多孔体、その製造方法、及び上記セラミック多孔体からなるセラミックフィルター。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック多孔体及びその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、主にディーゼルエンジンから排出される広い粒度分布を有する粒状物質(PM)の捕集を効率的に行うためのセラミックフィルターに関するものである。本発明は、針状結晶を多孔体の隔壁の気孔部の内壁表面に形成させたセラミック多孔体及び該多孔体からなるセラミックフィルターに係るものであり、流路内を漂う超微粒子を効率的に捕集することが可能であり、しかも、圧損が小さく、燃費悪化をほとんど生じることのない高性能セラミックフィルターを提供するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車やガスタービンの排ガスなど、燃焼機関から排出される排ガスには、ナノレベルの超微粒子から数ミクロンに及ぶ広い粒度分布のPMが含まれている。そのうち、質量の大部分は、粒径0.1〜0.3μmの範囲にあるが、個数濃度では、大部分が粒径0.005〜0.05μmの範囲にあり、それらは、質量は1〜20%に過ぎないが、粒子個数では90%以上を占めるとされている。最近、特に粒径の小さな超微粒子の健康影響が懸念されており、超微粒子を含めた全てのPMを捕集することが今後必要になる。
【0003】
例えば、先行文献には、ガス等の流体との接触面積を大きくした窒化ケイ素質多孔体及びその製造方法を提供するための解決手段が開示されている(特許文献1)。すなわち、この文献には、平均粒子直径が1〜150μmの金属ケイ素粒子100部と、ケイ素酸化物粒子をSiOに換算して0.2〜45部含む混合物を混練し、貫通孔の断面積が1〜100mmである押出成形体を押出成形後、該押出成形体を窒素中で熱処理して貫通孔の表面から柱状結晶が析出している窒化ケイ素質多孔体を製造することが記載されている。これは、貫通孔に針状粒子を生成する内容であるが、超微粒子の捕集に重要なのは壁面に形成された空隙内部への針状結晶であり、その点で、本発明とは異なるものである。
【0004】
また、公知例では、焼成温度を1800℃以下と規定しているが、その場合、粒子成長は生じにくくなるため、本発明では、粒成長させるために、焼成温度を1800℃以上に高くする必要性を見出している。混合物に含まれているケイ素酸化物粒子は、熱処理の過程でバインダー等の有機成分の分解によって形成された炭素成分と反応して一酸化ケイ素の気相を形成する。尚、本発明では、多孔体の流路内に生成した一酸化ケイ素の気相が残留炭素及び窒素と反応して(還元−窒化反応)、窒化ケイ素粒子を生成する。生成した窒化ケイ素粒子は、貫通孔の表面に形成された窒化ケイ素粒子を核として成長し、貫通孔の内側に向けて柱状結晶を形成するものと推定される。
【0005】
また、先行文献には、コーディエライト針状結晶を層状に形成した内壁を有するハニカム構造体に関する技術が提案されている(特許文献2)。しかしながら、内壁に針状結晶を成長させたセラミックフィルターでは、捕集効率が低いという欠点があった。
【0006】
また、他の先行文献には、窒化ケイ素粒子、粘土及び酸化物からなる成形体を焼成して窒化ケイ素多孔体とする方法(特許文献3)が提案されているが、窒化ケイ素粒子を出発原料とするため、製造原価の点で問題があった。一方、他の先行文献には、金属ケイ素粒子と窒化ケイ素粒子からなる混合粉体を出発原料とする成形体を熱処理して窒化ケイ素多孔体とする方法(特許文献4)が提案されているが、窒化率が低いため、金属ケイ素が多く残留し、窒化ケイ素の持つ優れた耐熱性、耐食性などを損なう問題があった。
【0007】
また、関連した発明としては、多数の特許が出願されている。特にコーディエライトは、融点が1400℃ほどと高く、熱膨張係数が極端に小さいので、耐熱衝撃性に優れることから、自動車の三元触媒やガスタービン用の燃焼触媒、あるいは高温ガス浄化触媒用など、700℃を超える高温部における触媒の担体として、そのハニカム構造体が用いられていることは公知である(非特許文献1)。ただし、現行のセラミックフィルターで超微粒子を捕集する場合、気孔径を小さくする必要があるが、その場合、圧力損失が大きくなり、燃費の悪化を招くという問題があり、当技術分野では、それらを解決できる新技術の開発が強く要請されていた。
【0008】
【特許文献1】特開2001−316188号公報
【特許文献2】特開2004−298709号公報
【特許文献3】特開平6−256069号公報
【特許文献4】特開平1−188479号公報
【非特許文献1】「ハニカムセラミックスの新展開」未来材料、Vol.1,No.7,26〜33頁、2001年7月号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、現行のセラミックフィルターの上記問題点を解決し、超微粒子を効率良く捕捉することを可能とすると共に、圧力損失が大きくなることのない新しいセラミックフィルターを開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、セラミック多孔体の隔壁に形成した気孔部の内壁表面に針状結晶を成長させることで所期の目的を達成し得ることを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。本発明は、燃費を悪化させないように、圧力損失を抑えながら、超微粒子を含むPMを効率的に捕集することを可能とする高性能セラミックフィルターを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)焼結体からなるセラミック多孔体の隔壁に形成した気孔部の内壁表面の部分に針状結晶が形成されていることを特徴とするセラミック多孔体。
(2)上記内壁表面の部分が、機械加工を施していない状態の、いわゆる焼成面であり、該焼成面に基材と基本的に同一成分の針状結晶が形成されている前記(1)に記載のセラミック多孔体。
(3)気孔部の径が、50ミクロン以上であり、その内部に形成した針状結晶の長さが、5ミクロンから30ミクロンの範囲にある前記(1)又は(2)に記載のセラミック多孔体。
(4)上記針状結晶のアスペクト比が、3以上である前記(1)から(3)のいずれかに記載のセラミック多孔体。
(5)上記針状結晶が、焼結過程において形成される鉄シリサイドの融液から成長したものである前記(1)から(4)のいずれかに記載のセラミック多孔体。
(6)上記多孔体の結晶構造が、六方晶である前記(1)に記載のセラミック多孔体。
(7)上記多孔体が、窒化ケイ素、コーディエライト、ムライトあるいはそれらの複合体である前記(1)又は(6)に記載のセラミック多孔体。
(8)上記多孔体が、おおむねハニカム構造をとっている前記(1)、(6)又は(7)に記載のセラミック多孔体。
(9)前記(1)から(8)のいずれかに記載のセラミック多孔体からなることを特徴とするセラミックフィルター。
(10)排ガス中に含まれる粒子のうち、比較的大きな粒子を気孔部入り口で捕捉し、ブラウン運動が主体となる超微粒子を上記針状結晶によって捕捉する機能を有する前記(9)に記載のセラミックフィルター。
(11)セラミック原料及び造孔剤からなる原料に、成形助剤と水を加え、混練して混練物を調製し、次に、該混練物を金型を使用して押出成形し、貫通孔1個あたりの断面積が1〜100mmである押出成形体を調製し、その後、該押出成形体を焼成し、該焼成過程において前記造孔剤を消失させて形成された気孔部の内部に向けて基材より針状結晶を成長させることを特徴とするセラミック多孔体の製造方法。
(12)上記造孔剤は、有機物質と鉄あるいは鉄を含む化合物の混合物であって、造孔剤が消失して空間場を形成した後に、焼成過程で鉄あるいは鉄を含む化合物の混合物がケイ素と反応して液相を作り、針状結晶成長を促進させる前記(11)に記載のセラミック多孔体の製造方法。
(13)上記セラミックス原料が、窒化ケイ素を主成分とする原料であり、焼成温度を1800℃以上として針状結晶を成長させる前記(11)に記載のセラミック多孔体の製造方法。
(14)上記セラミックス原料が、ケイ素を主成分とする原料であり、窒素中での反応焼成の後、更に、焼成温度を上げて粒成長させる前記(11)に記載のセラミックス多孔体の製造方法。
(15)上記セラミック原料が、アルミナ、及び/又はイットリアを含有する前記(11)、(12)又は(13)に記載のセラミック多孔体の製造方法。
(16)上記造孔剤が、ポリエチレン、ポリスチレン、フェノール樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、又はポリビニルブチラール(PVB)のいずれかである前記(11)に記載のセラミック多孔体の製造方法。
(17)上記造孔剤が、カーボンである前記(11)に記載のセラミックス多孔体の製造方法。
(18)上記セラミック原料に、融点が焼成温度以下の金属あるいは金属化合物を含有させ、焼成過程において液相を形成し、液相から針状結晶を析出させる前記(11)に記載のセラミック多孔体の製造方法。
(19)上記金属あるいは金属化合物が、ケイ素、鉄あるいは鉄の化合物である前記(18)に記載のセラミック多孔体の製造方法。
(20)焼成後、酸溶液による化学処理により、結晶粒子を突出させる前記(11)から(19)のいずれかに記載のセラミック多孔体の製造方法。
【0011】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、好適には、例えば、セラミックフィルターとして特に有用なセラミック多孔体を提供するものである。本発明のセラミックフィルターは、排ガスに含まれる有害成分を除去するためのフィルターであって、焼結工程を経て製造される多孔体からなり、該多孔体の隔壁に形成された気孔部の内壁表面のガスの接触する部分に、焼結過程で成長した針状結晶が形成されていることを特徴とするものである。そして、上記内壁表面のガスの接触する部分は、機械加工を施していない状態の、いわゆる焼成面であり、該焼成面には、基材と基本的に同一成分の針状結晶が形成されている。
【0012】
本発明のセラミックフィルターは、その気孔部の径が、50ミクロン以上であり、その内部に生成した針状結晶の長さが、5ミクロンから30ミクロンの範囲にあることが好ましく、上記針状結晶のアスペクト比は、3以上であることが好ましい。本発明において、基材の多孔体は、好適には、例えば、窒化ケイ素、コーディエライト、ムライト、アルミナあるいはそれらの複合体からなり、該多孔体の結晶構造は六方晶であること、また、該多孔体は、おおむねハニカム構造をとっていること、が好適なものとして例示される。
【0013】
次に、本発明のセラミックフィルターの作製方法について説明すると、本発明のセラミックフィルターは、基本的には、(1)セラミック原料及び造孔剤からなる原料に、成形助剤と水を加えて混練して混練物を調製する工程、次に、(2)該混練物を金型を使用して押出成形し、貫通孔1個あたりの断面積が1〜100mmである押出成形体を調製する工程、その後、(3)該押出成形体を焼成し、該焼成過程において、前記造孔剤を消失させて形成された空隙(気孔部)の内部に向けて基材より針状結晶を成長させる工程、により作製される。
【0014】
本発明では、造孔剤として、例えば、有機物質と鉄あるいは鉄を含む化合物の混合物が使用されるが、該造孔剤を使用することによって、上記焼成過程において、造孔剤が消失して空間場を形成した後に、該焼成過程で鉄あるいは鉄を含む化合物の混合物がケイ素と反応して液相を作り、針状結晶成長を促進させることが可能となる。本発明では、上記造孔剤として、好適には、有機物とケイ素、鉄あるいは鉄の化合物を含む混合物が用いられるが、これらに制限されるものではなく、融点が焼成温度以下の金属あるいは金属化合物を含有させ、焼成過程において液相を形成し、該液相から針状結晶を析出させることができるものであれば、適宜の材料を使用することができる。上記造孔剤としては、好適には、例えば、カーボン、でんぷん、ポリエチレン、ポリスチレン、フェノール樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)などが用いられる。また、成形助剤としては、好適には、例えば、メチルセルロース、PMMA、PVA、PVBなどが用いられるが、これらに制限されるものではなく、これらと同効のものであれば同様に使用することができる。
【0015】
本発明では、上述の造孔剤を用いることにより、例えば、上記針状結晶を、焼成過程において形成される鉄シリサイドの融液から成長させることが可能となる。本発明では、例えば、セラミックス原料が窒化ケイ素を主成分とする場合には、焼成温度を1800℃以上、好適には、1800〜1950℃として針状結晶を成長させる。また、上記セラミックス原料がケイ素を主成分とする場合には、窒素中で1000〜1450℃で反応焼成の後、更に、焼成温度を1850℃付近まで上げて粒成長させる。更に、本発明では、焼成後、酸溶液による腐食等の化学処理により、結晶粒子を突出させることができる。
【0016】
ここで、コーディエライトの化学処理の場合を例として説明すると、本発明者らは、先に、コーディエライト多孔体について、強度を維持しつつ、更なる比表面積の向上を目的として研究を行った結果、カルボキシル基(−COOH)を有する酸、リン酸、硫化水素、すなわち、解離度の小さな弱酸で処理することにより、1ナノメートルから0.1ミクロンオーダーの直径を有するコーディエライトの針状結晶相がサブミクロンオーダーの針状結晶相の表面に形成させ得ることを発見した。更に、弱酸で処理する場合には、処理に要する時間及び弱酸の濃度を変化させることにより、析出させるナノオーダーの針状結晶相の大きさ及び数、すなわち、比表面積を制御できることが分かった。
【0017】
酸の種類、酸の濃度、処理時間との関係を詳しく検討した結果、実用化させる際の実質的に応用可能となる時間を考慮して、上記に掲げた全ての弱酸に対して、酸の濃度を0.001Nから2Nの範囲で、比表面積が最大となる最適な処理条件を設定することができることが分かった。
【0018】
酸処理によるコーディエライトの多孔質化のメカニズムは未だ明らかではないが、酸処理によりコーディエライト相のマグネシア成分が表面から溶出されていることが見出された。解離度の高い酸、すなわち、強酸で処理すると、多量のマグネシアが溶出し、多孔質化はするものの溶出速度が速いため、瞬時に結晶相の表面をなめらかにし、比表面積は向上しない。
【0019】
解離度の低い酸、すなわち、弱酸で処理すると、溶出のメカニズムは強酸と同じであると考えられるが、溶出速度を緩やかに調整することが可能となり、溶出初期に形成される微細な針状結晶相が析出する段階で処理を停止させることが可能となる。すなわち、比表面積が最大となる時に処理を停止させることが容易になり、高比表面積を有するコーディエライト多孔体を製造することが可能となる。
【0020】
弱酸を用いた場合でも、濃度を低くした溶液で処理することにより、もっと容易に上記の比表面積が最大となる段階で処理を調整することが可能となる。比表面積が最大となる段階で酸処理を停止させる場合、酸の濃度が低いと、要する処理時間が長くなり、濃度が高いと、要する処理時間は短くなる。すなわち、比表面積が最大となる処理条件は、弱酸の濃度と処理時間で調整することが可能となる。
【0021】
酸の解離度は、酸の種類により異なるため、本発明の高比表面積コーディエライト多孔体の製造方法において、最大の高比表面積を有する処理条件は、酸の種類、酸の濃度、処理時間で適宜調整することができる。その他の化学処理の例について、更に説明すると、コーディエライトハニカム構造体をアルカリ溶液、高温高圧水あるいは超臨界流体などに浸漬すると、溶出により高比表面積を有するコーディエライトハニカムの作製が可能であることが知られており、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム水溶液等のアルカリ溶液、HOやCO等の超臨界流体、1〜15MPa、150−300℃の高温高圧水を用いることができる。
【0022】
本発明では、例えば、セラミックス原料としての上記混合物に含まれているケイ素酸化物粒子は、焼成過程でバインダー等の有機成分の分解によって形成された炭素成分と反応して一酸化珪素の気相を形成し、多孔体の流路内に生成した一酸化ケイ素の気相が残留炭素及び窒素と反応して(還元−窒化反応)、窒化ケイ素粒子を生成する。生成した窒化ケイ素粒子は、気孔部の表面に形成された窒化ケイ素粒子を核として成長し、気孔部の内側に向けて柱状結晶を形成する。
【0023】
ハニカム状とした多孔質のセラミック体における空隙(気孔部)の内壁に針状結晶を形成し、粒子を空隙入り口部で捕集し、更に、超微粒子を、内部の針状結晶粒子での深層ろ過により捕集する。粒子径が小さくなるにつれ、慣性からブラウン運動が支配的となるため、流路内を漂う微粒子を壁面で効果的に捕集することが可能であり、その場合、実質的な流動抵抗とはならないため、圧損が小さく、燃費悪化をほとんど生じない。このように、本発明では、効率的に構造が制御された気孔部を生成するために、消失することで空間場を生成する有機物質と、針状材として焼結過程で液相を生成する低融点の化合物でなる混合物を造孔剤として使用することが重要である。
【0024】
本発明では、上記セラミックフィルターは、好適には、例えば、所定のケーシング内に配置され、例えば、ヒル石(バーミキュライト)を使って固定され、排ガス入出路の端部は交互に眼封じされている、いわゆるウォールフロータイプのセラミックフィルターとして利用されるが、これらに制限されるものではなく、セラミックフィルターの具体的な構造及びその利用形態については、その使用目的、大きさ及び装置の構造等に応じて任意に設計することができる。本発明のセラミックフィルターにより、排ガス中に含まれる粒子のうち、比較的大きな粒子を気孔部入り口で捕捉し、ブラウン運動が主体となる超微粒子を上記針状結晶によって捕捉することが可能となる。
【0025】
従来材では、多孔体に含まれる隔壁の表面のガスと接触する部分に、焼成過程で針状結晶が成長している例は存在するが、これは、造孔剤を消失させて形成された特定の気孔部の内部に向けて針状結晶を成長させたセラミックフィルターではない。一方、本発明では、焼成過程で造孔剤を消失させることで形成された所定の大きさの気孔部の内部において、例えば、焼成過程において形成される鉄シリサイトの融液から該気孔部の内部に向けて針状結晶を成長させたことを特徴とするものであり、多孔体に形成させた気孔部の内壁表面と上記のガスと接触する部分において針状結晶を成長させたものである点、及び、それにより、比較的大きな粒子を気孔部入り口で捕捉し、ブラウン運動が主体となる超微粒子を上記気孔部に形成させた針状結晶で捕捉するようにした点、で、従来材とはその構造及び機能の両面において本質的に相違するものである。
【0026】
本発明によれば、超微粒子の運動特性を利用して壁面で効果的に捕集できるため、気孔径を小さくする必要がなく、また、ハニカムの流路の長さも短くすることができるので、圧力損失が少なく、従って、燃費の悪化が小さく、また、広い粒度にわたって、PMを効率的に捕集することができる。針状結晶を気孔内壁に形成したハニカムを設け、超微粒子を主に針状結晶粒子を形成したハニカム内壁での接触による表面捕集と深層ろ過により捕集する。粒子径が小さくなるにつれ慣性からブラウン運動が支配的となるため、流路内を漂う微粒子を壁面で効果的に捕集することが可能であり、その場合、実質的な流動抵抗とはならないため、圧損が小さく、燃費悪化をほとんど生じない。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、(1)多孔体の隔壁に形成した気孔部の内壁表面に針状結晶を成長させたセラミック多孔体及び該多孔体からなるセラミックフィルターを提供することができる、(2)特に、上記気孔部の内部に、形状、構造の制御された針状結晶を成長させた特定の構造を有するセラミックフィルターを提供することができる、(3)上記セラミックフィルターを使用することで、特に、排ガス中の超微粒子(PM)を、その超微粒子の運動特性を利用して壁面で効果的に捕集できるため、気孔径を小さくする必要がなく、また、ハニカムの流路の長さも短くすることができるので、圧力損失が少なく、従って、燃費の悪化が小さく、また、広い粒度にわたってPMを効率的に捕集することができる、(4)前段の多孔ハニカムで、PM粒子のうち、比較的大きな粒子をケークろ過で捕集した上で、すり抜け、あるいは、凝結によって生成した超微粒子を、後段の針状結晶を内壁にもつトンネル内を通過させ、壁面で捕集させる構造を有するセラミックフィルターを構築することができる、という効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
次に、図面の記載に基づいて、本発明のセラミック多孔体及びセラミックフィルターの実施例について具体的に説明する。尚、図1−3に、本発明の構成の一例を示す。また、図5、6に、本発明の効果を示す。図1は、全体構成、図2は、セラミックフィルター部の拡大、図3、4は、それぞれ、本発明のセラミックフィルターの気孔部の微細構造を示す。
【実施例1】
【0029】
平均粒径が1ミクロン程度の窒化ケイ素粉末、アルミナ、及びイットリアが、それぞれ、92:3:5となるように秤量して原料とした。粉末総重量に対して140wt%の水を配合し、ボールミルにより混合した。その後、乾燥させ、水分を除去した。該混合粉末100%に粒径70ミクロンのポリエチレン粒子(造孔剤) を外掛で10%、成形助剤として12%のメチルセルロース、1.5%のグリセリン及び15%の水を加えて、加圧ニーダーを使って約1時間混練して成形組成物を作製した。得られた組成物をハニカム成形金型を配した押出成形機を使ってハニカム成形体とした。
【0030】
ハニカム成形体の外形は、直径80mm、長さ120mm、セル壁の厚さ0.2mmであった。乾燥後、0.93MPaの窒素雰囲気中、最高1800℃で焼成してセラミックフィルターを作製した。ケーシング内にセラミックフィルターを配し、ヒル石(バーミキュライト)を使って固定した。なお、排ガス入出路の端部は交互に眼封じされている、いわゆるウォールフロータイプのセラミックフィルターとした。
【実施例2】
【0031】
平均粒径が1ミクロン程度の窒化ケイ素粉末、アルミナ、及びイットリアが、それぞれ、90:5:5となるように秤量して原料とした。粉末総重量に対して140wt%の水を配合し、ボールミルにより混合した。その後、乾燥させ、水分を除去した。該混合粉末100%に粒径70ミクロンの黒鉛粉末(造孔剤) を外掛で10%、成形助剤として12%のメチルセルロース、1.5%のグリセリン及び15%の水を加えて、加圧ニーダーを使って約1時間混練して成形組成物を作製した。得られた組成物をハニカム成形金型を配した押出成形機を使ってハニカム成形体とした。
【0032】
ハニカム成形体の外形は、直径80mm、長さ120mm、セル壁の厚さ0.2mmであった。乾燥後、0.93MPaの窒素雰囲気中、最高1800℃で焼成してセラミックフィルターを作製した。ケーシング内にセラミックフィルターを配し、ヒル石(バーミキュライト)を使って固定した。なお、排ガス入出路の端部は交互に眼封じされている、いわゆるウォールフロータイプのセラミックフィルターとした。
【実施例3】
【0033】
(1)セラミックフィルターの作製
平均粒径が1ミクロン程度の窒化ケイ素粉末、アルミナ、及びイットリアが、それぞれ、92:3:5となるように秤量して原料とした。粉末総重量に対して140wt%の水を配合し、ボールミルにより混合した。その後、乾燥させ、水分を除去した。該混合粉末100%に、あらかじめポリエチレンと酸化鉄でなる、粒径70ミクロンの混合物(造孔剤) を外掛で10%、成形助剤として12%のメチルセルロース、1.5%のグリセリン及び15%の水を加えて、加圧ニーダーを使って約1時間混練して成形組成物を作製した。得られた組成物をハニカム成形金型を配した押出成形機を使ってハニカム成形体とした。
【0034】
ハニカム成形体の外形は、直径80mm、長さ120mm、セル壁の厚さ0.2mmであった。乾燥後、0.93MPaの窒素雰囲気中、最高1800℃で焼成してセラミックフィルターを作製した。ケーシング内にセラミックフィルターを配し、ヒル石(バーミキュライト)を使って固定した(図1)。なお、排ガス入出路の端部は交互に眼封じされている、いわゆるウォールフロータイプのセラミックフィルターとした(図2)。
【0035】
(2)焼結体の構造及びPM捕集特性
得られた焼結体の気孔部分を観察した結果、約50ミクロンの径をもつ気孔の内壁には径が2から5ミクロン長さ、最長で30ミクロンの針状結晶が成長していることが確認された。図5、図6に、PM捕集効率、圧力損失の経時間変化、ならびに排出ガスに含まれるPMの粒子径を測定した結果を示す。データ中において、本発明は、針状粒子形成ハニカムを設けたDPF、比較例は、通常のウォールフロータイプのDPFである。
【0036】
DPFをディーゼルエンジンの排気マニホールドとマフラーとを繋ぐ排気管に装着し、ディーゼルエンジンから排出される排気ガスのPM浄化を行なった。その結果、図5に示すように、本発明は、従来品に比べて高い浄化率、捕集時間を示した。また、本発明によれば、従来のDPFに比べて、微粒子のPMが浄化できることが分かった。大きな粒子の運動は慣性が主体のため、気孔入り口で捕集(ケークろ過方式)され、一方、気孔をすり抜け、あるいは凝結によって生成する超微粒子はブラウン運動が主体のため、壁面で捕集される。
【実施例4】
【0037】
ムライト粉末総重量に対して140wt%の水を配合し、ボールミルにより混合した。その後、乾燥させ、水分を除去した。該混合粉末100%に、あらかじめポリエチレンと酸化鉄でなる、粒径70ミクロンの混合物(造孔剤) を外掛で10%、成形助剤として12%のメチルセルロース、1.5%のグリセリン及び15%の水を加えて、加圧ニーダーを使って約1時間混練して成形組成物を作製した。得られた組成物をハニカム成形金型を配した押出成形機を使ってハニカム成形体とした。
【0038】
ハニカム成形体の外形は、直径80mm、長さ120mm、セル壁の厚さ0.2mmであった。乾燥後、0.93MPaの窒素雰囲気中、最高1800℃で焼成してセラミックフィルターを作製した。ケーシング内にセラミックフィルターを配し、ヒル石(バーミキュライト)を使って固定した。なお、排ガス入出路の端部は交互に眼封じされている、いわゆるウォールフロータイプのセラミックフィルターとした。
【実施例5】
【0039】
カオリン粉末総重量に対して140wt%の水を配合し、ボールミルにより混合した。その後、乾燥させ、水分を除去した。該混合粉末100%に、あらかじめポリエチレンと酸化鉄でなる、粒径70ミクロンの混合物(造孔剤) を外掛で10%、成形助剤として12%のメチルセルロース、1.5%のグリセリン及び15%の水を加えて、加圧ニーダーを使って約1時間混練して成形組成物を作製した。得られた組成物をハニカム成形金型を配した押出成形機を使ってハニカム成形体とした。
【0040】
ハニカム成形体の外形は、直径80mm、長さ120mm、セル壁の厚さ0.2mmであった。乾燥後、0.93MPaの窒素雰囲気中、最高1800℃で焼成してセラミックフィルターを作製した。ケーシング内にセラミックフィルターを配し、ヒル石(バーミキュライト)を使って固定した。なお、排ガス入出路の端部は交互に眼封じされている、いわゆるウォールフロータイプのセラミックフィルターとした。
【実施例6】
【0041】
カオリン、タルク、アルミナ、シリカ粉末を用いた。カオリンはアルミナ、シリカ、マグネシアを主成分とした複酸化物の総称である。本実施例で用いたカオリン及びタルクの組成はモル比で、カオリン(Al:SiO:MgO:K=34.69:50.64:0.47:2.59:1.08)、タルク(SiO:MgO=62.85:31.33)の組成であった。カオリンは焼結時に針状結晶を成長させる核となる。これを原料粉末に対する重量比で0.1〜10wt%添加し、水を溶媒としてスラリーを調製した。充分に攪拌して均一なスラリーを得るために、12時間ボールミルで混合した。押し出し成形によりハニカムとした後、ハニカム体をアルミナボードに乗せ、大気中で1200〜1400℃の温度で、3から5時間焼結させ、セラミックフィルターを作製した。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上詳述したように、本発明は、セラミック多孔体、該多孔体からなるセラミックフィルター及びそれらの製造方法に係るものであり、本発明により、針状結晶を多孔体の内壁の空隙(気孔部)の内部に成長させたセラミックフィルターを提供することができる。ディーゼルや工場煤煙に含まれる浮遊状粒子物質(SPM)は人体への影響が指摘され、既に深刻な社会問題となっているが、更に、最近の米国環境保護局によるPM超微粒子の健康影響への報告に触発され、超微粒子捕集も含めた対応が急がれるようになった。これまで、国内外で進められてきた排ガス浄化システムの開発において、主要部品となるセラミックフィルターは、これまでに気孔サイズや分布の制御を中心とした多孔質セラミックスの開発が主体であったが、同方式では低燃費化の条件である圧力損失を抑えながらの超微粒子の捕集には限界がある。本発明は、最近、主にディーゼルエンジンから排出される広い粒度分布を有する粒状物質(PM)の捕集を効率的に行うためのセラミックフィルターを提供するものであり、セラミックフィルターについての社会的要請に応えるものとして高い有用性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明のセラミックフィルターの全体構成を示す。
【図2】フィルター部構造を示す。
【図3】気孔部微細構造(貫通部からみた様子)を示す。
【図4】気孔部微細構造(壁面断面)を示す。
【図5】PM捕集特性を示す。
【図6】PM粒径個数分布を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結体からなるセラミック多孔体の隔壁に形成した気孔部の内壁表面の部分に針状結晶が形成されていることを特徴とするセラミック多孔体。
【請求項2】
上記内壁表面の部分が、機械加工を施していない状態の、いわゆる焼成面であり、該焼成面に基材と基本的に同一成分の針状結晶が形成されている請求項1に記載のセラミック多孔体。
【請求項3】
気孔部の径が、50ミクロン以上であり、その内部に形成した針状結晶の長さが、5ミクロンから30ミクロンの範囲にある請求項1又は2に記載のセラミック多孔体。
【請求項4】
上記針状結晶のアスペクト比が、3以上である請求項1から3のいずれかに記載のセラミック多孔体。
【請求項5】
上記針状結晶が、焼結過程において形成される鉄シリサイドの融液から成長したものである請求項1から4のいずれかに記載のセラミック多孔体。
【請求項6】
上記多孔体の結晶構造が、六方晶である請求項1に記載のセラミック多孔体。
【請求項7】
上記多孔体が、窒化ケイ素、コーディエライト、ムライトあるいはそれらの複合体である請求項1又は6に記載のセラミック多孔体。
【請求項8】
上記多孔体が、おおむねハニカム構造をとっている請求項1、6又は7に記載のセラミック多孔体。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載のセラミック多孔体からなることを特徴とするセラミックフィルター。
【請求項10】
排ガス中に含まれる粒子のうち、比較的大きな粒子を気孔部入り口で捕捉し、ブラウン運動が主体となる超微粒子を上記針状結晶によって捕捉する機能を有する請求項9に記載のセラミックフィルター。
【請求項11】
セラミック原料及び造孔剤からなる原料に、成形助剤と水を加え、混練して混練物を調製し、次に、該混練物を金型を使用して押出成形し、貫通孔1個あたりの断面積が1〜100mmである押出成形体を調製し、その後、該押出成形体を焼成し、該焼成過程において前記造孔剤を消失させて形成された気孔部の内部に向けて基材より針状結晶を成長させることを特徴とするセラミック多孔体の製造方法。
【請求項12】
上記造孔剤は、有機物質と鉄あるいは鉄を含む化合物の混合物であって、造孔剤が消失して空間場を形成した後に、焼成過程で鉄あるいは鉄を含む化合物の混合物がケイ素と反応して液相を作り、針状結晶成長を促進させる請求項11に記載のセラミック多孔体の製造方法。
【請求項13】
上記セラミックス原料が、窒化ケイ素を主成分とする原料であり、焼成温度を1800℃以上として針状結晶を成長させる請求項11に記載のセラミック多孔体の製造方法。
【請求項14】
上記セラミックス原料が、ケイ素を主成分とする原料であり、窒素中での反応焼成の後、更に、焼成温度を上げて粒成長させる請求項11に記載のセラミックス多孔体の製造方法。
【請求項15】
上記セラミック原料が、アルミナ、及び/又はイットリアを含有する請求項11、12又は13に記載のセラミック多孔体の製造方法。
【請求項16】
上記造孔剤が、ポリエチレン、ポリスチレン、フェノール樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、又はポリビニルブチラール(PVB)のいずれかである請求項11に記載のセラミック多孔体の製造方法。
【請求項17】
上記造孔剤が、カーボンである請求項11に記載のセラミックス多孔体の製造方法。
【請求項18】
上記セラミック原料に、融点が焼成温度以下の金属あるいは金属化合物を含有させ、焼成過程において液相を形成し、液相から針状結晶を析出させる請求項11に記載のセラミック多孔体の製造方法。
【請求項19】
上記金属あるいは金属化合物が、ケイ素、鉄あるいは鉄の化合物である請求項18に記載のセラミック多孔体の製造方法。
【請求項20】
焼成後、酸溶液による化学処理により、結晶粒子を突出させる請求項11から19のいずれかに記載のセラミック多孔体の製造方法。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−219318(P2006−219318A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−32435(P2005−32435)
【出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】