説明

セラミック系粒子配向積層体とその製造方法

【課題】 偏平状の粒子を一定の方向に配向させて堆積させる。
【解決手段】 セラミックス、複合セラミックス、構造の一部に有機物や金属またその両方を含むセラミックス、表面に有機物や金属またはその両方で修飾されたセラミックスからなる偏平状粒子を溶媒に懸濁させて、導電性材料を基板として挿入し、懸濁液に電場を印加することにより、同懸濁液の偏平状粒子を配向させながら基板上に堆積させてセラミック系粒子配向積層体を製造する。扁平状粒子の懸濁液に、セラミックスのゾル溶液を添加することにより、堆積効率を高めて堆積させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縦横の幅と厚み方向の差が大きなセラミックス系の偏平状粒子を、水やアルコール等の溶媒に懸濁させ、この懸濁液に導電性基板を挿入し電場を印加する電気泳動電着法により、各粒子を一定の方向に配向させて堆積させたセラミック系粒子配向積層体とそれを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末原料を用いたセラミックスの成形は、乾式のプレス成形や湿式の鋳込み成形が一般的であり、ほとんどの工業製品はこれらの手法により作製されている。
また、セラミックスの電気泳動電着法は、緻密な薄膜からバルクまで厚さの制御された堆積層の作製が容易であること、異なる数種の懸濁液を用い交互に堆積させることで積層セラミックスを合成できること、懸濁液の組成を変化させることにより傾斜組成材料の作製が可能であることなどの特徴を持ち、様々な機能または構造セラミックスのプロセッシングに応用できる手法として研究されている。
【0003】
例えばこの種の電気泳動電着法を用いたセラミック層の製造方法としては、例えば特開2002−88500号公報に記載されたように、結晶配向性のある層状化合物を有機溶媒中で直流電圧又は交流電圧を印加して電気泳動させて基板上に電析させ、電析した層状化合物を薄膜とする結晶配向層状化合物膜の作製方法や、特開平6−63916号公報に記載されたように、ポリアミド系界面活性剤を含有する有機溶媒にセラミック原料粒子を分散させてなるスラリーに、所定の形状を有する着電極及び対極電極を浸漬し、低電圧を印加して帯電するセラミック原料粒子を前記着電極上に電着させるセラミック成形体の製造方法等が既に公開されている。
【0004】
これらのセラミックシートの製造方法では、セラミック粒子として球状粒子或いは方形状粒子を使用している。これに対し、一方向の寸法に対して2方向の寸法が大きな偏平状の粒子は配向させることが難しく、そのまま使用すると製品材質が不均一になるため、工業製品の製造技術としては確立されていない。
【0005】
偏平粒子を用いたセラミックシートを工業製品用の材料として活用するための製造技術として確立するためには、粒子の向きをそろえて製品材質の均一性を高める必要がある。また、球状粒子を原料として作製した成形体は、粒径が小さくなると成形が難しくなり、湿式成形の場合は表面に付着した溶媒の影響で成形後の体積収縮に伴い乾燥割れを生じるなどの問題があった。このため、機能性材料の開発に着目されているナノサイズ微粒子の成形は非常に困難な状況にある。
【0006】
【特許文献1】特開2002−88500号公報
【特許文献2】特開平6−63916号公報
【特許文献3】特開2004−209780号公報
【特許文献4】特開2003−183891号公報
【特許文献5】特開2001−316874号公報
【特許文献6】特開2004−66469号公報
【特許文献7】特表2003−532609号公報
【特許文献8】特開平6−219863号公報
【特許文献9】特開2004−131363号公報
【特許文献10】特開平8−306985号公報
【特許文献11】特表2002−511903公報
【特許文献12】特開平6−63915号公報
【特許文献13】特開平8−78275号公報
【特許文献14】特開2003−13287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来の電気泳動電着法を用いたセラミック層の製造方法の課題に鑑み、偏平状の粒子を用いて、これらの粒子を一定の方向に配向させながら堆積させてセラミック系粒子配向積層体を得る製造方法とこれにより製造されたセラミック系粒子配向積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
偏平粒子の堆積に、電気泳動電着法を活用すると、電場の影響を受けて粒子の向きが揃った積層堆積物を作製することができる。また、その際にセラミックスのゾル溶液を添加することで、堆積効率が上がるとともに堆積物の密度が向上し、材質の均一な配向析出物を作製することができる。
【0009】
さらに、偏平粒子の配向積層物は、堆積後の乾燥収縮が配向方向の影響を受け一方向への収縮が大きくなるため、乾燥によるひび割れを生じることなく成形することが可能になる。これにより、偏平粒子の厚さをナノサイズとした機能性材料を用いた成形体の製造が可能となる。
【0010】
本発明は、このような観点からなされたものであり、セラミックス、複合セラミックス、構造の一部に有機物や金属またその両方を含むセラミックス、表面に有機物や金属またはその両方で修飾されたセラミックスからなる偏平状粒子を溶媒に懸濁させて、導電性材料を基板として挿入し、懸濁液に電場を印加することにより、同懸濁液の偏平状粒子を配向させながら基板上に堆積させてセラミック系粒子配向積層体を製造するものである。
この場合に、扁平状粒子の懸濁液に、セラミックスのゾル溶液を添加することにより、堆積効率を高めて堆積させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、縦横の幅と厚み方向の差が大ききなセラミックス系の偏平状粒子を、水やアルコール等の溶媒に懸濁させて、導電性基板を挿入し電場を印加する電気泳動電着法により、各粒子を一定の方向に配向させた積層物を供するものである。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、具体的に説明し、併せて実施例をあげて詳細に説明する。
【0012】
セラミックス系の偏平粒子とは、セラミックス、複合セラミックス、構造の一部に有機物や金属またその両方を含むセラミックス、表面に有機物や金属またはその両方で修飾されたセラミックスからなるもので、三次元の一方向の寸法に対し、他の2方向の寸法が大きい粒子である。具体的には厚さ方向の寸法に比べ、長さ及び幅方向の寸法が大きいアスペクト比の大きな粒子である。
【0013】
また、これらの粒子を堆積させる電気泳動電着用の基板には、黒鉛、金属、導電性セラミックス、導電性高分子等の導電性材料を使用することができる。
電着に用いる偏平粒子の懸濁液には、必要に応じて堆積後の積層物の形状を維持する目的でポリビニルアルコール(PVA)等のバインダーを添加したり、堆積効率を高めて高密度の堆積物を作製する目的でセラミックスのゾル溶液を添加することができる。
【0014】
図1は、このような粒子を堆積させる電気泳動電着装置の基本構成の一例を示す概念図である。電着に用いる偏平粒子を溶媒に分散した懸濁液を容器の中に入れ、この懸濁液に電気泳動電着用の基板として例えばPd等からなる導電性基板を浸漬する。また、この導電性基板に対向させて補助電極としてPt等からなる対極を懸濁液に浸漬する。これら懸濁液に浸漬した導電性基板と対極とに電源装置を接続し、対極が陽極、導電性基板が陰極となるようこれら一対の電極の間に直流電圧を印加する。
【0015】
このような装置において、電場の作用により、懸濁液中のセラミック系の扁平粒子の長手方向が一定の方向に揃えられながら、導電性基板の表面上に堆積し、膜状或いはシート状のセラミック系粒子配向積層体が形成される。すなわち、この手法により作製した粒子の堆積物は、偏平粒子の向きが一様に配向した積層状の堆積物となり、電場を印加する時間を変えることで薄膜から厚い板状の成形体まで作製することが可能である。
【0016】
従来における電気泳動電着法による層状物の製造方法では、主に結晶方向、磁性方向等の特性を揃えるための配向を目的としており、原子レベルの構造等に起因した性質を揃えるものである。
これらに対し本件発明では、偏平粒子の形状を一定方向に揃える配向を目的としている。結果として、前記のような結晶方向や磁性方向が揃えられる可能性があるが、必ずしもそれらの方向を揃えるものではなく、あくまでも偏平粒子の形状を一定方向に揃える配向を目的としている。
【0017】
このように扁平粒子の形状方向を揃える利点は、シートの製造工程或いは使用状態下において乾燥収縮の方向が揃うのでシートの割れを生じないことに加え、併せて性質を揃えられる可能性がある。特にナノメートルオーダの寸法を有する微細な粒子からなる材料では、機能性が期待されている一方で、シートの割れを生じやすいので、扁平粒子の形状方向を揃えることによりもたらされる利点は大きい。
【0018】
本発明の好ましい実施形態の一つとして懸濁液中にゾル溶液を添加剤として添加することがあげられる。成形したい材料と同じ組成のゾル溶液を使えば、不純物が混入することなく高品質の電気泳動電着膜を製造することが可能となる。例えばシートに酸化チタンを使用する場合、そのシート成分と同じ酸化チタンのゾル溶液を懸濁液中に添加して電気泳動電着したシートを製造する。
以下に、これらの手法の実施例を示すが、この内容が本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0019】
1. 電気泳動電着による偏平粒子の配向積層物の作製
偏平粒子には、株式会社アート科学製の厚さ100nm酸化チタンナノシートを使用した。この酸化チタンナノシートは、本件発明者らが提案した特開平2004−224623号公報に記載された製造方法により得られる。すなわち、テトライソプロポキシチタンをポリマー化した20%溶液を定量しながら流動する水面上に滴下し展開する流動界面ゾル−ゲル法により厚みが制御されたチタニアナノシートを得る。このチタニアナノシートは、シート内に熱的に準安定な非晶質あるいはシート厚みの1/5以下のナノ結晶粒が閉じ込められた構造の、シート間が易焼結性のシートである。これを4g対100gの割合で水に分散させてスラリーとした。
【0020】
次に、このスラリーを容器に入れ、次の条件1と条件2の2つの条件でチタニア層の製造試験を行った。
(条件1)スラリーに、パラジウムからなる導電性基板を浸漬し、3分後に引き上げた
(条件2)図1に示すように、スラリーに、白金板からなる対極とパラジウムからなる導電性基板を浸漬し、白金板を正極、パラジウム板を陰極として二つの基板の間に20Vの直流電圧を印加した。
【0021】
上記の条件においてパラジウム板上に堆積した酸化チタン膜について、走査型電子顕微鏡により表面形状観察を行った結果を図2及び図3に示した。
条件1は、薄膜作製法の1つであるディップ法であるが、酸化チタン膜の表面形状を示す図2から明らかなように、偏平粒子の方向性に秩序が無く乱雑な堆積状態であることがわかる。一方で、本発明の手法である条件2では、図3から明らかなように、偏平粒子の方向が揃って堆積していることがわかり、本発明の有効性が確認できた。
【実施例2】
【0022】
2.偏平粒子の懸濁液へのセラミックスゾル溶液の添加
前記実施例1で使用したチタニアスラリーに、酸化チタンのゾル溶液を添加して次の条件3で電気泳動電着膜を製造し、堆積物(膜)の状態を評価した。
(条件3)スラリーに、酸化チタンゾル(チタンテトライソプロポキシド 5wt%、イソプロパノール 15wt%、水 80wt% の溶液に、外割で硝酸 2wt%を添加)を5vol%添加した溶液に、白金板とパラジウム板を浸漬し、白金板を正極、パラジウム板を陰極として二つの基板の間に20Vの直流電圧を印加した。
【0023】
前記実施例1と同様にして作製した堆積物を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図4に示す。この図4から明らかなように、条件2の図2に比べ、図4の条件3の積層配向物の方がより配向性が高く密着した高密度の堆積物となっていることがわかり、本発明の偏平粒子懸濁液へのセラミックスゾル溶液の添加の有効性が確認できた。
【実施例3】
【0024】
3.球状微粒子の電気泳動電着
球状微粒子として、デグサ・アクチエン社製のP25を使用し、下記条件4の如く、前記実施例1の条件2と同じ条件によりスラリーを作製した。
(条件4)P25のスラリーに、白金板とパラジウム板を浸漬し、白金板を正極、パラジウム板を陰極として二つの基板の間に20Vの直流電圧を印加した。
【0025】
P25は、1次粒子の平均粒径が30nmと微細な粒子であり、条件4によって作製した堆積物は、図5に示したように乾燥後にひび割れを生じて成形体を作製することができなかった。これに対し、前記実施例2と同様に条件3で作製した配向積層物は、図6に示したように乾燥後もひび割れすることなく比較的厚い成形体を作製することができた。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態において粒子を堆積させる電気泳動電着装置の基本構成の一例を示す概念図である。
【図2】本発明の実施例1において前記条件1によりパラジウム板上に堆積した酸化チタン膜の表面形状の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】本発明の実施例1において前記条件2によりパラジウム板上に堆積した酸化チタン膜の表面形状の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明の実施例2において前記条件3によりパラジウム板上に堆積した酸化チタン膜の表面形状の走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明の実施例3において前記条件4によりパラジウム板上に堆積した酸化チタン膜の表面形状の走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】本発明の実施例3において前記条件3によりパラジウム板上に堆積した酸化チタン膜の表面形状の走査型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス、複合セラミックス、構造の一部に有機物や金属またその両方を含むセラミックス、表面に有機物や金属またはその両方で修飾されたセラミックスからなる偏平状粒子を溶媒に懸濁させて、黒鉛・金属・導電性セラミックス・導電性高分子等の導電性材料を基板として挿入し、懸濁液に電場を印加することにより、同懸濁液の偏平状粒子を配向させて基板上に堆積させることを特徴とするセラミック系粒子配向積層体の製造方法。
【請求項2】
偏平状粒子の懸濁液に、セラミックスのゾル溶液を添加し、堆積効率を高めて堆積させることを特徴とする請求項1に記載のセラミック系粒子配向積層体の製造方法。
【請求項3】
上記、請求項1、請求項2の製造方法により得られるセラミックス、複合セラミックス、構造の一部に有機物や金属またその両方を含むセラミックス、表面に有機物や金属またはその両方で修飾されたセラミックスからなる偏平状粒子を配向させて基板上に堆積させたことを特徴とするセラミック系粒子配向積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−265571(P2006−265571A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−80893(P2005−80893)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(591106462)茨城県 (45)
【出願人】(503032588)株式会社アート科学 (12)
【出願人】(504106505)財団法人日立地区産業支援センター (3)