説明

セラミック製の歯科用インプラントアバットメント

【課題】欠如歯部の失われた口腔機能を回復するための治療方法である歯科用インプラント治療において、歯科用インプラントアバットメントの歯茎部分が歯肉を通して透けて見えるような場合であっても審美性を著しく損なうことがない歯科用インプラントアバットメントを提供する。
【解決手段】顎骨に埋入されて人工歯根となる歯科用インプラントフィクスチャーの口腔内側に装着され歯肉を貫通し上部構造体の土台となるセラミック製の歯科用インプラントアバットメントの歯肉に隠れる部分を、L***表色系で示すところのL*が65〜90,a*が−25〜25,b*が35〜70の範囲で示されるゴールド系又は黄色系の色にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、欠如歯部の失われた口腔機能を回復するための治療方法である歯科用インプラント治療において、歯科用インプラントアバットメントの歯茎部分が歯肉を通して透けて見えるような場合であっても審美性を著しく損なうことがないセラミック製の歯科用インプラントアバットメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
欠如歯部の失われた口腔機能を回復するための治療方法として、欠如歯部の顎骨内に埋入して顎骨と骨結合した人工歯根となる歯科用インプラントフィクスチャーの口腔内側に歯科用補綴物を固定する歯科用インプラント治療が普及している。この歯科用インプラント治療において、従来は歯科用インプラントフィクスチャーの口腔内側に歯肉を貫通する歯科用インプラントアバットメントを配置し、この歯科用インプラントアバットメントの口腔内側に歯科用補綴物を配置する構造が一般的であった(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0003】
しかしこのような歯科用インプラント治療においては、歯肉厚が薄い患者の場合には、歯科用インプラント治療を施した後に、歯科用インプラントフィクスチャーの口腔内側に配置されている歯科用インプラントアバットメントが歯肉を通して透けて見えてしまうことがある。
【0004】
従来の歯科用インプラントアバットメントは、生体親和性等を考慮してチタン又はチタン合金で形成されているため、歯科用インプラントアバットメントの口腔内側部分が歯肉を通して透けて見えると金属色のチタン又はチタン合金によって黒ずんで見えてしまい著しく審美性を損なうという欠点があった。
【0005】
また近年、歯科用CAD/CAM技術の進歩により、歯科用インプラントアバットメントをセラミック製のブロックから削り出して製作する手法が普及してきたが、このセラミックはジルコニアを主成分とするものであるので不透明な白色であるから、やはり歯科用インプラントアバットメントの口腔内側部分が歯肉を通して透けて見えると審美的に不自然になるという欠点があった。
【0006】
この問題を解決するために、本出願人は歯肉に隠れる部分の色を歯肉に似せた赤系の色彩とした歯科用インプラントアバットメントを提案した(例えば、特許文献4参照。)。しかしながら、赤系色彩の歯科用インプラントアバットメントは、歯肉を通して見た場合に不自然な暗い赤色あるいは黒色を示してしまうことが多く、審美的に未だ不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−80003号公報
【特許文献2】特開2003−325552号公報
【特許文献3】米国特許明細書5674072号公報
【特許文献4】特開2009−082171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、歯肉縁下部分が歯肉を通して透けてしまっても、従来の歯科用インプラントアバットメントよりも審美性を損なうことがないセラミック製の歯科用インプラントアバットメントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は前記問題点を解決すべく鋭意検討した結果、セラミック製の歯科用インプラントアバットメントの歯茎部を、L***表色系で示すところのL*が65〜90,a*が−25〜25,b*が35〜70の範囲で示されるゴールド系又は黄色系の色とすることによって、歯茎部が歯肉を通して透けて見えても、その部分が黒ずんだり不自然な色にならないことを究明して本発明を完成したのである。
【0010】
即ち本発明は、顎骨に埋入されて人工歯根となる歯科用インプラントフィクスチャーの口腔内側に装着され歯肉を貫通し上部構造体の土台となるセラミック製の歯科用インプラントアバットメントであって、歯肉に隠れる部分がL***表色系で示すところのL*が65〜90,a*が−25〜25,b*が35〜70の範囲で示されるゴールド系又は黄色系の色であることを特徴とするセラミック製の歯科用インプラントアバットメントである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るセラミック製の歯科用インプラントアバットメントは、歯肉縁下部分が歯肉を通して透けて見えても、従来の歯科用アバットメントよりも審美性を損なうことがない優れたセラミック製の歯科用インプラント用アバットメントである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るセラミック製の歯科用インプラントアバットメントは、歯肉に隠れる部分、即ち歯肉縁下部分が、L***表色系表示で示すところのL*が65〜90、a*が−25〜25、b*が35〜70の範囲で示されるゴールド系又は黄色系の色であることを特徴とする。
【0013】
即ち、L***表色系表示は、色調を明度(明るさ)を示すL*,色相(赤と緑の度合い)を示すa*,彩度(黄と青の度合い)を示すb*という3つの要素に解析し、そしてL*,a*,b*という3つの数値で色調を表現するものであり、色調を明度(明るさ)を示すL*は65〜90であることが必要である。これは、L*が65未満では暗すぎて歯肉を貫通している部分が黒く見えてしまうから好ましくなく、90を超えると逆に明るすぎて歯肉を貫通している部分が不自然に見えてしまうるから好ましくない。中でも、L*が70〜85であることがより好ましい。
【0014】
また色相(赤と緑の度合い)を示すa*は−25〜25であることが必要である。これは、a*が−25未満では緑が強すぎて歯肉を貫通している部分が黒く見えてしまうから好ましくなく、25を超えると赤みが強すぎて歯肉を貫通している部分がかえって不自然に見えてしまうから好ましくない。中でも、a*がー20〜20であることがより好ましい。
【0015】
そして彩度(黄と青の度合い)を示すb*は35〜70であることが必要である。これは、b*が35未満では黄色みが少なく本発明の目的とする効果が得られにくくなり、60を超えると黄色みが強すぎて歯肉を貫通している部分がかえって不自然に見えてしまうから好ましくない。中でも、b*が45〜65であることがより好ましい。
【0016】
本発明に係るセラミック製の歯科用インプラントアバットメントにおけるセラミックの着色方法は従来から知られている方法を使用することが可能であり、歯科用インプラントアバットメント表面をセラミック製造時に着色用酸化物を混合して焼結する着色方法,仮焼結時に金属イオン又は金属錯体溶液を塗布する着色方法等がある。特に特許第3962214号に記載の方法が簡便に表面から深く着色可能であるために好ましい。なお、従来のチタン製の歯科用インプラントアバットメントに陽極酸化処理を行ってゴールド色に着色しても、その着色層が薄いので形態修正時にチタン色が出てしまう。
【0017】
以下、図面により本発明に係るセラミック製の歯科用インプラントアバットメントについて詳細に説明する。
【0018】
図面中、1は欠如歯部の失われた口腔機能を回復するための歯科用インプラント治療において、欠如歯部の顎骨に埋入され顎骨と骨結合して人工歯根となる歯科用インプラントフィクスチャーであり、前記特許文献1に示されているような略円柱状を成しているものや、前記特許文献2に示されているような略円柱状を成しておりその外周にオネジが螺設されているものがあり、その中央の軸方向にメネジ1aが螺設されている。そしてその口腔内側には後述する本発明に係るセラミック製の歯科用インプラントアバットメント2を回転しないように係合させるための係合部1bが設けられている。この係合部1bとしては、図1及び図3に示すように歯科用インプラントアバットメント2の歯科用インプラントフィクスチャー1側に設けられている係合部2aが六角形などの角柱状である場合にはその横断面が角柱状に合致した形状の凹部であり、図5に示すように歯科用インプラントアバットメント2の歯科用インプラントフィクスチャー1側に設けられている係合部2aがその横断面が六角形などの角状の凹部である場合にはその角状に合致した形状の柱状であり、また図6に示すように歯科用インプラントアバットメント2の歯科用インプラントフィクスチャー1側に設けられている係合部2aが円柱状の外周に所定間隔で凸条が設けられている形状である場合にはその横断面が円形の外周に所定間隔で凹条が設けられている形状である。そして、このような係合部1bが柱状である場合にはその係合部1bにメネジ1aに連通する貫通穴が形成されている。
【0019】
2は顎骨に埋入されて人工歯根となる歯科用インプラントフィクスチャー1の口腔内側に装着され、歯肉を貫通し上部構造体の土台となる本発明に係るセラミック製の歯科用インプラントアバットメントであり、歯肉に隠れる部分2d、即ち歯肉縁下部分が、L***表色系表示で示すところのL*が65〜90、a*が−25〜25、b*が35〜60の範囲で示されるゴールド系又は黄色系の色である。更に詳しくは、ジルコニアを主成分とし、少なくとも歯肉に隠れる部分2dである歯肉縁下部分が、L***表色系表示で示すところのL*が65〜90、a*が−25〜25、b*が35〜70の範囲で示されるゴールド系又は黄色系の色となるように、歯科用インプラントアバットメント表面をセラミック製造時に着色用酸化物を混合して焼結する着色方法,仮焼結時に金属イオン又は金属錯体溶液を塗布する着色方法などで着色すればよいのである。なお、歯肉に隠れる部分2d以外の部分、即ち後述する補綴物固定部位2cが一体を成して形成されている態様の場合の補綴物固定部位2cは前記ゴールド系又は黄色系の色に着色する必要はない。
【0020】
この本発明に係るセラミック製の歯科用インプラントアバットメント2としては、その口腔内側と反対側に歯科用インプラントフィクスチャー1の口腔内側に設けられている係合部1bに係合するための、図1及び図3に示すような六角形などの角柱状や、図5に示すような横断面が六角形などの角状の凹部や、図6に示すような円柱状の外周に所定間隔で凸条が設けられている形状の係合部2aが設けられており、またその口腔内側には図1,図2及び特許文献1に示すような歯科用インプラントアバットメント2とは別部材から成る補綴物形成部材を回転しないように係合する口腔内側係合部2bが設けられている態様や、図3,図4,図5,図6及び特許文献2に示すような歯肉を貫通する部位の口腔内側に略裁頭円錐形状の外面形状を有する補綴物固定部位2cが一体を成して形成されている態様や、図7に示す如く形成する歯科用補綴物の形状に即した形状の補綴物固定部位2cが一体を成して形成されている態様のものがあり、また歯科用インプラントフィクスチャー1の口腔内側にその係合部2aを係合させて装着された際に、図1,図2や特許文献1及び特許文献2のように歯科用インプラントフィクスチャー1の口腔内側外面から口腔内側に拡がるような形状のものや、図4や特許文献3のように歯科用インプラントフィクスチャー1の口腔内側端面の外周より内側から口腔内側に拡がるような形状のものがある。そして、歯科用インプラントフィクスチャー1の口腔内側面から口腔内側に拡がる口腔内側端部は平面状を成しているものや、図7に示すような歯間の乳頭部を考慮して歯間の乳頭部側が口腔内側により突出するようなスキャロップ構造のものがある。
【実施例】
【0021】
仮焼結したジルコニアブロック体から図7に示す形状の歯科用インプラントアバットメントを切削加工機により作製し、全体にそれぞれ表1に示す金属濃度のPr(III)Cl水溶液を塗布した後、焼結させてセラミック製の歯科用インプラントアバットメントを作製した(実施例1〜3)。また、前記水溶液を塗布しないで焼結して作製したセラミック製の歯科用インプラントアバットメントを比較例1とした。
【0022】
また仮焼結したジルコニアブロック体から図7に示す形状の歯科用インプラントアバットメントを切削加工機により作製し、歯肉に隠れる部分に市販の歯冠色の着色剤(商品名:インセラム2000YZカラーリングリキッドLL1、ビタ社製)を塗布した後、焼結して作製したセラミック製の歯科用インプラントアバットメントを比較例2とした。
【0023】
これらのセラミック製の歯科用インプラントアバットメントのL***表色系表示でのL*,a*及びb*を分光色測計(商品名:シェードアイNCC、松風社製)にて測定した結果を表1に示す。
また、実施例1〜3及び比較例1,2のセラミック製の歯科用インプラントアバットメントの歯肉に隠れる部分に、患者の歯肉を模した歯科用硬質レジン(商品名:グラディア ガム、ジーシー社製)を厚みが0.5mmになるように付着させ重合させて試験片とした。この試験片をヒトの口腔内で歯科用硬質レジン側から目視にて観察して下記の測定結果に基づいて表1に効果として示す。
測定結果
○:アバットメントが殆ど目立たない
△:アバットメントは注意すると目立つ
×:アバットメントがかなり目立つ
【0024】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るセラミック製の歯科用インプラントアバットメントの1実施例の斜視図である。
【図2】図1に示す歯科用インプラントアバットメントを使用した歯科用インプラント治療完了後の状態を示す縦断面説明図である。
【図3】本発明に係るセラミック製の歯科用インプラントアバットメントの他の実施例の斜視図である。
【図4】図3に示す歯科用インプラントアバットメントを使用した歯科用インプラント治療完了後の状態を示す縦断面説明図である。
【図5】本発明に係るセラミック製の歯科用インプラントアバットメントの更に他の実施例の斜視図である。
【図6】本発明に係るセラミック製の歯科用インプラントアバットメントの更に他の実施例の斜視図である。
【図7】本発明に係るセラミック製の歯科用インプラントアバットメントの更に他の実施例の斜視図である。
【符号の説明】
【0026】
1 歯科用インプラントフィクスチャー
1a メネジ
1b 係合部
2 歯科用インプラントアバットメント
2a 係合部
2b 口腔内側係合部
2c 補綴物固定部位
2d 歯肉に隠れる部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顎骨に埋入されて人工歯根となる歯科用インプラントフィクスチャーの口腔内側に装着され歯肉を貫通し上部構造体の土台となるセラミック製の歯科用インプラントアバットメントであって、歯肉に隠れる部分がL***表色系で示すところのL*が65〜90,a*が−25〜25,b*が35〜70の範囲で示されるゴールド系又は黄色系の色であることを特徴とするセラミック製の歯科用インプラントアバットメント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−200570(P2011−200570A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72579(P2010−72579)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】