説明

セリウム−ジルコニウム系複合酸化物及びその製造方法

【課題】 全細孔容積が大きいと共に、10〜100nmの直径を有する細孔容積が大きく、かつ、100nm以上の直径を有する細孔容積が小さいセリウム−ジルコニウム系複合酸化物及びその簡便な製造方法を提供する。
【解決手段】 (1)セリウム塩溶液に酸化剤を添加する第一工程、(2)オートクレーブ中で、温度100℃以上のジルコニウム塩溶液に硫酸塩化剤を添加し、塩基性硫酸ジルコニウムを生成させる第二工程、(3)酸化剤添加セリウム塩溶液と塩基性硫酸ジルコニウムを混合する第三工程、(4)前記混合溶液を中和して、セリウム−ジルコニウム系複合水酸化物とする第四工程及び(5)前記セリウム−ジルコニウム系複合水酸化物を熱処理し、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物とする第五工程、からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、触媒担体として用いられているジルコニア単体の400℃における比表面積は、せいぜい100m/g程度である。また、それ以上の比表面積のものは、一般的には一定の構造をもたない非晶質である。このため、ジルコニア単体を触媒担体として用いても、400℃以上の高温では比表面積が小さくなる結果、高温下で安定した性能を得ることができない。従って、触媒担体として用いるためにはさらなる耐熱性(熱安定性)の改善が必要である。
これに対し、酸化ジルコニウムと酸化セリウムからなるジルコニア−セリア組成物は、一般に1000℃という高温においても比較的大きな比表面積を確保できる触媒としてジルコニアに比べて耐熱性において有利である。
【0003】
しかしながら、最近では、比表面積の耐熱性もさることながら、活性貴金属の担持を考えた場合、熱処理により粒子の凝集が生じ、特に直径100nm以上の細孔が大きく減少すると共に、その表面上に担持された白金、ロジウム、パラジウム等の貴金属が粒子内部に埋没し、表面上の反応に対して有効に活用されないことから、細孔容積の分布及びその耐熱性等が重要視されるようになって来た。
具体的には、10〜100nmの直径を有する細孔に触媒の活性種である貴金属が分散性良く担持されることから、10〜100nmの直径を有する細孔容積が大きく、かつ、100nm以上の直径を有する細孔容積が小さいもの、更には、1000℃以上の高温においても、この10〜100nmの直径を有する細孔容積が大きいもの、すなわち、10〜100nmの直径を有する細孔の高温での耐熱性が求められるようになってきている。
【0004】
特許文献1には、「約500℃の空気中の2時間にわたる仮焼の後に約0.8ml/gを上回る全気孔体積を有する酸化セリウム、酸化ジルコニウム、(Ce,Zr)O複合酸化物、又は(Ce,Zr)O固溶体」が記載されている。
【0005】
又、特許文献2には、「少なくとも0.6cm/gの全気孔容量を有し、しかも全気孔容量の少なくとも50%が10〜100nmの直径を有する気孔からなる、混合セリウムないしジルコニウム酸化物。」が記載され、実施例において、800℃で6時間焼成した後に約0.8cm/gの気孔容量を持つ、複合酸化物が開示されている。
しかしながら、自動車用触媒の実際の使用温度域が1000℃以上であることを考慮に入れると、特許文献1及び特許文献2に記載の複合酸化物は、高温での耐熱性を有しているとはいいがたい。
【0006】
一方、特許文献3には、「BJH法に基づく細孔分布において、20〜110nmの気孔径にピークを有し、かつ、全気孔容量が0.4cc/g以上で、10〜100nmの直径を有する気孔の合計容積が全気孔容量の50%以上を占めるジルコニア系多孔質体」が記載され、更に、特許文献4で「1000℃で3時間熱処理後の全細孔容積が少なくとも0.75ml/gであり、且つ、1000℃で3時間熱処理後の10〜100nmの直径を有する細孔の合計容積が全細孔容積の少なくとも30%であることを特徴とする多孔質ジルコニア系粉末」及び「ジルコニウム塩溶液に硫酸塩化剤を添加することにより塩基性硫酸ジルコニウムを生成させ、次に前記塩基性硫酸ジルコニウムを中和することにより水酸化ジルコニウムを生成させ、次に前記水酸化ジルコニウムを熱処理することにより多孔質ジルコニア系粉末を製造する方法であって、前記ジルコニウム塩溶液に前記硫酸塩化剤を添加する際に、オートクレーブ中で、温度100℃以上の前記ジルコニウム塩溶液に前記硫酸塩化剤を添加することを特徴とする多孔質ジルコニア系粉末の製造方法」を提案したが、両文献では、100nm以上の直径を有する細孔容積が0.3ml/g以上と大きいため、なお一層の改善が求められている。
【0007】
【特許文献1】 特表2001−524918号公報
【特許文献2】 特許第3016865号公報
【特許文献3】 特開2006−36576号公報
【特許文献4】 特願2007−211368号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の問題点に鑑み成されたものであって、その目的とするところは、全細孔容積が大きいと共に、10〜100nmの直径を有する細孔容積が大きく、かつ、100nm以上の直径を有する細孔容積が小さいセリウム−ジルコニウム系複合酸化物、好ましくは、更に1000℃で3時間熱処理後の細孔容積の耐熱性に優れたセリウム−ジルコニウム系複合酸化物及びその簡便な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記目的を達成するため鋭意研究した結果、特許文献4記載の製造方法において、セリウム塩溶液に酸化剤を添加し三価のセリウム塩の一部を四価とした後、塩基性硫酸ジルコニウムと混合し、中和、熱処理することにより、意外にも、100nm以上の直径を有する細孔の生成が抑制され、耐熱性のある10〜100nmの直径を有する細孔の生成が促進されることを見出した。
この知見に基づき、本発明は、
(1)全細孔容積が少なくとも0.4ml/gで、10〜100nmの直径を有する細孔容積が0.25ml/g以上、かつ、100nm〜10μmの直径を有する細孔容積が0.2ml/g以下であることを特徴とするセリウム−ジルコニウム系複合酸化物。
(2)1000℃で3時間熱処理後の全細孔容積が少なくとも0.35ml/gで、10〜100nmの直径を有する細孔容積が0.2ml/g以上、かつ、100nm〜10μmの直径を有する細孔容積が0.2ml/g以下であることを特徴とする請求項1記載のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物。
(3)セリウムとジルコニウムの原子比が20:80〜80:20であることを特徴とする前記(1)又は前記(2)記載のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物。
(4)希土類金属(セリウムを除く)、遷移金属元索、アルカリ土類金属、Al、In、Si、Sn、Bi及びZnから選ばれる1種以上の金属酸化物を1〜30%含有することを特徴とする前記(1)〜前記(3)記載のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物。
(5)▲1▼セリウム塩溶液に酸化剤を添加する第一工程、▲2▼オートクレーブ中で、温度100℃以上のジルコニウム塩溶液に硫酸塩化剤を添加し、塩基性硫酸ジルコニウムを生成させる第二工程、▲3▼酸化剤添加セリウム塩溶液と塩基性硫酸ジルコニウムを混合する第三工程、▲4▼前記混合溶液を中和して、セリウム−ジルコニウム系複合水酸化物とする第四工程及び▲5▼前記セリウム−ジルコニウム系複合水酸化物を熱処理し、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物とする第五工程、からなることを特徴とするセリウム−ジルコニウム系複合酸化物の製造方法。
(6)酸化剤添加セリウム塩溶液と塩基性硫酸ジルコニウムの混合溶液を中和する前に、希土類金属(セリウムを除く)、遷移金属元素、アルカリ土類金属、Al、In、Si、Sn、Bi及びZnから選ばれる1種以上の金属塩を添加しておくことを特徴とする前記(5)記載のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物の製造方法。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、全細孔容積が少なくとも0.4ml/gで、10〜100nmの直径を有する細孔容積が0.25ml/g以上、かつ、100nm以上の直径を有する細孔容積が0.2ml/g以下であるセリウム−ジルコニウム系複合酸化物、好ましくは、更に1000℃で3時間熱処理後の細孔容積の耐熱性に優れたセリウム−ジルコニウム系複合酸化物及びその簡便な製造方法を提供することができると共に、白金、ロジウム、パラジウム等の貴金属を効率よく担持することが出来るため、自動車用の三元触媒の助触媒或いは触媒担体等として、斯界において好適に用いることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物及びその製造方法について詳細に説明する。
なお、本発明でいうジルコニアとは一般的なものであり、ハフニアを含めた10%以下の不純物金属化合物を含むものである。
又、本発明において、「%」とは、特に断りがない場合、「重量%=質量%」を示す。
1.セリウム−ジルコニウム系複合酸化物
本発明のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物は、全細孔容積が少なくとも0.4ml/gで、10〜100nmの直径を有する細孔容積が0.25ml/g以上、かつ、100nm〜10μmの直径を有する細孔容積が0.2ml/g以下、好ましくは、1000℃で3時間熱処理後の全細孔容積が少なくとも0.35ml/g、好ましくは少なくとも0.4ml/gで、10〜100nmの直径を有する細孔容積が0.2ml/g以上、好ましくは少なくとも0.25ml/g、かつ、100nm〜10μmの直径を有する細孔容積が0.2ml/g以下であることを特徴とする。
全細孔容積が、0.4ml/g未満では、貴金属を分散性良く担持させることができないため、好ましくない。
又、10〜100nmの直径を有する細孔容積が0.25ml/g未満では、貴金属を分散性良く担持させることができないため、好ましくない。
更に、100nm以上の直径を有する細孔容積が0.2ml/g超では、熱処理による細孔変化に伴い、担持された貴金属が埋没する割合が高くなるので、好ましくない。
一方、1000℃で3時間熱処理後の全細孔容積が、0.35ml/g未満では、担持された貴金属が高分散性を保持できないので、好ましくない。
又、1000℃で3時間熱処理後の10〜100nmの直径を有する細孔容積が0.2ml/g未満では、担持された貴金属が高分散性を保持できないので、好ましくない。
更に、1000℃で3時間熱処理後の100nm以上の直径を有する細孔容積が0.2ml/g超では、その後の熱処理による細孔変化に伴い、担持された貴金属が埋没する割合が高くなるので、好ましくない。
【0012】
そして、本発明のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物は、セリウムとジルコニウムの原子比が20:80〜80:20、好ましくは、40:60〜60:40であることを特徴とする。
セリウムの原子比が20未満では、細孔を制御するために必要なセリウム量が不足し、100nm以上の直径を有する細孔容積が増加するので、好ましくない。
セリウムの原子比が80超では、細孔を制御するセリウム量が過剰となり、100nm以上の直径を有する細孔だけでなく、10〜100nmの直径を有する細孔容積まで減少するので、好ましくない。
【0013】
更に、本発明のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物は、希土類金属(セリウムを除く)、遷移金属元素、アルカリ土類金属、Al、In、Si、Sn、Bi及びZnから選ばれる1種以上の金属酸化物を1〜30%、好ましくは5〜20%含有することが出来る。
なお、希土類元素としては、例えば、Y、Sc及びLa、Pr、Nd等のランタノイド元素が挙げられ、好ましくは、La、Pr、Nd、Yである。
又、遷移金属元素としては、例えば、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、W等が、そして、アルカリ土類金属としては、Mg、Ca、Sr、Ba等が挙げられる。
なお、これらの金属の中で、特に希土類元素は、酸化ジルコニウムと安定な複合酸化物を形成するという理由で好ましい。
そして、これらの含有量が1%未満では、耐熱性の向上に対する添加効果が明確でなく、又、30%を超えると、助触媒機能として必要なOSC(Oxygen Storage Capacity)が低下するので、好ましくない。
【0014】
2.セリウム−ジルコニウム系複合酸化物の製造方法
本発明のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物の製造方法は、(1)セリウム塩溶液に酸化剤を添加する第一工程、(2)オートクレーブ中で、温度100℃以上のジルコニウム塩溶液に硫酸塩化剤を添加し、塩基性硫酸ジルコニウムを生成させる第二工程、(3)酸化剤添加セリウム塩溶液と塩基性硫酸ジルコニウムを混合する第三工程、(4)前記混合溶液を中和して、セリウム−ジルコニウム系複合水酸化物とする第四工程及び(5)前記セリウム−ジルコニウム系複合水酸化物を熱処理し、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物とする第五工程、からなることを特徴とする。以下、その詳細について説明する。
【0015】
(1)第一工程
第一工程では、セリウム塩溶液に酸化剤を添加する。
本発明で用いるセリウム塩としては、水溶性の三価のセリウム塩であれば特に限定されず、硝酸塩、酢酸塩、塩化物等が例示され、これらの1種又は2種以上を用いることが出来るが、残留する不純物を考慮に入れると硝酸塩が好ましい。
前記溶媒としては、用いるセリウム塩の種類等に応じて適宜選択すれば良いが、通常は水(純水、イオン交換水、以下、同様)を用いることが望ましい。
セリウム塩溶液の濃度は、特に制限されないが、一般的には溶媒1000g中に酸化セリウム(CeO)換算で、5〜250g、特に20〜150gとすることが望ましい。
本発明で用いる酸化剤としては、過酸化水素水、過塩素酸、過硫酸及びそれらの塩などが例示されるが、後工程での残留する不純物を考慮に入れると過酸化水素水が好ましい。
酸化剤の添加量としては、Ceに対して0.05〜2mol倍、好ましくは0.07〜1mol倍、特に好ましくは0.1〜0.5mol倍である。
0.05mol倍未満では添加効果が現れず、2mol倍を超えた場合ではCeの価数バランスが損なわれ、純分の高いセリウム−ジルコニウム複合酸化物が得られない。
なお、酸化剤として過酸化水素を用いた場合、三価のセリウムと過酸化水素は、化学量論的に反応して四価のセリウムにならず、実験的には以下の表1に記載されたような関係にあることが判っているので、用いる酸化剤の特性に注意して添加する必要がある。
なお、反応式としては、以下の通りと考えられる。
2Ce3++2H+H=2Ce4++2H
【表】

この様に、三価のセリウムの一部を四価にしておくことが、本発明の最大の特徴であり、この結果、100nm超の直径を有する細孔の生成が抑制され、耐熱性のある10〜100nmの直径を有する細孔の生成が促進されたセリウム−ジルコニウム系複合酸化物を製造することが出来る。
なお、酸化剤を加えずに、四価のセリウム塩を加えても良いことは自明のことであり、そのような態様も本発明の範囲に含まれる。
このような効果が得られる理由について、現状では明確に判っていないが、Ceイオンの一部を四価とし、Ceのイオン半径をZrのイオン半径に近づけることで、元素の均一性を助長し、さらには部分的にペルオキソ化させることで、CeイオンとZr前駆体との親和性を向上させることにより、複合酸化物を得る際の熱処理による固溶が促進され、100nm超の細孔生成を抑制するためではないかと考えられる。
【0016】
(2)第二工程
第二工程では、オートクレーブ中で、温度100℃以上のジルコニウム塩溶液に硫酸塩化剤を添加し、塩基性硫酸ジルコニウムを生成させる。
先ず、本発明で用いるジルコニウム塩としては、ジルコニウムイオンを供給するものであれば良く、例えばオキシ硝酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム等を1種又は2種以上で用いることができる。この中でも、工業的規模での生産性が優れているという見地より、オキシ塩化ジルコニウムを用いることが好ましい。
前記溶媒としては、用いるジルコニウム塩の種類等に応じて適宜選択すれば良いが、通常は水(純水、イオン交換水、以下、同様)を用いることが望ましい。
ジルコニウム塩溶液の濃度は、特に制限されないが、一般的には溶媒1000g中に酸化ジルコニウム(ZrO)として5〜250g、特に20〜150gとすることが望ましい。
【0017】
次に、硫酸塩化剤としては、ジルコニウムイオンと反応して硫酸塩を生成させるもの(すなわち、硫酸塩化させるもの)であれば良く、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム等が例示される。硫酸塩化剤は、例えば粉末状、溶液状等のいずれの形態であっても良い。この中でも溶液(特に水溶液)として用いることが好ましい。溶液として使用する場合の濃度は適宜設定することができる。
硫酸塩化剤は、硫酸根(SO2−)/ZrOの重量比が0.3〜0.6となるように添加し、そして、混合液のフリーの酸濃度は0.2〜2.2N(規定)とすることが好ましい。フリーの酸としては、硫酸、硝酸、塩酸等が例示され、特に限定されるものではないが、塩酸が工業的規模での生産性が優れているという見地より好ましい。
【0018】
次に、ジルコニウム塩と硫酸塩化剤を反応させ、塩基性硫酸ジルコニウムを生成させる。
なお、塩基性硫酸ジルコニウムとしては、特に制限されるものではないが、例えばZrOSO・ZrO、5ZrO・3SO、7ZrO・3SO等で示される化合物の水和物が例示され、これらの1種又は2種以上の混合物でも良い。
ジルコニウム塩と硫酸塩化剤は、通常、65℃以上の温度において反応し、塩基性硫酸ジルコニウムが生成する。
しかしながら、本発明においては、オートクレーブ中で、温度100℃以上、好ましくは110〜150℃のジルコニウム塩溶液に硫酸塩化剤を添加することにより、塩基性硫酸ジルコニウムを生成させることを特徴とする。
圧力として現せば、1.02×10Pa、好ましくは1.45×10Pa〜4.91×10Paとなる。
温度が100℃未満では、硫酸塩化の反応が遅くなり、大きな凝集粒子を生成することになるため、好ましくない。
なお、硫酸塩反応終了後、特に限定されるものではないが、オートクレーブにおいて、10〜60分保持し、生成した塩基性ジルコニウムを熟成させることが好ましい。
続いて、オートクレーブより、塩基性硫酸ジルコニウム含有スラリーを取り出し、80℃以下、好ましくは60℃以下になるように冷却する。
【0019】
(第三工程)
第三工程では、酸化剤添加セリウム塩溶液と塩基性硫酸ジルコニウムを混合する。
混合方法に特に限定はないが、通常、塩基性硫酸ジルコニウム含有スラリーに酸化剤添加セリウム塩溶液を添加することにより行われる。
なお、本発明のセリウム−ジルコニウム複合酸化物は、希土類金属(セリウムを除く)、遷移金属元素、アルカリ土類金属、Al、In、Si、Sn、Bi及びZnから選ばれる1種又は2種以上の酸化物を1〜30%、好ましくは5〜20%含有させることができるが、この場合、混合溶液を中和する前、すなわち、本工程で、所定量の希土類金属(セリウムを除く)、遷移金属元素、アルカリ土類金属、Al、In、Si、Sn、Bi及びZnから選ばれる1種又は2種以上の金属塩を添加することにより、対応することができる。
【0020】
(第四工程)
第四工程では、前記混合溶液をアルカリを用いて中和して、セリウム−ジルコニウム系複合水酸化物とする。
アルカリとしては、特に制限されず、例えば水酸化アンモニウム、重炭酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を使用することができる。
この中で、水酸化ナトリウムが、安価に工業的に使用できるという理由で、好ましい。
使用するアルカリの濃度は特に限定されず、通常、20〜30%のものが用いられる。
アルカリの添加量は、上記溶液から沈殿物を生成させることができれば特に限定されず、通常は上記溶液のpHが11以上、好ましくは12以上となるようにすれば良い。
なお、中和反応終了後、セリウム−ジルコニウム系複合水酸化物含有溶液を35〜60℃で1時間以上保持することが、得られた沈殿を熟成し、ろ別しやすくするという観点から好ましい。
そして、生成したセリウム−ジルコニウム系複合水酸化物を固液分離法により回収する。固液分離法は、例えば濾過、遠心分離、デカンテーション等の公知の方法に従えば良い。
回収後、必要に応じてセリウム−ジルコニウム系複合水酸化物を水洗し、付着している不純物を除去することが好ましい。
なお、得られたセリウム−ジルコニウム系複合水酸化物は、さらに必要に応じて乾燥させても良い。乾燥方法は、公知の方法に従えば良く、例えば自然乾燥、加熱乾燥等のいずれであっても良い。又、必要であれば、乾燥処理後に粉砕処理、分級処理等を実施しても良い。
【0021】
(第五工程)
第五工程では、前記セリウム−ジルコニウム系複合水酸化物を熱処理し、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物とする。
熱処理温度は、特に限定されないが、通常は400〜900℃程度で1Hr〜5Hr行う。熱処理雰囲気は、特に限定されないが、通常大気中又は酸化性雰囲気中とすれば良い。
なお、この様にして得られた複合酸化物は、必要に応じて、粉砕することができる。粉砕については、特に限定されないが、遊星ミル、ボールミルまたはジェットミル等の粉砕機で粉砕することができる。
【実施例】
【0022】
【0023】
以下に実施例を示し、本発明の特徴を一層明確にする。なお、本発明は、これらの実施例の態様に限定されるものではない。
【0024】
実施例中における各物性は以下の方法により測定した。
(1)比表面積
比表面積計(「フローソーブ−II」マイクロメリティクス製)を用い、BET法により測定した。
(2)全細孔容積
▲1▼Fresh:水酸化物を600℃×5Hr熱処理して酸化物としたもの、及び
▲2▼1000℃、3時間後:上記▲1▼の酸化物を更に1000℃×3時間熱処理 した粉末、
を常温まで冷却し、水銀圧入法による細孔分布測定装置(Pore Master 60−GT)を用いて測定し、測定範囲:0.0036〜10.3μmとした。
【0025】
〔実施例1〕
三価の硝酸セリウム(CeO換算濃度:10%)溶液、400gに35%過酸化水素水、8gを添加し、セリウム溶液を得た。
このとき全体に占めるCeの四価の割合は21%であった(過酸化水素添加後、中和、水酸化物焼成後の酸化セリウム粉末の分析結果より得られた(計算された)数値である)。
次に、オキシ塩化ジルコニウム・8水和物、130g(ZrO換算:50g)をイオン交換水で溶解し、35%塩酸およびイオン交換水で酸濃度が0.67N、ZrO濃度が4w/v%となるように調製した。調製した溶液を2×10Pa、120℃まで昇温し、120℃に達したところで5%硫酸ナトリウム、740gを添加し、15分間保持した後、室温になるまで放冷し、塩基性硫酸ジルコニウムスラリーを得た。
そして、塩基性硫酸ジルコニウムスラリーに上記セリウム溶液、硝酸ランタン(La換算濃度:10%)溶液100gを添加し、25%水酸化ナトリウム500gを添加した後、不純物が除去できるまでデカンテーションを繰り返した。最終的にスラリーをろ過・水洗し、水酸化物を得て、600℃、5時間焼成し、酸化物とした。
酸化物は乳鉢で20μm以下になるまで粉砕した。
そして、表2に示す比表面積及び全細孔容積等を測定した。
なお、図1にFresh(600℃で5時間焼成したもの)及び図2にFreshを更に1000℃、3時間焼成したものの全細孔容積の測定結果を示す。
【0026】
〔実施例2〕
三価の硝酸セリウム(CeO換算濃度:10%)溶液、600gに35%過酸化水素水、12gを添加し、セリウム溶液を得た。このとき全体に占めるCeの四価の割合は24%であった(過酸化水素添加後、中和、水酸化物焼成後の酸化セリウム粉末の分析結果より得られた(計算された)数値である)。
実施例1において得た塩基性硫酸ジルコニウムスラリー(ZrO換算濃度:5%)600gに上記硝酸セリウム溶液、硝酸ランタン(La換算濃度:10%)溶液100gを添加し、25%水酸化ナトリウム500gを添加した後、不純物が除去できるまでデカンテーションを繰り返した。最終的にスラリーをろ過・水洗し、水酸化物を得て、600℃、5時間焼成し、酸化物とした。酸化物は乳鉢で20μm以下になるまで粉砕した。
そして、表2に示す比表面積及び全細孔容積等を測定した。
【0027】
〔比較例1〕
硝酸セリウムに過酸化水素水を添加しなかったことを除いて、実施例1と同様にして複合酸化物を作製した。
そして、表2に示す比表面積及び全細孔容積等を測定した。
なお、図3にFresh(600℃で5時間焼成したもの)及び図4にFreshを更に1000℃、3時間焼成したものの全細孔容積の測定結果を示す。
【0028】
【表2】

【0029】
表2より、実施例1及び実施例2で得られたセリウム−ジルコニウム系複合酸化物は、「全細孔容積が少なくとも0.4ml/gで、10〜100nmの直径を有する細孔容積が0.25ml/g以上、かつ、100nm〜10μmの直径を有する細孔容積が0.2ml/g以下であり、1000℃で3時間熱処理後の全細孔容積が少なくとも0.35ml/gで、10〜100nmの直径を有する細孔容積が0.2ml/g以上、かつ、100nm〜10μmの直径を有する細孔容積が0.2ml/g以下」という、本発明の特性を満足したものであり、又、Freshと1000℃で3時間焼成後の細孔容積を比較すると、1000℃で3時間焼成しても細孔容積の減少の度合いが少なく、いわゆる細孔容積の耐熱性に優れたものであることがわかる。
一方、比較例1で得られたセリウム−ジルコニウム系複合酸化物は、全細孔容積がFreshと1000℃で3時間焼成後において、0.8〜0.99ml/gと大きいが、100nm〜10μmの細孔容積が0.33〜0.47ml/gと非常に大きく、このような特性のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物は、白金、ロジウム、パラジウム等の貴金属を担持させた場合に、これらを有効的に使用することが出来ないため、本発明品と同等の触媒特性を発現させるためには、多量の白金、ロジウム、パラジウム等の貴金属が必要であることから、非効率的であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施例1(Fresh)で得られたセリウム−ジルコニウム系複合酸化物の全細孔容積の測定結果を示す。
【図2】本発明の実施例1(1000℃、3時間焼成)で得られたセリウム−ジルコニウム系複合酸化物の全細孔容積の測定結果を示す。
【図3】本発明の比較例1(Fresh)で得られたセリウム−ジルコニウム系複合酸化物の全細孔容積の測定結果を示す。
【図4】本発明の比較例1(1000℃、3時間焼成)で得られたセリウム−ジルコニウム系複合酸化物の全細孔容積の測定結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全細孔容積が少なくとも0.4ml/gで、10〜100nmの直径を有する細孔容積が0.25ml/g以上、かつ、100nm〜10μmの直径を有する細孔容積が0.2ml/g以下であることを特徴とするセリウム−ジルコニウム系複合酸化物。
【請求項2】
1000℃で3時間熱処理後の全細孔容積が少なくとも0.35ml/gで、10〜100nmの直径を有する細孔容積が0.2ml/g以上、かつ、100nm〜10μmの直径を有する細孔容積が0.2ml/g以下であることを特徴とする請求項1記載のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物。
【請求項3】
セリウムとジルコニウムの原子比が20:80〜80:20であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物。
【請求項4】
希土類金属(セリウムを除く)、遷移金属元素、アルカリ土類金属、Al、In、Si、Sn、Bi及びZnから選ばれる1種以上の金属酸化物を1〜30%含有することを特徴とする請求項1〜請求項3記載のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物。
【請求項5】
(1)セリウム塩溶液に酸化剤を添加する第一工程、(2)オートクレーブ中で、温度100℃以上のジルコニウム塩溶液に硫酸塩化剤を添加し、塩基性硫酸ジルコニウムを生成させる第二工程、(3)酸化剤添加セリウム塩溶液と塩基性硫酸ジルコニウムを混合する第三工程、(4)前記混合溶液を中和して、セリウム−ジルコニウム系複合水酸化物とする第四工程及び(5)前記セリウム−ジルコニウム系複合水酸化物を熱処理し、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物とする第五工程、からなることを特徴とするセリウム−ジルコニウム系複合酸化物の製造方法。
【請求項6】
酸化剤添加セリウム塩溶液と塩基性硫酸ジルコニウムの混合溶液を中和する前に、希土類金属(セリウムを除く)、遷移金属元素、アルカリ土類金属、Al、In、Si、Sn、Bi及びZnから選ばれる1種以上の金属塩を添加しておくことを特徴とする請求項5記載のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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