説明

セリウム−ジルコニウム系複合酸化物及びその製造方法

【課題】 短い周期での雰囲気変動に対してOSC材料の応答速度を向上させ、自動車用の三元触媒の助触媒又はOSC材料或いは触媒担体として好適に用いることの出来る、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
酸化ジルコニウム35〜90%、酸化セリウム5〜60%及び酸化インジウム0.001〜10%含有することを特徴とするセリウム−ジルコニウム系複合酸化物。好ましくは、大気下1000℃、3時間熱処理後の600℃におけるOSCが0.05mmol/g以上で、かつ、その70%以上が還元開始から60秒以内に放出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化セリウムは、Ce4+とCe3+の酸化還元電位が約1.6Vと小さく、下式の反応が可逆的に進行するため、酸素貯蔵放出能力(Oxygen Strage Capacity:以下、OSCという)を有しており、自動車用の三元触媒の助触媒或いは触媒担体として用いられている。
CeO⇔CeO2−X+X/2O (X=0〜0.5)
しかしながら、純粋な酸化セリウムのOSCは、X=0.005程度と非常に低いこともよく知られている。
従って、これを改善させるため、酸化セリウムに酸化ジルコニウムを固溶させることにより、(1)酸化セリウムの比表面積の耐熱性を向上させると共に、(2)イオン半径の小さなZr4+をCe骨格に挿入し、上記反応が起こる時の体積増加を緩和させ、OSCを向上させること等が数多く報告されている。
【0003】
ところで、自動車から排出される排ガスは、非常に短い周期で酸化雰囲気、還元雰囲気のいずれかに変化しており、この変化に対応して、酸素の吸蔵及び放出が行われれば、触媒が最も活性となるように雰囲気を一定に保持することが可能となるため、排ガスの浄化効率も大幅に浄化することになる。
従って、最近では、OSCのみならず、酸素の吸蔵−放出速度(以下、応答速度という)を向上させることが求められる様になってきている。
【0004】
上記目的で主に使用されるOSC材料の応答速度は雰囲気温度に依存し、高温になるに従って、その応答速度が速くなることがわかっている。一方で、OSCは低温から発現することが望ましく、これにより始動時に排出される比較的低温の排ガスを効率よく浄化することができる。
これらのことから、比較的低温における任意の雰囲気温度で発現するOSCに対して、単位時間におけるOSCの発現比率が大きい、すなわち応答速度が速いOSC材料が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】 特許第4345909号公報
【特許文献2】 特許2008−18322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑み成されたものであって、その目的とするところは、短い周期での雰囲気変動に対してOSC材料の応答速度を向上したもので、自動車用の三元触媒の助触媒又はOSC材料或いは触媒担体として好適に用いることの出来る、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成するため鋭意研究した結果、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物を合成する過程において、酸化インジウムを添加することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
この知見に基づき、本発明は、
(1)酸化ジルコニウム35〜90%、酸化セリウム5〜60%及び酸化インジウム0.001〜10%含有することを特徴とするセリウム−ジルコニウム系複合酸化物。
(2)大気下1000℃、3時間熱処理後の600℃におけるOSCが0.05mmol/g以上で、かつ、その70%以上が還元開始から60秒以内に放出されることを特徴とする前記(1)記載のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物。
(3)大気下1000℃、3時間熱処理後の比表面積が、少なくとも35m/gであることを特徴とする前記(1)又は前記(2)に記載のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物。
(4)▲1▼アルカリ土類金属、Ceを除く希土類金属、Al及びSiから選ばれる1種以上の金属酸化物を1〜55%及び/又は▲2▼遷移金属元素、Ga、Sn及びBiから選ばれる1種以上の金属酸化物を0.01%〜5%含有することを特徴とする前記(1)〜前記(3)に記載のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物。
(5)▲1▼オートクレーブ中で、温度100℃以上のジルコニウム塩溶液に硫酸塩化剤を添加し、塩基性硫酸ジルコニウムを生成させる第一工程、▲2▼前記塩基性硫酸ジルコニウム含有スラリーにインジウム塩溶液とセリウム塩溶液を混合する第二工程、▲3▼前記混合溶液を中和して、セリウム−ジルコニウム系複合水酸化物とする第三工程及び▲4▼前記セリウム−ジルコニウム系複合水酸化物を熱処理し、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物とする第四工程、からなることを特徴とするセリウム−ジルコニウム系複合酸化物の製造方法。
(6)中和する前に、▲1▼アルカリ土類金属、Ceを除く希土類金属、Al、Siから選ばれる1種以上の金属塩及び/又は▲2▼遷移金属、Ga、Sn及びBiから選ばれる1種以上の金属塩を添加しておくことを特徴とする請求項5記載のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物の製造方法。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、大気下1000℃で3時間熱処理後のOSC応答速度に優れたセリウム−ジルコニウム系複合酸化物及びその簡便な製造方法を提供することができると共に、白金、ロジウム、パラジウム等の貴金属を効率よく担持することが出来るため、自動車用の三元触媒の助触媒又はOSC材料或いは触媒担体等として、斯界において好適に用いることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】 本発明の実施例1〜4及び比較例1で得られたセリウム−ジルコニウム系複合酸化物のOSC応答速度の測定結果を示す。
【図2】 本発明の実施例5及び比較例2で得られたセリウム−ジルコニウム系複合酸化物のOSC応答速度の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物及びその製造方法について詳細に説明する。
なお、本発明でいう酸化ジルコニウム(ジルコニア)とは一般的なものであり、ハフニアを含めた10%以下の不純物金属化合物を含むものである。
又、本発明において、「%」とは、特に断りがない場合、「重量%=質量%」を示す。
1.セリウム−ジルコニウム系複合酸化物
本発明のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物は、酸化ジルコニウム35〜90%、酸化セリウム5〜60%及び酸化インジウム0.001〜10%含有することを特徴とする(なお、本発明において、「セリウム−ジルコニウム系複合酸化物」は「セリウム−ジルコニウム系OSC材料」とも記載することが出来る)。
そして、好ましくは、大気下1000℃、3時間熱処理後の600℃におけるOSCが0.05mmol/g以上、好ましくは0.08mmol/g以上、特に好ましくは0.12mmol/g以上で、かつ、その70%以上が還元開始から60秒以内に放出されることを特徴とする。
すなわち、比較的低温における任意の雰囲気温度で発現するOSCに対して、単位時間におけるOSCの発現比率が大きい、すなわち応答速度が速い、というのが最大の特徴である。この理由については、現在のところでは明確にわかっていないが、何らかの理由により、酸化セリウム表面上に分散された酸化インジウムが酸素放出を促進する触媒的な作用をすることにより、酸化セリウムからの酸素放出が速やかに行われているものと考えられる。
なお、OSCが0.05mmol/g未満では、OSCの総量が小さく、OSC材としての機能が損なわれるなので、好ましくない。
【0011】
又、更に好ましくは、大気下1000℃、3時間熱処理後の比表面積が、少なくとも35m/gであることが好ましい。35m/g未満では、初期比表面積からの劣化率が高く、担体の熱収縮により貴金属粒子の焼結が促進されることになるので、好ましくない。
一方、酸化セリウムが5%未満では、OSCの総量が減少し、酸化セリウムが60%を超えると比表面積の耐熱性が減少するため好ましくない。
又、酸化ジルコニウムが35%未満では、比表面積の耐熱性が保持できないためであり、90%を超えるとOSCの総量が減少するため好ましくない。
酸化インジウムが0.001%未満ではOSCの応答速度の向上のための添加効果が明確でないため好ましくない。又、酸化インジウムが10%を超えるとインジウム添加量の増加に伴うOSC応答速度の添加効果が小さくなるだけでなく、工業的に提供するにあたり、高価となるために好ましくない。
【0012】
更に、本発明のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物は、(1)アルカリ土類金属、Ceを除く希土類金属、Al及びSiから選ばれる1種以上の金属酸化物を1〜55%、好ましくは5〜30%及び/又は(2)遷移金属元素、Ga、Sn及びBiから選ばれる1種以上の金属酸化物を0.01%〜5%の範囲で含有することができる。
特にCeを除く希土類元素は、酸化ジルコニウムと安定な複合酸化物を形成するという理由で好ましい。
なお、希土類元素としては、例えば、Y、Sc及びLa、Pr、Nd等のランタノイド元素が挙げられ、好ましくは、La、Pr、Nd、Yである。アルカリ土類金属としては、Mg、Ca、Sr、Ba等が例示される。
遷移金属元素としては、例えば、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、W等が挙げられる。
上記(1)の金属酸化物が、1〜55%及び/又は上記(2)の金属酸化物が0.01〜5%の範囲であれば、比表面積の耐熱性を向上させることが出来る。
【0013】
なお、本発明において、「大気下1000℃、3時間熱処理後の600℃におけるOSCの70%以上が還元開始から60秒以内に放出される」とは、後述するOSC応答速度の測定において、「四重極型質量分析計で測定される、還元開始から200秒間で放出されるOSCの総量を100%としたときに、還元開始から60秒間で放出されるOSCがその内の70%以上を占める」ということを意味する。
【0014】
2.セリウム−ジルコニウム系複合酸化物の製造方法
本発明のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物の製造方法は、(1)オートクレーブ中で、温度100℃以上のジルコニウム塩溶液に硫酸塩化剤を添加し、塩基性硫酸ジルコニウムを生成させる第一工程、(2)前記塩基性硫酸ジルコニウム含有スラリーにインジウム塩溶液とセリウム塩溶液を混合する第二工程、(3)前記混合溶液を中和して、セリウム−ジルコニウム系複合水酸化物とする第三工程及び(4)前記セリウム−ジルコニウム系複合水酸化物を熱処理し、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物とする第四工程、からなることを特徴とする。以下、その詳細について説明する。
【0015】
(1)第一工程
第一工程では、オートクレーブ中で、温度100℃以上のジルコニウム塩溶液に硫酸塩化剤を添加し、塩基性硫酸ジルコニウムを生成させる。
先ず、本発明で用いるジルコニウム塩としては、ジルコニウムイオンを供給するものであれば良く、例えばオキシ硝酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム等を1種又は2種以上で用いることができる。この中でも、工業的規模での生産性が優れているという見地より、オキシ塩化ジルコニウムを用いることが好ましい。
前記溶媒としては、用いるジルコニウム塩の種類等に応じて適宜選択すれば良いが、通常は水(純水、イオン交換水、以下、同様)を用いることが望ましい。
ジルコニウム塩溶液の濃度は、特に制限されないが、一般的には溶媒1000g中に酸化ジルコニウム(ZrO)として5〜250g、特に20〜150gとすることが望ましい。
【0016】
次に、硫酸塩化剤としては、ジルコニウムイオンと反応して硫酸塩を生成させるもの(すなわち、硫酸塩化させるもの)であれば良く、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム等が例示される。硫酸塩化剤は、例えば粉末状、溶液状等のいずれの形態であっても良い。この中でも溶液(特に水溶液) として用いることが好ましい。溶液として使用する場合の濃度は適宜設定することができる。
硫酸塩化剤は、硫酸根(SO2−)/ZrOの重量比が0.3〜0.6となるように添加し、そして、混合液のフリーの酸濃度は0.2〜2.2N(規定)とすることが好ましい。フリーの酸としては、硫酸、硝酸、塩酸等が例示され、特に限定されるものではないが、塩酸が工業的規模での生産性が優れているという見地より好ましい。
【0017】
次に、ジルコニウム塩と硫酸塩化剤を反応させ、塩基性硫酸ジルコニウムを生成させる。
なお、塩基性硫酸ジルコニウムとしては、特に制限されるものではないが、例えばZrOSO・ZrO、5ZrO・3SO、7ZrO・3SO等で示される化合物の水和物が例示され、これらの1種又は2種以上の混合物でも良い。
ジルコニウム塩と硫酸塩化剤は、通常、65℃以上の温度において反応し、塩基性硫酸ジルコニウムが生成する。
しかしながら、本発明においては、オートクレーブ中で、温度100℃以上、好ましくは110〜150℃のジルコニウム塩溶液に硫酸塩化剤を添加することにより、塩基性硫酸ジルコニウムを生成させることを特徴とする。
圧力として現せば、1.02×10Pa、好ましくは1.45×10Pa〜4.91×10Paとなる。
温度が100℃未満では、硫酸塩化の反応が遅くなり、大きな凝集粒子を生成することになるため、好ましくない。
なお、硫酸塩反応終了後、特に限定されるものではないが、オートクレーブにおいて、10〜60分保持し、生成した塩基性ジルコニウムを熟成させることが好ましい。
続いて、オートクレーブより、塩基性硫酸ジルコニウム含有スラリーを取り出し、80℃以下、好ましくは60℃以下になるように冷却する。
【0018】
(第二工程)
第二工程では、前記塩基性硫酸ジルコニウム含有スラリーにインジウム塩溶液とセリウム塩溶液を混合する。
インジウム塩としては、特に限定されるものでないが、硝酸インジウム、塩化インジウム、硫酸インジウム等が例示され、又、セリウム塩としては、特に限定されるものでないが、硝酸セリウム、塩化セリウム、酢酸セリウム等が例示される。
なお、本発明のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物は、(1)アルカリ土類金属、Ceを除く希土類金属、Al及びSiから選ばれる1種以上の金属酸化物を1〜55%、好ましくは5〜30%及び/又は(2)遷移金属元素、Ga、Sn及びBiから選ばれる1種以上の金属酸化物を0.01%〜5%の範囲で含有することができるが、この場合、混合溶液を中和する前、すなわち、本工程で、所定量の(1)アルカリ土類金属、Ceを除く希土類金属、Al及びSiから選ばれる1種以上の金属塩及び/又は(2)遷移金属元素、Ga、Sn及びBiから選ばれる1種以上の金属塩を添加することにより、対応することができる。
【0019】
(第三工程)
第三工程では、前記混合溶液をアルカリを用いて中和して、セリウム−ジルコニウム系複合水酸化物とする。
アルカリとしては、特に制限されず、例えば水酸化アンモニウム、重炭酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を使用することができる。
この中で、水酸化ナトリウムが、安価に工業的に使用できるという理由で、好ましい。
使用するアルカリの濃度は特に限定されず、通常、20〜30%のものが用いられる。
アルカリの添加量は、上記溶液から沈殿物を生成させることができれば特に限定されず、通常は上記溶液のpHが11以上、好ましくは12以上となるようにすれば良い。
なお、中和反応終了後、セリウム−ジルコニウム系複合水酸化物含有溶液を35〜60℃で1時間以上保持することが、得られた沈殿を熟成し、ろ別しやすくするという観点から好ましい。
そして、生成したセリウム−ジルコニウム系複合水酸化物を固液分離法により回収する。固液分離法は、例えば濾過、遠心分離、デカンテーション等の公知の方法に従えば良い。
回収後、必要に応じてセリウム−ジルコニウム系複合水酸化物を水洗し、付着している不純物を除去することが好ましい。
なお、得られたセリウム−ジルコニウム系複合水酸化物は、さらに必要に応じて乾燥させても良い。乾燥方法は、公知の方法に従えば良く、例えば自然乾燥、加熱乾燥等のいずれであっても良い。又、必要であれば、乾燥処理後に粉砕処理、分級処理等を実施しても良い。
【0020】
(第四工程)
第四工程では、前記セリウム−ジルコニウム系複合水酸化物を熱処理し、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物とする。
熱処理温度は、特に限定されないが、通常は400〜900℃程度で1Hr〜5Hr行う。熱処理雰囲気は、特に限定されないが、通常大気中又は酸化性雰囲気中とすれば良い。
なお、この様にして得られた複合酸化物は、必要に応じて、粉砕することができる。粉砕については、特に限定されないが、遊星ミル、ボールミルまたはジェットミル等の粉砕機で粉砕することができる。
【実施例】
【0021】
以下に実施例を示し、本発明の特徴を一層明確にする。なお、本発明は、これらの実施例の態様に限定されるものではない。
【0022】
実施例中における各物性は以下の方法により測定した。
(1)比表面積
比表面積計(「フローソーブ−II」マイクロメリティクス製)を用い、BET法により測定した。
(2)OSC
He流通下600℃で前処理したサンプルに対して、5%H/Arを10分間流通させ、その後、600℃でOパルス法により酸素吸蔵放出量を測定した。測定には島津製作所製ガスクロマトグラフGC−8Aを用いた。
(3)OSC応答速度
He流通下600℃で前処理したサンプルに対して、2.5%H/Arを流通させ、MassNumber18の変化量を測定した。測定にはRigaku製TPDtypeR、キャノンアネルバテクニクス製四重極型質量分析計を用いた。具体的には、粉末0.05gを600℃に加熱、高純度酸素ガス中で60分間保持して十分に酸化させた。つぎに、2.5%水素−アルゴンガス気流(100sccm)に切り替え、消費する水素を四重極質量分析計で連続的に測定し、得られた水蒸気の生成曲線を得た。
次に、還元開始から200秒間の水蒸気生成曲線に対して、10秒間毎に面積計算を行い、各時間における水蒸気生成量を算出した。得られた水蒸気生成量を積算し、還元開始後60秒間の水蒸気生成量を還元開始後200秒間の水蒸気生成量と比較することで、OSC応答速度を評価した。
【0023】
〔実施例1〕
オキシ塩化ジルコニウム・8水和物、156g(ZrO換算:59.9g)をイオン交換水で溶解し、35%塩酸およびイオン交換水で酸濃度が0.67N、ZrO濃度が4w/v%となるように調製した。調製した溶液を2×10Pa、120℃まで昇温し、120℃に達したところで5%硫酸ナトリウム、888gを添加し、15分間保持した後、室温になるまで放冷し、塩基性硫酸ジルコニウムスラリーを得た。
そして、塩基性硫酸ジルコニウムスラリーに上記セリウム溶液、硝酸セリウム(CeO換算濃度:10%)溶液300g、硝酸ランタン(La換算濃度:10%)溶液、50g、硝酸ネオジム(Nd換算濃度:10%)溶液、50g、硝酸インジウム(In換算濃度:10%)溶液1gを添加し、25%水酸化ナトリウム500gを添加した後、不純物が除去できるまでデカンテーションを繰り返した。最終的にスラリーをろ過・水洗し、水酸化物を得て、600℃、5時間焼成し、酸化物とした。
酸化物は乳鉢で20μm以下になるまで粉砕した。
そして、表1に示す比表面積及びOSC等を測定した。
【0024】
〔実施例2〕
硝酸インジウムを3gとし、表1に示す組成となるように、実施例1と同様にして複合酸化物を作製し、同様の測定を行った。
【0025】
〔実施例3〕
硝酸インジウムを5gとし、表1に示す組成となるように、実施例1と同様にして複合酸化物を作製し、同様の測定を行った。
【0026】
〔実施例4〕
硝酸インジウムを10gとし、表2に示す組成となるように、実施例1と同様にして複合酸化物を作製し、同様の測定を行った。
【0027】
〔実施例5〕
オキシ塩化ジルコニウム・8水和物、195.1g(ZrO換算:74.9g)、硝酸セリウム溶液150g及び硝酸インジウム溶液を1gとし、表3に示す組成となるように、実施例1と同様にして複合酸化物を作製し、同様の測定を行った。
【0028】
〔比較例1〕
硝酸インジウムを添加せず、表2に示す組成となるように、実施例1と同様にして複合酸化物を作製し、同様の測定を行った。
【0029】
〔比較例2〕
硝酸インジウムを添加せず、表3に示す組成となるように、実施例と同様にして複合酸化物を作製し、同様の測定を行った。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
表1〜3、図1及び図2より、実施例1〜5で得られたセリウム−ジルコニウム系複合酸化物は、「大気下1000℃、3時間熱処理後の600℃におけるOSCが0.05mmol/g以上で、かつ、その70%以上が還元開始から60秒以内に放出されることを特徴とする」という、本発明の特性を満足したものであり、又、1000℃で3時間焼成後の比表面積においても高い耐熱性を維持していることがわかる。
一方、比較例1及び2で得られたセリウム−ジルコニウム系複合酸化物は、還元開始後60秒間のOSCが56%及び48%であり、OSC材料としての機能を考慮した場合、OSCの応答速度に劣ることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ジルコニウム35〜90%、酸化セリウム5〜60%及び酸化インジウム0.001〜10%含有することを特徴とするセリウム−ジルコニウム系複合酸化物。
【請求項2】
大気下1000℃、3時間熱処理後の600℃におけるOSCが0.05mmol/g以上で、かつ、その70%以上が還元開始から60秒以内に放出されることを特徴とする請求項1記載のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物。
【請求項3】
大気下1000℃、3時間熱処理後の比表面積が、少なくとも35m/gであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物。
【請求項4】
(1)アルカリ土類金属、Ceを除く希土類金属、Al及びSiから選ばれる1種以上の金属酸化物を1〜55%及び/又は(2)遷移金属元素、Ga、Sn及びBiから選ばれる1種以上の金属酸化物を0.01%〜5%含有することを特徴とする請求項1〜請求項3に記載のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物。
【請求項5】
(1)オートクレーブ中で、温度100℃以上のジルコニウム塩溶液に硫酸塩化剤を添加し、塩基性硫酸ジルコニウムを生成させる第一工程、(2)前記塩基性硫酸ジルコニウム含有スラリーにインジウム塩溶液とセリウム塩溶液を混合する第二工程、(3)前記混合溶液を中和して、セリウム−ジルコニウム系複合水酸化物とする第三工程及び(4)前記セリウム−ジルコニウム系複合水酸化物を熱処理し、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物とする第四工程、からなることを特徴とするセリウム−ジルコニウム系複合酸化物の製造方法。
【請求項6】
中和する前に、(1)アルカリ土類金属、Ceを除く希土類金属、Al、Siから選ばれる1種以上の金属塩及び/又は(2)遷移金属、Ga、Sn及びBiから選ばれる1種以上の金属塩を添加しておくことを特徴とする請求項5記載のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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