説明

セルソーターチップおよびセルソーター

【課題】細胞の代謝状態、あるいは細胞に薬物刺激を与えたことによる応答の違いを比較計測する方法、さらに、比較計測に基づいて細胞分離を行なうことで、細胞を表現型に応じて精密に精製する方法を提案すること。
【解決手段】流路中を流れる細胞のスナップ像を少なくても2回、所定の時間間隔で撮影し、この2回の撮影の間に細胞で変化した量(代謝量)を計測することで、細胞の代謝状態、あるいは細胞に刺激を与えたことによる応答の違いを比較計測する。さらに、比較計測結果に基づいて細胞分離を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個別の細胞を分離解析し、細胞を一細胞毎に分離回収するセルソーターチップおよびセルソーターに関する。
【背景技術】
【0002】
20世紀の初頭に細胞を観察しようとすると、顕微鏡以外に手立ては無かった。1948年にWallacce Coulterがセルソーターの検出部の原型と言える“コールターカウンター”(Coulter, W. Means for counting particles suspended in a fluid. US2,656,508 (1949))を開発し、はじめて個々の細胞の特性を調べることが可能になった。コールターの技術にJet−In−Air型のシースフロー技術(Crosland-Taylor, P.J. A device for counting small particles suspended in a fluid through a tube. Nature 171, 37-38(1956))と静電的な細胞分離技術(Fluwer, M.J. Electronic separation of biological cells by volume. Science 150, 910-911(1965))が組み合わさり、それまで困難であった細胞を1個毎に分離して性質を調べることが可能であるとともに、実際に細胞を分離回収する近代的なフローサイトメーターあるいはセルソーターが実現した。これらは細胞解析や分離の自動機器として改良され、ライフサイエンス分野での細胞解析技術、細胞分離技術の核となっている。
【0003】
セルソーターとしてはベックマンコールター社や、ベクトンデッキンソン社から全自動の装置が発売されている。これらの装置は、最高3万細胞/秒の細胞処理が可能である。そのほか、臨床検査装置で実績のあるDakoグループのDakoCytomation社は10万細胞/秒の処理ができる高速セルソーターMoFloを実用化している。日本国内では1995〜2000年にNEDOプロジェクトとして6億6800万円を投じた「微量情報検出システム」の研究開発(NEDO「微量細胞情報検出システム」事後評価報告書、コード060001538(2002))が行われている。開発されたセルソーターでは、光学検出部からチューニング部分をなくすことで、ソーティング設定条件設定を容易にしている。NEDO成果を基に、Bey bioscience社がデスクトップセルソータJSAN(処理能力:45000細胞/秒)を開発し、販売している。
【0004】
これらの装置では、細胞の検出は一般的にはシースフローセル内で行われる。シースフローの登場する以前のコールター型のセルソーターでは、細孔の開いた仕切りの外側と内側に電極を置き、外側の溶液から細孔を通して細胞を吸い上げたときに電極間に流れる電流の低下を測定する原理(Coulter, W. Means for counting particles suspended in a fluid. US2,656,508 (1949))に基づいている。シースフローを用いる系では光学的な検出が用いられる[Hulett, H. R., Bonner, W.A., Barrett, J. and Herzenberg, L.A. Cell sorting: automated separation of mammalian cells as a function of intracellular fluorescence. Science 166, 747-9(1969); Kamaensky, L.A., Melamed, M.R., and Derman,H. Spectorphotometer: New instrument for ultrarapid cell analysis. Science 150, 630-631(1965)]。シースフローセルにレーザーを照射し、細胞がレーザー光を横切った時に散乱する光を検出する方法と、予め細胞を蛍光標識しておき、レーザーを横切ったときに発生する蛍光を検出する方法がある。散乱光を測定する系では、細胞が数μmであるときに、大きさにしたがって入射光の進行方向に対して散乱する前方散乱と、より小さな粒子、すなわち細胞内の顆粒により散乱する側方散乱を検出する方法がある。現状のJet−In−Air型のセルソーターでは前方散乱と側方散乱と蛍光のいずれも測定できるようになっている。蛍光に関しては6色蛍光を分離検出する装置が一般的になっている。散乱光や蛍光はレーザーパワーを大きくすれば短時間で計測を終えることができる。このため現在最も処理能力の高いセルソーターでは10万イベント(測定液滴数)/秒の処理能力が得られている。セルにレーザーを照射して細胞を計測する部分では250μm径で、セルの先端部のノズル部分は100μm程径となっている。レーザー照射を行なうために正方形の断面を持つ流路のセルを用いることもある。
【0005】
一般的なフローサイトメーターやセルソーターは高価であること、装置が大型であること、試料が多量に必要であること、液滴を作成する段階で細胞に損傷を与える可能性があること、直接、試料を観察できないことなどの問題がある。これらの問題を解決するため、近年、マイクロ加工技術を用いて微細な流路を作成し、流路内の層流中を流れる細胞を直接顕微鏡観察しながら分離するセルソーターが開発されている(Micro Total Analysis, 98, pp.77-80 (Kluwer Academic Publishers, 1998);Analytical Chemistry, 70, pp.1909-1915 (1998))。しかし、このマイクロ加工技術を用いて作成するセルソーターでは観察手段に対する試料分離の応答速度が遅く、実用化するためには、より応答の速い処理方法が必要である。
【0006】
また、細胞を精製するためには、細胞を分離する方法以外にも、不用な細胞のみの機能を失活させることで、細胞を分離することと同様の成果を得ることができる。細胞の機能を失活させる技術としては、集束光を細胞に照射して細胞の機能を失活させる技術があり、たとえば、培養皿上で培養している白血球細胞に波長523nmの集束光レーザーを照射し、細胞内に取り込ませた吸収ピーク波長504nmの色素に吸収させることで10−6秒の照射で細胞を加熱し失活させることができたことが報告されている[Koller, M.R., Hanania, E.G., Stevens, J., Eisfeld, T.M., Sasaki, G.C., Fieck, A., Palsson, B. High-throughput laser-mediated in situ cell purification with high purity and yield. Cytometry Part A 61A: 153-161 (2004)]。しかし、この手法では、静止している細胞の位置を1細胞単位で同定して、その細胞位置に集束点を持ってゆくものであり、幅広い流路中をランダムに高速に流れてくる細胞の位置を同定し、その細胞のみに選択的に集束光を照射することは困難であった。
【0007】
本願の発明者らは、このような問題点を解消するため、マイクロ加工技術を活用して、試料の微細構造と試料中の蛍光分布に基づいて試料を分画し、回収する試料に損傷を与えることなく、簡便に細胞試料を分析分離することのできる細胞分析分離装置を提案している(特開2003−107099号公報、特開2004−85323号公報、国際公開第2004/101731号パンフレット)。また、Journal of Nanobiotechnology Vol.2:5(オンラインジャーナルhttp://www.jnanobiotechnology.com/content/pdf/1477-3155-2-5.pdf))にも、類似の技術が開示されている。
【0008】
【非特許文献1】Coulter, W. Means for counting particles suspended in a fluid. US2,656,508 (1949))
【非特許文献2】Crosland-Taylor, P.J. A device for counting small particles suspended in a fluid through a tube. Nature 171, 37-38(1956)
【非特許文献3】Fluwer, M.J. Electronic separation of biological cells by volume. Science 150, 910-911(1965)
【非特許文献4】「微量細胞情報検出システム」事後評価報告書、コード060001538(2002)
【非特許文献5】Coulter, W. Means for counting particles suspended in a fluid. US2, 656,508 (1949)
【非特許文献6】Hulett, H. R., Bonner, W.A., Barrett, J. and Herzenberg, L.A. Cell sorting: automated separation of mammalian cells as a function of intracellular fluorescence. Science 166, 747-9(1969)
【非特許文献7】Kamaensky, L.A., Melamed, M.R., and Derman,H. Spectorphotometer: New instrument for ultrarapid cell analysis. Science 150, 630-631(1965)
【非特許文献8】Micro Total Analysis, 98, pp.77-80 (Kluwer Academic Publishers, 1998);Analytical Chemistry, 70, pp.1909-1915 (1998)
【非特許文献9】Koller, M.R., Hanania, E.G., Stevens, J., Eisfeld, T.M., Sasaki, G.C., Fieck, A., Palsson, B. High-throughput laser-mediated in situ cell purification with high purity and yield. Cytometry Part A 61A: 153-161 (2004)
【非特許文献10】Journal of Nanobiotechnology Vol.2:5(オンラインジャーナルhttp://www.jnanobiotechnology.com/content/pdf/1477-3155-2-5.pdf)
【特許文献1】特開2003−107099号公報
【特許文献2】特開2004−85323号公報
【特許文献3】国際公開第2004/101731号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記Jet−In−Air型のセルソーターあるいは、上記文献、さらには、本願の発明者らの提案する特願2004−379327号記載、特願2004−297184号記載のセルソーターでは、流路中を流れる細胞の一瞬のスナップ写真から、細胞のそのときの状態を1回だけ解析し、これに基づいて細胞の種類を識別、分離するものである。この技術では、細胞が表面に発現しているタンパク質などの識別は出来るが、代謝状態などの、同一細胞の時間的変化を比較計測して初めて分かる細胞状態を計測することは出来ない。強いてやろうとすると、分離した細胞を一旦、回収し、所定時間インキュベーションした後に再度フローサイトメーターやセルソーターで分析することになる。
【0010】
しかし、Jet−In−Air型のセルソーター等の従来のセルソーターでは繰り返し解析をするにしても、細胞を特定して繰り返し解析する構成にはなっていない。手段として分離した細胞群を再度セルソーターで分離回収することしかできない。したがって、細胞の代謝状態、あるいは細胞に薬物刺激を与えたことによる応答の違いを比較計測する方法、さらに、比較計測に基づいて細胞分離を行なうことで、細胞を表現型に応じて精密に精製する方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明では、流路中を流れる細胞のスナップ像を少なくても2回、所定の時間間隔で撮影し、この2回の撮影の間に細胞で変化した量(代謝量)を計測することで、細胞の代謝状態、あるいは細胞に刺激を与えたことによる応答の違いを比較計測する。さらに、比較計測結果に基づいて細胞分離を行なう。
【0012】
また上記課題のうち、細胞を選別するために、本発明では、細胞を分岐を持つ微細流路中で各分岐に分離する方法を用いる。あるいは、流路中を流れる細胞に、細胞を破壊あるいは細胞に細胞死(アポトーシス)を誘導する手段によって流路を通過することでほしい細胞のみ生存して通過する細胞精製を行なう。
【発明の効果】
【0013】
この時間比較型セルソーター技術により、表現型のそろった細胞の精製が可能となる。これにより、たとえば基板上に細胞を任意に配置する細胞チップ(臓器モデルチップ)を作成する上で、品質のそろった細胞チップを構成することができる様になる。同時に、単独で成立する分析技術として、浮遊状態で流れる細胞の代謝の違いや薬物に対する応答を、1回目のスナップ写真と2回目のスナップ写真の比較で直接計測するスクリーニング系として独立に利用することが可能となる。このとき、代謝系に特徴を持つ細胞であれば、薬剤に対する代謝などの応答特性を調べることが可能となる。
【0014】
また、細胞を選別するために分岐流路を用いた細胞分離手段を用いることで、分離したい細胞種類の数だけの分岐によって、複数の種類の細胞を1回の分離操作で分離精製することができる。さらに、一直線の分岐を持たない流路を流れる細胞のうち、必要でない細胞を破壊あるいはアポトーシスを誘導する手段を組み込むことで、光学的照射手段のみによって、上記流路の分岐を用いた分離手段と異なり、細胞に外力を加えて細胞の移動方向を制御する手法が必要なくなり、光学的照射手段のみによって細胞を精製することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、流路中を流れる細胞のスナップ像を少なくても2回、所定の時間間隔で撮影し、この2回の撮影の間に細胞で変化した量(代謝量)を計測することで、細胞の代謝状態、あるいは細胞に刺激を与えたことによる応答の違いを比較計測し、比較計測結果に基づいて細胞分離を行なうものであるから、もっと単純な構成としては、流路中を流れる細胞を所定の時間を置いて2回撮影して比較することでよい。
【0016】
図1は、本発明の最も基本的な処理工程を表す図である。細胞は流路の中を最上流から1方向に移動する。1は試料細胞(以下、細胞という)を含む懸濁液をセルソーターの流路の最上流に添加する工程である。流路の最上流に添加された細胞は流路中を下流の方向に流れる。2は流下の過程で第1の細胞識別処理により細胞の種類と状態を指定したパラメータにより1個ずつ識別する第1の識別工程である。3は細胞を流路下流の方向に流下させる時間調整工程である。4は時間調整工程3の時間が経過した後、第1の細胞識別処理で識別したのと同じ細胞を第2の細胞識別処理により再度細胞の種類と状態を指定したパラメータにより1個ずつ識別する第2の識別工程である。第2の識別工程でも細胞の種類と状態を指定したパラメータにより1個ずつ識別する。第1の細胞識別処理と第2の細胞識別処理による識別工程の間の時間は、時間調整工程3の流路長を設定することで任意の経過時間で識別することができる。5は第1の識別工程2で得られる情報と第2の識別工程4で得られる情報を比較する比較解析工程である。6は細胞分別器による細胞分別工程であり、比較解析工程5でパラメータの変化量が所定の閾値を超えていると判定された細胞については、細胞回収容器7に回収し、所定の閾値を超えていないと判定された細胞については、その他の細胞回収容器8に回収する。
【0017】
ここで、細胞を含む懸濁液は流路の断面積と懸濁液の粘度により、予め予想される流速で第1の細胞識別工程2と第2の細胞識別工程3と細胞分別工程6を通過する。第1の細胞識別工程2を通過した細胞が第2の細胞識別工程3を通過するまでは時間的な差があり、この間に細胞の代謝に変化があるものは第1の細胞識別工程2と第2の細胞識別工程3での測定結果の差が生じる。実質的に状態に変化の無い細胞では両識別工程で差が出ない。このため、細胞の状態変化を指標に細胞を分離することができる。
【0018】
図2は、図1に示した基本的な処理工程と比べ、細胞を刺激する工程が加わった処理工程を示す図である。図1と図2とを対比して明らかなように、図2では、第1の細胞識別工程2と第2の細胞識別工程3との間に、細胞を刺激する工程23が設けられる点において、図1に示す基本的な処理工程と異なる。細胞を刺激する工程23が加わったことから、細胞刺激により、同じ時間でも、より効果的な細胞の変異の発生が期待でき、細胞刺激により細胞がどのような変化を示すか効率よく検証できる。
【0019】
細胞刺激工程23では、薬剤を流路に注入し細胞を化学的に刺激する。あるいは、流路内または流路を挟むように、電極を儲け、通過する細胞を電界により刺激する。または、流路を流れる細胞に特定波長の光や電磁波を照射して刺激し、あるいは、熱で刺激する。熱による刺激(温度ストレス)では、流路内の一定部分に光吸収体を設けて、この部分に集束光を照射して加熱したり、ペルチェ素子を流路の特定領域に接触させて、特定細胞が流路中を流れてきたときのみ温度を上げたり下げたりできる構造とすることで達成できる。
【0020】
図1、図2では、同一の細胞を所定の時間間隔で、種類と状態に着目して細胞変化を識別する工程を示しているが、識別の対象となる細胞を同定することについては説明していない。図3は、識別の対象となる細胞の同定を確実に行なうための工夫を盛り込んだ細胞変化を識別する工程を示す図である。30は細胞を含む懸濁液をセルソーターの流路の最上流に添加する工程である。31は細胞を1個だけ含むように懸濁液にスペーサーを挿入するスペーサー挿入工程である。すなわち、細胞を含む懸濁液の細胞ごとにスペーサーを挿入する。工程30と工程31は、順序を逆にしても良い。工程31を先に実施する場合は、細胞を1個ずつに区切るスペーサーを作成するためのオイルや気相を流路内に挿入する工程でできたオイルや気相によるスペーサーで区切られた個々の領域に細胞を1個だけ含む溶液を挿入することになる。スペーサーはインデックスとして使用する。すなわち、スペーサーを構成しているオイルや気相の長さ、あるいは、オイルや気相の挿入のパターンを、このスペーサーに続いて流下して来る細胞のIDとして利用するのである。39は細胞の配列情報としてのスペーサーインデックスを検出する工程である。32はスペーサーで区切られた細胞の種類や状態を識別する工程である。工程32を通過した細胞は工程33−1に移動する。工程33−1は細胞に刺激を与える工程である。刺激を受けた細胞は工程36−1に移動する。工程36−1は時間調整工程であるとともに、ここで所定時間インキュベーションする工程である。工程36−1は、例えば、所定の温度に維持された所定の長さの流路をスペーサーで挟まれた細胞を含む懸濁液が通過する構成で実現される。工程36−1でインキュベーションされた細胞は、再び、スペーサーインデックス検出工程39、細胞識別工程32に戻り、ここで、再度、スペーサーインデックスの検出、細胞の状態をチェックする。工程38は細胞分別器で細胞を分別する工程である。スペーサーインデックス検出工程39、細胞識別工程32で得られる細胞情報を比較解析工程42で処理し、所定のパラメータが所定の範囲にある細胞の情報が細胞分離工程38に与えられている。比較解析工程42から与えられる情報が所定の条件を満足しているものは容器40−1に回収される。所定の条件を満足していない細胞は容器40−2に回収される。
【0021】
図3に示す工程は、識別の対象となる細胞がインデックスであるスペーサーと対になって扱われるから、細胞に刺激を与える工程33−1と所定時間インキュベーションする工程36−1を経過した細胞と、この工程に入る前の細胞との比較は、スペーサーによって同定されるから、異なった細胞の比較を行なうことは確実に防止できる。
【0022】
なお、比較解析工程42から与えられる情報が所定の条件を満足していない細胞に対しては、破線で示すように、細胞に刺激を与える工程33−2および時間調整工程と所定時間インキュベーションする工程36−2を経て、細胞識別工程32に戻して、先に得られている情報と新たに得られた情報を工程42で比較処理し、工程42の指令により、再度、細胞分別工程38で分別することにしても良い。ここで所定の条件を満足している場合は容器40−1に回収され、そうでないものは40−2に回収される。この処理が可能になるのは、識別の対象となる細胞がインデックスであるスペーサーと対になって扱われるからである。すなわち、どういうルートでどのように扱われても、スペーサーの持っている細胞を特定するための情報が細胞と対として一緒に検出できるからである。なお、この場合、再評価のために独立したスペーサーインデックス検出工程39、細胞識別工程32が備えられていないときは、工程30,31による新たな細胞の流下は停止することが必要である。また、工程30,31による新たな細胞の流下を停止すれば、細胞に刺激を与える工程33−1および時間調整工程と所定時間インキュベーションする工程36−1を繰り返し実行し、その繰り返しの都度、細胞の状態を評価した後、繰り返し実行の評価結果を工程42で比較解析して細胞分別工程38で分別することにしても良い。
【0023】
(実施例1)
図4は本発明のセルソーターチップと、このチップを利用したセルソーターの実施例1の概要を示す平面図である。実施例1は図3で説明した処理工程に基づく実施例(ただし、破線で示す処理は含まないものとした)である。細胞を流路に添加した後に細胞間にスペーサーを導入し、細胞を1個ずつ区切る機構と、個々の細胞に刺激を与える機構と、刺激を与える前後で細胞の状態を測定する、すなわち細胞スペーサーによるインデックスで特定し、細胞状態を2回測定する機構を有するセルソーターである。
【0024】
61はセルソーターチップ基板であり、ポリメタクリル樹脂あるいはシクロオレフィン系樹脂を、金型に対して、射出成型あるいはホットエンボス法で作成する。一般的には、射出成型で作成するほうが微細な構造を作成する上で良い結果が得られる。基板61の底面には流路パターンが射出成型で形成され、全面をプラスチックシートで覆って流路64が形成される。流路64に細胞を添加し、あるいは、スペーサー用のオイル、細胞刺激用の薬剤を添加するためには、流路64の適当な位置に基板表面まで貫通する開口を有する添加口を形成する。また、流路から細胞を排出するためには流路64の適当な位置に基板表面まで貫通する開口を有する外部コネクターを形成する。
【0025】
63−1は細胞添加口ハウジングであり、流路64の最上流部に設けられる。62−1は流路64から基板61の表面まで連通している開口である。161はシリンジポンプ163のニードルであり、細胞添加口ハウジング63−1の上面を貫通して開口62−1に対して垂直方向から細胞を含む懸濁液を連続して添加する。164はシリンジポンプ163の駆動装置であり、後述するパソコン300の与える信号により操作される。67−1はシース液供給路であり、開口62−1にポンプ165-1から送り込まれるシース液を供給する。166はシース液溜めである。ポンプ165-1は後述するパソコン300の与える信号により操作される。図5(A),(B)に細胞添加口ハウジング63−1の部分の断面を示す。(A)は流路64に沿った面で断面にしてシース液供給路67−1の方向に見た断面図、(B)はシース液供給路67−1に沿った面で断面にして流路64の方向に見た断面図である。61は基板であり、底面に流路64が形成される。68はプラスチックシートであり、基板61の裏面に形成される流路64のパターンを覆って流路64を完成する。開口62−1が基板61の裏面に形成される流路64から基板61の表面まで延びている。シース液供給路67−1は基板61の表面で開口62−1と結合する。
【0026】
ニードル161は細胞添加口ハウジング63−1の上部を貫通して、開口62−1の中心部に突き出る構造とされ、シース液供給路67−1から供給されるシース液はニードル161の周りを流れる構造となっているので、ニードル161より添加される細胞を含む懸濁液の周囲には流路67−1より供給されるシース液の相が形成される。ニードル161より添加された細胞41はシース液により流路64の中央部に1列に整列され、かつ、細胞間隔はシース液により引き伸ばされる。各部のサイズを見ると、基板61の厚さは1〜2mm、流路64は20〜50μm(高さ)×20〜50μm(幅)、プラスチックシート68の厚さは50〜170μm、開口62−1は500〜600μmφ、ニードル161は200μmφ、ニードル161の開口は細胞より大きければよい、といった程度である。
【0027】
図4に戻り説明する。56は細胞検出領域で、細胞添加口ハウジング63−1の下流の流路64に設けられる。細胞41が流路64を流れてくるとき、この領域で細胞を検出する。細胞検出領域56で細胞を検出するのは、細胞で光の透過が阻止される時間を検出することで容易に検出できる。細胞検出領域56で細胞が検出されたことは後述するパソコン300に入力する。細胞検出領域56の下流の流路64にはインデックス用のオイルが供給される流路64−2が連結されている。流路64−2の端部には、オイル添加コネクター63−2が設けられる。62−2は流路64−2の端部から基板61の表面まで連通しており、配管67−2が結合している。67−2はオイル供給路であり、コネクター62−2を介した流路64−2にポンプ165-2から送り込まれるオイルを供給する。167はオイル溜めである。ポンプ165-2は後述するパソコン300の与える信号により操作される。図6はオイル添加コネクター63−2の部分の断面を示す図である。流路64−2に沿った面で見た断面図である。61は基板であり、底面に流路64−2が形成される。68はプラスチックシートである。開口62−2が基板61の裏面に形成される流路64−2から基板61の表面まで延びている。オイル供給路67−2は基板61の表面で開口62−2と結合する。
【0028】
図4に戻り説明する。流路64の流路64−2より下流部には流路64−2より注入されたインデックス用のオイルを検出するインデックス検出領域57−1が設けられるとともに、これに続けて、細胞識別領域58−1が設けられる。インデックス検出領域57−1でオイルを検出するのは、オイルで光の透過が阻止される(あるいは低減される)時間を検出することで容易に検出できる。さらに、オイルに色素を混入させることで、より検出を容易にすることができる。検出領域57−1でオイルが検出されたことは後述するパソコン300に入力する。細胞識別領域58−1では、後述するパソコン300により与えられる撮像タイミング信号により、流路64を流下している細胞を撮像する。
【0029】
流路64の細胞識別領域58−1の下流に細胞刺激領域59が設けられる。細胞刺激領域59では細胞刺激用の刺激物質溶液が供給される流路64−3が流路64に連結されている。流路64−3の端部には、刺激物質溶液添加口ハウジング63−3が設けられる。62−3は流路64−3の端部から基板61の表面まで連通している開口である。67−3は刺激物質溶液供給路であり、開口62−3にポンプ165-3から送り込まれるオイルを供給する。168は刺激物質溶液溜めである。ポンプ165-3は後述するパソコン300の与える信号により操作される。刺激物質溶液添加口ハウジング63−3の構成は、図6で説明したオイル添加コネクター63−2と同じであるから、断面図による説明は省略する。
【0030】
流路64の細胞刺激領域59の下流に時間調整器60が設けられる。時間調整器60には、流路64に連結された流路60−1が備えられ、流路64を流下する細胞に必要な時間インキュベーションを行なう。流路60−1は流路64と同じ断面積の流路でよい。この領域は、必要により温度制御を施すものとするのがよい。
【0031】
流路64の時間調整器60の下流にインデックス用のオイルを検出するインデックス検出領域57−2が設けられるとともに、これに続けて、細胞識別領域58−2が設けられる。インデックス検出領域57−2はインデックス検出領域57−1と同様に、オイルで光の透過が阻止される(あるいは低減される)時間を検出することで容易にオイルを検出できる。検出領域57−2でオイルが検出されたことは後述するパソコン300に入力する。細胞識別領域58−2では、細胞識別領域58−1と同様、後述するパソコン300により与えられる撮像タイミング信号により、流路64を流下している細胞を撮像する。
【0032】
流路64の細胞識別領域58−2の下流に回収用流路64−5、64−6を接続し、それぞれに止め弁65―1,65−2を設け、外部コネクター66−1または66−2からそれぞれの回収用流路を流下してくる細胞を回収する。止め弁65―1,65−2の操作は後述するパソコン300により制御される。止め弁65の構造を図20(A)に示す。基板61の止め弁部には穴999が開いており、シリコンラバーの構造体1000が装着さている。シリコンラバー構造体は外部からのピン1001による押し付けで、図20(B)のように流路64をふさぐことができる。ピン1001の圧力を除くと図20(A)のようにシリコンラバーの弾性で基に戻り、流路64が貫通する。
【0033】
図7は、セルソーターチップの細胞検出領域56、インデックス検出領域57−1,57−2、細胞識別領域58−1、58−2と、それぞれの領域の光学系の関係の概略を示す図であり、図8は、パソコンによる操作の処理に関するフローチャートの概要を示す図である。図7において、セルソーターチップの基板61は細胞添加口ハウジング63−1が端部に設けられた流路64に沿った断面とされているが、インデックス検出領域57−2、細胞識別領域58−2は、便宜上、この流路64に存在するものとして表示した。
【0034】
流路64の最上流には、細胞添加口ハウジング63−1が設けられ、細胞検出領域56、インデックス検出領域57−1、細胞識別領域58−1、インデックス検出領域57−2、細胞識別領域58−2が流路に沿って設けられる。細胞検出領域56、インデックス検出領域57−1,57−2では、光の有無、あるいは強弱を検出できればよいから、光源11とフォトダイオード12からなる簡易な光学系が設けられる。細胞識別領域58−1、58−2では、領域を通過する細胞の像を撮る必要があるから、いわゆる顕微鏡の機能を持つ光源13と撮像装置14からなる光学系が設けられる。細胞検出領域56、インデックス検出領域57−1,57−2のフォトダイオード12−1,12−2,12−3のオン、オフ信号はパソコン300に入力される。細胞識別領域58−1、58−2の映像は、パソコン300の指示により撮像装置14−1,14−2によって撮影され、この画像信号はパソコン300に入力される。パソコン300には、これらの計測データのほかに、使用者が与える各種の設定値等のデータ(操作入力)が入力される。
【0035】
パソコン300では、これらの入力に応じて、あらかじめ与えられているプログラムに従って所定の操作を行なう。この処理に関するフローチャートの概要を図8に示す。STARTは使用者が分別したい細胞を含む懸濁液をシリンジポンプ163に入れて、ニードル161を細胞添加口ハウジング63−1に装着した後、パソコン300にスタート指示を入力したことを意味する。この段階で、パソコン300はセルソーターチップの初期化を実行する。例えば、ポンプ165-1,165-2および165-3を短時間運転する指示をだす。その結果、流路64は全領域がシース液で満たされ、流路64−2は全領域がオイルで満たされ、流路64−3は全領域が細胞刺激用の刺激物質溶液で満たされる。このことは、以後の処理に対して、パソコン300の指示に遅滞無く応答できるようになることを意味する。
【0036】
ステップ301はポンプ165-1の運転指示である。ステップ302は駆動装置164の運転指示である。ステップ303は細胞検出領域56で細胞が検出されたか否かをチェックする。すなわち、ステップ303で細胞が検出されたと判定されるまで、シース液を供給しながら、細胞を含む懸濁液を流路64に供給する。ステップ303で細胞が検出されたと判定されると、ステップ304でポンプ165−1の運転停止を指示し、さらに、ステップ305で駆動装置164の運転停止を指示することにより、細胞を流路64の細胞検出領域56近傍に保持する。一方、且つ、ステップ306でポンプ165−2の運転を指示し、次いで、ステップ307で、細胞の検出ごとに決まるポンプ165−2の所定の運転時間が経過したか否かをチェックする。すなわち、ステップ307でポンプ165−2の運転時間が細胞の検出ごとに決められている所定時間に達したと判定されるまで、検出された細胞が流路64を流下するのを停止し、インデックス用のオイルを流路64−2から流路64に供給する。すなわち、細胞の検出の順番に応じた長さのインデックス用のオイルを流路64に注入することになる。ステップ307で所定時間に達したと判定されると、ステップ308でポンプ165−2の運転停止を指示するとともに、ステップ301に戻り、流路64に細胞を含む懸濁液とシース液を注入する。
【0037】
この結果、再び、ステップ303で細胞が検出されたと判定されるまで、インデックス用のオイルに続いて最初に検出された細胞を流路64に流下させることができる。再び、ステップ303で細胞が検出されたと判定されると、細胞の流下を停止して、長さの異なるインデックス用のオイルを流路64に挿入した後、ステップ301に戻り、流路64に細胞を含む懸濁液とシース液を注入する処理を繰り返す。
【0038】
流路64には、したがって、インデックス用のオイルと細胞の対が、次々に流下することになる。ステップ309で、インデックス検出領域57−1の信号を検出し、パソコン300に送る。ステップ310で、パソコン300はインデックス検出領域57−1の信号の検出に応じて撮像装置14−1に細胞識別領域58−1の映像の取得指示を与える。これにより撮像装置14−1によって細胞識別領域58−1の映像が撮影され、この画像信号がパソコン300に入力される。ステップ311で、インデックス検出領域57−1の信号の検出から所定時間が経過したか判定する。すなわち、分別されるべき細胞が流路64の細胞識別領域58−1の下流の細胞刺激領域59に到達したか否かが判定される。ステップ311で所定時間が経過したと判定されると、ステップ312でポンプ165−3の運転を指示する。ポンプ165−3の運転により、細胞刺激領域59の流路64に細胞刺激用の刺激物質溶液が供給される。ステップ313でポンプ165−3の運転時間が所定時間を経過したか否か判定される。所定時間を経過したと判定されるとステップ314でポンプ165−3の運転停止が指示される。この所定時間内に細胞刺激領域59で流路64に供給される刺激物質溶液の量がインデックス用のオイルで区切られた領域にある懸濁液およびシース液量の20%程度までなら、微量であるので、駆動装置164および他のポンプ165−1,165−2を停止する必要は無い。
【0039】
ステップ315で、インデックス検出領域57−2の信号を検出し、パソコン300に送る。ステップ316で、パソコン300はインデックス検出領域57−2の信号の検出に応じて撮像装置14−2に細胞識別領域58−2の映像の取得指示を与える。これにより撮像装置14−2によって細胞識別領域58−2の映像が撮影され、この画像信号がパソコン300に入力される。ステップ317で、インデックス検出領域57−1,57−2の信号が同じレベルにあるインデックスに続いて現れる細胞の映像比較を行なう。ステップ318で、同じレベルにあるインデックスの細胞の差が所定値を越えているときは止め弁65―1,65−2を操作し、止め弁65―1を閉、65−2を開として流路64を回収用流路64−6に接続し、外部コネクター66−2から細胞を回収し、所定値内にあれば、、止め弁65―1を開、65−2を閉として流路64を回収用流路64−5に接続し、外部コネクター66−1から細胞を回収する。
【0040】
このように、実施例1では、細胞刺激用の刺激物質溶液で刺激を受ける前後の細胞の映像がパソコンで比較されるに際し、インデックスオイルで同一のコードが与えられた細胞について行われるから、異なった細胞のデータを比較するということは無い。
【0041】
ここで、オイル区切によるインデックスの具体例についてみると、流路64が幅20μmで深さ25μmの場合、オイル長さが40μm以上1000μm程度までの範囲で作成するのが実用的に有効である。オイル長の差はオイル長さが40μmから200μm程度までは20μmの差で作成すれば容易に区別できる。すなわち、40μm、60μm、80μm、100μmなどは長さの区別がきる。200μmより長いオイル区切りを区別するには長さそのものの誤差があるのでオイル長の20%の差をつけることでお互いに長さの違うオイル区切りを区別できる。
【0042】
なお、実施例1に示す基板61には、図7からも明らかなように、細胞検出領域56、インデックス検出領域57−1,57−2および細胞識別領域58−1,58−2に、それぞれの細胞検出器、インデックス検出器、細胞識別器が実装されるわけではない。これらの装置は、光の遮蔽で物質が認識できる程度の光学系、あるいは、細胞を識別できるレベルの顕微鏡の機能を持った光学系で構成されるので、本発明によるセルソーターをこの光学系に装着して細胞分離を行なうことになる。このことは、ポンプによる液体の注入についても同様であり、各ポンプに連結された供給路を各添加口ハウジングに、適当な連絡具、例えば、キャピラリーチューブで連結するものとされる。
【0043】
(実施例2)
実施例2では、細胞刺激領域59が物理的な刺激を与える構成である場合の例を説明する。セルソーターの構成としては、図4に示す細胞刺激領域59が変更される他は、実施例1と同じ構成である。物理的な刺激の第1例では通過する細胞を電気的に刺激する方法である。この場合には、図4に示した流路64−3から刺激物質溶液溜め168の構成は不要となり、代わりに流路64に電極を設けることが必要となる。図9は流路64に配置された細胞刺激領域59に電極59−2と59−3を設けた例を示す平面図である。電極59−2と59−3にはそれぞれ外部から電気的な入力を与えるためのリード部分59−4と59−5が接続されている。いずれも薄膜であり、基板61を成形した段階で流路64の細胞刺激領域59の領域に作成される。電極59−2と59−3は基板上にクロムを蒸着した後に白金を蒸着して作成する。電気刺激としては、細胞が通過するときに電極59−2と59−3間に数kHzから数十MHzの高周波、直流矩形波など必要に応じて使用する。
【0044】
一例として、5kHzの高周波(サイン波)を外部に接続したパルスジェネレーターで発生させ、電極59−2と59−3の間に常に印加する。両電極の流路方向の長さは25μmで、間隔は25μmである。電極部位の流路64の流路断面は25×25μmの矩形である。細胞は100μm/sで流れてくるように調整してある。両電極は同一平面上に作成しているので、電気力線のかかり方は実質電極59−2と電極59−3の間の25μm領域程度となる。したがって高周波にさらされるのは約250msということになる。電圧は1kVとする。ヒト白血球の混合物を流路64に流し、細胞識別領域58−1通過後に図9の電極構造を用いて上記条件の高周波刺激を与える。時間調整器60の流路60−1の流路長を60mmとすると、他の流路を通過する時間も含めて細胞識別領域58−2を同じ細胞が通過する間隔はおおよそ14分かかる。この間に、細胞の形状が球形から変化するものが約12%存在する。細胞形状を細胞識別領域58−1,58−2から得られる画像信号をパソコン300で逐次処理し比較する。同一細胞の2枚の画像の比較結果から自動的にパソコン300が判断してバルブ65に指令を出し、形状の変化が見られる細胞を外部コネクター66−2のほうへ振り分ける。形状に変化の見られないと判断される細胞は外部コネクター66−1のほうに振り分ける。
【0045】
物理的な刺激の他の例としては、流路を流れる細胞に特定波長の光や電磁波を照射して刺激する方法である。図10は光照射で細胞を刺激する場合の照射光学系と細胞刺激領域59の構成を示す断面図である。特定波長の光を発生する光源59−6の光をレンズで絞って集束光59−7として、プラスチックシート68、基板61を通して、流路64を流れる細胞41に照射する。細胞がシロイヌナズナの細胞、集束光59−7の波長を514nmで、0.3mW、時間調整器60の流路60−1の流路長を60mmとして集束光被爆前と被爆後の細胞を細胞識別領域58−1,58−2で観察し、画像をパソコンに取り込んで比較する。この場合、シロイヌナズナの細胞は集束光被爆前に比較し、集束光被爆後では細胞質の葉緑体が配向し、見かけ上面積が少なくなったような状態の細胞が検出される。この変化に着目して、細胞を分離できる。UV光やX線も外部から細胞刺激領域59に照射することが可能である。
【0046】
光の照射に代えて、細胞刺激領域59で細胞を磁場にさらすことも可能である。この場合はコーン状に絞ったサマリウム/コバルト系やネオジウム系のような強力な希土類磁石を用いる。磁石先端から細胞までの距離は100μm程度で数Tの磁場に曝露する前後の細胞状態比較から特定の細胞群を分離することを試みることができる。細胞内のスピンラジカル反応は強磁場の影響を受ける可能性があるので、磁場感受性の細胞を検出分離することができる可能性がある。
【0047】
細胞刺激領域59で、細胞を熱による刺激(温度ストレス)にさらすことができる。細胞刺激領域59の流路64のプラスチックシート68の外面に光吸収体を固着させ、これに集束光を照射して加熱することができる。あるいは、光吸収体に代えて、ペルチェ素子を固着させ、細胞が流路64を流下してきたときのみ温度を上げたり下げたりできる構造とすることで達成できる。
【0048】
(実施例3)
実施例3では、他のインデックス用オイルのパターンの作成例を示す。実施例1では、インデックス用オイルの長さを細胞に対応させるものとして説明したが、実施例3では“1”、“0”でコード化されたパターンとする例について、図11を参照して説明する。図11は、図4の細胞検出領域56の下流の流路64に連結されているインデックス用のオイルが供給される流路64−2に対応する部分を示す図である。流路64−2の流路64とオイル添加口ハウジング63−2との間に流路64−4を連結し、流路64−4の端部には水添加口ハウジング63−4を設ける。62−4は流路64−4の端部から基板61の表面まで連通している開口である。水添加口ハウジング63−4の開口62−4に水供給路67−4を介して、開口62−4にポンプ165-4から送り込まれる液を供給する。169は水溜めである。ポンプ165-4はポンプ165-2と同様にパソコン300の与える信号により操作される。
【0049】
実施例1では、細胞検出領域56で細胞が検出されたときは、ポンプ165−1の運転が停止、駆動装置164の運転が停止され、細胞検出領域56近傍に細胞を保持する(ステップ303−305)とともにポンプ165−2が運転される。実施例1では、ポンプ165−2の運転時間を制御して細胞のインデックス用オイルの長さを細胞に対応させるものとした(ステップ306−307)。実施例3では、このステップ306−307に対応する制御をポンプ165−2、ポンプ165−4に対してパソコン300から行なうことにより、オイルと水とを利用したコードとして構成する。
【0050】
ポンプ165−2が運転されるときは流路64−2にあるオイルまたは水が流路64に注入され、ポンプ165−4が運転されるときは流路64−2に水が注入される。したがって、ポンプ165−2,165−4をパソコンの指示によって適当に運転すれば、オイルまたは水の混在とそれぞれの長さを制御されたコードを流路64に挿入することができる。図11では、細胞44−1に対して“1010101”のコードを、細胞44−2に対して“1101011”のコードを付与し、細胞44−3に対して“1010110”のコードを付与しようとしているところを示す。
【0051】
ここで、オイルと水によるインデックスの具体例についてみると、流路64が幅20μmで深さ25μmの場合、オイル長さの単位長が40μm、水の長さの単位長が40μmとなるようにして、“1”または“0”をこの単位長とするのが好ましい。インデックス検出領域57−1では、フォトダイオード12−1はオイルの部分と水の部分に対して、異なった信号(例えば、検出光強度の大きさ)をパソコン300に送ることになる。実施例3では、パソコン300は細胞の検出に対応して所定のコードを与えるようにプログラムされているとともに、これに応じて、ポンプ165−2,165−4を運転する。ステップ307は、したがって、「ポンプ165−2,165−4のトータルの運転時間は所定時間を経過したか」、あるいは、「ポンプ165−2,165−4は所定の運転パターンの運転を完了したか」と読み替えたものとなる。
【0052】
(実施例4)
実施例4は、1回の細胞刺激と流路60−1を細胞が通過する時間によるインキュベーション時間では、十分な細胞の変化が期待できないとき、n回の細胞刺激とn回の流路60−1を細胞が通過する時間によるインキュベーションを実行するセルソーターの例を示す。
【0053】
図12は、実施例4のセルソーターチップと、このチップを利用したセルソーターの概要を示す平面図である。図12と図4とを対比して容易に分かるように、セルソーターチップ自体は以下の点で異なるに過ぎない。すなわち、流路64の細胞識別領域58−2の下流部と流路64のインデックス検出領域57−1の上流部とを結ぶバイパス流路64−7が設けられ、この流路64−7に止め弁65−3が設けられる。また、バイパス流路64−7に沿って、細胞識別領域58−2の下流部と流路64のインデックス検出領域57−1の上流部の方向に向かうリニアポンプ165−5用の移動磁界発生コイルが備えられる。また、図には表れないが、インデックス用にオイル溜め167に保持されるオイルが磁性オイルとされる。ここで、磁性オイルとはオイルにナノ磁性体を分散させたものである。もっとも、インデックス用に利用できる流体であれば、オイルである必要は無く、磁性流体であれば良い。この点に関しては、他の実施例でもオイルに代えて、インデックス用に利用できる流体が利用できる。また、この例では、水溜め169は、色違いのオイル溜め169としてオイルにナノ磁性体を分散させたものを利用するのが良い。こうすれば、オイルの色の違いで光学的な明るさの違いが検出でき、インデックスとして利用できるとともに、リニアポンプ165−5の動作に有利である。
【0054】
図12に示す構成においては、細胞識別領域58−2に最初の細胞が到達した時点には、細胞検出領域56以下の流路64の範囲は、すべて、インデックス用オイルと対になった細胞とが入っているということを意味する。したがって、この両端をバイパス用の流路64−7で短絡した閉ループとして、インデックス用オイルと対になった細胞とを移動磁界発生コイルと磁性オイルとの関係で実現されるリニアポンプ165−5により循環させるとともに、この循環のたびに細胞を刺激し、細胞の映像を撮ることにする。これにより、細胞に十分な刺激を与え、且つ、刺激に応じた映像を得ることができる。
【0055】
図13は、実施例4の動作を実現する処理フローを示す図である。図13と図8とを対比して容易に分かるように、ステップ301からステップ316までの処理は実施例1と同一である。図13では、ステップ316で細胞識別領域58−2の映像取得をした後、ステップ321で、これが所定の映像取得に該当するか否かチェックする。最初の映像取得であれば、当然、該当しないからステップ322に進みカウンターを1だけ進ませた後、ステップ323で止め弁65‐3開、ポンプ165−1,165−2および駆動装置164の運転停止をパソコン300は指令する。続けて、ステップ323でリニアポンプ165−5の運転を指令する。その後、ステップ309に進む。これにより、細胞検出領域56から細胞識別領域58−2の範囲の流路64はバイパス用の流路64−7で短絡された閉ループとなり、この閉ループにある細胞および磁性流体がリニアポンプ165−5で循環されながら、細胞刺激領域59にポンプ165−3により供給される刺激物質溶液により繰り返し刺激されるとともに、時間調整器60の流路60−1の前後の細胞の映像を繰り返し得ることができる。この例では、繰り返し刺激を与え、それにより応答する細胞を分離する形になっているが、工程312、313、314に係る刺激物質添加用のポンプ駆動をスキップすることで、最初の刺激からの細胞応答の時間経過を追跡し、所定の状態になった細胞を分離することもできる。
【0056】
ステップ321で、これが所定の映像取得に該当すると判定されたときは、パソコン300は止め弁65‐3を閉とし、ポンプ165−1の運転を指令する。すなわち、細胞検出領域56から細胞識別領域58−2の範囲の流路64はバイパス用の流路64−7で短絡された閉ループを解消するとともに、流路64内にあるインデックス用オイルと対になった細胞を外部コネクター66−1または66−2の方に排出して細胞を回収する。そのため、ステップ317,318に進んで、得られた細胞の映像から選択をすることになる。実施例4では、繰り返し細胞を撮像しているから、実施例1よりも豊富な情報がパソコン300に蓄積されている。したがって、図13のステップ317,318に表示されているよりも多様な評価ができる。本発明を用いると、刺激を与えて細胞の変化が起きる場合、刺激応答が速く、2回目の測定で細胞に変化をきたしたものと、応答が遅く、より長時間インキュベーションしないと細胞の変化が見られないものとを分離することができる。
【0057】
(実施例5)
上述の実施例では、時間調整器60の流路60−1の長さが固定されていた。このため、インキュベーション時間は、流路60−1を細胞が通過する時間で、常に一定となり、使用者の都合で変えることができない。細胞の種類や刺激物質によってこのインキュベーション時間を変えたい場合も多い。基板1の成形時に、これに対応するためには、流路60−1の長さを変えた多種類の金型を用意する必要がある。一方、基板1上でインキュベーション時間を可変にできるようになれば、色々な長さの流路60−1を持つチップを予め用意しておく必要が無いので、製造者にとって好都合であるとともに、使用者にとっても、特異なケースの注文により高価なものを購入する必要がなくなり、ユーザーにとっても利点がある。実施例5ではセルソーターチップの時間調整器60の流路60−1の長さを可変として、任意の時間でインキュベーションを行なえるようにする1例に関する。
【0058】
図14(A)は、実施例5のセルソーターチップの時間調整器60の部分に着目した平面図、(B)は、図14(A)のA−A位置で矢印方向に見た断面図、(C)は、図14(A)のB−B位置で矢印方向に見た断面図である。61は基板、64は流路、60は時間調整器の領域、68はプラスチックシートである。実施例5では、時間調整器の領域60は、流路64と同じ高さのアガロースゲル膜が組み込まれている。60−2,60−3はアガロースゲルを注入するための開口である。アガロースゲルの注入について説明すると以下のようである。終濃度が重量/容量%で1.5%のアガロース粉末を懸濁した0.15MのNaCl、50mMリン酸緩衝液(pH7.4)を沸騰させてアガロースを溶解させる。アガロース溶解液を65℃前後まで冷却し、直ちにアガロース注入口60−2から注入する。このときチップそのもの熱容量があるので、チップも65℃に加熱しておくのがよい。過剰なアガロース溶解液は排出口60−3からオーバーフローさせる。30分間室温に放置するとアガロースがゲル状に凝固する。実施例5のセルソーターチップはアガロースゲル膜を組み込んだだけで製造者から使用者に提供されて、使用者が自由に流路60-1を設定しても良いし、使用者の注文に応じて製造者が流路60-1を設定して、提供することにしても良い。
【0059】
図15はレーザー集束光照射装置を用いて、時間調整器60の領域のアガロースゲル膜にレーザー集束光を照射する方法を説明する概念図である。セルソーターチップの基板61をステージ401にのせて加工する。ステージ401はXY駆動機構402で自在に動かすことができる。レーザー光源403から発せられるレーザー光はダイクロイックミラー404を通過し、レンズ405でセルソーターチップ61の時間調整器60の領域のアガロースゲル膜にフォーカスする。レーザーとしては水に吸収のある1480nmの波長を用いることができる。XY駆動機構402を動かすことで流路を作成することができる。流路作成の進行は光源406からの白色光でチップ基板61を照明し、得られる像をレンズ405から可視光を透過するダイクロイックミラー404を介してCCDカメラ407で検出する。408は制御用のコンピューターで、画像から加工された線幅を算出し、移動速度をXY駆動機構402に伝え、一定の線幅で加工ができるようになっている。また、コンピューター408は、予め記憶した経路に従い加工を行なうようXY駆動機構402の移動と、レーザー403の出力をコントロールする。
【0060】
図16(A)は時間調整器60の領域のアガロースゲル膜にレーザー照射して流路60−1を作成している様子を模式的に示す平面図、(B)は断面図である。レーザーに照射された部分が極所加熱されアガロースゲルを溶融除去する。100は時間調整器60の領域のアガロースゲル膜にフォーカスし、移動しながら流路60−1を作成しているレーザー光を示す。フォーカスしたレーザー光により溶解したアガロースは周辺のアガロースゲル膜の隙間に拡散してしまうので、流路60−1は半恒久的に残る。図16では基板61に形成された流路64から時間調整器60の領域のアガロースゲル膜に流路60−1を作成している過程を示す。
【0061】
図17は、時間調整器60の領域のアガロースゲル膜に流路60−1を完成させたときの一例を示す平面図である。流路60−1は、両端で流路64と連結している。図17の流路60−1の長さと、図4の流路60−1の長さとを比較して明らかなように、図17の流路60−1の長さは短い。このように、アガロースゲル膜をレーザーで加熱して流路を作成すれば、時間調整器60の流路60−1の長さは、任意の長さに作成できるので、使用目的に合わせた最適なインキュベーション時間に調整できる。
【0062】
図18は、時間調整器60の流路の長さ調整の他の例を示す平面図である。図17から分かるように、流路の全長をアガロースゲル膜に使用者が作成するのは、流路が長くなるほど負担が大きくなる。図18では、このため、時間調整器60の領域にあらかじめ、いくつかの長さの異なる流路を基板1の成形時に形成しておき、使用者は、いずれの流路を使用するかの選択に応じたパスだけを形成すれば良いように工夫したものである。60aはアガロースゲル膜の領域であり、これに接するように、長さを異にする流路60−3,60−4,60−5,60−6および60−7が設けられている。これらの流路は基板61にあらかじめ形成されている。また、流路64もアガロースゲル膜の領域60aまで延伸されている。したがって、使用者は、長い流路を使用したければ、アガロースゲル膜の領域60aに60−1a,60−1bのように、選択した流路と流路64とをつなぐ流路のみを形成すればよい。
【0063】
図19は、時間調整器60の流路の長さ調整のさらに他の例を示す平面図である。この例では、時間調整器60の領域に流路64を平行に延伸し、これの間を平行したパス60-8,60-9,60−10および60−11で結ぶとともに、各パスに止め弁65−4,65−5,65−6および65−6を設けたものである。したがって、使用者は、これらの止め弁の一つのみを残して他のすべてを閉とすれば、開のまま残された止め弁に対応する長さの流路長が得られる。
【0064】
図21は、1つの直線状の流路を持つチップ中の流路を流れる細胞を光学的に認識し、不要な細胞を集束光によって不活性化あるいは破壊する細胞精製装置の構成の一例を示す図である。細胞を流す流路が内部に構成されているチップに、チップ内の状態を観察するための透過光光源となる透過照明2101、チップに流れる液を供給する、溶液貯め2104、ポンプ2103が接合され、この供給路にサンプルインジュエクタ2102が配置されることで、サンプル細胞がチップ中で流れるように構成されている。透過照明2101によって照明されたチップ2105中の直線状の流路の一部に流れる細胞を観察する観察・判定領域2107の像が、対物レンズ2107を通過して、ミラー2108および、観察したい波長の光を選択するフィルター2110を通過して、高速カメラ2111の受光素子面に結像する。また、同様に、ミラー2108および、観察したい波長の光を選択するフィルター2110を通過して、フォトン・カウンター2112の光電素子面に結像する構成となっている。他方、細胞の蛍光像を観察するために、特定の冷機波長の蛍光を供給する蛍光光源2113がミラー2108を経由して光路上に配置されており、これによって観察・判定領域2106を通過する細胞の計構造を観察するための蛍光励起光を供給できる校正となっている。、また、さらにミラー2109を経由して、光路上に細胞破壊あるいは細胞死(アポトーシス)を誘導するレーザー集束光を照射するためのレーザー光源2114が配置されており、高速カメラ2111あるいはフォトン・カウンターから得られた細胞情報に基づいて、不要な細胞には集束レーザー光を照射することができる。このとき、レーザー光源としては、細胞破壊を行なう場合は、350nmより短波長の紫外光、細胞死を起こす場合は、細胞を加熱することが可能な、水の吸収がある波長の赤外光、たとえば1480nmの近赤外光を用いることが望ましい。また、レーザー光源2114の集束光については、装置の出光口にレンズを配置することで、チップ上での集束位置、集束光の直径を制御することができる。また、円形レンズに替わって、シリンダー型レンズを用いることで、チップ中の流路の流れに直行する方向に楕円型の形状に集束して、流路全体に効率的に集束光を照射することができる。また、本実施例では、本細胞精製手段を説明するために、細胞識別については、従来の1回の観察のみのものを用いたが、上記、別実施例において記載した、2回以上の観察の結果を比較して、その結果に基づいて細胞にレーザー光を照射することができる。
【0065】
図22は、1つの直線状の流路を持つチップ中の流路を流れる細胞を光学的に認識し、不要な細胞を集束光によって不活性化あるいは破壊する手順を説明する図である。(1)は判定領域に細胞が到達する前、(2)は細胞が判定領域に到達したとき、(3)は細胞の種類、状態の判別、(4a)、(4b)は判断の結果、(5a)は必要な細胞と判断された場合の細胞の通過、(5b)は不要な細胞と判断された場合の細胞の破壊を示す。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の最も基本的な処理工程を表す図である。
【図2】図1に示した基本的な処理工程と比べ、細胞を刺激する工程が加わった処理工程を示す図である。
【図3】識別の対象となる細胞の同定を確実に行なうための工夫を盛り込んだ細胞変化を識別する工程を示す図である。
【図4】本発明のセルソーターチップと、このチップを利用したセルソーターの実施例1の概要を示す平面図である。
【図5】(A),(B)に細胞添加口ハウジングの部分の断面を示す。
【図6】オイル添加口ハウジングの部分の断面を示す図である。
【図7】セルソーターチップの細胞検出領域、インデックス検出領域、細胞識別領域とそれぞれの領域の光学系の関係の概略を示す図である。
【図8】パソコンによる操作の処理に関するフローチャートの概要を示す図である。
【図9】流路に配置された細胞刺激領域に電極を設けた例を示す平面図である。
【図10】光照射で細胞を刺激する場合の照射光学系と細胞刺激領域の構成を示す断面図である。
【図11】図4の細胞検出領域の下流の流路に連結されているインデックス用のオイルが供給される流路に対応する部分を示す図である。
【図12】実施例4のセルソーターチップと、このチップを利用したセルソーターの概要を示す平面図である。
【図13】実施例4の動作を実現する処理フローを示す図である。
【図14】(A)は、実施例5のセルソーターチップの時間調整器の部分に着目した平面図、(B)は、図14(A)のA−A位置で矢印方向に見た断面図、(C)は、図14(A)のB−B位置で矢印方向に見た断面図である。
【図15】レーザー集束光照射装置を用いて、時間調整器の領域のアガロースゲル膜にレーザー集束光を照射する方法を説明する概念図である。
【図16】(A)は時間調整器の領域のアガロースゲル膜にレーザー照射して流路を作成している様子を模式的に示す平面図、(B)は断面図である。
【図17】時間調整器の領域のアガロースゲル膜に流路を完成させたときの一例を示す平面図である。
【図18】時間調整器の流路の長さ調整の他の例を示す平面図である。
【図19】時間調整器60の流路の長さ調整のさらに他の例を示す平面図である。
【図20】(A)、(B)は止め弁の構造を示す図であり、(A)は開。(B)は閉の状態を示す図である。
【図21】1つの直線状の流路を持つチップ中の流路を流れる細胞を光学的に認識し、不要な細胞を集束光によって不活性化あるいは破壊する細胞精製装置の構成の一例を示す図である。
【図22】1つの直線状の流路を持つチップ中の流路を流れる細胞を光学的に認識し、不要な細胞を集束光によって不活性化あるいは破壊する手順を説明する図である。(1)は判定領域に細胞が到達する前、(2)は細胞が判定領域に到達したとき、(3)は細胞の種類、状態の判別、(4a)、(4b)は判断の結果、(5a)は必要な細胞と判断された場合の細胞の通過、(5b)は不要な細胞と判断された場合の細胞の破壊を示す。
【符号の説明】
【0067】
11,13,59−6…光源、12−1,12−2,12−3…フォトダイオード、14−1,14−2…撮像装置、41,41−1,41−2,41−3…細胞、56…細胞検出領域、57−1,57−2…インデックス検出領域、58−1,58−2…細胞識別領域、59…細胞刺激領域、59−2,59−3…電極、59−4,59−5…リード部分、59−7…集束光、60…時間調整器、60a…アガロースゲル膜の領域、60-8,60-9,60−10,60−1…パス、60−2,60−3…アガロースゲルを注入するための開口、61…セルソーターチップ基板、62−1,62−2.62−3,62−4…コネクター、63−1…細胞添加口ハウジング、63−2…オイル添加口ハウジング、63−3…刺激物質溶液添加口ハウジング、60−3,60−4,60−5,60−6,60−7,60−1,60−1a,60−1b,64,64−2,64−3,64−4,64−5,64−6,64−7…流路、止め弁65―1,65−2,65−4,65−5,65−6,65−6…止め弁、66−1,66−2…外部コネクター、67−1…シース液供給路、67−2…オイル供給路、67−3…刺激物質溶液供給路、68…プラスチックシート、100…レーザー光、163…シリンジポンプ、161…ニードル、164…駆動装置、165-1,165−2,165−3,165−4…ポンプ、165-5…リニアポンプ、167…オイル溜め、168…刺激物質溶液溜め、300…パソコン、401…ステージ、402…XY駆動機構、403…レーザー光源、404…ダイクロイックミラー、405…レンズ、406…光源、407…CCDカメラ、408…制御用のコンピューター、2101…透過照明、2102…サンプルインジェクタ、2103…ポンプ、2104…溶液貯め、2105…チップ、2106…観察・判定領域、2107…対物レンズ、2108…ミラー、2109…ミラー、2110…フィルター、2111…高速カメラ、2112…フォトン・カウンター、2113…蛍光光源、2114…アポトーシス用レーザー、2202…細胞、2203…判定領域、2201…流路、2204…レーザー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に形成された細胞を搬送する流路を備え、該流路の上流端に細胞を注入する手段と、前記流路内の細胞を画像信号として検出する第1の細胞識別領域と、該第1の細胞識別領域の下流に形成された時間調整器と、該時間調整器の下流に形成された前記流路内の細胞を画像信号として検出する第2の細胞識別領域と、該第2の細胞識別領域の下流に形成された前記流路内の細胞を二つの流路に選択的に排出する流路と、からなるセルソーターチップ。
【請求項2】
前記第1の細胞識別領域と、前記時間調整器との間の流路に細胞を刺激する機構が付加された請求項1記載のセルソーターチップ。
【請求項3】
基板に形成された細胞を搬送する流路を備え、該流路の上流端に細胞を注入する手段と、該細胞を注入する手段の下流に形成された流路内の細胞を検出する領域と、該細胞を検出する領域の下流に形成された前記検出された細胞を特定するためのインデックス流体を注入する領域と、該インデックス流体を注入する領域の下流に形成された前記インデックス流体を検出する第1のインデックス検出領域と、該インデックス検出領域の下流に形成された前記流路内の細胞を画像信号として検出する第1の細胞識別領域と、該第1の細胞識別領域の下流に形成された時間調整器と、該時間調整器の下流に形成された前記インデックス流体を検出する第2のインデックス検出領域と、該インデックス検出領域の下流に形成された前記流路内の細胞を画像信号として検出する第2の細胞識別領域と、該第2の細胞識別領域の下流に形成された前記流路内の細胞を二つの流路に選択的に排出する流路と、からなるセルソーターチップ。
【請求項4】
前記第1の細胞識別領域と、前記時間調整器との間の流路に細胞を刺激する機構が付加された請求項3記載のセルソーターチップ。
【請求項5】
前記時間調整器が前記流路に連結されたアガロースゲル膜に形成される請求項1ないし4のいずれかに記載のセルソーターチップ。
【請求項6】
前記時間調整器が、前記基板に形成された複数の長さの異なる流路と、前記複数の長さの異なる流路の両端に連結されたアガロースゲル膜と、該アガロースゲル膜に連結された前記第1の細胞識別領域に連通した流路と前記第2のインデックス検出領域に連通した流路と、よりなる請求項1ないし4のいずれかに記載のセルソーターチップ。
【請求項7】
前記時間調整器が、前記第1の細胞識別領域に連通した流路と前記第2のインデックス検出領域に連通した流路のそれぞれを延伸して配列された流路と、前記流路をバイパスする並列に配列された流路と、該並列に配列された流路に設けられた止め弁と、よりなる請求項1ないし4のいずれかに記載のセルソーターチップ。
【請求項8】
基板に形成された細胞を搬送する流路と、該流路の上流端に細胞を注入する手段と、前記流路内の細胞を画像信号として検出する第1の細胞識別領域で前記流路を流下する細胞を撮像する手段と、該第1の細胞識別領域の下流に形成された時間調整器と、該時間調整器の下流に形成された前記流路内の細胞を画像信号として検出する第2の細胞識別領域で前記流路を流下する細胞を撮像する手段と、前記流路を流下する細胞を分類する手段と、前記第1の細胞識別領域で前記流路を流下する細胞を撮像する手段が与える画像信号と前記第2の細胞識別領域で前記流路を流下する細胞を撮像する手段が与える画像信号とを比較して前記細胞を分類する手段に選択の指示を与えるパソコンと、からなるセルソーター。
【請求項9】
前記第1の細胞識別領域と、前記時間調整器との間の流路に細胞を刺激する機構が付加された請求項8記載のセルソーター。
【請求項10】
基板に形成された細胞を搬送する流路と、該流路の上流端に細胞を注入する手段と、該細胞を注入する手段の下流に形成された流路内の細胞を検出する領域で前記流路を流下する細胞の有無を検出する光学装置と、該細胞を検出する領域の下流に形成された前記検出された細胞を特定するためのインデックス流体を注入する領域にインデックス流体を注入する手段と、該インデックス流体を注入する領域の下流に形成された前記インデックス流体を検出する第1のインデックス検出領域で前記流路を流下するインデックス流体の構成を検知する光学装置と、と、該インデックス検出領域の下流に形成された前記流路内の細胞を画像信号として検出する第1の細胞識別領域で前記流路を流下する細胞を撮像する手段と、該第1の細胞識別領域の下流に形成された時間調整器と、該時間調整器の下流に形成された前記インデックス流体を検出する第2のインデックス検出領域で前記流路を流下するインデックス流体の構成を検知する光学装置と、該インデックス検出領域の下流に形成された前記流路内の細胞を画像信号として検出する第2の細胞識別領域で前記流路を流下する細胞を撮像する手段と、該第2の細胞識別領域の下流に形成された前記流路内の細胞を二つの流路に選択的に排出する流路と、前記光学装置から得られる信号を基礎に各種手段を制御し、かつ、前記第1の細胞識別領域で前記流路を流下する細胞を撮像する手段が与える画像信号と前記第2の細胞識別領域で前記流路を流下する細胞を撮像する手段が与える画像信号とを比較して前記細胞を分類する手段に選択の指示を与えるパソコンと、からなるセルソーター。
【請求項11】
前記第1の細胞識別領域と、前記時間調整器との間の流路に細胞を刺激する機構が付加された請求項10記載のセルソーター。
【請求項12】
前記時間調整器が前記流路に連結されたアガロースゲル膜に形成される請求項8ないし11のいずれかに記載のセルソーター。
【請求項13】
前記時間調整器が、前記基板に形成された複数の長さの異なる流路と、前記複数の長さの異なる流路の両端に連結されたアガロースゲル膜と、該アガロースゲル膜に連結された前記第1の細胞識別領域に連通した流路と前記第2のインデックス検出領域に連通した流路と、よりなる請求項8ないし11のいずれかに記載のセルソーター。
【請求項14】
前記時間調整器が、前記第1の細胞識別領域に連通した流路と前記第2のインデックス検出領域に連通した流路のそれぞれを延伸した平行に配列された流路と、該平行に配列された流路をバイパスする並列に配列された流路と、該並列に配列された流路に設けられた止め弁と、よりなる請求項8ないし11のいずれかに記載のセルソーター。
【請求項15】
前記インデックス流体が複数の流体を断続的に配列したものである請求項8ないし11のいずれかに記載のセルソーター。
【請求項16】
基板に形成された細胞を搬送する流路と、該流路の上流端に細胞を注入する手段と、該細胞を注入する手段の下流に形成された流路内の細胞を検出する領域で前記流路を流下する細胞の有無を検出する光学装置と、該細胞を検出する領域の下流に形成された前記検出された細胞を特定するためのインデックス流体を注入する領域に磁性インデックス流体を注入する手段と、該インデックス流体を注入する領域の下流に形成された前記磁性インデックス流体を検出する第1のインデックス検出領域で前記流路を流下する磁性インデックス流体の構成を検知する装置と、該インデックス検出領域の下流に形成された前記流路内の細胞を画像信号として検出する第1の細胞識別領域で前記流路を流下する細胞を撮像する手段と、該第1の細胞識別領域の下流に形成された時間調整器と、該時間調整器の下流に形成された前記磁性インデックス流体を検出する第2のインデックス検出領域と、該インデックス検出領域の下流に形成された前記流路内の細胞を画像信号として検出する第2の細胞識別領域で前記流路を流下する細胞を撮像する手段と、該第2の細胞識別領域の下流に形成された前記流路内の細胞を二つの流路に選択的に排出する流路と、前記第2の細胞識別領域の下流の流路を前記第1のインデックス検出領域の上流の流路に選択的に接続する流路と、前記選択的に接続する流路に沿って前記磁性インデックス流体に移動磁界を付与する手段と、前記光学装置から得られる信号を基礎に各種手段を制御し、かつ、前記第1の細胞識別領域で前記流路を流下する細胞を撮像する手段が与える画像信号と前記第2の細胞識別領域で前記流路を流下する細胞を撮像する手段が与える画像信号とを比較して前記細胞を分類する手段に選択の指示を与えるパソコンと、からなるセルソーター。
【請求項17】
基板に形成された細胞を搬送する流路を備え、該流路の上流端に細胞を注入する手段と、前記流路内の細胞の形状あるいは状態を画像信号として検出する細胞識別領域および検出手段と、該細胞識別領域の下流に形成された前記流路内の細胞に、前期細胞識別の結果に基づいて、不要な細胞のみに細胞を破壊あるいはアポトーシスを誘導する集束光を選択的に照射する光源および光学系からなるセルソーター。
【請求項18】
前記光源の波長として、水の吸収がある近赤外光を用いた請求項17記載のセルソーター。
【請求項19】
前記光源の波長として、細胞を変性させ破壊する機能がある近紫外光を用いた請求項17記載のセルソーター。
【請求項20】
前記光源の光の集束手段として、シリンダー型のレンズを用いて、流路に垂直な方向に直線状に流路全体にまたがるように集束線領域を有する請求項17記載のセルソーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2007−104929(P2007−104929A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−297178(P2005−297178)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(505003986)
【出願人】(505003997)
【出願人】(505004008)
【Fターム(参考)】