説明

セルロース扁平糸及びその製造方法

【課題】 強力に優れ、マルチフィラメントと同様な良好な光沢を有し、更に柔軟な風合い及び外観を有するセルロース扁平糸及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 セルロースマルチフィラメントが一体的に結合されてなり、全体として扁平形状を形成してなることを特徴とするセルロース扁平糸。扁平度が5〜200であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースマルチフィラメントが一体的に結合されて、全体として扁平形状を有するセルロース扁平糸に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、扁平糸は、通常の糸と比べて特殊な外観、風合いを有しており、合成繊維を中心に各種の製法や構造が提案されている。
しかしながら、セルロース繊維は、ポリエステルやナイロン、ポリプロピレン等の熱可塑性合成繊維とは異なり熱可塑性がないので、加熱ローラーを用いた溶融接着によるセルロース扁平糸の製造は困難である。そのため一般的な手段として、接着剤により糸条の接着が行なわれる。
【0003】
例えば特許文献1には、20/1番手の綿糸を並行に横並びに引きそろえ、第1の接着剤としてアクリル糊、第2の接着剤としてコンニャク糊を用い、乾燥及び湿熱処理によって綿糸が横一列に配置され、一体的に結合されてなる扁平糸が開示されている。この方法にしたがって扁平糸を作製したところ、接着剤による硬さが残り、綿糸の風合いが損なわれ、衣料用、インテリア用には満足できるものではなかった。
【0004】
一方、従来から、セルロース繊維で接着剤を使用しないセルロース扁平糸として、ビスコースレーヨンのモノフィラメント扁平糸が知られている。このビスコースレーヨンのモノフィラメント扁平糸は、スリットノズル型の紡糸口より紡糸液を凝固液中に吐出させ、その後、精練、乾燥工程を経てモノフィラメントの扁平糸を得るものである。この方法によって得られる扁平糸は、フィルムが不定形に折りたたまれたような状態で、紐状であり、フィルム感が強く、セルロース繊維特有の柔軟な風合い、外観に欠ける。また、モノフィラメントであることから、マルチフィラメント並の強力が要求される繊維製品分野には不向きである。
【0005】
【特許文献1】特開2002−115142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、強力に優れ、マルチフィラメントと同様な良好な光沢を有し、更に柔軟な風合い及び外観を有するセルロース扁平糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の膨潤状態にあるセルロースマルチフィラメントの糸条を加圧して、一体的に結合させ、糸条全体を扁平化することにより、強力、光沢性及び柔軟性に優れたセルロース扁平糸が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.セルロースマルチフィラメントが一体的に結合されてなり、全体として扁平形状を形成してなることを特徴とするセルロース扁平糸。
2.扁平形状の扁平度が5〜200であることを特徴とする上記1記載のセルロース扁平糸。但し、扁平糸の幅をa、扁平糸の厚みをbとするとき、扁平度はa/bで表される。
【0009】
3.セルロースマルチフィラメントの単糸繊度が0.1〜10.0dtexであることを特徴とする上記1又は2に記載のセルロース扁平糸。
4.セルロースマルチフィラメントが再生セルロースマルチフィラメントであることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載のセルロース扁平糸。
5.セルロースマルチフィラメントが銅アンモニアセルロースマルチフィラメントであることを特徴とする上記1〜4のいずれかに記載のセルロース扁平糸。
【0010】
6.再生セルロースマルチフィラメントからなるセルロース扁平糸を製造するに際し、紡糸工程、精練工程、水洗工程を経た後に、水分率を70〜2000wt%とし、その後、ニップロールにより、線圧が4.9〜490N/cmの範囲で加圧し、乾燥、巻き取ることを特徴とするセルロース扁平糸の製造方法。
7.再生セルロースマルチフィラメントが銅アンモニアセルロースマルチフィラメントであることを特徴とする上記6に記載のセルロース扁平糸の製造方法。
【0011】
以下、本発明につき詳述する。
本発明のセルロース扁平糸は、セルロースマルチフィラメントが一体的に結合されて、全体として扁平形状を有するものである。
【0012】
本発明において、セルロースフィラメントとは、銅アンモニアレーヨン、ビスコースレーヨンなどの再生セルロース繊維、テンセル(登録商標)、リヨセル(登録商標)などの溶剤紡糸セルロース繊維などが挙げられ、好ましくはこれらの長繊維をいう。セルロースフィラメントの素材としては、再生セルロース繊維が好ましく、なかでも、紡糸の安定性、繊維の膨潤特性の観点から、銅アンモニアレーヨンがさらに好ましい。
【0013】
セルロースフィラメントは、マルチフィラメントであり、単糸の本数は特に限定されないが、扁平形状を維持する観点より、30〜20000本の範囲が好ましく、更に好ましくは500〜6000本の範囲である。
【0014】
セルロースマルチフィラメントを一体的に結合させる方法としては、セルロース繊維自身が持つ自己接着性を利用する方法、または接着剤による接着方法などが挙げられ、いずれを用いてもよい。ただし、接着剤による糸条の接着では、接着剤の硬さが残り、布帛にした時の風合いを損なう場合があることから、接着剤の種類の選定並びに付与量のコントロールが重要である。このような理由から、より柔軟な風合いを得るためには、セルロース繊維の持つ自己接着性を利用して一体的に結合させることが好ましい。
【0015】
ここで言う自己接着とは、セルロース繊維の単糸間に生じる単糸表面間の接着のことであり、水で膨潤したセルロース繊維を乾燥することによって生じる単糸間の水素結合及び、再生セルロースフィラメント表面に形成された微小な産毛の乾燥収縮による絡まりによって、単糸が接着することを言う。このような接着現象は、単糸間の距離が近いほど強力であり、例えば、乾燥前において、膨潤度の大きな状態で単糸間を加圧して密着させておき、その状態で乾燥すると、強力な自己接着が生じることになる。
【0016】
これら自己接着は、いずれもセルロースが水を含んだ状態から乾燥する過程で生じることから、乾燥前のセルロースの水分率は50〜500wt%が好ましく、更に好ましくは80〜300wt%である。水分率が上記の範囲であると、乾燥によるセルロースの自己接着力が十分に得られ、また、扁平化した糸の形態保持が良好で、製造するうえで乾燥に要するコストも少ない。
【0017】
本発明においては、扁平糸の扁平度は、5〜200が好ましく、更に好ましくは20〜100であり、特に好ましくは40〜80の範囲である。扁平度が上記の範囲であると、糸の扁平感に優れ、糸幅方向の表面に隙間がなく、一体感に優れた扁平糸が得られる。なお、扁平度は、扁平糸の幅をa、扁平糸の厚みをbとしたとき、a/bで表される。
【0018】
本発明の扁平糸を構成するセルロースマルチフィラメントの単糸繊度は、0.1〜10dtexが好ましく、更に好ましくは0.3〜7.0dtexである。単糸繊度が上記の範囲であると、紡糸から精練時に毛羽の発生が少なく、毛羽の少ない扁平糸が得られ、また、フィラメントの強度が高く、風合が良好である。
【0019】
本発明の扁平糸を構成するセルロースマルチフィラメントの繊度は、50〜20000dtexが好ましく、更に好ましくは200〜12000dtexであり、特に好ましくは1000〜5000dtexの範囲である。繊度が上記の範囲であると、フィラメント数が適度であるため扁平化後の糸幅方向の表面に隙間が無く、自己接着による一体感に優れ、また、加圧ロールによるプレス処理を施した場合に、均一な糸の厚み、幅を得ることが容易であり、むらの少ない扁平糸が得られる。
【0020】
本発明のセルロース扁平糸は、用途によって、光沢を必要とする分野と光沢を必要としない分野があることから、光沢をあまり必要としない用途分野には、糸中に艶消し剤を用いることが好ましい。艶消し剤としては、セルロースに安定に、分散性よく添加できるものであれば特に限定されるものではない。たとえば、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムなどを挙げることができる。セルロース中への分散性の観点からは、酸化チタン、酸化珪素、酸化亜鉛が好ましく、より好ましくは酸化チタンである。
【0021】
扁平糸中の艶消し剤の含量率は0.1〜7.0wt%が好ましい。艶消し剤含量率が上記の範囲であると、艶消し剤の効果が有効に発揮され、フィラメントの強度に対して悪影響がなく、紡糸から精練時に毛羽の発生が少ない。また、艶消し剤が均一に扁平糸中に分散するので、染色むら等が生じない。
【0022】
次に、本発明のセルロース扁平糸の製造方法の一例として、再生セルロースマルチフィラメントからなる扁平糸の製造方法について説明する。
本発明において、再生セルロースマルチフィラメントからなる扁平糸は、紡糸工程、精練工程、水洗工程、一体化工程(例えば加圧工程)、乾燥工程及び巻き取り工程を経て得られる。
【0023】
水洗工程を経た再生セルロースマルチフィラメント糸は、水分率70〜2000wt%の状態で、上下のニップロールにより加圧処理を施す。水分率を上記の範囲にコントロールするために、水切りバー、あるいは水分付与槽を別途設置して、水洗工程を経た糸を処理することが好ましい。水分率が70wt%未満では、ニップロールによる加圧処理を施してもフィラメントの均一な再配列が起こりにくく、扁平後の糸は幅方向に厚み斑が多くなり、2000wt%を超えると、糸間に隙間が発生し易くなり好ましくない。
【0024】
乾燥工程を終えた乾燥糸を水分付与槽に通し、水分率70〜2000wt%に調整した後、ニップロールによる加圧処理を施しても良いが、一度乾燥した糸は、乾燥しない糸に比べ、水膨潤度が小さくなることから、前述した繊維自身の自己接着力が落ちる。したがって、乾燥工程の以前に、水分率を上記の範囲に調整して、ニップロールによる加圧処理を施すほうが好ましい。
【0025】
本発明の製造方法において、ニップロールによる加圧処理は、一対以上のロールを備えた加圧設備によって施すことができ、その線圧は4.9〜490N/cmである。線圧が4.9N/cm未満では、繊維自身の自己接着力が落ち、扁平度が小さくなり、490N/cmを超えると、糸へのダメージが大きくなり、強力の低下を起こし好ましくない。
【0026】
ロールの材質については、再生セルロースマルチフィラメントを安定に扁平化できるものであれば特に限定されるものではない。たとえば、金属ロール、合成樹脂ロール、ゴムロールを挙げることができ、一対のロール構成はこれらの組み合わせでも良い。再生セルロースマルチフィラメントを、安定かつ均一に処理するという観点からは、金属ロール、合成樹脂ロールが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明のセルロース扁平糸は、セルロースマルチフィラメントが扁平形状に一体的に結合したものであり、マルチフィラメントの特徴が生かされており、マルチフィラメントの特徴である優れた強力及び光沢を有し、セルロースの持つ良好な風合いを有している。
この様な優れた特徴を生かして、衣料、壁装材、手芸糸、インテリア等、繊維製品分野への巾広い用途展開が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明する。
なお、物性の測定及び評価は下記の方法で行った。
【0029】
(1)強力及び伸度
試料を20℃で65%RHにて24時間調湿した後、東洋測定機器社製のテンシロンUTM−4Lを用い、試料長100mm、ヘッドスピード300mm/分にて、n=5を測定し、その平均値を求め物性値とした。
【0030】
(2)糸幅
試料を20℃で65%RHにて24時間調湿した後、ステンレス製の物差しで、糸長方向10cmおきに10点の糸幅を測定し、その平均値を求め物性値とした。
【0031】
(3)糸厚み
試料を20℃で65%RHにて24時間調湿した後、ミツトヨ製のデジマチック標準外側マイクロメータMDC−25Mで、糸長方向10cmおきに10点の糸厚みを測定し、その平均値を求め物性値とした。
【0032】
(4)押し曲げ柔軟度
試料を20℃で65%RHにて24時間調湿した後、東洋ボールドウィン社製の自動平衡型指示計にて、糸を長さ方向に押し曲げる時に生じる最大応力を測定した。押し曲げ柔軟度の表示は、デシテックスあたりの押し曲げ最大応力(cN/dtex)で示し、試料長は30mm、測定回数は10回とし、その平均値を求め物性値とした。数値が小さい程、柔軟であると云える。
【0033】
(5)水分率
1〜3gの試料を3点採取し、その質量と絶乾質量を測定し、次の式により、水分率を算出し、その平均値を求め物性値とした。
水分率(wt%)=〔(A−B)/B〕×100
なお、Aは試料の質量(g)、Bは試料の絶乾質量(g)を表す。
【0034】
(6)光沢度
糸管に巻き取った扁平糸を目視で観察し、光沢度を感応評価した。評価の基準は下記の通りである。
○:光沢が優れている。
△:光沢がやや劣る。
×:光沢がほとんどない。
【0035】
〔実施例1〜3〕
公知の方法によって得られた銅アンモニアレーヨン原液(質量比で、セルロース10.0%、アンモニア7.0%、銅3.6%)を、紡糸ノズルとしてそれぞれ、φ6.0×2430Holls(実施例1),φ6.0×1212Holls(実施例2),φ6.0×600Holls(実施例3)の吐出孔を有する3種類の紡口より、34℃の温水中に吐出した。
【0036】
流下緊張紡糸法により、延伸並びに脱アンモニアして凝固せしめて青糸とし、この青糸を変向し、硫酸浴(70℃、1.7wt%濃度)にて再生を行い、50℃の温水でネルソンロールにより水洗を行い、未乾燥のまま、巻き取り機にてプラスチック製ボビンに巻き取った。その時の水分率は、各々、208wt%(実施例1)、187wt%(実施例2)、162wt%(実施例3)であった。
【0037】
巻き取った未乾燥糸を、各々、ボビンごとフリーロールに装着せしめ、材質SUS304、φ150、長さ150mmの上下ロール間に糸を通し、ロール速度100m/分、ロール線圧294N/cmの条件にて、糸を加圧、扁平化させた。次いで連続的に、147℃、φ500のネルソン式シリンダー乾燥機にて20ラップし、乾燥を完了させ、ワインダーにて巻き取り、各々、実施例1、実施例2、実施例3の扁平糸を得た。
【0038】
実施例1〜3で得られた扁平糸の物性を評価した結果を表1及び表2に示す。
また、実施例3で得られた扁平糸の断面を、図1及び図2に示す。
【0039】
〔比較例1〕
市販品であるビスコースレーヨンのモノフィラメント扁平糸「ラフィット2000」(旭化成株式会社製)の物性を評価した結果を表1及び表2に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
表1、2及び図1、2からわかるように、本発明のセルロース扁平糸は、セルロースマルチフィラメントの表面同士が自己接着して扁平形状になっており、マルチフィラメントの特徴である優れた乾強度及び乾伸度を有すると共に、光沢性に優れ、押し曲げ柔軟度で示される柔軟性も良好であり、セルロースの持つ良好な風合いを有する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明のセルロース扁平糸の一例について、その断面の顕微鏡写真である。
【図2】図1の一部をさらに拡大した顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースマルチフィラメントが一体的に結合されてなり、全体として扁平形状を形成してなることを特徴とするセルロース扁平糸。
【請求項2】
扁平形状の扁平度が5〜200であることを特徴とする請求項1記載のセルロース扁平糸。但し、扁平糸の幅をa、扁平糸の厚みをbとするとき、扁平度はa/bで表される。
【請求項3】
セルロースマルチフィラメントの単糸繊度が0.1〜10.0dtexであることを特徴とする請求項1又は2に記載のセルロース扁平糸。
【請求項4】
セルロースマルチフィラメントが再生セルロースマルチフィラメントであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のセルロース扁平糸。
【請求項5】
セルロースマルチフィラメントが銅アンモニアセルロースマルチフィラメントであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のセルロース扁平糸。
【請求項6】
再生セルロースマルチフィラメントからなるセルロース扁平糸を製造するに際し、紡糸工程、精練工程、水洗工程を経た後に、水分率を70〜2000wt%とし、その後、ニップロールにより、線圧が4.9〜490N/cmの範囲で加圧し、乾燥、巻き取ることを特徴とするセルロース扁平糸の製造方法。
【請求項7】
再生セルロースマルチフィラメントが銅アンモニアセルロースマルチフィラメントであることを特徴とする請求項6に記載のセルロース扁平糸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−45710(P2006−45710A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−227078(P2004−227078)
【出願日】平成16年8月3日(2004.8.3)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】