説明

セルロース系ポリマーの保管方法

【課題】 本発明は、製造直後のセルロース系ポリマーの水溶液の粘度と比較して、製造から数週間保管したセルロース系ポリマーの水溶液の粘度が大きく低下してしまう問題を解決するための方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 酸素濃度0.3%以下の雰囲気下で、セルロース系ポリマーを保管することを特徴とするセルロース系ポリマーの保管方法とすることが重要であることを見出し、本発明を完成するに至った。更に窒素置換することにより、セルロース系ポリマーの保管時の凝集を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセルロース系ポリマーの保管方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース由来のポリマーはその安全性の高さから、医療、食品などの様々な分野に利用されている。例えば、カルボキシメチルセルロースはアイスクリームなどの食品の増粘剤や乳化安定剤に使用されているとともに、歯磨剤、下剤、ダイエット用錠剤、水性インク、界面活性剤、紙製品などの非食品製品にも使用されている。
【0003】
従来から、セルロース系ポリマーは粉末状態で保管されることが一般的である。しかしながら、長期間保管したセルロース系ポリマーの溶液の粘度は、保管前のセルロース系ポリマーの溶液の粘度と比較して、大きく低下してしまい、粘度調整剤としての役割を果たせなくなってしまうという問題があった。これに対しては、セルロース系ポリマー水溶液に多価アルコールを添加する方法(特許文献1)やセルロース系ポリマーにエタノール及びエデト酸塩を配合する方法(特許文献2)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−71478号公報
【特許文献2】特開昭61−186306公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術は、セルロース系ポリマーの水溶液の粘度低下を防止する方法であり、粉末状態のセルロース系ポリマーの品質の変化を防止するものではなかった。このため、製造直後のセルロース系ポリマーの水溶液の粘度と比較して、製造から数週間保管したセルロース系ポリマーの水溶液の粘度が大きく低下してしまう問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記のような従来技術の問題を解決するためのものであり、製造直後のセルロース系ポリマーの水溶液の粘度と比較して、製造から数週間保管したセルロース系ポリマーの水溶液の粘度が大きく低下してしまう問題を解決するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、酸素濃度0.3%以下の雰囲気下で、セルロース系ポリマーを保管することを特徴とするセルロース系ポリマーの保管方法とすることが重要であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、製造直後のセルロース系ポリマーの水溶液の粘度と比較して、製造から数週間保管したセルロース系ポリマーの水溶液の粘度が大きく低下してしまうことを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において、セルロース系ポリマーとはセルロース由来の化合物であれば特に限定されるものではないがヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられ、特にカルボキシメチルセルロースにおいて水溶液の粘度低下を防止することができる。
【0010】
本発明において、セルロース系ポリマーを酸素濃度0.3%以下、より好ましくは酸素濃度0.2%の雰囲気下で保管することが必要である。なお、酸素濃度は、残存酸素計(飯島電子工業株式会社)を用いて測定した。
【0011】
本発明において、セルロース系ポリマーを保管する雰囲気の酸素濃度を0.3%以下にする方法は特に限定されものではないが、例えば、ガスバリアー性を有する包装袋にセルロース系ポリマーを入れ、1)包装袋内を真空にする方法、2)包装袋内を窒素置換する方法、3)包装袋内を真空にした後、窒素置換する方法、4)包装袋内に酸素吸収剤を同封する方法等が挙げられる。
これらの方法の中では、包装袋内を真空にした後、窒素置換する方法が好ましい。この方法を用いることで、カルボキシメチルセルロースが凝集することを防止することができる。
【0012】
本発明において包装袋は、アルミ包材、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などにより、ガスバリアー性を付与した包装袋を使用することが好ましく、特に、酸素バリア性に優れるエチレン−ビニルアルコール共重合体によりガスバリアー性を付与した包装袋を使用することが好ましい。
【0013】
次に、本発明の効果を実施例で詳細に説明する。
【実施例】
【0014】
[実施例1]
カルボキシメチルセルロースを入れたエチレン―ビニルアルコール共重合体ラミネート加工を施した包装袋を、真空脱気した後、窒素ガスを注入し、包装袋内の酸素濃度0.16%に調整した。このカルボキシメチルセルロースを入れた包装袋は60℃の乾燥機中に保管した。
[実施例2]
包装袋内に窒素を注入しなかった以外は、実施例1と同様にしてカルボキシメチルセルロースを保管した。このカルボキシメチルセルロースを包装袋から取り出した際、カルボキシメチルセルロースが凝集し、塊となっていた。なお、実施例1のカルボキシメチルセルロースではこのような現象は見られなかった。
[比較例1]
包装袋内の酸素濃度を0.70%に調整した以外は、実施例1と同様にしてカルボキシメチルセルロースを保管した。
[比較例2]
包装袋内の酸素濃度を0.36%に調整した以外は、実施例1と同様にしてカルボキシメチルセルロースを保管した。
[比較例3]
包装袋内の酸素濃度を21%に調整した以外は、実施例1と同様にしてカルボキシメチルセルロースを保管した。
【0015】
実施例1、比較例1〜3のカルボキシメチルセルロースの保管前、及び保管後6、15、27日後の1%水溶液粘度を測定した。
【0016】
[1%水溶液粘度の測定法]
<水分>
試料1〜2gを秤量瓶にはかりとり、105℃の乾燥機中において3時間乾燥し、デシケーター中に冷却した後、蓋をして重さをはかり、その減量から次式(1)により水分を算出する。
水分(%)=(減量(g)/試料(g))×100・・・(1)
<水溶液の調整>
試料約10gを上皿天秤で採取する。その試料を純水880ml入りのビーカーに溶解用攪拌機を使用し、攪拌しながら徐々に試料を投入して3時間攪拌する。水分値から計算した純水を濃度が1%になるように補正する。
<粘度測定>
3時間攪拌後(完全溶解確認)、溶液の温度を25±0.2℃に調整する。B型粘度計を用い、粘度を測定する。測定値はローターを始動してから3分後の目盛りを読み取る。
[粘度変化率]
経過日数0日(包装前)のセルロース系ポリマーの1%水溶液粘度(粘度1)に対する、包装後60℃で保管(6、15、27日)したセルロース系ポリマーの1%水溶液粘度(粘度2)粘度の変化率は次式(2)により算出する。
〔(粘度2−粘度1)/粘度1〕×100 (%)・・・(2)
【0017】
[結果及び考察]
結果を表1に示す。残酸素濃度を低くすることで、粘度低下を−10%程度までに抑えることができた。
【0018】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素濃度0.3%以下の雰囲気下で、セルロース系ポリマーを保管することを特徴とするセルロース系ポリマーの保管方法。
【請求項2】
前記セルロース系ポリマーがカルボキシメチルセルロースであることを特徴とする請求項1に記載のセルロース系ポリマーの保管方法。

【公開番号】特開2012−121957(P2012−121957A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272424(P2010−272424)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(502368059)日本製紙ケミカル株式会社 (86)
【Fターム(参考)】