説明

センサ保護チューブ

【課題】薬液等の汚染を防止することが可能であると共に、可撓性を有し、薬液の透過を長期間に亘って抑制することが可能なセンサ保護チューブを提供すること。
【解決手段】本発明のセンサ保護チューブ1は、内外層の2層構造に形成されており、外層11は少なくとも純粋性を有するフッ素樹脂でなり、内層12は少なくともバリア性を有するフッ素樹脂でなる。これによれば、清浄度の高い環境において薬液槽内に貯留されている薬液をセンシングするために、センサ部2を内挿したセンサ保護チューブを薬液に浸漬しても、外層が純粋性フッ素樹脂で形成されているので薬液等の汚染を防止して、環境の清浄度を高水準の状態に維持することができる。また、センサ保護チューブを薬液に長期間浸漬しても、内層がバリア性フッ素樹脂で形成されているので薬液の透過を抑制して、内挿されているセンサを薬液から保護することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ保護チューブに関し、特に清浄度の高い環境において薬液に浸漬されてセンシングするセンサを保護するチューブに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、デジタル表示やアナログ表示の温度計とサーミスタ等の温度センサとをケーブルにより接続することで、温度計を設置できない箇所の温度測定が可能となるセンサケーブルが開示されている。このセンサケーブルは、フッ素樹脂でなるケーブル被覆がケーブル先端に取り付けられたセンサ全体を覆うように延ばされた構成となっており、ケーブル被覆の延長部分がセンサを保護するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−94651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、清浄度の高い環境としては、例えば半導体製造工程がある。この半導体製造工程には、ウエハを薬液槽内に貯留された塩酸、フッ酸、硝酸等の薬液に浸漬して洗浄する工程がある。この洗浄工程においては、塩酸、フッ酸、硝酸等を混合したときの薬液温度の急激な上昇を防止するため、測温することが求められ、そのためにケーブルで接続された温度計と温度センサとが必要になる。即ち、温度計は薬液槽外に設置して薬液による腐食等から保護し、センサケーブルの端部のみを薬液槽内の薬液に浸漬する。そして、薬液温度を測定しながら塩酸、フッ酸、硝酸等を徐々に混合していくことにより、薬液温度の急激な上昇を防止することができる。
【0005】
この洗浄工程において使用可能なケーブル被覆の材料としては、耐薬品性、耐熱性等を有する材料であることは勿論のこと、特に薬液及びウエハの汚染防止のために純粋性を有する材料であることが必要であり、例えばテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(以下、単にPFAとする)の半導体用フッ素樹脂が使用可能である。ところが、ケーブル被覆をPFAにより形成して塩酸、フッ酸、硝酸等の薬液に浸漬したところ、薬液に対するバリア性が充分ではないフッ素樹脂であるため、浸漬状態が長期間に亘るとケーブル被覆壁からの薬液の透過量が急激に増加して温度センサやケーブルを腐食等させるおそれがあることが本発明者の実験により判明した。
【0006】
また、上記したフッ素樹脂を用いたケーブル被覆材料の問題点を回避すべく、石英ガラス管を用いることもできるが、石英ガラス管を用いた場合には、薬液の透過性は良好に防止できるものの、センサケーブルに可撓性を与えることができず、センサケーブルの配設上に難点があると共に重量も重くなり、さらに使用中あるいは交換時に石英ガラスであるがために割れ易いという問題点がある。
【0007】
本発明は、上記のような課題に鑑みなされたものであり、その目的は、薬液等の汚染を防止することが可能であると共に、可撓性を有し、薬液の透過を長期間に亘って抑制することが可能なセンサ保護チューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的達成のため、本発明のセンサ保護チューブでは、センサ部を内挿して保護するセンサ保護チューブにおいて、内外層の2層構造に形成されており、外層は少なくとも純粋性を有するフッ素樹脂(以下、純粋性フッ素樹脂という)でなり、内層は少なくともバリア性を有するフッ素樹脂(以下、バリア性フッ素樹脂という)でなることを特徴としている。このセンサ保護チューブによれば、清浄度の高い環境において薬液槽内に貯留されている薬液をセンシングするために、センサ部を内挿したセンサ保護チューブを薬液に浸漬しても、外層が純粋性フッ素樹脂で形成されているので薬液等の汚染を防止して、環境の清浄度を高水準の状態に維持することができる。また、センサ保護チューブを薬液に長期間浸漬しても、内層がバリア性フッ素樹脂で形成されているので薬液の透過を抑制して、内挿されているセンサを薬液から保護することができる。
【0009】
また、内層の肉厚は、外層の肉厚と比較して同一もしくは厚くなるように形成されていることを特徴としている。一般的に、バリア性フッ素樹脂は純粋性フッ素樹脂よりも硬度が高いため、バリア性フッ素樹脂の肉厚を純粋性フッ素樹脂の肉厚よりも薄く形成することにより、チューブの可撓性を確保して配管の容易性を得る必要がある。しかし、本発明のセンサ保護チューブはケーブル状のセンサ部をセンサ保護チューブの内周面にできる限り近付けて内挿可能となるように細径で形成されているので、バリア性フッ素樹脂の肉厚を純粋性フッ素樹脂の肉厚と同一もしくは厚く形成してもチューブの可撓性を確保して配管の容易性を得ることができる。そして、バリア性フッ素樹脂の肉厚が純粋性フッ素樹脂の肉厚と同一もしくは厚く形成されているので、更に長期間に亘って薬液に浸漬しても薬液の透過を抑制して内挿されているセンサを薬液から保護することができる。
【0010】
また、センサ側のチューブ端は、バリア性フッ素樹脂でなる封止部材で封止されていることを特徴としている。このセンサ保護チューブによれば、センサ側のチューブ端の封止部材が内層と同一のバリア性フッ素樹脂で形成されているため、封止部材と内層との間を変形させずに完全に溶着することができる。よって、センサ側のチューブ端を確実に封止することができ、長期間に亘って薬液に浸漬してもセンサ側のチューブ端からの薬液の浸入を防止して内挿されているセンサを薬液から保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係るセンサ保護チューブを示す斜視図である。
【図2】(A)〜(D)は、センサを内挿したセンサ保護チューブの製造工程を示す図である。
【図3】実施例及び比較例のセンサ保護チューブの酸の透過性を評価する装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に説明する実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の成立に必須であるとは限らない。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係るセンサ保護チューブを示す斜視図である。このセンサ保護チューブ1は、外層11及び内層12の2層構造に形成されており、ケーブル2bの一端側に、例えば温度センサや光センサ2a等が接続されて形成されたセンサ部2を内挿して保護する。このセンサ部2としては、例えば銅・コンスタンタンや白金・白金ロジウム合金の熱電対、サーミスタや光電変換素子などのセンサにケーブルを接続して形成することができる。外層11は、半導体用途に用いられるフッ素樹脂(以下、純粋性フッ素樹脂という)、例えば三井・デュポンフロロケミカル社製のテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(以下、単にPFAとする)であるPFA451HPJ、あるいはダイキン工業社製のPFAであるAP2315Hで形成されている。内層12は、薬液などの液体に対するバリア性を有するフッ素樹脂(以下、バリア性フッ素樹脂という)、例えば変性PFAで形成されている。この変性PFAとしては、PFAにビニルフルライドが結合したPFA、PFAにビニリデンフルライドが結合したPFA、PFAにクロロトリフルオロエチレンが結合したPFAがあるが、特にクロロトリフルオロエチレンが結合したPFAが好ましい(例えば、ダイキン工業社製のPFA樹脂:LP1030が好ましい)。内層12の肉厚と外層11の肉厚との%比は、内層12が50%以上であって外層11が50%以下となるように形成されている。そして、センサ部2のセンサ2aが近接する側のセンサ保護チューブ1の一端1aは、変性PFAでなる封止栓13により封止されている。
【0014】
このような構成によれば、例えば半導体製造工程においてウエハを洗浄する薬液槽内に貯留されている塩酸、フッ酸、硝酸等の薬液の薬液温度を測定するために、温度センサ2aを有するセンサ部2を内挿したセンサ保護チューブ1を薬液に浸漬しても、外層11が純粋性フッ素樹脂で形成されているので薬液及びウエハ等の汚染を防止して、半導体製造工程における清浄度を高水準の状態に維持することができる。また、温度センサ2aを有するセンサ部2を内挿したセンサ保護チューブ1を上記薬液に長期間浸漬しても、内層12がバリア性フッ素樹脂で形成されているので薬液の透過を抑制して、内挿されている温度センサ2を上記薬液から保護することができる。
【0015】
また、一般的に、バリア性フッ素樹脂は純粋性フッ素樹脂よりも硬度が高いため、バリア性フッ素樹脂の肉厚を純粋性フッ素樹脂の肉厚よりも薄く形成することにより、チューブの可撓性を確保して配管の容易性を得る必要がある。しかし、センサ保護チューブ1はケーブル状のセンサ部2をセンサ保護チューブ1の内周面にできる限り近付けて内挿可能となるように細径で形成されるので、バリア性フッ素樹脂の肉厚を純粋性フッ素樹脂の肉厚と同一もしくは厚く形成してもセンサ保護チューブ1の可撓性を確保して配管の容易性を得ることができる。そして、バリア性フッ素樹脂の肉厚が純粋性フッ素樹脂の肉厚と同一もしくは厚く形成されているので、更に長期間に亘って薬液に浸漬しても薬液の透過を防止して内挿されているセンサ2を薬液から保護することができる。
【0016】
図2(A)〜(D)は、センサ部2を内挿したセンサ保護チューブ1の製造工程を示す図である。先ず、図2(A)に示すような、外層11がPFAの純粋性フッ素樹脂でなり、内層12が変性PFAのバリア性フッ素樹脂でなる2層構造のチューブ体1Aを共押出し成形する。次に、図2(B)に示すような、チューブ体1Aの内径と略同一の外径を有する変性PFAのバリア性フッ素樹脂でなる円柱状の封止栓13を押出し成形する。そして、図2(C)に示すように、封止栓13をチューブ体1Aの一端1aから内周部へ挿入し、チューブ体1Aの一端1aの外周部を加圧しつつ加熱して封止栓13の外周をチューブ体1Aの内周に溶着してセンサ保護チューブ1とする。そして、図2(D)に示すように、センサ保護チューブ1の他端側からセンサ部2を挿入してセンサ2aがセンサ保護チューブ1の一端1aに溶着された封止栓13の近傍に達するまで差し込む。以上により、センサ部2を内挿したセンサ保護チューブ1が完成する。
【0017】
ここで、チューブ体1Aの内層12と封止栓13との材料が同一の場合と異なる場合の溶着状態及び0.5MPaでの気密性を評価した。先ず、外層11が純粋性フッ素樹脂のPFA、内層12がクロロトリフルオロエチレンが結合したバリア性フッ素樹脂の変性PFAでなる外径4mm、内径2mmの2層構造(内外層の比は50:50)のチューブ体1Aを作製した。次に、クロロトリフルオロエチレンが結合した変性PFAにより外径が2mmの封止栓13を作製し、溶着温度275°C、溶着時間2minでチューブ体1Aの一端1aに溶着した。一方、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(以下、単にFEPとする)により外径が2mmの封止栓13を作製し、溶着温度285°C、溶着時間2minでチューブ体1Aの一端1aに溶着し、また、溶着温度300°C、溶着時間2minでチューブ体1Aの一端1aに溶着した。
【0018】
内層12と同一材料の変性PFAからなる封止栓13の溶着状況は、内層12と一体となって良好であり、気密性も漏れが無く良好であった。一方、内層12と異なる材料であってFEPからなる溶着温度285°Cの低温溶着の封止栓13の溶着状況は、チューブ体1Aの一端1aから抜け落ちて不良となり、気密性は測定不能であった。内層12と異なる材料であってFEPからなる溶着温度300°Cの高温溶着の封止栓13の溶着状況は、内層12との境界が視認できて完全に一体となっていないが略良好であり、気密性も漏れが無く良好であった。ただし、溶着温度が高いために内層12の軟化が著しく、内層12の形状維持が困難であった。
【0019】
以上から、封止栓13の材料としては内層12の材料と同一のバリア性フッ素樹脂で形成することが好ましく、これにより、内層12を変形させず封止栓13と内層12との間を完全に溶着することができる。よって、センサ保護チューブ1の一端1aを確実に封止することができ、長期間に亘って薬液に浸漬してもセンサ保護チューブ1の一端1aからの薬液の浸入を防止して内挿されているセンサ部2を薬液から保護することができる。
【0020】
次に、実施例として外層11が純粋性フッ素樹脂のPFA、内層12及び封止栓13がクロロトリフルオロエチレンが結合した変性PFAでなる外径が4mm、内径が2mmの2層構造(内外層の比は50:50)のセンサ保護チューブ1を作製した。比較例として純粋性フッ素樹脂のPFAでなる外径が4mm、内径が2mmの1層構造のセンサ保護チューブ21を作製した。そして、図3に示すように、両センサ保護チューブ1,21内に純水3を注入し、両センサ保護チューブ1,21をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)でなる薬液槽4内に貯留された塩酸5に浸漬して両センサ保護チューブ1,21から純水3に透過する塩素イオン濃度を測定して塩酸5の透過性を評価した。
【0021】
実施例のセンサ保護チューブ1の場合、塩素イオン濃度は日数が経過するにつれて徐々に増加するが、その増加割合は微小であって次第に飽和する傾向にあった。一方、比較例のセンサ保護チューブ21の場合、塩素イオン濃度は日数が経過するにつれて実施例のセンサ保護チューブの増加割合よりも大きく増加し、ある日数を経過すると急激に増加した。以上から、外層が純粋性フッ素樹脂のPFA、内層及び封止栓がクロロトリフルオロエチレンが結合した変性PFAでなる2層構造のセンサ保護チューブ1が薬液に長期間浸漬しても、内挿されているセンサ部2を薬液から保護することができて有効であることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明のセンサ保護チューブは、清浄度の高い環境において薬液に浸漬される部材であればセンサに限定されることはなく、該部材を内挿して保護する場合に有効である。
【符号の説明】
【0023】
1,21 センサ保護チューブ、2 センサ部、2a センサ、2b ケーブル、3 純水、4 薬液槽、5 塩酸、11 外層、12 内層、13 封止栓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサ部を内挿して保護するセンサ保護チューブにおいて、
内外層の2層構造に形成されており、外層は少なくとも純粋性を有するフッ素樹脂でなり、内層は少なくともバリア性を有するフッ素樹脂でなることを特徴とするセンサ保護チューブ。
【請求項2】
前記内層の肉厚は、前記外層の肉厚と比較して同一もしくは厚くなるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載のセンサ保護チューブ。
【請求項3】
前記センサ側のチューブ端は、前記バリア性を有するフッ素樹脂でなる封止部材で封止されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のセンサ保護チューブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−276506(P2010−276506A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130097(P2009−130097)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000145530)株式会社潤工社 (71)