説明

センサ

【課題】形成に煩雑な手間がかかることを防止し、感度および検出精度を向上させる。
【解決手段】球形状の基体21と、該基体21の表面を周回する弾性表面波を励起するとともに、表面を周回した弾性表面波を受信して、受信結果の信号を出力する櫛形電極22とを備える弾性表面波素子11と、櫛形電極22から出力された信号に基づいて弾性表面波の伝搬特性を検出する伝搬特性検出部14と、伝搬特性検出部14により検出された伝搬特性に応じて温度を検出する状態量検出部15とを備え、基体21は中空部23を備え、該中空部23の表面は、基体21とは異なる熱膨張係数の被覆層24により被覆されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば球形状基体の表面に励起されて、この表面を周回する弾性表面波の経路上に感応膜を備え、雰囲気の湿度や温度に応じた感応膜の変化に伴う弾性表面波の伝搬特性の変化に基づき、雰囲気の湿度や温度を検出するセンサが知られている。(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−240297号公報
【特許文献2】特開2008−116404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来技術に係るセンサによれば、球形状基体の表面の弾性表面波の経路上に感応膜を形成するために煩雑な手間がかかるとともに、安定的に感応膜を形成することが困難であるという問題が生じる。
しかも、雰囲気の湿度や温度に応じた感応膜の変化に伴う弾性表面波の伝搬特性(例えば、速度や位相など)の変化は小さいことから、検出精度を向上させることが困難であるという問題が生じる。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、形成に煩雑な手間がかかることを防止し、感度および検出精度を向上させることが可能なセンサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、本発明の第1態様に係るセンサは、球形状の基体(例えば、実施の形態での基体21)と、該基体の表面を周回する弾性表面波を励起するとともに、前記表面を周回した前記弾性表面波を受信して、受信結果の信号を出力する弾性表面波励起受信部(例えば、実施の形態での櫛形電極22)とを備える弾性表面波素子(例えば、実施の形態での弾性表面波素子11)と、前記弾性表面波励起受信部から出力された信号に基づいて前記弾性表面波の伝搬特性を検出する伝搬特性検出部(例えば、実施の形態での伝搬特性検出部14)と、前記伝搬特性検出部により検出された前記伝搬特性に応じて温度を検出する状態量検出部(例えば、実施の形態での状態量検出部15)とを備え、前記基体は中空部(例えば、実施の形態での中空部23)を備え、該中空部の表面は、前記基体とは異なる熱膨張係数の被覆層(例えば、実施の形態での被覆層24)により被覆されている。
【0007】
また、本発明の第2態様に係るセンサは、球形状の基体(例えば、実施の形態での基体21)と、該基体の表面を周回する弾性表面波を励起するとともに、前記表面を周回した前記弾性表面波を受信して、受信結果の信号を出力する弾性表面波励起受信部(例えば、実施の形態での櫛形電極22)とを備える弾性表面波素子(例えば、実施の形態での弾性表面波素子11)と、前記弾性表面波励起受信部から出力された信号に基づいて前記弾性表面波の伝搬特性を検出する伝搬特性検出部(例えば、実施の形態での伝搬特性検出部14)と、前記伝搬特性検出部により検出された前記伝搬特性に応じて湿度または温度を検出する状態量検出部(例えば、実施の形態での状態量検出部15)とを備え、前記基体は中空部(例えば、実施の形態での中空部23)を備え、該中空部には、外部に開口した気孔(例えば、実施の形態での気孔31a)が分散配置されている多孔質材(例えば、実施の形態での多孔質材31)が充填されている。
【0008】
さらに、本発明の第3態様に係るセンサでは、前記状態量検出部は、前記弾性表面波の伝搬特性と前記弾性表面波素子の前記表面周辺の雰囲気の状態との対応関係を示すデータを記憶しており、前記伝搬特性検出部により検出された前記伝搬特性に対応する前記雰囲気の状態を前記データから取得する。
【0009】
さらに、本発明の第4態様に係るセンサでは、前記中空部は、前記弾性表面波の周回経路の中心軸に同軸に前記基体を貫通する貫通孔である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1態様に係るセンサによれば、弾性表面波が励起される基体の中空部の表面は基体とは異なる熱膨張係数の被覆層を有することから、例えば中空部および被覆層を備えていない場合に比べて、温度変化に応じた基体の表面形状の変化が大きくなり、温度に対する感度および検出精度を向上させることができる。
しかも、球形状の基体に中空部および被覆層を容易かつ安定に形成することができ、形成に煩雑な手間がかかることを防止することができる。
【0011】
また、本発明の第2態様に係るセンサによれば、弾性表面波が励起される基体の中空部に多孔質材が充填されていることから、例えば中空部および多孔質材を備えていない場合に比べて、湿度変化あるいは温度変化に応じた基体の表面形状の変化が大きくなり、湿度あるいは温度に対する感度および検出精度を向上させることができる。
しかも、球形状の基体に中空部を容易かつ安定に形成することができるとともに、中空部に多孔質材を容易かつ安定に充填することができ、形成に煩雑な手間がかかることを防止することができる。
【0012】
さらに、本発明の第3態様に係るセンサによれば、予め作成されたデータを参照して、伝搬特性検出部により検出された伝搬特性に対応した雰囲気の状態(例えば、温度や湿度)を容易に取得することができる。
【0013】
さらに、本発明の第4態様に係るセンサによれば、中空部を容易かつ安定に形成することができ、形成に煩雑な手間がかかることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係るセンサの構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るセンサの弾性表面波素子の作成工程を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態の変形例に係るセンサの構成図である。
【図4】本発明の実施の形態の変形例に係るセンサの弾性表面波素子の作成工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係るセンサについて添付図面を参照しながら説明する。
本実施の形態によるセンサ10は、例えば図1に示すように、弾性表面波素子11と、サーキュレータ12と、発振器13と、伝搬特性検出部14と、状態量検出部15とを備えて構成されている。
【0016】
弾性表面波素子11は、例えば、球形状の基体21と、櫛形電極22と、中空部23と、被覆層24とを備えて構成されている。
【0017】
球形状の基体21は、例えばニオブ酸リチウム(LiNbO3)やタンタル酸リチウム(LiTaO3)や水晶などの圧電性材料の単結晶からなり、表面に励起される弾性表面波が伝播する円環状の周回経路21aを結晶軸O周りに有している。
【0018】
櫛形電極22は、基体21の表面上に形成されたAu、Al、Cu、Crなどの金属層から成り、例えば櫛歯が向き合い、かつ、互い違いになるように形成された一対の電極である。
櫛形電極22は、例えば真空蒸着やスパッタリングなどによって基体21上に金属膜が形成された後に、フォトリソグラフィーによるパターニングによって形成される。
【0019】
櫛形電極22は、発振器13から高周波の電気信号(高周波信号)が入力されると弾性表面波を励起する。
また、櫛形電極22は、基体21の表面上を周回した弾性表面波を受信し、受信結果の信号を出力する。
【0020】
中空部23は、例えば基体21の表面上の弾性表面波の周回経路21aの中心軸(つまり、結晶軸O)に同軸に基体21を貫通する貫通孔であって、中心軸に対する断面形状が所定半径の円形状であって、例えば高密度プラズマを用いた深堀エッチングなどにより形成される。
【0021】
被覆層24は、基体21とは異なる熱膨張係数を有する材料(例えば、基体21よりも熱膨張係数が大きいAlなどの金属など)から成り、中空部23の表面を被覆している。
この被覆層24は、例えば基体21および中空部23の表面の全面に無電解めっきが行なわれた後に、フォトリソグラフィーによるパターニングあるいは研磨による不要部分の剥離によって形成される。
なお、被覆層24は、物理的に形成されてもよく、例えばプラズマソースイオン注入法によれば、プラズマ中で中空部23の表面に負の高圧電圧パルスが印加されることによって、プラズマ中のイオンによってイオン注入および被覆が行なわれることで形成される。
【0022】
サーキュレータ12は、櫛形電極22と発振器13と伝搬特性検出部14とに接続され、発振器13から出力される高周波信号を櫛形電極22に入力し、櫛形電極22から出力される信号を伝搬特性検出部14に入力する。
【0023】
発振器13は、高周波信号を出力する。
伝搬特性検出部14は、例えば櫛形電極22から出力される信号に対するフーリエ変換などを行ない、弾性表面波素子11の表面の周回経路21aを伝播する弾性表面波の周回速度や位相や強度などの伝搬特性を検出する。
【0024】
状態量検出部15は、伝搬特性検出部14により検出された伝搬特性の検出結果に基づき、弾性表面波素子11の表面周辺の雰囲気の状態量、例えば温度を検出する。
【0025】
すなわち、弾性表面波素子11の表面周辺の雰囲気の温度に応じて弾性表面波素子11の形状変化、例えば被覆層24の膨張または収縮に起因する基体21の膨張または収縮による周回経路21aの経路長や形状などの変化が生じると、周回経路21aを伝播する弾性表面波の伝搬特性が変化する。
【0026】
状態量検出部15は、周回経路21aを伝播する弾性表面波の伝搬特性の変化の検出結果に基づいて、例えば予め記憶している所定マップなどを参照して、弾性表面波素子11の表面周辺の雰囲気の温度を検出する。
なお、所定マップは、例えば、弾性表面波素子11の表面周辺の雰囲気の状態(例えば、温度)と、周回経路21aを伝播する弾性表面波の伝搬特性との対応関係を示すデータである。
【0027】
この弾性表面波素子11は、基体21の中空部23の表面に基体21とは異なる熱膨張係数の被覆層24を有することから、例えば中空部23および被覆層24を備えていない場合に比べて、基体21の表面周辺の雰囲気の温度変化に応じた基体21の表面形状の変化が大きくなり、温度に対する感度および検出精度が向上する。
【0028】
以下に、弾性表面波素子11の作成方法について説明する。
先ず、例えば図2(A)に示すように、球形状の基体21の中心軸(つまり、結晶軸O)に同軸に基体21を貫通する貫通孔から成る中空部23を、例えば高密度プラズマを用いた深堀エッチングなどにより形成する。
【0029】
次に、例えば図2(B)に示すように、基体21および中空部23の表面の全面に無電解めっきを行ない、基体21および中空部23の全表面を被覆する全表面被覆層25を形成する。
【0030】
次に、例えば図2(C)に示すように、全表面被覆層25のうち、中空部23の表面を覆う被覆層24以外の領域を、フォトリソグラフィーによるパターニングあるいは研磨による剥離によって除去し、基体21の表面を露出させる。
【0031】
次に、例えば図2(D)に示すように、例えば真空蒸着やスパッタリングなどによって基体21上に金属膜を形成した後に、フォトリソグラフィーによるパターニングによって櫛形電極22を形成する。
【0032】
上述したように、本実施の形態によるセンサ10によれば、弾性表面波が励起される基体21の中空部23の表面は基体21とは異なる熱膨張係数の被覆層24を有することから、例えば中空部23および被覆層24を備えていない場合に比べて、温度変化に応じた基体21の表面形状の変化が大きくなり、温度に対する感度および検出精度を向上させることができる。
しかも、球形状の基体21に中空部23および被覆層24を容易かつ安定に形成することができ、形成に煩雑な手間がかかることを防止することができる。
【0033】
しかも、予め作成されたデータを参照して、周回経路21aを伝搬する弾性表面波の伝搬特性の変化の検出結果に対応した雰囲気の状態(例えば、温度)を容易に取得することができる。
【0034】
なお、上述した実施の形態においては、例えば図3に示す上述した実施の形態の変形例に係るセンサ10のように、中空部23の表面を被覆する被覆層24の代わりに、外部に開口した気孔31aが分散配置されている多孔質材31が中空部23に充填されてもよい。
この多孔質材31は、無機または有機の多孔質材料から成り、例えば多孔質ガラスから成る多孔質材31は、複数のガラス材料を混合して熱処理することで得られる分相ガラスを、酸溶液に浸漬して特定相のみを溶出して形成される。
【0035】
この変形例において、状態量検出部15は、伝搬特性検出部14により検出された伝搬特性の検出結果に基づき、弾性表面波素子11の表面周辺の雰囲気の状態量、例えば湿度または温度を検出する。
【0036】
すなわち、弾性表面波素子11の表面周辺の雰囲気の湿度または温度に応じて弾性表面波素子11の形状変化、例えば多孔質材31の水分吸着による膨潤または水分離脱による収縮に起因する基体21の膨張または収縮による周回経路21aの経路長や形状などの変化が生じると、周回経路21aを伝播する弾性表面波の伝搬特性が変化する。
【0037】
状態量検出部15は、周回経路21aを伝播する弾性表面波の伝搬特性の変化の検出結果に基づいて、例えば予め記憶している所定マップなどを参照して、弾性表面波素子11の表面周辺の雰囲気の湿度または温度を検出する。
なお、所定マップは、例えば、弾性表面波素子11の表面周辺の雰囲気の状態(例えば、湿度または温度)と、周回経路21aを伝播する弾性表面波の伝搬特性との対応関係を示すデータである。
【0038】
以下に、変形例に係る弾性表面波素子11の作成方法について説明する。
先ず、例えば図4(A)に示すように、球形状の基体21の中心軸(つまり、結晶軸O)に同軸に基体21を貫通する貫通孔から成る中空部23を、例えば高密度プラズマを用いた深堀エッチングなどにより形成する。
【0039】
次に、例えば図4(B)に示すように、中空部23の内部に複数のガラス材料を混合して充填し、熱処理することによって分相ガラス32を形成する。
【0040】
次に、例えば図4(C)に示すように、中空部23に充填された分相ガラス32を酸溶液に浸漬して特定相のみを溶出することによって、外部に開口した気孔31aが分散配置されている多孔質材31を形成する。
【0041】
次に、例えば図4(D)に示すように、例えば真空蒸着やスパッタリングなどによって基体21上に金属膜を形成した後に、フォトリソグラフィーによるパターニングによって櫛形電極22を形成する。
【0042】
上述したように、本実施の形態によるセンサ10によれば、弾性表面波が励起される基体21の中空部23に多孔質材31が充填されていることから、例えば中空部23および多孔質材31を備えていない場合に比べて、湿度変化あるいは温度変化に応じた基体21の表面形状の変化が大きくなり、湿度あるいは温度に対する感度および検出精度を向上させることができる。
しかも、球形状の基体21に中空部23を容易かつ安定に形成することができるとともに、中空部23に多孔質材31を容易かつ安定に充填することができ、形成に煩雑な手間がかかることを防止することができる。
【0043】
しかも、予め作成されたデータを参照して、周回経路21aを伝搬する弾性表面波の伝搬特性の変化の検出結果に対応した雰囲気の状態(例えば、湿度または温度)を容易に取得することができる。
【0044】
なお、上述した実施の形態において、中空部23は貫通孔に限定されず、例えば基体21の表面上で開口する凹溝などであってもよい。
【0045】
なお、上述した実施の形態において、櫛形電極22とサーキュレータ12とは、アンテナを備えて、互いに無線通信可能であってもよい。
【符号の説明】
【0046】
10 センサ
11 弾性表面波素子
14 伝搬特性検出部
15 状態量検出部
21 基体
22 櫛形電極(弾性表面波励起受信部)
23 中空部
24 被覆層
31 多孔質材
31a 気孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球形状の基体と、該基体の表面を周回する弾性表面波を励起するとともに、前記表面を周回した前記弾性表面波を受信して、受信結果の信号を出力する弾性表面波励起受信部とを備える弾性表面波素子と、
前記弾性表面波励起受信部から出力された信号に基づいて前記弾性表面波の伝搬特性を検出する伝搬特性検出部と、
前記伝搬特性検出部により検出された前記伝搬特性に応じて温度を検出する状態量検出部とを備え、
前記基体は中空部を備え、
該中空部の表面は、前記基体とは異なる熱膨張係数の被覆層により被覆されていることを特徴とするセンサ。
【請求項2】
球形状の基体と、該基体の表面を周回する弾性表面波を励起するとともに、前記表面を周回した前記弾性表面波を受信して、受信結果の信号を出力する弾性表面波励起受信部とを備える弾性表面波素子と、
前記弾性表面波励起受信部から出力された信号に基づいて前記弾性表面波の伝搬特性を検出する伝搬特性検出部と、
前記伝搬特性検出部により検出された前記伝搬特性に応じて湿度または温度を検出する状態量検出部とを備え、
前記基体は中空部を備え、
該中空部には、外部に開口した気孔が分散配置されている多孔質材が充填されていることを特徴とするセンサ。
【請求項3】
前記状態量検出部は、前記弾性表面波の伝搬特性と前記弾性表面波素子の前記表面周辺の雰囲気の状態との対応関係を示すデータを記憶しており、
前記伝搬特性検出部により検出された前記伝搬特性に対応する前記雰囲気の状態を前記データから取得することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセンサ。
【請求項4】
前記中空部は、前記弾性表面波の周回経路の中心軸に同軸に前記基体を貫通する貫通孔であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1つに記載のセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−173011(P2012−173011A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32459(P2011−32459)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)