説明

ゼラチン成形物およびその製造方法

【課題】基剤が変質の少ない状態で含有されており、かつ該基剤を長期間に亘って徐放することが可能なゼラチン成形物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】ゼラチンと該ゼラチン中に分散した基剤とを含み、該ゼラチンが成形物の表層のみにおいて架橋されているゼラチン成形物に関する。また、基剤とゼラチンとを含む混合物流動体を調製する混合物流動体調製工程と、混合物流動体を成形する成形工程と、混合物流動体中のゼラチンを冷却してゲル化させることにより混合物ゲルを調製するゲル化工程と、混合物ゲルに架橋剤を添加してゲル状態のまま架橋反応を進行させることにより、混合物ゲルの表層のみにおいてゼラチンを架橋させる架橋工程と、を含む工程によって、ゼラチンが表層のみにおいて架橋されているゼラチン成形物を製造するゼラチン成形物の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基剤がゼラチン中に分散してなるゼラチン成形物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薬剤や栄養成分等の長期間に亘る徐放を可能とし、かつ生体適合性にも優れる担体について種々検討がなされている。このような担体としてはゼラチンまたはコラーゲンが特に広く検討されている。
【0003】
特許文献1には、生理活性物質の担体としてカラムに充填して使用できるコラーゲン成形物品を得る目的で、コラーゲン物質濃度が3ないし20%であるコラーゲン物質水性液を水に対して難混和性または非混和性の有機媒体中に滴下するかまたは該有機媒体中に乳化して該コラーゲン物質水性液を球状とし、次いで該球状コラーゲン物質水性液を硬化させることからなるコラーゲンビーズの製造方法が提案されている。しかし特許文献1では、担体に生理活性物質を含有させるための具体的な態様については言及されておらず、生理活性物質の徐放性についても考慮されていない。
【0004】
特許文献2には、生体内分解性高分子であるコラーゲンあるいはゼラチンを用いて腹腔内投与が可能な徐放性マイクロカプセルを得ることを目的とし、ゼラチンと薬物またはゼラチンとコラーゲンの混合物と薬物とからなる芯物質に、コラーゲンまたはゼラチンとゼラチンの混合物の皮膜を形成させてなる平均粒径が10〜500μmである徐放性マイクロカプセルが提案されている。しかし特許文献2の技術では、芯物質の硬化時に薬物が変質し易いという問題がある。
【0005】
特許文献3には、生体内分解吸収性天然高分子を水不溶化し、bFGFの徐放化不溶性担体として使用できるものとして、アルカリ処理ゼラチンを架橋することにより架橋ゼラチンゲルを得、該架橋ゼラチンゲルに、塩基性線維芽細胞増殖因子を含有させることにより得られる架橋ゼラチンゲル製剤が提案されている。しかし特許文献3の技術では、bFGFを架橋ゼラチンゲルに含有させるために、bFGF水溶液を架橋ゼラチンゲルに滴下して含浸させるか、架橋ゼラチンゲルをbFGF水溶液中に懸濁して再膨潤させるという方法を用いる。このような方法によれば架橋ゼラチンゲル製剤の製造時におけるbFGFの変質を防止することは可能であるが、架橋後のゼラチンゲルに含有させたbFGFは短期間のうちに溶出してしまう。よって特許文献3の技術では長期間に亘るbFGFの徐放性を確保することは困難である。
【0006】
上記のように、特許文献1〜3の技術では、薬剤等の基剤の変質が防止されておりかつ長期間に亘る基剤の徐放が可能な成形物を得ることは困難である。
【特許文献1】特公昭64−1169号公報
【特許文献2】特公平2−20605号公報
【特許文献3】国際公開第1994/027630号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の課題を解決し、基剤が変質の少ない状態で含有されており、かつ該基剤を長期間に亘って徐放することが可能なゼラチン成形物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ゼラチンと該ゼラチン中に分散した基剤とを含み、該ゼラチンが成形物の表層のみにおいて架橋されているゼラチン成形物に関する。
【0009】
本発明はまた、上記の基剤が薬剤であるゼラチン成形物に関する。
本発明のゼラチン成形物において、ゼラチンは海洋生物を起源とすることが好ましい。
【0010】
本発明のゼラチン成形物は、粒子状、ペレット状、シート状、棒状から選択されるいずれかの形状であることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、ゼラチンとゼラチン中に分散した基剤とを含むゼラチン成形物の製造方法であって、基剤とゼラチンとを含む混合物流動体を調製する混合物流動体調製工程と、混合物流動体を成形する成形工程と、混合物流動体中のゼラチンを冷却してゲル化させることにより混合物ゲルを調製するゲル化工程と、混合物ゲルに架橋剤を添加してゲル状態のまま架橋反応を進行させることにより、混合物ゲルの表層のみにおいてゼラチンを架橋させる架橋工程と、を含む工程によって、ゼラチンが表層のみにおいて架橋されているゼラチン成形物を製造する、ゼラチン成形物の製造方法に関する。
【0012】
本発明のゼラチン成形物の製造方法において、ゼラチンは海洋生物を起源とし、架橋反応を1〜10℃の範囲内の温度条件下で進行させることが好ましい。
【0013】
本発明はまた、上記の成形工程において、混合物流動体にオイルを添加して攪拌し、油相中に水相が分散してなるW/Oエマルジョンを調製することによって、混合物流動体を粒子形状に成形した後、上記のゲル化工程において、W/Oエマルジョンを冷却することによりゼラチンをゲル化させる、ゼラチン成形物の製造方法に関する。
【0014】
本発明はまた、上記の成形工程において混合物流動体を鋳型に流し込むことによって混合物流動体を成形した後、ゲル化工程を行なう、ゼラチン成形物の製造方法に関する。この場合、該ゲル化工程よりも後に、混合物ゲルをゲル状態のまま成形する後成形工程をさらに含んでも良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明のゼラチン成形物においてはゼラチンが表層のみにおいて架橋されているため、ゼラチン中に変質の少ない状態で基剤を含有させることができる。また、本発明のゼラチン成形物の製造方法によれば、基剤を分散させたゼラチンゲルの表層のみを架橋させることにより、ゼラチン中に変質の少ない状態で基剤を含有させるとともに、基剤を長期間に亘って徐放することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のゼラチン成形物はゼラチンと該ゼラチン中に分散した基剤とを含む。ゼラチン成形物中の基剤はゼラチンの3次元網目構造に捕捉された状態で存在しており、たとえば基剤を溶解させる液体にゼラチン成形物を接触させることにより、基剤をゼラチン成形物の外部に徐放することができる。なお本発明において含まれる基剤は、典型的には水溶性である。
【0017】
本発明のゼラチン成形物においては、ゼラチンは成形物の表層のみにおいて架橋されている。すなわち、本発明のゼラチン成形物に含まれるゼラチンは、該ゼラチン成形物の表層においては架橋された状態で存在し、該ゼラチン成形物の内部では未架橋の状態で存在している。
【0018】
一般にゼラチンの架橋は、ゼラチンに対し、グルタルアルデヒド、カルボジイミド、ホルムアルデヒド、エポキシ化合物、イソシアナート等の架橋剤を添加する化学的方法や、ゼラチンに対し、紫外線、ガンマ線、電子線等を照射したり熱脱水処理したりする物理的方法によって行なう。よって、あらかじめゼラチン中に基剤を分散させた状態でゼラチンを架橋させる場合には基剤の変質という問題が生じ得る。本発明においては、成形物の表層のゼラチンを架橋させることによってゼラチン成形物の形態維持、物理的強度の確保、徐放期間の確保を可能とするとともに、成形物の内部のゼラチンを未架橋の状態とすることにより、成形物の特に内部に存在する基剤の変質を顕著に低減し、該基剤の有する作用を良好に発揮させることができる。
【0019】
また、一般にゼラチンの架橋においては、架橋反応の時間、温度、反応量等により架橋の程度を設計することができ、これにより基剤の徐放期間を制御することが可能である。
【0020】
一般に、ゼラチンが架橋しているか否かは水溶性であるか否かで評価できる。評価の指標としては、たとえば、60℃の水100gに対して、平均粒径0.1〜1.0mmの乾燥粉末状のゼラチン1gを投入し、1時間静置したときの該ゼラチンの溶解量が、0.1g以上である場合を水溶性、0.1g未満である場合を水不溶性とし、水溶性のゼラチンを未架橋のゼラチン(以下、未架橋ゼラチンとも記載する)、水不溶性のゼラチンを架橋されたゼラチン(以下、架橋ゼラチンとも記載する)とする指標を例示できる。
【0021】
本発明において、ゼラチンの全質量に占める架橋ゼラチンの好ましい割合はゼラチン成形物の用途によって異なるが、該割合はたとえば3〜30質量%の範囲内であることができる。該割合が3質量%以上である場合、ゼラチン成形物の形状保持性が良好であり、30質量%以下である場合、未架橋ゼラチンの存在割合を良好に確保できるため、ゼラチン成形物に含有される基剤の変質の防止効果が良好である。
【0022】
たとえば、含有基剤の保持期間を短く設定するような用途においては、該割合は3〜15質量%の範囲内に設定されることができ、また、含有基剤の保持期間を長く設定するような用途においては、該割合は10〜30質量%の範囲内に設定されることができる。さらに、該割合の異なるゼラチンを組合せることによって、長期に亘って一定量の薬剤を放出するように設計することができる。
【0023】
なお本発明において、ゼラチンの全質量に占める架橋ゼラチンの割合は、ゼラチン成形物1gを60℃の蒸留水100gに溶解させる溶解操作によってゼラチンを溶解させ、溶解操作前のゼラチン全質量X(単位:g)、溶解操作後の水不溶残渣の質量Y(単位:g)から、ゼラチンの全質量に占める架橋ゼラチンの割合Y/X×100(単位:質量%)として算出される値である。
【0024】
本発明のゼラチン成形物に含まれる基剤としては、たとえば薬剤等の生理活性成分や、各種生物に対する栄養成分、栄養補助成分等を使用でき、これらの成分は適用場所においてゼラチン中から徐放され得る。
【0025】
本発明のゼラチン成形物において、ゼラチンは海洋生物を起源とすることが好ましい。この場合、動物由来原料で近年懸念される伝達性海綿状脳症のような感染症のおそれがない安全なゼラチン成形物を得ることができる。なお海洋生物を起源とするゼラチンは、牛、豚等の動物由来原料のゼラチンと比べて一般に変性温度、すなわちゲル化温度が低い傾向がある。本発明において用いられるゼラチン、より典型的には海洋生物を起源とするゼラチンにおけるゲル化温度は、たとえば0〜20℃の範囲内、より典型的には0〜10℃の範囲内であることができる。
【0026】
海洋生物としては、たとえば、サケ、マス、ニシン、タラ、ヒラメ、タイ、イワシ、マグロ、カツオ等を例示できる。
【0027】
本発明のゼラチン成形物には、目的に応じて種々の形状を採用でき、たとえば、粒子状、ペレット状、シート状、棒状から選択されるいずれかの形状は好ましく採用できる。典型的な一例としては、たとえば平均粒径を1μm〜50mmの範囲内、さらに典型的には10μm〜10mmの範囲内とした粒子状のゼラチン成形物等を例示できる。たとえば薬剤の担体のような用途においては、平均粒径を10μm〜100μmの範囲内に好ましく設定でき、また、たとえば栄養成分の担体のような用途においては、平均粒径を1mm〜10mmの範囲内に好ましく設定できる。
【0028】
ここで平均粒径とは、たとえばレーザー回折式分析装置を用いてレーザー散乱を検出する方法で測定される値である。
【0029】
<ゼラチン成形物の製造方法>
本発明はまた、ゼラチンとゼラチン中に分散した基剤とを含むゼラチン成形物の製造方法であって、基剤とゼラチンとを含む混合物流動体を調製する混合物流動体調製工程と、混合物流動体を成形する成形工程と、混合物流動体中のゼラチンを冷却してゲル化させることにより混合物ゲルを調製するゲル化工程と、混合物ゲルに架橋剤を添加してゲル状態のまま架橋反応を進行させることにより、混合物ゲルの表層のみにおいてゼラチンを架橋させる架橋工程と、を含む工程によって、ゼラチンが表層のみにおいて架橋されているゼラチン成形物を製造する、ゼラチン成形物の製造方法に関する。
【0030】
本発明において、典型的には水溶性の基剤が用いられるため、以下では水溶性の基剤を用いたゼラチン成形物の製造方法について説明する。
【0031】
(混合物流動体調製工程)
混合物流動体調製工程では、基剤とゼラチンとを含む混合物流動体を調製する。混合物流動体調製工程において、ゼラチンは、基剤との混合が可能な程度な流動性を有する状態で供給されれば良いが、典型的には、ゼラチン水溶液の状態、より具体的には、ゼラチン濃度が2〜20質量%の範囲内であるゼラチン水溶液の状態で供給されることが好ましい。ゼラチン水溶液中のゼラチン濃度が2質量%以上である場合、ゼラチン成形物の物理的強度が良好であり、該ゼラチン濃度が20質量%以下である場合、ゼラチンの流動性が良好で、所望の形状への成形が容易である。ゼラチン水溶液中のゼラチン濃度は、特に5〜15質量%の範囲内とされることが好ましく、最も典型的には、10質量%程度とされることができる。
【0032】
またゼラチンは、強アルカリ性下または強酸性下で、低分子量化、ゲル化能力の低下等の物性劣化を生じさせるおそれがあるため、混合物流動体の調製時のpHを中性領域とすることが好ましい。典型的には、pH5〜pH9の範囲内が好ましい。
【0033】
混合物流動体の調製は、ゼラチン中、典型的にはゼラチン水溶液中に、攪拌下で基剤を添加する方法等により行なうことができる。攪拌は従来公知の方法で行なえば良い。
【0034】
混合物流動体に含まれる基剤の量は目的に応じて適宜調整され得るが、たとえば、ゼラチン100質量部に対して0.01〜10質量部の範囲内とされることができる。
【0035】
混合物流動体調製工程におけるゼラチンの温度は、使用するゼラチンおよび基剤の種類によって適宜設定され得るが、ゼラチンのゲル化温度より高ければ良く、たとえば海洋生物を起源とするゼラチンを使用する場合、20〜40℃の範囲内に維持されることが好ましい。ゼラチンの温度が20℃以上に維持される場合、ゼラチンの温度が低下し過ぎることによるゼラチンのゲル化を防止でき、ゼラチンの温度が40℃以下に維持される場合、ゼラチンの温度が上昇し過ぎることによる基剤やゼラチンの変質を防止することができる。
【0036】
なお、混合物流動体調製工程で調製される混合物流動体は、界面活性剤、pH調整剤等をさらに含有しても良い。
【0037】
(成形工程)
成形工程では、混合物流動体を所定の形状に成形する。所定の形状としては、たとえば、本発明における目的のゼラチン成形物の形状に対応する形状を例示できる。一方本発明においては、混合物流動体を任意の形状に成形して後述するゲル化を行なった後、ゲル状態を保ったままさらに後成形工程を経ることにより、目的のゼラチン成形物の形状への後成形を行なっても良い。
【0038】
成形の方法としては、たとえば、混合物流動体を水相とするW/Oエマルジョンを調製することによって、混合物流動体を粒子形状で油相中に分散させる方法や、混合物流動体を所望の形状の鋳型に流し込む方法等を例示できる。該鋳型は、混合物流動体を流し込むことで該混合物流動体の形状を維持できるものであれば良い。
【0039】
W/Oエマルジョンは、油相中に水相が分散してなるエマルジョンであり、たとえば、混合物流動体にオイルを添加して攪拌することにより形成できる。W/Oエマルジョンにおける水相の分散サイズを調整することにより混合物流動体を所定の形状に成形でき、これによりゼラチン成形物のサイズを所望の範囲に設計できる。
【0040】
油相を形成させるために使用するオイルは、植物性であるものを好ましく使用でき、たとえば、オリーブオイル、ダイズオイル、コーンオイル等を例示できる。
【0041】
W/Oエマルジョンの形成は、エマルジョンの形成方法として従来公知である方法を用いて行なうことができ、たとえば、攪拌下でオイル中に上記で調製した混合物流動体を添加する方法等を用いることができる。
【0042】
W/Oエマルジョンの形成は、たとえば海洋生物を起源とするゼラチンを使用する場合、20〜40℃の範囲内の温度条件で行なうことができる。該温度条件が20℃以上である場合ゼラチンの流動性を良好に維持して所望の分散サイズのW/Oエマルジョンを均一に得ることができ、40℃以下である場合ゼラチンや基剤が変質するおそれが少ない。該温度条件は、さらに25〜35℃の範囲内とされることが特に好ましい。
【0043】
エマルジョンの形成においては、オイルに上記で得た混合物流動体を添加した後、攪拌を1分間以上行なうことが好ましい。この場合、特に分散が均一なW/Oエマルジョンを得ることができる。分散の均一性の点では、エマルジョンの形成における攪拌時間は長い方が好ましいが、該攪拌時間が長過ぎると、ゼラチンのゲル化能力などの物性が劣化する場合があるため、該攪拌時間は24時間以下とされることが好ましい。エマルジョンの形成における攪拌時間は、さらに5分間以上、さらに10分間以上とされることがより好ましく、また、さらに12時間以下、さらに5時間以下とされることがより好ましい。なお最も典型的には、該攪拌時間は30分間程度とされることができる。
【0044】
(ゲル化工程)
ゲル化工程では、混合物流動体中のゼラチンを冷却してゲル化させることにより混合物ゲルを調製する。前述の成形工程においてW/Oエマルジョンを形成する場合は、該W/Oエマルジョンごと冷却することによりゲル化を行なうことができる。
【0045】
ゲル化工程においては、ゼラチンをゲル化温度以下でたとえば1時間以上冷却することにより、混合物ゲルを調製できる。ゲル化温度以下での冷却時間が1時間以上である場合、ゼラチンのゲル化を良好に完結させることができる。ゲル化の進行の点では、冷却時間は長い程好ましいが、冷却時間が長過ぎると、たとえばW/Oエマルジョンにおいては、オイルが硬化し、分散状態の均一性が失われる場合があるため、冷却時間は48時間以下とされることが好ましい。冷却時間は、2時間以上、さらに3時間以上がより好ましく、また、24時間以下、さらに12時間以下がより好ましい。最も典型的には、冷却時間は5時間程度とされることができる。
【0046】
ゲル化温度はゼラチンの種類によって異なるため、ゲル化工程の温度条件は、使用するゼラチンの種類に応じて適宜設定されることが好ましい。たとえば海洋生物を起源とするゼラチンを使用する場合には、ゲル化工程において混合物流動体を1〜5℃、より典型的には4℃程度に冷却することが好ましい。
【0047】
W/Oエマルジョンの状態でゲル化を行なう場合には、該W/Oエマルジョンの温度が上述したような温度範囲内に維持されるように冷却を行なうことが好ましい。またW/Oエマルジョンを攪拌しながら冷却を行なうことが好ましい。この場合、より均一なサイズのゼラチン成形物を得ることができる。
【0048】
(後成形工程)
本発明においては、上記のゲル化工程よりも後に、混合物ゲルをゲル化温度以下に維持することによりゲル状態のままで混合物ゲルを成形する後成形工程を行なっても良い。この場合の成形方法としては、たとえば、前述の成形工程にて鋳型を用いて成形した混合物流動体から得た混合物ゲルを、所望の形状に切り出す方法等を例示できる。
【0049】
(架橋工程)
架橋工程では、上記で得た混合物ゲルに架橋剤を添加してゲル状態のまま架橋反応を進行させることにより、該混合物ゲルの表層のみにおいてゼラチンを架橋させる。
【0050】
架橋剤としては、たとえば、グルタルアルデヒド、カルボジイミド、ホルムアルデヒド、エポキシ化合物、イソシアナート等を使用することができる。
【0051】
本発明において、架橋工程はゼラチンをゲル状態に保ったまま行われる。架橋温度は1℃以上とされることが好ましい。架橋温度が1℃以上であれば、ゼラチン水溶液を用いる場合にも水の凍結が防止され、架橋反応をより均一に進行させることができる。架橋温度の好ましい上限は使用するゼラチンの種類によって異なるが、たとえば海洋生物を起源とするゼラチンを使用する場合、架橋温度は10℃以下とされることが好ましい。この場合、ゼラチンを確実にゲル状態に維持できるため、混合物ゲルの表層のみの架橋をより確実に行なうことができる。架橋温度は、たとえば海洋生物を起源とするゼラチンを使用する場合、1〜10℃の範囲内、さらに1〜5℃の範囲内とされることがより好ましく、最も典型的には4℃程度とされることができる。
【0052】
架橋工程における架橋時間は、たとえば1時間以上とされることが好ましく、この場合ゼラチンの架橋をより確実に進行させることができる。架橋時間が長過ぎると混合物ゲルの内部まで架橋剤が浸入し、混合物ゲルの全体で架橋反応が進行してしまうため、混合物ゲルの表層のみを架橋させるためには、混合物ゲルの組成やサイズに応じて架橋時間を調整することが好ましい。架橋時間がたとえば48時間以下とされる場合、混合物ゲルの表層のみの架橋をより確実に行なうことができ好ましい。架橋時間は、1〜24時間の範囲内とされることがより好ましく、最も典型的には5時間程度とされることができる。
【0053】
以上のような方法で、混合物ゲルの表層のみを架橋させることができる。
なお本発明においては、架橋工程におけるゼラチンの架橋を、上述のような化学的方法により行なっても良く、紫外線、ガンマ線、電子線等の照射、熱脱水処理等の物理的方法により行なっても良い。
【0054】
(その他の工程)
本発明においては、上記で架橋反応を行なった後、架橋剤を不活化させることが好ましい。たとえば架橋剤としてグルタルアルデヒドを使用する場合には、上記の混合物ゲルを含むエマルジョンに不活化剤としてたとえばグリシン水溶液を添加し、系中の残存グルタルアルデヒドを不活化することが好ましい。
【0055】
不活化剤としては、たとえば、アミノ基を有する低分子量物質を好ましく使用でき、具体的には、上記のグリシンの他、エタノールアミン等を例示できる。
【0056】
不活化処理はゼラチンのゲル化温度以下で行なうことが好ましく、処理温度はたとえば、1〜10℃の範囲内とすることができる。たとえば海洋生物を起源とするゼラチンを使用する場合には、処理温度を1〜5℃の範囲内とすることが好ましい。
【0057】
また不活化処理における処理時間はたとえば30分間〜5時間の範囲内に設定することができる。処理時間が30分間以上である場合架橋剤をより確実に不活化でき、5時間以下である場合製造効率を良好に維持できる。処理時間は、さらに1時間〜3時間の範囲内に設定することができる。
【0058】
不活化処理後の混合物ゲルを、たとえば遠心分離等によって回収し、水、アセトン、アルコール等を用いて適宜洗浄することにより、ゲル状物としての本発明のゼラチン成形物を得ることができる。
【0059】
なお本発明のゼラチン成形物は、水分を含んだ状態のゲル状物であっても良いが、該ゲル状物をたとえば凍結乾燥等によって乾燥して得られる乾燥物であっても良い。
【0060】
また本発明のゼラチン成形物は、たとえばメッシュフィルターを用いた粒子分画等によって粒径が均一化されたものでも良い。
【0061】
[実施例]
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0062】
<調製例1>
25℃のオリーブオイル150mlに10質量%のゼラチン5mlを加え、25℃で5分間、400rpmで攪拌し、W/Oエマルジョンを形成した。次いで、攪拌を続けながらW/Oエマルジョンを冷却し、4℃で5時間、400rpmで攪拌してゼラチンをゲル化させた。
【0063】
次いで、上記でゼラチンをゲル化させたW/Oエマルジョンに、25質量%グルタルアルデヒド100μlを加え、4℃で12時間、400rpmで攪拌してゼラチンを架橋させた。その後、1Mグリシン水溶液10mlを加え、4℃で3時間、400rpmで攪拌して残存グルタルアルデヒドを不活化した。
【0064】
次いで、4℃で5分間、2000Gで遠心分離を行なって上記のW/Oエマルジョンからゼラチンゲルの粒子を分離し、4℃のアセトンで該粒子を洗浄した。その後4℃で5分間、3000Gで遠心分離を行なってゼラチンゲルの粒子を分離し、4℃の2−プロパノールで該粒子を洗浄した。その後4℃で5分間、3000Gで遠心分離を行なってゼラチンゲルの粒子を分離し、4℃の蒸留水で該粒子を洗浄した。
【0065】
上記の洗浄後の粒子をメッシュフィルターにて分画し、80μmメッシュを通過した粒子のみを回収した。回収した粒子を4℃で5分間、3000Gでさらに遠心分離した後4℃の蒸留水で洗浄し、凍結乾燥してゼラチン粒子の乾燥物を得た。図1は、調製例1で得られたゼラチン粒子の形態を示す顕微鏡写真である。図1に示す結果から、上記の方法でゼラチン粒子を調製できることが確認できる。
【0066】
<調製例2〜10>
2質量%、5質量%、10質量%のゼラチン水溶液を調製し、各ゼラチン水溶液を各3つの直径29mmの円筒容器に高さ18mmまで入れ、表1に示すゲル化時間で4℃でのゲル化を行なった。次いで、各容器に、架橋剤である25質量%グルタルアルデヒド200μlとオイルであるオリーブオイル3mlとを静かに加え、4℃で48時間静置して、ゼラチン水溶液とグルタルアルデヒドおよびオリーブオイルとの界面からゼラチンの架橋反応を進行させた。
【0067】
次いで、各容器に1Mグリシン水溶液を3ml加え、4℃で3時間静置してグルタルアルデヒドを不活化し、上澄みを除去した後、架橋されたゼラチンゲルの表面を、アセトン、2−プロパノール、蒸留水の順で洗浄した。その後、各容器のゼラチン部分の色を目視で観察し、架橋部分の深さ(mm)を評価した。具体的には、グルタルアルデヒドで架橋されたゼラチンは赤茶色に変色して観察されることから、無色〜黄色の部分を未架橋部分、赤茶色の部分を架橋部分と判定した。図2は、調製例2〜10で得られたゼラチンゲルの外観を示す写真である。なお、表1においては、表層のみの架橋が確認されたものを架橋状態「良」と表し、架橋剤の浸透により容器内の全体(深さ18mm)で架橋が進んでしまったものを架橋状態「不良」と表している。
【0068】
<調製例11〜13>
10質量%のゼラチン水溶液を調製し、ゼラチン水溶液を、底面が50mm×75mmの直方容器の3つにそれぞれ高さ15mmまで入れ、4℃で12時間ゲル化を行なった。次いで、4℃の雰囲気下で、該直方容器からゲルを取り出し、一辺が10mmの立方体となるように、各直方容器につき3つ、計9つのゲルを切り出した。
【0069】
次いで、切り出した立方体状ゲルを、4℃の雰囲気下で、底面が70mm×100mmの直方容器に移し、これに4℃の0.1質量%グルタルアルデヒド水溶液を100mL加え、表2に示す3種類の架橋時間で静置して、架橋反応を進行させた。各処理時間につき立方体状ゲルを3つずつ処理した。
【0070】
次いで、4℃の雰囲気下で、各直方容器からグルタルアルデヒド水溶液を除いた後、該直方容器に4℃の1Mグリシン水溶液を100mL添加し、それぞれ1時間静置して残存するグルタルアルデヒドを不活化し、4℃の蒸留水で洗浄した。その後、各立方体状ゲルを25℃で12時間静置し、ゲルをスライスして架橋部分の厚さを測定した。
【0071】
図3は、調製例13で得られたゼラチンゲルの外観を示す写真であり、図4は、調製例13で得られたゼラチンゲルの架橋部分の外観を示す写真である。図4においては、ゼラチンゲルの表層の架橋部分のみが残留し、内部は未架橋であったためにゾル化して溶出している様子が示されている。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
表1および図2に示す結果から、ゼラチン水溶液の濃度とゲル化時間とを適宜調整することにより、ゼラチンゲルの表層のみを架橋することが可能であることが確認できる。また、表2および図3,4に示す結果から、架橋時間を適宜調整することにより、ゼラチンゲルの表層のみを架橋することが可能であることが確認できる。
【0075】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、基剤が変質の少ない状態で含有されており、かつ該基剤を長期間に亘って徐放することが可能なゼラチン成形物の提供に対して好適に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】調製例1で得られたゼラチン粒子の形態を示す顕微鏡写真である。
【図2】調製例2〜10で得られたゼラチンゲルの外観を示す写真である。
【図3】調製例13で得られたゼラチンゲルの外観を示す写真である。
【図4】調製例13で得られたゼラチンゲルの架橋部分の外観を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチンと前記ゼラチン中に分散した基剤とを含み、前記ゼラチンは成形物の表層のみにおいて架橋されている、ゼラチン成形物。
【請求項2】
前記基剤が薬剤である、請求項1に記載のゼラチン成形物。
【請求項3】
前記ゼラチンは海洋生物を起源とする、請求項1または2に記載のゼラチン成形物。
【請求項4】
粒子状、ペレット状、シート状、棒状から選択されるいずれかの形状である、請求項1〜3のいずれかに記載のゼラチン成形物。
【請求項5】
ゼラチンと前記ゼラチン中に分散した基剤とを含むゼラチン成形物の製造方法であって、
前記基剤と前記ゼラチンとを含む混合物流動体を調製する混合物流動体調製工程と、
前記混合物流動体を成形する成形工程と、
前記混合物流動体中の前記ゼラチンを冷却してゲル化させることにより混合物ゲルを調製するゲル化工程と、
前記混合物ゲルに架橋剤を添加してゲル状態のまま架橋反応を進行させることにより、前記混合物ゲルの表層のみにおいて前記ゼラチンを架橋させる架橋工程と、
を含む工程によって、前記ゼラチンが表層のみにおいて架橋されている前記ゼラチン成形物を製造する、ゼラチン成形物の製造方法。
【請求項6】
前記ゼラチンは海洋生物を起源とし、前記架橋反応を1〜10℃の範囲内の温度条件下で進行させる、請求項5に記載のゼラチン成形物の製造方法。
【請求項7】
前記成形工程において、前記混合物流動体にオイルを添加して攪拌し、油相中に水相が分散してなるW/Oエマルジョンを調製することによって、前記混合物流動体を粒子形状に成形した後、
前記ゲル化工程において、前記W/Oエマルジョンを冷却することにより前記ゼラチンをゲル化させる、請求項5または6に記載のゼラチン成形物の製造方法。
【請求項8】
前記成形工程において、前記混合物流動体を鋳型に流し込むことによって前記混合物流動体を成形した後、前記ゲル化工程を行なう、請求項5または6に記載のゼラチン成形物の製造方法。
【請求項9】
前記ゲル化工程よりも後に、前記混合物ゲルをゲル状態のまま成形する後成形工程をさらに含む、請求項8に記載のゼラチン成形物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−150306(P2008−150306A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−338533(P2006−338533)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000126115)エア・ウォーター株式会社 (254)
【Fターム(参考)】