説明

ゼラチン架橋ゲル系冷熱媒体および保冷熱材

【課題】冷熱媒体に含ませる水の量を多くでき、これによりコストを低くできるとともに、熱容量を高くしかつ保冷熱時間を長くして、保冷熱効果を高くすることができ、また冷却または加熱サイクルを繰返しても水が分離することがなく、繰返し使用時間を長くすることができる冷熱媒体、およびこれを用いる保冷熱材の提供。
【解決手段】架橋ゼラチンおよび水を含むゼラチン架橋ゲルを含む冷熱媒体2。ゼラチン架橋ゲルは粒状化または粉砕物のものが用いられる。好ましくは、ゼラチン架橋ゲルが架橋ゼラチン2〜60重量%および水40〜98重量%を含み、ゼリー強度9〜3000gである冷熱媒体2であり、これらを軟質の容器3に収容した保冷熱材1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼラチン架橋ゲル系の冷熱媒体、特に蓄熱により冷却または加熱用として用いられる冷熱媒体、およびこの冷熱媒体により保冷または保温を行なうための保冷熱材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
氷枕、氷のう、保冷容器に投入するための保冷材、あるいは湯タンポ、懐炉等の保熱材として、冷熱媒体を容器に収容した保冷熱材が用いられている。保冷または保温を行なうための冷熱媒体としては、熱容量が大きい水が用いられているが、保冷または保温を持続させるために、水にCMC(カルボキシメチルセルロース)のような増粘剤を添加して粘性を高めた冷熱媒体が用いられている。すなわち水のように粘度の低い媒体では、対流が起こり無駄に熱が漏出するので、これを防止するために、増粘剤により粘性を高めた冷熱媒体を用いて対流を防止し、これにより保冷熱効果を高め、また保冷熱時間を持続させている。しかし対流を防止できる程度に粘性を高めるためには、CMC等の増粘剤を大量に添加する必要があり、コスト高になるとともに、熱容量の高い水の量が少なくなり、全体としての熱容量が小さくなる。
【0003】
またこのような冷熱媒体を容器に収容したパック状の保冷熱材は、冷蔵または冷凍庫に入れて凍結させた状態で保冷材として用い、または温湯に浸漬したり、場合によっては電子レンジでマイクロウエーブ加熱して保熱材として用いられている。しかしこのような保冷熱材の使用に際して、冷却または加熱サイクルを繰返すと、水相と増粘剤相が分離し、保冷熱効果が低下する。特に凍結させて保冷材として用いる場合は、凍結により氷の結晶が成長するため、これを融解すると寒天、凍り豆腐などのように水が分離し、元の粘性溶液に戻らず、保冷熱効果が低下する。
【0004】
またこのような冷熱媒体を容器に収容したパック状の保冷熱材は、容器として樹脂フィルム製の袋のように薄いシートで構成する容器が用いられるが、人体の冷却、加熱等に用いるときは、上記のような薄いシートを介して冷却、加熱が行なわれるので、あまり高温にできず、凍結の場合は硬化して変形ができず、直接人体に当たるような使用方法が採用できないなど、使い勝手が悪いなどの問題点もある。
【0005】
特許文献1(特開2008−156582)には、架橋構造ポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマーに水を吸収させたゲル状の形態をなす保冷剤が提案されている。これは高吸水性樹脂に水を吸収させて熱媒体として用いるもので、樹脂に吸収する水の量を多くすることができるが、冷却または加熱サイクルを繰返すと、水相と樹脂が分離し、保冷熱効果が低下する。この点は従来の増粘剤を用いる場合と大差はなく、保熱媒体として用いる場合も同様である。この現象は冷却または加熱により、架橋構造の樹脂中に分散する水が流動し、特に凍結の場合は氷の結晶が成長するため、水が樹脂から分離することによるものと推測され、寒天、凍り豆腐などと同様に、元の架橋構造内の分散状態に戻らず、保冷熱効果が低下する。
【0006】
特許文献2(特開2008−156588)には、澱粉分解物のような糖質に、寒天、カラギーナン、ゼラチン、CMCのような天然物由来のゲル化増粘剤を加えてゲル体を形成した保冷剤が提案されている。ここではゼラチンをゲル体形成剤として用いるとされているが、これは寒天、カラギーナン、CMCと同様に増粘剤として用いているにすぎず、架橋ゼラチンを用いることは示されていない。このためここで得られる保冷剤は、従来のCMCのような増粘剤を用いるものと本質的に変わらず、コスト高になるとともに、保冷
熱効果は低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−156582
【特許文献2】特開2008−156588
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、冷熱媒体に含ませる水の量を多くでき、これによりコストを低くできるとともに、熱容量を高くしかつ保冷熱時間を長くして、保冷熱効果を高くすることができ、また冷却または加熱サイクルを繰返しても水が分離することがなく、繰返し使用時間を長くすることができる冷熱媒体、およびこれを用いる保冷熱材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は次の冷熱媒体および保冷熱材である。
(1) 架橋ゼラチンおよび水を含むゼラチン架橋ゲルを含む冷熱媒体。
(2) 架橋ゼラチンおよび水を含むゼラチン架橋ゲルの粒状化または粉砕物を含む冷熱媒体。
(3) 上記(1)または(2)において、ゼラチン架橋ゲルが架橋ゼラチン2〜60重量%および水40〜98重量%を含み、ゼリー強度9〜3000gである冷熱媒体。
(4) 上記(1)ないし(3)のいずれかにおいて、ゼラチン架橋ゲルがゼラチン2〜59重量%、架橋剤1〜20重量%および水40〜97重量%を含む水性ゾルの反応物であって、ゼリー強度9〜3000gである冷熱媒体。
(5) 上記(4)において、ゼラチンが分子量10,000〜500,000のものである冷熱媒体。
(6) 上記(4)または(5)において、架橋剤がエチレン性不飽和化合物−無水マレイン酸共重合体、その開環物またはその塩である冷熱媒体。
(7) 上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の架橋ゼラチンおよび水を含むゼラチン架橋ゲルを含む冷熱媒体を容器に収容した保冷熱材。
(8) 上記(2)ないし(6)のいずれかに記載の架橋ゼラチンおよび水を含むゼラチン架橋ゲルの粒状化または粉砕物を含む冷熱媒体を、軟質の容器に収容した保冷熱材。
(9) 上記(7)または(8)において、容器が耐熱性、マイクロ波透過性の容器である保冷熱材。
【0010】
本発明の冷熱媒体を構成するゼラチン架橋ゲルは、架橋ゼラチンおよび水を含む水性ゼラチン架橋ゲルである。架橋ゼラチンは、ゼラチンが架橋剤により三次元的に架橋して、三次元的網目構造体となったものである。ゼラチンは、高等動物中の蛋白であるコラーゲンのラセン構造が壊れた変性コラーゲンであり、線状のポリペプチドであるが、これを架橋剤により架橋することにより、三次元的網目構造体が形成される。ゼラチンは水との親和性が高く、非常に良く水に溶けるが、架橋ゼラチンも同様であって、大量の水を吸収する。しかも水との親和性が高く、冷却または加熱サイクルを繰返しても水が分離せず、長期間の繰り返し使用が可能である。
【0011】
ゼラチン架橋ゲルは、架橋ゼラチン2〜60重量%、好ましくは3〜50重量%、および水40〜98重量%、好ましくは50〜97重量%を含み、ゼリー強度9〜3000g、好ましくは30〜2000gのものが好ましい。ゲルのゼリー強度は、JIS K 6503(2001)に準じ、ゲルの表面を直径12.7mmのプローブで4mm押し下げるのに必要な荷重(g)として表示されるが、ゼリー強度30未満の流動性ゲルの場合はプローブの直径を大きくして補正する。このようなゼラチン架橋ゲルは、ゼラチン2〜5
9重量%、好ましくは4〜59重量%、架橋剤1〜20重量%、好ましくは2〜20重量%、および水40〜97重量%、好ましくは50〜95重量%を含む水性ゾルを反応させて製造することができ、その反応物をゼラチン架橋ゲルとして用いることができる。
【0012】
本発明において、架橋ゼラチンの原料として用いられるゼラチンは、分子量10,000〜500,000、好ましくは15,000〜200,000のものが好ましいが、この範囲外のものが含まれていてもよい。このようなゼラチンはコラーゲンを熱、酸、アルカリ、酵素等により変性して得られるが、市販品を用いることもできる。ゼラチンの分子量は、変性の条件、例えば変性に用いる薬剤および助剤の種類、濃度、温度、時間等により変わるので、変性の条件を選ぶことにより、目的とする分子量のゼラチンを得ることができる。ゼラチンの平均分子量は、パギイ法第9版(2002)により分子量分布を測定して求めることができる。
ゼラチンはニカワとして接着剤に用いられることから分かるように、接着性を有するが、架橋剤で架橋した架橋ゼラチンは接着性が低下し、破砕等により粒状化または粉砕物としたとき接着することなく、相互に独立して形状を維持する。
【0013】
架橋剤としては、ゼラチンの官能基と反応して架橋できるものであればよいが、エチレン性不飽和化合物−無水マレイン酸共重合体、その開環重合体またはその塩が好ましい。エチレン性不飽和化合物としては、エチレン、プロピレン、ブテン−1,ブテン−2、イソブチレン等のオレフィン類、その他のエチレン性不飽和基を有する化合物が挙げられる。開環重合体はエチレン性不飽和化合物−無水マレイン酸共重合体に加水して開環した重合体、その塩は開環重合体のアンモニウム塩、ナトリウム塩等の塩である。塩は上記酸共重合体または開環重合体と水酸化アンモニウム、または水酸化ナトリウム等を反応させて形成することができる。
【0014】
エチレン性不飽和化合物−無水マレイン酸共重合体はこれらのエチレン性不飽和化合物と無水マレイン酸との共重合体であり、エチレン性不飽和化合物と無水マレイン酸とのモル比は10:1〜1:10、好ましくは5:1〜1:5、平均分子量は、通常2,000〜200,000であり、好ましくは3,000〜100,000である。このようなエチレン性不飽和化合物−無水マレイン酸共重合体としては市販品が用いられる。その開環重合体、アンモニウム塩、ナトリウム塩等の塩における開環または塩に変換する割合は任意であるが、無水環の全部を変換するのが好ましい。
【0015】
ゼラチン架橋ゲルは、微細な気泡が分散した発泡体からなるものでもよく、このような発泡体は架橋剤とともに過酸化水素等の発泡剤を添加して反応させることにより製造することができる。過酸化水素等の発泡剤の添加量は全体の1重量%以下、好ましくは0.05〜0.8重量%が好ましい。またゼラチン架橋ゲルは、抗菌剤、着色剤、香料、有機溶媒、塩類等の他の成分を含んでいてもよい。抗菌剤は架橋ゼラチン中に均一に分散するものが好ましい。有機溶媒は架橋剤や抗菌剤等の溶剤として用いられるものが主であるが、水溶性の場合には省略することができる。また有機溶媒、塩類等は凍結点降下のために用いられことがあるが、潜熱を利用する場合にはこれらは用いなくてもよい。他の成分の含量は0〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%程度である。
【0016】
本発明のゼラチン架橋ゲルは、これらのゼラチン、架橋剤および必要により添加される他の成分を含む水性ゾルを反応させることにより製造される。このときゼラチンと架橋剤とは、水および必要により加えられる他の成分を抱き込むように反応して架橋し、水性ゲルが形成される。このようなゼラチン架橋ゲルは、上記水性ゾルを20〜70℃、好ましくは室温〜60℃で反応させることにより、製造することができる。発泡剤を添加して反応させたときは、過酸化水素の場合、酸素が遊離して発泡し、発泡体が形成される。こうして形成されるゼラチン架橋ゲルは、水および必要により加えられる他の成分を抱き込ん
だ状態でゼラチンが架橋した水性ゲルであり、ゲル形成剤の濃度が低い場合でも、形状保持性に優れる粒状化または粉砕物、その他の成形体を形成することができる。
【0017】
本発明の冷熱媒体は、上記の架橋ゼラチンおよび水を含むゼラチン架橋ゲルを含むものであるが、その形態は任意の形状の成形体、粒状化または粉砕物、粉体等任意の形態をとり得る。成形体は使用目的に合わせて任意の形状、大きさに成形できる。粒状化または粉砕物としては、ゼラチン架橋ゲルを形成する段階で、またはその形成後に粒状化した粒状化物でもよく、または形成されたゼラチン架橋ゲルを粉砕した粉砕物であってもよい。粒状化または粉砕物は任意の形状の粒、顆粒であり、不定形に破砕した破砕物、粉砕物を含む。粒状化または粉砕物の粒径も限定されないが、典型的には0.5〜20mmとすることができる。これらの成形体、粒状化または粉砕物等は水を含んだ状態でそれぞれの形状を維持するように、架橋剤の量を選び、ゼリー強度を調整する。
【0018】
本発明の冷熱媒体は、使用形態によっては、上記の架橋ゼラチンおよび水を含むゼラチン架橋ゲルの状態で、そのまま保冷熱材として用いることができるが、一般的には上記の冷熱媒体を容器に収容した状態で保冷熱材として用いることができる。冷熱媒体がゼラチン架橋ゲルの成形体の場合は、成形体を形成した後に容器に収容して保冷熱材としてもよいが、容器に前記水性ゾルを収容した状態で反応させ、容器の形状に合わせてゼラチン架橋ゲルの成形体を形成することができる。粒状化または粉砕物、粉体の場合は、反応と同時または反応後に形成した粒状化または粉砕物、または粉体を容器に収容して保冷熱材を構成するのが一般的である。
【0019】
冷熱媒体を収容する容器は使用目的によって適宜選ばれるが、樹脂製の袋、ビン、タンク等が選ばれる。この容器は保冷剤として用いられる場合には、任意の材質、形状のものが用いられるが、保熱剤として用いられる場合には、耐熱性、マイクロ波透過性の材質からなる容器を用いるのが好ましく、これにより電子レンジでマイクロ波加熱を行なっても容器自体が加熱されて劣化するのが防止される。マイクロ波透過性の材質としては低誘電率の樹脂が挙げられる。低誘電率の樹脂としては、ASTM D150により、1kHz、室温で測定される真空の誘電率を1とする比誘電率が5以下、好ましくは3以下の樹脂が挙げられる。比誘電率が5以下の樹脂としては、ポリスチレン、シリコン樹脂、ABS樹脂等があるが、比誘電率が3以下のポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化エチレン等が好ましく、耐熱性の点からはポリプロピレン、ポリフッ化エチレン等の融点が100℃を超える樹脂が好ましい。
【0020】
容器はソリッド状のフィルムまたは板状シートで形成したものでもよく、また発泡体からなるフィルムまたは板状シートで形成したものでもよく、これらの組合せでもよい。例えば袋の場合、両面をソリッド状のフィルムもしくは板状シート、または発泡体からなるフィルムまたは板状シートで形成したものでもよく、あるいは片面をソリッド状のフィルムもしくは板状シート、また反対側の面を発泡体からなるフィルムまたは板状シートで形成したものでもよい。またこれらの両面は、単一のフィルムまたは板状シートで形成した外壁に直接冷熱媒体が接触する構造としてもよく、また両者の中間にグリセリン等の液室、あるいはスポンジ等の緩衝層を形成してもよい。容器に用いる発泡体として独立気泡のものを用いると、冷熱媒体に含まれる水の蒸発を防止できるので好ましい。
【0021】
上記により形成される保冷熱材は、冷蔵または冷凍庫に入れて冷却ないし凍結させた状態で保冷材として用い、または温湯に浸漬したり、場合によっては電子レンジでマイクロ波加熱して冷熱媒体に蓄熱した状態で保熱材として使用される。使用状態では、保冷材として使用する場合は、冷熱媒体が容器を通して外部の熱を吸収して冷却する。保熱材として使用する場合は、冷熱媒体に蓄熱した熱が容器を通して外部に伝えられて加熱する。冷熱媒体が熱を吸収し、あるいは放熱して冷却または加熱能力が低下したときは、再度保冷
熱材を冷却または加熱して使用する。
【0022】
このように保冷熱材の使用に際して、冷却または加熱サイクルを繰返しても、従来品において水相と増粘剤相が分離し、保冷熱効果が低下するのとは異なり、本発明のゼラチン架橋ゲルでは、架橋ゼラチンから水が分離することはなく、長期間にわたって安定なゲル状態を維持し、長期間の繰り返し使用が可能である。これは従来品における水分含量を超えて、大量の水分を含有させた場合でも同様である。また水分を凍結させて保冷材として用いる場合でも、凍結により氷の結晶が分離して成長することはなく、これを融解しても相分離は起こらず、保冷熱効果が維持される。
【0023】
このように繰り返し使用してもゼラチン架橋ゲルの相分離が起こらないのは、架橋ゼラチンと水の親和性の極端な強さによるものであり、従来のポリアクリル酸架橋物などからは予測できない現象である。コラーゲンはアミノ酸構成が非常に偏っており、グリシン約35重量%、アラニン約11重量%、プロリンおよびヒドロキシプロリン約21重量%で、2/3のアミノ酸が親水性であり、コラーゲン自体親水性が高い。これを変性したゼラチンは、共有結合が切断したり、水酸基が形成されてさらに親水性が高くなる。このようなゼラチンを架橋した架橋ゼラチンも、その性質は維持された状態で網目構造となるため、保水性に優れ、水が架橋ゼラチンの網目構造から分離しにくい。
【0024】
このような架橋ゼラチンの高親水性は、特異的なゼラチンの高親水性によるものであり、他の蛋白とは大きく異なるところである。例えば前述の凍り豆腐は大豆蛋白から形成されるが、アルギン酸を主成分とする寒天と同様に、凍結融解により水が容易に分離する。これに対して架橋ゼラチンははるかに高親水性であり、冷却、加熱サイクルの繰り返しを行なっても、架橋ゼラチンから水が分離することがない。このため保冷熱材の冷熱媒体として有用である。
【0025】
ゼラチンは高親水性であるため、ゼラチン自体を冷熱媒体として用いることはできるが、このゼラチンを架橋することにより、網目構造となるため、保水性はさらに高くなる上、形状維持性も高くなる。特に粒状化または粉砕物として用いる場合、粒状化または粉砕物同士の接着性をなくし、それぞれ独立した粒状化または粉砕物が冷熱媒体として用いられる。この場合、粒状化または粉砕物間に空気の層ができるため、全体の熱が集中的に流れることがなく、粒状化または粉砕物から他の粒状化または粉砕物に伝達されることにより、無駄な熱伝達ないし放熱が防止され、蓄熱性、保冷熱効率が高くなる。
【0026】
架橋ゼラチンの粒状化または粉砕物を冷熱媒体として、樹脂製の袋のような軟質容器に充填し、保冷熱材として用いると、粒状化または粉砕物同士の接着性がないので、粒状化または粉砕物同士が接着することなくザクザク状で、全体の充填形状が自由に変えられ、被冷熱部の伝熱面の形状にフィットさせることができ、伝熱効果を高くすることができる。特に冷熱媒体を凍結して用いる場合、全体が単一のゲル層であると、全体が単一の凍結層として硬化層となり、被冷熱部の伝熱面の形状にフィットさせることができない場合があるが、架橋ゼラチンの粒状化または粉砕物を用いることにより、粒状化または粉砕物同士の接触面がずれて全体の充填形状を変えることができ、これにより被冷熱部の伝熱面の形状にフィットさせることができるとともに、粒状化または粉砕物間に空気層が介在することにより、急激な冷却が緩和され、蓄熱性が高くなり、持続性、保冷熱効率が高くなる。容器に発泡体を用いる場合も、同様の効果が得られる。
【0027】
冷熱媒体を容器に収容した保冷熱材を使用する場合、容器を耐熱性、マイクロ波透過性の材質で構成すると、電子レンジでマイクロ波加熱しても、マイクロ波は容器を透過するため、容器は加熱されず、冷熱媒体に含まれる水がマイクロ波に共鳴して加熱され蓄熱される。このため容器は加熱により劣化することがない。ゼラチンも極性を有するためマイ
クロ波で加熱されるが、水が存在するため、過熱温度は水の沸点以下に抑えられ、架橋ゼラチンが劣化することはない。またマイクロ波透過性の樹脂であっても、ポリエチレンのように軟化点の低い樹脂の場合は、劣化するおそれがあるが、ポリプロピレン、ポリフッ化エチレン等の融点が100℃を超える耐熱性の樹脂であば劣化は少なく、長期にわたる繰り返し使用が可能である。
【発明の効果】
【0028】
本発明の冷熱媒体は、架橋ゼラチンおよび水を含むゼラチン架橋ゲルを含むため、冷熱媒体に含ませる水の量を多くでき、これによりコストを低くできるとともに、熱容量を高くしかつ保冷熱時間を長くして、保冷熱効果を高くすることができ、また冷却または加熱サイクルを繰返しても水が分離することがなく、繰返し使用時間を長くすることができる。
【0029】
本発明の架橋ゼラチンおよび水を含むゼラチン架橋ゲルの粒状化または粉砕物を含む冷熱媒体は、粒状化または粉砕物同士の接着性がなくなり、それぞれ独立した粒状化または粉砕物が冷熱媒体として用いられ、粒状化または粉砕物間に空気の層ができるため、全体の熱が集中的に流れることがなく、粒状化または粉砕物から粒状化または粉砕物に伝達されることにより、無駄な熱伝達ないし放熱が防止され、蓄熱性、保冷熱効率が高くなる。
【0030】
本発明の保冷熱材は、架橋ゼラチンおよび水を含むゼラチン架橋ゲルを含む冷熱媒体を容器に収容したため、冷熱媒体に含ませる水の量を多くでき、これによりコストを低くできるとともに、熱容量を高くしかつ保冷熱時間を長くして、保冷熱効果を高くすることができ、また冷却または加熱サイクルを繰返しても水が分離することがなく、繰返し使用時間を長くすることができる。
【0031】
本発明の架橋ゼラチンおよび水を含むゼラチン架橋ゲルの粒状化または粉砕物を含む冷熱媒体を軟質の容器に収容した保冷熱材は、粒状化または粉砕物同士が接着することなくザクザク状で、全体の充填形状が自由に変えられ、被冷熱部の伝熱面の形状にフィットさせることができ、伝熱効果を高くすることができるとともに、粒状化または粉砕物間に空気層が介在することにより、急激な冷却が緩和され、蓄熱性が高くなり、持続性、保冷熱効率が高くなる。
【0032】
本発明の冷熱媒体を耐熱性、マイクロ波透過性の容器に収容した保冷熱材は、電子レンジでマイクロ波加熱しても、容器は加熱されず、冷熱媒体に含まれる水がでマイクロ波に共鳴して加熱され蓄熱されるため、容器は加熱により劣化することがなく、長期にわたる繰り返し使用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(a)は一実施形態の保冷熱材の平面図、(b)はそのA−A断面図である。
【図2】(a)は他の実施形態の保冷熱材の平面図、(b)はそのB−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態を図面により説明する。図1の実施形態では、保冷熱材1は、架橋ゼラチンおよび水を含むゼラチン架橋ゲルを含む冷熱媒体2が、容器3に収容されてパック状に形成されている。冷熱媒体2は、全体が1個の塊状のものであってもよいが、粒状化または粉砕物が充填されたものが好ましい。容器3は接着部4aを周辺に有する容器本体4と、接着部5aを周辺に有する蓋部5からなるものが用いられているが、容器本体4と蓋部5が一体化したチューブ状のもので構成してもよい。容器3は硬質のものでも
よいが、軟質の容器を用いると、被冷熱部の伝熱面の形状にフィットさせることができ好ましい。
【0035】
上記の保冷熱材1は、容器本体4と蓋部5間に架橋ゼラチンおよび水を含むゼラチン架橋ゲルを含む冷熱媒体2を収容し、接着部4aと接着部5aを接着剤やヒートシール等により接着して、パック状に形成することにより製造される。冷熱媒体2が1個の塊状のものからなる場合は、ゼラチン架橋ゲルの原料となるゼラチン、架橋剤および必要により添加される他の成分を含む水性ゾルを容器3に収容した状態で反応させることにより、冷熱媒体2が形成される。冷熱媒体2が粒状化または粉砕物を含む場合は、予め形成された冷熱媒体2を粒状化または粉砕して得た粒状化または粉砕物を容器3に充填し、接着部4aと接着部5aを接着して製造される。
【0036】
上記により製造された保冷熱材1は、冷蔵または冷凍庫に入れて冷却ないし凍結させた状態で保冷材として用い、または温湯に浸漬したり、場合によっては電子レンジでマイクロ波加熱して、冷熱媒体2に蓄熱した状態で保熱材として使用される。保冷熱材1を保冷材として使用する場合は、冷熱媒体2が容器3を通して外部の熱を吸収して冷却する。また保冷熱材1を保熱材として使用する場合は、冷熱媒体2に蓄熱した熱が容器3を通して外部に伝えられて加熱する。冷熱媒体2が熱を吸収し、あるいは放熱することにより冷却または加熱能力が低下したときは、再度保冷熱材1を冷却または加熱して使用する。
【0037】
冷熱媒体2として架橋ゼラチンの粒状化または粉砕物を、樹脂製の袋のような軟質の容器3に充填した保冷熱材1を用いる場合、粒状化または粉砕物同士の接着性がないので、粒状化または粉砕物同士が接着することなくザクザク状で、全体の充填形状が自由に変えられ、被冷熱部の伝熱面の形状にフィットさせることができ、伝熱効果を高くすることができる。特に冷熱媒体2を凍結して用いる場合は、全体が単一のゲル層であると、全体が単一の凍結層として硬化層となり、被冷熱部の伝熱面の形状にフィットさせることができない場合があるが、架橋ゼラチンの粒状化または粉砕物を用いることにより、粒状化または粉砕物同士の接触面がずれることにより、冷熱媒体2の全体の充填形状を変えることができ、これにより被冷熱部の伝熱面の形状にフィットさせることができるとともに、粒状化または粉砕物間に空気層が介在することにより、急激な冷却が緩和され、蓄熱性が高くなり、持続性、保冷熱効率が高くなる。容器3を発泡体で構成する場合も、同様の効果が得られる。
【0038】
保冷熱材1の容器3を耐熱性、マイクロ波透過性の材質で構成すると、電子レンジでマイクロ波加熱しても、マイクロ波は容器3を透過するため、容器3は加熱されず、冷熱媒体2に含まれる水がマイクロ波に共鳴して加熱され蓄熱される。このためマイクロ波透過性の材質で構成される容器3は加熱により劣化することがなく、特にマイクロ波透過性の材質の発泡体で構成すると、マイクロ波による加熱は少なくなる。特にポリプロピレン、ポリフッ化エチレン等の融点が100℃を超える耐熱性の樹脂で構成される容器3は、熱による劣化も少なく、長期にわたる繰り返し使用が可能である。
【0039】
図2の実施形態では、保冷熱材1は、架橋ゼラチンおよび水を含むゼラチン架橋ゲルを含む分割された冷熱媒体2が、容器3の容器本体4に形成された多数の収容部4bに収容され、上から蓋部5で覆われてパック状に形成されている。容器本体4の多数の収容部4b間および周辺部には接着部4aが形成され、蓋部5のそれぞれに対向する部分が接着部5aとなって相互に接着しており、長手方向両端部の接着部4a、5aがさらに伸びて帯状部6が形成されている。
【0040】
上記の保冷熱材1は、容器3の材質、特に接着部4a、5aを軟質材料で構成することにより、これらの接着部4a、5aでの折曲げを容易にして、被冷熱部が広い伝熱面の場
合でも容易にフィットさせることができ、伝熱効果を高くすることができる。またこの状態で帯状部6により縛って固定することができ、使い勝手を良くすることができる。容器3に収容する冷熱媒体2、その他の構成、機能等は図1の場合と同様である。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例、比較例により説明する。各例中、%は重量%である。
【0042】
〔実施例1〜5、比較例1〕:
分子量50,000〜100,000のゼラチン、架橋剤としてイソブテン−無水マレイン酸共重合体を開環させ水酸化ナトリウム塩としたもの(数平均分子量8,000)、抗菌剤、有機溶媒としてエタノール、および水を表1に示す割合で入れ、室温で24時間反応させてゲル化させ、架橋ゼラチンおよび水を含むゼラチン架橋ゲルを製造し、24時間後のゲルのゼリー強度を測定した。さらにゼラチン架橋ゲルを回転刃付粉砕機で粉砕して、粒径3〜4mmの粉砕物を得た。配合比(%)および結果を表1に示す。表1中、粉砕物の性状は以下により判定した。
A:粒子間に粘着感がある
B:粒子間にウエット感がある
C:粒子間に流動性がある(パラパラ感)
D:粒子間の流動性が良い
E:粒子間の流動性が高い
【0043】
【表1】

【0044】
実施例2の粉砕物100gをポリエチレン製袋に入れて、冷凍庫で−5℃で24時間保管後、取出して袋の表面に熱電対を取付け、室温(25℃)に静置して10分ごとに温度を測定した。比較例1として、CMCを増粘剤とする市販品について同様に試験した。結果を表2に示す。表2より、実施例2のものは比較例1のもの冷えすぎず、かつ温度上昇が緩やかで、長時間にわたって冷却可能であり、蓄熱性が高いことが分かる。
【0045】
【表2】

【0046】
〔実施例6〜8、比較例2〜7〕:
実施例6〜8として、分子量50,000〜100,000のゼラチン、架橋剤としてイソブテン−無水マレイン酸共重合体を開環させ水酸化ナトリウム塩としたもの(数平均分子量8,000)、抗菌剤、有機溶媒としてエタノール、および水を表1に示す割合で入れ、室温で24時間反応させてゲル化させ、架橋ゼラチンおよび水を含むゼラチン架橋ゲルを製造し、24時間後のゲルのゼリー強度を測定した。さらにゼラチン架橋ゲルを回転刃付粉砕機で粉砕して、粒径3〜4mmの粉砕物を得た。配合比(%)およびゼリー強度を表3に示す。また比較例2〜7の配合比(%)を表4に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
〔保冷試験〕:
実施例6〜8および比較例2〜7の粉砕物100gをポリエチレン製袋に入れて、冷凍庫で−5℃で24時間保管後、取出して全体をタオルで覆い、袋の下側表面に熱電対を取付け、室温(25℃)に静置して温度を測定した。この冷却試験を10サイクル繰り返し、離水の有無を判定した。結果を表5、6に示す。
【0050】
【表5】

【0051】
【表6】

【0052】
表5に示す実施例6〜8では、10サイクルの冷却試験を繰り返しても離水は無く、優れた保冷効果を示した。これに対して表6に示す比較例2〜7では離水が発生し、保冷試験はできなかった。まず比較例2では、1サイクル目から離水が起こり、50分経過までは表面凍結、それ以降は中心部凍結状態となり、保冷試験はできなかった。比較例3では、1サイクル目から大量の離水が起こり、180分経過まで全体に凍結部が存在し、保冷試験はできなかった。比較例4では、1サイクル目は離水が少なかったが、2サイクル目以降は離水が起こり、保冷試験はできなくなった。比較例5では、1サイクル目から大量の離水が起こり、180分経過まで表面に凍結部が存在し、保冷試験はできなかった。比較例6では、1〜3サイクル目は離水が少なかったが、4サイクル目以降は離水が起こり、保冷試験はできなくなった。比較例7では、1サイクル目から離水が起こり、30分経過までは全体に凍結部が存在し、それ以降は中心部が凍結状態であり、保冷試験はできなかった。
【0053】
〔保温試験〕:
実施例6〜8および比較例2〜7の粉砕物100gをポリプロピレン製袋に入れて、電子レンジで1.5分間マイクロ波加熱した後、取出して全体をタオルで覆い、袋の下側表面に熱電対を取付け、室温(25℃)に静置して温度を測定し、180分経過までに降下した降下温度差(℃)、および55℃から35℃に温度降下するのに要する降下時間(分)を計測した。結果を表7、8に示す。表7、8より、表7の実施例6〜8のものは、表8の比較例2〜7に比べ、降下温度差が小さく、また55℃から35℃に温度降下するのに要する降下時間が長く、保温効果が高いことが分かる。
【0054】
【表7】

【0055】
【表8】

【0056】
〔実施例9〜12〕:
実施例9〜12として、分子量50,000〜100,000のゼラチン、架橋剤としてイソブテン−無水マレイン酸共重合体を開環させ水酸化ナトリウム塩としたもの(数平均分子量8,000)、抗菌剤、有機溶媒としてエタノール、および水を表1に示す割合で入れ、室温で24時間反応させてゲル化させ、架橋ゼラチンおよび水を含むゼラチン架橋ゲルを製造し、24時間後のゲルのゼリー強度を測定した。さらにゼラチン架橋ゲルを回転刃付粉砕機で粉砕して、粒径3〜4mmの粉砕物を得た。配合比(%)およびゼリー強度を表9に示す。
【0057】
【表9】

【0058】
〔保温試験〕:
実施例9〜12の粉砕物100gをポリプロピレン製袋に入れて、電子レンジで1.5分間マイクロ波加熱した後、取出して全体をタオルで覆い、袋の下側表面に熱電対を取付け、室温(25℃)に静置して温度を測定し、55℃から35℃に温度降下するのに要する降下時間(分)を計測した。結果を表10に示す。表10より、実施例9〜12のものは、降下温度差が小さく、また55℃から35℃に温度降下するのに要する降下時間が長く、保温効果が高いことが分かる。
【0059】
【表10】

【産業上の利用可能性】
【0060】
ゼラチン架橋ゲル系の冷熱媒体であって、特に蓄熱により冷却または加熱用として用いられる冷熱媒体、およびこの冷熱媒体により保冷または保温を行なうためのゼラチン架橋ゲル系の保冷熱材として利用可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 保冷熱材
2 冷熱媒体
3 容器
4 容器本体
4a、5a 接着部
4b 収容部
5 蓋部
6 帯状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋ゼラチンおよび水を含むゼラチン架橋ゲルを含む冷熱媒体。
【請求項2】
架橋ゼラチンおよび水を含むゼラチン架橋ゲルの粒状化または粉砕物を含む冷熱媒体。
【請求項3】
請求項1または2において、ゼラチン架橋ゲルが架橋ゼラチン2〜60重量%および水40〜98重量%を含み、ゼリー強度9〜3000gである冷熱媒体。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、ゼラチン架橋ゲルがゼラチン2〜59重量%、架橋剤1〜20重量%および水40〜97重量%を含む水性ゾルの反応物であって、ゼリー強度9〜3000gである冷熱媒体。
【請求項5】
請求項4において、ゼラチンが分子量10,000〜500,000のものである冷熱媒体。
【請求項6】
請求項4または5において、架橋剤がエチレン性不飽和化合物−無水マレイン酸共重合体、その開環物またはその塩である冷熱媒体。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の架橋ゼラチンおよび水を含むゼラチン架橋ゲルを含む冷熱媒体を容器に収容した保冷熱材。
【請求項8】
請求項2ないし6のいずれかに記載の架橋ゼラチンおよび水を含むゼラチン架橋ゲルの粒状化または粉砕物を含む冷熱媒体を、軟質の容器に収容した保冷熱材。
【請求項9】
請求項7または8において、容器が耐熱性、マイクロ波透過性の容器である保冷熱材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−256280(P2011−256280A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132229(P2010−132229)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(592260882)