説明

ソレノイド構造

【課題】 磁気回路の適度な共有を図りつつ、ソレノイド相互の磁気的影響の抑制により個々のソレノイドの正確な動作を確保する。
【解決手段】 ソレノイドSOLは、鍵並び方向に並列配置される。上側ヨーク30及び下側ヨーク20は、協働して共通ヨークとして機能し、全ソレノイドSOLの各々の磁束が通る共通磁束経路を提供する。上側ヨーク30には、磁気影響抑制構造として、欠除部である三角穴34とスリット33とが複数設けられ、三角穴34は、上板部30aを貫通して平面視略三角形を呈し、それぞれ隣接する3つのソレノイドSOLのほぼ真ん中に形成される。各ソレノイドSOLの磁束は、上板部30aにおいては専ら狭いブリッジ部35及び肉残し部36を通るので、磁束経路の断面積が小さくなり、ソレノイドSOL間の磁気抵抗が大きくなる結果、互いの磁気干渉が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のソレノイドの共通磁束経路を提供する共通ヨークを有するソレノイド構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コイルボビンの周りにコイルを巻装して成るソレノイドに、例えば可動鉄心(プランジャ)の軸方向両端部近傍同士を繋ぐコ字状またはロ字状等のヨークを設け、発生する磁束数を増加させることで、可動鉄心の大きな推力を確保することが通常行われる。
【0003】
ところが、例えば、自動ピアノの鍵駆動装置に適用されるソレノイド構造のように、多数のソレノイドが並列的に近接配置される場合に、個々のソレノイドにヨークを各々別体で設けると、駆動装置全体が大型化する。
【0004】
そこで、下記特許文献1に記載されるように、複数のソレノイドに亘る共通ヨークを設け、各ソレノイドの磁束が共通ヨークを通るようにすることで、磁束経路を共有させ、コンパクトながら各可動鉄心の推力を十分に確保するようにしたソレノイド構造も知られている。
【特許文献1】実開昭62−149094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のように、共通ヨークで磁束経路を共有させたソレノイド構造においては、あるソレノイドからみると、そのソレノイドの磁束が共通ヨークを通って他のソレノイドを介して戻る磁気回路が形成される。そして、多数のソレノイド間で同様のことが起こることから、多数の並列磁気回路が同時に生じるため、ソレノイド同士が互いに磁気的影響を及ぼし合うことになる。
【0006】
例えば、2つのソレノイドを、各々の駆動電流によって略同タイミングで駆動しようとした場合、一方のソレノイドで発生した磁束の影響により他方のソレノイドが本来とは異なる誤動作をする等、正確な動作を行うことが困難であるという問題があった。特に、鍵駆動装置のように、一度に多数のソレノイドが駆動され、且つ繊細な動作が求められるような装置においては、共通ヨークによる駆動力確保とソレノイド間の磁気的干渉の抑制とのバランスをとることが重要と考えられる。
【0007】
本発明は上記従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、磁気回路の適度な共有を図りつつ、ソレノイド相互の磁気的影響の抑制により個々のソレノイドの正確な動作を確保することができるソレノイド構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明の請求項1のソレノイド構造は、略同一面上に並列配置された複数のソレノイド(SOL)と、前記複数のソレノイドの各々の磁束が通る共通磁束経路となり得る共通ヨーク(20、30)とを有し、前記複数のソレノイド相互の磁気的影響を抑制するための構造を有していることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、共通ヨークにより磁気回路を適度に共有することで小型でありながら強力な駆動力が得られる。また、ソレノイド相互の磁気的影響が抑制されることで個々のソレノイドの正確な動作が確保される。
【0010】
なお、上記括弧内の符号は例示である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、磁気回路の適度な共有を図りつつ、ソレノイド相互の磁気的影響の抑制により個々のソレノイドの正確な動作を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0013】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るソレノイド構造が適用される鍵駆動装置の主要部の構成を示す分解斜視図である。図2(a)は、同鍵駆動装置の主要部の部分平面図、図2(b)は、同鍵駆動装置の主要部の部分正面図である。
【0014】
本ソレノイド構造が適用される鍵駆動装置は、不図示の複数鍵に対応する複数のソレノイドSOLを備え、自動ピアノ等に搭載される。本鍵駆動装置は、MIDI(Musical Instrument Digital Interface)信号等に基づく駆動電流を個々のソレノイドSOLに供給することにより、各鍵を個別に駆動するように構成される。
【0015】
本ソレノイド構造は、図1に示すように、一般的な構成を有する複数のソレノイドSOLと、鉄等の磁性体で構成される上側ヨーク30及び下側ヨーク20とから構成される。上側ヨーク30及び下側ヨーク20は、全鍵域を数個に分割した鍵域毎に同様の構成のものが設けられ、対応する鍵域に亘る長さを有し、該鍵域に存在する複数のソレノイドの配置範囲に亘って延設される。なお、上側ヨーク30及び下側ヨーク20を全鍵域に亘る1組の共通ヨークとして構成してもよい。
【0016】
ソレノイドSOLは、不図示の鍵(白鍵及び黒鍵)に対応し、鍵並び方向(下側ヨーク20または上側ヨーク30の長手方向)に沿って千鳥状に配列される。すなわち、ソレノイドSOLは、その軸方向(後述するプランジャ13の長手方向)を上下方向に向けて、略同一平面上に並列配置される。各ソレノイドSOLは、いずれも同様に構成される。図2(b)に示すように、ソレノイドSOLは、ボビン11の周囲にソレノイドコイル12が巻回され、ボビン11の内部にプランジャ13が内挿されて構成される。ソレノイドコイル11に駆動電流が供給されると、磁力が発生してプランジャ13が上下方向に往復動作する。
【0017】
下側ヨーク20は略平板状に形成される。上側ヨーク30は、それぞれ板状の上板部30a、前板部30b及び後板部30cからなり、側面視コ字状に一体に形成される。下側ヨーク20、上側ヨーク30にはそれぞれ、ソレノイドSOLに対応し、ソレノイドSOLのプランジャ13が挿通される穴22、穴32が形成されている。下側ヨーク20には、突起部21が一体に形成され、上側ヨーク30には、突起部21に対して嵌合的な形状を有する切欠溝31が突起部21に対応する位置に形成されている(図1、図2(b)参照)。
【0018】
ソレノイドSOLのプランジャ13と穴22、穴32との位置を合わせ、突起部21と切欠溝31とが嵌合されるようにして、上側ヨーク30及び下側ヨーク20を不図示のネジ等で組み付けることで、上側ヨーク30及び下側ヨーク20間にソレノイドコイル11が位置する状態で、ソレノイドSOLが両ヨーク30、20間に固定される。これにより、上側ヨーク30及び下側ヨーク20が協働して、いわゆる「共通ヨーク」として機能し、全ソレノイドSOLの各々の磁束が通る共通磁束経路を提供する。
【0019】
突起部21と切欠溝31とが嵌合される、いわゆる「ほぞ」構造を採用しているので、両ヨーク20、30の組み付け作業が容易で、且つ組み付け後における両ヨーク20、30の剛性が高くなっている。それだけでなく、下側ヨーク20と上側ヨーク30との密着状態が良好となり、両者間の磁気抵抗が小さくて済むことから、共通ヨークによるソレノイドSOLの磁束数増加の効果が確保される。
【0020】
ところで、本実施の形態ではさらに、下記に説明するように、上側ヨーク30に、ソレノイドSOL相互の磁気的影響を抑制するための構造(以下、「磁気影響抑制構造」と称する)を設けている。
【0021】
すなわち、上側ヨーク30には、「磁気影響抑制構造」として、いずれも欠除部である三角穴34とスリット33とが複数設けられている。三角穴34は、上側ヨーク30の上板部30aを貫通して平面視略三角形を呈し、それぞれ隣接する3つのソレノイドSOLのほぼ真ん中に形成される。
【0022】
各スリット33は、上側スリット33aと縦スリット33bとが一体となって形成される。各上側スリット33aは、上板部30aにおいて、各三角穴34における三角形の頂部に相当する位置より少し外側位置から前板部30b、後板部30c方向に延び、対応する縦スリット33bは、前板部30b、後板部30cにおいて、上側スリット33aから繋がって下方に延びている。縦スリット33bの下端から後板部30cの下端までの間に、厚みtの肉残し部36が確保されている(図2(b)参照)。前板部30bにおいても、図示はしないが、同様に肉残し部36が形成される。また、隣接している三角穴34同士の間、及び、各三角穴34とそれに近接している上側スリット33aとの間には、上板部30aの肉が残され、ここがブリッジ部35となっている。
【0023】
従って、各ソレノイドSOLからみると、平面視において、近接している3つの三角穴34が、ソレノイドコイル12の外周面12aにほぼ沿うようにしてソレノイドSOLの略半分を囲んでいる。これにより、各ソレノイドSOLで発生する熱が三角穴34から逃げやすいことから、冷却効果が高くなっている。また、ソレノイドコイル12の外周面12aにほぼ沿って、ブリッジ部35が(4つ)ほぼ等間隔に並んでいる。一方、上側ヨーク30全体でみると、上板部30aの各ソレノイドSOLに対応する部分同士が、複数のブリッジ部35及び肉残し部36によって物理的に接続状態となっている。
【0024】
かかる構成において、「磁気影響抑制構造」の作用を、図3を用いて説明する。図3(a)、(b)は、共通ヨークの構成の違いによるソレノイドとの磁束との関係を示す模式図である。なお、図3(c)については後述する。
【0025】
3つ以上のソレノイドについても、2者間の相互作用は同様であるので、図3(a)、(b)では、共通ヨークY(Y1、Y2)を磁束経路として利用できる2つのソレノイドSOL(x)、ソレノイドSOL(y)が設けられる構成を例示する。ここで、共通ヨークY、並びにソレノイドSOL(x)、SOL(y)が、図1、図2に示した下側ヨーク20及び上側ヨーク30の組み合わせ、並びにソレノイドSOLにそれぞれ相当する。図3(b)の例では、ソレノイドSOL(x)、SOL(y)間位置において、共通ヨークY2の上部に、上記三角穴34(乃至上側スリット33a)に相当する貫通穴である間隙GPが形成されており、図3(a)の例では、間隙GPを有しない一般的な共通ヨークY1が示されている。
【0026】
まず、図3(a)に示すように、一般的な共通ヨークY1を用いた構成では、ソレノイドSOL(x)の磁束MFが、共通ヨークY1の側壁Y1a(上側ヨーク30の前板部30b及び後板部30cに相当)を通って戻る磁気回路のほかに、ソレノイドSOL(y)を介して戻る磁気回路が形成され、よって磁気並列回路が形成される。ソレノイドSOL(y)の磁束についても図示はしないが同様の現象が生じる。
【0027】
このように、両ソレノイドSOL(x)、SOL(y)の磁束が共通ヨークY1の上下部及び側壁Y1aという同じ部分を通ることで、両ソレノイドSOL(x)、SOL(y)間で磁束経路を共有できるので、個別ヨークを設けることに比し、小型で、ヨークの材料を削減しつつ、プランジャの推力を十分に確保するという共通ヨーク本来の利点を得ることができる。
【0028】
ところが、一方で、ソレノイドSOL(x)の磁束MFがソレノイドSOL(y)を通ることで、ソレノイドSOL(y)に対して磁束MFが影響を与え、ソレノイドSOL(y)のプランジャが、望まない動作をしてしまうことがあり得る。
【0029】
しかしながら、図3(b)に示すように、間隙GPを両ソレノイドSOL(x)、SOL(y)間に設けることで、間隙GPが両ソレノイドSOL(x)、SOL(y)間の磁気抵抗を大きくする。これにより、図3(a)の例に比し、ソレノイドSOL(x)の磁束MFのうちソレノイドSOL(y)を通る分が減少することから、ソレノイドSOL(y)に与えられる磁気的影響が、図3(a)の例に比し小さくなる。一方、ソレノイドSOL(x)の磁束MF自体は、図3(a)の例における磁束MFに比し小さくなるが、共通ヨークYの形状等を適当に設計することで、十分な駆動力を確保することは可能である。
【0030】
これらのことを、起磁力と磁気回路の一般的関係で説明すると、次のようになる。まず、磁束をφ〔Wb〕、ソレノイドコイルの巻数をN〔回〕、ソレノイドコイルに流れる電流をI〔A〕、磁界の強さをH〔A/m〕、平均磁路の長さをπd〔m〕(dはプランジャの直径)、共通ヨークYの透磁率をμ、共通ヨークYにおける磁束経路の断面積をSとすると、下記数式1、2が成立する。
[数1]
φ=μHS
[数2]
H=NI/πd
上記数式1、2から、φ=NIμS/πdが成立し、このうち「μS/πd」の逆数である「πd/μS」は、磁気回路における磁気抵抗(以下、「磁気抵抗Rm〔A/Wb〕」と称する)に相当するので、磁束φは、下記数式3で表すこともできる。
[数3]
φ=NI/Rm
これらより、磁束経路の断面積Sが小さいほど、磁気抵抗Rmが大きくなって、総磁束数に相当する磁束φが小さくなることがわかる。
【0031】
これらのことを考慮して、図3(b)の例を検討すると、間隙GPが存在することで、ソレノイドSOL(x)の磁束MFの経路のうちソレノイドSOL(y)を通る磁束の経路の断面積が小さくなる。特に、磁束経路には方向性があるので、間隙GPが両ソレノイドSOL(x)、SOL(y)間に位置することで、両者間の実質的な磁束経路の断面積が効果的に小さくなっている。これにより、両者間の磁気抵抗を大きくでき、ソレノイドSOL(y)を通る磁束MFを減少させることができる。
【0032】
これらを踏まえ、図1、図2に示す本実施の形態のソレノイド構造について考察すると、隣接するソレノイドSOL間には、三角穴34(及びスリット33)が設けられているので、各ソレノイドSOLの磁束は、上板部30aにおいては専ら狭いブリッジ部35を通る。従って、間隙GPの作用と同様に、磁束経路の断面積が小さくなり、ソレノイドSOL間の磁気抵抗が大きくなる。その結果、互いの磁気干渉が抑制され、正確な動作が確保される。
【0033】
ところで、ソレノイドSOL相互の磁気的影響を小さくした結果、共通ヨークとしての利点が減ずることになるが、該利点を適当に確保して、磁気干渉の抑制とのバランスをとることが重要となる。そのためには、例えば、上側ヨーク30の厚み、ブリッジ部35の幅、ブリッジ部35の位置を機種毎に設計変更することが考えられる。しかし、本実施の形態では、縦スリット33bの下方に肉残し部36が確保され、ソレノイドSOLの磁束が、上側ヨーク30においては、ブリッジ部35だけでなく肉残し部36をも通るので、この肉残し部36の厚みtを適当に設定することで、上記バランスをとることが容易となっている。なお、ブリッジ部35及び肉残し部36は、上側ヨーク30の剛性確保にも繋がっている。
【0034】
本実施の形態によれば、下側ヨーク20及び上側ヨーク30で共通ヨークを構成し、且つ、「磁気影響抑制構造」として、隣接するソレノイド間において欠除部である三角穴34及びスリット33を設け、磁束経路の断面積を減少させるようにしたので、複数のソレノイドSOL間における磁気回路の適度な共有を図りつつ、ソレノイドSOL相互の磁気的影響を抑制することができる。これにより、ヨークを含めたソレノイドSOLを小型化して且つ強力な駆動力を得ると共に、個々のソレノイドSOLの正確な動作を確保することができる。しかも、三角穴34とスリット33は上側ヨーク30に一体に形成されるので、構成が簡単である。
【0035】
本実施の形態によればまた、突起部21と切欠溝31との「ほぞ」構造、及びブリッジ部35により、両ヨーク20、30の良好な組み付け性、高い剛性、及び共通ヨークによる利点を容易に確保することができる。しかも、肉残し部36の設定により、共通ヨークの利点と磁気干渉の抑制とのバランスを容易にとることができる。さらに、三角穴34がソレノイドコイル12の外周面12aにほぼ沿って上方に位置するので、ソレノイドSOLの放熱効果を高めることができる。
【0036】
本発明は、鍵駆動装置のように、多数同時駆動がなされ且つ繊細な動作が求められるような装置において特に好適である。ただし、本発明の適用対象は鍵駆動装置に限定されるものではない。
【0037】
{第1の実施の形態の変形例}
なお、「磁気影響抑制構造」を、磁束経路の断面積を減少させるように構成する観点からは、図1、図2の例に限定されず、他の形状も各種考えられる。具体的には、次に示すように、上側ヨーク30に設ける三角穴34(乃至スリット33)に相当するものを、形状を変えて採用することができる。
【0038】
図4(a)、(b)は、第1の実施の形態の変形例に係るソレノイド構造が適用される鍵駆動装置の主要部の部分平面図である。
【0039】
例えば、図4(a)に示すように、上側ヨーク30に相当する上側ヨーク130に、三角穴34に代えて、隣接するソレノイドSOL間を仕切るように長穴134、136が設けられる。また、スリット33に代えて、丸穴137、及び、縦スリット33bに相当する縦スリット138が設けられる。
【0040】
また、図4(b)に示す形状を採用してもよい。同図(b)でも同様に、上側ヨーク230に、隣接するソレノイドSOL間を仕切るように長穴234、236が設けられ、また、縦スリット33bに相当する縦スリット238が設けられる。
【0041】
図1、図2の例では、隣接するソレノイドSOL間の真ん中には磁路となり得るブリッジ部35が存在したが、図4(a)の例では、隣接するソレノイドSOL間の真ん中に長穴134または長穴136が存在し、同図(b)の例では長穴234または長穴236が存在する。そのため、図4(a)、(b)いずれの例の場合も、各ソレノイドSOLの磁気回路の迂回の度合いが高くなることから、磁気抵抗を効果的に高くすることができる。よって、図1、図2の例の構成と同様の効果を奏することができる。
【0042】
なお、磁気抵抗を高めるための穴やスリット等の形状は、これら例示したものに限定されず、例えば、上記長穴134、136等と同じ方向に沿って小穴を多数連続して設けてもよい。また、例えば、図1、図2の例に対し、仮にスリット33を設けることなく三角穴34だけを設ける、あるいは三角穴34を設けることなくスリット33だけを設けるように構成した場合であっても、ソレノイドSOL相互の磁気抵抗を高める効果はあるので、共通ヨークの厚み等、他要素との組み合わせによっては採用可能である。
【0043】
なお、磁束経路の断面積を減少させることで磁気抵抗を高めるという観点からは、設ける欠除部は、穴やスリット等に限定されず、一部が開口した切欠部であってもよい。あるいは、欠除部に代えてその部分を薄膜で構成する等によって、磁気経路の断面積を減少させてもよい。
【0044】
なお、本実施の形態では、欠除部を上側ヨーク30にのみ設ける構成を例示したが、下側ヨーク20側のみ、あるいは下側ヨーク20及び上側ヨーク30の双方に設ける構成も採用可能である。
【0045】
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態では、「磁気影響抑制構造」を、磁束経路の断面積を減少させることで構成したが、本発明の第2の実施の形態では、「磁気影響抑制構造」を、ソレノイドの磁気回路が各々短絡されるように構成する。
【0046】
図5は、本発明の第2の実施の形態に係るソレノイド構造が適用される鍵駆動装置の主要部の構成を示す分解斜視図である。
【0047】
本第2の実施の形態に係るソレノイド構造は、上側ヨーク80と、ソレノイドSOLと、下側ヨーク70と、筒状の透磁性部材90とで構成される。ソレノイドSOLの構成は第1の実施の形態と同様であり、複数存在する。
【0048】
下側ヨーク70は、第1の実施の形態における下側ヨーク20に対し、嵌合穴71をさらに有している点が異なり、その他は下側ヨーク20と同様に構成される。上側ヨーク80は、第1の実施の形態における上側ヨーク30に対し、三角穴34とスリット33を設けず、嵌合穴81を設けた点が異なり、その他は上側ヨーク30と同様に構成される。
【0049】
透磁性部材90は、鉄等で構成され、各ソレノイドSOLに対応して設けられ、ソレノイドSOLの外径(ソレノイドコイル12の外周面12aの直径;図2参照)よりやや大きい内径を有する。透磁性部材90には、下部に係合突起91、上部に係合突起92が形成されている。下側ヨーク70と上側ヨーク80とを組み付ける際、これら係合突起91、92が、下側ヨーク70の嵌合穴71、上側ヨーク80の嵌合穴81にそれぞれ嵌合されることで、透磁性部材90が下側ヨーク70と上側ヨーク80との間に介装固定され、ソレノイドSOL(のソレノイドコイル12の部分)が透磁性部材90により外周から覆われる。下側ヨーク70と上側ヨーク80とは透磁性部材90を介して略連結された状態となる。
【0050】
かかる構成において、「磁気影響抑制構造」の作用を、図3(c)を用いて説明する。共通ヨークY3、並びにソレノイドSOL(x)、SOL(y)が、図5に示した下側ヨーク70及び上側ヨーク80の組み合わせ、並びにソレノイドSOLにそれぞれ相当する。また、筒状の透磁性部材TBが透磁性部材90に相当する。
【0051】
ソレノイドSOL(x)を透磁性部材TBが覆っていることで、透磁性部材TBが、ソレノイドSOL(x)の磁気回路の短絡経路となる。これにより、図3(a)の例に比し、ソレノイドSOL(x)の磁束MFのうちソレノイドSOL(y)を通る分が減少することから、ソレノイドSOL(y)に与える磁気的影響が、図3(a)の例に比し小さくなる。ソレノイドSOL(y)についても図示はしないが同様の現象が生じる。
【0052】
これと同様の作用により、図5に示す本実施の形態のソレノイド構造についても、ソレノイドSOLを覆う透磁性部材90によってソレノイドSOLの磁気回路が短絡されるので、ソレノイドSOL相互の磁気的影響が抑制される。なお、共通ヨークY3の適当な設計によりその利点の確保が可能であることは、第1の実施の形態と同様である。
【0053】
本実施の形態によれば、「磁気影響抑制構造」として、ソレノイドSOLを覆う透磁性部材90を設け、磁束回路を短絡するようにしたので、共通ヨークの利点を得つつ、個々のソレノイドSOLの正確な動作を確保することに関し、第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0054】
なお、ソレノイドSOLを覆う透磁性部材は、透磁性部材90のようにソレノイドSOLの外周を完全に覆うものでなくてもよく、大半を覆うものであればよい。また、筒状の透磁性部材90に代えて、図5に示した透磁性部材100のように、一部が開口した形状を採用し、その開口側の端部100aが上側ヨーク80の前板部または後板部に当接または近接するように透磁性部材100を装着してもよい。
【0055】
なお、透磁性部材90は、各ソレノイドSOLを覆うものであったが、磁束回路を短絡するという観点からは、各ソレノイドSOL毎に透磁性部材90を設ける構成に限定されるものではなく、磁束回路を短絡ための部材を、隣接するソレノイドSOL間に介在するように設ければよい。例えば、隣接するソレノイドSOL間の真ん中において、透磁性のリブ(例えば水平断面形状が図4(b)に示す長穴234、236と同じような形状のリブ)で上側ヨーク80と下側ヨーク70とを略連結し、このリブが、近接している2つのソレノイドSOLの磁気回路の主な共通短絡経路となるように構成してもよい。また、同様の観点で、隣接する3つのソレノイドSOLの真ん中に水平断面形状が三角穴34のようなリブを設けてもよい。
【0056】
なお、第1、第2の実施の形態において、それぞれの「磁気影響抑制構造」は、すべてのソレノイドSOLでなく一部のソレノイドSOLに対応する部分にのみ適用してもよく、その適用された部分に対応するソレノイドSOLについては本発明の効果を得ることができる。
【0057】
なお、本発明のソレノイド構造で採用される共通ヨークは、略同一面上に並列配置される複数のソレノイドSOLに共通磁束経路を提供するものであればよい。従って、下側ヨークと上側ヨークとの組み合わせで構成されるものに限定されず、一体に構成されるもの、あるいは3つ以上の部材で構成されるものであってもよいし、外観形状も問わない。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るソレノイド構造が適用される鍵駆動装置の主要部の構成を示す分解斜視図である。
【図2】同鍵駆動装置の主要部の部分平面図(図(a))、及び同鍵駆動装置の主要部の部分正面図(図(b))である。
【図3】共通ヨークの構成の違いによるソレノイドとの磁束との関係を示す模式図である。
【図4】第1の実施の形態の変形例に係るソレノイド構造が適用される鍵駆動装置の主要部の部分平面図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係るソレノイド構造が適用される鍵駆動装置の主要部の構成を示す分解斜視図である。
【符号の説明】
【0059】
11 ボビン、 12 ソレノイドコイル、 12a 外周面、 13 プランジャ、 20 下側ヨーク(共通ヨークの一部)、 30、130、230 上側ヨーク(共通ヨークの一部)、 30a 上板部、 30b 前板部、 30c 後板部、 33 スリット、 34 三角穴(欠除部)、 70 下側ヨーク(共通ヨークの一部、他側部)、 80 上側ヨーク(共通ヨークの一部、一側部)、 90 透磁性部材、 SOL ソレノイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略同一面上に並列配置された複数のソレノイドと、
前記複数のソレノイドの各々の磁束が通る共通磁束経路となり得る共通ヨークとを有し、
前記複数のソレノイド相互の磁気的影響を抑制するための構造を有していることを特徴とするソレノイド構造。
【請求項2】
前記共通ヨークは、前記複数のソレノイドの配置範囲に亘って延設されて成り、前記磁気的影響を抑制するための前記構造は、隣接するソレノイド間において、前記共通ヨークに欠除部が設けられて成ることを特徴とする請求項1記載のソレノイド構造。
【請求項3】
前記磁気的影響を抑制するための前記構造は、前記複数のソレノイドを外周方向から透磁性部材で各々覆うことで、前記ソレノイドの磁気回路を各々短絡するように構成されて成ることを特徴とする請求項1記載のソレノイド構造。
【請求項4】
前記共通ヨークは、前記複数のソレノイドの配置範囲に亘って延設され前記複数のソレノイドの軸方向両端部側にそれぞれ位置する一側部及び他側部を有し、前記磁気的影響を抑制するための前記構造は、前記共通ヨークの前記一側部と前記他側部とを略連結する透磁性部材が、隣接するソレノイド間に介在するように設けられて成ることを特徴とする請求項1記載のソレノイド構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−32828(P2006−32828A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212764(P2004−212764)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】